説明

点火コイル

【課題】隙間によって熱応力を緩和しつつ、当該隙間の進展に起因する損傷が回避可能な点火コイルの提供。
【解決手段】点火プラグに火花放電を生じさせる電圧を生成する点火コイル100である。点火コイル100は、樹脂材料によって形成される一次スプール60と、エナメル銅線が外周壁60aに筒状に巻回しされてなる一次コイル70、外周壁60aの外周側を覆いつつ一次コイル70を被覆するエポキシ樹脂26、を備えている。一次コイル70及びエポキシ樹脂26の一体要素において内周壁70aの両端部77,78が、一次スプール60の外周壁60aと、当該外周壁60aの軸方向の中間である剥離部66を避けるようにして、接着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火プラグに火花放電を生じさせる電圧を生成する点火コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バッテリー等の電源から供給される電圧を昇圧することにより、点火プラグに火花放電を生じさせる電圧を生成する点火コイルとして、例えば特許文献1に開示の点火コイルが、知られている。特許文献1に開示の点火コイルは、樹脂材料によって筒状に形成される二次スプールと、導電性の線材が二次スプールに巻回しされてなる二次コイルと、二次スプールを覆いつつ二次コイルを被覆するエポキシ樹脂、を備えている。さらに特許文献1の点火コイルには、二次スプールの外周壁に接着されて、二次コイルを被覆するエポキシ樹脂の内周壁を剥離可能にするシリコン製の薄膜フィルムが、設けられている。
【0003】
この薄膜フィルムの機能を、以下説明する。点火コイルの製造後、当該点火コイルの温度が下降した場合、二次スプールと二次コイルとの線膨張率の違いに起因して、二次スプールの外周壁と二次コイルを被覆するエポキシ樹脂の内周壁との間には、熱応力が生じる。しかし、エポキシ樹脂の内周壁は、二次スプールの外周壁に接着された薄膜フィルムから剥離することにより、当該外周壁との間に径方向の隙間を形成する。この径方向の隙間は、点火コイルの温度変化によって拡縮することにより、外周壁及び内周壁間の熱応力を緩和する作用を発揮するのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−111545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、特許文献1に開示の点火コイルにおいて、薄膜フィルムを軸方向に挟む部分には、エポキシ樹脂が、充填されて硬化している。このエポキシ樹脂の内部には、微小なクラックが、点火コイルの温度変化によって生じている。故に、点火コイルの温度変化によって隙間の拡縮が繰り返された場合には、当該隙間は、エポキシ樹脂内に生じていたクラックと繋がることによって、軸方向に進展してしまう。そのため、スプール及びエポキシ樹脂間の隙間によって熱応力を緩和することができたとしても、隙間の進展に起因して、スプール及びコイルが損傷するおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、隙間によって熱応力を緩和しつつ、当該隙間の進展に起因する損傷が回避可能な点火コイルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、点火プラグに火花放電を生じさせる電圧を生成する点火コイルであって、樹脂材料によって形成され、筒面状の外周壁を有するスプール部材と、導電性の線材が外周壁に筒状に巻回しされてなる巻線部、及び外周壁の外周側を覆いつつ巻線部を被覆する被覆部、を有するコイル体と、を備える点火コイルにおいて、コイル体の内周壁は、スプール部材の外周壁と、当該外周壁の軸方向の中間を避けて接着されることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、樹脂材料によって形成されるスプール部材と、導電性の線材を巻回ししてなる巻線部との線膨張率の違いに起因して、点火コイルの温度下降時にスプール部材の外周壁とコイル体の内周壁との間に熱応力が生じ得る。しかし、コイル体の内周壁が、スプール部材の外周壁と軸方向の中間を避けて接着されることにより、内周壁の軸方向の中間の部分は、外周壁から剥離することで当該外周壁との間に径方向の隙間を形成し得る。この径方向の隙間は、点火コイルの温度変化によって拡縮することにより、外周壁及び内周壁間の熱応力を緩和する。
【0009】
加えて、上述の隙間を軸方向に挟むようにして、コイル体の内周壁は、スプール部材の外周壁と接着されている。故に、点火コイルの温度変化によって隙間の拡縮が繰り返されたとしても、当該隙間は、外周壁に接着されている部分の内周壁によって軸方向への進展を抑制される。したがって、スプール部材及びコイル体間の隙間によって熱応力を緩和しつつ、当該隙間の進展に起因するスプール部材及び巻線部の損傷を低減することが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、コイル体は、被覆部と接合されて筒状の内周壁を形成する膜状のシート部材、を有し、シート部材における軸方向の両端部としてのシート両端部が、スプール部材の外周壁と、個別に接着されることを特徴とする。
【0011】
この発明では、被覆部と接合されてコイル体の内周壁を形成する膜状のシート部材と、スプール部材の外周壁との間に、点火コイルの温度によって拡縮可能な径方向の隙間が、形成される。加えて、軸方向の両端部としてのシート両端部が、スプール部材の外周壁と個別に接着されるので、シート部材は、径方向の隙間とコイル体を形成する被覆部とを隔てている。故に、被覆部内の微小なクラックと繋がることにより生じる隙間の軸方向への進展は、シート部材によって妨げられる。したがって、シート部材によって内周壁を形成することにより、径方向の隙間による熱応力の緩和効果の確実性、及び隙間の進展に起因する損傷を回避する効果の確実性は、共に向上する。
