説明

炭酸ストロンチウム粒子の製造方法、及び、炭酸ストロンチウム粒子

【課題】セラミックス、サーミスタ用途に適する微細な炭酸ストロンチウム粒子、及び該粒子を工業的に効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】炭酸ストロンチウム粒子の製造方法であって、ストロンチウム源と炭酸源との湿式反応工程を含み、前記反応は、攪拌手段を備えた反応器中で、1.0×10kW/m〜1.0×10kW/mの攪拌動力密度での攪拌下で行われる製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な炭酸ストロンチウム粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ストロンチウムはブラウン管用ガラス、液晶用ガラス、フェライト磁石、誘電セラミックス材料及びサーミスタの原料として使用されている。
【0003】
電子機器の小型化に伴い、誘電セラミックス材料、例えば積層セラミックスコンデンサについても小型でかつ高容量のものが要求されている。小型で、かつ高容量の積層セラミックスコンデンサを製造するには、積層セラミックスコンデンサの構成要素である誘電体層を薄くする必要がある。
【0004】
誘電体層は、通常固相反応により製造される。固相反応においては、原料の粒子径が誘電体層の厚みに影響し、原料の粒子径が大きい場合、誘電体層を充分に薄くすることができない。そのような理由から、積層セラミックスコンデンサを小型化するためには、出発原料である炭酸ストロンチウム粒子の粒子径を小さくする必要がある。
【0005】
炭酸ストロンチウムの工業的な製法としては、ストロンチウム源と炭酸源を、攪拌機を備えた反応容器内に導入し反応させる等の方法が知られている(例えば特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−124198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の工業的製造方法によれば、充分に微細な炭酸ストロンチウム粒子を得ることは困難であった。
【0008】
本発明は、簡便な製造ステップで、粒子径の小さい炭酸ストロンチウム粒子を工業的に効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、従来の攪拌機よりも高い攪拌動力密度で攪拌することにより、粉砕工程等の追加の工程を行うことなく、高効率で微細な炭酸ストロンチウムを製造することができる。すなわち、本発明は炭酸ストロンチウム粒子の製造方法であって、ストロンチウム源と炭酸源との湿式反応工程を含み、上記反応は、攪拌手段を備えた反応器中で、1.0×10kW/m〜1.0×10kW/mの攪拌動力密度での攪拌下で行われる製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の炭酸ストロンチウム粒子の製造方法により、微細な炭酸ストロンチウム粒子を工業的に効率よく製造することができる。また、本発明により製造された炭酸ストロンチウム粒子は、セラミックス、サーミスタ用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で得られた炭酸ストロンチウム粒子の透過型電子顕微鏡写真。
【図2】実施例2で得られた炭酸ストロンチウム粒子の透過型電子顕微鏡写真。
【図3】比較例1で得られた炭酸ストロンチウム粒子の透過型電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(炭酸ストロンチウムの製造方法)
本発明の炭酸ストロンチウム粒子の製造方法は、ストロンチウム源と炭酸源との湿式反応工程を含むものであって、一定の高速攪拌下で行うことを特徴とする。
【0013】
ストロンチウム源は、特に限定されないが、溶液に調整可能なストロンチウム化合物、例えば水酸化ストロンチウム、塩化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、及び酢酸ストロンチウムからなる群から選択される一種を用いるのが好ましい。
【0014】
ストロンチウム源は、溶液状で用いるのが好ましい。ストロンチウムを含有する溶液は、その濃度が好ましくは1.25質量%〜10質量%、より好ましくは1.25質量%〜5質量%である。該ストロンチウム源含有溶液は、特に限定されないが、25℃〜80℃の温度にて調製することができる。
【0015】
炭酸源は、特に限定されないが、炭酸ガス(二酸化炭素ガス)、炭酸、ドライアイス等の二酸化炭素源、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩、及び尿素から選択することができる。気体状の炭酸ガスを除く他の炭酸源は、予め溶液状態に調製したのち、反応に用いるのが好ましい。
【0016】
炭酸源の濃度は、特に限定されないが、ストロンチウム源1モルに対して1.0〜1.5モルの割合で導入するのが好ましい。
【0017】
ストロンチウム源の反応器への導入方法は、特に限定されないが、反応器内に予め導入しておくバッチ式と、連続的に導入する連続式より選択できる。バッチ式で導入不可能な反応器、例えばポンプの場合は、連続式での導入が好ましい。
