説明

炭酸エステルの製造方法

【課題】本発明の課題は、高い収率でジアルキルスズアルコキシドを製造し、さらに安定的に高純度の炭酸エステルを製造する方法を提供することである。
【解決手段】本発明の炭酸エステルの製造方法は、テトラアルキル−ジアルコキシ−1,3−ジスタンオキサン及び/又はスズ−酸素−スズ結合を有する重合体であるジアルキルスズオキシドと、ヒドロキシ化合物とを蒸留塔に連続的に供給して脱水反応させ、前記蒸留塔から、低沸点成分と、アルキルスズアルコキシド及びヒドロキシ化合物を含む反応液と、を連続的に取り出す工程と、前記工程で得られた反応液を、薄膜蒸発装置に供給し、前記アルキルスズアルコキシドと前記ヒドロキシ化合物とを分離する工程と、前記工程で分離されたアルキルスズアルコキシドと、二酸化炭素とを反応させて炭酸エステルを得る工程とを含み、前記蒸留塔が比表面積1000m2/m3以上の充填物を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸エステル製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジアルキルスズアルコキシドは、炭酸エステル合成触媒、エステル交換反応触媒、シリコンポリマーやウレタン硬化触媒等の触媒として極めて有用である。
【0003】
従来のアルキルスズアルコキシドの製造方法として、ジアルキルスズオキシドとアルコールとを脱水反応させ、発生する水を含む低沸成分を反応液から除去するという方法(例えば特許文献1、非特許文献1参照)が知られている。
【0004】
ジアルキルスズオキシドを用いるアルキルスズアルコキシドの製造方法は、下記式(4)に示す脱水を伴う平衡反応であると推定している。
【0005】
【化1】

上記平衡反応は、圧倒的に原系に偏っており、更に下記式(5)及び(6)に示す逐次脱水反応を包含していると推定される。アルキルスズアルコキシドのうち、ジアルキルスズジアルコキシドを高収率で得るためには、各脱水反応生成物のうちの水を系外に抜き出しながら製造されるが、当該脱水反応は、エネルギー的に不利な反応であるために、高温(例えば180℃)で、長時間行う必要がある。
【0006】
また、炭酸エステルを得る方法としては、以下のような方法がある。まず、上記脱水反応を行い、過剰なアルコールを該反応液から除去した後、ジアルキルスズアルコキシドを含む反応液を得る。該脱水反応から得たジアルキルスズアルコキシドを、炭酸ガスと反応させ、炭酸エステルを得ることができる。
【0007】
【化2】

【0008】
【化3】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5545600号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of Chemical Society C:Organic,23、1971年、p3972
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、アルキルスズアルコキシドを得る際の脱水反応は原系に偏っているため過剰なアルコールを用い、効率よく系外に水を取り出す必要がある。さらに脱水反応後に過剰アルコールの除去を如何に効率よく行うことができるかという課題がある。また、ジアルキルスズアルコキシドは不安定な化合物であることが知られており、例えばアルコール除去あるいは炭酸エステル分離の際に場合によっては変性物が発生し、目的物の収率が下がるという問題もある。
【0012】
上述のとおり、ジアルキルスズアルコキシドを製造する方法は知られているが、従来の方法では、不安定な化合物であるジアルキルスズアルコキシドの収率を高く維持しながら効率よく製造することは困難である。さらに、ジアルキルスズアルコキシドを用いて、安定的で高純度の炭酸エステルを製造する方法は見出されていない。
【0013】
そこで、本発明は、高い収率でジアルキルスズアルコキシドを製造し、さらに安定的に高純度の炭酸エステルを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ジアルキルスズアルコキシドの製造において、比表面積が1000m2/m3以上の充填物を備えた蒸留塔を用いて脱水反応を行い、さらにジアルキルスズアルコキシドの分離を、薄膜蒸発装置を用いて行うことによって、高い収率でジアルキルスズアルコキシドを製造することができ、さらに高い収率かつ安定的に炭酸エステルを製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
即ち本発明は、以下のとおりである。
【0016】
[1]
出発物質として、テトラアルキル−ジアルコキシ−1,3−ジスタンオキサン及び/又はスズ−酸素−スズ結合を有する重合体であるジアルキルスズオキシドと、反応物質として、ヒドロキシ化合物とを蒸留塔に連続的に供給して脱水反応させ、前記蒸留塔から、低沸点成分と、アルキルスズアルコキシド及びヒドロキシ化合物を含む反応液と、を連続的に取り出す工程と、
前記工程で得られた反応液を、薄膜蒸発装置に供給し、前記アルキルスズアルコキシドと前記ヒドロキシ化合物とを分離する工程と、
前記工程で分離されたアルキルスズアルコキシドと、二酸化炭素とを反応させて炭酸エステルを得る工程と、を含む炭酸エステルの製造方法であって、
前記蒸留塔が、比表面積1000m2/m3以上の充填物を充填している、炭酸エステルの製造方法。
【0017】
[2]
該テトラアルキル−ジアルコキシ−1,3−ジスタンオキサンが、下記化学式(1)で表される化合物である、[1]記載の炭酸エステルの製造方法。
【0018】
【化4】

(式(1)中、R1、R2、R4及びR5は、それぞれ、アルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。R3及びR6は、それぞれアルキル基、アラルキル基である。a及びbは0から2の整数であって、a+bは2であり、c及びdは0から2の整数であって、c+dは2である。)
[3]
該ジアルキルスズオキシドが、下記化学式(2)で表されるジアルキルスズオキシドの重合体である、[1]又は[2]に記載の炭酸エステルの製造方法。
【0019】
【化5】

(式(2)中、R7及びR8は、それぞれ、アルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。e及びfは0から2の整数であって、e+fは2である。)
[4]
該出発物質が、単量体、2量体、互いの会合体、多量体及び重合体からなる群より選択された少なくとも一種である、[1]〜[3]のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法。
【0020】
[5]
前記ヒドロキシ化合物が、下記化学式(3)で表されるアルコールである、[1]〜[4]のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法。
【0021】
【化6】

