説明

炭酸ガス吸収体

【課題】 電気デバイスなどでも使用でき、液体、気体中のガスを効率よく吸収でき、繰り返し再生利用できる炭酸ガス吸収体を提供することを目的とする。
【解決手段】 上記目的は架橋ポリマーと液体媒体とからなる炭酸ガス吸収体を提供することによって解決達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガス吸収体に関する。さらに詳しくは架橋ポリ(メタ)アクリレートと有機溶媒とからなるガス吸収体に関する。本発明のガス吸収体は、容器中の、あるいは溶媒中に溶存する、二酸化炭素の吸収に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、特定のガス成分を分離除去する方法としては、ゼオライト、活性炭に代表されるガス吸収剤に液体を接触させて、ガスを吸収除去する方法が採用されている。
【0003】
また、上記のような無機のガス吸収剤ではなく樹脂を用いて炭酸ガスなどを吸収させる方法も知られている。特許文献1には、エポキシ基などの、触媒の存在下に二酸化炭素と反応してカルボニル基を生成する基を有する易被カルボニル化樹脂及びカルボニル化触媒からなる炭酸ガス吸収体及びその製造方法が記載されている。
【0004】
一方、非特許文献1には超臨界COを用いた高分子加工技術が記載されており、ポリマーを、超臨界COに所定時間曝すことによってポリマー中にCOが溶解することが記載されている。また、非特許文献2には、樹脂とCOの相互作用に関する研究が記載されており、この中にPMMAなどの樹脂が超臨界あるいは高圧のCOと相互作用することが開示されている。
【0005】
【特許文献1】国際公開公報WO2004/076065
【非特許文献1】日本ゴム協会誌 第77巻 第10号(2004) P343〜347 「超臨界CO2を用いた高分子加工技術」 西川茂雄
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc., 118,1729(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記ゼオライト、活性炭などのガス吸収剤は、ガスの吸収量が少なく、特に、溶液中のガスを除去しようとする場合に、溶液中に溶存するガスが低濃度である場合には高い吸収率を得ることが難しかった。また、ガスの吸収及び放出を繰り返すと、吸収及び放出の性能が低下し、繰り返し使用することができなかった。さらに、これらのガス吸収剤は導電性を有したり、イオン性を有していたりするため、電気デバイス中では使用しにくい場合がある。
【0007】
また、特許文献1に記載のガス吸収剤は金属を必須成分としない点においては優れているが、化学反応を利用してガスを捕捉するため、吸収に反応時間を必要とするため、急激なガス吸収が行いにくい。また、化学反応により、分子形態が変化するため、ガスを吸収した後の再生は困難であり、重量あたりのガスの吸収量を大きくすることが難しく、さらに易被カルボニル基と反応性のある物質の共存する系で使用することも困難である。
【0008】
一方、非特許文献1、2には、樹脂が、超臨界状態あるいは高圧の二酸化炭素共存下で二酸化炭素を溶解しうることを開示しているものであり、本発明者らが確認したところ、非特許文献1、2に記載の樹脂を常圧付近の圧力で炭酸ガスと接触させてもほとんどガス吸収せず、ガス吸収剤として使用できるものではなかった。
【0009】
従って、本発明の目的は、電池・キャパシタなどの電気デバイス中や種々の媒体中で制限なく使用でき、常圧周辺といった低圧の炭酸ガスをも効率的に吸収することができ、繰り返し使用が可能である炭酸ガス吸収剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記目的を達成するために、鋭意検討を行ない、意外にも、分子内に、主鎖に炭素原子で直結した−COO−基を有する架橋ポリマーと液体媒体とを併用することにより、二酸化炭素と相互作用を有する金属や、二酸化炭素と反応する官能基を有する化合物を使用しなくとも高い炭酸ガス吸収能力が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
即ち、本発明は、分子内に、主鎖と直結する−COOR基を有する架橋ポリマーと、液体媒体とからなる炭酸ガス吸収体である。ここに、Rは水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基または炭素数1〜10の、置換基を有していても良いアルキル基もしくはアリール基をあらわす。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭酸ガス吸収体は、種々の媒体中で使用することができ、導電性などを有さない材料から構成することができるため、電池・キャパシタなどの電気デバイス中でも使用でき、常圧付近といった低圧の炭酸ガスをも効率的に吸収することができ、さらに繰り返し再生使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施態様について説明する。本発明は、分子内に、主鎖に直結した−COOR基を有する架橋ポリマー(A)と、液体媒体(B)とを含むガス吸収体である。ここに、Rは水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基または炭素数1〜10の、置換基を有していても良いアルキル基もしくはアリール基をあらわす。
