説明

点眼剤及び洗眼剤

【課題】他の防腐成分を含有しなくとも防腐安定性に優れるうえ、眼粘膜に対する刺激もなく、しかもコンタクトレンズを装用した状態でも使用することのできる、点眼剤又は洗眼剤に用いる組成物を提供すること。
【解決手段】点眼又は洗眼に用いる組成物であって、1,2−オクタンジオール、所望によりホウ酸及び/又はホウ砂を含有することを特徴とする組成物、並びに該組成物からなる点眼剤又は洗眼剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点眼剤又は洗眼剤に用いる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、点眼剤や洗眼剤に用いる組成物には、製品の防腐安定性のために、塩化ベンザルコニウムやパラベン類などの防腐剤が配合されている。しかし、このような防腐剤成分は、眼粘膜に刺激を与える場合があり、特にコンタクトレンズ装着者やドライアイの患者には顕著であった。
【0003】
また、コンタクトレンズ装着者やドライアイの患者は、頻繁に点眼剤を使用することから、刺激性の防腐剤を配合しない点眼剤を好んで使用する傾向がある。
【0004】
そこで、従来の防腐剤を配合せず、組成物の防腐安定性と眼粘膜刺激を抑制する試みがなされている。特許文献1では、パンテノールに、ホウ酸及び/又はその塩と、1分子中に3個以上の水酸基を有する化合物とを配合した眼科用組成物が報告されている。また、特許文献2では、トロメタモールとホウ酸とを特定比で配合した眼科用組成物が報告されている。
【0005】
一方、1,2−オクタンジオールが、化粧品、医薬品、食品等の防腐殺菌剤として使用できることが報告されている(特許文献3を参照)。しかし、特許文献3では、整髪剤、マッサージクリーム、ニキビ予防剤などの外用剤への応用は開示されているものの、コンタクトレンズ装用者でも使用でき、点眼剤や洗眼剤としての使用可能性については、開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−265357号公報
【特許文献2】特開2004−2364号公報
【特許文献3】特開平11−322591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みて為されたものであって、他の防腐成分を含有しなくとも防腐効果に優れるうえ、眼粘膜に対する刺激もなく、しかもコンタクトレンズを装用した状態でも使用することのできる、点眼剤又は洗眼剤に用いる組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、
〔1〕点眼又は洗眼に用いる組成物であって、1,2−オクタンジオールを含有することを特徴とする組成物、
〔2〕更に、ホウ酸及び/又はホウ砂を含有することを特徴とする前記〔1〕に記載の組成物、
〔3〕前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物からなることを特徴とする点眼剤、並びに
〔4〕前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物からなることを特徴とする洗眼剤
に関する。
【発明の効果】
【0009】
1,2−オクタンジオールを含有してなる点眼又は洗眼に用いる組成物は、他の防腐成分を含有しなくとも防腐効果に優れるうえ、眼粘膜に対する刺激もなく、しかもコンタクトレンズに対する吸着性もなく、コンタクトレンズを装着したまま使用できるという効果を奏する。
【0010】
更に、ホウ酸及び/又はホウ砂を含有してなる点眼又は洗眼に用いる組成物は、酵母やカビ等の真菌に対する防腐効果が相乗的に増強されるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】二元最小発育阻止濃度から、抗菌性を有する二種類の物質を配合した場合に生じる作用効果を判定する方法の一例を示す図である。
【図2】(a)は、試験例2の口腔カンジダ症菌に対する二元最小発育阻止濃度図である。(b)は、試験例2のクロカビに対する二元最小発育阻止濃度図である。
【図3】実施例4及び比較例2〜3の各薬剤濃度におけるウサギ角膜上皮細胞の細胞生存率を表す図である。
【図4】実施例5〜6及び比較例4の各試料におけるソフトコンタクトレンズへの吸着量及び放出量を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の点眼又は洗眼に用いる組成物は、1,2−オクタンジオールが含有される。1,2−オクタンジオールの含有量は、本発明の効果を発揮すれば特に限定されないが、防腐効果の観点から0.05w/v%以上を含有すると良く、眼粘膜への刺激抑制並びに溶解性の観点から0.3w/v%以下を含有すると良い。これらから、組成物中の1,2−オクタンジオールの含有量は、0.05〜0.3w/v%を原則とする。
【0013】
本発明の点眼又は洗眼に用いる組成物には、更に、ホウ酸及び/又はホウ砂を含有させることができる。これにより、酵母やカビなどの真菌類に対して、抗菌活性が更に相乗的に増強される。
【0014】