(式(3)中、R9は、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、直鎖状若しくは分岐状の炭素数5〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、直鎖状若しくは分岐状の炭素数2〜12のアルケニル基、又は炭素数7〜20のアラルキル基を表す。また、前記炭素数7〜20のアラルキル基は、無置換又は置換された炭素数6〜19のアリール基を有するアルキル基であり、該アルキル基は、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜14のアルキル基、及び炭素数5〜14のシクロアルキル基よりなる群から選ばれるアルキル基である。)
[6]
該アルコールが、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール及び炭素数5〜8のアルキルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコールである、[5]に記載の炭酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高い収率でジアルキルスズアルコキシドを製造でき、さらに高純度の炭酸エステルを安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本願実施例1で用いた連続反応装置の模式図である。
【図2】本願比較例1で用いた連続反応装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの本実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。そして、本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0025】
本実施の形態に係る炭酸エステルの製造方法は、出発物質として、テトラアルキル−ジアルコキシ−1,3−ジスタンオキサン及び/又はスズ−酸素−スズ結合を有する重合体であるジアルキルスズオキシドと、反応物質として、ヒドロキシ化合物とを蒸留塔に連続的に供給して脱水反応させ、前記蒸留塔から、低沸点成分と、アルキルスズアルコキシド及びヒドロキシ化合物を含む反応液と、を連続的に取り出す工程と、前記工程で得られた反応液を、薄膜蒸発装置に供給し、前記アルキルスズアルコキシドと前記ヒドロキシ化合物とを分離する工程と、前記工程で分離されたアルキルスズアルコキシドと、二酸化炭素とを反応させて炭酸エステルを得る工程と、を含む炭酸エステルの製造方法であって、前記蒸留塔が、比表面積1000m2/m3以上の充填物を充填している。該充填物の比表面積は、1200〜4000m2/m3であることが好ましい。
【0026】
[出発物質]
出発物質は、下記式(1)で表されるテトラアルキル−ジアルコキシ−1,3−ジスタンオキサン及び/又は下記式(2)で表されるジアルキルスズオキシドの重合体であることが好ましい。
【0027】
【化7】

(式(1)中、R1、R2、R4及びR5は、それぞれ、アルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。R3及びR6は、それぞれアルキル基、アラルキル基である。a及びbは0から2の整数であって、a+bは2であり、c及びdは0から2の整数であって、c+dは2である。)
【0028】
【化8】

(式(2)中、R7及びR8は、それぞれ、アルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。e及びfは0から2の整数であって、e+fは2である。)
式(1)で示されるテトラアルキル−ジアルコキシ−1,3−ジスタンオキサンの例としては、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジブトキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ビスペンチルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ビスヘキシルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジブトキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ビスペンチルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ビスヘキシルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ジブトキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ビスペンチルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ビスヘキシルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラキス(トリフルオロブチル)−1,3−ジブトキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラキス(トリフルオロブチル)−1,3−ビスペンチルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラキス(トリフルオロブチル)−1,3−ビスヘキシルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラキス(ペンタフルオロブチル)−1,3−ジブトキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラキス(ペンタフルオロブチル)−1,3−ビスペンチルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラキス(ペンタフルオロブチル)−1,3−ビスヘキシルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラキス(ヘプタフルオロブチル)−1,3−ジブトキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラキス(ヘプタフルオロブチル)−1,3−ビスペンチルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラキス(ヘプタフルオロブチル)−1,3−ビスヘキシルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラキス(ノナフルオロブチル)−1,3−ジブトキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラキス(ノナフルオロブチル)−1,3−ビスペンチルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラキス(ノナフルオロブチル)−1,3−ビスヘキシルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラオクチル−1,3−ジブトキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラオクチル−1,3−ビスペンチルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラオクチル−1,3−ビスヘキシルオキシ―ジスタンオキサン(各異性体)が挙げられる。好ましい例としては、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジブトキシ―ジスタンオキサン(各異性体)、1,1,3,3−テトラオクチル−1,3−ジブトキシ―ジスタンオキサン(各異性体)が挙げられる。好ましい例は、式(1)中、R1が炭素数1〜12のアルキル基であるテトラアルキル−ジアルコキシ−1,3−ジスタンオキサンである。前記炭素数が短い場合、生成物のアルキルスズアルコキシドが固形物になりやすく、前記炭素数が長い場合、生成物の流動性が低下する場合があるため、より好ましい例としては、式(1)中、R1、R2、R4及びR5が炭素数4〜8のアルキル基であるテトラアルキル−ジアルコキシ−1,3−ジスタンオキサンである。
【0029】
上記式(1)で表されるテトラアルキル−ジアルコキシ−1,3−ジスタンオキサンは一般的に多量体で存在することが知られており、上記式(1)では単量体構造のテトラアルキル−ジアルコキシ−1,3−ジスタンオキサンを示しているが、多量体構造であっても会合体であってもかまわない。
【0030】
本実施の形態で使用するジアルキルスズオキシドは、下記式(2)に示すジアルキルスズオキシドの重合体であることが好ましい。ジアルキルスズオキシドとしては、下記式(2)に代表される構造式を示すが、単量体であっても会合体であっても多量体であっても重合体であってもかまわない。ジアルキルスズオキシドは、一般にSn=Oといった二重結合は形成しないので、単量体では存在せず、下記式(7)で示すようなスズ−酸素−スズを介した重合体で存在していることが知られている。
【0031】
【化9】

(式(2)中、R7及びR8は、それぞれ、アルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。e及びfは0から2の整数であって、e+fは2である。)
【0032】
【化10】

