説明

無機充填材用ガラス組成物、無機充填材及び無機充填材の製造方法

【課題】均質な熔融ガラスを得易く、低誘電率、低線熱膨張係数を有し、経済的に効率よく製造できる無機充填材用組成物と無機充填材、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】無機充填材用ガラス組成物は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO 55〜70%、Al 15〜25%、MgO 3〜13%、CaO 0〜3%、B 0.5〜6%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5〜15%、SiO+Al 78〜88%、Al+MgO 23〜32%、TiO 0.1〜5%、ZrO 0〜1%、LiO+NaO+KO 0〜1%を含有する。無機充填材は、本発明の無機充填材用ガラス組成物よりなる。無機充填材の製造方法は、ガラス繊維、ガラスロッド、ガラスビーズ及びガラスカレットの群よりなる1以上を無機充填材前駆体とする無機充填材前駆体成形工程と、この前駆体を粉砕する粉砕工程よりなり、本発明の無機充填材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粉末を主成分として含有する無機充填材用ガラス組成物と無機充填材に関する。この無機充填材は、特に低線熱膨張係数、及び低誘電率を要求され、ガラスクロス、あるいはガラスペーパー等と共に有機樹脂材と複合化されて高密度実装を必要とする電子回路用プリント配線板等に使用されるものである。また本発明は、無機充填材の製造方法にも関わるものである。
【背景技術】
【0002】
数多くの優れた電子機器の発達が、電子産業、情報産業等の著しい興隆を支えている。これら電子機器では、様々な電子部品がプリント配線板(プリント回路板、リジッド基板、プリント基板あるいはプリント配線基板とも言う)上へ実装されて使用されている。近年、電子部品の実装において、従来にない高い配線密度等を実現するために求められる多くの技術的な革新がなされてきた。プリント配線板は、モジュール、ボード、ユニットあるいはパッケージ等の別名を用いて表現されることもあるが、樹脂とガラス繊維及び改質剤等が適量混在する薄板形状の複合材料であり、上記したような各種電子部品を搭載するために適所に配線板を貫通する細孔、いわゆるスルーホール等を設けた形態を呈するものである。
【0003】
このプリント配線板用途で用いられるガラス繊維には、従来無アルカリガラス組成であるEガラスと呼ばれるガラス組成物が用いられてきた。このEガラスは、電気絶縁性に優れ、熔融ガラスからの紡糸が行い易く、切断加工などの加工性にも優れた材質であるため、多くの使用実績があり最も良く知られたガラス繊維用ガラス材質である。そしてEガラスは、例えば、酸化物換算の質量百分率表示で、SiO 52〜56%、Al 12〜16%、B 5〜10%、CaO 16〜25%、MgO 0〜5%、アルカリ金属酸化物(RO) 0〜2%、Fe 0.05〜0.4%、F 0〜1.0%からなるガラス材質である。
【0004】
一方、電子部品の集積実装技術の進捗により、プリント配線板に求められる要望は、多様化し、より厳しいものとなっている。このため、各種要望に見合った性能を発揮するガラス繊維が発明されてきた。例えば、特許文献1は、室温における周波数1MHzでの誘電率εが6.7であるEガラスよりも低い誘電率εと小さな誘電正接tanδを実現するため、Dガラスと呼称されるガラス材質が開示されている。このDガラスは、例えば、酸化物換算の質量百分率表示で、SiO 74.5%、Al 0.3%、B 21.7%、CaO 0.5%、LiO 0.5%、NaO 1.0%、KO 1.5%からなるガラス材質であり、このガラスの1MHzの誘電率は約4.3である。
【0005】
また特許文献2には、線熱膨張係数αが低く、弾性率Eの高いSガラスと呼称されるガラス材質が開示されている。このSガラスは、例えば、酸化物換算の質量百分率表示で、SiO 65%、Al 25%、MgO 10%からなるガラス材質であり、このガラス材質の線熱膨張係数αは30×10−7/℃、弾性率Eが95GPaである。
【0006】
また、プリント配線板の性能を高める目的で、ガラス繊維以外に充填材を使用することも行なわれている。特許文献3には、ビルドアップ多層配線板について、微細なビアホール(層間接続のために用いられる細孔)を有する場合、高温多湿雰囲気中での機械的強度や電気的な接続信頼性が低下しがちなプリント配線板に適用するため、シアネート樹脂、エポキシ樹脂と共に平均粒径が2μm以下の球状熔融シリカを無機充填材として用いる発明が開示されている。
【0007】
特許文献4は、絶縁層の耐熱性や機械強度に優れた多層プリント配線板を得るために、絶縁層形成において、樹脂組成物が回路基板にラミネートされる場合に樹脂組成物としてビスマレイド化合物とジアミン化合物の重合物、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂等を用いることによって課題を解決する製造方法に関わる発明であるが、この発明で用いられる無機充填材は、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウムなどである。
【0008】
特許文献5は、機械的強度や耐熱性、線熱膨張係数αの改善に加えて、基板のたわみ特性や伸び特性といった柔軟性の低さを抑制する樹脂組成物を提供するための発明であるが、この発明では熱可塑性樹脂に、無機充填材として、酸性メタケイ酸マグネシウムを主成分とし、且つ微量成分としてカルシウムを含有し、水分散時のマグネシウム溶出量を限定した鱗片状無機充填材を提示している。
【0009】
特許文献6には、上記のEガラス、Dガラス以外に無機充填材としてガラスを使用するものとして、質量%で、SiO 50〜60%、Al 10〜20%、B 20〜30%、CaO 0〜5%、MgO 0〜4%、LiO+NaO+KO 0〜0.5%、TiO 0.5〜5%の組成を含有することを特徴とする低誘電率ガラスパウダーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−2831号公報
【特許文献2】特公昭48−30125号公報
【特許文献3】特開2007−009217号公報
【特許文献4】特開2007−273616号公報
【特許文献5】特開2003−128931号公報
【特許文献6】特開平9−268025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、これまでに開示された無機充填材用ガラス組成物、無機充填材だけでは、高機能化が著しい用途で用いられるプリント配線板用としては十分ではない。
【0012】
