説明

炭素膜およびそれを用いたガス分離法

【課題】すぐれたガス分離性能をもつ新規な炭素膜等を提供すること。
【解決手段】プロトン酸基を有する芳香族ポリエーテルからなる膜を熱分解することによって得られる炭素膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン酸基を有する芳香族ポリエーテルからなる膜を熱分解することによって得られる新規の炭素膜、および該炭素膜を用いたガス分離法に関する。
【背景技術】
【0002】
混合ガスからの特定のガスの分離は、従来、深冷分離法、吸着分離法(PSA)および化学/物理吸収法により行われてきた。しかしながらこれらの技術は分離に際し、極低温状態、高圧状態または吸収溶液の再生操作を必要とするため、これらの技術を実施するにあたり、多大なエネルギーが必要であった。
【0003】
一方、ポリイミド、ポリアラミド、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、シリコン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、パラジウム系、シリカ・アルミナ・チタニア・ジルコニア等の酸化物及びそれらの複合酸化物、ゼオライト等といった高分子系分離膜によるガス分離技術は、エネルギーが少ない、装置を小型化できる、装置のメンテナンスが容易などの利点がある。そのためその技術は、石油精製における各種工程からの水素回収・油中の水分除去、化学工業における各種反応プロセス中の水素/一酸化炭素比率調整・水素回収・高純度水素の製造、天然ガスやランドフィルガスからの二酸化炭素分離、天然ガスからのヘリウム回収・酸性ガス除去等に適用されてきた。ランドフィルガスとは、廃棄物の埋立場から発生するガスを言い、そのガスの約40%がメタンにより構成される。
【0004】
しかしながら、高分子系分離膜によるガス状目的物の分離は、ガス中に存在する各成分の膜の透過速度に大きく影響される。そのことから、コークス炉ガスや石炭ガス化ガス等の多くの微量不純物を含むガスを高分子系分離膜によって分離しようとすると、高分子系分離膜におけるガス状目的物の分離回収率等の性能低下が激しい。この性能低下を防ぐための検討はなされているものの、工業的には実用化されていなかった。
【0005】
炭素分子篩膜(CMSM)は耐熱性、耐薬品性に優れた材料であり、分子篩機構を通じて、混合ガスに対する高い分離性能とガス輸送特性を有する。長年にわたって、CMSMとなるポリマーの熱分解温度および時間を変化させることによって、ガス分離特性を有するCMSMが製造されてきた(非特許文献1及び2参照)。
【0006】
CMSMは、超微小孔(<7Å)および微小孔の両方を有する。超微小孔は、主に分子の篩い分けに関与し、微小孔は、ガスの拡散に対してほとんど抵抗とならず、ガスの吸着容量が高い。しかしながら、これまで、ガス分離特性、輸送特性を高いレベルで両立できるCMSMは提供されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】C. W. Jones, W. J. Koros, Carbon molecular sieve gas separation membranes-II. Regeneration following organic exposure, Carbon 32 (1994) 1427-1432
【非特許文献2】K. M. Steel, W. J. Koros, Investigation of porosity of carbon materials and related effects on gas separation properties, Carbon 41 (2003) 253-266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、すぐれたガス分離性能をもつ新規な炭素膜、およびその炭素膜を用いたガス分離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、プロトン酸基を有する新規の芳香族ポリエーテルからなる膜を熱分解することにより得られた新規な炭素膜が、すぐれたガス分離性能を持つことを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は下記[1]〜[11]に示される炭素膜、および、該炭素膜を用いたガスの分離方法に関する。
[1]プロトン酸基を有する芳香族ポリエーテルからなる膜を熱分解することによって得られる炭素膜。
【0011】
[2]前記芳香族ポリエーテルが、下記一般式(1)で表わされる繰り返し構造単位を有する芳香族ポリエーテルであることを特徴とする[1]に記載の炭素膜:
【0012】
【化1】