(式(7)中、R9及びR10は、それぞれ上記R7及びR8と同じ定義であり、g及びhは上記e及びfと同じ定義である。nは2以上の整数を表す。)
上記式(2)又は(7)で示されるジアルキルスズオキシドの例としては、ジメチルスズオキシド、ジエチルスズオキシド、ジプロピルスズオキシド(各異性体)、ジブチルスズオキシド(各異性体)、ジペンチルスズオキシド(各異性体)、ジヘキシルスズオキシド(各異性体)、ジヘプチルスズオキシド(各異性体)、ジオクチルスズオキシド(各異性体)、ジビニルスズオキシド、ジアリルスズオキシド、ジシクロヘキシルスズオキシド、ジシクロオクチルスズオキシド、ビス(トリフルオロブチル)スズオキシド、ビス(ペンタフルオロブチル)スズオキシド、ビス(ヘプタフルオロブチル)スズオキシド、ビス(ナノフルオロブチル)スズオキシド、ジフェニルスズオキシド、ジベンジルスズオキシド、ジフェネチルスズオキシド、ジトリルスズオキシドなどが挙げられる。好ましい例としては、R7及びR8が、炭素数1〜12のアルキル基であるジアルキルスズオキシドである。炭素数が短い場合、生成物のアルキルスズアルコキシドが固形物になりやすく、炭素数が長い場合、生成物の流動性が低下する場合があるため、より好ましい例としては、R7及びR8が炭素数4〜8のアルキル基であるジアルキルスズオキシドである。上記式(2)で表されるジアルキルスズオキシドは一般的に多量体で存在することが知られており、上記式(1)では単量体構造のジアルキルスズオキシドを示しているが、多量体構造であっても会合体であってもかまわない。
【0033】
前記出発物質は、単量体、2量体、互いの会合体、多量体及び重合体からなる群より選択された少なくとも一種であることが好ましい。
【0034】
[反応物質]
次に反応物質であるヒドロキシ化合物について記述する。
【0035】
前記ヒドロキシ化合物は、下記化学式(3)で表されるアルコールであることが好ましい。
【0036】
【化11】

(式(3)中、R9は、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、直鎖状又は分岐状の炭素数5〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、直鎖状若しくは分岐状の炭素数2〜12のアルケニル基、又は炭素数7〜20のアラルキル基を表す。また、前記炭素数7〜20のアラルキル基は、無置換又は置換された炭素数6〜19のアリール基を有するアルキル基であり、該アルキル基は、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜14のアルキル基、及び炭素数5〜14のシクロアルキル基よりなる群から選ばれるアルキル基である。)
前記アルコールの例としては、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール及び炭素数5〜8のアルキルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコールが挙げられ、好ましくは1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、ペンタノール(各異性体)、ヘキサノール(各異性体)、シクロヘキサノールなどが挙げられる。これらのアルコールの中で、1−ブタノール及び2−メチル−1−プロパノールがより好ましい。
【0037】
[アルキルスズアルコキシド]
上記したジアルキルスズオキシド及び/又はテトラアルキル−ジアルコキシ−1,3−ジスタンオキサンと、ヒドロキシ化合物とを脱水反応することによって、アルキルスズアルコキシドが得られる。アルキルスズアルコキシドとしては、例えば、下記式(7)で表されるジアルキルスズアルコキシドが挙げられる。
【0038】
【化12】

(式(7)中、R10及びR11はそれぞれ出発物質に対応し、R12及びR13はそれぞれ出発物質及び反応物質に対応してR3、R6、R9から選ばれる。g及びhは出発物質に依存し、0から2の整数であって、g+hは2である。)
式(7)で示されるジアルキルスズアルコキシドの例としては、ジメチル−ジブトキシ−スズ(各異性体)、ジメチル−ビスペンチルオキシ−スズ(各異性体)、ジメチル−ビスヘキシルオキシ−スズ(各異性体)、ジブチル−ジブトキシ−スズ(各異性体)、ジブチル−ビスペンチルオキシ−スズ(各異性体)、ジブチル−ビスヘキシルオキシ−スズ(各異性体)、ジフェニル−ジブトキシ−スズ(各異性体)、ジフェニル−ビスペンチルオキシ−スズ(各異性体)、ジフェニル−ビスヘキシルオキシ−スズ(各異性体)、ジブトキシ−ビス−(トリフルオロ−ブチル)−スズ(各異性体)、ビスペンチルオキシビス−(トリフルオロブチル)−スズ(各異性体)、ビスヘキシルオキシ−ビス−(トリフルオロブチル)−スズ(各異性体)、ジブトキシ−ビス−(ペンタフルオロブチル)−スズ(各異性体)、ビスペンチルオキシビス−(ペンタフルオロブチル)−スズ(各異性体)、ビスヘキシルオキシ−ビス−(ペンタフルオロブチル)−スズ(各異性体)、ジブトキシ−ビス−(ヘプタフルオロブチル)−スズ(各異性体)、ビスペンチルオキシビス−(ヘプタフルオロブチル)−スズ(各異性体)、ビスヘキシルオキシ−ビス−(ヘプタフルオロブチル)−スズ(各異性体)、ジブトキシ−ビス−(ノナフルオロブチル)−スズ(各異性体)、ビスペンチルオキシビス−(ノナフルオロブチル)−スズ(各異性体)、ビスヘキシルオキシ−ビス−(ノナフルオロブチル)−スズ(各異性体)、ジオクチル−ジブトキシ−スズ(各異性体)、ジオクチル−ビスペンチルオキシ−スズ(各異性体)、ジオクチル−ビスヘキシルオキシ−スズ(各異性体)等のジアルキルスズアルコキシドなどが挙げられ、好ましい例としては、ジブチル−ジブトキシ−スズ(各異性体)、ジオクチル−ジブトキシ−スズ(各異性体)などが挙げられる。
【0039】
前述したように、出発物質と反応物質とを脱水反応し(下式(8)及び下式(9)の逐次脱水反応と推定している)、アルキルスズアルコキシドを製造する。
【0040】
【化13】

