説明

炭酸カルシウム含有物質の水性懸濁液への添加剤としての2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの使用

少なくとも1種の炭酸カルシウム含有物質を25から62体積%含有する水性懸濁液への添加剤としての2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの使用であり、この使用により懸濁液の伝導度についての安定性が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウム含有物質の水性懸濁液およびこれに添加される添加剤の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウム含有物質の水性懸濁液の調製では、この懸濁液の特性の1種以上を調整する目的で、添加剤を選択して導入する必要があることが多い。
【0003】
この添加剤選択において、当業者は、添加剤を添加しても経済的であることに変わりはなく、添加剤が生産下流でのこの懸濁液の輸送、加工および使用において望ましくない相互作用または悪影響を及ぼしてはならないことを念頭に置く必要がある。
【0004】
当業者がこれまでほとんど取り組んでこなかった検討材料の中で、本発明者がその重要性を認識しているものは、炭酸カルシウム含有物質懸濁液の電気伝導度に大幅な変化をもたらすことのない、つまり増加させることのない添加剤の選択である。
【0005】
実際、懸濁液の電気伝導度の測定に基づいて、このような懸濁液の加工および輸送の態様を調節することは有利であり得る。
【0006】
例えば、所定の経路または単位を通じたこのような懸濁液の流速は、懸濁液伝導度からなる測定に従って制御することができる。Klausner F et al.による表題「A Conductance Based Solids Concentration Sensor for Large Diameter Slurry Pipelines」(J.Fluids Eng./Volume 122/Issue 4/Technical Papers)という論文には、所定の直径のパイプラインを通過するスラリーの固形分濃度を伝導率測定に基づいて測定する装置が記載されている。こうした伝導率測定に基づいて、面積平均濃度履歴だけでなく、管の先端から末端までのスラリー濃度の変異を示すグラフ表示を得ることが可能である。
【0007】
容器の充填度合いも同様に、容器壁に沿って所定の高さで伝導度を検出することにより管理することができる。
【0008】
しかしながら、電気伝導度の測定に基づくこのような調節システムを有効利用しようとすると、当業者は1つ以上の機能を与えるのに必要であるが同時に電気伝導度の値に大幅な変化をもたらすことのない添加剤を選択するという難問に直面する。
【0009】
炭酸カルシウム含有物質懸濁液に用いられる添加剤の機能の1つは、懸濁液の酸性化、中和、またはアルカリ化のいずれかに関わらず懸濁液pHの調節である。
【0010】
懸濁液が導入される利用環境のpHと一致させるのに、またはpHに敏感な添加剤を添加するための調製において、懸濁液アルカリ化は、特に必要である。pHを上げる段階は、懸濁液の消毒、または消毒の補助にも役立つ。pHの調節は、加工中に炭酸カルシウムが酸性環境と接触することで望ましくない溶解を起こすのを回避するためにも必要となり得る。
【0011】
炭酸カルシウム含有物質の水性懸濁液懸濁液に用いられ、当業者が入手可能であるこのようなpH調節添加剤は数多く存在する。
【0012】
炭酸カルシウム含有物質の水性懸濁液のpHを上げるのに用いることができる添加剤の第一のグループは、水酸化物イオン含有添加剤のグループであり、特にアルカリおよびアルカリ土類金属水酸化物がある。
【0013】
例えば、US6,991,705は、アルカリ金属水酸化物供給(水酸化ナトリウム供給など)と二酸化炭素供給を組み合わせることによる、パルプ懸濁液(これは炭酸カルシウムを含んでいてもよい。)のアルカリ度の上昇を記載している。
【0014】
このような添加剤としてその他には、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化アンモニウムが、EP1795502に記載されるとおり、PCC懸濁液のpHを10から13の範囲で制御するのに用いられるものである。
【0015】
WO98/49261には、pH7から13の研磨洗浄液組成物が記載されている。この組成物は、懸濁液系を形成する1種以上の界面活性剤、1種以上の懸濁した研磨剤、C2−C6アルカノールアミンおよび炭化水素系共溶媒を含むものである。
【0016】
WO98/56988は、パルプ懸濁液のpHを緩衝剤で安定化させる方法および安定化したパルプ懸濁液から紙を製造する方法に関する。パルプ懸濁液のアルカリ度は、アルカリ金属水酸化物供給と二酸化炭素供給の組み合わせにより上昇する。
【0017】
炭酸カルシウム含有物質の水性懸濁液のpHを上げるのに用いることができる添加剤の第二のグループは、水酸化物イオンを含有しないが水と反応することで水酸化物イオンを生成する添加剤である。
