説明

炭酸ジエステルの製造方法

【課題】従来の電解反応では十分な収率及び選択性をもって製造できなかった炭酸ジエステルを、電解反応により十分な収率及び選択率で製造する。
【解決手段】アルコキシアニオンと一酸化炭素とを、白金族元素を含む触媒の存在下に水分量が5重量%以下の反応液中で電解反応させることにより、炭酸ジエステルを製造する方法。有機ヒドロキシ化合物類をアルコキシアニオンに変換し、さらに反応液中の水分量を5重量%以下とすることで、一酸化炭素との反応が効率よく進行し、従来の電解反応では十分な収率及び選択性をもって製造できなかった炭酸ジエステルを、電解反応で効率的に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシアニオンと一酸化炭素とを、白金族元素を含む触媒の存在下で電解反応させることにより炭酸ジエステルを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭酸ジエステルは、電解液等の溶媒、アルキル化剤、カルボニル化剤等の合成原料、ガソリンやディーゼル燃料の添加剤、ポリカーボネートやポリウレタンの原料等として広く使用されている。
【0003】
従来、炭酸ジエステルの製造方法としては、ホスゲン法、酸化的カルボニル化法、エステル交換法などが知られているが、このうち、有害物質であるホスゲンを用いない方法が求められている。
【0004】
このため、電解液溶媒として需要の伸びている炭酸ジアルキルは、古くはホスゲン法で製造されていたが、近年は酸化的カルボニル化法やエステル交換法で製造されるケースが増えている。一方、ポリカーボネート原料として注目されている炭酸ジフェニルは、フェノールから生成するフェノキシアニオンの求核性が低いため、炭酸ジアルキルと同様の反応では製造できず、多くは未だにホスゲン法で製造されている。
【0005】
炭酸ジエステルの合成法のうち、酸化的カルボニル化法は、有機ヒドロキシ化合物と一酸化炭素との反応によるものであり、その例としては、周期律表第IB族、第IIB族又は第VIII族に属する金属を含む触媒の存在下、一酸化炭素及び酸素の混合ガスを液状のメタノールと反応させる方法(特許文献1を参照)や、酸素、一酸化炭素及びアルカノールを金属ハライド触媒の存在下、気相で反応させる方法(特許文献2を参照)、亜硝酸エステルと一酸化炭素とを白金族金属を含む固体触媒の存在下、気相で反応させる方法(特許文献3を参照)等がある。なお、上述の如く、酸化的カルボニル化法による炭酸ジメチルの合成は、すでに実用化されているが、炭酸ジフェニルについては転化率、選択率とも十分でなく、未だ実用化には至っていない。
【0006】
一方、物質を酸化させる方法として様々な方法が知られているが、その中の一つとして、被酸化物質の溶液に電極を接触させ、両極間に電圧を印加させることにより起こる電気分解反応(以下これを「電解反応」と称することとする)を利用して物質の酸化を行う方法がある。電解反応では、物質の酸化は電極の陽極で起こり、陰極では還元反応が起こる。このような電解反応では、電気分解を起こりやすくするために、目的とする反応には関与しない支持電解質を溶液に添加することが行われている。被酸化物質自体が電解質の役割をする場合は支持電解質を特に加えない場合もある。
【0007】
従来、電解反応の適用例としては、メタノール、エタノールからエーテル、アセタールを生成させる反応(非特許文献1を参照)、無水メタノールからホルムアルデヒドを生成させる反応(非特許文献2を参照)、メタノール、エタノールからギ酸エステルを生成させる反応(非特許文献3を参照)等の反応が知られている。
【0008】
また、電解反応で炭酸ジエステルを製造する試みもいくつか知られている。例えば、ハロゲン(フッ素を除く)を含有する電解質の存在下で、1価もしくは2価アルコールと一酸化炭素を電解反応させて炭酸ジメチル、炭酸エチレンを得る方法が開示されている(特許文献4を参照)。また、周期表VIIIB族触媒と塩素、臭素又はヨウ素を含有する電解質の存在下で、アルコールと一酸化炭素を電解反応させて炭酸ジメチルを得る方法も開示されている(特許文献5を参照)。さらには、支持電解質の存在下、白金族元素を含む陽極を用いてアルコールと一酸化炭素を電解反応させて、炭酸エステルとギ酸エステルを同時に製造する方法が開示されている(特許文献6を参照)。
【0009】
また、プロトン伝導膜を介してアノードとカソードとが形成された隔膜により、反応器内をアノード側とカソード側の2つの反応空間に区画した反応器を用いて、アノード側の反応空間にアルコール及び一酸化炭素を供給し、カソード側の反応空間に酸素を供給し、アノードとカソードに電圧を印加して電解酸化還元反応を行なうことにより、アノード側で炭酸ジエステルを、カソード側で水を生成させることが開示されている(特許文献7を参照)。この方法では、カソードに担持された触媒と水との接触、爆発混合気体の形成を防止することができる。
【0010】
さらに、基質と還元性物質を含む系の電解酸化を行うための有機電解反応装置であって、ケーシング、アノード活物質からなりイオン伝導性あるいは活性種伝導性であるアノード、カソード活物質からなりイオン伝導性あるいは活性種伝導性であるカソード、及び該ケーシングの外側に設けられて該アノードと該カソードに接続された該アノードと該カソードの間に電圧を印加するための手段を包含し、該アノードと該カソードは該ケーシング中に間隔を置いて設けられ、該ケーシングの内部が、該アノードの内側と該カソードの内側の間に形成された中間室と、該アノードの外側にあるアノード室とに仕切られていることを特徴とする有機電解反応装置を使用して、メタノールと一酸化炭素から炭酸ジメチルを合成することが開示されている(特許文献8を参照)。
