説明

無担持炭化水素直接分解触媒

【課題】担体を要することなく、長時間に亘って炭化水素の分解に関し安定した性能を維持する触媒を得る。
【解決手段】 触媒金属前駆体を非酸化性雰囲気下、好ましくは不活性ガスまたは炭化水素ガス雰囲気下で200〜1000℃の温度範囲に加熱して賦活化して触媒を得る。該触媒は、担体に担持されることなく、触媒金属粒子間に炭素粒子が介在している。前記賦活化により得られた触媒に200〜1000℃で炭化水素を接触させて該炭化水素の直接分解を行う。触媒金属粒子間に炭素が生成されて、触媒金属粒子の凝集を防ぎ、長時間触媒性能の維持を可能とし、触媒担体を含まない高純度炭素を得ることができる。担体を要することなく触媒が得られ、触媒を低コストで製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、メタン等の炭化水素ガスを直接分解して水素と炭素を製造することが可能な触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、メタンの直接分解に用いられる触媒は、シリカ、アルミナなどの多孔質担体にニッケルなどの触媒金属を担持させることで調製されてきた。例えば、「炭化水素分解用触媒及びそれを用いた水素製造方法」(特許文献1)ではフラーレン等の炭素物質を担体とし、該担体にニッケル化合物及びアルカリ金属とアルカリ土類金属などを担持させてメタン直接分解触媒を調製している。
原料である炭化水素類は、温度300〜700℃の範囲で、前記炭化水素分解用触媒と0.1〜50秒程度接触させ、熱分解する事で水素を製造するものである。このとき、原料メタンの転化率は36%で水素以外のガス状生成物は認められず、固体炭素生成率(炭化率)は100%であった。
【特許文献1】特許第2838192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来技術において、上記分解反応を行うためには、担体としてフラーレンを代表とする炭素質物質などが必要となり、その製造は手間を要し、また高コストであった。このため、担体を用いることなく触媒金属を使用することも考えられる。しかし、例えばニッケルを触媒金属として選択した場合、図5に示すように、当初、分散しているニッケル微粒子20も炭化水素分解時の加熱によって焼結し次第に凝集して大きな凝集物20aになり、そのことで触媒活性が失われるという欠点が存在する。一方、担体を用いる場合には、図6に示すようにニッケル微粒子20は担体30に保持された状態が維持され、炭化水素の熱分解に伴う加熱によっても上記凝集は生じない。しかし、担体を用いる方法は、上記のように担体を用意しなければならないという点で不利である。また、一般的に担体として使用されているシリカやゼオライトは成分として酸素を含有する事から、炭化水素ガス改質時に10〜50ppm程度の一酸化炭素を発生する。このため、炭化水素ガスを改質して製造した水素を直接燃料電池で使用するためには、被毒性のある一酸化炭素を除去する必要があった。さらには、炭化水素の分解用の触媒として使用した後には、触媒上に担体と金属触媒および生成炭素が存在するため、生成した炭素を有効利用するためには、触媒金属と担体を除去する必要がある上に経済的に、劣化した触媒を完全に再生することが困難であるという問題がある。
【0004】
この発明は上記のような従来のものの課題を解決するためになされたものであり、触媒製造時に高コストで製造に手間のかかる担体を必要とせず、担体無しのこの触媒を使用することによって、従来の無担持触媒の様に炭化水素を分解する場合に発生する触媒金属微粒子の凝集が無く、高活性で性能を長時間維持できる触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の無担持炭化水素直接分解触媒のうち第1の本発明は、担体に担持されることなく、触媒金属粒子間に炭素粒子が介在していることを特徴とする。
【0006】
第2の本発明の無担持炭化水素直接分解触媒は、前記第1の本発明において、前記触媒金属粒子がニッケル、鉄、コバルトの1種または2種以上であることを特徴とする。
【0007】
第3の本発明の無担持炭化水素直接分解触媒は、前記第1の本発明において、前記触媒金属粒子が金属間化合物からなるものであることを特徴とする。
【0008】
すなわち本発明の無担持炭化水素直接分解触媒によれば、触媒金属粒子間に実質的に炭素粒子が介在しているので、該触媒を用いて高温で炭化水素を分解する際に、触媒金属粒子が凝集することによって触媒活性が低下するのを防止して良好な触媒性能を長期に亘って維持することができる。また、担体を不要とするので、担体製造の手間が不要となり、コストの低減となる。また、従来の触媒上には生成炭素と担体および担持金属が存在するが、本触媒を使用する場合には、炭化水素の分解によって担体が存在しない高純度炭素を得ることができ、その後の有効利用が可能となる。さらに、経時的に劣化した触媒を再生処理する場合、酸処理を行い熱処理するだけでよく、簡単に触媒を再生できる。
