説明

炭素繊維糸およびその製造方法

本発明は、再生炭素繊維を備える紡績糸とその製造方法とを提供する。再生炭素繊維は、不連続な炭素繊維と選択的に使用される連続した炭素繊維とを含んでおり、寿命末期の廃棄物や製造廃棄物などの様々な供給源から再生される。製造される前記糸は、必須の強度および耐久性を発揮し、織物製造、一方向織物製造、単繊維の巻線、ドローイング成形など、バージン糸が現在採用されている従来の複合材料製造作業のすべてにおいて使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維からの糸の製造のための新規な取り組みに関する。具体的には、本発明は、再生炭素繊維から得られる紡績糸と、これらの糸の製造方法とを提供する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、非常に優れた強度に由来して様々な用途で広く使用されてきた。たとえば、複数の個々の炭素繊維を撚り合わせることで糸(撚り糸)を形成することができ、この糸は、たとえば織物状に織ることができる。もしくは、炭素繊維糸は、多数のプラスチック材料のうちいずれかと組み合わせて、巻くか成形するかして、炭素繊維強化ポリマー(炭素繊維強化高分子)のような複合材料を形成することができる。このような材料は、重量配分比に対して特に高い強度を有する。
【0003】
炭素繊維は、鋼鉄と比べて相当に密度が低いという利点も有し、軽量を必要とする用途にとっては理想的な材料である。高引張強度、軽量、低熱膨張などの炭素繊維の特性は、航空宇宙産業、土木建築、軍事、およびモータースポーツ用途に特に有用である。しかしながら、同材料が最も広く使用されているのは炭素繊維強化ポリマーである。
【0004】
炭素繊維系材料の作製および使用を詳述した従来技術は多数存在する。しかしながら、上記材料の使用はいくつかの欠点を伴う。たとえば、特定の用途ではコストが問題になり得る。さらに、有効寿命の末期には、炭素繊維を備える多くの材料が現状では埋立て地で廃棄されることで、世界的なごみ処理の問題を生じ、さらなる環境問題を生み出している。
【0005】
したがって、本発明者らは、このような廃棄される炭素繊維材料を再生して再利用することによって、廉価な材料を生成し、生じたであろうごみ廃棄の問題の回避に役立てる可能性について研究してきた。驚くべきことに、これらの材料を効率的に再生できるだけでなく、布地(織物)としての用途に特に有用な炭素繊維糸を製造するように工程を進めることができることも判明した。
【0006】
上述したように、従来技術は炭素繊維糸の製造および使用に多数言及しているが、これらの用途はすべて、特定用途のために新たに作製され、通常は連続した(切れ目のない)フィラメント(単繊維、単繊維で構成された繊維束)として供給される材料、すなわちバージンの炭素繊維(未使用炭素繊維、新材の炭素繊維)を必要とする。再生材料が使用される従来技術は、ディスクやシート材などの基板の製造に限定される。よって、たとえば、欧州特許公開第530741号は、カーボンおよび/またはセラミックファイバーで強化されたカーボンおよび/またはセラミック複合材料の製造用の繊維基板、特に摩擦円板とその製造方法とを開示している。裁断廃材の繊維シート材が再生され、上記複合材料の製造に有用な織物状に再形成される可能性が記載されている。
【0007】
代替的には、国際公開第2007/058298号は、元の複合材料の廃棄物から製造される再生複合材料を教示しており、元の複合材料は、マトリクス(母材)と、マトリクスに含まれる炭素繊維構造とを備え、炭素繊維構造は三次元ネットワーク構造を有する。再生複合材料は、廃棄材に含まれるマトリクスと同一である、および/または異なるマトリクスを元の複合材料の廃棄物に補充した後、結果として生じる混合物を混練することによって製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許公開第530741号公報
【特許文献2】国際公開第2007/058298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術は、再生された炭素繊維材料から炭素繊維糸を提供する可能性について述べておらず、これこそが本発明者らが対応しようとしている欠点である。一般的には炭素繊維トウ(carbon fiber tow, 炭素繊維のフィラメントの束)と称されるバージンの炭素繊維糸は、連続した単繊維材料を含んでいるのに対して、本発明は不連続な再生炭素繊維材料での炭素繊維糸の製造に関する。製造される材料は、広範な用途で満足のいく強度および耐久性を示し、バージンの炭素繊維トウから製造される同等の材料よりも非常に安価に製造される。また、このような廃棄される炭素繊維製品の再生使用は、大きな環境上の恩恵をもたらし、ごみ処理問題の緩和に大いに貢献する可能性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(本発明の概要)
