炭酸ガス処理装置及び炭酸ガスの処理方法
【課題】炭酸ガスを安価で簡便に処理することができる炭酸ガス処理装置、及び炭酸ガスの処理方法を提供する。
【解決手段】炭酸ガス等の酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で、マグネシウムを含む粉体を酸化させて酸化マグネシウムを生成する酸化容器5と、酸化容器5で生成した酸素を構成元素として含むマグネシウムを投入する、水または水溶液を貯留した炭酸塩生成槽1と、炭酸塩生成槽に対して炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給手段4とを設けた。
【解決手段】炭酸ガス等の酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で、マグネシウムを含む粉体を酸化させて酸化マグネシウムを生成する酸化容器5と、酸化容器5で生成した酸素を構成元素として含むマグネシウムを投入する、水または水溶液を貯留した炭酸塩生成槽1と、炭酸塩生成槽に対して炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給手段4とを設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガス処理装置及び炭酸ガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭酸ガスを処理する方法として、炭酸ガスを含む気体を、水と、アルカリ土類金属含有物質と、弱塩基と強酸との塩とから得られる水溶液に接触させてアルカリ土類金属の炭酸塩を生成させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、アルカリ土類金属含有物質として、天然鉱物、廃材、製造工程で排出される副産物等を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−97072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1に記載された方法では、アルカリ土類金属を確保するためには、天然鉱物、廃材、製造工程で排出される副産物等からアルカリ土類金属を抽出する工程が必要になるため、処理コストが高くなるという問題があった。
【0005】
本発明は上記問題に鑑み案出されたものであり、炭酸ガスを安価で簡便に処理することができる炭酸ガス処理装置、及び炭酸ガスの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、マグネシウムが炭酸ガス雰囲気中で燃焼して酸化マグネシウムとなることに着目し、マグネシウムの粉体が、酸素を構成元素として含むガス、例えば、炭酸ガス雰囲気中で酸化させるだけで炭酸ガス処理におけるアルカリ土類金属として適用できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る炭酸ガス処理装置の特徴構成は、酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で、マグネシウムを含む粉体を酸化させて、酸化マグネシウムを生成する酸化容器と、前記酸化容器で生成した酸化マグネシウムを投入する、水または水溶液を貯留した炭酸塩生成槽と、当該炭酸塩生成槽に対して炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給手段とを設けた点にある。
【0008】
本構成によれば、酸化容器においてマグネシウムを含む粉体を炭酸ガス等の酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で酸化させることにより、酸化マグネシウムを生成させることができる。このため、炭酸ガスと反応させるアルカリ土類金属としてのマグネシウムを容易に供給することができる。しかも、酸素を構成元素として含むガスとして炭酸ガスを用いた場合には、酸化容器においても炭酸ガスを消費することができるため、炭酸ガスの処理効率を向上させることができる。
したがって、本構成の炭酸ガス処理装置を用いれば、炭酸ガスを安価で簡便に処理することができる。
【0009】
本発明に係る炭酸ガスの処理方法の第1特徴手段は、酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で、マグネシウムを含む粉体を酸化させて、酸化マグネシウムを生成する工程と、生成した酸化マグネシウムを水または水溶液に添加する工程と、当該水または水溶液に炭酸ガスを接触させる工程とを備え、炭酸ガスを炭酸マグネシウムとして固定化する点にある。
【0010】
本手段によれば、マグネシウムを含む粉体を炭酸ガス等の酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で酸化させて生成した酸化マグネシウムを、水または水溶液に添加して炭酸ガスと接触させることにより、炭酸ガスを固定化することができる。また、マグネシウムを含む粉体を酸化させる際においても酸素を構成元素として含むガスに炭酸ガスを用いれば、この工程においても炭酸ガスを消費するため、炭酸ガスの処理効率が向上する。
したがって、本手段の炭酸ガスの処理方法によれば、炭酸ガスを安価で簡便に処理することができる。
【0011】
本発明に係る炭酸ガスの処理方法の第2特徴手段は、前記水または水溶液の温度、マグネシウムイオン濃度、重炭酸イオン濃度のうち少なくともいずれかを制御して、炭酸マグネシウムを析出させる点にある。
【0012】
本手段によれば、水または水溶液の温度、マグネシウムイオン濃度、重炭酸イオン濃度のうち少なくともいずれかを制御することで、析出する炭酸マグネシウムの種類を選択することができる。このため、例えば、マグネシウムに対する炭酸ガスの固定化率が高い正炭酸マグネシウムを選択的に析出させれば、炭酸ガスの処理効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る炭酸ガス処理装置の概略図である。
【図2】マグネシウムを含む粉体を保管する保管容器の概略図である。
【図3】[Mg2+][CO32-]/Kspの制御により炭酸マグネシウムを析出させる例を示すグラフである。
【図4】重炭酸イオン濃度及び温度とマグネシウム塩の種類との関係を示すグラフである。
【図5】溶液から導出する炭酸ガス濃度と溶液のpHとの経時変化を示すグラフである。
【図6】溶液のpHと溶液から導出する炭酸ガス濃度との関係を示すグラフである。
【図7】化合物、イオンの溶解度とpHとの関係を示すグラフである。
【図8】液中の炭酸ガス吸収率、重炭酸イオン率とpHとの関係を示すグラフである。
【図9】pH及び導電率の経時変化を示すグラフである。
【図10】pH及び酸化還元電位の経時変化を示すグラフである。
【図11】[Mg2+]/[CO32-]を変えた場合の、炭酸マグネシウムが析出するまでの潜伏時間と炭酸マグネシウムの粒径との変化を示すグラフである。
【図12】生成物と残渣との粒度分布を示すグラフである。
【図13】溶液の温度とマグネシウム塩の種類との関係を示すグラフである。
【図14】pH及び温度とマグネシウム塩の種類との関係を示すグラフである。
【図15】重炭酸イオン率及び温度とマグネシウム塩の種類との関係を示すグラフである。
【図16】マグネシウムを含む粉体の含水率と燃焼時間との関係を示すグラフである。
【図17】燃焼温度の経時変化を示すグラフである。
【図18】別実施形態に係る酸化容器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る炭酸ガス処理装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る炭酸ガス処理装置は、図1に示すように、水または水溶液(以下、「水等」と称する場合がある。)を貯留する炭酸塩生成槽1と、炭酸塩生成槽1に対して炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給手段としてのノズル4と、マグネシウムを含む粉体(以下、「Mg粉体」と称する場合がある。)を酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で酸化させて、酸化マグネシウムを生成する酸化容器5とを備える。尚、本実施形態においては、酸素を構成元素として含むガスとしても炭酸ガスを用いるため、炭酸ガスの供給路に三方弁6を設けて、炭酸ガスの供給先を炭酸塩生成槽1と酸化容器5とに切り換えることができるようにしてある。