【0011】
しかしながら、上記従来の電解反応では、炭素数が2以上の脂肪族有機ヒドロキシ化合物、炭素数が5以上の脂環式有機ヒドロキシ化合物あるいは芳香族有機ヒドロキシ化合物と一酸化炭素との反応は効率的に進行せず、炭酸ジエステルが全く生成しないか、あるいは生成しても収率、選択率とも極めて低く、満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第1,492,757号
【特許文献2】特表昭63−503460号
【特許文献3】特許第2,850,859号
【特許文献4】米国特許第4,131,521号
【特許文献5】米国特許第4,310,393号
【特許文献6】特開平6−173057号
【特許文献7】特開平6−73582号
【特許文献8】WO2003/004728号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】J.Electroanal.Chem,31(1971)265-267
【非特許文献2】J.Electrochem Soc.,123(1976)818-823
【非特許文献3】J.Electrochem Soc.,124(1977)1177-1184
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑み、従来の電解反応では十分な収率及び選択性をもって製造できなかった炭酸ジエステルを、電解反応により十分な収率及び選択率で製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、有機ヒドロキシ化合物類をアルコキシアニオンに変換し、さらに反応液中の水分量を5重量%以下とすることで、一酸化炭素との反応が効率よく進行し、従来の電解反応では十分な収率及び選択性をもって製造できなかった炭酸ジエステルを、電解反応で効率的に製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
即ち、本発明は以下を要旨とするものである。
【0017】
(1) アルコキシアニオンと一酸化炭素とを、白金族元素を含む触媒の存在下に水分量が5重量%以下の反応液中で電解反応させることを特徴とする炭酸ジエステルの製造方法。
【0018】
(2) 白金族元素を含む触媒が、白金族元素が電極に担持された電極触媒である(1)に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【0019】
(3) アルコキシアニオンが炭素数2以上の脂肪族アルコキシアニオン又は炭素数5以上の脂環式アルコキシアニオンである(1)又は(2)に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【0020】
(4) アルコキシアニオンが、炭素数6以上の芳香族アルコキシアニオンである(1)又は(2)に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【0021】
(5) アルコキシアニオンがフェノキシアニオンであり、炭酸ジエステルが炭酸ジフェニルである(4)に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【0022】
(6) 電解反応が、支持電解質を使用しない電解反応である(1)ないし(5)のいずれかに記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電解液等の溶媒、アルキル化剤、カルボニル化剤等の合成原料、ガソリンやディーゼル燃料の添加剤、ポリカーボネートやポリウレタンの原料等として幅広い分野において有用な炭酸ジエステルを、電解反応により、ホスゲン等の有害物質を使用することなく、工業的に実用化し得る程度の収率及び選択率で効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施に好適な電解反応装置の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0026】
本発明の炭酸ジエステルの製造方法は、アルコキシアニオンと一酸化炭素とを、白金族元素を含む触媒の存在下に水分量が5重量%以下の反応液中で電解反応させることにより炭酸ジエステルを製造する方法であり、下記式(1)で表されるアルコキシアニオンと一酸化炭素(CO)との反応で、下記反応式(2)に従って、炭酸ジエステルが製造される。
【0027】
RO (1)
(Rは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、或いは芳香族炭化水素基を表し、これらの炭化水素基は、置換基を有していても良い。)
2RO+CO → RO−C(=O)−OR+2e (2)
【0028】
なお、本明細書において、「アルコキシ」とは、上記式(1)においてRが脂肪族(即ち鎖状)炭化水素基又は脂環式炭化水素基である一般的な有機化学命名法上の「アルコキシ」だけでなく、Rが芳香族炭化水素基である「アリーロキシ」も包含するものである。
【0029】
また、本発明の方法は、1種類のアルコキシアニオンを用いて炭酸ジエステル(RO−C(=O)−OR)を製造する方法に限らず、2種類以上のアルコキシアニオンを用いて、エステル部分の異なる炭酸ジエステルを製造する方法、例えば、アルコキシアニオン(R)とアルコキシアニオン(R)とを用いて、炭酸ジエステル(RO−C(=O)−OR)を製造する方法をも包含する(ここで、R,RはRと同義であり、R≠Rである。)。