【0012】
請求項3に記載の発明では、スプール部材は、シート部材としての第一シート部材と径方向に対向して外周壁を形成する膜状の第二シート部材、を有し、第一シート部材のシート両端部は、第二シート部材と個別に接着されることを特徴とする。
【0013】
この発明では、コイル体の内周壁が第一シート部材によって形成され、スプール部材の外周壁が第二シート部材によって形成されている。故に、第一シート部材のシート両端部と第二シート部材との接着を予め実施した後で、第一シート部材と被覆部との接合及び第二シート部材とスプール部材との接合を実施することが可能となる。第一シート部材と第二シート部材との接着を予め実施することによって、これらの接着を強固なものとすることが、容易となる。故に、第二シート部材と接着された第一シート部材のシート両端部は、径方向の隙間とコイル体の被覆部とを確実に隔て得る。以上のようにして、第一シート部材及び第二シート部材間の接着の信頼性が向上することにより、隙間の進展に起因する損傷を回避する効果は、長期に亘る点火コイルの使用においても、継続的に発揮可能となる。
【0014】
請求項4に記載の発明では、第一シート部材の線膨張係数は、第二シートの線膨張係数よりも、巻線部の線膨張係数に近く、第二シート部材の線膨張係数は、第一シートの線膨張係数よりも、スプール部材の線膨張係数に近いことを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、第二シート部材の線膨張係数よりも、第一シート部材の線膨張係数は、巻線部の線膨張係数に近いので、巻線部を被覆する被覆部と第一シート部材との間に生じる熱応力は、低減され得る。また、第一シート部材の線膨張係数よりも、第二シート部材の線膨張係数は、スプール部材の線膨張係数に近いので、スプール部材を形成する樹脂材料と第二シート部材との間に生じる熱応力は、低減され得る。これらにより、点火コイルの温度変化が繰り返されたとしても、被覆部からの第一シート部材の剥離、及びスプール部材を形成する樹脂材料からの第二シート部材の剥離は、生じ難いものとなる。故に、第一シート部材及び第二シート部材の剥離によって熱応力の緩和に寄与しない隙間が生じ、さらにこの隙間が進展してしまう事態は、回避可能となる。
【0016】
請求項5に記載の発明では、シート部材において、シート両端部は、内周側に曲げられることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、シート部材のシート両端部が内周側に曲げられているので、当該シート両端部は、湾曲した円滑な形状となり易い。故に、シート部材と接合されてシート両端部に臨む被覆部の界面も、円滑な形状となり得る。故に、被覆部の界面における応力集中が抑制されるので、当該界面を起点としたクラックの発生は、低減される。以上により、被覆部の界面から進展するクラックによってスプール部材及び巻線部の損傷する事態は、回避可能となる。
【0018】
請求項6に記載の発明では、シート部材は、内周側に曲げられたシート両端部間を軸方向に連結して外周壁に接着される連結部、を形成することを特徴とする。
【0019】
この発明のように、シート両端部が曲げられている形態では、シート両端部は、シート部材の復元力によって、スプール部材の外周壁から剥離し易くなるおそれがある。しかし、曲げられたシート両端部間を軸方向に連結する連結部が、シート両端部と共に外周壁に接着されることにより、シート部材は、外周壁から剥離し難くなる。以上により、シート部材の外周壁からの剥離によって熱応力の緩和に寄与しない隙間が生じ、さらにこの隙間が進展してしまう事態は、回避可能となる。
【0020】
請求項7に記載の発明では、シート部材は、外周壁まわりに一周を越える長さで周回することを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、シート部材が外周壁まわりに一周を越える長さで周回しているので、外周壁及び内周壁間の径方向の隙間は、スプール部材の全ての径方向において形成可能となる。以上により、スプール部材の全周に亘って形成された隙間が、熱応力を緩和する作用を発揮して、熱応力による点火コイルの損傷を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一実施形態による点火コイルの縦断面図である。
【図2】本発明の第一実施形態による点火コイルの横断面図である。
【図3】本発明の第一実施形態による点火コイルの要部を拡大した要部拡大図である。
【図4】第一シート及び第二シートの構成を詳しく説明するための図であって、(a)は、特徴部分の横断面図であって、(b)は、(a)のIVB部分を拡大した拡大図である。
【図5】本発明の第一実施形態による点火コイルにおいて、隙間が熱応力を緩和する作動を説明するための縦断面図である。
【図6】図5の変形例を示す図である。
【図7】図4(b)の変形例を示す図であって、図6のVII−VII線断面図である。
【図8】図6の変形例を示す図である。
【図9】図6の別の変形例を示す図である。
【図10】図5の別の変形例を示す図である。
【図11】図10の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0024】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態による点火コイル100の縦断面図である。図2は、点火コイル100の横断面図である。点火コイル100は、点火プラグ(図示しない)と電気的に接続されて、シリンダヘッド(図示しない)において気筒毎に形成されたプラグホール内に収容されている。以下、図1及び図2に基づいて、点火コイル100の基本構成を説明する。