【0009】
上記触媒は、以下の製造方法によって得ることができる。
触媒の製造方法では、触媒金属前駆体を非酸化性雰囲気で加熱して、賦活化することによって、担体に保持されずに、触媒金属粒子間に炭素粒子が介在する触媒が得られる。触媒金属前駆体としては、触媒金属有機酸塩、触媒金属有機化合物、触媒金属交換イオン交換樹脂、触媒金属担持炭素、触媒金属無機化合物と有機化合物の混合物および触媒金属無機化合物のいずれか又はこれらの混合物を用いることができる。具体的には、例えば、酢酸ニッケル、酸化ニッケルと酢酸の混合物、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケルが挙げられる。特にニッケル触媒では、前駆体として、酢酸ニッケルを挙げることができる。酢酸ニッケルから得られる触媒は活性が高いことが確認されている。
なお、触媒金属は、1種の他、2種以上からなるものであってもよく、また金属化合物からなるものであってもよい。さらには助触媒機能を有するものを含むものであってもよい。
【0010】
上記賦活化における雰囲気は非酸化性雰囲気であり、代表的には不活性ガスまたは炭化水素ガス雰囲気が挙げられる。なお、賦活化処理の雰囲気としては炭化水素ガス雰囲気が望ましい。該雰囲気によって触媒金属粒子が微粒子状態に保たれるので触媒活性は低下しにくい。
上記賦活化処理は、200〜1000℃(好適には300〜900℃)で、20分〜5時間加熱することにより行うのが望ましい。上記条件の下限未満では、賦活化が不十分であり、上限を超えてもそれ以上の触媒金属微粒子の増加が起こらないため、上記範囲が望ましいものとして示される。また、上記加熱温度は、ニッケル触媒では400℃程度(例えば350〜500℃)、鉄触媒では800℃程度(例えば700〜900℃)が一層望ましい。
【0011】
上記賦活化によって得られる無担持触媒を用いて炭化水素を直接分解することによって水素と炭素が高転化率で生成される。したがって、水素または炭素を高純度で得ることができる。なお、この直接分解は200〜1000℃の温度範囲で行うものとする。上記温度範囲未満の温度では、炭化水素の分解が十分になされず、一方、上記温度範囲を越える温度で分解処理を行うと、触媒の活性低下が速まる。なお、同様の理由で炭化水素の直接分解処理は、ニッケル触媒では400℃程度、鉄触媒では800℃程度で行うのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によれば、触媒金属粒子間に炭素が介在して、触媒金属粒子の凝集を防ぎ、長時間触媒性能の維持を可能とする。また、担体を要することなく触媒が得られるので、触媒を容易に低コストで製造することが出来る。しかも以上の様に調製した触媒を使用すると、触媒担体を含まない高純度炭素を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施形態1)
以下、この発明の一実施形態を図1に基づいて説明する。
触媒金属有機酸塩、触媒金属有機化合物、触媒金属交換イオン交換樹脂、触媒金属担持炭素、触媒金属無機化合物と有機化合物の混合物および触媒金属無機化合物のいずれ叉はこれらの混合物からなる触媒金属前駆体10を用意し、水分除去等の前処理を行った後、不活性ガスおよびメタン雰囲気等の非酸化性雰囲気にて好適には、ニッケル触媒では400℃程度、鉄触媒では800℃程度で数時間加熱処理して賦活化処理を行って触媒10を得る。該触媒10は、図1に示すように触媒金属粒子11間に炭素粒子12が介在し、かつ担体に保持されていない無担持の状態で得られる。
【0014】
上記触媒10に対し、200〜1000℃の温度でメタン等の炭化水素を接触させて炭化水素を直接分解させる。該分解によって水素と炭素とが高転化率で生成される。さらにこの反応によって触媒金属粒子11間に炭素粒子12が生成される。この炭素粒子12は、酸洗浄、超音波処理、遠心分離の一連の操作によって触媒金属粒子から分離することができ、微量の触媒金属粒子が含まれる高純度炭素として利用することが可能である。上記熱分解によって経時的に劣化した触媒は、硝酸等によって酸処理を行い、例えば300〜400℃で焼成することによって簡単に再生することができる。
【実施例】
【0015】
(実施例1)
以下、この発明の一実施例を説明する。