【0030】
[アルコキシアニオン]
本発明において、原料として使用するアルコキシアニオンは、前記式(1)で表されるものであるが、前記式(1)において、Rとしては、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基、飽和又は不飽和の脂環式炭化水素基、或いは芳香族炭化水素基が挙げられる。また、これらの炭化水素基が有していても良い置換基としては、例えば、アルキル基、ヒドロキシ基、アリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、スルホン酸基、スルホン基、アミノ基などが挙げられる。
【0031】
より具体的には、Rとしては、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、アリル基、クロチル基などの飽和もしくは不飽和の、直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基、好ましくは炭素数2以上、より好ましくは炭素数2〜10の直鎖又は分岐のアルキル基又はアルケニル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘキセニル基などの飽和もしくは不飽和の脂環式炭化水素基、好ましくは炭素数5以上、より好ましくは炭素数5〜10のシクロアルキル基又はシクロアルケニル基;ベンジル基やα−フェニルエチル基のようなアラルキル基;フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などのアリール基又は置換アリール基、及びこれらの誘導体(水素原子がハロゲン原子、ニトロ基、スルホン酸基、スルホン基、アミノ基などで置換されたもの)などの、置換基を有していても良い、炭素数6以上の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0032】
これらのうち、Rとしては、特に炭素数2以上、好ましくは炭素数2〜10の鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数5以上、好ましくは炭素数5〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6以上、好ましくは炭素数6〜14の芳香族炭化水素基等が好ましく、これにより、従来、特に電解反応による合成が困難であった、これらのアルコキシ基をエステル部分に有する炭酸ジエステルを工業的に有利に合成することができる。なお、ここで「炭素数」とは、当該基が置換基を有する場合、その置換基の炭素数も含めた炭素数である。
【0033】
反応に使用するアルコキシアニオンは、市販されているアルコキシアニオン化合物を使用しても良いし、下述の方法で調製したアルコキシアニオンを使用しても良い。アルコキシアニオンの調製方法としては、対応する有機ヒドロキシ化合物(即ち、下記式(3)で表される有機ヒドロキシ化合物)と塩基性物質とを反応させて、有機ヒドロキシ化合物の水素イオンを脱離することにより製造する方法などが挙げられる。アルコキシアニオンは、電解反応装置内で電解反応と同時進行で合成しても良いし、別途合成しても良い。
【0034】
R−OH (3)
(Rは、式(1)におけると同義である。)
【0035】
アルコキシアニオンの調製に使用する塩基性物質は、有機ヒドロキシ化合物との反応性に応じて選択する必要があるが、金属リチウム、金属ナトリウム、金属カリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、リチウムハイドライドやナトリウムハイドライドなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水素化物、酢酸ナトリウムや炭酸カリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の弱酸塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリフェニルアミン、ジイソプロピルアミン、ジメチルアニリン、ピリジン等のアミン類、三菱化学社製ダイヤイオン(登録商標)SA10Aなどの塩基性イオン交換樹脂などを挙げることが出来る。これらは1種を単独で使用しても良いし2種以上を併用しても良い。
【0036】
塩基性物質の使用量は、有機ヒドロキシ化合物からアルコキシアニオンを生成させることができる反応当量以上であれば良い。
また、塩基性物質は、電解反応に先立ちその必要量を供給する他、電解反応中に複数回に分けて分割供給したり、連続供給したりすることもできる。
【0037】
[白金族元素を含む触媒]
本発明の電解反応で使用する白金族元素を含む触媒の白金族金属元素としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。これらのうち、目的の反応が効率的に進行することからパラジウムが好ましい。
【0038】
上記白金族金属成分は、金属そのものとして、あるいは、担体に担持した状態で使用することができる。担体としては、C(カーボン又は活性炭)や、SiO、Al、TiO、SnO等の金属酸化物が挙げられる。担体は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。担体に対する白金族金属の担持量は通常0.1〜10重量%程度である。また、例えば、M(OCOCH、M(OC、MCl、MBr、M(acac)(MはPd等の白金族金属元素を表し、acacはアセチルアセトナート基を表す。nはMの価数であり、1〜3の整数である。)のような金属化合物としても使用することもできる。