【0014】
本発明の好ましい態様においては、架橋ポリマー(A)が下記式(I)で表される構造単位を含む架橋ポリ(メタ)アクリレートである。
【0015】
【化1】


(式中、Rは水素または炭素数3以下のアルキル基を、Rは水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基または炭素数1〜10の、置換基を有していても良いアルキル基もしくはアリール基をあらわす)
【0016】
本発明の好ましい態様においては架橋ポリマー(A)の架橋度が0.5〜20である。
【0017】
以下、本発明の炭酸ガス吸収体を構成する架橋ポリマー(A)について説明する。架橋ポリマー(A)は主鎖に直結する−COOR基を有する架橋ポリマーである。ここに、Rは水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基または炭素数1〜10の、置換基を有していても良いアルキル基もしくはアリール基である。
【0018】
架橋ポリマーの主鎖構造に特に制限はなく、主鎖結合は全てが炭素−炭素結合から構成されていてもよいし、エーテル結合やエステル結合を含んでもよい。通常は安定性などの観点から主鎖結合は主として炭素−炭素結合から構成されていることが好ましい。
【0019】
また、主鎖を構成する炭素は、主鎖を構成する結合と上記−COOR以外すべて水素と結合していてもよいし、水素、−COOR以外の置換基を含んでいてもよい。主鎖構造を構成する炭素が結合していてもよい−COOR以外の置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基が例示できる。−COOR以外の置換基の炭素数が4より大きくなると、ガス吸収能力が低下する傾向があるので、置換基の炭素数は3以下が好ましく、置換基がメチル基であるか、あるいは−COOR基以外には置換基を有しないものが好ましい。
【0020】
上記−COOR基において、Rは水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基または炭素数1〜10の、置換基を有していても良いアルキル基もしくはアリール基である。架橋ポリマー(A)に含まれるRはこれらの中の1種のみでもよいし、同一分子内に複数種類が併存していても差し支えない。
【0021】
としての金属としてはナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属が挙げられる。これらの中で、2価の金属に関しては、一般式(I)の複数の−COO構造に対して1個の金属が対応していてもよいし、他の陰イオン例えばハロゲン、水酸基、カルボン酸基を伴っていてもよい。これらの中で、取り扱いの容易さや、溶出した場合にも毒性などの心配が小さいことから、通常アルカリ金属、特にリチウム、ナトリウム、カリウムが通常採用される。
【0022】
としてはアンモニウム基も採用される。アンモニウム基は通常のNHであってもよいしテトラメチルアンモニウム基、テトラエチルアンモニウム基のようなアルキル置換されたものでもよい。
【0023】
としての上記炭素数が1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロオクチル基等をあげることができる。
【0024】
また、上記アルキル基が有していても良い置換基としては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、カーボネート基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、イソシアネート基、チオイソシアネート基などが挙げられる。ここでアルキル基が置換基を有する場合炭素数が1〜10のアルキル基とは置換基の炭素を含む総炭素数が10以下であることを示す。
【0025】
また、上記アルキル基が有していても良い置換基としては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、カーボネート基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、イソシアネート基、チオイソシアネート基などが挙げられる。ここでアルキル基が置換基を有する場合炭素数が1〜10のアルキル基とは置換基の炭素を含む総炭素数が10以下であることを示す。
【0026】