【0041】
【化14】

脱水反応後の生成物であるアルキルスズアルコキシドを含む反応液は過剰なヒドロキシ化合物を含んでおり、このヒドロキシ化合物を蒸発させ高濃度のアルキルスズアルコキシドを得る。過剰ヒドロキシ化合物を蒸発させる際に、場合によっては収率や純度が低下する場合がある。
【0042】
過剰ヒドロキシ化合物を蒸発させる方法として、薄膜蒸発装置を用いる方法によれば、アルキルスズアルコキシドの収率を高く保ちつつ過剰なヒドロキシ化合物を効率よく除去することができる。
【0043】
過剰なヒドロキシ化合物を除去する際に場合によっては得られたアルキルスズアルコキシドの収率が低下し、副反応から生成したトリアルキルスズ化合物などが製品に含まれたり、製品が著しく着色したりする場合がある。さらにこのようなアルキルスズアルコキシドを炭酸エステル合成に用いると、副生成物が多く発生する傾向にある。これら副反応や着色原因の詳細については明らかではないが、本実施の形態で述べた方法を用いると、これら課題を解決することができる。
【0044】
次に、本実施の形態において、アルキルスズアルコキシドを得る際の条件について述べる。アルキルスズアルコキシドは、前記したように、出発物質と反応物質とを脱水反応させることによって得られる。
【0045】
該脱水反応は平衡反応であって、生成物であるアルキルスズアルコキシドの生成速度、生成量は、出発物質と反応物質とのモル比に大きく依存する。該脱水反応をおこなう際の、出発物質に対する反応物質のモル比は、反応物質の種類によって異なるが、通常1〜1000倍、より好ましくは3〜100倍である。脱水反応は平衡反応であるため、出発物質のモル数に対して過剰の反応物質を使用した場合が一般に反応を早く進行させることができるが、大過剰の反応物質を使用した場合には、反応後の反応物質の留去に多大なエネルギーを必要とするので、上記範囲が好ましい。該反応温度は、反応物質の種類や反応圧力によって異なるが、通常50〜350℃である。高温では副反応が起こりやすくなり、一方、低温では反応が非常に遅いため、より好ましくは60〜200℃である。反応圧力についても反応物質の種類などによって異なり、減圧から加圧条件で行うことが可能であるが、好ましくは200Pa〜1MPaという圧力範囲で行う。効率よく反応系から水を除去するために、さらに好ましくは10kPa〜0.5MPaの範囲である。
【0046】
蒸発から発生した低沸成分は、他の反応器の中にある反応液と熱交換させることによって該反応液の蒸発を行うことができる。熱交換の際、流体の流れは向流であっても並流であってもかまわない。熱交換させる低沸成分は温度低下による熱損失を最小限にするために熱交換器までの配管を充分に断熱し、また熱交換の効率という観点から、低沸成分温度と熱交換を行う反応器の操作温度との差を10℃以上にすることが好ましく、より好ましくは15℃以上にする。さらに低沸成分の熱量を充分に回収するために熱交換器出口では70%以上の低沸成分が凝縮することが好ましい。
【0047】
上記したように、脱水反応は平衡反応と推定され、平衡を生成物側にずらしてアルキルスズアルコキシドを得る。即ち、反応液の中から水を除去してアルキルスズアルコキシドを得る。反応液中に例えば窒素やアルゴンなどの不活性ガスを流し、反応液からの水の除去を促すこともできる。不活性ガス中に水が含まれると、得られたアルキルスズアルコキシドを加水分解させ、収率低下を引き起こす場合があるので、不活性ガス中の水分量は0.05容量%以下、好ましくは0.005容量%以下とすることが好ましい。
【0048】
本実施の形態において、上述した脱水反応の反応装置として充填物を備えた蒸留塔を用いる。水を含む低沸点反応混合物はガス状で蒸留によって反応器から抜き出し、製造されるアルキルスズアルコキシド又はアルキルスズアルコキシド混合物を含む高沸点反応混合物を反応器下部から液状で抜き出す。上述した脱水反応の平衡を生成系側に効率的にずらすという点で、塔状の反応器を用いる方法とし、また形成される水を気相にすみやかに移動させられる気−液接触面積の大きな構造が好ましい。
【0049】
該充填物としては、公知のものを使用することができる。例えば、ラシヒリング、レッシングリング、ベルルサドル、インタロックスサドル、テラレット、ポールリング、ディクソンリング、マクマホンパッキング、フレキシリング、カスケードリングなどの各種不規則充填物または、メラパック、ジェムパック、モンツパック、スルザーパッキング、グッドロールパッキング、グリッチグリッド、パーフォームグリッドなどの各種規則充填物を好適に使用することができる。本実施の形態で使用する反応装置は比表面積1000m2/m3以上の充填物を充填した蒸留塔とする。
【0050】
上述した脱水反応の該反応器には、該出発物質と該反応物質とを供給するためのそれぞれのライン又は該出発物質と該反応物質の混合液を供給するためのライン、及び水を含む低沸点反応混合物を抜き出すためのライン、及び高沸点反応混合物を抜き出すためのラインを備えていることが好ましく、該水を含む低沸点反応混合物を抜き出すためのラインは、反応器中の気相成分を抜き出せる位置にあり、該高沸点反応混合物を抜き出すためのラインが下方にあることが特に好ましい。連続法を実施する場合、出発物質と反応物質とを反応器内に連続的に供給し、該反応器内において液相又は気−液相で両物質間の脱水反応を行わせると同時に、製造されるアルキルスズアルコキシドを含む高沸点反応混合物を該反応器の下方から液状で抜き出し、一方生成する水を含む低沸点反応混合物を蒸留によって該反応器からガス状で連続的に抜き出すことによりアルキルスズアルコキシドが製造される。
【0051】
また、不活性ガス及び/又は、気体状及び/又は液体状の反応物質を該反応器下方から供給するラインを別途取り付けてもよいし、生成した高沸点反応混合物の一部あるいは全部を再度反応器に循環させるラインを取り付けてもよい。反応器から抜き出した水を含む低沸点反応混合物などを蒸留塔など公知の方法も用いて精製し、共沸及び/又は同伴された反応物質などをリサイクル使用してかまわない。使用する原料によってはスラリー状であったり、常温(20℃)で固形であったり、粘度が高かったりする場合があるので、それぞれのラインは詰まり等を考慮したり、保温、冷却、加熱する設備を付加してもよい。
【0052】
本実施の形態において、アルキルスズアルコキシドを製造する際、本実施の形態の製造方法における条件を満足する反応器は1基用いてもよいし、又は2基以上組み合わせて用いても構わない。また本実施の形態の製造方法における条件を満足する反応器と他の反応器を組み合わせてアルキルスズアルコキシドを製造することも可能である。例えば、ジアルキルスズオキシドとアルコールとからバッチ反応で一部のみアルキルスズアルコキシドを製造し、その反応液を本実施の形態の製造方法における条件を満足する反応器を用いて反応させる方法等は、本実施の形態の製造方法の態様の一部である。
【0053】
本実施の形態で用いることのできる反応器の具体例について説明するが、本実施の形態で用いることのできる反応器は、これら具体例に限定されるものではない。前記反応器には、必要に応じて流量計、温度計などの計装機器、リボイラー、ポンプ、コンデンサー、蒸留塔などの公知のプロセス装置を付加してよく、前記反応器における加熱の方法は、スチーム、ヒーターなどの公知の方法でよく、前記反応器における冷却の方法も自然冷却、冷却水、ブライン等公知の方法が使用できる。
【0054】
本実施の形態で行われる脱水反応の反応時間(連続法の場合は滞留時間)は、特に制限はなく通常0.001〜50時間、好ましくは0.01 〜10時間、より好ましくは0.1〜2時間である。
【0055】