【0039】
触媒の使用形態としては、これらの白金族金属、白金族金属を担体に担持させたもの、あるいは白金族金属を含む化合物の1種又は2種以上を、導電性固体上に担持、成型して電極(陽極)触媒として使用することができる。この場合に用いる導電性固体電極は、例えば、炭素や金属を主成分とする導電性粉末とポリテトラフルオロエチレンのようなバインダー粉末を混練し、圧延成型して作製することができ、電極(陽極)触媒は、例えば、このようにして導電性固体電極を作製する際の混練材料中に適宜上述の触媒成分の1種又は2種以上を混合することにより作製することができる。
【0040】
このような電極触媒に担持される触媒成分量が少ないと反応速度が低下し、多すぎると電極から脱離して不活性化するので経済的でない。従って、電極触媒への触媒成分の担持量は、これを用いる反応系に応じて適宜選択することができるが、例えば、電極面積あたりの有効成分(白金族金属換算)の担持量として0.1〜20μmol/cmが好ましく、1〜15μmol/cmがさらに好ましい。
【0041】
[支持電解質]
本発明の電解反応では、反応を促進するために支持電解質を使用することができる。
【0042】
支持電解質としては、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のアルカリ金属のハロゲン化物;次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸リチウム、次亜ヨウ素酸カリウム、次亜ヨウ素酸リチウム等のアルカリ金属の次亜ハロゲン酸塩;塩素酸カリウム、塩素酸リチウム等のアルカリ金属のハロゲン酸塩;過塩素酸ナトリウム、過ヨウ素酸ナトリウム等のアルカリ金属の過ハロゲン酸塩;塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム等のアルキル四級アンモニウムのハロゲン化物;過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラメチルアンモニウム等のアルキル四級アンモニウムの過ハロゲン酸塩等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0043】
ただし、本発明の電解反応系では、前述したアルコキシアニオンを生成させるために添加する塩基性物質やアルコキシアニオン化合物が電解質として機能し、別途支持電解質を添加する必要がない場合がある。支持電解質を添加しなければ、反応後の目的物と支持電解質との分離操作が不要となり、工業上有利である。
【0044】
[溶媒]
本発明の電解反応では、溶媒を使用しても良いし、使用しなくても良い。
【0045】
溶媒を使用する場合には、電解反応に不活性な(酸化電位の高い)溶媒を選択する必要がある。このような溶媒としては、例えば、アセトニトリル、四塩化炭素、ジクロロメタン(塩化メチレン)、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0046】
本発明の反応基質としてのアルコキシアニオンを、原料となる有機ヒドロキシ化合物が含まれた反応液に、塩基性物質を添加することで調製する場合には、上記溶媒中に有機ヒドロキシ化合物を溶解して用いることができる。溶媒中の有機ヒドロキシ化合物の濃度は、任意の範囲で選択できるが、0.01mol/L以上が好ましく、0.1mol/L以上がさらに好ましい。また、該濃度の上限は、有機ヒドロキシ化合物に対する支持電解質の溶解度によって決まるため、適宜選択することができるが、有機ヒドロキシ化合物に対する支持電解質の溶解度が低い場合は、有機ヒドロキシ化合物の濃度を低く抑える必要がある。有機ヒドロキシ化合物が支持電解質をよく溶かす場合や、支持電解質を使用しない場合は、必ずしも溶媒を使用する必要はない。溶媒を使用しない場合は反応後の目的物と溶媒との分離操作が不要となり、工業上有利である。
【0047】
[水分量]
本発明の電解反応は、反応液中の水分により反応が阻害されるので、水分含有量の少ない原料や溶媒を使用するなどして、反応液中の水分量を5重量%以下、好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは1000重量ppm以下、最も好ましくは800重量ppm以下とする。反応液中の水分量は少ないほど反応効率の面では有利であるが、反応液中の水分量を0.1重量ppm未満とするのは操作に困難が伴い、経済的に不利となるため、通常、反応液中の水分量は0.1重量ppm以上である。
【0048】
本発明において反応液中の水分量とは、陽極と同一の反応区画における反応液に含有される水分量を示す。具体的には、電解反応を回分式で実施する場合は反応開始前の水分量を示し、連続式で実施する場合は供給液中の水分量を示す。反応液中の水分量の測定方法としては、陽極と同一の反応区画の反応液をサンプリングし、これをカールフィッシャー水分計などで測定する方法が挙げられる。
【0049】
反応液中の水分量を上記範囲とするためには、原料や溶媒から水を除去する方法が用いられ、この具体的な方法としては、一般的に用いられる水分除去方法のうちのいかなる方法でも良いが、例えば、蒸留による脱水、モレキュラーシーブ等の水分吸着材による吸着脱水、膜分離による脱水等が挙げられる。
【0050】