ホウ酸及び/又はホウ砂の含有量は、本発明の効果を発揮すれば特に限定されないが、防腐効果の観点から0.05w/v%以上を含有すると良く、眼粘膜への刺激抑制並びに溶解性の観点から1w/v%以下を含有すると良い。これらから、組成物中のホウ酸及び/又はホウ砂の含有量は、0.05〜1w/v%を原則とする。
【0015】
尚、1,2−オクタンジオールと、ホウ酸及び/又はホウ砂との混合比は、相乗的な抗菌活性が発揮されれば特に限定されないが、好ましくは質量比で0.1:1〜10:1、より好ましくは0.2:1〜5:1となるように含有させれば良い。1,2−オクタンジオールをホウ酸及び/又はホウ砂の含有量の10質量倍を超えて配合すると、また0.1質量倍未満の場合、抗菌活性の十分な増強効果が期待できないために好ましくない。
【0016】
本発明の点眼又は洗眼に用いる組成物には、上記した成分の他、点眼剤や洗眼剤に通常用いられる成分を、その配合目的に応じて適宜配合することができる。例えば、薬効成分、溶解補助剤、緩衝剤、等張化剤、安定化剤、懸濁化剤、界面活性剤、キレート剤、粘稠化剤等を挙げることができ、これらは本発明の効果を損なわない範囲で常用量配合することができる。
【0017】
具体的には、薬効成分としては、例えば、コンドロイチン硫酸ナトリウム(角膜保護)、塩酸ピリドキシン(代謝促進)、L−アスパラギン酸カリウム、メチル硫酸ネオスチグミン、マレイン酸クロルフェニラミン(抗ヒスタミン)、グリチルリチン酸二カリウム(抗炎症)、プラノプロフェン(抗炎症)、クロモグリク酸ナトリウム(抗アレルギー)、トラニラスト(抗アレルギー)、オフロキサシン(抗菌)等を挙げることができる。
【0018】
溶解補助剤としては、例えば、ポリソルベート80、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ステアリン酸ポリオキシル40等を挙げることができる。
【0019】
緩衝剤としては、例えば、クエン酸又はその塩、酒石酸又はその塩、グルコン酸又はその塩、酢酸又はその塩、リン酸又はその塩等を挙げることができる。尚、本発明の組成物は点眼又は洗眼用であることから、点眼又は眼に入った場合に刺激を緩和する観点から、緩衝剤を用いる場合は、組成物のpHが4〜9の範囲となるように添加することが好ましく、pHが5〜8の範囲となるように添加することがより好ましい。
【0020】
等張化剤としては、水溶性で眼刺激性などの悪影響を示さないものであれば、特に制限はなく、例えば、ソルビトール、グルコース、マンニトール、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム等を挙げることができる。
【0021】
安定化剤としては、例えばアスコルビン酸、エデト酸ナトリウム、シクロデキストリン、縮合リン酸又はその塩、亜硫酸塩、クエン酸又はその塩等を挙げることができる。
【0022】
懸濁化剤としては、例えばメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0023】
界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等の非イオン界面活性剤;ラウロイルサルコシンナトリウム、ラウロイル−L−グルタミン酸トリエタノールアミン、ミリスチルサルコシンナトリウム等の陰イオン界面活性剤;ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、塩酸アルキルジアミノグリシン等の両性界面活性剤;塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム等の陽イオン界面活性剤を挙げることができる。
【0024】
キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、縮合リン酸又はその塩等を挙げることができる。
【0025】
粘稠剤としては、例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コンドロイチン硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0026】
本発明の点眼又は洗眼に用いる組成物は、従来の防腐剤を含有しなくとも優れた防腐効果を発揮するうえ、眼に適用しても刺激を生じないことから、点眼剤や洗眼剤に好適に用いることができる。
【0027】
また、本発明の組成物は、コンタクトレンズに対する吸着性がなく、しかも水濡れ効果に優れレンズ装用時の異物感を低減できることから、コンタクトレンズを装用したままで点眼や洗眼をすることもできる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。尚、配合量は特記しない限り、w/v%である。
【0029】
試験例1:保存効力試験
(試料の調製)
表1に示す組成に従い、各実施例及び比較例の点眼又は洗眼に用いる組成物を常法により調製した。尚、表中、精製水の「バランス」とは、全量100mLとする量を表す。また、水酸化ナトリウム及び塩酸の「適量」とは、系のpHが7.0となるように調整するのに必要な量を表す。
【0030】
【表1】