よって、本発明の第一の態様によると、再生炭素繊維を含む紡績糸が提供される。
【0011】
本発明の状況では、再生炭素繊維は、有効寿命の末期に達した材料において過去の用途で使用されてきた炭素繊維であると解釈される。再生炭素繊維は不連続な炭素繊維を含んでおり、これらの材料の切断または細断により、寿命末期の廃棄物や製造廃棄物などの様々な供給源から再生することができる。選択的に、再生炭素繊維は連続した炭素繊維も含むことができる。
【0012】
典型的には、前記再生炭素繊維は、製造の供給経路(パイプライン)の稼働中に再生される再生バージン炭素繊維、および/または回収された炭素繊維廃棄物、または寿命末期の製造物または製造廃棄物として完成品の複合材料から再生される炭素繊維を含む再生品を含む。
【0013】
前記再生炭素繊維は、任意の便利な供給源から入手することができる。よって、バージンの炭素繊維廃棄物が、たとえば、多軸織物のトリム(切り落とした部分)、織物の織端のトリム、機械抽出システムから集められる繊維、細断された連続していたトウ、織物および一方向織物から得られる。一方、回収された炭素繊維廃棄物(再生品)は、高温処理または樹脂マトリクスを炭素繊維から分離するその他の適切な手段による樹脂マトリクスの除去を通じて寿命末期および完成品の複合材料から再生される繊維を含む。
【0014】
好ましくは、本発明の第一の態様による紡績糸は、任意の天然または人工ポリマーであってよいが、好ましくは少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含むマトリクス繊維と一般的に称される少なくとも1つのその他の繊維を、追加的に含む。好適な熱可塑性樹脂は、たとえば、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのポリアルケン、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルスルホンポリマー、または高性能な繊維を含むことができ、その例が芳香族ポリエステルであり、液晶ポリマーから紡がれるVectran(登録商標)と、ポリマーのPeek(登録商標)の範疇のポリアリルエーテルエーテルケトンである。
【0015】
本好適な実施形態で使用される再生炭素繊維は、その他の繊維との混合に適した長さにすることができる。典型的には、前記再生炭素繊維は40〜250mmの範囲の長さであるが、最も好ましい長さは80mmである。紡績糸の再生炭素繊維含有率は、重量で0.1〜99.9%、好ましくは30〜80%とすることができる。
【0016】
本発明の第二の態様によると、再生炭素繊維を備える糸の製造方法が提供される。前記方法は、
(a)再生炭素繊維材料を切断または細断するステップと、
(b)必要に応じて、再生炭素繊維材料内に存在するその他の材料から炭素繊維を分離するステップと、
(c)繊維を開放および混合するステップと、
(d)繊維を混ぜ合わせるステップと、
(e)糸を形成するステップと、
を備える。
任意で、必要に応じて、前記工程は繊維を矯正するステップをさらに備え、このステップは、繊維を混ぜ合わせるステップの後であって、糸を形成するステップの前に実行される。
【0017】
繊維を混ぜ合わせる工程は好ましくは、繊維のカーディング(梳綿)によって実行される。カーディングは回転フラットカード機やローラおよびクリヤカード機などのカード機(梳綿機)の使用を含むあらゆる標準的なカード技術(カーディング技術)によって実行することができる。クリヤカード機は、ステープルファイバー(スフ)よりも長く従来からカーディングに利用されてきており、梳毛、半梳毛、および紡毛カード機として周知である。しかしながら、好ましくは、カーディングは定置フラットカード機により実行される。
【0018】
