説明

無機凝集剤

【課題】処理液中に分散する可視性物質だけでなく、不可視性物質をも容易に除去することができて、単に処理液に凝集剤を加えるだけで、煩雑な操作も技術の熟練も要せず安定した効果が得られて、しかも、従来の凝集剤では不可能な繰返し使用ができ、製品コストは最も安価な有機高分子凝集剤の数10分の1以下であるという理想的な無機凝集剤を提供する。
【解決手段】液体中に分散する微粒子が会合して、より大きな会合体を造る凝集作用を助長させる無機凝集剤であって、この無機凝集剤は、牡蠣等の貝殻を原料としてこの原料に酸性液を作用させ、原料に含有される凝集機能成分を溶出させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝殻を原料として得られる高性能で安価な無機凝集剤に関する。
【背景技術】
【0002】
凝集剤には、無機凝集剤と、有機高分子凝集剤とがあり、このうち有機高分子凝集剤は、凝集性、吸着性、沈降速度等において優れて、使い易い利点もあるため、高濃度負荷の前処理等に専ら使用されている現状である。
【0003】
しかしながら、有機高分子凝集剤は、前記のように優れた特性を有する反面、可視性物質は容易に除去されても、不可視性の溶解性物質は除去されにくく、このため、処理水が外観的には高い透視度であるにも拘わらず、BOD値が高い。
処理液を処理に適合するPHに調整し、助剤として無機凝集剤等を加えて架橋作用等による機能向上を図るなど煩雑な事前処理が必要であって、充分な効果をあげるには技術的な熟練も必要である。
一回の使用で機能しなくなるため廃棄されて、繰り返し使用は不可能である。
製品コストは20kgで¥5,000〜¥35,000であり、多量の凝集剤を使用する処理施設においては莫大な経費負担となる。などの問題点を有する。
【発明の概要】
【本発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記課題を解決して、処理液中に分散する可視性物質だけでなく、不可視性物質をも容易に除去することができて、単に処理液に凝集剤を加えるだけで、煩雑な操作も技術の熟練も要せず安定した効果が得られ、しかも、従来の凝集剤では不可能な繰返し使用ができて、製品コストは最も安価な有機高分子凝集剤の数10の1以下であるという理想的な無機凝集剤を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明に係る無機凝集剤は、下記の構成を採用することを特徴とする。
液体中に分散する微粒物質が会合して、より大きな会合体を作る凝集作用を助長する無機凝集剤であって、この無機凝集剤は、牡蠣等の貝殻を原料としてこの原料に酸性液を作用させ、原料が含有する凝集、吸着、沈降等の機能成分を溶出させることで繰り返し使用が可能な製品を得ること。
【発明の効果】
【0006】
(1)凝集性、吸着性、沈降速度等において有機高分子凝集剤と同等の機能が発揮される。
(2)凝集剤を処理液に混合するだけで、前段で処理液のPH調整をしたり、助剤による効果の向上を図る等の煩雑な操作や技術の熟練等は必要とせずに、最良の効果を安定して上げることができる。
(3)従来の凝集剤では不可能であった繰り返し使用が可能である。
(4)有機高分子凝集剤では取り残し易かった溶解性物質を分離除去することができる。
(5)廃物の貝殻を有用な資源として活用できて、製品のコストが有機高分子凝集剤の安価なものに比べても数10分の1以下と極めて安い。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明に係る無機凝集剤の実施形態を説明する。
【0008】
本発明において主原料とする貝殻は、公知の通り石灰を主成分として、多種の微量元素(ミネラル)を含有するものであり、これら微量元素を酸性液によって溶出させると、凝集、吸着、沈降等の機能の助長を行う成分を有しているものが存在するすべてが適用される。しかし、大量を容易に入手できることが好ましいので、現在は牡蠣殻を使用している。
【0009】
前記貝殻は、洗浄等により汚れを除去して、原形のままか、接触面積を大きくするために適当な大きさに粉砕するか、あるいは、粉状に粉砕したもの等をそのままか、凝集機能等を助長する剤等を加えて、結合剤により粒状、塊状に成形して用いてもよい。
【0010】
前記貝殻から成分を溶出させる酸性液は、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、等の無機酸、又は、植物等から得た有機酸など原料貝殻に作用させて、含有する凝集機能成分を溶出させ易い特性のものを水により適当濃度に希釈して用いる。
【0011】
前記酸性液を原料貝殻に作用させるには、浸漬、接触、その他、適当な手段を用いる。このうち、浸漬式は原料貝殻の適量を容器に入れて、この容器に貝殻が漬かるように適当濃度に希釈した酸性液を注入して、静置するか、必要に応じて攪拌を行なうことにより貝殻に酸性液を作用させ、貝殻に含有される微量元素(ミネラル)を凝集機能成分として溶出させて凝集剤の原液とする。
【0012】
又、接触式は、通水底を有する容器に貝殻を必要とする接触時間が得られる層厚をなすように収容して置いて、容器の上から適当濃度に希釈した酸性液をシャワー状に流下させるか、反対に下から流入させて上へ流出させるか、あるいは、酸性液の流路中に原料貝殻の充填部を設けて、この部分に貝殻層を充填してこの貝殻層を酸性液が横に貫流するようにする。このようすれば、原理的には酸性液が一定時間で貝殻層を通過して貝殻に作用し、貝殻が含有する凝集剤機能成分の微量元素(ミネラル)を溶出させるのであり、この方式では通過時間の設定により適当な濃度の凝集剤を連続して調製することができる。
【0013】