[式(1)中、各Xはそれぞれ独立にH、プロトン酸基、−Cm2m+1(mは1〜10の整数),−Cl,−F,−CF3または−CNであり、
複数存在するXのうち少なくとも一つはプロトン酸基であり、
1およびA2はそれぞれ独立して直接結合,−CH2−,−C(Cp2p+12−(pは1〜10の整数),−C(CF32−,−O−,−SO2−または−CO−であり、
j,k,lはそれぞれ独立して0または1を示す。]。
【0013】
[3]前記芳香族ポリエーテルが、下記一般式(2)で表わされる繰り返し構造単位を有する芳香族ポリエーテルであることを特徴とする[1]または[2]に記載の炭素膜:
【0014】
【化2】

[式(2)中、各Xはそれぞれ独立にH、プロトン酸基、−Cm2m+1(mは1〜10の整数),−Cl,−F,−CF3または−CNであり、
複数存在するXのうち少なくとも一つはプロトン酸基であり、
1は−SO2−または−CO−であり、
2は直接結合,−CH2−,−C(Cp2p+12−(pは1〜10の整数),−C(CF32−,−O−,−SO2−または−CO−であり、
k,lはそれぞれ独立して0または1を示す。]。
【0015】
[4]前記プロトン酸基が、−Cn2n−SO3Y(nは0〜10の整数であり、YはH,Na、KまたはAgである。)であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の炭素膜。
【0016】
[5]前記芳香族ポリエーテルが、下記式(3)および(4)で表される繰り返し構造単位からなる共重合体であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の炭素膜:
【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

[式(3)および(4)中、R1〜R6はそれぞれ独立に水素または−Cm2m+1(mは1〜8の整数)であり、
2つ存在するYは独立にNa,K,HまたはAgであり、
式(3)で表わされる繰り返し構造単位の共重合比率(モル比)をw、式(4)で表わされる繰り返し構造単位の共重合比率をzとすると(ただしw+z=1)、0.2≦w≦0.8かつ0.8≧z≧0.2である。]。
【0019】
[6]前記芳香族ポリエーテルが、下記式(5)および(6)で表される繰り返し構造単位からなる共重合体であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の炭素膜:
【0020】
【化5】

【0021】
【化6】

[式(5)中、2つ存在するYは独立にNa,K,HまたはAgであり、
式(5)で表わされる繰り返し構造単位の共重合比率(モル比)をs、式(6)で表わされる繰り返し構造単位の共重合比率をtとすると(ただしs+t=1)、0.2≦s≦0.8かつ0.8≧t≧0.2である。]。
【0022】
[7]前記一般式(3)において、YがAgであることを特徴とする[5]に記載の炭素膜。
[8]前記一般式(5)において、YがAgであることを特徴とする[6]に記載の炭素膜。
【0023】
[9]前記熱分解における加熱の最高温度が500〜1000℃であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載の炭素膜。
[10]厚さが20〜100μmである[1]〜[9]のいずれかに記載の炭素膜。
【0024】
[11]ガス混合物または蒸気混合物を、加圧下で、[1]〜[10]のいずれかに記載の炭素膜と接触させることにより、該混合物から少なくとも1種のガスまたは蒸気を分離する方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、すぐれたガス分離性能をもつ新規な炭素膜、およびその炭素膜を用いたガス分離方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る炭素膜は、混合ガスの分離において高い分離、輸送性能を有する頑強な炭素膜である。そのような炭素膜は、プロトン酸基を有する芳香族ポリエーテル(以下「プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル」ともいう)からなる膜を熱分解することによって得られる。特に、プロトン酸基がスルホン酸基である場合、良好なガス分離、輸送特性が得られる。
【0027】
[プロトン酸基含有芳香族ポリエーテルからなる膜]
本発明に係る炭素膜の原料となる膜は、プロトン酸基含有芳香族ポリエーテルからなる。
【0028】
<プロトン酸基含有芳香族ポリエーテル>
上記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテルからなる膜からは、熱分解により、水素、窒素、メタン、二酸化炭素などのガス分離のための孔が形成される。
【0029】
前記プロトン酸基としては、具体的には、下記式(A)〜(C)で示されるスルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基などが挙げられる。これらの中でも、すぐれたガス分離性能が達成されることから、下記式(A)で示されるスルホン酸基が好ましく、下記式(A)においてn=0の場合のスルホン酸基が特に好ましい。
(A)−Cn2n−SO3Y(nは0〜10の整数であり、YはH、Na,KまたはAgである)
(B)−Cn2n−COOY(nは0〜10の整数であり、YはH、Na,KまたはAgである)
(C)−Cn2n−PO32(nは0〜10の整数であり、YはH、Na,KまたはAgである)。
【0030】
また前記「芳香族ポリエーテル」とは、ベンゼン環などの芳香環を有するポリエーテルである。
プロトン酸基含有芳香族ポリエーテルの対数粘度(ηinh)は、通常0.5〜2.5dl/gである。
【0031】
前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテルは、すぐれたガス分離性能を達成する観点から下記一般式(1)で表される繰り返し構造単位を有する芳香族ポリエーテルであることが好ましい。
【0032】
【化7】