次に、前記カーディングされた繊維は、機械結合、化学結合、または好ましくは熱結合などの当分野において周知な任意の適切な結合技術を用いて結合することにより、単位面積当たりで必要とされる質量を有するシート状に任意に形成される。特定の用途毎に適した単位面積当たりの比重は、生成されるべき糸の品質と糸の数とを必然的に含むパラメータ(変数)を参照して決定される。次に、前述のシートは規定された幅の帯状片(ストリップ)に切り開かれ、単独の帯状片として個別に、あるいは複数の帯状片としてまとめて撚り合わせて糸を形成することができる。特定の実施形態では、帯状片は紡織や編成などの後の処理動作にとって十分な強度を有しているため、布状物(web,クモの巣状に入り組んだもの)の熱結合は撚りが必要とされない程度まで実行することができる。
【0019】
代替的には、前記カーディングされた繊維は、スライバー状に形成することができる。糸形成の以後の工程は、随意的ではあるが、
(i)繊維を平行にし、密に混合するためにドローイング(引き抜き)またはギル整条するステップと、
(ii)繊維を紡績または包みこむ(ラッピングする)ステップと、
を実行することができる。
【0020】
好ましくは、前記紡績動作はリング紡績、摩擦紡績、ラップ紡績、またはその他の周知の工業用紡績システムで構成することができる。
【0021】
別の構成では、上述したように、前記カーディングされた繊維から形成されるスライバーは熱結合され、規定の幅の帯状片に切り開かれ、単独の帯状片として個別に、あるいは複数の帯状片としてまとめて撚り合わされ、糸を形成することができる。別のオプションとしては、たとえば、加熱ローラまたは炉などの熱環境によるスライバーの処理によって熱可塑性のプレプリグ状に形成される熱結合スライバーが提供される。
【0022】
別の実施形態では、繊維を混ぜ合わせる工程が、湿式積層の工程により布状物を形成することによって実行される。炭素繊維が流体、好ましくは水内で混ぜ合わされ、その後、少なくとも1つのその他の繊維(キャリア繊維)とその複合物とを有する媒体が、長網抄紙機による工程と類似の工程において単位面積当たりで必要とされる質量のシート材料を形成するために、有孔スクリーンまたは透過性基板上に均一に蒸着される。そのように形成されたシートは、追加の結合段階なしに帯状片状に切り開かれるのに十分な一体性を有することができる。もしくは、結合または結合段階を使用することもできる。次に、そのようにして形成されたシートは、上述したように、規定幅の帯状片に切り開かれ、単独の帯状片として個別に、あるいは複数の帯状片としてまとめて撚り合わされて、糸を形成することができる。
【0023】
本発明の別の実施形態では、芯糸の製造が提供される。前記糸は、糸の芯(中心材)を形成するように配置される単繊維(フィラメント)および/または繊維(ファイバー)の連続または不連続な撚り糸(撚り線)を備えており、前記芯がステープルファイバーを含む外装(鞘部)によって包囲される。したがって、本発明の第一の態様は、再生炭素繊維を備える紡績糸もまた提供しており、前記糸は芯糸を備えることができる。上記実施形態では、芯はバージンまたは再生された炭素繊維を備えることができ、外装は再生炭素繊維または熱可塑性またはその他の適切な繊維と混合した再生炭素繊維を含む。もしくは、芯は熱可塑性繊維またはその他の強化繊維を含むことができる。したがって、本発明の第二の態様の方法は、芯糸の製造に利用することができる。
【0024】
本発明の第二の態様の方法で利用される再生炭素繊維は、好ましくは、寿命末期の廃棄物や製造廃棄物などの各種の供給源から再生される不連続なバージンの炭素繊維から構成される。
【0025】
好ましくは、本発明の第二の態様の方法により製造される紡績糸は、上述したように、好ましくは少なくとも1つの熱可塑性樹脂を備える他の(マトリクス)繊維を追加で含む。本好適な実施形態に使用される再生炭素繊維は、マトリクス繊維と混合するために適した任意の長さとすることができる。
【0026】
好適な実施形態では、再生炭素繊維を備える糸の前記製造方法が、炭素繊維とその他の繊維の混合からの糸製造を備え、前記製造は、繊維の開放および混合工程中にこれらの繊維を最初に混合することによって達成することができる。あるいは繊維は以後の撚り合わせまたは紡績動作中に混合することができる。
【0027】
本発明の実施形態を添付図面を参照して以下にさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第二の態様の方法による再生炭素繊維の処理に適した典型的な定置フラットカード機の図である。
【図2】本発明の第二の態様の方法による、各種廃棄物の流れからの炭素繊維の処理に適した典型的な供給システムの幾何的配置を示す。