【0031】
(試験菌)
試験菌としてStaphylococcus aureus ATCC6538(黄色ブドウ球菌)、Escherichia coli ATCC8739(大腸菌)、Pseudomonas aeruginosa ATCC9027(緑膿菌)、Candida albicans ATCC10231(口腔カンジダ症菌)及びAspergillus niger ATCC16404(クロカビ)を用いた。
【0032】
(試験方法)
比較例1及び実施例1〜3の各組成物の保存効力を、日本薬局方(第十五改正)に収載の「保存効力試験法」に準じて、保存効力の試験を行い、その効力を判定した。すなわち、各組成物10mLずつ5本の滅菌済みの共栓付試験管に分注し、上記の試験菌を10個/mLとなるように接種後、20〜25℃の雰囲気下で保管した。
【0033】
保管開始14日後及び28日後に各試験管から1mLを分取し、滅菌生理食塩液9mLに混和し10倍希釈した。その希釈液1mLを滅菌シャーレに分注し、細菌類については、レシチン0.1% ポリソルベート80 0.7%添加ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地で希釈して30〜35℃で1日間培養した。また、真菌類については、レシチン0.1% ポリソルベート80 0.7%添加サブロー・ブドウ糖寒天培地で希釈し、口腔カンジダ症菌は20〜25℃で2日間培養し、クロカビは20〜25℃で7日間培養した。各培養後、生成したコロニー数を測定した。結果を、表2〜3に示す。尚、表中の数字は、生菌数を表す。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
表2〜3の結果から、1,2−オクタンジオールを含有した、本発明の点眼又は洗眼に用いる組成物は、日本薬局方(第十五改正)に収載の「保存効力試験法」の基準で、カテゴリーIAの規格に適合しており、従来の防腐剤であるパラベン類と同等の防腐効力を発揮することが分かる。
【0037】
試験例2:抗菌活性の相乗効果試験
(試験菌)
試験菌としてCandida albicans ATCC10231(口腔カンジダ症菌)及びAspergillus niger ATCC16404(クロカビ)を用いた。
【0038】
(接種用菌液の調製)
接種用菌液としては、口腔カンジダ症菌については、寒天培地で30℃で培養後、更にブイヨン培地に移植して30℃で培養した。得られた培養液をブイヨン培地で約10個/mlに希釈したものを接種用菌液とした。また、クロカビについては、25℃で培養後にTween 80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)2%添加生理食塩水に胞子を懸濁させ約10個/mLに調製したものを接種用菌液とした。
【0039】
(被験物質の希釈系列の調製)
20w/w%エチルセルソルブを希釈溶媒とし、5、4、3、2.5、2.25、2、1.75、1.5、1.25、1w/v%の1,2−オクタンジオール液を調製した。また、ホウ砂及び1,2−オクタンジオールとホウ砂の等量混合物については、5w/v%の液を倍倍希釈して希釈系列を調製した。
【0040】
(最小発育阻止濃度(MIC)の測定)
上記被験物質を含む希釈系列1mLに対して各寒天培地9mLをシャーレに入れ、それぞれについて、上記接種用菌液を約1cmの長さに画線した。培養は25℃で行い、3日後の菌の生育の有無を判定した。このとき、生育が認められなかった最小の濃度をMICとして求めた。結果を表4に示す。尚、表中のMICの単位は、μg/mLである。
【0041】
【表4】

