説明

炭素質繊維及びその製造方法

【課題】電子放出素材として有用な両端の尖った炭素質繊維を得る。
【解決手段】縮合環状の炭素面が繊維軸を中心に年輪状に積層した炭素質繊維を酸素の存在下で、400℃以上1200℃以下の温度で、その質量の75%以上を焼失するまで、加熱して、縮合環状の炭素面が繊維軸を中心に年輪状に積層した炭素質繊維において、繊維の先端が両端とも鋭角であり、好ましくは炭素質繊維の繊維軸部分に、中空構造を持つことを特徴とする炭素質繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質繊維及びその製造方法に関するものである。更に詳しくは、主として電界電子放出源等に有用である両端の鋭角な炭素質繊維及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子表示装置、画像形成装置等に使用される冷陰極用の電子放出素子について炭素質繊維を電子源とすることが検討されている。その炭素質繊維の製造に関しては、例えば、特開平8−115652号公報では、絶縁基盤上に設定した2つの電極間の微小間隙に、炭化水素ガスを原料とし、それを熱分解させた結果生じた炭素質繊維を堆積させる製造方法が示されている。また、特開平10−112257号公報では、基盤陰極表面に炭素イオン又は炭素クラスターイオンをイオン注入し、これから形成される核発生サイトを核にし、ダイヤモンド状カーボンを気相合成する方法が述べられている。これらは、いずれも技術的に製造は可能であるが、陰極部材への熱影響が問題となるので、炭素質繊維の熱処理が難しくそのため炭素質繊維の電子放出効果が制限される。また、いずれも基盤等の陰極上に直接炭素を合成するもので、量産にはメーカー固有のノウハウ、設備技術が必要であり、工程が複雑なため陰極材メーカーが一般に用いられる方法ではない。
【0003】
一方、数10nm以下の径の微小なカーボンナノチューブが電子放出材料としてここ数年脚光をあびてきている。これは、通常太さ1nm〜50nm程度の黒鉛のチューブであり、その製法は、炭素電極のアーク放電により電極上に発生させる、あるいは強力なレーザー光線を炭素電極に当てることにより、周辺のガス中に生成させる。このナノチューブの形状は、現代化学 P57(1998年7月)に見られるように片方の先端が尖った形状が一般的である。カーボンナノチューブは、化学的に安定であり、機械的にも強靱であり電界放出型の電子源として検討が進んでいる。例えば斉藤らは、セラミックス 33(1998)No.6 にて、これを多数陰極板上に貼り付けたもので蛍光表示管として使用する例を示し、省エネルギー型の平面ディスプレー、高精細カラーCRTへの利用の可能性を示唆している。
【0004】
しかし、カーボンナノチューブについては、その工業的な製造法が確立されておらず、安定した品質のものが安価に供給されていない。カーボンナノチューブに近い性状のものとして、ここ数年で、気相法炭素繊維が量産化されるようになった。これは、特公平04−24320や特許2778434等の製造法で示されるように有機化合物を反応槽内に吹き付け熱分解により炭素繊維を生成させるもので、径が数μm以下の炭素繊維が量産規模で得られている。これらの形状を詳細に調べると、縮合環状の炭素面が繊維軸を中心に年輪状に積層した外観を示し、これらの端面を見ると丸い球状で閉じているものや、あるいは分断され、その断面が繊維軸方向にほぼ垂直な状態を示している。先に述べたように、電界電子放出源として用いる場合は、先端が鋭角なほうが縮合環状の炭素面端面が現れ、エッジが出ているため電界電子放出特性が向上する。特に、両端面が尖った炭素質繊維については、現在発見されておらず、電子放出材として利用できれば、電子放出の効率が向上することが予想される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、現在工業的に製造方法が確立されている気相法炭素繊維に着目し、電子放出材料としての用途に使用できると考える先端の両端形状を細く尖らせた該炭素質繊維を量産規模で得ようとするものである。すなわち、本発明の目的は、従来製造出来なかった両端の尖った形状の炭素質繊維を得るものであり、その量産する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記炭素質繊維の先端の形状を鋭角にすべく、機械的な衝撃や摩耗による粉砕をはじめとし種々の方法を検討したが、酸素の存在下で加熱することにより効率よく両端が鋭角になることを見いだし本発明を完成させ、従来見られなかった両端形状の尖った炭素質繊維を得ることができた。すなわち、1)縮合環状の炭素面が繊維軸を中心に年輪状に積層した炭素質繊維において、繊維の先端が両端とも鋭角であることを特徴とする炭素質繊維。であり2)原料とする炭素質繊維が焼成又は黒鉛化されていることを特徴とする上記1)の炭素質繊維。であり3)上記1)又は2)は、炭素質繊維の繊維軸部分に、中空構造を持つことを特徴としている。更に4)上記1)又は2)又は3)について、先端の両端とも鋭角な炭素質繊維と、一方または両方とも鋭角でない炭素質繊維とが混在していることを好ましい特徴としているものである。前記炭素質繊維は、5)縮合環状の炭素面が繊維軸を中心に年輪状に積層した炭素質繊維を酸素の存在下、400℃以上1200℃以下の温度で、その質量の75%以上を焼失するまで、加熱することにより得られる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電子放出材として望まれる両端の尖った炭素質繊維が量産規模の気相法炭素繊維から簡単な製法にて安価に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