特許文献1のガラス組成物は、電気的性能には優れるが、プリント配線板やガラス繊維の製造工程上等で様々な問題点が指摘された。例えば、このDガラスは、Eガラスに比較してガラスの熔融性が劣り、未熔解物などが生産ガラスに混入し、無機充填材に加工された後も未熔解物が混入し、プリント配線板での欠点となりうる。また、ガラス繊維から無機充填材を加工する場合には、ブッシングノズルが詰り紡糸時に糸切れ等が多発し易く、ガラス繊維の製造が容易ではなく、また、このガラスを用いたプリント配線板では、電子部品リードを挿入しない層間導通を目的としたスルーホールなどを形成するドリリング工程において、ドリルの摩耗が大きくなり、ドリル先端の交換頻度の増加による製造効率の低下や、製造されたプリント配線板のスルーホールの位置精度が低くなり、高密度実装の妨げになるといった問題もあった。
【0013】
また、特許文献2のガラス組成物は、低熱膨張による熱的耐性、高弾性率による物理的強度を実現するものではあるが、成形温度Tが高く、熔融温度も高温を要し、泡切れし難く、ガラス生産時に未熔解物を生じ、成形工程で熔解ガラスから晶出した失透が混入し、無機充填材に加工された後も除去されず、プリント配線板での欠点となりうる。また、ガラス繊維から無機充填材を加工する場合には、熔融ガラスの粘度が10dPa・sに相当する紡糸温度T(ガラス繊維での成形温度Tに相当する)に液相温度Tが近いとガラス繊維成形時に熔解ガラスから晶出した失透によりブッシングのノズルが詰り易く、連続的なガラス繊維の安定生産が困難である。またガラス繊維成形時のブッシングの均熱性を取ることが難しく、各ノズルから押し出されてくるガラス流量が温度により変わることからガラス繊維の繊維径がそろわず、繊維径のバラツキを生じるという問題もある。
【0014】
特許文献3、4及び特許文献5の無機充填材は、適用できる樹脂材が限定される場合があり、あるいは所望の電気的性質を得がたい場合もあるため好ましくない。またガラス粉末を含有していないため、無機充填材と併用されるガラス繊維の誘電率εの差が大きいため、プリント配線板内の誘電率バラツキが大きくなり、電気的特性に劣るものである。
【0015】
また特許文献6のガラス組成物は、誘電率εや誘電正接tanδを低下させることには成功しているが、ガラス熔融初期の熔解性に問題があり、ガラス熔融時に熔融ガラス中に泡が残存し易く、均質な熔融ガラスとするには十分なものとは言えず、無機充填材に加工された後もガラスの不均質な部分が混入し、プリント配線板での欠点となりうる。また、ガラス繊維の生産性に劣るものであるため、無機充填剤と併用されるガラス繊維の誘電率εや誘電正接tanδの差を小さくすることが困難となる。また、ガラス繊維を前躯体として無機充填材を加工する場合には生産性が低下するため好ましくない。このため無機充填材に適用するものとしては相応しくない。
【0016】
プリント配線板は、多くの電子装置に搭載されるが、搭載される電子装置を取り巻く環境は多様である。例えば、現在の自動車には数多くの集積回路が搭載されており、これらの電子部品はプリント配線板上に高密度実装されているが、自動車等に使用される部品は真夏の炎天下から極北の路上での走行まで、様々な環境下における信頼性を確保できるものであることが要求される。また近年の乗用車では乗車空間を十分に確保するために、電子回路等はエンジンルームやエンジンルーム周辺などの周囲環境温度が高く、従来よりも温度変化の激しい環境下に配設されることが多くなっている。さらに、搭載する基板サイズを小型化したいという要求もある。
【0017】
このような諸般の状況変化によって、車載用途のプリント配線板は従来以上の耐熱性と、多数のスルーホールを高密度で配した際の高い信頼性が要求されている。プリント配線板と銅やはんだなどの導電金属との線熱膨張係数αに差があると、熱衝撃時の熱ストレスによるプリント配線板と銅やはんだなどの導電金属との熱膨張差により、スルーホール回路のクラックによる断線不良が発生し、重大な機器故障の原因となるが、このような障害の発生は、回避せねばならない。すなわち、車載用途で使用される電子部品は、大きな温度変化によって電子回路に障害が発生したりすることは許されず、またその信頼性は長期に亘るものであることが求められる。よってこのような要求を満足するために、車載用途の環境で使用されるプリント配線板には基板材料の熱膨張を銅やはんだなどの導電金属に極力近づけること、すなわち線熱膨張係数αを小さくすることが求められている。
【0018】
本発明は、上記した種々の問題を解決し、熔融温度が低いため均質な熔融ガラスを得易く、高密度実装のプリント配線板で要求される低い誘電率εを有し、さらに低い線熱膨張係数αを有し、経済的に効率よく製造でき、ガラス繊維化が可能であるため併用されるガラスクロスやガラスペーパー等に用いられるガラス繊維と無機充填材の組成を殆ど同じにすることが可能であり、その結果として、無機充填材と併用されるガラスクロスやガラスペーパー等の誘電率ε及び誘電正接tanδの差を小さくでき、しかも弾性率Eを低下させることのない充填性能の優れた無機充填材用組成物と無機充填材、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、高密度実装を実現とするプリント配線板など、電子部品用途から要求される数多くの困難な課題を確実に克服でき、しかも高い生産性を有する粉末状の形態を呈する無機充填材用のガラス組成に関して研究を重ねた。その中でガラス組成物中の酸化ケイ素成分の配合量、酸化アルミニウム成分の配合量、アルカリ土類金属元素成分の配合量、酸化チタン成分の配合量、そして酸化ホウ素成分の配合量等を適正なものとし、これらの成分を所定量含有させることで、上記の様々な問題をいずれも解決できることを見出し、ここに本発明を提示するものである。
【0020】
本発明の無機充填材用ガラス組成物は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO 55〜70%、Al 15〜25%、MgO 3〜13%、CaO 0〜3%、B 0.5〜6%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5〜15%、SiO+Al 78〜88%、Al+MgO 23〜32%、TiO 0.1〜5%、ZrO 0〜1%、LiO+NaO+KO 0〜1%を含有することを特徴とする。
【0021】
すなわち、本発明は、化学分析や機器分析等の各種分析手段を使用することによってガラスを構成する元素成分を酸化物換算の質量百分率で表示すると、そのガラス組成はSiO成分が55質量%以上70質量%以下の範囲にあり、Al成分が15質量%以上25質量%以下の範囲にあり、MgO成分が3質量%以上13質量%以下の範囲にあり、CaO成分が3質量%以下の範囲にあり、B成分が0.5質量%以上6質量%以下の範囲にあり、MgO成分とCaO成分とSrO成分とBaO成分とZnO成分の合量が5質量%以上15質量%以下の範囲にあり、SiO成分とAl成分の合量が78質量%以上88質量%以下の範囲にあり、Al成分とMgO成分の合量が23質量%以上32質量%以下の範囲にあり、TiO成分が0.1質量%以上5質量%以下の範囲にあり、更に任意成分としては、CaO成分が3質量%以下の範囲にあり、ZrO成分が1質量%以下の範囲にあり、LiO成分とNaO成分とKO成分の合量が1質量%以下の範囲で含有するものであるということを表している。