【0025】
点火コイル100は、樹脂材料からなる円筒状のハウジング11を備えている。このハウジング11内に形成された収容室11aには、中心コア12、磁石13,14、二次スプール21、二次コイル22、一次スプール60、一次コイル70、及び外周コア25等が収容されている。収容室11aには、樹脂絶縁材としてエポキシ樹脂26が充填されている。
【0026】
中心コア12は、横断面がほぼ円形となるように薄い珪素鋼板を直径方向に積層することによって、円柱状に形成されている。中心コア12の軸方向の両端面は、一対の磁石13,14と個別に対向している。これら磁石13,14には、一次コイル70により励磁される磁束の方向とは逆方向の極性を有するように、磁極が着磁されている。また、中心コア12の外周側には、筒状のゴム材50が軸方向の全域にわたって装着されている。
【0027】
二次スプール21は、樹脂材料によって円筒状に成形されている。二次スプール21は、ゴム材50を装着した中心コア12の外周側に位置している。二次コイル22は、銅等の導電性の線材が二次スプール21の外周壁に筒状に巻回しされることにより、形成されている。二次コイル22は、後述する高圧ターミナル40と電気的に接続されている。
【0028】
一次スプール60は、例えばポにフェニレンエーテル(PPE)等の樹脂材料によって、円筒状に形成されていたスプール本体部69を主体としている。一次スプール60は、二次コイル22の外周側に配設されている。一次スプール60は、当該一次スプール60の外周壁60aから外周側にフランジ状に突出する一対の鍔部60b(図3参照)を有している。一次コイル70は、銅等の導電性の線材を主体とするエナメル銅線が一次スプール60の有する円筒面状の外周壁60aに円筒状に巻回しされることにより、形成されている。このエナメル銅線は、一対の鍔部60bによって挟まれた範囲に巻回しされる。一次コイル70は、当該一次コイル70への通電を制御するパワートランジスタ等のスイッチング素子(図示しない)と、後述するターミナル31を通じて電気的に接続されている。
【0029】
外周コア25は、薄い珪素鋼板を円筒状に曲げることにより形成されている。外周コア25は、一次コイル70の外周側に位置している。外周コア25は、磁石13の外周を覆う位置から磁石14の外周を覆う位置まで、軸方向に延伸している。外周コア25は、上述の中心コア12、二次コイル22、及び一次コイル70等と協働で、点火コイル100の磁気回路を形成している。
【0030】
エポキシ樹脂26は、摂氏100〜150度程度にて硬化する熱硬化性樹脂である。エポキシ樹脂26は、収容室11a内に充填され、点火コイル100内の各部材間に浸透した後、硬化させられる。これによりエポキシ樹脂26は、一次スプール60の外周壁60aの外周側等を覆いつつ、一次コイル70を形成するエナメル銅線等を被覆することにより、各構成間の電気的な絶縁を形成している。
【0031】
コネクタ30は、シリンダヘッドのプラグホールから突出するように、ハウジング11の軸方向の上端部に設けられている。コネクタ30には、一次コイル70に制御信号を供給するためのターミナル31が、埋設されている。第一実施形態の点火コイル100では、一次コイル70に制御信号を供給するスイッチング素子は、当該点火コイル100の外部に設けられている。
【0032】
高圧ターミナル40は、導電性の材料によって柱状に形成され、ハウジング11の軸方向の下端部に設けられたプラグ接続部11bに、埋設されている。高圧ターミナル40は、軸方向の両端部のうち、一方の端部を二次コイル22と接続され、他方の端部をスプリング41と接続されている。プラグ接続部11bに装着されたプラグキャップ16に点火プラグが挿入されることにより、スプリング41は、当該点火プラグと接続される。以上の構成により、一次コイル70の電圧を二次コイル22で昇圧することにより生成される高電圧は、高圧ターミナル40及びスプリング41を介して点火プラグに印加される。これにより点火プラグは、火花放電を生じさせる。
【0033】
(特徴部分)
次に、第一実施形態の特徴部分である第一シート75及び第二シート65について、図2〜図4に基づいて詳細に説明する。尚、図3及び図4では、説明を分かり易くするために、説明に必要な構成のみが、形状を簡略化されて図示されている。
【0034】
第一シート75及び第二シート65は、可撓性を有する膜状のシート部材であって、互いに実質的に同一な形状に形成されている。第一シート75及び第二シート65は、円筒状を呈するように曲げられた形態にて、一次コイル70及びエポキシ樹脂26からなる一体要素70,26と一次スプール60との間に、配置されている。
【0035】
第一シート75は、例えばポリアミドによって矩形の帯状に形成されている。第一シート75は、第二シート65よりも外周側において、一次スプール60の外周壁60aまわりに一周を越える長さで周回している。第一シート75は、硬化したエポキシ樹脂26の接着作用によって、一体要素70,26に接合されており、当該一体要素70,26の円筒状の内周壁70aを形成している。また、矩形帯状に形成された第一シート75の四つの縁部は、接着剤92等によって、全周に亘って第二シート65と接着されている。第一シート75を形成するポリアミドの線膨張率は、31×10−6 1/℃であって、一次コイル70を形成するエナメル銅線の線膨張率17×10−6 1/℃に近い。
【0036】