アルキル基の炭素数が10を超えるとガス吸収量が低下する傾向がある。アルキル基の炭素数は6以下が好ましく、3以下がさらに好ましい。また、種々の媒体中による影響を受けないで使用できる点からは炭化水素基以外の置換基を有しないアルキル基が好ましい。また、分岐を有しないアルキル基がガス吸収性の観点から好ましい。これらの中では工業的入手容易性なども勘案するとメチル基、ブチル基が好ましく採用される。一方、媒体や特に炭酸ガスとの親和性を向上させる観点からは、含酸素基、特にエーテル結合を含むことが好ましい場合があり、このような場合例えばグリシジル基、メトキシエチル基が好ましく採用される。
【0027】
上記炭素数1〜10のアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等をあげることができる。
【0028】
また、上記炭素数1〜10のアリール基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、カーボネート基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、イソシアネート基、チオイソシアネート基などが挙げられる。ここでアリール基が置換基を有する場合、炭素数が1〜10とは置換基の炭素を含む総炭素数が10以下であることを示す。
【0029】
架橋ポリマー(A)においては、−COORの炭素原子は主鎖の炭素原子に直接結合している。
【0030】
また、主鎖内における−COOR基の分布に特に制限はなく、ランダムに存在していてもブロック的に存在していてもよい。
【0031】
このような架橋ポリマー(A)の主鎖部分を構成するポリマーとしては、種々の(メタ)アクリル酸誘導体のホモポリマー、スチレン、ジエン等とのコポリマー 例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、ブロック重合体、マレイン酸誘導体のホモポリマー、オレフィン、ジエン等とのコポリマー、例えばマレイン酸−イソブテン共重合体等を例示することができる。
【0032】
本発明の炭酸ガス吸収体に含まれる架橋ポリマー(A)は上述の−COORを有するポリマーが架橋された構造を有する。架橋構造を有し、液体媒体(B)と共存することによってはじめて良好なガス吸収性能が得られる。
【0033】
架橋ポリマー(A)は、モノマー重合時に架橋型モノマーを共重合させることによって一挙に架橋ポリマーを調製してもよいし、一旦非架橋のポリマーを合成した後に、架橋剤を用いて架橋させたり、架橋前駆体を導入しておいて、あるいは直接電子線や紫外線などを用いて架橋してもよい。
【0034】
上記のような構造が炭酸ガス吸収に有効であるのは驚くべきことであり、その理由は未だ明確になっていないが、本発明者らは、液体媒体と架橋構造による物理的な効果だけではなく、構造単位中の−COO−部分が、化学的親和性あるいは静電的親和性によって炭酸ガス分子を該構造単位付近に固定し、架橋ポリマー構造内にガス分子を拡散誘導しているなどの機構を推定している。このような機構であるので−COO−と親和性の高い炭酸ガスに対して意外なほどに優れた吸収効果を有すると考えられる。このような機構により、−COO−部分はポリマー主鎖になるべく近い方が化学的親和性で接近した炭酸ガスが架橋構造内に移動しやすい点で好ましく、該架橋ポリマー内に比較的多い方が良く、故に主鎖に炭素原子で直結している場合に良好なガス吸収能力を示すものと推定される。また、−COO−の近傍にある構造は、立体的に−COO−構造にガス分子が接近することを妨げず、液体媒体による気体の導入を妨げないものであればよく、そのため、ある程度の炭素数以下のものが好ましく、同程度の炭素数の原子団であれば直鎖構造の方が、分岐の多い、あるいは固定された嵩高い構造を有するものより好ましいものと推定される。
【0035】
以下、本発明の架橋ポリマー(A)の好ましい態様である、架橋ポリ(メタ)アクリレートについて説明する。以下、本発明のガス吸収体に含まれる架橋ポリ(メタ)アクリレートを架橋ポリ(メタ)アクリレート(C)と記すことがある。好ましい態様において本発明のガス吸収体に含まれる架橋ポリ(メタ)アクリレートは、一般式(I)の構造単位を含む。
【0036】
【化2】

【0037】
上記式(I)中、Rは、水素または炭素数3以下のアルキル基を表す。Rが、炭素数が4以上の置換基である場合、ガス吸収能力が充分でなくなる傾向がある。ガス吸収能力およびモノマーの工業的入手容易さの観点からはこれらの中でも水素、メチル基が好ましい。架橋ポリ(メタ)アクリレート(A)中のRは単一であってもよいし、分子内に水素とアルキル基、あるいは複数種類のアルキル基が併存していても差し支えない。
【0038】
上記式(I)中、Rは水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基または炭素数1〜10の置換基を有していても良いアルキル基もしくはアリール基をあらわす。架橋ポリ(メタ)アクリレート分子内に含まれるRはこれらの中の1種のみでもよいし、同一分子内に複数種類が併存していても差し支えない。