【0022】
以上の本発明の無機充填材用ガラス組成物を構成する各成分の含有率の限定理由について、以下で具体的に説明する。
【0023】
SiO成分はガラス構造において、その網目状構造の骨格をなす成分であって本発明のガラス組成物の主要成分であり、ガラス組成物中のSiO成分の含有量が増加するほどガラスの構造強度が大きくなる傾向となる。ガラス構造の強度を充分な状態となるように維持し、安定した品位を有するものとするには、SiO成分の含有量は少なくとも55質量%以上とすることが必要であり、より好ましくは57質量%以上とすることである。一方、ガラス組成物中のSiO成分の含有量が増加すると、熔融ガラスの高温粘性値が大きくなり、その結果熔融法によりこのようなガラス組成物を高い効率で均質になるように製造しようとすれば、高価な設備が必要となる。また、SiO成分の含有量が増加するとガラス熔融時にガラス化反応時などに生じた気泡等が残存しやすく均質な熔融ガラスを得がたく、ガラスの熔融に過剰な熱エネルギーが必要となり、しかも無機充填材前駆体を製造する際の高い成形性、例えばガラス繊維の形態の場合には紡糸性を確保することが困難となる。さらに、また、無機充填材前駆体をガラス繊維の形態で製造する場合には、ガラス繊維を製造する際の高い紡糸性を確保することが必要となる。また、SiO含有量が増加するとプリント配線板のドリル穴あけ加工時にドリルの磨耗が大きくなり、ドリリング性の低下によって製造効率が低下し、プリント配線板を製造する上での弊害となる。これらの問題が生じないようにするためにはSiO成分の含有量を70%以下の含有量とすることが必要であり、より好ましくは67質量%以下とすることである。
【0024】
Al成分はガラスの化学的、機械的な安定性を実現するために有効な成分である。Al成分はガラス中に適量だけ含有されることによって、熔融ガラス中での結晶の晶出や分相生成を抑制する効果を有する場合もあるが、多量に含有すると熔融ガラスからAlを主成分とするムライト(3Al・2SiO)の失透結晶を生じやすくなり、また、熔融ガラスの粘性を増加させることになる。ガラス組成中のAl成分の含有量が15質量%以上であると、ガラスの機械的な安定性が向上し、化学的安定性も得られる。またこの成分は、ガラスの弾性率Eを低下させない働きもある。Al成分は、好ましくは17質量%以上である。一方、Al成分の含有量が25質量%以下であると熔融ガラスからムライト(3Al・2SiO)の失透が晶出しにくく、無機充填材前駆体をガラス繊維の形態で製造する場合には、ガラス繊維成形時にブッシングノズルが詰まることなく成形することができ、熔融ガラスの粘度も増加しにくいいため、ガラス繊維の生産時に必要なエネルギーも省力化でき、熔解ガラスの泡切れ(清澄性)もよいため好ましい。Al成分は、より好ましくは23質量%以下とすることが望ましい。
【0025】
MgO成分は、ガラス原料を熔融し易くする融剤としての働きを有する成分であり、ガラス熔解時の粘性を低下させ泡切れを促進し、例えば、無機充填材前駆体をガラス繊維の形態で製造する場合には、ガラス繊維成形時の紡糸温度Tを低下させる働きを有している。MgO成分の含有量が3質量%以上であるとガラス熔解時の粘性を低下させ、泡切れを促進し気泡の少ない無機充填材前駆体を成形することができ、紡糸温度Tも十分下げることができる。またこの成分は、ガラスの弾性率Eを低下させない働きもある。MgO成分の効果をより明瞭に発揮させるには、より好ましくは4.5質量%以上とすることが望ましい。一方、MgO成分の含有量の増加は、Al成分の含有量の多いガラス組成中では熔融ガラス中からコージェライト(2MgO・2Al・5SiO)の失透が晶出しやすくなり、例えば無機充填材前駆体をガラス繊維の形態で製造する場合には、成形時にブッシングのノズル詰まりの原因となる場合がる。また、MgO成分の含有量の増加は、ガラスの線熱膨張係数αを大きくし、ガラスの誘電率εも上昇にも繋がる。このような観点からMgO成分は、13質量%を超えるのは好ましくない。好ましくは12質量%以下であり、さらに好ましくは11質量%以下、一層好ましくは10.5質量%以下とすることである。
【0026】
成分は、SiO成分と同様にガラス網目構造において、その骨格をなす成分であるが、SiO成分のように熔融ガラスの高温粘性を大きくすることはなく、むしろ高温粘性を低下させる働きがあり、また、ガラスの誘電率εを低下させる成分である。また、Al成分、SiO成分を主成分とするムライト(3Al・2SiO)の失透結晶の生成を抑制する。ガラス組成中のB成分の含有量は、0.5質量%以上であるとムライト(3Al・2SiO)あるいはコージェライト(2MgO・2Al・5SiO)の失透結晶の生成を抑制する効果があり、誘電率εを低下する効果が大きく、より好ましくは0.6質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、一層好ましくは1.5質量%以上とすることが望ましい。一方、B成分は、ガラス組成中の含有量が多くなりすぎると、熔融中にホウ素成分の蒸発量が多くなり、熔融ガラスを均質な状態に維持するのが困難となる場合もある。またB成分の含有量が多くなりすぎるとプリント配線板で使用される場合、周囲環境の湿分の影響を受けやすくなり、高湿度環境ではホウ素やアルカリ等がガラス組成から溶出することにより、電気絶縁性が低下するなど電気的信頼性を損なう恐れがある。このため、ガラス組成中のB成分は、6質量%を超えるとガラス熔融時のホウ素成分の蒸発が多くなったり、プリント配線板の電気的信頼性が低下したりするため好ましくない。またB成分の含有量は、より好ましくは5.5質量%以下とすることである。
【0027】
CaO成分は、MgO成分と同様にガラス原料を熔融し易くする融剤としての働きを有する成分であり、ガラス熔解時の粘性を低下させ泡切れを促進する働きがある。このため、例えば、無機充填材前駆体をガラス繊維の形態で製造する場合には、ガラス繊維成形時の紡糸温度Tを低下させる。また、この成分はガラスの弾性率Eを低下させない働きもある。一方、アルカリ土類金属元素成分の中では、最も誘電率εを増加させる働きが大きく、多量に含有させると誘電率εが大きくなりすぎ、熔融ガラスからウォラストナイト(CaO・SiO)の失透を晶出しやすくなる。また、CaO成分の添加量の増加は、線熱膨張係数αが大きくする。このためCaO成分は、3質量%を超えるものは好ましくない。
【0028】