また、反応に先立ち、反応液中に窒素やヘリウムのような不活性気体を流通させて、残存する水分や酸素を除去することも有効である。さらに、反応に先立ち、反応液中に一酸化炭素を流通させて反応液中の一酸化炭素濃度を高めておくことで反応初期の反応速度を向上させることができる。
【0051】
[一酸化炭素]
アルコキシアニオンと反応させる一酸化炭素は、アルコキシアニオンを含む反応液中に、反応系の規模に応じた供給量で通気すれば良い。一酸化炭素は電解反応中に反応液に供給することもできるが、一般的には通気を開始してから一定濃度(=飽和濃度)に達するまでに時間を要することから、電解反応に先立ち、即ち、電解反応のための通電に先立ち、反応液中に十分量の一酸化炭素を流通させて溶解させた後、電解反応を開始する。
【0052】
[反応条件]
<反応温度>
本発明の電解反応の反応温度は、反応基質が固化しない範囲で自由に設定できる。好ましくは0℃〜200℃、さらに好ましくは20℃〜100℃である。反応温度を低くするためには、冷却のための設備が必要になり経済的に不利となる。また、反応温度を高くすると、反応基質の蒸発を抑えるために加圧する必要が生じるほか、原料の熱分解等の反応が起きやすくなる。
【0053】
<反応圧力>
反応圧力は減圧とすることもできるが、通常は、常圧あるいは加圧下で行うことができる。好ましくは1〜15気圧である。1気圧より低い圧力ではCO分圧が低下して反応速度が低下し、好ましくなく、15気圧を超えると設備費用が高価となる。
【0054】
<電位・電流>
本発明の電解反応は、定電位電解、定電流電解のいずれも可能である。
定電位電解の場合は電位が低いと反応が進行せず、高いとアルコキシアニオンを生成させるために添加した塩基性物質の酸化が進行して反応が進行しなくなる。好ましい電位は0.01〜5V(vs.Ag/AgCl)、さらに好ましくは0.1〜2V(vs.Ag/AgCl)である。
【0055】
また、定電流電解の場合は電流密度が低いと反応が進行せず、高いとアルコキシアニオンや塩基性物質の直接酸化が進行して選択率が低下する。好ましい電流密度は0.01〜10mA/cm、さらに好ましくは0.05〜5mA/cmである。
【0056】
<反応時間>
電解反応時間は、適宜選択されるが、回分式の場合、例えば0.5〜24時間程度である。
【0057】
<反応方式>
本発明の電解反応は回分式で行っても良いが、好ましくは連続式で行われる。反応器は単一の反応器で構成する必要はなく、複数の反応器を直列、あるいは並列に接続して構成しても良い。複数の反応器で構成する場合、回収ラインからの反応生成物に含まれる未反応のアルコキシアニオン、塩基性物質、一酸化炭素等の原料物質は同一又は異なる反応器の供給ラインに循環しても良い。
【0058】
[反応装置]
本発明の電解反応は、陽極側でアルコキシアニオンと一酸化炭素の酸化反応が進行して炭酸ジエステルを生成するとともに、陰極側では水素イオンが還元される。そこで、用いる装置としては、図1に示す如く、陽極と陰極をイオンを透過する隔膜、例えば、ガラスフィルター、アニオン交換膜等の隔膜で仕切り、陽極室と陰極室に分割したものを用いることもできるが、それが必須の条件ではなく、単一の反応区画に陽極と陰極をおくこともできる。一般には単一の反応区画の反応器の方が構造が単純となり、設備コスト上は有利となる。
【0059】
陰極材としては、通常の電解反応に使用できるものであれば、形状、材質ともに制限はないが、水素過電圧の低いものが好ましい。具体的には炭素、白金等を用いることができる。陽極材としては、陰極材と同様のものを用い、別途白金族元素を含む触媒を陽極室内に存在させても良いが、好ましくは、前述の電極触媒が用いられる。
【0060】
図1は、本発明の炭酸ジエステルの製造方法の実施に好適な電解反応装置の一例を示す模式的な構成図である。
【0061】
10は反応器(電解セル)であり、陽極室11を構成する有底円筒形状の容器部と、陰極室12を構成する有底円筒形状の容器部とが円筒状の連通部13で連結された構造を有する。陽極室11の底部には陽極11Aとして電極触媒が設けられ、陰極室12には陰極12Aが設けられ、これら陽極11Aと陰極12Aが電源20に接続されている。また、連通部13には、イオン透過性の隔膜14が設けられている。11B,12Bは、各々の電極室の上部をおおうための栓である。15は陽極室11内の反応液に一酸化炭素を供給するためのガス供給管である。このガス供給管は、He等の不活性気体を流通させるためのガス供給管を兼ねている。16は、He等の不活性気体を流通させるためのガス供給管である。17はガスサンプリング管を兼ねた塩基性物質の供給管であり、供給管17に設けられたバルブ17Aの切り換えで、ガスのサンプリングを行えるように構成されている。18はガス抜き管である。
【0062】
この電解反応装置では、陽極室11及び陰極室12に、有機ヒドロキシ化合物を含む反応液を投入し、ガス供給管15より一酸化炭素を供給し、また、供給管17より塩基性物質を供給して、電源20により陽極11Aと陰極12Aとの間に通電すると、陽極室11内で陽極11Aの電極触媒の存在下、有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質との反応で生成したアルコキシアニオンと一酸化炭素とが電解反応し、炭酸ジエステルが生成する。なお、同時に一酸化炭素の酸化で二酸化炭素が生成することがある。一方、陰極室12では、水素イオンが還元されて水素ガスが発生する。
なお、反応に先立ち、ガス供給管15,16からHe等の不活性気体を流通させることにより、反応液の水分量を低減することができる。