反応温度は、用いる原料化合物の種類によって異なるが、通常50〜350℃、好ましくは60〜200℃の範囲で行われる。反応温度を一定にする目的で、上記反応器に公知の冷却装置、加熱装置を設置してよい。また反応圧力は、用いる原料化合物の種類や反応温度などにより異なるが、減圧、常圧、加圧のいずれであってもよく、通常200Pa〜 1MPaの範囲で行われる。本実施の形態においては、必ずしも反応溶媒を使用する必要はないが、反応操作を容易にする等の目的で適当な不活性溶媒、例えば、エーテル類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類等を反応溶媒として用いることができる。
【0056】
使用する反応物質の量は、出発物質に対して過剰量であれば生成物側へ有利に進めることができるが、反応器から取り出したアルキルスズアルコキシドを含む液からアルキルスズアルコキシドの濃度を高めようとすれば、過剰の未反応のヒドロキシ化合物を留去しなければならないのでエネルギー効率が低くなる。逆に反応物質の量が少なければ、未反応の出発物質を多く回収することになる。従って出発物質と反応物質との比率は、出発物質中に含まれるスズ原子の合計モル数に対する、反応物質のモル数の比が1から1000の範囲であることが好ましいが、反応器底部から取り出されるジアルキルスズアルコキシドの濃度を高くしようとすれば、より好ましくは3から100である。
【0057】
本実施の形態では、系内から反応によって形成された水と生成したアルキルスズアルコキシドとを速やかに系外へ除去することができる。前記したように、本発明者らは従来のバッチ反応による方式では、形成された水が系内で速やかに生成したアルキルスズアルコキシドと逆反応してしまうことで生産性を損ねていると推定した。本実施の形態は、反応液中で形成された遊離水を速やかに気相へ移行させ、更に反応器から除去し、同時に生成したアルキルスズアルコキシドを系外へ抜き出して生産性を向上させることができる。該反応で形成された遊離水は、系内の気−液平衡によって反応液中から気相へ移動すると推定される。
【0058】
本実施の形態において、製造されたアルキルスズアルコキシドは、炭酸エステルを得る際の原料として、そのまま使用することもできるし、濃縮、希釈あるいはその他成分を添加して使用することができる。
【0059】
アルキルスズアルコキシドは、ジアルキル炭酸エステル、アルキルアリール炭酸エステル、ジアリール炭酸エステルなどの炭酸エステル類の製造触媒として知られており、本実施の形態において、製造されるアルキルスズアルコキシドは高純度、低コストであって、これらジアルキル炭酸エステル、アルキルアリール炭酸エステル、ジアリール炭酸エステルなどの炭酸エステル類を工業的に有利に製造できる。
【0060】
[炭酸エステルの製造工程]
上述した工程で分離されたアルキルスズアルコキシドと、二酸化炭素とを反応させて炭酸エステルを製造する工程について以下説明する。
【0061】
まず、炭酸エステルを製造する反応条件について記述する。反応条件は、80℃から200℃の範囲、好ましくは100℃から180℃の範囲であり、0.1時間から10時間の範囲、反応圧力は、1.5MPaから20MPa、好ましくは2.0MPaから10MPaの範囲で反応させることによって炭酸エステルを含む反応液を得ることができる。反応は、所望の炭酸エステルが反応器中に生成してから終了すればよい。反応器は公知の反応器が使用でき、塔型反応器、槽型反応器共に好ましく使用できる。反応器及びラインの材質は悪影響を及ぼさなければ、公知のどのようなものであってもよいが、SUS304やSUS316,SUS316Lなどが安価でもあり、好ましく使用できる。前記反応器には、必要に応じて、流量計、温度計などの計装機器、リボイラー、ポンプ、コンデンサーなどの公知のプロセス装置を付加してよく、前記反応器を加熱する方法は、スチーム、ヒーターなどの公知の方法でよく、前記反応器を冷却する方法も自然冷却、冷却水、ブライン等公知の方法が使用できる。
【0062】
上述のアルキルスズアルコキシドと炭酸ガスとの反応液から炭酸エステルを分離し、残留液を得る工程について記述する。分離方法はとして好ましい方法は薄膜蒸発装置又は薄膜蒸留装置による分離方法である。炭酸エステルの純度を高めるという目的で、蒸留塔を備えた薄膜蒸発装置、薄膜蒸留装置がさらに好ましい。好ましい分離方法は、該反応液を薄膜蒸発装置に供給し、炭酸エステルを気相成分として薄膜蒸発装置上部から系外へ分離し、残留液を液状成分として薄膜蒸発装置の底部から抜き出す方法である。蒸留塔を備えた薄膜蒸発装置の場合、気相成分として分離された炭酸エステルを蒸留塔に供給し、蒸留精製をおこなう。本工程の温度は該炭酸エステルの沸点や圧力にもよるが、常温(例えば、20℃)から200℃の範囲でよく、高温では残留液中のスズ化合物の変性が起こる場合や、炭酸エステルが逆反応によって減少してしまう場合もあるので常温(例えば、20℃)から150℃の範囲が好ましい。圧力は、炭酸エステルの種類や、実施する温度にもよるが、通常常圧から減圧の範囲であり、生産性を考慮すれば、10Paから80kPaの範囲が好ましく、100Paから50kPaがより好ましい範囲である。時間は、0.01時間から10時間の範囲で実施でき、高温で、長時間で実施すると、該反応液に含まれるスズ化合物が変性する場合や、炭酸エステルが逆反応によって減少する場合もあるため、0.01時間から0.5時間の範囲が好ましく、0.01時間から0.3時間の範囲がより好ましい。蒸留装置及びラインの材質は悪影響を及ぼさなければ、公知のどのようなものであってもよいが、SUS304やSUS316,SUS316Lなどが安価でもあり、好ましく使用できる。前記蒸留装置には、必要に応じて、流量計、温度計などの計装機器、リボイラー、ポンプ、コンデンサーなどの公知のプロセス装置を付加してよく、前記蒸留装置を加熱する方法はスチーム、ヒーターなどの公知の方法でよく、前記蒸留装置を冷却する方法も自然冷却、冷却水、ブライン等公知の方法が使用できる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定され
るものではない。
【0064】
<分析方法>
1)NMR分析方法
装置:日本国、日本電子(株)社製JNM−A400 FT-NMRシステム
(1)1H−NMR、13C−NMR、及び119Sn−NMR分析サンプルの調製
試料を約0.3g秤量し、重クロロホルム(アルドリッチ社製、99.8%)を約0.7g、及び119Sn−NMR内部標準としてテトラメチルスズ(和光社製、和光一級)を約0.05g加えて均一に混ぜた溶液をNMR分析サンプルとした。
【0065】
2)水の分析方法
装置:日本国、三菱化学(株)社製CA−05微量水分計
(1)定量分析法
分析サンプルを、シリンジを用いて0.12ml採取し、分析サンプル及びシリンジの合計重量を測った。その後、当該シリンジから分析サンプルを水分計に注入し、水の定量を行った。次に、サンプル注入後のシリンジの重量を測った。サンプル注入前後のシリンジの重量からサンプル注入量を算出した。そして、当該サンプル注入量及び前記定量した水の量から、前記サンプル中の水含有量を求めた。
【0066】
3)炭酸エステルのガスクロマトグラフィー分析法
装置:日本国、(株)島津製作所製GC−2010システム
(1)分析サンプル溶液の作成
反応溶液を0.4g計り取り、該反応溶液に、脱水されたジメチルホルムアミド又はアセトニトリルを約0.5ml加えた。さらに内部標準としてトルエン又はジフェニルエーテル約0.04gを加えて、ガスクロマトグラフィー分析サンプル溶液とした。
【0067】
(2)ガスクロマトグラフィー分析条件
カラム:DB−1(米国、J&W Scientific社製)
液相:100%ジメチルポリシロキサン
長さ:30m