ZnO成分、SrO成分、及びBaO成分は、何れも混合状態のガラス原料を加熱した際に熔融し易くする融剤としての働きを有する成分であり、ガラス熔解時の粘性を低下させ泡切れを促進し、例えば、無機充填材前駆体をガラス繊維の形態で製造する場合には、ガラス繊維成形時の紡糸温度Tを低下させる働きをする。一方、これら成分の増加は、ガラスの誘電率εを大きくし、線熱膨張係数αも大きくする。また、これら成分の各原料は、一般的に高価であり、大量に使用すると原料費用の上昇を招くことになる。このため、SrO成分の含有量は5質量%以下、BaO成分の含有量は5質量%以下、ZnO成分の含有量は5質量%以下であることが好ましい。
【0029】
またアルカリ土類金属酸化物の各成分の総和、すなわちΣRO=MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOは、これら成分が高温反応時に相互に働いてガラス原料を一層熔融し易くする融剤としての働きを高めるものである。また例えば、無機充填材前駆体をガラス繊維の形態で製造する場合には、ガラス熔解時の粘性を低下させ泡切れを促進することによって、ホローファイバーの発生を防止し、ガラス繊維成形時の紡糸温度Tを低下させる。また、これら成分の総和は、ガラスの弾性率Eを低下させない働きもある。このためアルカリ土類金属酸化物成分の合量値、ΣRO=MgO+CaO+SrO+ZnOは、5質量%以上であることが望ましい。一方、これら成分の総和が増加し過ぎると、ガラスの誘電率εが大きくなり、線熱膨張係数αが大きくなるためアルカリ土類金属酸化物の各成分の総和、すなわちΣRO=MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOは15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは14.5質量%以下、さらに好ましくは14質量%以下とすることである。
【0030】
LiO成分、NaO成分あるいはKO成分のアルカリ金属酸化物成分は、ガラス原料をガラス融液とする際に、ガラス融液の生成を容易にする、いわゆる融剤として著しく大きく働き、さらに熔融ガラスの高温粘性を低下させ、清澄し易い状態にする働きが大きい。しかし、LiO成分、NaO成分あるいはKO成分は、いずれもガラス組成中の含有量が多くなると、ガラスの線熱膨張係数αが大きくなり、誘電率εが大きくなるほか、プリント配線板の補強材として使用される場合にはガラスからのアルカリイオンの溶出により電気絶縁性を損なう場合がある。このため、これらの成分の合量ΣRO=LiO+NaO+KOは1質量%までで、より好ましくは0.8質量%までである。
【0031】
TiO成分は、SiO−Al−MgO組成系においてはムライト(3Al・2SiO)あるいはコージェライト(2MgO・2Al・5SiO)の失透析出温度を低下させる働きがある。また、この成分はガラスの弾性率Eを低下させず、向上させる働きもある。このためTiO成分の含有量は0.1質量%以上であることが望ましい。TiO成分は、好ましくは0.5質量%以上とすることが望ましい。一方、TiO成分は、多量に含有されると誘電率εが大きくなり、熔融ガラスからTiO系の結晶を晶出し易くなるため好ましくない。このためTiOの含有量は、5質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは4.5質量%以下であることである。
【0032】
ZrO成分は、TiO成分と同様にガラスの弾性率Eを低下させず、むしろ向上させる成分であるが、SiO−Al−MgO組成系のガラス融液においてはムライト(3Al・2SiO)あるいはコージェライト(2MgO・2Al・5SiO)の失透析出温度を上昇させる場合があり、含有量を制限すべき成分である。ZrO成分の含有量は1質量%以下とすることが好ましい。
【0033】
SiO成分とAl成分の合量は、ガラスの粘性と線熱膨張係数αを適正な範囲となるように調整する指標である。SiO成分とAl成分の合量SiO+Alが小さいとガラスの粘性が低下するため、無機充填材前駆体を熔融法で製造する際にガラス熔解が容易になる。また例えば無機充填材前駆体をガラス繊維の形態で製造する場合に、ガラス繊維成形でのブッシングの温度管理が容易となるため好ましく、SiO+Alは88質量%以下であることが望ましい。一方、SiO+Alが小さ過ぎるとガラスの線熱膨張係数αが大きくなり、誘電率εが大きくなるため好ましくない。このためSiO+Alは、78質量%以上であることが望ましい。
【0034】
Al成分とMgO成分の合量、すなわちAl+MgOは熔解ガラスからの失透が晶出する温度、液相温度Tを適正な値にするための指標となる。Al+MgOが小さいと熔解ガラスからムライト(3Al・2SiO)あるいはコージェライト(2MgO・2Al・5SiO)の失透を晶出しにくくすることができ、例えば無機充填材前駆体をガラス繊維の形態で製造する場合に、ガラス繊維成形時のブッシングのノズルでの失透物の詰りによる糸切れを抑制することできる。また、この合量値は、ガラスの強度、ガラスの弾性率Eを適正な値にする働きも有する。このためAl+MgOは、32質量%以下であることが好ましい。一方、Al+MgOの値が小さすぎるとガラスの弾性率Eが小さくなりすぎるため好ましくない。このためAl+MgOは、23質量%以上であることが望ましい。
【0035】
本発明の無機充填材用ガラス組成物は、本発明の無機充填材用ガラス組成物の性能に大きな影響を及ぼさない範囲で上記に加え必要に応じて各種の成分を添加することができる。本発明の無機充填材用ガラス組成物の構成成分として使用できるものを具体的に例示するならば、P、Fe、CeO、SO、Cl、F、WO、Nb、LaやY等の希土類酸化物、あるいはMoO等を質量%表示で各々3%以下の含有量であれば含有することができる。
【0036】
また上述以外にも、微量成分を質量%表示で0.1%まで含有することができる。例えば、Cr、HO、OH、H、CO、CO、He、Ne、Ar及びN等の各種微量成分が該当する。
【0037】
また本発明の無機充填材用ガラス組成物では、無機充填材用ガラス組成物の性能に大きな影響がないならば、ガラス中に微量の貴金属元素が含有してもよい。例えばPt、Rh及びOs等の白金属元素を1000ppmまで、すなわち金属元素の含有量を質量百分率で表示して0.1%まで含有してもよい。
【0038】
本発明の無機充填材用ガラス組成物は、熔融ガラスの粘性が103.0dPa・sに相当する成形温度Tが、1450℃以下であるならば、ガラス成形時に成形設備に大きな熱的な負荷を掛けることなく耐用期間を長期化できるので好ましい。
【0039】
また本発明の無機充填材用ガラス組成物は、熔融ガラスの粘性が103.0dPa・sに相当する成形温度Tと液相温度Tとの温度差ΔTXL=T−Tが、70℃以上であれば、例えばガラス繊維として無機充填材前駆体をガラス繊維の形態で製造する場合に、ブッシングのノズルが熔解ガラスから晶出した失透物で詰り、紡糸時に切断されることがなくなるため好ましい。
【0040】