【0042】
尚、MICによって、抗菌力を評価することができる。被験物質の濃度が薄いときには微生物への影響はないが、濃度を増していくと発育抑制が起こる。この程度は、濃度に依存して発育抑制が進み、ついには発育が停止する。このときの濃度がMICとして表される。したがって、MIC以上の濃度になると、微生物は死滅していくことになる。
【0043】
(二元最小発育阻止濃度)
得られた1,2−オクタンジオール、ホウ砂、及び1,2−オクタンジオールとホウ砂の混合物の各MICを、1,2−オクタンジオール及びホウ砂の配合量に対してプロットし、二元最小発育阻止濃度図を求めた。
【0044】
尚、二元最小発育阻止濃度により、抗菌性を有する二種類の物質を配合した場合の作用効果を判定することができる。具体的には、抗菌性を有する二種類の物質を配合した場合、それにより生ずる作用は、相乗作用、相加作用、拮抗作用に大別される。相乗作用とは、二薬剤が相乗的に作用し、本来有する抗菌力が更に増強される作用である。相加作用とは、各薬剤の抗菌力が合わさった作用である。拮抗作用とは、一薬剤が他剤の抗菌力を打ち消す場合の作用である。そして、二元最小発育阻止濃度図による方法は、例えば、図1に示すように、A物質とB物質について、それぞれの割合を変えてMICを測定し、グラフから判定する方法である。これによると、A物質のみにおけるMIC(点A)とB物質のみにおけるMIC(点B)とをプロットした点を結び、両物質を併用したときのMICが、この線上より内側にある場合(点C)は、併用により抗菌力が増強された相乗作用であると、線上(点D)にある場合は相加作用であると、線上より外側にある場合(点E)は、一方又は双方の抗菌力を打ち消し抗菌力を減少させる拮抗作用であると判定することができる。
【0045】
図2に1,2−オクタンジオールとホウ砂に関する二元最小発育阻止濃度図を示す。図2の結果から、1,2−オクタンジオールと、ホウ砂を併用することにより、1,2−オクタンジオールが本来有する抗菌活性が相乗的に増強されることが分かる。
【0046】
試験例3:細胞障害性の評価試験
(試料の調製)
表5に示す使用濃度範囲で、各薬剤を表中に示す希釈媒体に添加し、各実施例及び比較例の試料を常法により調製した。尚、培地はウサギ角膜上皮細胞増殖用培養液(商品名:RCGM2、クラボウ社製)を用いた。
【0047】
【表5】