第二シート65は、例えばポリスチレンによって、第一シート75と実質的に同一の形状である矩形の帯状に形成されている。第二シート65は、第一シート75と径方向に対向するように、当該第一シート75の内周側に位置している。第一シート75は、一体要素70,26の内周壁70aに沿って一周を越える長さで周回している。第二シート65は、接着剤92等によって一次スプール60に接着されることにより、当該一次スプール60の外周壁60aを形成している。第二シート65を形成するポリスチレンの線膨張率は、70×10−6 1/℃であって、スプール本体部69を形成するPPEの線膨張率77×10−6 1/℃に近い。
【0037】
これら第一シート75及び第二シート65を備える点火コイル100を製造する工程のうち、特徴的なものについて、以下説明する。
【0038】
まず、第一シート75及び第二シート65は、四つの縁部を接着剤92によって互いに接着される。そして、第一シート75及び第二シート65は、第二シート65を内周側とした状態で、スプール本体部69の外周面69aに、一周以上の長さで周回させられる(図4(a)参照)。そして、第二シート65は、スプール本体部69の外周面69aに接着剤92によって接着されて、当該一次スプール60の外周壁60aを形成する。次に、第一シート75の外周側へのエナメル銅線の巻回しにより、一次コイル70が形成される。そして、エポキシ樹脂26の充填及び硬化によって、第一シート75は、当該エポキシ樹脂26に接着される。
【0039】
以上の工程にて製造された点火コイル100において、第二シート65と接着される第一シート75の四つの縁部のうち、一次スプール60の軸方向において対向する一対を、シート端部77及びシート端部78とする。また、第二シート65において、これらシート両端部77,78によって軸方向に挟まれた中間の部分を、第一剥離部76とする。さらに、第二シート65において、第一剥離部76と径方向に対向する部分を、第二剥離部66とする。第一シート75のシート両端部77,78は、一次スプール60の外周壁60aを形成する第二シート65と、個別に接着されている。
【0040】
また、点火コイル100において、第二シート65と接着された第一シート75の四つの縁部のうち、一次スプール60への巻き始めとなる端部をシート周端部79aとし、一次スプール60への巻き終わりとなる端部をシート周端部79bとする(図4(b)参照)。これらシート両周端部79a,79bは、接着によって閉じた状態とされている。また、一次スプール60への一周以上の巻回しにより、シート両周端部79a,79bは、これらの中間に形成される第一剥離部76及び第二剥離部66と、径方向に重なり得る。
【0041】
以上の構成による点火コイル100は、エポキシ樹脂26の高温での硬化直後において、図5(a)に示されるように、第一シート75及び第二シート65を互いに密着させている。この状態から、当該点火コイル100の温度が下降したとする。すると、一次スプール60と一次コイル70との線膨張率の違いに起因して、一体要素70,26の内周壁70aは、一次スプール60の外周壁60aから、離間しようとする。このとき、図5(b)に示されるように、一体要素70,26の内周壁70aを形成する第一シート75の第一剥離部76は、一次スプール60の外周壁60aを形成する第二シート65の第二剥離部66から剥離する。以上のようにして一体要素70,26の内周壁70aが一次スプール60の外周壁60aから離間することにより、第一シート75及び第二シート65間に、径方向の隙間90が、形成される。また、点火コイル100の温度が点火コイル100の使用により上昇した場合、隙間90は、図5(c)に示されるように、縮小する。このような点火コイル100の温度変化によって拡縮する隙間90は、外周壁60a及び内周壁70a間の熱応力を緩和することができる。
【0042】
ここまで説明した第一実施形態によれば、図5(b)に示されるように、第一シート75は、隙間90を軸方向に挟むようにして、第二シート65に接着されている。故に、点火コイル100の温度変化によって隙間90の拡縮が繰り返されたとしても、当該隙間90は、外周壁60aに接着されているシート両端部77,78によって軸方向への進展を抑制される。したがって、隙間90によって熱応力を緩和しつつ、当該隙間90の進展に起因する一次スプール60及び一次コイル70の損傷を低減することが可能となる。
【0043】
加えて第一実施形態によれば、第一シート75のシート両端部77,78が第二シート65と個別に接着されることにより、第一シート75は、隙間90とエポキシ樹脂26とを隔て得る。故に、エポキシ樹脂26内の微小なクラックと繋がることにより生じる隙間90の軸方向への進展は、第一シート75によって妨げられる。このような第一シート75の機能によって、隙間90による熱応力の緩和効果の確実性、及び隙間90の進展に起因する損傷を回避する効果の確実性は、共に向上する。
【0044】
また第一実施形態では、第一シート75のシート両端部77,78と第二シート65との接着を予め実施した後で、第一シート75と一体要素70,26との接合及び第二シート65と一次スプール60の本体部分との接合が実施される。このように、第一シート75と第二シート65との接着を予め実施することによって、これらの接着は、正確かつ確実に実施され易くなる。これにより、第一シート75及び第二シート65間の接着は、強固なものとなり得る。故に、第一シート75のシート両端部77,78は、隙間90とエポキシ樹脂26とを隔てる機能を確実に発揮し得る。以上のようにして、第一シート75及び第二シート65間の接着の信頼性が向上することにより、隙間90の進展に起因する損傷を回避する効果は、長期に亘る点火コイル100の使用においても、継続的に発揮可能となる。