【0015】
炭酸塩生成槽1は、水等を貯留できるものであれば、特に限定されない。例えば、従来公知の容器等を適用する。炭酸塩生成槽1には、水等を攪拌する攪拌機2と、水等の温度を調整する浴槽3と、水等の温度・pH・酸化還元電位(OPR)・導電率等を測定する計測計7と、炭酸塩生成槽1から流出した未反応の炭酸ガスの濃度を測定するガスクロマトグラフ8とが設けてある。また、炭酸塩生成槽1とガスクロマトグラフ8との間には、炭酸塩生成槽1から流出した炭酸ガスが逆流しないように逆流防止装置9が設けてある。
【0016】
酸化容器5には、温度調節手段(図示しない)が設けてあり、炭酸ガスを所定の温度に設定してMg粉体を酸化させることができるようにしてある。酸化容器5としては、炭酸ガス雰囲気中でMg粉体を酸化させることができるものであれば、特に限定されないが、温度調節可能な、ヒータ、オートクレーブ、乾燥機等の炭酸ガス流通型や密閉型の容器等が例示される。
【0017】
酸化容器5において生成した酸化マグネシウムは、マグネシウム投入手段(図示しない)によって炭酸塩生成槽1に投入される。マグネシウム投入手段としては、連続式投入型、バッチ式投入型等、特に限定されず、例えば、ベルトコンベア等、従来公知の装置を用いることができる。
【0018】
このような炭酸ガス処理装置を用いた炭酸ガスの処理方法は、炭酸ガス等の酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で、Mg粉体を酸化させて酸化マグネシウムを生成する工程と、生成した酸化マグネシウムを水または水溶液に添加する工程と、当該水または水溶液に炭酸ガスを接触させる工程とを備え、炭酸ガスを炭酸マグネシウムとして固定化するものである。この方法によれば、Mg粉体を炭酸ガス等の雰囲気中で酸化させて生成した酸化マグネシウムを、水等に添加して炭酸ガスと接触させることにより、炭酸ガスを炭酸マグネシウムとして容易に固定化することができる。また、Mg粉体を酸化させる際にも炭酸ガスを用いれば、この工程においても炭酸ガスを消費することができるため、炭酸ガスの処理効率を向上させることもできる。したがって、炭酸ガスを安価で簡便に処理することができる。
【0019】
本発明に炭酸ガスの処理方法においては、生成した酸化マグネシウムを水等に添加する工程と、水等に炭酸ガスを接触させる工程との順序は、特に限定されない。例えば、酸化マグネシウムを水等に添加する工程を先に行なう場合には、酸性の水溶液を用いることで、酸化マグネシウムが水と反応した水酸化マグネシウムとして水溶液に溶解させることができる。中性の水を用いた場合には、一般に水酸化マグネシウムは難溶となるが、その後の工程で水に炭酸ガスを接触させることにより水の酸性度が高まるため、水酸化ナトリウムが溶解し、炭酸マグネシウムを生成させることができる。また、水温を上げることによって、水酸化マグネシウムの溶解度を向上させることもできる。
【0020】
水等に炭酸ガスを接触させる工程を先に行なう場合には、中性の水に炭酸ガスを接触させて溶解させることにより、水の酸性度を高めることができる。このため、その後の工程で酸化マグネシウムを添加すれば、水酸化マグネシウムとして溶解させて炭酸マグネシウムを生成させることができる。また、水にモノエタノールアミン等のアルカリ吸収液を混合した水溶液を用いて炭酸ガスを接触させることによって、炭酸ガスの水溶液への吸収率を高めることもできる。
【0021】
本発明で使用するMg粉体としては、マグネシウム金属単体やマグネシウム合金等の粉体が利用でき、特に限定されないが、例えば、シリンダヘッドカバー、マグネシウムホイール等の切削くずやマグネシウムドロス等のマグネシウム廃棄物が挙げられる。このような本来廃棄するべきものを再利用すれば、炭酸ガスの処理コストを下げることができる。
【0022】
Mg粉体は、保管中に空気と接触した場合等には燃焼する恐れがある。従来、Mg粉体を水等の中で保管することが知られているが、Mgを水等の中で保管すると局部電池を構成し、水素ガスを発生する。このため、保管して一定時間が経過すると、Mg粉体の周りに水素等の気泡が発生・付着し、この気泡によりMg粉体が液面に浮上して空気と接触する場合がある。
このような場合には、Mg粉体は、例えば、図2(a)に示すような保管容器で保管することが好ましい。この保管容器は、水や切削油混合液等の保存液を入れる保管容器本体11と、保管容器本体11を覆う蓋部材12とを備える。保管容器本体11内には、少なくとも底面に複数の細孔を有し、Mg粉体を収容する内容器13と、内容器13に収容したMg粉体を上方から押さえてMg粉体が液面に浮上することを抑制する落し蓋14とが設けてある。落し蓋14は、蓋部材12とスポンジ等の緩衝部材15を介して固定可能に構成してあり、Mg粉体の内容量に応じて落し蓋14の位置が変えられるようにしてある。また、落し蓋14には、複数の細孔が設けてあり、Mg粉体の表面から脱離した気泡のみが落し蓋14を通過して液外に放出できるようにしてある。蓋部材12には、放出された気体により容器内の圧力が上昇しないようにガス抜き機構16が設けてある。
【0023】
上記構成を有する保管容器を用いることにより、Mg粉体が液面に浮上することを抑制して空気との接触を防止できると共に、Mg粉体を液中から取り出す際には、図2(b)に示すように、保管容器本体11から内容器13ごと引き上げることにより、Mg粉体を保管容器本体11に残留させることなく容易に取り出すことができる。また、内容器13を液面から引き上げた場合には、内容器13に設けた複数の細孔により、Mg粉体に付着した液体も除去することができる。
【0024】
このような保管容器として、例えば、容量が100mlの保管容器本体11を用い、Mg粉体を20g、水を70g入れ、落し蓋14で押さえた後、液面に着火源を接近させると、落し蓋14の細孔より小さなMg粉体は浮上するものの、粉体に比べてその周囲の水分量が多いため燃焼しない。これに対し、従来のように、液面にMg粉体が浮上した場合を想定して、保管容器に水を90g入れ、液面にMg粉体を散布して浮遊させた状態で、液体に接触していないMg粉体に着火源を接近させると、激しい燃焼が開始し、液面に浮いたMg粉体は全てが燃焼することが確認できる。
【0025】
本発明における酸素を構成元素として含むガスは、特に限定されないが、炭酸ガスが例示される。炭酸ガスとしては、純粋な炭酸ガスに限らず、炭酸ガスを含む気体であれば適用できる。例えば、マグネシウム合金の切粉や残渣を燃焼させて発生する燃焼排ガスを用いることができる。この他、液化天然ガス(LNG)・液化石油ガス(LP)等の気体燃料、ガソリン・軽油等の液体燃料、石炭等の固体燃料等を燃焼させて発生する燃焼排ガス等も炭酸ガスとして用いることができる。尚、炭酸ガスとして燃焼排ガス等を用いる場合には、炭酸塩生成槽1や酸化容器5に供する前に、吸着フィルタ等を通過させて、塵埃、炭酸ガス以外のガス等を除去することもできる。
【0026】
Mg粉体は炭酸ガス等と接触することにより酸化されるため、炭酸ガス等の雰囲気の温度は常温(25±15℃、以下同様)でもよく、特に限定されないが、温度が高い方が酸化し易くなる。このため、例えば、炭酸ガスとして燃焼排ガス等をそのまま供給すれば、高温雰囲気下でMg粉体を効率よく酸化させることができる。また、酸化容器5において、炭酸ガス等の雰囲気の温度を所定の温度に設定することにより、Mg粉体の燃焼速度を制御することもできる。尚、Mg粉体を炭酸ガス等の雰囲気中で燃焼させると、炭酸ガス中の水分と反応して水酸化マグネシウムが生成する場合があるが、酸化マグネシウム自体も炭酸塩生成槽1に投入することで水と反応して水酸化マグネシウムとなる。このため、酸化容器5における生成物は、さらに分別等の処理を行なうことなく、そのまま炭酸塩生成槽1に投入することができる。
【0027】
炭酸塩生成槽1における炭酸ガスの水等への接触は、従来公知の方法により行うことができ、特に制限はない。本実施形態においては、炭酸ガス供給手段としてノズル4を用い、水等に炭酸ガスをバブリングする(吹き込む)方法を例示したが、例えば、ノズル4等により炭酸ガスを炭酸塩生成槽1に供給して水等と共に封入し、振とうする方法等により接触させることもできる。尚、炭酸塩生成槽1における水等は、任意の温度で使用できる。