【0018】
このような添加剤は、弱酸の塩(ナトリウム塩など)であり得る。この種の添加剤の例として、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウムおよびリン酸アルカリ塩(例えば、トリポリリン酸塩、オルトリン酸のナトリウムおよび/またはカリウム塩など)が挙げられる。
【0019】
さらには、炭酸カルシウム含有物質懸濁液のpHを上げる目的で、例えば、アンモニア、アミンおよびアミドをはじめとする窒素系添加剤を用いることも可能である。
【0020】
特に、窒素系添加剤として、第一級、第二級および第三級のアミン類を挙げることができる。懸濁液のpHを上げるのに用いられるアルカノールアミンとして、例えば、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)およびメチルアミノエタノール(MAE)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第6,991,705号明細書
【特許文献2】欧州特許第1795502号明細書
【特許文献3】国際公開第98/49261号
【特許文献4】国際公開第98/56988号
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Klausner F et al.,「A Conductance Based Solids Concentration Sensor for Large Diameter Slurry Pipelines」(J.Fluids Eng./Volume 122/Issue 4/Technical Papers)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上記の添加剤は全て、共通の機構、即ち水と反応することで懸濁液に水酸化物イオンを提供するか生成させることにより水性懸濁液のpHを上げる。
【0024】
文献から、アルカリ性条件下で水酸化物イオン濃度を上昇させると、これに並行して伝導度も上昇することが知られている(「Analytikum」,5th Edition,1981,VEB Deutscher Verlag fur Grundstoffindustrie,Leipzig,page 185−186 referring to「Konduktometrische Titration」)。
【0025】
本明細書中以下の実施例セクションで示されるとおりのアルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物ならびにアミン(トリエタノールアミンなど)が炭酸カルシウム含有物質の水性懸濁液のpHを上げるのと並行して伝導度を大幅に上昇させるという補強証拠と合わせて、文献に記載される上記の一般知識を考えると、ある特定のpH調節剤が、こうした添加剤と同じ機構、即ち懸濁液に水酸化物イオンの導入をもたらすことにより懸濁液pHを上げながらも伝導度の上昇を最小限にしか引き起こさないことは、当業者にはまったく予測し得ないものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
従って、2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールが、pH8.5から11を有し、少なくとも1種の炭酸カルシウム含有物質を25から62体積%含有する水性懸濁液に対して、懸濁液伝導度を100μS/cm/pΗ単位内に維持しながら懸濁液pHを少なくとも0.3pH単位上げる添加剤として利用できると本出願人が同定したことはまったく驚くべきことであり、pHを上げるのに用いられる一般的な添加剤に基づく予想とはまったく反対のものであった。
【0027】
従って、本発明の第一の態様は、懸濁液の全体積を基準として25から62体積%の少なくとも1種の炭酸カルシウム含有物質を含有し、pHが8.5から11である水性懸濁液に対して、懸濁液pHを少なくとも0.3pH単位上げるが、懸濁液伝導度変化はpH単位あたり100μS/cm以下である、添加剤としての2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノール
【0028】
【化1】

の使用に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明による「伝導度」とは、本明細書中以下の実施例セクションで定義される測定方法に従って測定されるとおりの、炭酸塩含有物質水性懸濁液の電気伝導度を意味するものとする。
【0030】
本発明の目的のため、pHは、本明細書中以下の実施例セクションで定義される測定方法に従って測定されるものとする。
【0031】
懸濁液中の固形物の体積割合(体積%)は、本明細書中以下の実施例セクションで定義される方法に従って求められる。
【0032】