式(1)中、各Xはそれぞれ独立にH、プロトン酸基、−Cm2m+1(mは1〜10の整数),−Cl,−F,−CF3または−CNであり、複数存在するXのうち少なくとも一つはプロトン酸基であり、A1およびA2はそれぞれ独立して直接結合,−CH2−,−C(Cp2p+12−(pは1〜10の整数),−C(CF32−,−O−,−SO2−または−CO−であり、j,k,lはそれぞれ独立して0または1を示す。
【0033】
kおよびlが1の場合には、A2がふたつ存在することになるが、そのような場合には、二つのA2は同一でも異なっていてもよい。
前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテルはより好ましくは、下記一般式(2)で表される繰り返し構造単位を有する芳香族ポリエーテルである。
【0034】
【化8】

式(2)中、各Xはそれぞれ独立にH、プロトン酸基、−Cm2m+1(mは1〜10の整数),−Cl,−F,−CF3または−CNであり、複数存在するXのうち少なくとも一つはプロトン酸基であり、A1は−SO2−または−CO−であり、A2は直接結合,−CH2−,−C(Cp2p+12−(pは1〜10の整数),−C(CF32−,−O−,−SO2−または−CO−であり、k,lはそれぞれ独立して0または1を示す。
【0035】
kおよびlが1の場合には、A2がふたつ存在することになるが、そのような場合には、二つのA2は同一でも異なっていてもよい。
前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテルの更に好適な例として、下記式(3)および(4)で表される繰り返し構造単位からなる共重合体が挙げられる。
【0036】
【化9】

【0037】
【化10】

式(3)および(4)中、R1〜R6はそれぞれ独立に水素または−Cm2m+1(mは1〜8の整数)であり、2つ存在するYは独立にNa,K,HまたはAgであり、式(3)で表わされる繰り返し構造単位の共重合比率(モル比)をw、式(4)で表わされる繰り返し構造単位の共重合比率(モル比)をzとすると(ただしw+z=1)、0.2≦w≦0.8かつ0.8≧z≧0.2である。
【0038】
0.2≦w≦0.8の場合には、スルホン酸基による炭素膜構造の制御が十分であり好ましい。炭素膜構造の制御とは、超微小孔と微小孔との存在バランスをコントロールすることであり、炭素膜構造を制御することにより、ガス分離特性、輸送特性を高いレベルで両立できる。また上記Yは、特にガス輸送特性および選択性のバランスからAgであることが好ましい。
【0039】
上記共重合体は、上記式(3)および(4)で表わされる繰り返し構造単位のランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテルの最も好適な例として、下記式(5)および(6)で表される繰り返し構造単位からなる共重合体が挙げられる。
【0040】
【化11】