【0028】
炭酸塩生成槽1においては、水等に含まれるマグネシウムイオン濃度[Mg2+]、重炭酸イオン濃度[CO32-]、水等の温度のうち少なくもいずれかを制御することが好ましい。これにより、炭酸マグネシウムの析出、及び炭酸マグネシウムの種類を制御することができる。すなわち、炭酸マグネシウムは、[Mg2+][CO32-]>Ksp(溶解度積)の場合に析出する。このため、例えば、図3(a)に示すように、[Mg2+][CO32-]を制御してKspよりも大きくなるようにすれば、炭酸マグネシウムを析出させることができる。また、Kspは温度に依存するため、図3(b)に示すように、Ksp>[Mg2+][CO32-]の場合、炭酸マグネシウムは析出しないが、温度を調整し、(温度調整後のKsp)<[Mg2+][CO32-]となるようにすれば、炭酸マグネシウムを析出させることができる。
【0029】
また、炭酸塩生成槽1において、生成するマグネシウム塩としては、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、塩基性炭酸マグネシウム(mMgCO3・nMg(OH)2・mH2O)、正炭酸マグネシウム(MgCO3・3H2O)の3種類が考えられる。このうち、正炭酸マグネシウムは、MgとCO2との化学量論比が1:1であり、Mgに対するCO2の固定化率が最も高い。このため、正炭酸マグネシウムを選択的に生成させることができれば、炭酸ガスの処理効率を高めることができる。正炭酸マグネシウムは、マグネシウムイオン濃度、重炭酸イオン濃度、温度を制御することで、選択的に生成させることができる。例えば、マグネシウムイオンの濃度を一定とした場合には、生成物の種類と重炭酸イオンの濃度及び温度とは、図4に示すような関係がある。
【0030】
上記の制御において、マグネシウムイオン濃度はEDTAキレート滴定によって、連続的または一定間隔で測定することができる。
【0031】
重炭酸イオン濃度は、直接測定できず、炭酸ガスの吸収量からの換算値ではイオン化せず系外に放出される炭酸ガスも含まれるため誤差が大きくなる。このため、重炭酸イオン濃度は、液中の炭酸ガス吸収率、重炭酸イオン率(CO32-/CO2)、pHから演算して求める。
具体的には、例えば、500mlの水(pH7)に水酸化カリウム(KOH)を溶解して所望のpHに調整した溶液に、90vol%N2−10vol%CO2ガスを1L/分で導入する。
この時の溶液から導出するガス中の炭酸ガス濃度の経時変化を、例えばCO2ガス分析装置(testo350S (株)テストー製)等で測定すると共に、溶液のpHの変化を測定し、それぞれの測定値を図5に示すようにグラフにプロットする。このように作成したグラフから、同一時間のpHと炭酸ガス濃度とを読み取ると、図6に示すようなグラフが作成できる。ここで、炭酸ガス吸収率は、導入する炭酸ガスの濃度が10%であることから、(10−炭酸ガス濃度)/10で求めることができる。このため、図6に示すグラフからpH−炭酸ガス吸収率のグラフを作成し、プロットしたデータを対数近似すると、炭酸ガス吸収率=1.46Ln(pH)−2.87、すなわち、pH=EXP[(炭酸ガス吸収率+2.87)/1.4]を求めることができる。
一方、pHと重炭酸イオン率との関係は、炭酸の一次解離定数(Ka1)、二次解離定数(Ka2)から計算できる。このため、例えば、図7に示すような文献値と、Ka1Ka2/(Ka1Ka2+Ka1[H+]+[H+]2)の式とからpHと重炭酸イオン率との関係を求めることができる。
以上により、重炭酸イオン率、pH、炭酸ガス吸収率の関係が成り立つため、図8に示すように、炭酸ガス吸収率−重炭酸イオン率の関係をグラフにプロットすることができる。したがって、炭酸ガスの一定流速下において、図8に示すような炭酸ガス濃度−重炭酸イオン率の関係を用いて、重炭酸イオン濃度を算出することができる。尚、図8において、重炭酸イオン率の実験結果を実験値としてプロットすると、計算値とよく一致することが確認できる。
【0032】
本発明により生成した炭酸マグネシウムは、ろ過等の従来公知の方法によって回収することができる。回収した炭酸マグネシウムは、例えば、製紙、顔料、塗料、プラスチック、ゴム、織編物等の産業における充填材等にそのまま有効利用することができる。また、ろ液は、炭酸ガスの処理に再利用することができる。このため、炭酸ガスの処理全体の処理コストを下げることができる。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明を用いた実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
炭酸ガスの処理は、図1に示す本実施形態の炭酸ガス処理装置を用いて行った。すなわち、炭酸塩生成槽1に水を500ml入れ、攪拌機2を用いて400rpmで攪拌しながら、予め酸化容器5において生成させた酸化マグネシウム(MgO)を、[Mg2+]が0.05mol/Lとなるように所定量投入した。そして、ノズル4を用いて、100%の炭酸ガス(CO2)を1リットル/分の流量で水中にバブリングにより導入した。炭酸塩生成槽1の水は、導入当初は白く懸濁したが、一定時間経過後には透明になった。
【0035】
次に、炭酸塩生成槽1に炭酸ナトリウム(Na2CO3)を、[CO32-]が0.005mol/Lとなるように投入し、浴槽3によって炭酸塩生成槽1の溶液を加熱し、炭酸ナトリウムを完全に溶解させた。尚、炭酸ナトリウムは、炭酸イオン(CO32-)の濃度調整のために用いた。
【0036】
一定時間経過後、生成物の析出が始まった。この時の溶液のpH、導電率、ORP(Ag/AgCl電極)を測定し、その経時変化を図9,10に示した。炭酸ナトリウムが完全溶解するまでは、pHが上昇し、ORPが下降し、導電率は変化がなかった。これは、溶液から脱炭酸(CO32-→CO2(g)+2OH-)が起こったためであると考えられ、CO2が溶液から抜けるほど、OH-が放出され、pHは高くなり、ORPは低くなる。また、重炭酸イオンにおいては、炭酸水素イオンへの反応(CO32-→HCO3-+e-)も起こっていることが考えられる。pHが中性〜弱アルカリ性では、図8に示すように重炭酸イオン率が低いため炭酸水素イオンに変化し、電子が放出されるためORPは低くなる。
炭酸マグネシウム析出までの潜伏期間では、炭酸マグネシウムの生成(Mg2++CO32-→MgCO3)と炭酸水素イオンへの反応(CO32-+H2O→HCO3-+OH-)との2つの反応が起こり得る。この時のpHが一定であることから、重炭酸イオンはマグネシウムイオンとの反応に消費され、炭酸水素イオンへの反応にはほとんど消費されていないことが分かる。すなわち、炭酸マグネシウムが生成するまでの時間が潜伏時間となる。
炭酸マグネシウム析出開始後の保持時間では、炭酸水素イオンは重炭酸イオンへの反応が優勢となる。この時のpHとORPとはほとんど変化しないにも関わらず、導電率は小さくなっている。これは、OH-や電子に関与しない反応が起こっていることが考えられる。pHの範囲は、正炭酸マグネシウムと塩基性炭酸マグネシウムとの境界であると予想され、正炭酸マグネシウムが塩基性マグネシウムに置換していると考えられる。すなわち、初期に析出した正炭酸マグネシウムが凝集し、溶液内の固体数が減少することで導電率が低くなり、凝集した正炭酸マグネシウムが、逐次、塩基性炭酸マグネシウムに変化するプロセスが保持時間となる。
【0037】
(実施例2)
実施例1において、溶液中のマグネシウムイオンの濃度と重炭酸イオン濃度とを変えた時の炭酸マグネシウムが析出するまでの潜伏時間及び炭酸マグネシウムの粒径の変化を調べた。その結果、図11に示すように、マグネシウムイオン濃度/重炭酸イオン濃度を調整することにより、炭酸マグネシウムが析出するまでの潜伏時間と炭酸マグネシウムの粒径とを制御できることが分かった。このため、溶液中に混在する炭酸マグネシウムと残渣とを容易に分離することができる。
【0038】
(実施例3)
実施例2で得られた沈殿物の粒度分布を測定した。その結果、図12に示すように、炭酸マグネシウムの粒径とその他の残渣の粒径とでは、大きく異なっており、分離し易いことが分かった。
【0039】
(実施例4)