内径:0.25mm
フィルム厚さ:1μm
カラム温度:50℃(10℃/minで昇温)300℃
インジェクション温度:300℃
検出器温度:300℃
検出法:FID
(3)定量分析法
各標準物質の標準サンプルについて分析を実施し作成した検量線を基に、分析サンプル溶液の定量分析を実施した。
【0068】
4)ジアルキルスズアルコキシドの収率計算方法
ジアルキルスズアルコキシドの収率は、出発原料(化学式(1)及び/又は化学式(2)で表す化合物)のスズ原子のモル数に対して、得られた各ジアルキルスズアルコキシド(化学式(7)及びで表す化合物)のスズ原子モル数の生成モル%で求めた。
【0069】
5)炭酸エステル中の金属成分の分析方法
試料溶液を採取し、王水による前処理を行い、その後、下記装置によりICP分析を実施し、炭酸エステル中の金属濃度を求めた。
【0070】
分析装置:RIGAKU社製 JY−138ULTRACE高周波誘導結合型プラズマ発光分析計(ICP)システム
[製造例1]
工程A(出発物質「1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ビス(2−メチル−1−プロピルオキシ)―ジスタンオキサン」の製造)
容積3000mLのなす型フラスコに、ジブチルスズオキシド(米国、アルドリッチ社製)759g(3.05mol)及び2−メチル−1−プロパノール(日本国、和光社製)1960g(26.5mol)を入れた。白色スラリー状の該混合物を入れたフラスコを、温度調節器のついたオイルバス(日本国、増田理化工業社製、OBH−24)と真空ポンプ(日本国、ULVAC社製、G−50A)と真空コントローラー(日本国、岡野製作所社製、VC−10S)とを接続したエバポレーター(日本国、柴田社製、R−144)に取り付けた。前記エバポレーターのパージバルブ出口は常圧で流れている窒素ガスのラインと接続した。
【0071】
前記エバポレーターのパージバルブを閉め、系内の減圧を行った後、パージバルブを徐々に開き、系内に窒素を流し、常圧に戻した。前記オイルバス温度を127℃に設定し、前記フラスコを前記オイルバスに浸漬してエバポレーターの回転を開始した。前記エバポレーターのパージバルブを開放したまま、該エバポレーターに取り付けたフラスコを、常圧で約40分間回転攪拌し加熱した。その後、前記フラスコ内の混合液が沸騰し、低沸成分の蒸留が始まった。この状態を7時間保った後、前記エバポレーターのパージバルブを閉め、系内を徐々に減圧し、系内の圧力が76〜54kPaの状態で残存低沸成分を蒸留した。低沸成分が出なくなった後、前記フラスコをオイルバスからあげた。該フラスコ中の反応液は透明な液になっていた。留去した液は1737gであり、透明で、2層に分離していた。留去した液を分析したところ約27.6gの水を含んでいた。前記フラスコをオイルバスからあげた後、パージバルブを徐々に開き系内の圧力を常圧に戻した。前記フラスコ中に、反応液958gを得た。該反応液について、上記のとおり119Sn−NMR、1H−NMR、13C−NMR分析を行ったところ、生成物1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ビス(2−メチル−1−プロピルオキシ)―ジスタンオキサンが、ジブチルスズオキシド基準で、収率99%で得られたことがわかった。
【0072】
上述した同様な操作を6回繰り返し、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ビス(2−メチル−1−プロピルオキシ)―ジスタンオキサンを合計5748g得た。
【0073】
[実施例1]
工程1(塔型反応器でジブチルスズジアルコキシドを製造する工程)
図1に示すような連続反応装置において、以下のとおりジブチルスズアルコキシドを製造した。
【0074】
供給ライン2、供給ライン4、熱交換器112、低沸成分回収ライン6、及び抜き出しライン5を取り付けた内径50mm、全長4000mmのSUS316製の蒸留塔102(反応器)に、充填物としてGOODROLL Type A(比表面積1500m2/m3)を充填した。該蒸留塔102内の温度をヒーターで温調し、140℃に設定した。また、前記蒸留塔102(反応器)の下部に滞留する反応液を循環させるためにケミカルギアポンプを用いた。
【0075】
蒸留塔102に、供給ライン4から、製造例1で得られた出発物質「1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ビス(2−メチル−1−プロピルオキシ)―ジスタンオキサン」を210g/Hrで供給を開始し、供給ライン2から、反応物質「2−メチル−1−プロパノール」を951g/Hrでギアポンプを送液ポンプとして用いて供給を開始した。該蒸留塔102内の反応液の滞留時間は約30分であった。
【0076】
上記のようにしてジブチルスズアルコキシドを含む反応液を得た。
【0077】
工程2(過剰なアルコールを分離する工程)
工程1で得られたジブチルスズアルコキシドを含む反応液を、薄膜蒸発装置103(日本国、神鋼環境ソリューション社製)に、送液ポンプを用いて807g/Hrで抜き出しライン5から供給した。薄膜蒸発装置103内は、110℃、約8.5kPaに設定した。薄膜蒸発装置103において、2−メチル−1−プロパノールを含む揮発成分を留去し、ジブチルスズアルコキシドを含む非揮発成分を薄膜蒸発装置103の底部から回収し、後述の工程3を行うオートクレーブ104に移送した。2−メチル−1−プロパノールを含む揮発成分は凝縮器123で液化した後、移送ライン8より蒸留塔102に循環させた。
【0078】
工程3(ジアルキルスズアルコキシドから炭酸エステルを得る工程)
工程2で得られたジブチルスズアルコキシドを含む非揮発成分を、移送ライン7より241g/Hrで990mlオートクレーブ(日本国、東洋高圧社製)104に供給した。SUSチューブとバルブとを介してオートクレーブ104に接続された二酸化炭素のボンベの2次圧を4MPaに設定した。その後、前記バルブを開け、マスフローコントローラー(日本国、オーバル社製)と供給ライン9とを用いてオートクレーブ104へ二酸化炭素を28g/Hrで供給した。オートクレーブ104内の温度を120℃まで昇温し、ジブチルスズアルコキシドと二酸化炭素とを反応させ、炭酸エステル(炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル))を得た。オートクレーブ104における反応液の滞留時間は約1時間であった。
【0079】
工程4(炭酸エステルを分離する工程)
工程3で得られた炭酸エステル(炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル))を含む反応液を、バルブと移送ライン10とを介して除炭槽105に移送し常圧に戻した。その後、該反応液を、薄膜蒸留装置106(日本国、神鋼環境ソリューション社製)に送液ポンプを用いて267g/Hrで供給した。薄膜蒸留装置106は、130℃、約1.3kPaに設定した。
【0080】
薄膜蒸留装置106において、炭酸エステル(炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル))を含む揮発成分を留去し、非揮発成分を移送ライン13から回収し、蒸留塔102に循環させた。
【0081】