【0041】
【化12】

式(5)中、Yは前記一般式(3)におけるYと同じであり、式(5)で表わされる繰り返し構造単位の共重合比率(モル比)をs、式(6)で表わされる繰り返し構造単位の共重合比率(モル比)をtとすると(ただしs+t=1)、0.2≦s≦0.8かつ0.8≧t≧0.2である。
【0042】
0.2≦s≦0.8の場合には、スルホン酸基による炭素膜構造の制御が十分であり好ましい。
また上記Yは、特にガス輸送特性および選択性のバランスからAgであることが好ましい。
【0043】
上記共重合体は、上記式(5)および(6)で表わされる繰り返し構造単位のランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
重合することにより、以上説明したプロトン酸基含有芳香族ポリエーテルとなるモノマーの製造方法は公知であり、また市販もされている。前記モノマーの例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル−フェニル)プロパン (テトラメチルビスフェノールA(TMBPA))、5,5’−カルボニルビス(2−フルオロベンゼンスルホン酸ナトリウム)(DSDFBP)および4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(DFBP)が挙げられる。たとえばTMBPAとDSDFBPが反応することにより、上記式(3)で表わされる繰り返し構造単位(YがNaであり、R1〜R6がすべてメチル基)が生成する。また重合反応に使用するモノマーの使用量を調整することにより、繰り返し構造単位の共重合比率を上記範囲内にすることができる。
【0044】
<プロトン酸基含有芳香族ポリエーテルからなる膜の製造方法>
本発明に係る炭素膜の原料となる膜は、上記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテルからなる。本発明に係る炭素膜は、例えば、平坦シート状の形態であってもよく、また、中空糸、すなわち中空繊維膜の形態であってもよい。
【0045】
本発明に係る炭素膜を平坦シート状等の形態に成形する場合、このような成形を、例えば、適切な濃度のプロトン酸基含有芳香族ポリエーテルおよび溶媒からなるポリマー溶液を調製し、このポリマー溶液を膜形成原料として、キャストすることにより行ってもよい。また、他の方法として、溶融流延(melt casting)法及びスピンコート法を用いることもできる。
【0046】
また、このポリマー溶液を用いて中空糸繊維を紡糸することもできる。本発明に係る炭素膜を中空糸の形態で製造する場合、同様に前記ポリマー溶液を原料として、紡糸口金を用いて中空繊維を紡糸することにより中空糸の製造を行ってもよい。
【0047】
以上のような成形を行った場合、後に行われる熱分解によってプロトン酸基含有芳香族ポリエーテルが炭化して、それぞれ平坦シート状の形態を有する炭素膜、および中空繊維膜の形態を有する炭素膜になる。
【0048】
ここで用いられる溶媒としては、プロトン酸基含有芳香族ポリエーテルを所定の濃度で溶解することができ、かつ成形を行った後に除去を行うことが容易な溶媒、例えばN,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。また、ポリマー溶液におけるプロトン酸基含有芳香族ポリエーテルの濃度は、例えば、溶媒の重量に対して1〜30重量%であってもよい。
【0049】
上述のように、ポリマー溶液を原料として成形を行った場合、本発明の炭素膜の製造には、用いた溶媒を成形の後除去する工程がさらに含まれる。この溶媒除去の工程においては、成形物が変形しないよう、初期の段階では大部分の溶媒を徐々に蒸発させ、その後加熱条件下で残りの溶媒を除去することが好ましい。例えば、室温において溶媒を1日〜10間かけて徐々に蒸発させた後、真空環境にて、150〜300℃において乾燥することにより、残りの溶媒を除去することができる。