【0045】
さらに第一実施形態によれば、第二シート65の線膨張率よりも、第一シート75の線膨張係数は、エナメル銅線の線膨張係数に近い。故に、エポキシ樹脂26と第一シート75との間に生じる熱応力は、低減され得る。以上により、点火コイル100の温度の増減によって一体要素70,26が膨縮した場合においても、第一シート75は、接着されたエポキシ樹脂26から剥離し難い。このため、第一シート75及びエポキシ樹脂26間に隙間が生じる事態は、回避可能となる。
【0046】
また、第一シート75の線膨張率よりも、第二シート65の線膨張係数は、スプール本体部69の線膨張係数に近い。故に、スプール本体部69と第二シート65との間に生じる熱応力は、低減され得る。以上により、点火コイル100の温度の増減によって一次スプール60が膨縮した場合においても、第二シート65は、接着されたスプール本体部69から剥離し難い。このため、第二シート65及びスプール本体部69間に隙間が生じる事態は、回避可能となる。
【0047】
これらにより、第一シート75の第一剥離部76及び第二シート65の第二剥離部66の剥離によって、熱応力の緩和に寄与しない生じる隙間が生じ、さらにこの隙間が進展することにより一次スプール60及び一次コイル70等を損傷させてしまう事態は、回避可能となるのである。
【0048】
また加えて第一実施形態では、第二シート65と接着されている第一シート75のシート両周端部79a,79bには、隙間90は形成されない。しかし、一周を越えて各シート75,65を周回させているので、隙間90は、一次スプール60の全ての径方向において形成可能となる。以上により、全周に亘って形成された隙間90が、熱応力を緩和する作用を発揮して、熱応力による点火コイル100の損傷を抑制する。このように、各シート75,65が一周を越える長さで周回する構成は、複数のシート75,65を径方向に重ねる形態に好適なのである。
【0049】
尚、第一実施形態において、一次スプール60が特許請求の範囲の「スプール部材」に相当し、一次コイル70が特許請求の範囲の「巻線部」に相当し、エポキシ樹脂26が特許請求の範囲の「被覆部」に相当し、一次コイル70及びエポキシ樹脂26からなる一体要素が特許請求の範囲の「コイル体」に相当し、第一シート75が特許請求の範囲の「シート部材」及び「第一シート部材」に相当し、第二シート65が特許請求の範囲の「第二シート部材」に相当する。
【0050】
(第二実施形態)
図6及び図7に示される本発明の第二実施形態は、第一実施形態の変形例である。第二実施形態では、第一実施形態の第一シート75(図3参照)に相当するシート275が設けられている。加えて、第二実施形態では、第一実施形態の第二シート65(図3参照)に相当する構成が省略されている。これにより、スプール本体部69によって一次スプール60の外周壁60aが形成されている。
【0051】
シート275は、例えばポリアミドによって矩形の帯状に形成されている。シート275は、袋状を呈しており、矩形帯状をなす四つの縁部が全周に亘って閉じられている。シート275は、一次スプール60の外周壁60aまわりに一周を越える長さで周回している(図4(a)参照)。シート275は、外周壁60aを周回する状態にて環状の縦断面を形成し、内周側に曲げられたシート両端部77,78と、これらシート両端部77,78間を軸方向に連結する連結部276bとを有する。シート両端部77,78は、接着剤92等によって一次スプール60の外周壁60aと個別に接着されている。加えて、連結部276bも、シート両端部77,78間にて外周壁60aと接着されている。
【0052】
また、連結部276bの外周側に位置し、硬化したエポキシ樹脂26の接着作用によって、一体要素70,26と接合されている部分が、剥離部276aである。この剥離部276aの接合によって、シート275は、一体要素70,26の円筒状の内周壁70aを形成している。また、剥離部276aは、連結部276bと接着されておらず、当該連結部276bから剥離可能である。さらに、シート275のシート両周端部79a,79b(図7参照)は、一次スプール60へのシート275の一周以上の巻回しによって、これらの中間に形成される剥離部276a及び連結部276bと、径方向に重なり得る。
【0053】
以上の構成では、エポキシ樹脂26の高温での硬化直後において、剥離部276a及び連結部276bは、図6(a)に示されるように、互いに密着している。この状態から、点火コイル100の温度が下降したとする。すると、一次スプール60と一次コイル70との線膨張率の違いに起因して、一体要素70,26の内周壁70aは、一次スプール60の外周壁60aから、離間しようとする。このとき、図6(b)に示されるように、一体要素70,26の内周壁70aを形成するシート275の剥離部276aは、一次スプール60の外周壁60aと接着された連結部276bから剥離する。以上のようにして一体要素70,26の内周壁70aが一次スプール60の外周壁60aから離間することにより、外周壁60a及び内周壁70a間に、径方向の隙間90が、形成される。また、点火コイル100の温度が上昇した場合、隙間90は、図6(c)に示されるように、縮小する。このような点火コイル100の温度変化によって拡縮する隙間90は、第二実施形態においても、外周壁60a及び内周壁70a間の熱応力を緩和することができる。
【0054】