【0063】
なお、この図1の電解反応装置は、本発明に適用し得る電解反応装置の一例を示すものであって、何ら本発明の実施態様を限定するものではない。
【0064】
[炭酸ジエステルの回収]
本発明の電解反応により生成した炭酸ジエステルは、それ自体公知の通常の方法で回収される。回収方法としては、例えば、蒸留や抽出、あるいは晶析による方法が挙げられる。
【0065】
[用途]
本発明の電解反応により製造された炭酸ジフェニルは、公知の方法により製造された炭酸ジフェニルと同様の用途で使用することができ、例えば、ジヒドロキシ化合物とエステル交換反応させて芳香族ポリカーボネートを製造する際の原料として使用することができる。その他、本発明の電解反応により製造された炭酸エステルは、電解液等の溶媒、アルキル化剤、カルボニル化剤等の合成原料、ガソリンやディーゼル燃料の添加剤、ポリウレタンの原料等として、広範な用途に有用である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
[実施例1]
(1)担持触媒の調製
200mLのビーカーに、イオン交換水100mLと活性炭(和光純薬社製、特級)0.5gを加え、マグネティックスターラーで撹拌しながら、濃度0.03mol/Lの塩化パラジウム酸(HPdCl)水溶液を滴下した。全ての溶液を滴下し終えた後に、100℃に加熱したホットプレート上に溶液が入ったビーカーをおき、水分が無くなるまで蒸発乾固させることにより、黒色状の粉末を得た。この黒色状粉末にはPd金属規準で10.6重量%の塩化パラジウム(PdCl)が含まれていた。
【0068】
(2)電極触媒の作製
上記(1)で得られた黒色状の粉末30mg(Pd含有量30μmol)に、気相成長カーボンファイバー(VGCF)(昭和電工社製、通常品)を125mg、ポリテトラフルオロエチレン粉末(ダイキン社製、F−104)を40mg添加してメノウ乳鉢で混練した。それを120℃のホットプレート上で成型して電極面積5cm(幾何学的面積)の陽極を作製した。この電極触媒の電極面積あたりのPd担持量は6μmol/cmである。
【0069】
(3)電解反応
図1に示した電解反応装置を用いて定電流電解を行った。
陽極としては、上記方法により作製した電極触媒を使用し、陰極としては白金ワイヤーを使用し、隔膜としてはガラスフィルターを使用した。陽極室と陰極室のそれぞれに、フェノール(和光純薬社製、特級)と過塩素酸テトラn−ブチルアンモニウム(TBAP)(東京化成工業社製、特級)の濃度がそれぞれ1Mと0.1Mになるように調整した塩化メチレン(CHCl)(和光純薬社製、特級)の溶液を33mLずつ加えた。陽極室と陰極室の気相部分にヘリウム(ジャパンヘリウムセンター社製、純度99.9995%)を900mL/Hrで10分間流通させることにより溶存する酸素、及び水分を除去し、さらに一酸化炭素(日本酸素社製、純度99.95%)を900mL/Hrで60分間流通させた後、電流密度を0.2mA/cmとして250分間、定電流電解を行った。但し、溶媒の塩化メチレンは、事前にモレキュラーシーブMS4A(和光純薬社製、化学用)により脱水して、水分量が2ppmとなったものを使用した。電解反応の開始時に、トリエチルアミン(EtN)(和光純薬社製 特級)0.00607g(60μmol)を添加し、以後60分毎に60μmolを追加した(合計240μmol)。
【0070】
反応前後で、陽極室及び陰極室の反応液をサンプリングし、含有される水分量をカールフィッシャー水分計(メトローム社製KFクーロメーター831)で測定したところ、ヘリウム流通後の陽極室の反応液の水分量は96重量ppm、陰極室の反応液の水分量は133重量ppmで、反応終了後の陽極室の反応液の水分量は97重量ppm、陰極室の反応液の水分量は109重量ppmであった。
【0071】
また、電解反応液は適時サンプリングを行い、ガスクロマトグラフィー(検出器:FID、カラム 島津製作所社製GC−2010、ZB−1キャピラリーカラム、φ0.25mm×30m、分析条件:インジェクション温度220℃、カラム温度190℃一定、検出器温度250℃)を用いて分析した(分析の際には内部標準物質としてフェナントレン(和光純薬社製、特級)を0.004%になるように加えた)。
【0072】
反応終了後の反応生成物も同様の方法で分析を行った。また、陽極室側のサンプリングガスはオンラインでガスクロマトグラフィー(検出器:TCD、カラム島津製作所社製GC−8A、Porapak Q パックドカラム)に注入し、二酸化炭素を分析した(70℃恒温分析)。
【0073】
その結果、炭酸ジフェニルは最初の60分間に15μmol生成し、それ以降は、ほぼ直線的に生成量が増加して、反応開始後250分の時点での生成量は48.7μmolに達していることが分かった。この時点で反応副生物の二酸化炭素生成量は4.2μmol、通電量は14.4Cで、炭酸ジフェニル(DPC)生成の電流効率は65.3%であった。また、触媒のTON(turnover number)は1.62mol−DPC/mol−Pdであった。
結果の概要は表1に示した。
【0074】
[比較例1:フェノキシアニオンを生成しない電解反応]
電解反応の開始時及び電解反応中にフェノキシアニオンを生成するためのトリエチルアミンを添加しない以外は実施例1と同様の反応液及び反応装置で定電位電解反応を行った。1.0V(Ag/AgCl)で1時間、定電位電解を行った結果、平均電流密度は0.4mA/cm、通電量は2.90Cであったが、炭酸ジフェニル及び二酸化炭素の生成は確認されなかった。