【0050】
[炭素膜]
<炭素膜の製造方法>
本発明に係る炭素膜は、前記プロトン酸基含有芳香族ポリエーテルからなる膜を熱分解することにより製造される。通常は、熱処理およびアニーリング条件を制御しながら前記膜の熱分解を行う。
【0051】
このとき、頑強な炭素膜を得る上で膜の脆化を抑制する必要があることから、熱分解温度および時間を制御することが好ましい。具体的には、前記膜の熱分解を、加熱の最高温度500〜1000℃、好ましくは、真空環境で加熱の最高温度700〜900℃にて行う。このように比較的低温にて熱分解を行うことは、エネルギー消費を節約し、炭素膜の生産性を向上させる点でも好ましい。
【0052】
なお、使用するプロトン酸基含有芳香族ポリエーテルの組成により、水素、窒素、メタン、二酸化炭素などのガスの分離における高い分離性能を有する炭素膜を製造する上で最適な熱分解の温度が変わる場合がある。
【0053】
<炭素膜>
上記製造方法により得られる炭素膜は、高いガス分離・選択性能を有する頑強な炭素膜である。この炭素膜の形態として、平坦なシート膜と中空繊維膜とが挙げられ、いずれの炭素膜もガス分離膜として用いることができる。
【0054】
この炭素膜が平坦シート状の形態である場合には、この平坦シート炭素膜の厚さは通常約20〜100μmである。一方、この炭素膜が中空繊維膜の形態である場合には、この中空繊維膜の外径は通常約300〜1000μmである。
【0055】
この炭素膜の使用方法としては、水素、窒素、メタン、二酸化炭素などの複数のガスからなるガス混合物または水素、窒素、メタン、二酸化炭素などの複数の蒸気からなる蒸気混合物を、加圧下で該炭素膜と接触させることにより、この混合物から少なくとも1種のガスまたは蒸気を分離する方法が挙げられる。
【0056】
このとき、前記炭素膜は、分子サイズの異なる2種のガスまたは蒸気を分離するために使われる。すなわち、本発明に係る炭素膜は、炭素分子篩膜としてガスまたは蒸気の分離を行う。例えば、前記炭素膜は、水素及び窒素を含有する混合物からの水素/窒素の分離、二酸化炭素及びメタンを含有する混合物からの二酸化炭素/メタンの分離に用いることができる。
【0057】
前記加圧は、通常3atm〜30atmの圧力とされる。
なお、本明細書において「蒸気」とは、ガスとは物質の状態が異なる気相にある成分であり、この物質の状態は温度及び圧力の範囲によって変わる。蒸気は、物質の状態の異なる同一物質が存在するという点で純粋なガスと区別される。
【0058】
なお、前記ガスまたは蒸気の分離方法は、水素/窒素、二酸化炭素/メタンの分離を検査する工程を含んでもよい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれによって何ら制限されるものではない。なお、各物性については下記の方法によって測定した。
【0060】
[物性の測定方法等]
(1)対数粘度(ηinh
合成例で製造したポリマーの対数粘度は、N−メチルピロリジノン50質量%/ジメチルスルホキシド50質量%混合溶媒に、前記ポリマーを溶解し、その固形分濃度を0.5g/dlに調整後、35℃で測定した。
【0061】
(2)ガス透過特性
W. H. Lin, R. H. Vora, T. S. Chung, Gas Transport Properties of 6FDA-Durene/1,4-phenylenediamine (pPDA) Copolyimides,[ J. Polym. Sci.: Part B: Polym. Phys. 38 (2000) 2703-2713]で報告された可変圧力一定容量法によって、実施例および比較例で製造した(炭素)膜の純粋ガス透過係数を測定した。35℃、3.5気圧で、水素、窒素、メタン、二酸化炭素の順序で透過係数を測定した後、下記式(I)を用いて、透過が安定状態に達したときに得られる各ガスの圧力増加速度(dp/dt)からガス透過係数Pを求めた。
【0062】
【数1】