図1に示す炭酸ガス処理装置を用い、炭酸塩生成槽1に水と水酸化マグネシウムとを[Mg2+]が0.1mol/Lとなるように入れ、攪拌機2を用いて300〜400rpmで攪拌し、必要に応じて加熱しながら、90%N2−10%CO2ガスを5L/分で一定時間導入した。その後、30分間保持し、溶液をろ過・乾燥した後、生成物をX線回折によって同定し、定量分析を行った。その結果、図13示すように、溶液の温度によって生成する生成物の種類が異なることが確認できた。この条件においては、正炭酸マグネシウムを選択的に生成させる場合には、溶液の温度を50〜70℃に設定することが好ましい。
【0040】
(実施例5)
500mlの水に、[Mg2+]が0.1mol/LとなるようにMgOを入れ、所望の初期pHで加熱した時の析出物を調べた。その結果、図14で示すような領域で炭酸マグネシウムが析出することが分かった。また、このグラフを図8のpH−重炭酸イオン率により換算して、重炭酸イオン率と温度との関係を求めると、図15に示す通りであった。
【0041】
〔別実施形態〕
酸素を構成元素として含むガスとしては、空気や酸素等を用いることもできる。例えば、Mg粉体に空気や酸素等を供給しながら着火することで、Mg粉体を燃焼させることができる。
この場合、Mg粉体としては、水を含有させたものや水溶性クーラントを含有させたものを用いることが好ましい。すなわち、燃焼の際に、Mg粉体に水分が存在すると反応して水素を発生し、この水素が激しく燃焼する。このため、Mg粉体の燃焼を加速させることができる。尚、過剰の水分が付着していると、着火性が悪く、安定して燃焼できなくなる恐れがある。
【0042】
Mg粉体の燃焼実験として、温水で十分に洗浄して100℃で90分間乾燥させたMg粉体に、所定の水またはクーラントを混合した後、ガスバーナーを用いて着火し、Mg粉体の水またはクーラントの含有率を変えた場合の着火の可否、及び燃焼時間について調べた。尚、それぞれのサンプルは、金網(♯12)上で50mm×50mm×10mmのスポンジ枠に、見掛けのかさ密度が一定になるように配置した。その結果、Mg粉体は、水の含有率が50wt%以下、クーラントの含有率が60wt%以下の場合に着火し、それ以上の含有率では着火しなかった。一方、燃焼時間は、図16に示すように、水またはクーラントの含有率が高い方が短時間で完全燃焼することが分かった。
【0043】
また、燃焼温度と生成するマグネシウム化合物との関係を確認するため、次の3つのそれぞれの条件で、Mg粉体にガスバーナーで着火して燃焼させ、燃焼温度と燃焼後の生成物について調べた。燃焼温度は熱電対で測定し、生成物はX線回折測定で同定した。
条件1:熱容量の大きなセラミックス皿上で乾燥したMg粉体を燃焼させる。
条件2:パンチングメタル(♯120)上で乾燥したMg粉体を燃焼させる。
条件3:パンチングメタル(♯120)上でクーラントを50wt%含有するMg粉体を燃焼させる。
その結果、図17に示すように、条件1,2,3における燃焼時の最高到達温度は、それぞれ892℃、1162℃、1300℃であった。また、燃焼による生成物は、条件1,2による生成物は表面は酸化物であるものの内部は窒化物や炭化物であったのに対し、条件3による生成物は酸化物のみであった。
したがって、クーラントを含有するMg粉体に対し、全体に亘って酸素を十分に供給しながら燃焼することで、最高到達温度を1300℃以上にすることができ、効率よく酸化マグネシウムを生成することができる。
【0044】
酸化容器5としては、例えば、図18示すような燃焼容器を適用することもできる。このような酸化容器5は、容器本体50内に、軸心が水平となるように配設され、内部にMg粉体を収容して回転しながらMg粉体を燃焼させる側面がテーパ状の筒体51と、筒体51の内部で燃焼により生成し、側面のテーパにより滑り落ちる酸化マグネシウム等を回収する回収部52とを備えて構成される。酸化容器5には、筒体51内に配置したMg粉体に着火する着火源53と、容器本体50の内部に空気等を供給する送風機54と、Mg粉体を貯蔵するホッパー55と、ホッパー55から筒体51にMg粉体を搬送するコンベア56とが設けてある。また、ホッパー55には、開閉のタイミングの異なる二つのシャッター55a、55bが設けてあり、これによって、Mg粉体を供給する際に逆火により引火してホッパー55にまで連続燃焼することを防止しつつ、間欠的にMg粉体を供給することでコンベア56における連続燃焼をも防止することができる。尚、この酸化容器5では、一旦、Mg粉体に着火すれば、コンベア56によってMg粉体が筒体51に連続的に供給されることにより自燃し、Mg粉体の供給の都度、着火する必要がない。このため、着火源53は、着火した後に容器本体50から取り外し可能にしてある。また、送風機54は、例えば、50L/分以下で空気を供給する。
【0045】
筒体51は、駆動モータ57と連結して回転可能にしてあり、筒体51が回転することで内部に配置したMg粉体を酸化させながら回収部52に徐々に落下させることができる。筒体51は、例えば、5rpm以上の回転速度で回転させる。また、筒体51は、例えば、開口面積が20〜50%のパンチングメタルやメッシュ状の金属板等の多孔部材で形成してあり、筒体51内に配置したMg粉体の全体が容器本体50内に供給された空気と接触して燃焼温度を高温に維持できるようにしてある。筒体51のそれぞれの孔の大きさは、Mg粉体が孔から落下しない程度であれば特に限定はされないが、例えば、孔径を1mm以下にすることが好ましい。また、筒体51は、例えば、テーパ角を15〜45°に設定し、最大径が100mm以上となるように設定することが好ましい。
【0046】
Mg粉体として水やクーラントを含有させたものを燃焼させると、燃焼に伴って水素が発生する場合があり、異常発火を起こした場合には爆発等の危険性がある。このため、容器本体50には、ダクト等と連結し、発生した水素を酸化容器50の外部に放出可能なガス抜き孔58が設けてある。また、酸化容器5には、容器本体50内にヘリウムやアルゴン等の不活性ガスを供給して燃焼を抑制する不活性ガス供給源59と、筒体51内の燃焼部に防火砂を落下させて消火する消火ホッパー60とが設けてある。そして、容器本体50に、水素検出器61、圧力センサ62、炎検知器63、温度センサ64a等、筒体51に温度センサ64b等、回収部52に温度センサ64c等を設け、これらのセンサ等で異常が検知された場合に、容器本体50内に不活性ガスを供給したり、防火砂が落下するようにしてある。尚、不活性ガスの供給と防火砂の落下は、同時に行うこともできるが、異常の度合いに応じで、不活性ガスの供給と防火砂の落下とを段階的に行うこともできる。この場合、例えば、不活性ガスの供給のみで燃焼を抑制でき、容器本体50内の温度を低下させることができる場合には、防火砂を落下させる必要はなくなる。
【0047】
このような酸化容器5では、燃焼温度を高温に保持して、Mg粉体を連続的に燃焼させることができる。特に、Mg粉体として、水またはクーラントを含有するMg粉体を用いる場合には、燃焼温度を1300℃以上に保持することができる。このため、1300℃より低い燃焼温度の場合に酸化マグネシウムと共に生成し得る窒化マグネシウム等の生成を防止でき、酸化マグネシウムを選択的に効率よく生成させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、燃焼排ガス等における炭酸ガスの処理に適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 炭酸塩生成槽
4 ノズル(炭酸ガス供給手段)
5 酸化容器
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガス処理装置及び炭酸ガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭酸ガスを処理する方法として、炭酸ガスを含む気体を、水と、アルカリ土類金属含有物質と、弱塩基と強酸との塩とから得られる水溶液に接触させてアルカリ土類金属の炭酸塩を生成させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、アルカリ土類金属含有物質として、天然鉱物、廃材、製造工程で排出される副産物等を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−97072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1に記載された方法では、アルカリ土類金属を確保するためには、天然鉱物、廃材、製造工程で排出される副産物等からアルカリ土類金属を抽出する工程が必要になるため、処理コストが高くなるという問題があった。