【図3】本発明の第二の態様の方法による工程で動作するカード処理機によって生成されるスライバー内の繊維の好適な方向(向き)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(発明の詳細な説明)
好適な実施形態では、本発明は不連続な再生炭素繊維を使用する紡績糸およびその製造方法を提供することにより、従来技術で知られていない製品および方法を提供する。上述したように、前記不連続な再生炭素繊維は、通常、再生バージン炭素繊維および/又は回収された炭素繊維廃棄物または再生品を含む。
【0030】
再生バージン炭素繊維の好適な供給源は、たとえば、以下の通りである。
・多軸トリム−切断する必要のない多軸工程から直接入手可能である。
・織物の織端−炭素繊維は、別個の工程により織物機上または織物機外のいずれかで織物の織端から機械的に分離することができる。
・抽出廃棄物−吸引廃棄物は、織物機およびその他の処理機器から入手可能である。
・連続したトウ−ほつれの残余および部分包装材の端部は、正しい長さに細裁して、必要に応じてカーディングすることができる。
・織物−織物は、ほつれの端部やトリムの廃棄物など、およびそれによって再生される炭素繊維から分離することができる。
【0031】
再生品の場合、炭素繊維は、樹脂マトリクスを炭素繊維から分離する標準的な工業用工程により、ポリマーマトリクスを含む寿命末期の廃棄材料から抽出される。この工程は通常、熱処理、溶媒処理、流動床の使用、および超臨界流体の使用のうち少なくとも1つを含む。
【0032】
本発明の第二の態様による、本発明の第一の態様の紡績糸の製造方法に適した再生炭素繊維は好ましくは以下の特徴を含む。
・密度=1.5〜2.2g/cm(1500〜2200kg/m
・処理前の平均繊維長=40〜250mm
・規格内および規格外の両方の潜在的な廃棄物の流れのさまざまな範囲から得られる再生炭素繊維
【0033】
本発明の第二の態様による方法では、再生炭素繊維は、カーディング工程前にその他の繊維と混合することができる。これらの繊維は天然または人工ポリマーから製造し、完成品の複合材料内の樹脂マトリクスの一部を形成することができる。完成品の複合材料において特定の性能特性を達成するために、ガラス、セラミック、パラアラミド(芳香族ポリアミド)などの他の構造強化繊維も追加することができる。
【0034】
カーディング(カード処理)は本発明の第二の態様による方法における重要な段階であり、従来知られている工程であって、これにより類似のあるいは異なる繊維の塊を個々の繊維に分離して、結合して膜状のウェブ(web、布状物)を形成した後、カードスライバーと称される捩じりのない綱形状に強化することができる。
【0035】
回転フラットカード機は、再生炭素繊維の処理に採用されることができる。しかしながら、本発明の好適な実施形態では、定置すなわち固定フラットカード機が、図1に示されるように、この目的で採用される。上記の定置フラットカード機では、フラットは、入口(N1)と出口(N2)の間で機の頂部に配置される。動作時、繊維の1巻きは、単位面積当たりの質量(QL)を低減して繊維をシリンダに配送する(Q3)リッカイン(Q4)に供給される。シリンダおよびフラットは、鋸歯状のワイヤクロス(すき網)で覆われる。シリンダの回転運動により、両面の鋸歯状のワイヤクロスは、繊維の塊がカード機の出口に移動する際に繊維を個別化することができる。鋸歯状のワイヤクロスを装着する、もしくは、ピンを設けることもできるドッファ(剥ぎ取り円筒)は、集合形状の繊維の布状物(すなわちカードウェブ)内の個々の繊維を移動させる。次に、この布状物はスライバー状に強化することができる。
【0036】
フラットの動作により廃棄される一部の繊維が除去される。従って、回転フラットも使用可能であるが、部品の作用面の間の繊維の蓄積を回避するように、表1に示されるような仕様の鋸歯状のワイヤクロスを有することのできる固定フラットが好ましい。高強度、高係数、ピッチベースなど、鋸歯状のワイヤクロスの仕様は実際には具体的なマトリクス繊維または炭素繊維の変形に合わせて選択することができる。
【0037】
【表1】

【0038】
よって、代替的な実施形態では、シリンダに関するパラメータは、すくい角が15度、高さが3.12mm、歯密度が394である。
【0039】