【0018】
ストロンチウム源と炭酸源の反応は湿式で行われる。溶媒は特に限定されないが、水が好ましい。また水以外に水溶性の有機溶媒を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の特徴は反応時において一定の高速で攪拌を行う点にある。本発明において使用できる攪拌手段は、特に限定されないが、ポンプ、ミクロアジター、サンドミル、ボールミル等があげられる。高い攪拌動力密度を得るためにより好適な反応器はミクロアジター、及びサンドミルである。
【0020】
攪拌度は攪拌動力密度によって表わすことができる。攪拌動力密度とは、反応器内の体積(m)当たりの攪拌動力(kW)であり、一定の体積の物質を攪拌する場合は、攪拌動力密度が大きいほど、高速で攪拌が行われることを意味する。
【0021】
本発明の製造方法における攪拌動力密度は1.0×10kW/m〜1.0×10kW/mである。攪拌動力密度が1.0×10kW/m未満であれば、炭酸ストロンチウムの粒子径が大きくなる傾向があり、所望の微細粒子が得られないおそれがある。一方、1.0×10kW/mを超える攪拌動力密度は一般的な製造装置においては達成が難しく、危険性を伴う場合があり、好ましくない。
【0022】
本発明の製造方法においては、結晶成長を防止する薬剤を添加せずに微細な粒子を得ることができる。上記結晶成長を防止する薬剤としては、ヒドロキシカルボン酸、多価アルコール、カルボン酸、及びこれらの塩が挙げられる。
【0023】
具体例としては、上記ヒドロキシカルボン酸としては、特に限定されないが、グルコール酸、乳酸、クエン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、メバロン酸、及びパントイン酸が挙げられる。
【0024】
上記多価アルコールとしては、特に限定されないが、エチレングリコール、グリセリン、キシリトール、プロピレングリコール及びソルビトールが挙げられる。
【0025】
カルボン酸は、特に限定されないが、シュウ酸、酪酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸及び吉草酸が挙げられる。
【0026】
本発明の製造方法の、好ましい一実施形態を説明する。但し本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0027】
(好ましい実施形態の一例)
好ましい実施形態の一例においては、
ストロンチウム源を含有する溶液を準備し、
ストロンチウム源を含有する上記溶液と、気体状又は溶液状の炭酸源とを、攪拌手段を備えた反応器に導入し、
該反応器内で、1.0×10kW/m〜1.0×10kW/mの攪拌動力密度での攪拌下、pHが6〜11の懸濁液を調製し、
該懸濁液から、生成した炭酸ストロンチウム粒子を回収する。
【0028】
まずストロンチウム源を含有する溶液を準備する。ストロンチウム源については上述のものが使用できる。溶媒については、水及び水溶性有機溶媒を利用できるが、水、又は水と水溶性有機溶媒の混合物が好ましい。ストロンチウム源は、溶媒に完全に溶解した溶液状であるのが好ましい。
【0029】
次にストロンチウム源と炭酸源とを、攪拌手段を備えた反応器に導入する。反応器への導入の順序は特に限定されず、ストロンチウム源を先に導入してもよく、炭酸源を先に導入してもよく、ストロンチウム源と炭酸源とを同時に導入してもよい。また原料はバッチ式で導入してもよく、反応器へ連続的に導入してもよい。炭酸源が炭酸ガスである場合には、ストロンチウム源を反応器に導入した後、反応の進行を見ながら炭酸ガスを導入するのが好ましい。
【0030】
炭酸源としては上述のものが使用できる。炭酸源が気体の場合には、反応器にそのまま気体として導入する。炭酸源が固体の場合、炭酸源は、その炭酸塩を含む溶液として導入することができる。溶媒については、水、水溶性有機溶媒を利用できるが、水、又は水と水溶性有機溶媒の混合物が好ましい。
【0031】
上記反応器内で、1.0×10kW/m〜1.0×10kW/mの攪拌動力密度で攪拌することにより、懸濁液を得る。攪拌手段としては、特に限定されないが、ミクロアジター、サンドミルが好ましい。ミクロアジター、サンドミルを用いることにより、高速での攪拌が達成できる。
【0032】
本実施形態において、懸濁液のpHは6〜11である。pHは、好ましくは7〜10である。
【0033】
その後、上記懸濁液から、生成した炭酸ストロンチウム粒子を回収する。典型的には、懸濁液を濾過し、得られた固形分を乾燥させることにより、所望の炭酸ストロンチウム粒子を回収することができる。
【0034】
(炭酸ストロンチウム粒子)
本発明の製造方法により得られる炭酸ストロンチウム粒子は、平均長軸径が50〜150nm、好ましくは70〜100nmの範囲であり、アスペクト比(=平均長軸径/平均短軸径)の平均が1〜3の範囲である。
【0035】
なお、本発明において、炭酸ストロンチウムの平均長軸径は、透過型電子顕微鏡写真の粒子の長軸径を特定の個数(例えば50個、又はそれ以上)分測定し、その平均値を求めたものである。またアスペクト比は、同様に透過型電子顕微鏡写真より平均短軸径を求め、平均長軸径を平均短軸径で割った値である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、特に断りの無い限り、「%」は「質量%」を表す。