さらに詳細に本発明について説明すれば、本発明の縮合環状の炭素面が繊維軸を中心に年輪状に積層した炭素質繊維は、気相成長炭素繊維やカーボンナノチューブ等に代表される炭素繊維であり、繊維軸部分が中空構造であっても良い。気相法成長炭素繊維は、特公平4−24320、特許2778434号等で示されている。カーボンナノチューブは飯島らにより発見され、種々の製法が提案されているが、本発明は気相法炭素繊維、カーボンナノチューブともにその製法には限定されない。しかし、本発明者らの研究によれば、気相成長による炭素繊維特有の縮合環状の炭素面が繊維軸を中心に年輪状に積層した炭素質繊維についてのみ、本発明の両端の鋭角な形状を持った炭素質繊維が得られた。
【0009】
また、本発明の先端の鋭角な状態の定義は、図−1に示すように、炭素質繊維の繊維径をd0、先端の径をd1とし繊維径が細くなりはじめる点と先端との距離をLとすると、d1/d0<0.5かつ0.5<L/d0で示される。また、鋭角な炭素質繊維の先端の多くは繊維中心軸上に存在するが、図−1に示すように繊維中心軸からずれていてもよい。先端の構造は、図−2に示すように、繊維軸を中心に縮合環状の炭素面が年輪状に開いて存在し、先端の中心軸は中空構造をとっても良いし取らなくても良い。本発明の先端が鋭角な炭素質繊維は、先端の両端とも鋭角な炭素質繊維と、一方又は両方とも鋭角でない炭素質繊維とが混在していても良い。その存在比率は、先端の両端が鋭角な炭素質繊維が全体の10%以上を占めている。本発明の炭素質繊維の繊維径や長さには特に制限はないが、通常繊維径は0.0005μmから50μmであり、繊維長は0.5μmから数mmであるが、好ましくは繊維径は0.0005μmから1μmであり、繊維長は0.5μmから500μm程度である。また、炭素質繊維表面の一部は酸化等により、他の部分より細くなっていても良い。本発明の両端が鋭角な炭素質繊維の製造方法は、縮合環状の炭素面が繊維軸を中心に年輪状に積層した炭素質繊維を酸素の存在下、400℃以上1200℃以下の温度で加熱する。400℃未満では、酸化が起こらず先端の鋭角化が進まない。また、1200℃を超えると、酸化の速度が速く、適切な時間の制御が難しくなる。また、材料となる炭素質繊維の熱処理状態は、800℃以上で焼成されているか、2000℃以上で黒鉛化されていても良い。未焼成または未黒鉛化品は、400℃未満で酸化が進み、同様に制御が難しい。なお、炭素質繊維の熱処理履歴により処理温度及び時間を調整する。また、本酸化処理を行った後で、黒鉛化処理を行っても良い。
【実施例】
【0010】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0011】
(実施例1)
特許2778434号に示したように、内径170×長さ1500の反応管を備えた縦型加熱炉を用い、反応管の頂部に二流体噴霧ノズルを取り付け、反応管を1200℃に加熱維持する。4重量%のフェロセンを含有する原料20g/分と水素100L/分を用いて、二流体噴霧ノズルにより、反応管内壁に原料を噴霧供給する。反応管内に生成した気相法炭素繊維を5分間隔でかきおとしながら、反応を1時間行い、気相法炭素繊維を回収した。得られた気相法炭素繊維を2800℃で黒鉛化を行った。それを坩堝に詰め、750℃に加熱したマッフル炉に入れ4時間加熱した。その際の炭素質繊維残存率は21wt%であった。得られた酸化処理した炭素質繊維を透過電子顕微鏡(TEM)にて観察した。その写真を図−3、図−4に示す。図−3から測定した先端の両端が鋭角な炭素質繊維の径、形状寸法を表−1に示すが、図−3の炭素質繊維の一方は、d1/d0=0.08、L/d0=3.4;d1/d0=0.05,L/d0=5.4であり、もう一方はd1/d0=0.13、L/d0=1.3;d1/d0=0.06、L/d0=1.9であった。
【0012】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の先端の鋭角な状態を定義する説明図である。
【図2】先端の鋭角な炭素質繊維の構造を示す図である。
【図3】本発明による先端の鋭角な炭素質繊維の1例を示す透過電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明による先端の鋭角な炭素質繊維の他の例の透過電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮合環状の炭素面が繊維軸を中心に年輪状に積層した炭素質繊維において、繊維の先端が両端とも鋭角であることを特徴とする炭素質繊維。
【請求項2】
原料とする炭素質繊維が焼成又は黒鉛化されていることを特徴とする請求項1に記載の炭素質繊維。
【請求項3】
炭素質繊維の繊維軸部分に、中空構造を持つことを特徴とする請求項1あるいは2に記載の炭素質繊維。
【請求項4】
先端の両端とも鋭角な炭素質繊維と、一方または両方とも鋭角でない炭素質繊維とが混在していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の炭素質繊維。
【請求項5】
縮合環状の炭素面が繊維軸を中心に年輪状に積層した炭素質繊維を酸素の存在下、400℃以上1200℃以下の温度で、その質量の75%以上を焼失するまで、加熱することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の炭素質繊維の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−51410(P2007−51410A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279660(P2006−279660)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【分割の表示】特願平10−378634の分割
【原出願日】平成10年11月20日(1998.11.20)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】