【0039】
としての金属としてはナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属が挙げられる。これらの中で、2価以上の金属に関しては、一般式(I)の複数の−COO構造に対して1個の金属が対応していてもよいし、他の陰イオン例えばハロゲン、水酸基、カルボン酸基を伴っていてもよい。これらの中で、取り扱いの容易さや、溶出した場合にも毒性などの心配が小さいことから、通常アルカリ金属、特にリチウム、ナトリウム、カリウムが通常採用される。
【0040】
としてはアンモニウム基も採用される。アンモニウム基は通常のNHであってもよいしテトラメチルアンモニウム基、テトラエチルアンモニウム基のようなアルキル置換されたものでもよい。
【0041】
としての上記炭素数が1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロオクチル基等をあげることができる。
【0042】
また、上記アルキル基が有していても良い置換基としては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、カーボネート基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、イソシアネート基、チオイソシアネート基などが挙げられる。ここでアルキル基が置換基を有する場合炭素数が1〜10のアルキル基とは置換基の炭素を含む総炭素数が10以下であることを示す。
【0043】
アルキル基の炭素数が10を超えるとガス吸収量が低下する傾向がある。アルキル基の炭素数は6以下が好ましく、3以下がさらに好ましい。また、種々の媒体中による影響を受けないで使用できる点からは炭化水素基以外の置換基を有しないアルキル基が好ましい。また、分岐を有しないアルキル基がガス吸収性の観点から好ましい。これらの中では工業的入手容易性なども勘案するとメチル基、ブチル基が好ましく採用される。一方、媒体や炭酸ガスとの親和性を向上させる観点からは、含酸素基、特にエーテル結合を含むことが好ましい場合があり、このような場合には、例えばグリシジル基、メトキシエチル基が好ましく採用される。
【0044】
上記炭素数1〜10のアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等をあげることができる。
【0045】
また、上記炭素数1〜10のアリール基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、カーボネート基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、イソシアネート基、チオイソシアネート基などが挙げられる。ここでアリール基が置換基を有する場合、炭素数が1〜10とは置換基の炭素を含む総炭素数が10以下であることを示す。
【0046】
架橋ポリ(メタ)アクリレート(C)中に含まれる一般式(I)構造単位の量は、ポリ(メタ)アクリレートを構成するモノマー単位の50mol%以上が好ましく、80mol%以上がさらに好ましく、架橋部以外は実質的にすべて一般式(I)の構造単位からなることが特に好ましい。また、架橋部も一般式(I)の構造単位からなっていてもよい。
【0047】
架橋ポリ(メタ)アクリレート(C)が含んでいてもよい一般式(I)以外の構造単位としては、エチレン、プロピレン、ブテンなどのオレフィン由来の構造単位、酢酸ビニル、スチレンなどのビニル化合物由来の構造単位、ブタジエン、イソプレンなどのジエン由来の構造単位などが例示できる。これら構造単位はブロックとして含まれてもよいし、ビニル化合物由来の構造単位、ジエン由来の構造単位などはランダムに含まれていてもよい。
【0048】
本発明の炭酸ガス吸収体に含まれる架橋ポリ(メタ)アクリレート(A)において、主鎖であるポリ(メタ)アクリレート構造を架橋する構造は、特に限定されない。重合時に、主鎖を形成する(メタ)アクリレートモノマーなどに二官能以上の(メタ)アクリレートを共重合することによって架橋構造を導入することも出来るし、主鎖を形成する(メタ)アクリレートモノマーを重合後に、二官能以上のアルコールまたはアミンと反応させて架橋構造を構成することも出来る。
【0049】
架橋構造を導入するための共重合に使用できる2官能以上の(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレートなどのトリ(メタ)クリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどのテトラ(メタ)アクリレートなどを使用することが出来る。操作性、経済性を考慮すると、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0050】