【0005】
本発明は上記問題に鑑み案出されたものであり、炭酸ガスを安価で簡便に処理することができる炭酸ガス処理装置、及び炭酸ガスの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、マグネシウムが炭酸ガス雰囲気中で燃焼して酸化マグネシウムとなることに着目し、マグネシウムの粉体が、酸素を構成元素として含むガス、例えば、炭酸ガス雰囲気中で酸化させるだけで炭酸ガス処理におけるアルカリ土類金属として適用できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る炭酸ガス処理装置の特徴構成は、酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で、マグネシウムを含む粉体を酸化させて、酸化マグネシウムを生成する酸化容器と、前記酸化容器で生成した酸化マグネシウムを投入する、水または水溶液を貯留した炭酸塩生成槽と、当該炭酸塩生成槽に対して炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給手段とを設けた点にある。
【0008】
本構成によれば、酸化容器においてマグネシウムを含む粉体を炭酸ガス等の酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で酸化させることにより、酸化マグネシウムを生成させることができる。このため、炭酸ガスと反応させるアルカリ土類金属としてのマグネシウムを容易に供給することができる。しかも、酸素を構成元素として含むガスとして炭酸ガスを用いた場合には、酸化容器においても炭酸ガスを消費することができるため、炭酸ガスの処理効率を向上させることができる。
したがって、本構成の炭酸ガス処理装置を用いれば、炭酸ガスを安価で簡便に処理することができる。
【0009】
本発明に係る炭酸ガスの処理方法の第1特徴手段は、酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で、マグネシウムを含む粉体を酸化させて、酸化マグネシウムを生成する工程と、生成した酸化マグネシウムを水または水溶液に添加する工程と、当該水または水溶液に炭酸ガスを接触させる工程とを備え、炭酸ガスを炭酸マグネシウムとして固定化する点にある。
【0010】
本手段によれば、マグネシウムを含む粉体を炭酸ガス等の酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で酸化させて生成した酸化マグネシウムを、水または水溶液に添加して炭酸ガスと接触させることにより、炭酸ガスを固定化することができる。また、マグネシウムを含む粉体を酸化させる際においても酸素を構成元素として含むガスに炭酸ガスを用いれば、この工程においても炭酸ガスを消費するため、炭酸ガスの処理効率が向上する。
したがって、本手段の炭酸ガスの処理方法によれば、炭酸ガスを安価で簡便に処理することができる。
【0011】
本発明に係る炭酸ガスの処理方法の第2特徴手段は、前記水または水溶液の温度、マグネシウムイオン濃度、重炭酸イオン濃度のうち少なくともいずれかを制御して、炭酸マグネシウムを析出させる点にある。
【0012】
本手段によれば、水または水溶液の温度、マグネシウムイオン濃度、重炭酸イオン濃度のうち少なくともいずれかを制御することで、析出する炭酸マグネシウムの種類を選択することができる。このため、例えば、マグネシウムに対する炭酸ガスの固定化率が高い正炭酸マグネシウムを選択的に析出させれば、炭酸ガスの処理効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る炭酸ガス処理装置の概略図である。
【図2】マグネシウムを含む粉体を保管する保管容器の概略図である。
【図3】[Mg2+][CO32-]/Kspの制御により炭酸マグネシウムを析出させる例を示すグラフである。
【図4】重炭酸イオン濃度及び温度とマグネシウム塩の種類との関係を示すグラフである。
【図5】溶液から導出する炭酸ガス濃度と溶液のpHとの経時変化を示すグラフである。
【図6】溶液のpHと溶液から導出する炭酸ガス濃度との関係を示すグラフである。
【図7】化合物、イオンの溶解度とpHとの関係を示すグラフである。
【図8】液中の炭酸ガス吸収率、重炭酸イオン率とpHとの関係を示すグラフである。
【図9】pH及び導電率の経時変化を示すグラフである。
【図10】pH及び酸化還元電位の経時変化を示すグラフである。
【図11】[Mg2+]/[CO32-]を変えた場合の、炭酸マグネシウムが析出するまでの潜伏時間と炭酸マグネシウムの粒径との変化を示すグラフである。
【図12】生成物と残渣との粒度分布を示すグラフである。
【図13】溶液の温度とマグネシウム塩の種類との関係を示すグラフである。
【図14】pH及び温度とマグネシウム塩の種類との関係を示すグラフである。
【図15】重炭酸イオン率及び温度とマグネシウム塩の種類との関係を示すグラフである。
【図16】マグネシウムを含む粉体の含水率と燃焼時間との関係を示すグラフである。
【図17】燃焼温度の経時変化を示すグラフである。
【図18】別実施形態に係る酸化容器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る炭酸ガス処理装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る炭酸ガス処理装置は、図1に示すように、水または水溶液(以下、「水等」と称する場合がある。)を貯留する炭酸塩生成槽1と、炭酸塩生成槽1に対して炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給手段としてのノズル4と、マグネシウムを含む粉体(以下、「Mg粉体」と称する場合がある。)を酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で酸化させて、酸化マグネシウムを生成する酸化容器5とを備える。尚、本実施形態においては、酸素を構成元素として含むガスとしても炭酸ガスを用いるため、炭酸ガスの供給路に三方弁6を設けて、炭酸ガスの供給先を炭酸塩生成槽1と酸化容器5とに切り換えることができるようにしてある。
【0015】
炭酸塩生成槽1は、水等を貯留できるものであれば、特に限定されない。例えば、従来公知の容器等を適用する。炭酸塩生成槽1には、水等を攪拌する攪拌機2と、水等の温度を調整する浴槽3と、水等の温度・pH・酸化還元電位(OPR)・導電率等を測定する計測計7と、炭酸塩生成槽1から流出した未反応の炭酸ガスの濃度を測定するガスクロマトグラフ8とが設けてある。また、炭酸塩生成槽1とガスクロマトグラフ8との間には、炭酸塩生成槽1から流出した炭酸ガスが逆流しないように逆流防止装置9が設けてある。
【0016】
酸化容器5には、温度調節手段(図示しない)が設けてあり、炭酸ガスを所定の温度に設定してMg粉体を酸化させることができるようにしてある。酸化容器5としては、炭酸ガス雰囲気中でMg粉体を酸化させることができるものであれば、特に限定されないが、温度調節可能な、ヒータ、オートクレーブ、乾燥機等の炭酸ガス流通型や密閉型の容器等が例示される。
【0017】
酸化容器5において生成した酸化マグネシウムは、マグネシウム投入手段(図示しない)によって炭酸塩生成槽1に投入される。マグネシウム投入手段としては、連続式投入型、バッチ式投入型等、特に限定されず、例えば、ベルトコンベア等、従来公知の装置を用いることができる。
【0018】