好適な実施形態において、2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノール添加剤は、水性溶液として、炭酸カルシウム含有物質に添加される。
【0033】
別の好適な実施形態において、2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノール添加剤は、2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールに関して90%超、好ましくは95%超、より好ましくは99%超の化学純度を有する。
【0034】
好適な実施形態において、懸濁液は、2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールを添加する前に、700から2000μS/cm、好ましくは800から1300μS/cmの伝導度を有する。
【0035】
別の好適な実施形態において、2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの添加後、懸濁液伝導度の変化は、pH単位あたり70μS/cm以下、好ましくはpH単位あたり50μS/cm以下である。
【0036】
別の好適な実施形態において2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの添加後、懸濁液伝導度の変化は、10%を超えず、好ましくは6%を超えず、より好ましくは3%を超えない。
【0037】
別の好適な実施形態において、2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールを添加する前、懸濁液はpHが9から10.3である。
【0038】
別の好適な実施形態において、2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールは、水性懸濁液のpHを少なくとも0.4pH単位上げる量で、懸濁液に添加される。
【0039】
2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの添加前の懸濁液pHが8.5から9の場合、この2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールは、好ましくは、懸濁液のpHを少なくとも1.0pH単位上げる量でこの懸濁液に添加される。2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの添加前の懸濁液pHが9から10の場合、この2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールは、好ましくは、水性懸濁液のpHを少なくとも0.7pH単位上げる量でこの懸濁液に添加される。
【0040】
2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの添加前、懸濁液の温度は、好ましくは5から100℃、より好ましくは35から85℃、さらにより好ましくは45から75℃である。
【0041】
好適な実施形態において、2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールは、懸濁液の水相1リットル当たり、500から15000mg、好ましくは1000から5000mg、より好ましくは1300から2000mgの量で、懸濁液に添加される。
【0042】
懸濁液に含まれる炭酸カルシウム含有物質に関して、この物質は、炭酸カルシウムを、この炭酸カルシウム含有物質の合計等価乾燥重量に対して、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも98重量%の割合で含む。
【0043】
炭酸カルシウム含有物質の炭酸カルシウムは、沈降炭酸カルシウム(PCC)でも、天然重質炭酸カルシウム(NGCC)でも、表面反応炭酸カルシウム(SRCC)でも、これらの混合物でもよい。
【0044】
表面反応炭酸カルシウムとは、炭酸カルシウムと酸および二酸化炭素との反応生成物を示すものとする。この二酸化炭素は酸処理により系中で形成される、および/または、外部から供給されるものである。表面で反応した天然の炭酸カルシウムは、20℃で測定して6.0より高いpHを有する水性懸濁液の形で調製される。このような生成物は、複数の文献に記載があるが、中でもWO00/39222、WO2004/083316およびEP2070991に記載され、これらの参照の内容は本出願に含められる。
【0045】
好適な実施形態において、懸濁液は、炭酸カルシウム含有物質を、この懸濁液の全体積を基準にして、45から60体積%、好ましくは48から58体積%、より好ましくは49から57体積%含有する。
【0046】
別の好適な実施形態において、2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールは、懸濁液中の炭酸カルシウム含有物質を粉砕する段階の前、中、または後に、好ましくは後に添加される。
【0047】