また、重合後に架橋構造を導入するために使用できる2官能性以上のアルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオールなどのジオール類、グリセリンなどのトリオール類、ペンタエリスリトールなどのテトラオール、更に多官能ポリグリシジルエーテルなどの多官能オリゴマー、ポリマーなどが例示できる。経済性、操作性を考慮すると、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールの使用が好ましい。
【0051】
さらに、重合後に架橋構造を導入するために使用できる2官能性以上のアミンとしては、エチレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,9−ノナンジアミンなどをあげることが出来る。さらに、多官能ポリエチレンイミンなどの多官能オリゴマー、ポリマーによる架橋構造も採用できる。
【0052】
本発明の炭酸ガス吸収体に含まれる架橋ポリマー(A)において、架橋度は特に制限されるものではないが、高すぎる架橋度では、ガス吸収量が低下し、低すぎる架橋度においても、ガス吸収量が低下する。実用的な架橋度としては、0.5以上、20以下であり、吸収性、経済性の観点から、1.0以上、15以下の架橋度がより好ましい。
【0053】
ここでいう架橋度とは、架橋ポリマー(A)主鎖構造を構成する全モノマー単位に対する架橋構造単位の量をモル%で表記したものである。例えば、ポリ(メタ)アクリレート(C)に、架橋構造単位としてジアクリレートを共重合した場合、ジアクリレート1分子を架橋構造1構造単位と数え、重合後に2官能化合物で架橋する場合、2官能化合物1分子を架橋構造1構造単位と数える。
【0054】
架橋ポリ(メタ)アクリレート(C)、あるいは後架橋する場合においては架橋前のポリ(メタ)アクリレートを製造する方法に特に制限はなく、通常のラジカル重合やアニオン重合などが適宜選択される。重合の形態もキャスト重合、バルク重合、溶液重合、エマルジョン重合など公知の方法が適宜選択できる。
【0055】
本発明の炭酸ガス吸収体は、架橋ポリマー(A)と液体媒体(B)とを含む。液体媒体(B)は特に限定されないが、架橋ポリマー(A)を濡らすことができ、膨潤させることができるものであれば良い。
【0056】
ガス吸収能力の観点から、架橋ポリマー(A)は単に液体媒体に濡れているだけでは十分でなく、液体媒体によって膨潤していることが好ましい。この理由についても未だ明確になっていないが、本発明者らは、前記主鎖近傍の−COO−構造によって主鎖近傍に固定されたガス分子が、液体媒体によって膨潤した架橋ポリマーのすきまに侵入でき、架橋構造内に固定されることによってガスが安定に吸収されるなどの理由を推定している。そのため、ガスの侵入を許す程度に架橋ポリマー構造が液体媒体でゆるめられていることが好ましいものと考えられる。
【0057】
本発明の炭酸ガス吸収体に採用しうる液体媒体としては、水や各種の有機溶剤、例えばペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロオクタン、パラフィンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールなどのエーテル類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、アジピン酸メチル、アジピン酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチルなどのエステル類、γブチロラクトン、γバレロラクトンなどのラクトン類、ジメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミドなどのアミド類、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドンなどのラクタム類等を使用することが出来る。
【0058】
これらの液体媒体は、架橋ポリマー(A)との親和性(濡れ性や膨潤性)、炭酸ガスの吸収性、操作性、安全性などを考慮して選択される。構造式(I)においてRが水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムなどの場合には、水も好適に使用できる場合が多い。Rの種類に関わらずカーボネート類、アミド類、エステル類は好ましく使用できる場合が多い。
【0059】
本発明の炭酸ガス吸収体における架橋ポリマー(A)と液体媒体(B)の組成比は、特に制限されるものではなく、使用する液体媒体により、あるいは使用方法に応じて適宜選択されるが、操作性、経済性を考慮して、通常液体媒体(B)100重量部に対し、架橋ポリマー(A)0.1〜200重量部の範囲で使用でき、0.3〜20重量部が好ましく、0.5〜5重量部がさらに好ましい。なお、大量の液体中に分散あるいは沈降した架橋ポリマーゲルによって液体中からガスを吸収するような場合、ゲル中に存在する液体媒体(B)と架橋ポリマー(A)との比率が上記範囲に入っていれば総体として上記範囲を超える量の液体媒体(B)がガス吸収体近傍に存在しても構わない。