【0048】
(細胞培養)
凍結正常ウサギ角膜上皮細胞(商品名:NRCE2、クラボウ社製)を解凍後、定法に従って細胞懸濁液を調製し、96wellプレートの各wellに4×10cells/well/100μLになるように細胞を播種した。その後、37℃、5%CO、加湿下でコンフルエントになるまで培養した。
【0049】
(細胞生存率の測定)
培養上清を除去した後、上記で調製した実施例及び比較例の各試料100μLを添加した。試料添加後、37℃、5%CO、加湿下でにおいて5分間処理した。尚、無処置群には培地を添加して同様に5分間処理した。
【0050】
培養終了後、上清を除去し、各wellを100μLの培地で洗浄した。各wellにcell Counting Kit−8溶液(商品名;同仁化学研究所社製)を添加し、2時間後にマイクロプレートリーダー(商品名:POWER SCAN HT、大日本住友製薬社製)を用い、波長450nmで吸光度を測定した。無処置群の吸光度(各cellの平均値を100として各wellの無処置群に対する割合(細胞生存率))を求め、各薬剤の細胞生存率の平均値を算出した。結果を図3に示す。
【0051】
図3の結果から、1,2−オクタンジオールは、一般的な防腐剤であるパラベンや塩化ベンザルコニウムより細胞障害性が低いことが分かる。
【0052】
試験例4:眼刺激性の評価
(試料の調製)
0.2w/v%及び0.6w/v%の1,2−オクタンジオール溶液を調製した。尚、基剤は、終濃度が0.1%になるようにエタノールを添加したD−PBS(製品名 ダルベッコリン酸バッファー(カタログ番号14190144),インビトロジェン社製)を用いた。
【0053】
(試験方法)
試料の投与直前に前眼部を肉眼及びスリットランプを用いて観察し、前眼部に異常が無い事を確認した、日本雄性白色ウサギを6匹用いた。このうち、3匹づつ2群に分け、各ウサギの右眼に0.2%又は0.6%の1,2−オクタンジオール溶液を、左眼には基剤(0.1%エタノール含有D−PBS)をそれぞれ100μLづつ、投与間隔1時間以上で8回点眼投与した。
【0054】
尚、前眼部の観察は、投与直前及び投与1、2、4及び8回目の投与終了後約30分に両眼の結膜、虹彩及び角膜を肉眼或いはスリットランプを用いて行い、McDonald−Shadduck法による眼障害判定基準に従い評価した。ただし、投与1、2及び4回目の投与後約30分の観察は、結膜のみ肉眼で観察した。また、投与直前と投与8回目の投与後30分以降に、角膜染色斑の観察を、0.1%フルオレセイン溶液を10μL点眼投与した後に、スリットランプを用いて行った。
【0055】
(結果)
0.2%及び0.6%の1,2−オクタンジオールにおける前眼部刺激性の試験の結果、いずれも結膜、虹彩及び房水に異常は認められなかった。
【0056】
試験例5:ソフトコンタクトレンズへの吸着・放出性の評価
(試料の調製)
表6に示す組成に従い、各実施例及び比較例の組成物を常法により調製した。尚、表中、精製水の「バランス」とは、全量100mLとする量を表す。また、水酸化ナトリウムの「適量」とは、系のpHが7.0となるように調整するのに必要な量を表す。
【0057】
【表6】

【0058】
(ソフトコンタクトレンズ)
ソフトコンタクトレンズは、商品名 メダリストプラス(ボシュロムジャパン社製;以下、「レンズA」と略す。)、商品名 ワンデーアキュビュー(ジョンソン・エンド・ジョンソン社製;以下、「レンズB」と略す。)、商品名 Oオプティクス(チバビジョン社製;以下、「レンズC」と略す。)の各5枚を用いた。
【0059】
(吸着量の定量)
実施例及び比較例の各試料2mLをバイアル瓶に量り取り、各ソフトコンタクトレンズ1枚ずつ浸漬し、25℃で一晩振盪した。ソフトコンタクトレンズを浸漬しない液も同様に25℃で一晩振盪し、対照試験液とした。一晩振盪後、各試験液の1mLを採取し、1,2−オクタンジオール及び塩化ベンザルコニウムの量を液体クロマトグラフィーにより定量し、残存率及びソフトレンズへの吸着量を下記式から算出し、5枚の平均値を採用した。結果を表7及び図4に示す。
【0060】
【数1】

【0061】
【数2】

【0062】
(放出量の定量)
生理食塩液2mLをバイアル瓶に量り取り、上記試験後のソフトコンタクトレンズ1枚ずつ浸漬し、25℃で一晩振盪した。振盪後、浸漬液の1mLを採取し、1,2−オクタンジオール及び塩化ベンザルコニウムの量を液体クロマトグラフィーにより定量し、ソフトコンタクトレンズからの放出量及び放出率を下記式から算出し、5枚の平均値を採用した。結果を表7及び図4に示す。
【0063】
【数3】