また本発明の無機充填材用ガラス組成物は、線熱膨張係数αが40×10−7/℃以下であるならば、例えばプリント配線板に用いられた場合に、高温環境下ではんだ接合部に熱応力が発生し、はんだクラックを引き起こし、電気接続が得られなくなる等の障害の発生を防ぐことになるので好ましい。
【0041】
また本発明の無機充填材用ガラス組成物は、周波数1MHzにおける誘電率εが5.8以下であれば、例えばプリント配線板として用いる場合に、高速な電子回路を実現するために1MHzの高周波を用いる場合であっても、十分高速な伝送速度を実現できる。伝送速度は誘電率εの平方根に反比例し、V=K×C/ε1/2で表される。ここでVは電気信号伝搬速度、Kは定数、Cは光速を表されるからである。
【0042】
また本発明の無機充填材用ガラス組成物は、弾性率Eが85GPa以上であれば、例えばプリント配線基板として用いる場合に、補強材として使用されるガラスクロスと併用された場合に弾性率Eを低下させることもなく、プリント配線板を作製した際にその反りの低減に寄与できるので好ましい。
【0043】
本発明の無機充填材は、本発明の無機充填材用ガラス組成物よりなることを特徴とする。
【0044】
本発明の無機充填材用ガラス組成物よりなるとは、酸化物換算の質量百分率表示でSiO 55〜70%、Al 15〜25%、MgO 3〜13%、CaO 0〜3%、B 0.5〜6%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5〜15%、SiO+Al 78〜88%、Al+MgO 23〜32%、TiO 0.1〜5%、ZrO 0〜1%、LiO+NaO+KO 0〜1%を含有する無機充填材である。
【0045】
本発明の無機充填材は、粉末あるいは顆粒の形態を呈しており、破砕物あるいは造粒物の何れであってもよい。ただ、製造費用を安価にするという点から、より好ましくは破砕された粉末であることが好ましい。
【0046】
本発明の無機充填材は、有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられるものであれば、例えばプリント配線板などとして優れた性能を発揮し、高い加工精度を発揮するものを得ることができるので好ましい。
【0047】
本発明に用いられる有機樹脂材としては、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂あるいはビスマレイミド樹脂等の樹脂を使用すればよい。フェノール樹脂ならば、例えばレゾール樹脂、フェノールノボラック樹脂、フェノール変性キシレン樹脂、アルキルフェノール樹脂、メラミンフェノール樹脂、ベンゾグアナミンフェノール樹脂、フェノール変性ポリブタジエン等を用いればよい。エポキシ樹脂ならば、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂,ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂,脂環式エポキシ樹脂、多官能フェノールのジグリシジルエーテル化物、多官能アルコールのジグリシジルエーテル化物、これらの水素添加物等のエポキシ樹脂を単独あるいは何種類かを併用して用いればよい。
【0048】
有機樹脂材に対して本発明の無機充填材を混合する比率は、所望の性能を得ることができる限り制限されるものではないが、複合化後の材料の弾性率などの性能発現性や、製造効率などの観点から、好ましくは有機樹脂材に対して体積百分率表示で1%以上50%以下になるようにすることが好ましい。1%未満であると、低い膨張性を実現すること、あるいは高い弾性率を実現することなどが困難になる場合がある。また体積百分率が50%を超えると、樹脂中に均一分散を行うために多くの製造工程を必要とし、製造効率が低下する場合もあり好ましくない。
【0049】
また無機充填材の外形は、機械的に粉砕された破断面の表面を有したものであり、その平均粒子径D50は、所望の性能を発揮する限り限定されるものではない。ただ、有機樹脂材と混合して均質な性能を発揮できるものとしては、平均粒子径が10μm以下とすることが好ましい。また平均粒径が細かくなりすぎても、粉砕時間に必要以上の時間を要するにもかかわらず、性能の大きな向上は図れない場合もあり、このような観点から0.01μm以上とすることが好ましい。平均粒子径D50の計測はレーザー回折式粒度分布測定装置などを用いて行えばよい。
【0050】
また本発明の無機充填材は、ガラスクロス、あるいは不織布と共に有機樹脂材と複合化されるならば、用途に応じて高密度なプリント配線板を構成する上で最適なプリプレグとなるので好ましい。
【0051】
すなわち、ガラスクロス又は不織布と共に有機樹脂材と複合化されるとは、例えばガラスクロスならガラス繊維を経糸と緯糸として、プリント配線板用ガラスクロスに用いられる種々の製織方法で織られた織物とするか、あるいはチョップドストランドを湿式法や乾式法にて不織布、例えばガラスペーパーとし、これらを有機樹脂材と複合化する際に無機充填材は用いられる。すなわち、ここで用いられるガラスクロス又は不織布と有機材との複合化の際に、本発明の無機充填材を有機材に適量混合して用いることによって、適正な性能を発揮する有機樹脂複合材よりなるプリント配線板を形成する用途で用いるのに好適である。
【0052】
本発明の無機充填材の製造方法は、ガラス繊維、ガラスロッド、ガラスビーズ及びガラスカレットの群よりなる1以上を無機充填材前駆体とする無機充填材前駆体成形工程と、無機充填材前駆体を粉砕する粉砕工程よりなり、本発明の無機充填材を製造することを特徴とする。
【0053】
ここで、ガラス繊維、ガラスロッド、ガラスビーズ及びガラスカレットの群よりなる1以上を無機充填材前駆体とする無機充填材前駆体成形工程と、無機充填材前駆体を粉砕する粉砕工程よりなり、本発明の無機充填材を製造するとは次のようなものである。
すなわち、まず無機充填材前駆体として、種々の無機ガラス原料を混合し、高温で熔融した熔融ガラスからガラス繊維、ガラスロッド、ガラスビーズ及びガラスカレットの何れかを成形する。こうして得られた無機充填材前駆体を粉砕する粉砕工程を経ることによって適正な粒度の無機充填材を得ることになる。
【0054】
無機充填材前駆体成形工程でガラス繊維を成形する場合には、ガラス長繊維、ガラス短繊維のいずれの製造方法によってガラス繊維を製造してもよい。また、ガラス長繊維を製造するなら、直接成形法(DM法:ダイレクトメルト法)、間接成形法(MM法:マーブルメルト法)等の各種の製造方法を用途や製造量に応じて採用してよい。ガラス繊維を無機充填材前駆体とする際には、例えば、繊維直径が4μmから7μmのガラス繊維を製造し、次いでこのガラス繊維を破砕して粉末状とすればよい。
【0055】
ガラスロッドについては、ガラス繊維同様に、熔融ガラスからダウンドロー法やダンナー法等の成形方法を適宜採用し、ムク棒形状のガラスを成形すればよい。
【0056】