【0075】
[実施例2:トリエチルアミン添加方法の変更]
実施例1と同じ手順で定電流電解を行った。但し、トリエチルアミンは反応スタート時に60μmolを添加し、追加添加は行わなかった。電流密度0.2mA/cmで120分反応を行ったところ7.2Cの通電量で、炭酸ジフェニルが20.5μmol、二酸化炭素が15.5μmol生成した。結果の概要は表1に示した。
【0076】
[実施例3:電流密度の変更1]
実施例2と同じ手順で定電流電解を行った。但し、電流密度を0.4mA/cmとした。120分反応を行ったところ、14.4Cの通電量で、炭酸ジフェニルが18.6μmol、二酸化炭素が8.3μmol生成した。結果の概要は表1に示したが、電流密度を0.4mA/cmとした場合も、良好な結果が得られることが分かった。
【0077】
[実施例4:電流密度の変更2]
実施例2と同じ手順で定電流電解を行った。但し、電流密度を0.82mA/cmとした。60分反応を行ったところ、14.4Cの通電量で、炭酸ジフェニルが16.8μmol、二酸化炭素が2.1μmol生成した。結果の概要は表1に示したが、電流密度を0.82mA/cmとしても良好な結果が得られることが分かった。
【0078】
[実施例5:パラジウム担持量の変更]
パラジウムの電極触媒中の含有量を10μmolとし、反応開始時のトリエチルアミン添加量を20μmolとしたこと以外は実施例3と同じ手順で120分定電流電解を行ったところ、14.4Cの通電量で、炭酸ジフェニルが5.3μmol、二酸化炭素が6.7μmol生成した。結果の概要は表1に示したが、パラジウム量を10μmolとしても、良好な結果が得られることが分かった。
【0079】
[実施例6:溶媒の事前脱水の効果]
実施例2と同じ手順で、電流密度1mA/cmで定電流電解を行った。反応液の水分量は陽極室で98重量ppmであった。60分反応したところ、7.2Cの通電量で炭酸ジフェニルが20.8μmol、二酸化炭素が0.9μmol生成した。結果の概要は表1に示した。同一条件で、溶媒の脱水を行わなかった後掲の実施例8の結果と比べて、溶媒の脱水を行ったほうが、良好な結果が得られることが分かった。
【0080】
[実施例7:塩基性物質としてのナトリウムフェノキサイドの検討]
実施例2と同じ手順で定電流電解を行った。但し、添加する塩基性物質として、トリエチルアミンに代えて、無水ナトリウムフェノキサイド(PhONa)(Alfa Aeser社製)を240μmol添加した。反応液の水分量はヘリウム流通後の陽極室が118重量ppm、陰極室が112重量ppmで、反応終了後の陽極室が167重量ppm、陰極室が143重量ppmであった。電流密度0.2mA/cmで、240分反応したところ炭酸ジフェニルが16.8μmol、二酸化炭素が1.4μmol生成した。結果の概要を表1に示したが、塩基性物質としてナトリウムフェノキサイドを添加した場合にも、良好な結果が得られることが分かった。
【0081】
[実施例8:溶媒の事前脱水の効果]
実施例6と同じ手順で定電流電解を行った。ただし、溶媒は脱水せずに使用した。その結果、反応液の水分量は陽極室で140重量ppmで、7.2Cの通電量で炭酸ジフェニルが16.8μmol、二酸化炭素が10.0μmol生成した。結果の概要は表1に示した。
【0082】
[実施例9:隔膜、溶媒の変更及び支持電解質の非添加]
図1に示した電解セルの隔膜としてアニオン交換膜(旭化成社製A−501)を用いて、定電流電解を行った。陽極室には、脱水したアセトニトリル(MeCN)を30mL、陰極室には同様に脱水したアセトニトリル30mLとフェノールを30mmol及び無水ナトリウムフェノキサイド(Alfa Aeser社製)を0.15mmol入れた。アセトニトリルの脱水は、市販の脱水アセトニトリル(和光純薬社製、有機合成用(脱水品))100mLあたり、300℃で10時間焼成したモレキュラーシーブズ 3A(和光純薬社製、化学用)を約5g添加し、時々振り混ぜながら、12時間以上放置することにより行った。支持電解質である過塩素酸テトラn−ブチルアンモニウムは陽極室、陰極室のいずれにも加えなかった。陽極室と陰極室の気相部分にヘリウム(ジャパンヘリウムセンター社製、純度99.9995%)を900mL/Hrで10分間流通させることにより溶存する酸素、及び水分を除去し、さらに一酸化炭素(日本酸素社製、純度99.95%)を900mL/Hrで60分間流通させた後、電流密度を0.2mA/cmとし、60分毎にナトリウムフェノキサイドを陽極室に60μmolずつ加えながら360分間、定電流電解を行った。反応液の水分量はヘリウム流通後の陽極室が40重量ppm、陰極室が115重量ppmであった。
【0083】
反応の結果、陽極室の炭酸ジフェニルの生成量は、反応開始後360分の時点で52.7μmolに達した。この時点で陰極室の炭酸ジフェニルは0.24μmol(合計52.9μmol)で、二酸化炭素生成量は31.8μmolであった。結果の概要は表1に示した。
【0084】
[実施例10:隔膜なしの電解反応装置]
図1に示した電解セルの隔膜を取り外して定電流電解を行った。セルには実施例9と同様の手順で脱水したアセトニトリル60mL、フェノール60mmol及び1.0mmolの無水ナトリウムフェノキサイドを20mLのアセトニトリルに溶解した溶液を入れた。支持電解質である過塩素酸テトラn−ブチルアンモニウムは加えなかった。電流密度を0.2mA/cmとし、17時間定電流電解を行った。ナトリウムフェノキサイドの追加は行わなかった。反応液の水分量は100重量ppmであった。