以下、図2を参照すると、カード機、すなわち、フィードローラおよびフィードプレートへの供給構造の幾何的形状が示されている。重要な点として、リッカインローラに対するフィードローラおよびフィードプレートの相対的配置は、特定の廃棄物の流れから炭素繊維を適切に処理するように正確に修正されるべきである。よって、リッカインと炭素繊維との接触点は、繊維長の短縮や炭素繊維のその他の損傷を回避するために、フィードローラおよびフィードプレートの挟持線(挟み込み線)から十分に距離を置くことが重要である。
【0040】
上述したように、様々な紡績システムを糸処理に利用することができる。先に明記したシステムに加えて、セルフツイストシステム(自己加撚紡績)、中空スピンドル紡績、オープンエンド紡績、撚りテープ糸などに言及することができる。
【0041】
シリンダが機方向(すなわち、材料の流れ方向)への繊維の方向性および矯正を助ける浅い鋸歯状ワイヤで覆われる所定のカーディングシステムを使用する際、繊維の満足のいく向きは、カード機から得られるスライバー内で達成することができる。適切な向きを図3に示す。この向きにより、以後の下流のギル整条またはドローイングで繊維をより容易に平行に向けて、スライバー軸に沿った繊維のほぼ完全な矯正および配列を達成することができる。
【0042】
上記ドローイング工程では、繊維をドローイングするためのドラフト構造(ドラフティング構造)に加熱区域を含めることによって、炭素繊維の向き(方向性)をより好ましく向上させることができる。好ましくは、2つの加熱区域が採用される。第一の加熱およびドローイング区域は樹脂繊維を溶融させるために供され、これにより、ドローイングする間に炭素繊維とポリマーマトリクスとを互いに結合させる。第一の加熱区域を出ると、 この材料は冷却されてから第二の加熱およびドローイング区域に入り、そこでドローイングされながらTg(ガラス遷移温度)を超える温度で加熱される。
【0043】
この工程は熱可塑性人工繊維の溶融紡績工程の適用であり、ポリマーは溶融状態に加熱され、押出し成形中、ドローイングによって薄くされる。次の冷却後に、ポリマーは、第二の加熱段階に入り、さらにドローイングされる。この手順の目的は、ポリマーチェーン(高分子の鎖)を高度に整列させることである。繊維を整列させるために、繊維間のせん断力を生成しなければならないことが公知である。従来のドローイング動作では、これは繊維間の摩擦接触によって達成される。しかしながら、溶融ポリマーマトリクスなどの粘性液状媒体では、さらに大きなせん断力を生成することができる。したがって、ドローイング動作中、溶融した粘性ポリマーの抵抗が、炭素繊維がポリマー鎖とほぼ同じように挙動するように、より大きなせん断力を生成して炭素繊維を平行に方向付ける。
【0044】
撚りのない糸の直接紡績のために、上記工程を利用することができる。これは、仮撚り装置を、仮撚り装置の下方に一対の配送ローラを備えたドラフティングシステムの出口に配置することによって達成することができる。ドローイングされた材料はドラフティングシステムを出る際、繊維比質量偏差を増大させて、より優れた撚りのない糸を形成するため、さらに大きな圧縮を加えるように仮撚りすることができる。ドローイングの度合いと、仮撚りと、を適切に組み合わせることによって、軽量複合材料にとって恩恵の大きい非常に優れた糸を製造することができる。
【0045】
本発明の紡績糸および方法は、従来技術を超えるいくつかの改良点を発揮する。まず、最初の使用行為から生成される廃棄物の炭素繊維と、寿命末期および完成品の複合材料から回収された炭素繊維の再使用のための方法が提供される。また、バージンの炭素繊維材料を再生炭素繊維からのステープル紡績糸に置き換える機会を提供することによって、最終消費者への貴重な恩恵の提供が促進される。さらに、炭素繊維の市場での適用範囲が、他の低コスト強化材料の置換を通じて拡大される。
【0046】
再生炭素繊維からのステープル紡績糸は必須の強度および耐久性を発揮し、織物製造、一方向織物製造、単繊維の巻線、引抜き成形など、バージン糸が現在採用されている従来の複合材料製造作業のすべてにおいて使用することができる。また、糸は以下の用途で適用される。
・航空機、自動車、建築、建造または医療、およびスポーツ製品を含む複合用途。
・電気加熱布材料などの導電用炭素繊維を必要とする材料。
・防火障壁や保護衣などの断熱用炭素繊維を必要とする材料。
【0047】