ガラスビーズについては、ガラス繊維同様に、熔融ガラスから直接高温気流中に射出、浮遊させて表面張力で球状化する方法や一度ガラスカレットを作成した上で上記のように気流中で球状化する方法、さらに耐熱性ドラム内でガラスカレットを回転させながら加熱してビーズ化する方法などを適宜採用してビーズ化を行えばよい。
【0057】
ガラスカレットについては、ロール成形して薄板状に急冷化して粗砕カレットとする方法、水砕してカレットにする方法などを適宜選択して、予めガラスカレットとすればよい。
【0058】
これらの無機充填材前駆体成形工程では、熔融ガラスを得る際に、前記した無機ガラス原料に加えて、ガラスカレットを適量使用してもよい。
【0059】
無機充填材前駆体を粉砕する粉砕工程については、所望の平均粒子径の粉砕物を得ることができるのであれば、様々な粉砕手段を用いて粉砕してもよい。例えば、ボールミル、ジェットミルなどを用いればよい。この粉砕工程については、単独で使用してもよいし、他の粉砕装置などと接続することによって連続したプラント設備として利用することも可能であって、利用者の要望や、粉砕する無機充填材前駆体成形の形態、量、用途などに応じて公知の粉砕装置を複数組み合わせて使用することも可能である。
【発明の効果】
【0060】
(1)本発明の無機充填材用ガラス組成物は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO 55〜70%、Al 15〜25%、MgO 3〜13%、CaO 0〜3%、B 0.5〜6%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5〜15%、SiO+Al 78〜88%、Al+MgO 23〜32%、TiO 0.1〜5%、ZrO 0〜1%、LiO+NaO+KO 0〜1%を含有するため、熔融ガラスを経て製造する際に熔融温度が低く、均質な熔融ガラスを得易い。また得られたガラスの性能として、高密度実装のプリント配線板で要求される低誘電率εを有し、さらに低い線熱膨張係数αを有するものとなる。
【0061】
(2)本発明の無機充填材は、本発明の無機充填材用ガラス組成物よりなるため、有機樹脂材中に均一に分散でき、例えば同じ組成のガラスクロスや不織布と共に用いて、高密度実装を実現するプリント配線板に用い、薄い板厚のプリント配線板であってもガラス含有率を増加させて高い性能を発揮する配線板を得ることができる。
【0062】
(3)本発明の無機充填材の製造方法は、ガラス繊維、ガラスロッド、ガラスビーズ及びガラスカレットの群よりなる1以上を無機充填材前駆体とする無機充填材前駆体成形工程と、無機充填材前駆体を粉砕する粉砕工程よりなり、本発明の無機充填材を製造するものであるため、経済的に安価な製造費で均質で優れた品位のガラス製の無機充填材を得ることが容易である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下に本発明の無機充填材用ガラス組成物、無機充填材及び無機充填材の製造方法について、実施例に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0064】
本発明の実施例に係る無機充填材用ガラス組成物の組成と、その評価結果を表1示す。表1に示した酸化物換算表記のガラス組成の各成分の値は、何れも質量%で表したものである。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例である試料No.1から試料No.15までの各ガラス試料については、以下に示す手順に従い、各ガラス試料を調製した。
【0067】
まず、各々表1の各ガラス組成となるように、天然鉱物ガラス原料や化成ガラス原料等、複数のガラス原料種を小数点3桁のg単位で所定量秤量する。次いで、これら複数の原料を均質な状態になるように混合したガラス原料混合バッチを準備し、このガラス原料混合バッチを白金ロジウム製の300ccの容積を有する坩堝内に投入する。この原料混合バッチが投入された白金ロジウム製の坩堝を間接加熱電気炉内にて大気雰囲気中にて1650℃、5時間加熱してガラス原料混合バッチを高温下で化学反応させて熔融ガラスとした。この熔融ガラスを均質な状態とするために、加熱熔融の途中で耐熱性撹拌棒を使用して熔融ガラスの撹拌を行った。
【0068】
こうして均質な状態とした熔融ガラスを所定の耐火性鋳型内に流し出して所定形状に鋳込み成形を行って、徐冷炉内で室温までアニール処理を行い、試験等に使用するガラス成形体を得た。そして有機物との混合性などを評価するため、この成形体を再度加熱してブッシングノズルから引き出し、ガラス繊維を紡糸し、ついで得られたガラス繊維をボールミル内に投入し、アルミナ製ボールミルを使用して粉砕して粉末状とし、ガラス製の破砕された粉末状充填材を得た。
【0069】
本発明の実施例の各ガラス組成物についての各種の物理特性等は、以下の手順で計測した。計測の結果は、表1にまとめて示す。
【0070】
線熱膨張係数αの計測は、NISTのSRM−731、SRM−738を線熱膨張係数既知の標準試料として使用し、校正を受けた公知の線熱膨張計測機器により行った。表記した結果は、30℃から380℃の温度範囲について計測された平均線熱膨張係数である。この線熱膨張係数の値が低い程、温度変化が大きい場合であってもガラス繊維の膨張が小さくなり、その結果ガラス繊維が使用されるプリント配線板が電子機器に搭載された場合の温度変動に関わる信頼性を高めることに繋がる。
【0071】
熔融ガラスの高温粘性を示す103.0dPa・sの温度に相当する成形温度Txは、白金球引き上げ法と呼ばれる方法で計測したものである。この計測方法は、予め適正なサイズとなるように破砕した各ガラス試料をアルミナ製坩堝に投入して、再加熱し、融液状態にまで加熱した後に、計測した各粘性値の複数の計測によって得られた粘性曲線の内挿によってそれぞれの値を算出したものである。
【0072】
また液相温度Tは、熔融ガラス中で結晶が晶出する温度を計測したものである。この計測方法は、まず各ガラス成形体を所定形状に切断して所定粒度に粉砕加工し、微粉砕物を除去して所定範囲の表面積となるように300μmから500μmの範囲の粒度となるように調整した状態で白金製の容器に適切な嵩密度を有する状態に充填して、最高温度を1500℃に設定した間接加熱型の温度勾配炉内に入れて静置し、16時間大気雰囲気中で加熱操作を行った。その後に、白金製容器ごと試験体を取り出し、室温まで放冷後、偏光顕微鏡によって液相温度Tを特定した。表中のΔTXL=T−Tの値については、103.0dPa・sに相当する温度の値から液相温度Tの値を差し引いたものである。ΔTXL=T−Tの値が大きい程、成形温度近傍において成形操作を妨げるような結晶が簡単に析出することがなくなり、安定した成形状態が確保できることになる。なおこの成形温度Tについては、最も製造条件の厳しいものとして、ガラス繊維の製造の場合を想定し、成形温度Tが紡糸温度Tであるとして算出したものである。このΔTXL=T−Tの値を大きくするには、紡糸温度に相当する103.0dPa・sの温度Tを上昇させればよいが、そうするとガラスの熔融に要するエネルギーが大きくなり製造原価の上昇を招くこと、あるいはブッシング装置等の付帯設備の耐用期間を短縮するという問題を発生させることに繋がる。