反応の結果、37.4μmolの炭酸ジフェニルと23.6μmolの二酸化炭素が生成した。結果の概要は表1に示した。
【0085】
[実施例11:反応液水分の影響(脱水していない溶媒使用)]
実施例10と同じ方法で定電流電解を行った。ただし、アセトニトリルは脱水せずに使用した。反応液の水分量は637重量ppmであった。10時間反応した結果、19.7μmolの炭酸ジフェニルと39.6μmolの二酸化炭素が生成した。結果の概要は表1に示した。
【0086】
[比較例2:反応液水分の影響]
実施例10と同じ方法で定電流電解を行った。ただし、アセトニトリルは脱水せずに使用し、塩基性物質としてはナトリウムフェノキサイド・3水和物(Aldrich社製、特級)を16mmol添加した。その結果、反応液の水分量は64,000重量ppmであった。3時間反応したが、炭酸ジフェニルは生成が確認されなかった。
【0087】
[実施例12:塩基性物質としてのリチウムフェノキサイドの検討]
100mLのイオン交換水にフェノール3mmolと水酸化リチウム(和光純薬工業社製)3mmolを溶かして中和した後、エバポレータで減圧乾燥を行い、リチウムフェノキサイド(PhOLi)を得た。その後、実施例9と同じ手順で脱水したアセトニトリルを加えて50mM溶液を調製した。上記方法により製造したリチウムフェノキサイドをナトリウムフェノキサイドに換えたほかは実施例10と同じ手順で15時間の定電流電解を行った。反応液の水分量は115重量ppmであった。
反応の結果、31.0μmolの炭酸ジフェニルと23.0μmolの二酸化炭素が生成した。結果の概要は表1に示した。
【0088】
[実施例13:塩基性物質としてのカリウムフェノキサイドの検討]
実施例12のリチウムフェノキサイドと同様の手順で、フェノール3mmolと水酸化カリウム(和光純薬工業社製)3mmolからカリウムフェノキサイド(PhOK)を製造し、これをナトリウムフェノキサイドに換えたほかは実施例10と同じ手順で16時間の定電流電解を行った。反応液の水分量は122重量ppmであった。
反応の結果、42.9μmolの炭酸ジフェニルと15.7μmolの二酸化炭素が生成した。結果の概要は表1に示した。
【0089】
[参考例1:量論反応]
上部に冷却水を通した凝縮器を装備したフラスコに、実施例1の(1)に記載されている方法と同じ方法で調製した塩化パラジウム(PdCl)を30μmol、塩化メチレン(和光純薬社製、特級)を20mL、電解質として過塩素酸テトラn−ブチルアンモニウム(東京化成工業社製、特級)を3mmol入れ、ヘリウム(ジャパンヘリウムセンター社製、純度99.9995%)を10分間流通させて水分を除去した。
その後、3Mのフェノール(和光純薬社製、特級)/塩化メチレン(和光純薬社製、特級)を10mL加え、一酸化炭素を1時間流通させた。さらに、トリエチルアミン(和光純薬社製 特級)60μmolを加えて、30℃で1時間反応したところ、7.3μmolの炭酸ジフェニルと6.4μmolの二酸化炭素が生成した。このことから、この反応条件においては、パラジウム30μmolあたり、7.3μmolの炭酸ジフェニル及び6.4μmolの二酸化炭素が電解反応によらずに生成していることになる。
【0090】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、電解液やポリカーボネートの原料等として有用な炭酸ジエステルを、工業的に実用化し得る程度に効率よく、かつホスゲン等の毒性物質を使用することなく製造する方法を提供するものである。
【符号の説明】
【0092】
10 反応器(電解セル)
11 陽極室
11A 陽極
12 陰極室
12A 陰極
14 隔膜
15,16 ガス供給管
20 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシアニオンと一酸化炭素とを、白金族元素を含む触媒の存在下に水分量が5重量%以下の反応液中で電解反応させることを特徴とする炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項2】
白金族元素を含む触媒が、白金族元素が電極に担持された電極触媒である請求項1に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項3】
アルコキシアニオンが炭素数2以上の脂肪族アルコキシアニオン又は炭素数5以上の脂環式アルコキシアニオンである請求項1又は2に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項4】
アルコキシアニオンが、炭素数6以上の芳香族アルコキシアニオンである請求項1又は2に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項5】
アルコキシアニオンがフェノキシアニオンであり、炭酸ジエステルが炭酸ジフェニルである請求項4に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項6】
電解反応が、支持電解質を使用しない電解反応である請求項1ないし5のいずれかに記載の炭酸ジエステルの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−215647(P2009−215647A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28581(P2009−28581)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】