上記式(I)において、Pは、膜のガスに対するバーラー(Barrer)単位(1バーラー=1×10-10 cm3(STP)・cm/(cm2・秒・cmHg))の透過係数であり、Vは、下流チャンバの容量(cm3)であり、Aは、膜の有効面積(cm2)を表し、Lは、膜厚(cm)であり、Tは、測定温度(K)であり、dp/dtは、下流チャンバにおける圧力変換器で測定される圧力増加速度(mmHg/s)であり、さらに、上流チャンバにおける供給ガスの圧力は、psia単位のp0で与えられる。
【0063】
また、ガスBに対するガスAの膜の理想的選択性αA/Bは、下記式(II)のように定められる。
【0064】
【数2】

上記式(II)において、PAおよびPBは、それぞれガスAおよびガスBについてのガス透過係数である。なお、PA>PBとなるようにガスAおよびガスBを選定する。
【0065】
(3)化合物の略称
合成例に用いた化合物の略称は以下の通りである。
TMBPA:2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル−フェニル)プロパン (テトラメチルビスフェノールA)
DSDFBP:5,5’−カルボニルビス(2−フルオロベンゼンスルホン酸ナトリウム)
DFBP:4,4’−ジフルオロベンゾフェノン
DMSO:ジメチルスルホキシド
NMP:N−メチルピロリジノン
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド。
【0066】
[合成例1]
攪拌器、温度計および冷却管を装備した反応フラスコに、DFBP(0.525mol)と、50%発煙硫酸210mlを装入した後、100℃で12時間反応した。
【0067】
得られた反応液を1000gの氷水に排出した後、NaOH210gで中和した。次に、NaClを210g加え、粗生成物を加熱溶解した後放冷し一夜放置した。
析出した結晶を濾過した後、その結晶に水400ml、エタノール400mlを加えて加熱溶解した。その後その溶液を放冷し、再結晶を行った。
【0068】
析出した結晶を濾過後、100℃で6時間乾燥してDSDFBPの白色結晶を得た。収量は155.2g(0.368mol、収率70%)であった。
【0069】
[合成例2]
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び撹拌装置を備えた5つ口反応器に、合成例1で得られたDSDFBP37.16g(0.088mol)、DFBP28.8g(0.132mol)、TMBPA62.57g(0.220mol)および炭酸カリウム36.49g(0.264mol)を秤取した。これにDMSO480gとトルエン120gを加え、窒素雰囲気下で撹拌し、140℃で8時間加熱し、生成する水を系外に除去した後、トルエンを留去した。
【0070】
それから反応液を室温まで冷却した後、希釈のためNMP180gを反応器へ装入した。得られたポリマー溶液をメタノール2000gに排出し、析出したポリマー粉をろ過し、メタノールおよび水で洗浄した後、窒素雰囲気下、80℃で10時間および150℃で8時間乾燥することによりスルホン酸ナトリウム基含有芳香族ポリエーテルケトン(Na−SPEK)109.1gを得た(収率91%)。このNa−SPEK のηinhは0.82dl/gであった。
【0071】
[合成例3]
合成例2で得られたNa−SPEK粉を10%硫酸に24時間浸漬した。その後、得られる粉末を3回蒸留水で洗浄し、減圧下、120℃にて乾燥することにより、スルホン酸基含有芳香族ポリエーテルケトン(H−SPEK)を得た。
【0072】
[合成例4]
合成例3で得られたH−SPEK粉を10%硝酸銀水溶液に浸漬した。その後、合成例2と同様に得られた粉末を洗浄、乾燥することにより、スルホン酸銀基含有芳香族ポリエーテルケトン(Ag−SPEK)を得た。
【0073】
[合成例5]
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び撹拌装置を備えた5つ口反応器に、DFBP23.35g(0.107mol)、TMBPA30.13g(0.106mol)および炭酸カリウム18.30g(0.132mol)を秤取した。
【0074】
この溶液にNMP160gを加え、窒素雰囲気下で撹拌し、200℃で8時間加熱した。それから前記溶液を100℃まで冷却した後、希釈のためNMP300gを反応器へ装入した。
【0075】
得られたポリマー溶液をアセトン1000gに排出し、析出したポリマー粉をろ過し、メタノールおよび水で洗浄した後、窒素雰囲気下、50℃で4時間および180℃で4時間乾燥することにより芳香族ポリエーテルケトン(PEK)44.6gを得た(収率91%)。このPEKのηinhは0.59dl/gであった。
【0076】
[実施例1]
合成例2で得られたNa−SPEK 0.1gをDMF4.9gに溶解し、ポリマー溶液を調製した。このポリマー溶液をワットマンフィルタ(1μmφ)で濾過して不溶物および粉塵粒子を除去し、得られた溶液を室温でステンレス鋼環に囲まれた水平なシリコンウェハ上に流延した。
【0077】
約5日間にわたってDMFを徐々に蒸発させて、厚さが約50μmの均質な膜を得た。次に、得られた膜について、Centurion(登録商標)Neytech Qex真空炉を使用し、室温から250℃まで10℃/min、250℃から800℃まで0.2℃/minの速度にて昇温し、800℃で2時間保持することにより焼成した。その後、室温まで1℃/minの速度にて冷却することにより炭素膜を得た。
【0078】
得られた炭素膜を用いてガス透過係数を測定した。ガス透過係数および理想的選択性を下記表1に示す。
[実施例2]
Na−SPEKを合成例3で得られたH−SPEKへ変更した以外は、実施例1と同様の方法により炭素膜を作製、評価した。ガス透過係数および理想的選択性を下記表1に示す。
【0079】
[実施例3]
Na−SPEKを合成例4で得られたAg−SPEKへ変更した以外は、実施例1と同様の方法により炭素膜を作製、評価した。ガス透過係数および理想的選択性を下記表1に示す。
【0080】
[比較例1−3]
実施例1−3と同様の方法により芳香族ポリエーテルからなる膜を作製した後、焼成操作を行なわずに前記膜の物性を評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0081】
[比較例4]
合成例5で得られたPEKを用い、実施例1と同様の方法によりPEKからなる膜を作製した後、焼成操作を行わずに、得られた膜についてガス透過係数および理想的選択性を評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0082】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン酸基を有する芳香族ポリエーテルからなる膜を熱分解することによって得られる炭素膜。
【請求項2】
前記芳香族ポリエーテルが、下記一般式(1)で表わされる繰り返し構造単位を有する芳香族ポリエーテルであることを特徴とする請求項1に記載の炭素膜:
【化1】