このような炭酸ガス処理装置を用いた炭酸ガスの処理方法は、炭酸ガス等の酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で、Mg粉体を酸化させて酸化マグネシウムを生成する工程と、生成した酸化マグネシウムを水または水溶液に添加する工程と、当該水または水溶液に炭酸ガスを接触させる工程とを備え、炭酸ガスを炭酸マグネシウムとして固定化するものである。この方法によれば、Mg粉体を炭酸ガス等の雰囲気中で酸化させて生成した酸化マグネシウムを、水等に添加して炭酸ガスと接触させることにより、炭酸ガスを炭酸マグネシウムとして容易に固定化することができる。また、Mg粉体を酸化させる際にも炭酸ガスを用いれば、この工程においても炭酸ガスを消費することができるため、炭酸ガスの処理効率を向上させることもできる。したがって、炭酸ガスを安価で簡便に処理することができる。
【0019】
本発明に炭酸ガスの処理方法においては、生成した酸化マグネシウムを水等に添加する工程と、水等に炭酸ガスを接触させる工程との順序は、特に限定されない。例えば、酸化マグネシウムを水等に添加する工程を先に行なう場合には、酸性の水溶液を用いることで、酸化マグネシウムが水と反応した水酸化マグネシウムとして水溶液に溶解させることができる。中性の水を用いた場合には、一般に水酸化マグネシウムは難溶となるが、その後の工程で水に炭酸ガスを接触させることにより水の酸性度が高まるため、水酸化ナトリウムが溶解し、炭酸マグネシウムを生成させることができる。また、水温を上げることによって、水酸化マグネシウムの溶解度を向上させることもできる。
【0020】
水等に炭酸ガスを接触させる工程を先に行なう場合には、中性の水に炭酸ガスを接触させて溶解させることにより、水の酸性度を高めることができる。このため、その後の工程で酸化マグネシウムを添加すれば、水酸化マグネシウムとして溶解させて炭酸マグネシウムを生成させることができる。また、水にモノエタノールアミン等のアルカリ吸収液を混合した水溶液を用いて炭酸ガスを接触させることによって、炭酸ガスの水溶液への吸収率を高めることもできる。
【0021】
本発明で使用するMg粉体としては、マグネシウム金属単体やマグネシウム合金等の粉体が利用でき、特に限定されないが、例えば、シリンダヘッドカバー、マグネシウムホイール等の切削くずやマグネシウムドロス等のマグネシウム廃棄物が挙げられる。このような本来廃棄するべきものを再利用すれば、炭酸ガスの処理コストを下げることができる。
【0022】
Mg粉体は、保管中に空気と接触した場合等には燃焼する恐れがある。従来、Mg粉体を水等の中で保管することが知られているが、Mgを水等の中で保管すると局部電池を構成し、水素ガスを発生する。このため、保管して一定時間が経過すると、Mg粉体の周りに水素等の気泡が発生・付着し、この気泡によりMg粉体が液面に浮上して空気と接触する場合がある。
このような場合には、Mg粉体は、例えば、図2(a)に示すような保管容器で保管することが好ましい。この保管容器は、水や切削油混合液等の保存液を入れる保管容器本体11と、保管容器本体11を覆う蓋部材12とを備える。保管容器本体11内には、少なくとも底面に複数の細孔を有し、Mg粉体を収容する内容器13と、内容器13に収容したMg粉体を上方から押さえてMg粉体が液面に浮上することを抑制する落し蓋14とが設けてある。落し蓋14は、蓋部材12とスポンジ等の緩衝部材15を介して固定可能に構成してあり、Mg粉体の内容量に応じて落し蓋14の位置が変えられるようにしてある。また、落し蓋14には、複数の細孔が設けてあり、Mg粉体の表面から脱離した気泡のみが落し蓋14を通過して液外に放出できるようにしてある。蓋部材12には、放出された気体により容器内の圧力が上昇しないようにガス抜き機構16が設けてある。
【0023】
上記構成を有する保管容器を用いることにより、Mg粉体が液面に浮上することを抑制して空気との接触を防止できると共に、Mg粉体を液中から取り出す際には、図2(b)に示すように、保管容器本体11から内容器13ごと引き上げることにより、Mg粉体を保管容器本体11に残留させることなく容易に取り出すことができる。また、内容器13を液面から引き上げた場合には、内容器13に設けた複数の細孔により、Mg粉体に付着した液体も除去することができる。
【0024】
このような保管容器として、例えば、容量が100mlの保管容器本体11を用い、Mg粉体を20g、水を70g入れ、落し蓋14で押さえた後、液面に着火源を接近させると、落し蓋14の細孔より小さなMg粉体は浮上するものの、粉体に比べてその周囲の水分量が多いため燃焼しない。これに対し、従来のように、液面にMg粉体が浮上した場合を想定して、保管容器に水を90g入れ、液面にMg粉体を散布して浮遊させた状態で、液体に接触していないMg粉体に着火源を接近させると、激しい燃焼が開始し、液面に浮いたMg粉体は全てが燃焼することが確認できる。
【0025】
本発明における酸素を構成元素として含むガスは、特に限定されないが、炭酸ガスが例示される。炭酸ガスとしては、純粋な炭酸ガスに限らず、炭酸ガスを含む気体であれば適用できる。例えば、マグネシウム合金の切粉や残渣を燃焼させて発生する燃焼排ガスを用いることができる。この他、液化天然ガス(LNG)・液化石油ガス(LP)等の気体燃料、ガソリン・軽油等の液体燃料、石炭等の固体燃料等を燃焼させて発生する燃焼排ガス等も炭酸ガスとして用いることができる。尚、炭酸ガスとして燃焼排ガス等を用いる場合には、炭酸塩生成槽1や酸化容器5に供する前に、吸着フィルタ等を通過させて、塵埃、炭酸ガス以外のガス等を除去することもできる。
【0026】
Mg粉体は炭酸ガス等と接触することにより酸化されるため、炭酸ガス等の雰囲気の温度は常温(25±15℃、以下同様)でもよく、特に限定されないが、温度が高い方が酸化し易くなる。このため、例えば、炭酸ガスとして燃焼排ガス等をそのまま供給すれば、高温雰囲気下でMg粉体を効率よく酸化させることができる。また、酸化容器5において、炭酸ガス等の雰囲気の温度を所定の温度に設定することにより、Mg粉体の燃焼速度を制御することもできる。尚、Mg粉体を炭酸ガス等の雰囲気中で燃焼させると、炭酸ガス中の水分と反応して水酸化マグネシウムが生成する場合があるが、酸化マグネシウム自体も炭酸塩生成槽1に投入することで水と反応して水酸化マグネシウムとなる。このため、酸化容器5における生成物は、さらに分別等の処理を行なうことなく、そのまま炭酸塩生成槽1に投入することができる。
【0027】
炭酸塩生成槽1における炭酸ガスの水等への接触は、従来公知の方法により行うことができ、特に制限はない。本実施形態においては、炭酸ガス供給手段としてノズル4を用い、水等に炭酸ガスをバブリングする(吹き込む)方法を例示したが、例えば、ノズル4等により炭酸ガスを炭酸塩生成槽1に供給して水等と共に封入し、振とうする方法等により接触させることもできる。尚、炭酸塩生成槽1における水等は、任意の温度で使用できる。
【0028】
炭酸塩生成槽1においては、水等に含まれるマグネシウムイオン濃度[Mg2+]、重炭酸イオン濃度[CO32-]、水等の温度のうち少なくもいずれかを制御することが好ましい。これにより、炭酸マグネシウムの析出、及び炭酸マグネシウムの種類を制御することができる。すなわち、炭酸マグネシウムは、[Mg2+][CO32-]>Ksp(溶解度積)の場合に析出する。このため、例えば、図3(a)に示すように、[Mg2+][CO32-]を制御してKspよりも大きくなるようにすれば、炭酸マグネシウムを析出させることができる。また、Kspは温度に依存するため、図3(b)に示すように、Ksp>[Mg2+][CO32-]の場合、炭酸マグネシウムは析出しないが、温度を調整し、(温度調整後のKsp)<[Mg2+][CO32-]となるようにすれば、炭酸マグネシウムを析出させることができる。
【0029】
また、炭酸塩生成槽1において、生成するマグネシウム塩としては、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、塩基性炭酸マグネシウム(mMgCO3・nMg(OH)2・mH2O)、正炭酸マグネシウム(MgCO3・3H2O)の3種類が考えられる。このうち、正炭酸マグネシウムは、MgとCO2との化学量論比が1:1であり、Mgに対するCO2の固定化率が最も高い。このため、正炭酸マグネシウムを選択的に生成させることができれば、炭酸ガスの処理効率を高めることができる。正炭酸マグネシウムは、マグネシウムイオン濃度、重炭酸イオン濃度、温度を制御することで、選択的に生成させることができる。例えば、マグネシウムイオンの濃度を一定とした場合には、生成物の種類と重炭酸イオンの濃度及び温度とは、図4に示すような関係がある。
【0030】