2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールを乾燥形態の炭酸カルシウム含有物質に添加し、好ましくは一緒に乾式粉砕してから炭酸カルシウム含有物質の懸濁液を形成することも有利であり得る。
【0048】
2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールを懸濁液に添加した後、懸濁液を、伝導度に基づく調節装置を備えたユニットに導入することができる。
【0049】
例えば、懸濁液伝導度を測定することで、懸濁液を定められた高さまで容器またはユニットに導入することができる。
【0050】
懸濁液は、追加でまたは代替で、懸濁液伝導度の関数として調節される懸濁液スループットを有する経路を通過させることができる。
【0051】
これに関して、「経路」は、限定のどのような定義もないスループット、即ち工程の1つの経路後だけでなく、スループットの限定された領域を示すことも可能である。
【0052】
本発明の上記実施形態は、互いに組み合わせて用いることが可能であり、また互いに組み合わせて用いることを意図していることが理解されるはずである。
【0053】
上記の2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの使用の利点を考慮して、本発明のさらなる態様は、少なくとも1種の炭酸カルシウム含有物質を25から62体積%含有し、pHが8.5から11の範囲にある水性懸濁液のpHを上げる方法に関し、この方法は、2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールを、懸濁液pHが少なくとも0.3pH単位、好ましくは少なくとも0.5または少なくとも0.7pH単位上がるが、同時に、2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの添加により引き起こされる懸濁液伝導度変化がpH単位あたり100μS/cm以下、好ましくはpH単位あたり50μS/cm以下、より好ましくはpH単位あたり20μS/cm以下であるような量で、懸濁液に添加する段階を含む。
【0054】
本発明の2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの使用に関する上記の有利な実施形態は、本発明の方法にも応用され得ることが理解されるはずである。即ち、上記の好適な実施形態およびこれらの任意の組み合わせは、本発明の方法にも応用され得る。
【0055】
本発明の範囲および対象は、以下の実施例に基づいてよりよく理解される。実施例は、本発明の特定の実施形態を例示するためのものであって制限するものではない。
【実施例】
【0056】
測定法:
懸濁液pHの測定
懸濁液のpHは、Mettler Toledo Seven Easy pH測定器およびMettler Toledo InLab(登録商標)Expert Pro pH電極を用いて、25℃で測定する。
【0057】
20℃でpH値がそれぞれ4、7および10である市販の緩衝液(Aldrich製)を用いて、装置の3点較正(セグメント方式で)を最初に行う。
【0058】
報告されるpH値は、装置により検出されるエンドポイントの値である(エンドポイントは、測定値と平均との差が0.1mV未満になって6秒間これが続いたときをいう。)。
【0059】
懸濁液伝導度の測定
懸濁液の伝導度は、pendraulik歯付円盤撹拌器を用いてこの懸濁液を1500rpmで撹拌し、続いて直接、対応するMettler Toledo伝導度拡張ユニットおよびMettler Toledo InLab(登録商標)730伝導度プローブを備えたMettler Toledo Seven Multi装置を用い25℃で測定する。
【0060】
装置は、Mettler Toledoから販売されている伝導度較正液を用い、関連する伝導度範囲で、較正を最初に行う。伝導度への温度の影響は、装置の線形補正モードで自動的に補正される。
【0061】
測定された伝導度は、20℃の基準温度について報告される。報告される伝導度の値は、装置により検出されるエンドポイントの値である(エンドポイントは、測定値と平均との差が0.4%未満になって6秒間これが続いたときをいう。)。
【0062】
粒子状物質の、粒子径分布(径がX未満の粒子の質量%)および重量メジアン粒径(d50
粒子状物質の重量メジアン粒径および粒径質量分布は、沈降法、即ち重量測定場での沈降挙動の分析により求められる。測定は、Sedigraph(商標)5100を用いて行う。
【0063】
測定方法および装置は、当業者に既知であり、充填剤および顔料の粒子の大きさを求めるのに一般的に用いられる。測定は、0.1重量%Na水溶液で行われる。試料は、高速撹拌器および超音波を用いて分散させた。
【0064】
粘度の測定
RVT型Brookfield(商標)粘度計に、室温で適切なディスクスピンドル2、3、または4を用い、室温で100rpm(毎分回転数)の回転速度にて1分間撹拌した後、Brookfield粘度を測定する。