【0060】
本発明の炭酸ガス吸収体の使用方法に特に制限はなく、液相中のガスの吸収、気相中のガスの吸収に使用できる。ガスの圧力、即ち気相部の全圧や吸収されるべきガスの分圧も特に制限されないが、本発明のガス吸収体は吸収されるべきガスの分圧がそれほど高圧でなくても充分な吸収性能を発揮する。本発明のガス吸収体は、例えば全圧が1MPa以下、あるいは0.5MPa以下、あるいは0.2MPa以下の比較的低圧条件でも使用できる。圧力が低くても時間をかければガスの吸収は起こるが、全圧が大気圧あるいはそれ以上、即ち0.1MPa以上、好ましくは例えば0.11MPa以上であれば吸収効率を上げやすい。吸収対象の炭酸ガスの分圧/全圧の比率は1%以上あれば実用上使用可能になる場合が多く、100%即ち分圧=全圧であってもよい。
【0061】
また、本発明の炭酸ガス吸収体を使用する温度にも特に制限はなく、使用するガスや使用条件の圧力、有機溶媒の種類などによって適宜選択されるが、例えば−40℃〜200℃、好適には−20℃〜150℃、あるいは0℃〜100℃の室温付近で十分な能力を発揮する。なお、操作温度は有機溶媒が凍結しない範囲であり、有機溶媒の蒸気圧が操作圧力を超えない範囲である必要がある。
【0062】
本発明の炭酸ガス吸収体は、ガス吸収後に再生して繰返し使用することもできる。再生方法は特に限定されないが、炭酸ガス吸収体を加熱して、吸収したガスを放出する方法、ガス吸収体を減圧下で脱気する方法等を挙げることができる。さらに、ガス吸収体から減圧下あるいは加熱下に液体媒体(B)を除去し、得られた架橋ポリ(メタ)アクリレート(A)を減圧脱気してもよい。このようにして得られたポリ(メタ)アクリレートの架橋体は、再び液体媒体(B)を加えることにより炭酸ガス吸収剤として繰り返し使用することができる。
【0063】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において試薬類は特に断らない限り和光純薬製の市販試薬を使用した。
【0064】
[合成例1] 架橋ポリメタアクリレート(A)の合成
窒素気流下、25mlの二口フラスコにメチルメタクリレート10.00g(99.88mmol)、エチレングリコールジメタクリレート 0.30g(1.50mmol、1.5mol%)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)77.2mg(0.47mmol)を加え、脱酸素後、5分間攪拌した。混合液をテフロンチューブで仕切られた二枚のガラス板の間に流し込み、70℃、7時間加熱することにより重合した。重合後、ガラス板を外し、厚さ400μmのフィルム状の架橋ポリメタアクリレートを得た。
【実施例1】
【0065】
容積110mLの密閉容器内で、上記合成例1で合成された架橋ポリメタアクリレート(A)1.0gをプロピレンカーボネート60g中に分散させ、前記容器中へ二酸化炭素ガスを供給した。内圧が、0.2MPaとなった時点で供給を停止した後、容器内の圧力が低下して一定となるまでの圧力変化から、前記分散液中に吸収された二酸化炭素ガスの吸収量(mL)を算出した。なお、前記容器内は60℃に保たれていた。ガス吸収量は204ml/g(架橋ポリメタアクリレート1g当たり204ml)であった。
【実施例2】
【0066】
上記実施例1において容器内温度を85℃とした点以外は実施例1と同様に試験を実施した。ガス吸収量は68ml/gであった。
【実施例3】
【0067】
上記実施例1において容器内圧力を0.1MPaに変更した点以外は実施例1と同様に試験を実施した。ガス吸収量は6ml/gであった。
【0068】
[比較例1]
実施例1で使用した架橋ポリメタクリレートに代えて直鎖型ポリメチルメタクリレート(LW−1000、Mw49000、クラレ製)を使用した以外は実施例1と同様にして二酸化炭素の吸収量を測定した。ガス吸収量は0ml/gであった。
【0069】
[比較例2〜5]
二酸化炭素ガスに代えて窒素ガス、水素ガス、一酸化炭素ガスをそれぞれ使用した点以外は実施例1と同様にガス吸収を試みた。いずれのガスに関してもガス吸収量は0ml/gであった。
【0070】
[合成例2] 架橋グリシジルメタアクリレート(B)の合成
窒素気流下、25mlの二口フラスコにグリシジルメタクリレート10.00g(70.35mmol)、エチレングリコールジメタクリレート 0.21g(1.06mmol、1.5mol%)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)76.6mg(0.47mmol)を加え、脱酸素後、5分間攪拌した。混合液をテフロンチューブで仕切られた二枚のガラス板の間に流し込み、70℃、7時間加熱することにより重合した。重合後、ガラス板を外し、厚さ400μmのフィルム状の架橋ポリメタアクリレートを得た。