【0073】
周波数1MHzの誘電率ε及び誘電正接tanδの計測については、50mm×50mm×3mmの寸法に加工したガラス試料片の厚さ3mmの両表面について、1200番アルミナ粉末を分散させた研磨液で研磨した板状試料を使用して行なった。この測定値は、ASTM D150−87に準拠し、横河ヒューレットパッカード製4192Aインピーダンスアナライザを使用することによって、室温下にて計測することによって得た。誘電率εと誘電正接tanδが小さい値であるほど、プリント配線板を構成する用途でガラス繊維が用いられた場合にプリント配線板の誘電損失tanδは小さくなる。
【0074】
弾性率Eの計測は、40mm×20mm×2mmの寸法に加工したガラス試料片の厚さ2mmの両表面について、1200番アルミナ粉末を分散させた研磨液で研磨した板状試料を使用して行なった。この測定値は、日本テクノプラス株式会社製自由共振式弾性率測定装置によって、室温下において計測することによって得た。
【0075】
本実施例で得られた各ガラス試料について、まとめて示す。本発明の実施例である試料No.1から試料No.15までの試料については、そのガラス組成は酸化物換算の質量%表示でSiOが59.7%から66.1%の範囲にあり、Alが17.5%から22.5%の範囲内、Bが2.5%から5.0%の範囲内、MgOが5.0%から11.5%の範囲内、CaOが0.1%から2.8%の範囲内、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOが8.7%から12.9%の範囲内、SiO+Alが79.9%から86.5%の範囲内、Al+MgOが23.7%から31.4%の範囲内、TiOが0.6%から4.0%の範囲内、ZrOが0%から0.6%の範囲内、LiO+NaO+KOが0.2%から0.5%の範囲内であり、いずれも本願発明の範囲内である。
【0076】
また表1にそれぞれ示したように、本発明の実施例の30℃から380℃までの温度範囲における線熱膨張係数αは29.4×10−7から38.4×10−7/℃の範囲内にあり、成形温度(ガラス繊維の成形における紡糸温度)Tに相当する103.0dPa・sの温度が1341℃から1441℃の範囲内にある。さらに本発明の実施例の液相温度Tは、1249℃から1365℃の範囲内であり、ΔTXL=T−Tの値は、74℃から142℃の範囲内にある。さらに誘電率εは5.20から5.75の範囲内である。さらに本発明の実施例の弾性率Eは、85.4GPaから94.7GPaの範囲である。
【0077】
本発明の実施例の中でも特に特徴的な試料について以下で説明する。
【0078】
試料No.1のガラス組成物は、Al+MgOが30.9%と31.5%よりも低く、かつ、B成分が4.8%と多いため、ガラス繊維の製造での生産指標となるΔTXL=T−Tが142℃と最も大きな値となっている。SiO+Alが83.8%であり88%以下であるため10dPa・sに相当する成形温度Tが1427℃と低く、安定した紡糸を行うのに十分な値である。また、B成分が4.8%と多いことに加え、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOが10.0%、TiOも0.6%と低いため誘電率εが5.20と最も低い値を示している。さらに、弾性率Eも88.4GPaと申し分ない値を示している。このように実施例の試料No.1のガラス組成物は本発明に相応しいものである。そこでこのガラス成形体によって細番手の平均繊維径5.0μmとなるように200本のノズルで紡糸を行い、ガラス繊維化の評価を実施したところ、失透等に起因する切断などの問題が発生することなく、ガラス繊維中に泡が残存することもなくガラス繊維を紡糸できることが判明した。
【0079】
試料No.2のガラス組成物は、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOが8.7%と最も少ないものであり、このため線熱膨張係数αが29.4×10−7/℃と最も低い値となっている。試料No.2は、10dPa・sに相当する紡糸温度Tが1427℃、液相温度Tが1333℃であるためガラス繊維製造での生産指標となるΔTXL=T−Tが94℃と生産性に問題ない値である。さらに試料No.2は、誘電率εが5.27と十分低く、弾性率Eも87.5GPaと大きい値を示している。この試料No.2に関しても、細番手の平均繊維径5.0μmとなるように200本のノズルで紡糸を行ってガラス繊維化の評価を実施したところ、従来のガラス製造設備に大きな変更を加えることなく安定した繊維径のバラツキもなく、紡出操作を行うことができ、得られたガラス繊維には失透等に起因する切断等の問題が発生することもなくガラス繊維を紡糸できることが判明した。
【0080】
試料No.8のガラス組成物は、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOが12.9%と最も高く、TiOが4.0%と最も高いものであり、弾性率Eが94.7GPaと最も大きく、SiO+Alが80.1%と最も低いため10dPa・sに相当する成形温度Tが1341℃と最も低いものであり、Al+MgOが31.4%と31.5%以下、Bが2.6%であるためガラス繊維製造での生産指標となるΔTXL=T−Tが79℃と生産性に問題ない大きさである。さらに、誘電率εが5.75と申し分なく低い値を示している。この試料No.8に関しても、平均繊維径5.0μmとなるように200本のノズルで紡糸を行ってガラス繊維化の評価を実施したところ、従来のガラス製造設備に大きな変更を加えることなく安定した紡出操作を行うことができ、得られたガラス繊維には失透等に起因する切断等の問題が発生することなくガラス繊維を紡糸できることが判明した。
【0081】
次いで、本発明の比較例に係るガラス繊維用組成物の組成と評価結果を表2に示す。表2に示した酸化物換算表記のガラス組成の各成分の値は、実施例と同様に何れも質量%で表したものである。
【0082】
【表2】

【0083】
比較例である試料No.101から試料No.105までの各ガラス試料については、実施例と同様にガラス試料を調製し、評価についても実施例同様に行った。
【0084】