上記の制御において、マグネシウムイオン濃度はEDTAキレート滴定によって、連続的または一定間隔で測定することができる。
【0031】
重炭酸イオン濃度は、直接測定できず、炭酸ガスの吸収量からの換算値ではイオン化せず系外に放出される炭酸ガスも含まれるため誤差が大きくなる。このため、重炭酸イオン濃度は、液中の炭酸ガス吸収率、重炭酸イオン率(CO32-/CO2)、pHから演算して求める。
具体的には、例えば、500mlの水(pH7)に水酸化カリウム(KOH)を溶解して所望のpHに調整した溶液に、90vol%N2−10vol%CO2ガスを1L/分で導入する。
この時の溶液から導出するガス中の炭酸ガス濃度の経時変化を、例えばCO2ガス分析装置(testo350S (株)テストー製)等で測定すると共に、溶液のpHの変化を測定し、それぞれの測定値を図5に示すようにグラフにプロットする。このように作成したグラフから、同一時間のpHと炭酸ガス濃度とを読み取ると、図6に示すようなグラフが作成できる。ここで、炭酸ガス吸収率は、導入する炭酸ガスの濃度が10%であることから、(10−炭酸ガス濃度)/10で求めることができる。このため、図6に示すグラフからpH−炭酸ガス吸収率のグラフを作成し、プロットしたデータを対数近似すると、炭酸ガス吸収率=1.46Ln(pH)−2.87、すなわち、pH=EXP[(炭酸ガス吸収率+2.87)/1.4]を求めることができる。
一方、pHと重炭酸イオン率との関係は、炭酸の一次解離定数(Ka1)、二次解離定数(Ka2)から計算できる。このため、例えば、図7に示すような文献値と、Ka1Ka2/(Ka1Ka2+Ka1[H+]+[H+]2)の式とからpHと重炭酸イオン率との関係を求めることができる。
以上により、重炭酸イオン率、pH、炭酸ガス吸収率の関係が成り立つため、図8に示すように、炭酸ガス吸収率−重炭酸イオン率の関係をグラフにプロットすることができる。したがって、炭酸ガスの一定流速下において、図8に示すような炭酸ガス濃度−重炭酸イオン率の関係を用いて、重炭酸イオン濃度を算出することができる。尚、図8において、重炭酸イオン率の実験結果を実験値としてプロットすると、計算値とよく一致することが確認できる。
【0032】
本発明により生成した炭酸マグネシウムは、ろ過等の従来公知の方法によって回収することができる。回収した炭酸マグネシウムは、例えば、製紙、顔料、塗料、プラスチック、ゴム、織編物等の産業における充填材等にそのまま有効利用することができる。また、ろ液は、炭酸ガスの処理に再利用することができる。このため、炭酸ガスの処理全体の処理コストを下げることができる。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明を用いた実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
炭酸ガスの処理は、図1に示す本実施形態の炭酸ガス処理装置を用いて行った。すなわち、炭酸塩生成槽1に水を500ml入れ、攪拌機2を用いて400rpmで攪拌しながら、予め酸化容器5において生成させた酸化マグネシウム(MgO)を、[Mg2+]が0.05mol/Lとなるように所定量投入した。そして、ノズル4を用いて、100%の炭酸ガス(CO2)を1リットル/分の流量で水中にバブリングにより導入した。炭酸塩生成槽1の水は、導入当初は白く懸濁したが、一定時間経過後には透明になった。
【0035】
次に、炭酸塩生成槽1に炭酸ナトリウム(Na2CO3)を、[CO32-]が0.005mol/Lとなるように投入し、浴槽3によって炭酸塩生成槽1の溶液を加熱し、炭酸ナトリウムを完全に溶解させた。尚、炭酸ナトリウムは、炭酸イオン(CO32-)の濃度調整のために用いた。
【0036】
一定時間経過後、生成物の析出が始まった。この時の溶液のpH、導電率、ORP(Ag/AgCl電極)を測定し、その経時変化を図9,10に示した。炭酸ナトリウムが完全溶解するまでは、pHが上昇し、ORPが下降し、導電率は変化がなかった。これは、溶液から脱炭酸(CO32-→CO2(g)+2OH-)が起こったためであると考えられ、CO2が溶液から抜けるほど、OH-が放出され、pHは高くなり、ORPは低くなる。また、重炭酸イオンにおいては、炭酸水素イオンへの反応(CO32-→HCO3-+e-)も起こっていることが考えられる。pHが中性〜弱アルカリ性では、図8に示すように重炭酸イオン率が低いため炭酸水素イオンに変化し、電子が放出されるためORPは低くなる。
炭酸マグネシウム析出までの潜伏期間では、炭酸マグネシウムの生成(Mg2++CO32-→MgCO3)と炭酸水素イオンへの反応(CO32-+H2O→HCO3-+OH-)との2つの反応が起こり得る。この時のpHが一定であることから、重炭酸イオンはマグネシウムイオンとの反応に消費され、炭酸水素イオンへの反応にはほとんど消費されていないことが分かる。すなわち、炭酸マグネシウムが生成するまでの時間が潜伏時間となる。
炭酸マグネシウム析出開始後の保持時間では、炭酸水素イオンは重炭酸イオンへの反応が優勢となる。この時のpHとORPとはほとんど変化しないにも関わらず、導電率は小さくなっている。これは、OH-や電子に関与しない反応が起こっていることが考えられる。pHの範囲は、正炭酸マグネシウムと塩基性炭酸マグネシウムとの境界であると予想され、正炭酸マグネシウムが塩基性マグネシウムに置換していると考えられる。すなわち、初期に析出した正炭酸マグネシウムが凝集し、溶液内の固体数が減少することで導電率が低くなり、凝集した正炭酸マグネシウムが、逐次、塩基性炭酸マグネシウムに変化するプロセスが保持時間となる。
【0037】
(実施例2)
実施例1において、溶液中のマグネシウムイオンの濃度と重炭酸イオン濃度とを変えた時の炭酸マグネシウムが析出するまでの潜伏時間及び炭酸マグネシウムの粒径の変化を調べた。その結果、図11に示すように、マグネシウムイオン濃度/重炭酸イオン濃度を調整することにより、炭酸マグネシウムが析出するまでの潜伏時間と炭酸マグネシウムの粒径とを制御できることが分かった。このため、溶液中に混在する炭酸マグネシウムと残渣とを容易に分離することができる。
【0038】
(実施例3)
実施例2で得られた沈殿物の粒度分布を測定した。その結果、図12に示すように、炭酸マグネシウムの粒径とその他の残渣の粒径とでは、大きく異なっており、分離し易いことが分かった。
【0039】
(実施例4)
図1に示す炭酸ガス処理装置を用い、炭酸塩生成槽1に水と水酸化マグネシウムとを[Mg2+]が0.1mol/Lとなるように入れ、攪拌機2を用いて300〜400rpmで攪拌し、必要に応じて加熱しながら、90%N2−10%CO2ガスを5L/分で一定時間導入した。その後、30分間保持し、溶液をろ過・乾燥した後、生成物をX線回折によって同定し、定量分析を行った。その結果、図13示すように、溶液の温度によって生成する生成物の種類が異なることが確認できた。この条件においては、正炭酸マグネシウムを選択的に生成させる場合には、溶液の温度を50〜70℃に設定することが好ましい。
【0040】
(実施例5)
500mlの水に、[Mg2+]が0.1mol/LとなるようにMgOを入れ、所望の初期pHで加熱した時の析出物を調べた。その結果、図14で示すような領域で炭酸マグネシウムが析出することが分かった。また、このグラフを図8のpH−重炭酸イオン率により換算して、重炭酸イオン率と温度との関係を求めると、図15に示す通りであった。
【0041】
〔別実施形態〕
酸素を構成元素として含むガスとしては、空気や酸素等を用いることもできる。例えば、Mg粉体に空気や酸素等を供給しながら着火することで、Mg粉体を燃焼させることができる。
この場合、Mg粉体としては、水を含有させたものや水溶性クーラントを含有させたものを用いることが好ましい。すなわち、燃焼の際に、Mg粉体に水分が存在すると反応して水素を発生し、この水素が激しく燃焼する。このため、Mg粉体の燃焼を加速させることができる。尚、過剰の水分が付着していると、着火性が悪く、安定して燃焼できなくなる恐れがある。
【0042】