前記の通り貝殻に酸性液を作用させて溶出させた成分が何であるか、これら成分中の何が凝集機能を発揮するものであるかは、分析設備を持たないため確認することはできない。しかしながら、酸性液に浸漬して貝殻成分から溶出させた凝集剤の原液を100倍程度に希釈して、この希釈液を試験容器に取った500ccの乳牛屎尿排水に加え、緩やかに攪拌した後に静止させて凝集試験を行って見ると、廃液中の懸濁物質は60秒で凝集を始めてフロックを形成し、フロックの成長に伴ない、これが逐次沈降して15分後にフロックは容器の底部に沈降層を造り、この沈降層より上は無色透明の状態となった。
【0014】
前述の通り無色透明の状態となった上澄水のBOD値と、凝集処理を行なう前の処理液とのBOD値を比較検査すると、95%以上が除去されていて溶解性物質の除去も極めて効果的に行なわれることが実証された。しかも、本発明の無機凝集剤は、これを単に処理液に混合して攪拌するだけで、事前に処理液のPH調整をしたり、無機凝集剤等の助剤添加による機能増進を図ったりする煩雑な操作や技術の熟練などは一切不要であって、充分な効果を安定して上げ得る。
【0015】
また、本発明の無機凝集剤は、一回目の使用により凝集沈降した物質を除去すれば、凝集剤液を次の処理液に加えて、処理液中に分散する微粒物質の凝集・沈降等を助成する2回目の作用を行わせ、この際に凝集・沈降した物質を除去した後に、凝集剤液を更に新たな処理液に加えて、液中に分散する物質の凝集・沈降を助成させる3回目の作用を行わうという実験を多数回繰り返しても、凝集剤液の濃度保障に留意すれば、凝集・沈降等の助成機能には変化が認められず、このことから、本発明の無機凝集剤は繰り返し使用できるものであることが実証された。
【0016】
以下に本発明に係る無機凝集剤の実験例を説明する。
実験例1
蠣殻300gを2500ccの容器に入れて、この容器に濃度3%の稀硫酸2000ccを加えて、蠣殻が酸性液に漬かる状態で30分静置した。その結果、容器には牡蠣殻から凝集機能成分となる微量元素(ミネラル)が溶出した2000ccの凝集剤原液が得られた。そこで、水100ccに凝集剤原液の10ccを加えて凝集剤液を調製した。
【0017】
実験例2
実験例1において得た凝集剤液の30ccを、容器に取った300ccの乳牛屎尿排水に加えて、10秒間攪拌してその後静止させた。その結果、乳牛屎尿排水中の微粒物質は、80秒で凝集を始めてフロックを形成し、フロックの成長に伴ない沈降して、12分後にはフロックが容器の底に沈降層を形成して、その上には透明な水が存在する状態となった。そして、この上澄水のBOD値を計測すると、54ppm以下であり、原排水のBODは12,000ppmであるから、本発明の凝集剤液による処理ではBODの除去率が99%以上に達することが実証された。
【0018】
実験例3
実験例2において、乳牛屎尿排水に凝集剤を加え、緩やかに攪拌した後に、攪拌を停止するとき、廃水のPHを検査して酸性状態にあれば、アルカリ剤を注入して廃水が中性となるように加減した。こうすると、酸性状態のときに比べて凝集沈降が著しく増進されて、2分で実験例2と同様の結果が得られた。
【0019】
実験例4
豚尿排水300ccを容器に取って、凝集剤の30ccを加え、10秒間攪拌してその後静止させた。その結果、豚尿排水中の微粒物質は、50秒で凝集を始めてフロックを形成し、フロックの成長に伴ない沈降して、6分後にはフロックが容器の底に沈降層を形成して、その上には透明な水が存在する状態となった。この試料についてはBOD値は未計測。
【0020】
実験例5
油脂類を含有する製菓工場の排水300ccを容器に取って、凝集剤30ccを加え、10秒間攪拌してその後静止させた。その結果、製菓排水中の微粒物質は、50秒で凝集を始めてフロックを形成し、フロックの成長に伴ない沈降して、5〜6分後にはフロックが容器の底に沈降層を形成して、その上には透明な水が存在する状態となった。この試料についてもBOD値は未計測。
【0021】
実験例6
油脂類を含有する弁当工場の排水300ccを容器に取って、凝集剤30ccを加え、10秒間攪拌してその後静止させた。その結果、製菓排水中の微粒物質は、20秒で凝集を始めてフロックを形成し、フロックの成長に伴ない沈降して、3分後にはフロックが容器の底に沈降層を形成して、その上には透明な水が存在する状態となった。この試料についてもBOD値は未計測。
【0022】
実験例7
生活排水300ccを容器に取って、凝集剤30ccを加え、10秒間攪拌してその後静止させた。その結果、製菓排水中の懸濁物質は、30秒で凝集を始めてフロックを形成し、フロックの成長に伴ない沈降して、3分後にはフロックが容器の底に沈降層を形成して、その上には透明な水が存在する状態となった。この試料についてもBOD値は未計測。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に分散する微粒物質が会合して、より大きな会合体を造る凝集作用を助長する無機凝集剤であって、
この無機凝集剤は、牡蠣等の貝殻を原料としてこの原料に酸性液を作用させ、原料が含有する凝集、吸着、沈降等の機能成分を溶出させることで繰り返し使用が可能な製品を得ることを特徴とする無機凝集剤。

【公開番号】特開2010−184243(P2010−184243A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124444(P2010−124444)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【分割の表示】特願2002−157928(P2002−157928)の分割
【原出願日】平成14年5月30日(2002.5.30)
【出願人】(502194458)
【出願人】(502195318)
【Fターム(参考)】