ここまで説明した第二実施形態では、図6(b)に示されるように、袋状を呈するシート275の内部に、隙間90が形成される。故に、隙間90とエポキシ樹脂26とは、シート275によって確実に隔てられ得る。そのため、点火コイル100の温度変化によって隙間90の拡縮が繰り返されたとしても、当該隙間90は、シート両端部77,78によって軸方向への進展を抑制される。したがって、隙間90によって熱応力を緩和しつつ、当該隙間90の進展に起因する一次スプール60及び一次コイル70の損傷を低減することが可能となる。
【0055】
加えて第二実施形態によれば、内周側に曲げられたシート両端部77,78は、湾曲した円滑な形状となる。故に、シート両端部77,78に臨むエポキシ樹脂26の界面も、円滑な形状となり得る。これにより、エポキシ樹脂26の界面における応力集中が抑制されるので、当該界面を起点としたクラックの発生は、低減される。以上により、エポキシ樹脂26の界面から進展するクラックによって一次スプール60及び一次コイル70の損傷する事態は、回避可能となる。
【0056】
また第二実施形態のように、シート両端部77,78が曲げられている形態では、シート275の復元力によって、シート両端部77,78は、一次スプール60の外周壁60aから剥離し易くなるおそれがある。しかし、シート両端部77,78と共に連結部276bが外周壁60aに接着されることにより、シート275は、外周壁60aから剥離し難くなる。以上により、シート275の外周壁60aからの剥離によって熱応力の緩和に寄与しない隙間が生じ、さらにこの隙間が進展してしまう事態は、回避可能となる。
【0057】
さらに第二実施形態では、一周を越えて第一シート75を周回させているので、隙間90は、一次スプール60の全ての径方向において形成可能となる。以上により、全周に亘って形成された隙間90が、熱応力を緩和する作用を発揮して、熱応力による点火コイル100の損傷を抑制する。このように、一周を越える長さでシート275を周回させる構成は、隙間90を形成できないシート両周端部79a,79bを有する第二実施形態に好適なのである。
【0058】
尚、第二実施形態において、シート275が特許請求の範囲の「シート部材」に相当する。
【0059】
(第三実施形態)
図8に示される本発明の第三実施形態は、第二実施形態の変形例である。第三実施形態では、第二実施形態のシート275(図6参照)とは形状の異なるシート375が設けられている。
【0060】
シート375は、例えばポリアミドによって矩形の帯状に形成されて、一次スプール60の外周壁60aまわりに一周を越える長さで周回している。シート375の矩形帯状をなす四つの縁部のうち、一次スプール60の軸方向において対向する一対は、内周側に折り曲げられた状態にて、接着剤92等によって外周壁60aと接着されている。このようにして、内周側に曲げられて、外周壁60aと個別に接着されているシート両端部77,78が形成されている。シート両端部77,78は、内周側に曲げられた形状により、第二実施形態と同様に、エポキシ樹脂26の界面における応力集中を抑制でき、ひいては当該界面を起点としたクラックの発生を低減させる。
【0061】
シート375において、外周壁60aと径方向に対向し、硬化したエポキシ樹脂26の接着作用によって、一体要素70,26と接合されている部分が、剥離部276aである。この剥離部276aの接合によって、シート375は、一体要素70,26の円筒状の内周壁70aを形成している。また、剥離部276aは、外周壁60aと接着されておらず、当該外周壁60aから剥離可能である。
【0062】
以上の構成では、エポキシ樹脂26の高温での硬化直後において、剥離部276aは、図8(a)に示されるように、外周壁60aに密着している。この状態から、点火コイル100の温度が下降したとすると、一体要素70,26の内周壁70aは、一次スプール60の外周壁60aから、離間しようとする。このとき、図8(b)に示されるように、一体要素70,26の内周壁70aを形成するシート375の剥離部276aは、一次スプール60の外周壁60aから剥離する。以上のようにして一体要素70,26の内周壁70aが一次スプール60の外周壁60aから離間することにより、外周壁60a及び内周壁70a間に、径方向の隙間90が、形成される。また、点火コイル100の温度が上昇した場合、隙間90は、図8(c)に示されるように、縮小する。
【0063】
ここまで説明した第三実施形態では、図8(b)に示されるように、シート375と外周壁60aとの間に形成される隙間90は、シート375によってエポキシ樹脂26と確実に隔てられ得る。そのため、点火コイル100の温度変化によって隙間90の拡縮が繰り返されたとしても、当該隙間90は、シート両端部77,78によって軸方向への進展を抑制される。したがって、隙間90によって熱応力を緩和しつつ、当該隙間90の進展に起因する一次スプール60及び一次コイル70の損傷を低減することが可能となる。
【0064】
加えて、第三実施形態では、第二実施形態のように曲げられることなく、シート両端部77,78が外周壁60aに接着されている。故に、シート両端部77,78近傍において、これらシート両端部77,78を覆うエポキシ樹脂26の径方向の変位が抑制される。故に、エポキシ樹脂26の内部におけるクラックの発生が、低減可能となる。故に、このクラックが拡大することにより、一次スプール60及び一次コイル70等を損傷させてしまう事態は、回避可能となる。このような効果は、上述した第一実施形態においても同様に発揮される。
【0065】
尚、第三実施形態において、シート375が特許請求の範囲の「シート部材」に相当する。
【0066】
(第四実施形態)
図9に示される本発明の第四実施形態は、第二実施形態の別の変形例である。第四実施形態では、第二実施形態のシート275及び第三実施形態のシート375とは異なる形状のシート475が設けられている。
【0067】