例えば、有機系ニッケル前駆体、特に市販の酢酸ニッケル四水和物を使用する場合について説明をする。該触媒前駆体に対し100℃で加熱して構造水を除き、常圧固定床流通型反応装置を横置きにしてその底部に前記触媒前駆体を薄く広げて静置した。該触媒を用いて、水素ガス雰囲気、不活性ガス(Arガス)雰囲気、メタン雰囲気または空気雰囲気下で、400℃で1時間加熱する賦活化処理を行った。その結果得られた触媒をXRD(X線回折装置)によって測定し、その結果を図2に示した。図2に見られるように不活性ガス雰囲気とメタン雰囲気で賦活したものには炭素のピークが見られ、その存在が確認できたが、水素ガス雰囲気および空気雰囲気では、炭素のピークは見られなかった。
【0016】
次に、上記触媒の半値幅と強度とを表1に示した。表1から明らかなように、水素ガス雰囲気での賦活に比べ不活性ガス及びメタン雰囲気での賦活は半値幅が広く、生成した炭素粒子はニッケル粒子の間に存在して、ニッケル粒子の凝集が抑えられていることを示している。特にメタンによるものは強度も小さく、その状態は顕著になっている。そして図1に模式的に表すように、生成した炭素粒子12が触媒金属粒子11(ニッケル微粒子)間に入り込みニッケル金属の凝集を防ぐことにより無担持でも触媒活性が十分に発現し、長時間使用が可能となるものと考えられる。
【0017】
【表1】

【0018】
(実施例2)
次に、実施例1に示す賦活化処理を行った上記触媒2gを用いて、メタンを30ml/minで供給し、反応温度を500℃から800℃まで段階的に上げ、反応によって減少したメタン濃度をガスクロマトグラフで分析し、メタンの転化率を算出した。その結果を図3に示した。図3に示すように、温度500℃ではメタンの転化率が50%程度を維持し、600℃では65%、さらに800℃では初期で約90%と熱力学的平衡転化率に達するような高転化率が得られていた。
【0019】
(実施例3)
次に、実施例1に示す賦活化処理を行った上記触媒を用いるものとして、反応温度400℃、メタン流量を30ml/minとして炭化水素の分解処理を行った。なお、触媒量は、前駆体換算で、0.1g、2.0g、4.0gと変えて試験を行った。その結果を図4に示した。この結果、触媒量2gでは反応温度400℃と低温であるにも関わらず25%程度の高い転化率を示している。また、触媒量にほぼ比例して転化率が上がっていることも解かる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の一実施形態の無担持触媒を、触媒前駆体から得る過程とともに模式的に示す図である。
【図2】同じく、一実施例における賦活化処理を行って得たニッケル触媒のXRDパターンを示す図である。
【図3】同じく、一実施例における反応温度を変えた場合の転化率を示す図である。
【図4】同じく、一実施例における触媒量を変えた場合の転化率を示す図である。
【図5】無担持の触媒を賦活化処理することなく炭化水素の分解に供した場合の状態を示す模式図である。
【図6】担持触媒を炭化水素の分解に供した場合の状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0021】
10 触媒
11 触媒金属粒子
12 炭素粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に担持されることなく、触媒金属粒子間に炭素粒子が介在していることを特徴とする無担持炭化水素直接分解触媒。
【請求項2】
前記触媒金属粒子がニッケル、鉄、コバルトの1種または2種以上であることを特徴とする請求項1記載の無担持炭化水素直接分解触媒。
【請求項3】
前記触媒金属粒子が金属間化合物からなるものであることを特徴とする請求項1記載の無担持炭化水素直接分解触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−183560(P2008−183560A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104049(P2008−104049)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【分割の表示】特願2003−57240(P2003−57240)の分割
【原出願日】平成15年3月4日(2003.3.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成14年9月10日 触媒学会発行の「第90回触媒討論会 討論会A予稿集」に発表
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【出願人】(501383015)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】