【0065】
懸濁液中の物質の固形分体積(体積%)
固形分体積は、固形物の体積を水性懸濁液の全体積で割ることで求める。
【0066】
固形物の体積は、懸濁液の水相を蒸発させ、得られた物質を120℃で一定重量になるまで乾燥させることで得られる固形物の重量を測定し、この重量価を固形物の比重で割って容積価に変換することで求められる。
【0067】
本明細書中以下の実施例は、本質的に炭酸カルシウムのみからなる物質を用い、上記の固形分体積計算の目的で、「Handbook of Chemistry and Physics」(CRC Press;60th edition)に記載される天然の方解石の比重値に基づいて、比重値として2.7g/mlを用いた。
【0068】
懸濁液中の物質の固形分重量(重量%)
固形分重量は、固形物の重量を水性懸濁液の全重量で割ることで求める。
【0069】
固形物質の重量は、懸濁液の水相を蒸発させ、得られた物質を一定重量になるまで乾燥させることで得られる固形物質の重量を測定して求める。
【0070】
懸濁液の水相1リットル当たりの添加剤添加量(mg)
懸濁液の水相1リットル当たりの添加剤の量を見積もる目的で、懸濁液の全体積から固相の体積(上記の固形分体積の求め方を参照)を差し引くことで水相の体積(リットル)を最初に求める。
【0071】
実施例1
この実施例は、ノルウェー産大理石由来の天然の炭酸カルシウムを用いるが、この炭酸カルシウムは、最初に10から300mmの炭酸カルシウム岩石を乾式自己粉砕して42から48μmのd50に相当する粉末度にし、続いて乾式粉砕産物を、1.4リットル縦型ビーズミル(Dynomill)にて5から15重量%の固形分重量で0.6から1mmのケイ酸ジルコニウムビーズを用い水で湿式粉砕し、粒子の95重量%が直径2μm未満、粒子の75重量%が直径1μm未満、粒子の8重量%が直径0.2μm未満であり、d50が0.61μmとなるまでこの粉砕を行うことで得られるものである。粉砕工程中、分散助剤も粉砕助剤も添加しない。
【0072】
次いで、得られた懸濁液をフィルタープレスして濃縮し、固形分体積が約45体積%のフィルターケーキとする。続いて、それぞれ固形分重量基準で、50モル%がナトリウムで中和されているポリアクリル酸(Mw≒12000g/mol、Mn≒5000g/mol)0.45重量%およびリン酸二水素ナトリウム0.20重量%を添加してから熱濃縮することで、固形分体積が約50体積%の懸濁液とする。
【0073】
この懸濁液0.4kgを、直径8cmの1リットルビーカーに入れる。pendraulik歯付円盤撹拌器を、撹拌円盤がビーカーの底から約1cm上にあるようにビーカーに入れる。測定された懸濁液伝導度およびpHの初期値を以下の表に示す。
【0074】
5000rpmで撹拌しながら、以下の表に記載の試験ごとに指定される種類(PA=従来技術による添加剤、IN=本発明による添加剤)の添加剤(水溶液の形で)を指定の量で、1分間かけてスラリーに添加する。添加し終わったら、スラリーをさらに5分間撹拌し、その後、懸濁液のpHおよび伝導度を測定する。
【0075】
【表1】

【0076】
上記の表の結果は、本発明の目的が本発明による方法によってのみ達成されることを示す。
【0077】
実施例2
この実施例は、ノルウェー産の天然の炭酸カルシウムを用いるが、この炭酸カルシウムは、最初に10から300mmの炭酸カルシウム岩石を乾式自己粉砕して42から48μmのd50に相当する粉末度にし、続いて乾式粉砕産物を、1.4リットル縦型ビーズミル(Dynomill)にて固形分重量基準で77.5重量%の0.6から1mmのケイ酸ジルコニウムビーズを用い、固形物の等価乾燥重量基準で0.65重量%のナトリウムおよびマグネシウムで中和したポリアクリル酸塩(Mw≒6000g/mol、Mn≒2300g/mol)を加えた水中で湿式粉砕し、粒子の90重量%が直径2μm未満、粒子の65重量%が直径1μm未満、粒子の15重量%が直径0.2μm未満であり、d50が0.8μmとなるまで縦型ビーズミルを循環させることで得られるものである。
【0078】
この懸濁液0.4kgを、直径8cmの1リットルビーカーに入れる。pendraulik歯付円盤撹拌器を、撹拌円盤がビーカーの底から約1cm上にあるようにビーカーに入れる。測定された懸濁液伝導度およびpHの初期値、を以下の表に示す。また、添加剤の添加前に室温で100rpm(毎分回転数)で測定されたBrookfield粘度は526mPasである。
【0079】
5000rpmで撹拌しながら、以下の表に記載の試験ごとに指定される種類(PA=従来技術による添加剤、IN=本発明による添加剤)の添加剤(水溶液の形)を指定の量で、1分間かけてスラリーに添加する。添加し終わったら、スラリーをさらに5分間撹拌し、その後、懸濁液のpHおよび伝導度を測定する。Brookfield粘度も室温で100rpmで60秒間撹拌後に測定する(表2の0日目に該当)。スラリー試料は、数日間、室温で20rpmで撹拌し続ける。2日間、4日間および7日間貯蔵後に、Brookfield粘度を再び測定する。以下の表2に記載のBrookfield粘度は、100rpmで60秒間撹拌後に測定したものである。