本明細書の説明および請求項全体を通じて、「備える」および「含む」という文言およびその変形は「含むがそれに限定されない」を意味し、他の成分、添加物、構成要素、整数、またはステップを除外することを目的としていない。本明細書の説明および請求項全体を通じて、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単数物は複数物を包む。特に、不定冠詞が使用される場合、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、明細書は単数だけでなく複数も企図すると理解すべきである。
【0048】
本発明の具体的な態様、実施形態、または実施例と併せて記載される特徴、整数、特性、化合物、化学成分または基は、相反しない限り、本明細書に記載の他の態様、実施形態、または実施例に適用可能であると理解すべきである。本明細書(添付の請求項、要約書、および図面を含む)に開示されるすべての特徴、および/または開示されるすべての方法ステップまたは工程は、上記特徴および/またはステップの少なくともいくつかが互いに排他的である組み合わせを除く任意の組み合わせで組み合わせることができる。本発明は、上記実施形態の詳細に限定されない。本発明は、本明細書(添付の請求項、要約書、および図面を含む)に開示される特徴の新規の組み合わせ、またはそのように開示される方法ステップまたは工程の新規な組み合わせに拡大される。
【0049】
読者の注意は、本願に関連して本明細書と同時または本明細書より先に提出され、本明細書で公的審査に対して公開されるすべての書類および文書に向けられ、上記書類および文書の内容は引用により本文書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生炭素繊維を含む紡績糸。
【請求項2】
前記再生炭素繊維が不連続な炭素繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載の紡績糸。
【請求項3】
連続した炭素繊維をさらに含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の紡績糸。
【請求項4】
前記再生炭素繊維が、バージンの炭素繊維廃棄物及び回収された炭素繊維廃棄物の少なくとも1つから得られており、これらの材料の切断または細断によって得られていることを特徴とする請求項1、請求項2、または請求項3に記載の紡績糸。
【請求項5】
前記バージンの炭素繊維廃棄物が、多軸織物のトリム、織物の織端のトリム、機械抽出システムから回収される繊維、連続していたトウ、織物、または一方向織物、の中の少なくとも一つから得られることを特徴とする請求項4に記載の紡績糸。
【請求項6】
前記回収された炭素繊維廃棄物が、熱処理、溶媒処理、流動床の使用、および超臨界流体の使用の中の少なくとも1つによる樹脂マトリクスの除去を通じて、寿命末期および完成品の複合材料から再生される繊維から得られることを特徴とする請求項4に記載の紡績糸。
【請求項7】
前記再生炭素繊維が1.5〜2.2g/cm(1500〜2200kg/m)の密度を有していることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の紡績糸。
【請求項8】
処理前の前記再生炭素繊維の平均繊維長が40〜250mmであることを特徴とする先行する請求項1から7のいずれか一項に記載の紡績糸。
【請求項9】
処理前の前記再生炭素繊維の平均繊維長が80mmであることを特徴とする請求項8に記載の紡績糸。
【請求項10】
前記再生炭素繊維が、規格内および規格外の両方の潜在的な廃棄物の流れのさまざまな範囲から得られることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の紡績糸。
【請求項11】
少なくとも1つのその他の繊維をさらに含むことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の紡績糸。
【請求項12】
前記少なくとも1つのその他の繊維が、ポリアルケン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルスルホンポリマー、および高性能繊維から選択される少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項11に記載の紡績糸。
【請求項13】
前記ポリアルケンがポリエチレンまたはポリプロピレンを含んでおり、前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートを含んでおり、および/または前記高性能繊維がVectran(登録商標)またはポリマーのPeek(登録商標)の範疇のポリマーを含んでいることを特徴とする請求項12に記載の紡績糸。
【請求項14】
前記再生炭素繊維が、前記熱可塑性繊維との混合に適した長さであることを特徴とする請求項11、請求項12、または請求項13に記載の紡績糸。
【請求項15】
前記紡績糸の前記再生炭素繊維含有率が重量で0.1〜99.9%であり、好ましくは30〜80%であることを特徴とする請求項11から請求項17のいずれか一項に記載の紡績糸。
【請求項16】
少なくとも1つの構造強化繊維をさらに備えていることを特徴とする請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の紡績糸。
【請求項17】
前記少なくとも1つの構造強化繊維が、ガラス、セラミック、または芳香族ポリアミドを含むことを特徴とする請求項16に記載の紡績糸。
【請求項18】
前記糸が、前記糸の芯を形成するように配置される単繊維および/または繊維の連続または不連続な撚り線を備える芯糸を有しており、前記芯がステープルファイバーを含む外装によって包囲されていることを特徴とする請求項1から請求項17のいずれか一項に記載の紡績糸。
【請求項19】
前記芯がバージンまたは再生炭素繊維を含んでいることを特徴とする請求項18に記載の紡績糸。
【請求項20】
前記芯が熱可塑性繊維またはその他の強化繊維を含んでいることを特徴とする請求項18または請求項19に記載の紡績糸。
【請求項21】
前記外装が、熱可塑性もしくはその他の適切な繊維と混合されている再生炭素繊維、または再生炭素繊維を含んでいることを特徴とする請求項18から請求項20のいずれか一項に記載の紡績糸。
【請求項22】
(a)再生炭素繊維材料を切断または細断するステップと、
(b)必要に応じて、再生炭素繊維材料内に存在するその他の材料から炭素繊維を分離するステップと、
(c)繊維を開放および混合するステップと、
(d)繊維を混ぜ合わせるステップと、
(e)糸を形成するステップと、
を備えることを特徴とする請求項1から請求項21のいずれか一項に記載の紡績糸の製造方法。
【請求項23】
前記繊維を矯正するステップをさらに備えており、このステップが、前記繊維を混ぜ合わせるステップの後で、糸を形成するステップの前に実行されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記繊維を混ぜ合わせる工程が前記繊維のカーディングによって実行される、請求項22または請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記カーディングが定置フラットカード機またはローラおよびクリヤカード機により実行されることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
カーディングが、回転フラットカード機、コットンカード機、またはシリンダ周囲の周期的経路をたどる機の頂部にフラットを備える短ステープルカード機により実行されることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記シリンダおよびフラットが鋸歯状のワイヤクロスで覆われていることを特徴とする請求項25または請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記カード機が、鋸歯状のワイヤクロスまたはピンを装着されるドッファを備えていることを特徴とする請求項25から請求項27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記ドッファが、集合形状の繊維からなる布状物内の前記個々の繊維を移動させることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記カード機の供給構造が、リッカインローラに対するフィードローラおよびフィードプレートの相対的構造を備えていることを特徴とする請求項25から請求項29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記カーディングされた繊維がスライバー状に形成されることを特徴とする請求項24から請求項30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記スライバーからの糸の形成のその後の工程が、