この炭酸エステル(炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル))を含む揮発成分を、移送ライン14より連続多段蒸留塔107の中段に約202g/Hrで供給した。連続多段蒸留塔107は、内径50mm、塔長2000mmであり、ディクソンパッキング(6mmφ)を充填したものとした。連続多段蒸留塔107において、蒸留分離を行った。連続多段蒸留塔107の塔頂から得られる成分を冷却した液は、炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル)と2−メチル−1−プロパノールとの混合液であった。該混合液中の炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル)の含有量は99質量%であった。この混合液について、ICP分析した結果、スズ化合物は検出されなかった。
【0082】
一方、薄膜蒸留装置106における非揮発成分について、上記のとおり119Sn−NMR、1H−NMR、13C−NMRの分析したところ、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ビス(ブチルオキシ)−ジスタンオキサンを含有していて、ジブチル−ビス(2−メチル−1−プロピルオキシ)スズを含有していないことがわかった。
【0083】
工程4の薄膜蒸留装置106で回収した非揮発成分に含有する1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ビス(2−メチル−1−プロピルオキシ)―ジスタンオキサンを、移送ライン13と、送液ポンプとしてケミカルギアポンプとを用いて蒸留塔102に戻し、工程1を繰り返した。
【0084】
上記の状態で約10時間連続供給した後、系内が定常状態に達し、工程1における蒸留塔102内の温度は140℃で圧力は0.096MPa・Gであった。蒸留塔102上部から、水を含む2−メチル−1−プロパノールを、低沸成分回収ライン6を介して回収し、蒸留塔101に753g/Hrで移送した。蒸留塔101において、水の分離回収を行った。一方で、蒸留塔102下部から、ジブチルスズアルコキシドを含む成分を抜き出し、ライン5から807g/Hrで回収した。回収した液を分析すると、ジブチルスズオキシド基準で、収率85%のジブチル−ビス(2−メチル−1−プロピルオキシ)スズと、収率15%の1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ビス(2−メチル−1−プロピルオキシ)―ジスタンオキサンからなるジブチルスズアルコキシドとを含んでいることがわかった。また工程4から得た炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル)の量は、約72g/Hrであった。得られた炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル)について、ICP分析を行った結果、スズ化合物を含んでいないことがわかった。上記連続運転をさらに100hr継続し、工程4から炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル)を、平均で73g/Hrで、安定的に製造することができた。
【0085】
[実施例2]
工程1で用いる充填塔に、充填物としてHelipack No.3(比表面積1900m2/m3)を充填した以外は、実施例1と同様にして、図1に示す連続反応装置を用いて、工程1〜4を連続的に実施し、炭酸エステルを製造した。
【0086】
当該炭酸エステルの製造を、約10hr実施した後、定常運転に達した。蒸留塔102下部からのジブチルスズアルコキシドを含む成分を、実施例1と同様にして分析すると、ジブチルスズオキシド基準で、収率87%のジブチル−ビス(2−メチル−1−プロピルオキシ)スズと、収率13%の1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ビス(2−メチル−1−プロピルオキシ)−ジスタンオキサンからなるジブチルスズアルコキシドとを含んでいることがわかった。工程4から得た炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル)の量は、約70g/Hrであった。得られた炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル)について、ICP分析を行った結果、スズ化合物を含んでいないことがわかった。
【0087】
[比較例1]
図2に示す連続反応装置を用い、工程2における薄膜蒸発装置の代わりに充填物を備えた充填塔を使用した以外は、実施例1と同様にして、工程1〜4を連続的に実施し、炭酸エステルを製造した。
【0088】
当該炭酸エステルの製造を、約10hr実施した後、工程4から得た炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル)の量は、約40g/Hrであった。得られた炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル)について、ICP分析を行った結果、スズ化合物を約500ppm含んでいることがわかった。
【0089】
[比較例2]
工程1で用いる充填塔に、充填物としてMetal Gauze BX(比表面積500m2/m3)を充填した以外は、実施例1と同様にして、図1に示す連続反応装置を用いて、工程1〜4を連続的に実施し、炭酸エステルを製造した。
【0090】
当該炭酸エステルの製造を、約10hr実施した後、工程4から得た炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル)の量は、約20g/Hrであった。得られた炭酸ビス(2−メチル−1−プロピル)について、ICP分析を行った結果、スズ化合物を含んでいないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の炭酸エステルの製造方法は、高い収率でジアルキルスズアルコキシドを製造でき、さらに高純度の炭酸エステルを安定的に製造することができ、産業上に大いに有用である。
【符号の説明】
【0092】
1 供給ライン
2 供給ライン
3 回収ライン
4 供給ライン
5 抜き出しライン
6 低沸点成分回収ライン
7 移送ライン
8 移送ライン
9 供給ライン
10 移送ライン
11 パージライン
12 移送ライン
13 移送ライン
14 移送ライン
15 回収ライン
16 抜き出しライン
17 供給ライン
101 蒸留塔
102 蒸留塔
103 薄膜蒸発装置(図1)、充填物を備えた充填塔(図2)
104 オートクレーブ
105 除炭槽
106 薄膜蒸留装置
107 連続多段蒸留塔
111 熱交換器
112 熱交換器
117 熱交換器
121 凝縮器
123 凝縮器
126 冷却器
127 凝縮器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発物質として、テトラアルキル−ジアルコキシ−1,3−ジスタンオキサン及び/又はスズ−酸素−スズ結合を有する重合体であるジアルキルスズオキシドと、反応物質として、ヒドロキシ化合物とを蒸留塔に連続的に供給して脱水反応させ、前記蒸留塔から、低沸点成分と、アルキルスズアルコキシド及びヒドロキシ化合物を含む反応液と、を連続的に取り出す工程と、
前記工程で得られた反応液を、薄膜蒸発装置に供給し、前記アルキルスズアルコキシドと前記ヒドロキシ化合物とを分離する工程と、
前記工程で分離されたアルキルスズアルコキシドと、二酸化炭素とを反応させて炭酸エステルを得る工程と、を含む炭酸エステルの製造方法であって、
前記蒸留塔が、比表面積1000m2/m3以上の充填物を充填している、炭酸エステルの製造方法。
【請求項2】
該テトラアルキル−ジアルコキシ−1,3−ジスタンオキサンが、下記化学式(1)で表される化合物である、請求項1記載の炭酸エステルの製造方法。
【化1】