シート475は、例えばポリアミドによって矩形の帯状に形成されて、一次スプール60の外周壁60aまわりに一周を越える長さで周回している。シート475の矩形帯状をなす四つの縁部のうち、一次スプール60の軸方向において対向する一対は、接着剤92等によって外周壁60aと接着されている。このようにして外周壁60aと個別に接着されているシート両端部77,78が形成されている。シート475において、シート両端部77,78間に位置する部分が、剥離部276aである。剥離部276aは、外周壁60aと径方向に対向し、硬化したエポキシ樹脂26の接着作用によって、一体要素70,26と接合されている。また、剥離部276aは、外周壁60aと接着されておらず、当該外周壁60aから剥離可能である。このように剥離部276aが一体要素70,26と接合されることにより、シート475は、当該一体要素70,26の円筒状の内周壁70aを形成している。
【0068】
以上の構成では、エポキシ樹脂26の高温での硬化直後において、剥離部276aは、図9(a)に示されるように、外周壁60aに密着している。この状態から、点火コイル100の温度が下降したとすると、図9(b)に示されるように、一体要素70,26の内周壁70aを形成するシート475の剥離部276aは、一次スプール60の外周壁60aから剥離する。以上のようにして一体要素70,26の内周壁70aが一次スプール60の外周壁60aから離間することにより、外周壁60a及び内周壁70a間に、径方向の隙間90が、形成される。また、点火コイル100の温度が上昇した場合、隙間90は、図9(c)に示されるように、縮小する。
【0069】
ここまで説明した第四実施形態では、図9(b)に示されるように、シート475と外周壁60aとの間に形成される隙間90は、シート475によってエポキシ樹脂26と確実に隔てられ得る。そのため、隙間90の拡縮が繰り返されたとしても、当該隙間90の軸方向への進展は、シート両端部77,78によって抑制される。したがって、隙間90によって熱応力を緩和しつつ、当該隙間90の進展に起因する一次スプール60及び一次コイル70の損傷を低減することが可能となる。
【0070】
尚、第四実施形態において、シート475が特許請求の範囲の「シート部材」に相当する。
【0071】
(第五実施形態)
図10に示される本発明の第五実施形態は、第一実施形態の別の変形例である。第五実施形態では、第一実施形態の第一シート75(図4参照)に相当する構成が省略されている。これにより、一次コイル70及びエポキシ樹脂26によって、これらの内周壁70aが形成されている。一方で、第二シート65(図4参照)に替えて、剥離シート565がスプール本体部69の外周面69aに接着されている。
【0072】
剥離シート565は、シリコン等によって矩形の帯状に形成されて、スプール本体部69の外周面69aまわりに一周を越える長さで周回している。剥離シート565は、スプール本体部69の外周面69aにおいて、軸方向の中央に、接着剤92等によって接着されている。これにより、剥離シート565は、スプール本体部69と共に一次スプール60の外周壁60aを形成する。
【0073】
一次スプール60の外周壁60aにおいて、剥離シート565を軸方向に挟む位置には、一対の接着部567,568が設けられている。各接着部567,568には、一次コイル70が接着剤92等によって個別に接着されている。エポキシ樹脂26の充填及び硬化によれば、各接着部567,568は、当該エポキシ樹脂26及び一次コイル70からなる一体要素を保持する。一方で、エポキシ樹脂26による接着作用は、剥離シート565には作用し難い。故に、一体要素70,26の内周壁70aにおいて、剥離シート565と径方向に対向する部分は、当該剥離シート565から剥離可能な剥離部276aとなる。
【0074】
以上の構成では、エポキシ樹脂26の高温での硬化直後において、一体要素70,26の内周壁70aは、図10(a)に示されるように、剥離シート565に密着している。この状態から、点火コイル100の温度が下降したとすると、図10(b)に示されるように、一体要素70,26の内周壁70aの剥離部276aは、外周壁60aを形成する剥離シート565から剥離する。以上のような内周壁70aの外周壁60aからの離間によって、外周壁60a及び内周壁70a間に、径方向の隙間90が、形成される。また、点火コイル100の温度が上昇した場合、隙間90は、図10(c)に示されるように、縮小する。
【0075】
ここまで説明した第五実施形態では、図10(b)に示されるように、剥離シート565と内周壁70aとの間に形成される隙間90は、当該隙間90を軸方向に挟むようにして内周壁70aを保持する接着部567,568によって、軸方向への進展を抑制される。したがって、隙間90によって熱応力を緩和しつつ、当該隙間90の進展に起因する一次スプール60及び一次コイル70の損傷を低減することが可能となる。
【0076】
(第六実施形態)
図11に示される本発明の第六実施形態は、第五実施形態の変形例である。第六実施形態では、一次コイル70の接着される接着部567,568が、剥離シート565の外周面に設けられている。このような形態においても、各接着部567,568は、当該エポキシ樹脂26及び一次コイル70からなる一体要素を保持する。加えて、軸方向において接着部567,568に挟まれた部分の剥離シート565は、一体要素70,26の内周壁70aを剥離させることができる。
【0077】
以上の構成によれば、図11(a)に示されるように、剥離シート565と密着していた一体要素70,26の内周壁70aの剥離部276aは、点火コイル100の温度の下降によって、図11(b)に示されるように、剥離シート565から剥離する。以上による内周壁70aの外周壁60aからの離間によって、外周壁60a及び内周壁70a間に、径方向の隙間90が、形成される。また、点火コイル100の温度が上昇した場合、隙間90は、図11(c)に示されるように、縮小する。