(i)前記繊維を平行にし、且つ密に混合するためのドローイングまたはギル整条のステップと、
(ii)前記繊維の紡績または包み込みのステップと、
を実行することを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記紡績の工程がリング紡績、摩擦紡績、ラップ紡績、セルフツイストシステム、中空スピンドル紡績、オープンエンド紡績、または撚りテープ糸のいずれかを備えていることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ギル整条または前記ドローイングの工程は、前記スライバーの軸に沿って平行に前記繊維を方向付けることを特徴とする請求項32または請求項33に記載の方法。
【請求項35】
加熱区域が、前記繊維をドローイングするためのドラフト構造に含まれることを特徴とする請求項32、請求項33、または請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記ドラフト構造が、樹脂繊維を溶融させる第一の加熱およびドローイング区域と、ポリマーがドローイングされながらTgを超える温度に加熱される第二の加熱およびドローイング区域とを備えていることを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記スライバーが熱結合され、規定の幅の帯状片に切り開かれた後、単独の帯状片として個別に、あるいは複数の帯状片としてまとめて撚り合わされて糸を形成することを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記繊維を混ぜ合わせる工程が、湿式積層によって布状物を形成して、単位面積当たり必要とされる質量のシート材料を形成することにより実行されることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項39】
前記シートが規定幅の帯状片に切り開かれた後、単独の帯状片として個別に、あるいは複数の帯状片としてまとめて撚り合わされて糸を形成することを特徴とする請求項38に記載の方法。
【請求項40】
結合工程が前記切開動作の前に実行されることを特徴とする請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記カーディングされた繊維が結合によって単位面積当たり必要とされる質量のシートに形成され、前記結合が機械結合、化学結合、または熱結合のいずれかを備えていることを特徴とする請求項24から請求項30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記シートが規定幅の帯状片に切り開かれた後、単独の帯状片として個別に、あるいは複数の帯状片としてまとめて撚り合わされて糸を形成することを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項43】
芯糸製造のための請求項22から請求項42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
随意的に、前記カーディングされた繊維が熱結合され、前記熱結合スライバーが熱可塑性プレプリグ状に形成されることを特徴とする請求項31から請求項37のいずれか一項の方法により製造されるスライバー。
【請求項45】
織物製造、一方向織物製造、単繊維巻線または引抜き成形、即ち航空機、自動車、建築、建造または医療用途、およびスポーツ用品を含む複合用途、即ち電気加熱布材料の使用を含む、導電用炭素繊維を必要とする材料、または防火障壁または保護衣の使用を含む、断熱用炭素繊維を必要とする材料、における請求項1から請求項21のいずれか一項に記載の紡績糸の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−519000(P2013−519000A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551693(P2012−551693)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【国際出願番号】PCT/GB2011/050208
【国際公開番号】WO2011/095826
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(512203687)ユニバーシティ オブ リーズ (1)
【Fターム(参考)】