【0064】
【数4】

【0065】
【表7】

【0066】
表7及び図4の結果から、1,2−オクタンジオール(実施例5、6)は、ソフトコンタクトレンズに吸着されるものの、速やかに放出されてレンズ中に蓄積されないことが分かる。これに対して、一般的な防腐剤である塩化ベンザルコニウム(比較例4)は、残存率が10〜20%程度と高い吸着割合であり、また、一旦レンズに吸着されると、殆ど放出されずにレンズへの蓄積性が高いことが分かる。
【0067】
試験例6:ソフトコンタクトレンズの膨張性の評価
表8に示す組成に従い、各実施例の組成物を常法により調製した。尚、表中、精製水の「バランス」とは、全量100mLとする量を表す。また、水酸化ナトリウム及び塩酸の「適量」とは、系をISO−PBS(リン酸緩衝生理食塩水;pH7.4,浸透圧300mOsm)と同程度となるように調整するのに必要な量を表す。
【0068】
【表8】

【0069】
(試験液浸漬前)
ソフトコンタクトレンズ(商品名 ワンデーアキュビュー(ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)をISO−PBSで軽く濯いだ後、ISO−PBS中で2時間浸漬し、ISO−PBS中でソフトコンタクトレンズの直径及び曲率半径をソフトコンタクトレンズアナライザーで測定した。結果を表9に示す。
【0070】
(試験液浸漬後)
ISO−PBS中で浸漬後のソフトコンタクトレンズを、各実施例の試験液で軽く濯いだ後、各試験液中で2時間浸漬し、当該試験液中でソフトコンタクトレンズの直径及び曲率半径を同様に測定した。結果を表9に示す。
【0071】
【表9】

【0072】
表9の結果から、各実施例の試験液中でもコンタクトレンズの膨張割合は0.2mm以下と、コンタクトレンズに影響を与えないことが分かる。このため、コンタクレンズを装着したまま点眼しても、眼に違和感を与えずコンタクトレンズのフィット感が良く、ずれたり外れたりする虞がないことが分かる。
尚、日本コンタクトレンズ協会により、「コンタクトレンズ用洗浄剤、保存剤、洗浄保存剤等に関する安全自主基準」が設定されており、それによると、ソフトコンタクトレンズの場合、物理的試験における直径の許容差は、±0.2mm以内と規定されている。
【0073】
試験例7:ハードコンタクトレンズの水濡れ性の評価
表10に示す組成に従い、各実施例及び比較例の組成物を常法により調製した。尚、表中、精製水の「バランス」とは、全量100mLとする量を表す。また、水酸化ナトリウムの「適量」とは、系のpHが7.0となるように調整するのに必要な量を表す。
【0074】
【表10】

【0075】
(ハードコンタクトレンズ)
ハードコンタクトレンズは、商品名 ボシュロムEX−O(ボシュロムジャパン社製)を用いた。
【0076】
(接触角の測定)
実施例及び比較例の各試料1μLをコンタクトレンズ上に滴下し、接触角計(CA−X型,協和界面科学社製)を用いて接触角を各6回測定し、t検定を行った。その結果、実施例9及び10は、危険率0.1%で有意差を示した。結果を表11に示す。
【0077】
【表11】

【0078】
表11の結果から、1,2−オクタンジオールを0.02%の少量含有するだけで接触角が有意に低下し、コンタクレンズに対する水濡れ性が向上することが分かる。これにより、コンタクトレンズ装用時の異物感を低減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点眼又は洗眼に用いる組成物であって、1,2−オクタンジオールを含有することを特徴とする組成物。
【請求項2】
更に、ホウ酸及び/又はホウ砂を含有することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物からなることを特徴とする点眼剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の組成物からなることを特徴とする洗眼剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−251932(P2011−251932A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126212(P2010−126212)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】