Mg粉体の燃焼実験として、温水で十分に洗浄して100℃で90分間乾燥させたMg粉体に、所定の水またはクーラントを混合した後、ガスバーナーを用いて着火し、Mg粉体の水またはクーラントの含有率を変えた場合の着火の可否、及び燃焼時間について調べた。尚、それぞれのサンプルは、金網(♯12)上で50mm×50mm×10mmのスポンジ枠に、見掛けのかさ密度が一定になるように配置した。その結果、Mg粉体は、水の含有率が50wt%以下、クーラントの含有率が60wt%以下の場合に着火し、それ以上の含有率では着火しなかった。一方、燃焼時間は、図16に示すように、水またはクーラントの含有率が高い方が短時間で完全燃焼することが分かった。
【0043】
また、燃焼温度と生成するマグネシウム化合物との関係を確認するため、次の3つのそれぞれの条件で、Mg粉体にガスバーナーで着火して燃焼させ、燃焼温度と燃焼後の生成物について調べた。燃焼温度は熱電対で測定し、生成物はX線回折測定で同定した。
条件1:熱容量の大きなセラミックス皿上で乾燥したMg粉体を燃焼させる。
条件2:パンチングメタル(♯120)上で乾燥したMg粉体を燃焼させる。
条件3:パンチングメタル(♯120)上でクーラントを50wt%含有するMg粉体を燃焼させる。
その結果、図17に示すように、条件1,2,3における燃焼時の最高到達温度は、それぞれ892℃、1162℃、1300℃であった。また、燃焼による生成物は、条件1,2による生成物は表面は酸化物であるものの内部は窒化物や炭化物であったのに対し、条件3による生成物は酸化物のみであった。
したがって、クーラントを含有するMg粉体に対し、全体に亘って酸素を十分に供給しながら燃焼することで、最高到達温度を1300℃以上にすることができ、効率よく酸化マグネシウムを生成することができる。
【0044】
酸化容器5としては、例えば、図18示すような燃焼容器を適用することもできる。このような酸化容器5は、容器本体50内に、軸心が水平となるように配設され、内部にMg粉体を収容して回転しながらMg粉体を燃焼させる側面がテーパ状の筒体51と、筒体51の内部で燃焼により生成し、側面のテーパにより滑り落ちる酸化マグネシウム等を回収する回収部52とを備えて構成される。酸化容器5には、筒体51内に配置したMg粉体に着火する着火源53と、容器本体50の内部に空気等を供給する送風機54と、Mg粉体を貯蔵するホッパー55と、ホッパー55から筒体51にMg粉体を搬送するコンベア56とが設けてある。また、ホッパー55には、開閉のタイミングの異なる二つのシャッター55a、55bが設けてあり、これによって、Mg粉体を供給する際に逆火により引火してホッパー55にまで連続燃焼することを防止しつつ、間欠的にMg粉体を供給することでコンベア56における連続燃焼をも防止することができる。尚、この酸化容器5では、一旦、Mg粉体に着火すれば、コンベア56によってMg粉体が筒体51に連続的に供給されることにより自燃し、Mg粉体の供給の都度、着火する必要がない。このため、着火源53は、着火した後に容器本体50から取り外し可能にしてある。また、送風機54は、例えば、50L/分以下で空気を供給する。
【0045】
筒体51は、駆動モータ57と連結して回転可能にしてあり、筒体51が回転することで内部に配置したMg粉体を酸化させながら回収部52に徐々に落下させることができる。筒体51は、例えば、5rpm以上の回転速度で回転させる。また、筒体51は、例えば、開口面積が20〜50%のパンチングメタルやメッシュ状の金属板等の多孔部材で形成してあり、筒体51内に配置したMg粉体の全体が容器本体50内に供給された空気と接触して燃焼温度を高温に維持できるようにしてある。筒体51のそれぞれの孔の大きさは、Mg粉体が孔から落下しない程度であれば特に限定はされないが、例えば、孔径を1mm以下にすることが好ましい。また、筒体51は、例えば、テーパ角を15〜45°に設定し、最大径が100mm以上となるように設定することが好ましい。
【0046】
Mg粉体として水やクーラントを含有させたものを燃焼させると、燃焼に伴って水素が発生する場合があり、異常発火を起こした場合には爆発等の危険性がある。このため、容器本体50には、ダクト等と連結し、発生した水素を酸化容器50の外部に放出可能なガス抜き孔58が設けてある。また、酸化容器5には、容器本体50内にヘリウムやアルゴン等の不活性ガスを供給して燃焼を抑制する不活性ガス供給源59と、筒体51内の燃焼部に防火砂を落下させて消火する消火ホッパー60とが設けてある。そして、容器本体50に、水素検出器61、圧力センサ62、炎検知器63、温度センサ64a等、筒体51に温度センサ64b等、回収部52に温度センサ64c等を設け、これらのセンサ等で異常が検知された場合に、容器本体50内に不活性ガスを供給したり、防火砂が落下するようにしてある。尚、不活性ガスの供給と防火砂の落下は、同時に行うこともできるが、異常の度合いに応じで、不活性ガスの供給と防火砂の落下とを段階的に行うこともできる。この場合、例えば、不活性ガスの供給のみで燃焼を抑制でき、容器本体50内の温度を低下させることができる場合には、防火砂を落下させる必要はなくなる。
【0047】
このような酸化容器5では、燃焼温度を高温に保持して、Mg粉体を連続的に燃焼させることができる。特に、Mg粉体として、水またはクーラントを含有するMg粉体を用いる場合には、燃焼温度を1300℃以上に保持することができる。このため、1300℃より低い燃焼温度の場合に酸化マグネシウムと共に生成し得る窒化マグネシウム等の生成を防止でき、酸化マグネシウムを選択的に効率よく生成させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、燃焼排ガス等における炭酸ガスの処理に適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 炭酸塩生成槽
4 ノズル(炭酸ガス供給手段)
5 酸化容器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で、マグネシウムを含む粉体を酸化させて、酸化マグネシウムを生成する酸化容器と、
前記酸化容器で生成した酸化マグネシウムを投入する、水または水溶液を貯留した炭酸塩生成槽と、
当該炭酸塩生成槽に対して炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給手段とを備えた炭酸ガス処理装置。
【請求項2】
酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で、マグネシウムを含む粉体を酸化させて、酸化マグネシウムを生成する工程と、生成した酸化マグネシウムを水または水溶液に添加する工程と、当該水または水溶液に炭酸ガスを接触させる工程とを備え、炭酸ガスを炭酸マグネシウムとして固定化する炭酸ガスの処理方法。
【請求項3】
前記水または水溶液の温度、マグネシウムイオン濃度、重炭酸イオン濃度のうち少なくともいずれかを制御して、炭酸マグネシウムを析出させる請求項2に記載の炭酸ガスの処理方法。
【請求項1】
酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で、マグネシウムを含む粉体を酸化させて、酸化マグネシウムを生成する酸化容器と、
前記酸化容器で生成した酸化マグネシウムを投入する、水または水溶液を貯留した炭酸塩生成槽と、
当該炭酸塩生成槽に対して炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給手段とを備えた炭酸ガス処理装置。
【請求項2】
酸素を構成元素として含むガスの雰囲気中で、マグネシウムを含む粉体を酸化させて、酸化マグネシウムを生成する工程と、生成した酸化マグネシウムを水または水溶液に添加する工程と、当該水または水溶液に炭酸ガスを接触させる工程とを備え、炭酸ガスを炭酸マグネシウムとして固定化する炭酸ガスの処理方法。
【請求項3】
前記水または水溶液の温度、マグネシウムイオン濃度、重炭酸イオン濃度のうち少なくともいずれかを制御して、炭酸マグネシウムを析出させる請求項2に記載の炭酸ガスの処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−73903(P2011−73903A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225238(P2009−225238)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
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