【0078】
ここまで説明した第六実施形態でも、隙間90の軸方向への進展は、接着部567,568によって抑制される。したがって、隙間90によって熱応力を緩和しつつ、当該隙間90の進展に起因する一次スプール60及び一次コイル70の損傷を低減することが可能となる。
【0079】
(他の実施形態)
以上、本発明による複数の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0080】
上記実施形態では、第一シート75及びシート275,375,475は、ポリアミドによって形成されていた。また、第二シート65は、ポリスチレンによって形成されていた。しかし、これら各シートを形成する材料は、スプール本体部及び一次コイルの材料等によって、適宜変更されてよい。上述したポリアミド及びポリスチレンに加えて、例えばポリイミド、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、及び塩化ビニール等が、各シートの材料として用いることが可能である。これらのうち、ポリエステル及びポリエチレンテレフタレート等は、エポキシ樹脂26との接着性に優れるため、「第一シート部材」及び「シート部材」として、特に好適である。
【0081】
上記実施形態では、第一シート75及び第二シート65間の接着は、これらシートが、一次スプール60に接着されるよりも前の工程にて、実施されていた。しかし、各構成を接着する工程の順序は、適宜変更されてよい。
【0082】
上記実施形態では、各シートは、スプール本体部の外周面まわりに一周を越える長さで周回していた。しかし、各シートの長さは、一周未満であってもよい。また、複数のシートによって、外周壁及び内周壁のうちのいずれかが形成される形態であってもよい。さらには、径方向にシートが3層以上積層された形態であってもよい。
【0083】
上記実施形態では、各シートを、一次コイル70と一次スプール60との間に設ける形態について説明した。しかし、熱応力を緩和しつつクラックの進展を抑制する「シート部材」は、二次コイル及び二次スプール間に設けられていてもよい。このような形態では、「シート部材」は、二次コイル及び二次スプールの損傷を抑制することができる。
【符号の説明】
【0084】
11 ハウジング、11a 収容室、11b プラグ接続部、12 中心コア、13,14 磁石、16 プラグキャップ、21 二次スプール、22 二次コイル、25 外周コア、26 エポキシ樹脂(被覆部,コイル体)、30 コネクタ、31 ターミナル、40 高圧ターミナル、41 スプリング、50 ゴム材、60 一次スプール(スプール部材)、60a 外周壁、60b 鍔部、65 第二シート(第二シート部材)、565 剥離シート、66 第二剥離部、567,568 接着部、69 スプール本体部、69a 外周面、70 一次コイル(巻線部,コイル体)、70a 内周壁(コイル体)、75 第一シート(第一シート部材,シート部材、コイル体)、275,475 シート(シート部材、コイル体)、76 第一剥離部(コイル体)、276a 剥離部(コイル体)、276b 連結部、77,78 シート端部、79a,79b シート周端部、90 隙間、92 接着剤、100 点火コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火プラグに火花放電を生じさせる電圧を生成する点火コイルであって、
樹脂材料によって形成され、筒面状の外周壁を有するスプール部材と、
導電性の線材が前記外周壁に筒状に巻回しされてなる巻線部、及び前記外周壁の外周側を覆いつつ前記巻線部を被覆する被覆部、を有するコイル体と、を備える点火コイルにおいて、
前記コイル体の内周壁は、前記スプール部材の前記外周壁と、当該外周壁の軸方向の中間を避けて接着されることを特徴とする点火コイル。
【請求項2】
前記コイル体は、前記被覆部と接合されて筒状の前記内周壁を形成する膜状のシート部材、を有し、
前記シート部材における軸方向の両端部としてのシート両端部が、前記スプール部材の前記外周壁と、個別に接着されることを特徴とする請求項1に記載の点火コイル。
【請求項3】
前記スプール部材は、前記シート部材としての第一シート部材と径方向に対向して前記外周壁を形成する膜状の第二シート部材、を有し、
前記第一シート部材の前記シート両端部は、前記第二シート部材と個別に接着されることを特徴とする請求項2に記載の点火コイル。
【請求項4】
前記第一シート部材の線膨張係数は、前記第二シートの線膨張係数よりも、前記巻線部の線膨張係数に近く、
前記第二シート部材の線膨張係数は、前記第一シートの線膨張係数よりも、前記スプール部材の線膨張係数に近いことを特徴とする請求項3に記載の点火コイル。
【請求項5】
前記シート部材において、前記シート両端部は、内周側に曲げられることを特徴とする請求項2に記載の点火コイル。
【請求項6】
前記シート部材は、内周側に曲げられた前記シート両端部間を軸方向に連結して前記外周壁に接着される連結部、を形成することを特徴とする請求項5に記載の点火コイル。
【請求項7】
前記シート部材は、前記外周壁まわりに一周を越える長さで周回することを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項に記載の点火コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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