【実施例4】
【0071】
実施例1の、合成例1で合成された架橋ポリメタアクリレート(A)に代えて、上記合成例2で合成された架橋グリシジルメタアクリレートを用いた点以外は実施例1と同様にして二酸化炭素ガス吸収量を測定した。ガス吸収量は204ml/g(架橋ポリメタアクリレート1g当たり204ml)であった。
【0072】
なお、上記試験後に減圧下(1×10−4Pa、40℃、12時間)にプロピレンカーボネートを除去し、残ったポリマーのIRを,島津製作所製フーリエ変換型赤外分光光度計8200PCを用い、ATR法、プリズム:KRS−5 45°入射角、分解能4cm−1の条件にて測定した。IRにおいては、環状カーボネートに由来するピーク(例えば1750−1900cm−1)はみあたらず、また、IRスペクトル各ピークの相対強度比もガス吸収前とほとんど変化しなかった。従って上記試験において二酸化炭素はグリシジル基との化学反応によって吸収されたものではないといえる。
【実施例5】
【0073】
上記実施例4において、温度を85℃とした点以外は実施例4と同様に試験を行った。二酸化炭素吸収量は75ml/gであった。
【実施例6】
【0074】
上記実施例4において、プロピレンカーボネートに代えてアセトニトリルを使用した点以外は実施例4と同様に試験を行った。二酸化炭素吸収量は106ml/gであった。
【0075】
[合成例3]
エチレンジメタクリレートの使用量を1.56g(7.86mmol:全モノマー量に対して10mol%)とした点以外は、合成例2と同様にして架橋グリシジルメタアクリレートを得た。
【0076】
[合成例4]
エチレンジメタクリレートの使用量を0.73g(3.70mmol:全モノマー量に対して5mol%)とした点以外は、合成例2と同様にして架橋グリシジルメタアクリレートを得た。
【実施例7】
【0077】
上記実施例4において、合成例2で得られた架橋グリシジルメタアクリレートに代えて合成例3で得られた架橋グリシジルメタアクリレートを使用した点以外は実施例4と同様にして試験を行った。二酸化炭素吸収量は107ml/gであった。
【実施例8】
【0078】
上記実施例4において、合成例2で得られた架橋グリシジルメタアクリレートに代えて合成例4で得られた架橋グリシジルメタアクリレートを使用した点以外は実施例4と同様にして試験を行った。二酸化炭素吸収量は107ml/gであった。
【実施例9】
【0079】
上記実施例1において使用した架橋ポリメタアクリレートのメタクリル酸メチル単位に代えてメタクリル酸ナトリウム単位を有する架橋ポリメタアクリレートを使用し、媒体としてプロピレンジカーボネートに代えて水を使用した点以外は実施例1と同様にして試験を行った。ただし合成した架橋ポリメタアクリレート量が少なかったため、量比などは同じだがスケールダウンして簡易試験を実施した。結果、炭酸ガスが吸収されたことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の炭酸ガス吸収体は、電池・キャパシタなどの電気デバイス中でも、常圧付近の低圧の炭酸ガスをも効率的に吸収するために使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に、主鎖に直結した−COOR基を有する架橋ポリマー(A)と、液体媒体(B)とを含む炭酸ガス吸収体。 (ここに、Rは水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基または炭素数1〜10の、置換基を有していても良いアルキル基もしくはアリール基をあらわす)
【請求項2】
架橋ポリマー(A)が下記式(I)で表される構造単位を含む架橋ポリ(メタ)アクリレートである請求項1に記載の炭酸ガス吸収体。
【化1】


(式中、Rは水素または炭素数3以下のアルキル基を、Rは水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基または炭素数1〜10の、置換基を有していても良いアルキル基もしくはアリール基をあらわす)
【請求項3】
上記式中、Rが水素またはメチル基を、Rが炭素数6以下のアルキル基または総炭素数が6以下のエーテル結合を含む置換基を有するアルキル基をあらわす、請求項2に記載の炭酸ガス吸収体。
【請求項4】
上記架橋ポリマー(A)の架橋度が0.5〜20である請求項1〜3のいずれかに記載の炭酸ガス吸収体。

【公開番号】特開2007−209975(P2007−209975A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4201(P2007−4201)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】