【0080】
【表2】

【0081】
上記の表の結果は、本発明の目的が本発明による方法によってのみ達成されることを示す。
【0082】
上記の結果は、本発明の目的だけでなく懸濁液のBrookfield粘度の安定性を得るのにも2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの使用が有利であることも示している。
【0083】
[実施例3]
この実施例では、炭酸カルシウム懸濁液のpHを、KOH溶液および2((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールそれぞれを用いて、規定のpH値に調節した。
【0084】
この実施例は、オーストリア産(Karnten州)の天然の炭酸カルシウムを用いるが、この炭酸カルシウムは、最初に10から300mmの炭酸カルシウム岩石を湿式自己粉砕して42から48μmのd50に相当する粉末度にし、続いて予備粉砕した産物に、固形物の等価乾燥重量基準で0.65重量%の50モル%ナトリウムおよび50モル%マグネシウムで中和したポリアクリル酸塩(Mw≒6000g/mol、Mn≒2300g/mol)を加え、これを1.4リットル縦型ビーズミル(Dynomill)にて77.5重量%の固形分重量で0.6から1mmのケイ酸ジルコニウムビーズを用いて、さらに湿式粉砕し、粒子の90重量%が直径2μm未満、粒子の65重量%が直径1μm未満、粒子の15重量%が直径0.2μm未満であり、d50が0.7μm(Sedigraph5100で測定して)となるまで縦型ビーズミルを循環させることで得られるものである。
【0085】
この懸濁液0.4kgを、1リットルビーカーに入れる。pendraulik歯付円盤撹拌器を、撹拌円盤がビーカーの底から約1cm上にあるようにビーカーに入れる。測定された懸濁液伝導度およびpHの初期値を以下の表に示す。
【0086】
5000rpmで撹拌しながら、以下の表に記載の試験ごとに指定される種類(PA=従来技術による添加剤、IN=本発明による添加剤)の添加剤(水溶液の形で)を指定の量で、1分間かけてスラリーに添加する。添加し終わったら、スラリーをさらに5分間撹拌し、その後、懸濁液のpHおよび伝導度を測定する。
【0087】
【表3】

【0088】
表の結果をまとめると、懸濁液伝導度の上昇は、KOHではpH単位あたり100μS/cmを超えたのに対して、2((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの場合は、伝導度上昇はpH単位あたり9μS/cmだけであった。従って、これらのデータは、KOHと2((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの使用の差を明らかに示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の炭酸カルシウム含有物質を水性懸濁液の全体積を基準として25から62体積%含有し、pHが8.5から11である水性懸濁液における添加剤としての2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの使用であって、懸濁液伝導度変化がpH単位あたり100μS/cm以下である、懸濁液pHを少なくとも0.3pH単位上げるための、使用。
【請求項2】
前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノール添加剤が、水性溶液として、炭酸カルシウム含有物質に添加されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノール添加剤が、2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールに関して90%超、好ましくは95%超、より好ましくは99%超の化学純度を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記懸濁液が、2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールを添加する前に、700から2000μS/cm、好ましくは800から1300μS/cmの伝導度を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの添加後、懸濁液伝導度の変化が、pH単位あたり70μS/cm以下、好ましくはpH単位あたり50μS/cm以下であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの添加後、懸濁液伝導度の変化が、10%を超えず、好ましくは6%を超えず、より好ましくは3%を超えないことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールを添加する前、前記懸濁液のpHが9から10.3であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールが、前記懸濁液のpHを少なくとも0.4pH単位上げる量で、前記懸濁液に添加されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの添加前の懸濁液pHが8.5から9の場合、前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールが、前記懸濁液のpHを少なくとも1.0pH単位上げる量で前記懸濁液に添加され、前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの添加前の懸濁液pHが9から10の場合、前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールが、懸濁液のpHを少なくとも0.7pH単位上げる量で前記懸濁液に添加されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールの添加前、前記懸濁液の温度が、5から100℃、好ましくは35から85℃、より好ましくは45から75℃であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールが、前記懸濁液の水相1リットル当たり、500から15000mg、好ましくは1000から5000mg、より好ましくは1300から2000mgの量で前記懸濁液に添加されることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記炭酸カルシウム含有物質が、炭酸カルシウムを、前記炭酸カルシウム含有物質の全重量に対して、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも98重量%の割合で含むことを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記炭酸カルシウム含有物質の炭酸カルシウムが、沈降炭酸カルシウム(PCC)か、天然重質炭酸カルシウム(NGCC)か、表面反応炭酸カルシウム(SRCC)か、またはこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記懸濁液が、炭酸カルシウム含有物質を、前記懸濁液の全体積を基準にして45から60体積%、好ましくは48から58体積%、より好ましくは49から57体積%含有することを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールが、前記懸濁液中の前記炭酸カルシウム含有物質を粉砕する段階の前、中、または後に、好ましくは後に添加されることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールが、乾燥形態の前記炭酸カルシウム含有物質に添加され、場合により一緒に乾式粉砕されてから、前記炭酸カルシウム含有物質の前記懸濁液が形成されることを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールが、前記懸濁液に添加された後、前記懸濁液が、伝導度に基づく調節装置を備えたユニットに導入されることを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールが、前記懸濁液に添加された後、前記懸濁液が、懸濁液伝導度の測定により定めた高さまで容器またはユニットに導入されることを特徴とする、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールが、前記懸濁液に添加された後、前記懸濁液が、懸濁液伝導度の関数として調節される懸濁液スループットを有する経路を通過させられることを特徴とする、請求項17に記載の使用。
【請求項20】
少なくとも1種の炭酸カルシウム含有物質を25から62体積%含有し、pHが8.5から11の範囲にある水性懸濁液のpHを上げる方法であって、懸濁液pHが少なくとも0.3pH単位上がり、同時に、懸濁液伝導度変化がpH単位あたり100μS/cm以下、好ましくはpH単位あたり50μS/cm以下、より好ましくはpH単位あたり20μS/cm以下となる量で2−((1−メチルプロピル)アミノ)エタノールを前記懸濁液に添加する段階を含むことを特徴とする、方法。

【公表番号】特表2013−518014(P2013−518014A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549353(P2012−549353)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050737
【国際公開番号】WO2011/089176
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(505018120)オムヤ・デイベロツプメント・アー・ゲー (31)
【Fターム(参考)】