【0037】
[実施例1]
約20℃の水4978gに炭酸水素アンモニウム22gを投入し、0.44質量%の炭酸水素アンモニウム水溶液を調製した。約20℃の水4937gに塩化ストロンチウム・6水和物63gを投入し、1.25質量%の塩化ストロンチウム水溶液を調製した。約20℃の水4978gに炭酸水素アンモニウム22gを投入し、0.44質量%の炭酸水素アンモニウム水溶液を調製した。上記手順にて調製した塩化ストロンチウム水溶液及び炭酸水素アンモニウム水溶液を、それぞれ塩化ストロンチウム水溶液1L/分、炭酸水素アンモニウム水溶液1L/分で連続的にサンドミルへ導入し炭酸化反応を行った。メディアは直径0.5mmジルコニアビーズを使用し、サンドミルの有効体積に対し43%充填した。この時の攪拌動力密度は7.7×10kW/mであった。サンドミルから排出された懸濁液のpHは7.9であった。懸濁液をろ過後105℃にて乾燥して、炭酸ストロンチウム粒子を得た。炭酸ストロンチウムの形状を透過型電子顕微鏡で観察したところ、平均長軸径63nm、アスペクト比2であった。
【0038】
[実施例2]
反応容器に約20℃の水987g及び、水酸化ストロンチウム・8水和物13gを投入し、1.25質量%の水酸化ストロンチウム水溶液を調整した。反応容器にpHメータの電極を挿入し、ミクロアジターで攪拌しながら二酸化炭素ガスを6mL/分で導入した。この時の攪拌動力密度は6.6×10kW/mであった。pHが6〜8に達した時点で二酸化炭素ガスの導入を止めた。懸濁液をろ過後105℃にて乾燥して、炭酸ストロンチウム粒子を得た。炭酸ストロンチウムの形状を透過型電子顕微鏡で観察したところ、平均長軸径108nm、アスペクト比2であった。
【0039】
[比較例1]
80℃に加熱した水6750gに水酸化ストロンチウム・8水和物750gを投入し、10質量%の水酸化ストロンチウム水溶液を調整した。1段目及び2段目の反応容器に水をそれぞれ400g及び750gを投入した。攪拌機(攪拌翼を備えたミキサー)で攪拌しながら、上記手順にて調製した水酸化ストロンチウム水溶液を1段目の反応容器に60ml/分で連続的に投入し、同時に二酸化炭素ガスを280mL/分で導入して炭酸化反応を行った。1段目の反応容器から排出された懸濁液を2段目の反応容器に連続的に投入し、攪拌機で攪拌しながら二酸化炭素ガスを280mL/分で導入した。この時、1段目の攪拌動力密度は3.8kW/mであり、2段目の攪拌動力密度は5.3kW/mであった。2段目の反応器から排出された懸濁液のpHは10.5であった。懸濁液をろ過後105℃にて乾燥して、炭酸ストロンチウム粒子を得た。炭酸ストロンチウムの形状を透過型電子顕微鏡で観察したところ、平均長軸径420nm、アスペクト比2であった。
【0040】
上記実施例及び比較例の条件及び結果を表1に示す。また、実施例及び比較例で得られた炭酸ストロンチウム粒子の透過型電子顕微鏡写真を図1〜3に示す。
【0041】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ストロンチウム粒子の製造方法であって、
ストロンチウム源と炭酸源との湿式反応工程を含み、
前記反応は、攪拌手段を備えた反応器中で、1.0×10kW/m〜1.0×10kW/mの攪拌動力密度での攪拌下で行われる
製造方法。
【請求項2】
ストロンチウム源を含有する溶液を準備し、
ストロンチウム源を含有する前記溶液と、気体状又は溶液状の炭酸源とを、攪拌手段を備えた反応器に導入し、
該反応機内で、1.0×10kW/m〜1.0×10kW/mの攪拌動力密度での攪拌下、pHが6〜11の懸濁液を調製し、
該懸濁液から、生成した炭酸ストロンチウム粒子を回収する
請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記攪拌手段は、ミクロアジター又はサンドミルである請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
結晶成長を防止する薬剤を添加しない請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記結晶成長を防止する薬剤は、ヒドロキシカルボン酸、多価アルコール若しくはカルボン酸、又はそれらのいずれかの塩である請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
(平均長軸径/平均短軸径)で表されるアスペクト比が1〜3であり、
平均長軸径が50〜150nmである
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法により得られる炭酸ストロンチウム粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−153536(P2012−153536A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11035(P2011−11035)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】