比較例であるNo.101は、一般にSガラスと呼ばれるガラス組成物であるが、SiO+Alが90%と多いため、熔融ガラスの粘度10dPa・sに相当する成形温度Tが1461℃と高くなる。また、このNo.101は、Al+MgOが35.0%であるため、ガラス繊維製造での生産指標となるΔTXL=T−Tが17℃とガラス繊維を安定して連続生産できるものではなかった。すなわち、このガラス成形体を使用し、ガラス繊維化の評価を実施したところ、ブッシングノズルに失透による詰りが発生し、切断が多発して連続的にガラス繊維を紡糸し続けることができなかった。また紡糸温度Tが1461℃と高いためブッシングの温度管理が難しく、各ノズルの温度が異なった状態となり、熔融ガラスが異なった粘度となり、繊維径のそろったガラス繊維を紡糸できなかった。
【0085】
また、比較例であるNo.102は、一般にRガラスと呼ばれるガラス組成物であるが、CaOが9%と高いため誘電率εが6.07と大きく、本発明の課題を解決することはできない。
【0086】
比較例のNo.103は、ZrOが1.8%と高いため、10dPa・sに相当する成形温度Tに比較して液相温度Tが高く、ガラス繊維製造での生産指標となるΔTXL=T−Tが33℃と低いため、製造での問題が懸念されるものである。そして、このガラス成形体によってガラス繊維化の評価を実施したところ、ブッシングに失透による詰りが発生し、連続的にガラス繊維を紡糸し続けることができなかった。
【0087】
比較例のNo.104は、一般にEガラスと呼ばれるガラス組成物であるが、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOが25%と高いため、線熱膨張係数αが60×10−7/℃と大きく、また、誘電率εも6.90と高いため、本発明の課題を解決することはできない。
【0088】
比較例のNo.105は、一般にDガラスと呼ばれるガラス組成物であるが、Al+MgOが1.5%と少ないため、弾性率Eが60GPaと小さ過ぎる。また、SiOが75.0%と高く、プリント配線板の穴あけ加工時のドリルの磨耗が大きくなる懸念がある。さらに、Bが20.0%と高く、LiO+NaO+KOが3.5%と高く、プリント配線板回路の電気的信頼性が低くなる懸念があるため、本発明の課題を解決することはできない。
【0089】
以上に示したように、本願発明の実施例と比較例とから、本願発明の実施例は、本願発明の課題に対応でき、低い誘電率ε、低い線熱膨張係数α、さらに十分高い弾性率Eをも実現し、しかも無機充填材前駆体として、ガラス繊維を製造する際に問題となるガラス繊維径のバラツキや失透による切断、そしてホローファイバーの混入などの諸問題を全て解決できるものであることが明瞭となった。
【実施例2】
【0090】
実施例1に記載の試料No.1、試料No.2及び試料No.8については、さらにDM法(ダイレクトメルト法)によってガラス長繊維の紡糸を試験紡糸設備で実施した。実施例1での原料調整方法と同様に各ガラス原料の秤量を行い所定の組成となるようにしたものを用い、高温に保持したガラス熔融炉内の熔融槽内へスクリュー投入機を用いて投入した。そしてこの原料を加熱し熔融を行い、均質化の後にブッシングノズルが200本付設されたブッシング装置を用いて、繊維径4.5μmのガラスフィラメントを連続生産で紡糸した。紡糸では、失透結晶の析出もなく、そのためガラス繊維の切断もなく円滑な製造を行えた。
【0091】
紡糸されたガラス繊維は、ケーキとして巻き取った後、アルミナ製ボールミルに投入して粉砕工程を行った。こうして得られた粉砕後の各粉末体の平均粒子径(D50)については、レーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製 SALD−2000J)を使用して計測したところ、粒径加積曲線における有効粒径である平均粒子径(D50)は、試料No.1が4.9μm、試料No.2が3.0μm、及び試料No.8が2.1であった。
【0092】
得られた各充填材をエポキシ樹脂の体積百分率に対して30%の比率で添加し、万能混合装置で混合操作を行った。こうして得られた複合材を硬化させて得られた有機樹脂複合材について、均質な複合材が得られているか、硬化後の硬化体の不特定箇所から1cmの体積の試料を10検体切り出して、その密度を調べたところ、密度のバラツキは十分に小さく、硬化体の均質性には問題なく、充填材が均等に分散した複合材が得られることを確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算の質量百分率表示でSiO 55〜70%、Al 15〜25%、MgO 3〜13%、CaO 0〜3%、B 0.5〜6%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5〜15%、SiO+Al 78〜88%、Al+MgO 23〜32%、TiO 0.1〜5%、ZrO 0〜1%、LiO+NaO+KO 0〜1%を含有することを特徴とする無機充填材用ガラス組成物。
【請求項2】
熔融ガラスの粘性が103.0dPa・sに相当する成形温度Txが1450℃以下であることを特徴とする請求項1に記戴の無機充填材用ガラス組成物。
【請求項3】
熔融ガラスの粘性が103.0dPa・sに相当する成形温度Txと液相温度Tとの温度差ΔTXL=T−Tが70℃以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記戴の無機充填材用ガラス組成物。
【請求項4】
線熱膨張係数αが40×10−7/℃以下であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の無機充填材用ガラス組成物。
【請求項5】
周波数1MHzにおける誘電率εが5.8以下であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の無機充填材用ガラス組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れかに記載の無機充填材用ガラス組成物よりなることを特徴とする無機充填材。
【請求項7】
有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられることを特徴とする請求項6に記載の無機充填材。
【請求項8】
ガラスクロス、あるいは不織布と共に有機樹脂材と複合化されることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の無機充填材。
【請求項9】
ガラス繊維、ガラスロッド、ガラスビーズ及びガラスカレットの群よりなる1以上を無機充填材前駆体とする無機充填材前駆体成形工程と、無機充填材前駆体を粉砕する粉砕工程よりなり、請求項6から請求項8の何れかに記載の無機充填材を製造することを特徴とする無機充填材の製造方法。

【公開番号】特開2011−105555(P2011−105555A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263612(P2009−263612)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】