(式(1)中、R1、R2、R4及びR5は、それぞれ、アルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。R3及びR6は、それぞれアルキル基、アラルキル基である。a及びbは0から2の整数であって、a+bは2であり、c及びdは0から2の整数であって、c+dは2である。)
【請求項3】
該ジアルキルスズオキシドが、下記化学式(2)で表されるジアルキルスズオキシドの重合体である、請求項1又は2に記載の炭酸エステルの製造方法。
【化2】

(式(2)中、R7及びR8は、それぞれ、アルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。e及びfは0から2の整数であって、e+fは2である。)
【請求項4】
該出発物質が、単量体、2量体、互いの会合体、多量体及び重合体からなる群より選択された少なくとも一種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項5】
前記ヒドロキシ化合物が、下記化学式(3)で表されるアルコールである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【化3】

(式(3)中、R9は、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、直鎖状若しくは分岐状の炭素数5〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、直鎖状若しくは分岐状の炭素数2〜12のアルケニル基、又は炭素数7〜20のアラルキル基を表す。また、前記炭素数7〜20のアラルキル基は、無置換又は置換された炭素数6〜19のアリール基を有するアルキル基であり、該アルキル基は、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜14のアルキル基、及び炭素数5〜14のシクロアルキル基よりなる群から選ばれるアルキル基である。)
【請求項6】
該アルコールが、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール及び炭素数5〜8のアルキルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコールである、請求項5に記載の炭酸エステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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