[式(1)中、各Xはそれぞれ独立にH、プロトン酸基、−Cm2m+1(mは1〜10の整数),−Cl,−F,−CF3または−CNであり、
複数存在するXのうち少なくとも一つはプロトン酸基であり、
1およびA2はそれぞれ独立して直接結合,−CH2−,−C(Cp2p+12−(pは1〜10の整数),−C(CF32−,−O−,−SO2−または−CO−であり、
j,k,lはそれぞれ独立して0または1を示す。]。
【請求項3】
前記芳香族ポリエーテルが、下記一般式(2)で表わされる繰り返し構造単位を有する芳香族ポリエーテルであることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素膜:
【化2】

[式(2)中、各Xはそれぞれ独立にH、プロトン酸基、−Cm2m+1(mは1〜10の整数),−Cl,−F,−CF3または−CNであり、
複数存在するXのうち少なくとも一つはプロトン酸基であり、
1は−SO2−または−CO−であり、
2は直接結合,−CH2−,−C(Cp2p+12−(pは1〜10の整数),−C(CF32−,−O−,−SO2−または−CO−であり、
k,lはそれぞれ独立して0または1を示す。]。
【請求項4】
前記プロトン酸基が、−Cn2n−SO3Y(nは0〜10の整数であり、YはH,Na、KまたはAgである。)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素膜。
【請求項5】
前記芳香族ポリエーテルが、下記式(3)および(4)で表される繰り返し構造単位からなる共重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炭素膜:
【化3】

【化4】

[式(3)および(4)中、R1〜R6はそれぞれ独立に水素または−Cm2m+1(mは1〜8の整数)であり、
2つ存在するYは独立にNa,K,HまたはAgであり、
式(3)で表わされる繰り返し構造単位の共重合比率(モル比)をw、式(4)で表わされる繰り返し構造単位の共重合比率をzとすると(ただしw+z=1)、0.2≦w≦0.8かつ0.8≧z≧0.2である。]。
【請求項6】
前記芳香族ポリエーテルが、下記式(5)および(6)で表される繰り返し構造単位からなる共重合体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の炭素膜:
【化5】

【化6】

[式(5)中、Yは各々独立にNa,K,HまたはAgであり、
式(5)で表わされる繰り返し構造単位の共重合比率(モル比)をs、式(6)で表わされる繰り返し構造単位の共重合比率をtとすると(ただしs+t=1)、0.2≦s≦0.8かつ0.8≧t≧0.2である。]。
【請求項7】
前記一般式(3)において、YがAgであることを特徴とする請求項5に記載の炭素膜。
【請求項8】
前記一般式(5)において、YがAgであることを特徴とする請求項6に記載の炭素膜。
【請求項9】
前記熱分解における加熱の最高温度が500〜1000℃であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の炭素膜。
【請求項10】
厚さが20〜100μmである請求項1〜9のいずれかに記載の炭素膜。
【請求項11】
ガス混合物または蒸気混合物を、加圧下で、請求項1〜10のいずれかに記載の炭素膜と接触させることにより、該混合物から少なくとも1種のガスまたは蒸気を分離する方法。

【公開番号】特開2011−25113(P2011−25113A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171024(P2009−171024)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(507335687)ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール (28)
【Fターム(参考)】