説明

無機強化ポリエステル系樹脂組成物及びそれを用いた成形品の表面外観改良方法。

【課題】高強度・高剛性と成形品の良好な表面外観、低ソリ性を同時に満足させ、かつ成形時の金型温度が100℃以下で表面光沢の良好な成形品の提供を可能とする。
【達成手段】ポリエステル樹脂(A)、ポリエステル樹脂(A)以外の少なくとも1種のポリエステル樹脂(B)及び無機強化材を含有するポリエステル系樹脂組成物において、該ポリエステル系樹脂組成物の示差走査型熱量計(DSC)で求められる降温結晶化温度をTc2M(℃)、前記ポリエステル系樹脂組成物の中で前記ポリエステル樹脂(B)のみを含有しない場合の降温結晶化温度をTc2N(℃)としたとき、下記関係を満足することを特徴とする無機強化ポリエステル系樹脂組成物。
Tc2N(℃)−Tc2M(℃) ≧ 10(℃)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂とガラス繊維等の無機強化材を含有する無機強化ポリエステル系樹脂組成物に関する。詳しくは、高剛性・高強度でありながら成形品のガラス繊維や無機強化材の浮き等が少ない、表面光沢があるなどの成形品外観に優れ、かつソリ変形も少ない優れた成形品を提供できる無機強化ポリエステル樹脂系組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリエステル樹脂は、機械的特性、耐熱性、耐薬品性等に優れ、自動車部品、電気・電子部品、家庭雑貨品等に幅広く使用されている。なかでもガラス繊維等の無機強化材で強化されたポリエステル樹脂組成物は、剛性、強度および耐熱性が飛躍的に向上し、特に剛性に関しては無機強化材の添加量に比例して向上することが知られている。
しかしながら ガラス繊維等の無機強化材の添加量が多くなると、ガラス繊維等の無機が成形品の表面に浮き出し、成形品の外観、特に表面光沢が低下し、商品価値が著しく損なわれる場合がある。
そこで成形品外観を向上させる方法として金型温度を極端に高く、例えば120℃以上に設定して成形することが提案されている。
しかし、これらの方法では金型温度を高くするために特別な装置が必要となり、汎用的にどこの成形機でも成形することが出来ないばかりか、金型温度を高温に上げた場合でも金型内でゲートから遠く離れている成形品の末端部分等で、ガラス繊維等の浮きが発生し、良好な成形品外観が得られない場合があったり、成形品のそりが大きくなり、組み付け出来ないなどの不具合を発生する場合があった。
また、近年種々のガラス繊維等の無機強化樹脂材料において高光沢性の成形品が得られるように、金型を改良することが提案されている(特許文献1、2)。この金型改良は金型のキャビテー部分に断熱性の高いセラミックス、例えばジルコニヤセラミックス等を入れ子として装入し、溶融樹脂がキャビテーに充填された直後に急冷されるのを制御し、キャビテー内の樹脂を高温で保持して、表面性の優れた成形品を得ることを目的としている。
しかしながら、これらの方法は金型製造が高価になると共に平板等の単純な製品形状では有効であるが、複雑な形状の製品ではセラミックスの加工が困難で、精度の高い金型製造が出来にくいという問題点がある。
【特許文献1】特許第3421188公報
【特許文献2】特許第33549341公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、金型の特別な改良を必要とせず、樹脂組成物の特性を改良するだけで良好な成形品を提供しようとするものであり、ガラス繊維等の無機強化材を配合したポリエステル系樹脂組成物であっても、成形品の表面外観の不良やソリ変形が少なく、高強度・高剛性と成形品外観の改善とを両立させ、かつ成形時の金型温度が100℃以下であっても表面光沢の良好な成形品の提供を可能とすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、上記課題を解決するためにポリエステル系樹脂組成物の構成と特性について鋭意研究した結果、無機が大量に配合された樹脂組成物においては、成形品の外観は、金型内の樹脂組成物の流動性を向上させることよりも、金型内での樹脂組成物の固化(結晶化)速度の影響の方が大きいことを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0005】
すなわち、本発明は、以下の構成を採用するものである。
(1)ポリエステル樹脂(A)、ポリエステル樹脂(A)以外の少なくとも1種のポリエステル樹脂(B)及び無機強化材を含有するポリエステル系樹脂組成物において、該ポリエステル系樹脂組成物の示差走査型熱量計(DSC)で求められる降温結晶化温度をTc2M(℃)、前記ポリエステル系樹脂組成物の中で前記ポリエステル樹脂(B)のみを含有しない場合の降温結晶化温度をTc2N(℃)としたとき、下記関係を満足することを特徴とする無機強化ポリエステル系樹脂組成物。
Tc2N(℃)−Tc2M(℃) ≧ 10(℃)
(2)ポリエステル樹脂(A)が、ポリブチレンテレフタレート樹脂であり、かつポリエステル系樹脂組成物のTc2Mが185℃以下である前記(1)に記載の無機強化ポリエステル系樹脂組成物。
(3)ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)が、共重合ポリエステル樹脂である前記(1)に記載の無機強化ポリエステル系樹脂組成物。
(4)ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)が、共重合ポリエステル樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂である前記(1)に記載の無機強化ポリエステル系樹脂組成物。
(5)共重合ポリエステル樹脂が、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸およびエチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を共重合したポリエステル樹脂である前記(3)又は(4)に記載の無機強化ポリエステル系樹脂組成物。
(6)全ポリエステル樹脂中でポリエステル樹脂(A)を最も多く含有し、かつ全組成物中で無機を最も多く含有する無機強化ポリエステル系樹脂組成物から成形品を得るに際し、ポリエステル系樹脂組成物の示差走査型熱量計(DSC)で求められる降温結晶化温度Tc2M(℃)が10℃以上低下するように、組成物中に降温結晶化温度低下剤を含有せしめて成形することを特徴とする無機強化ポリエステル系樹脂組成物成形品の表面外観改良方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、無機が大量に配合された樹脂組成物においても、金型内での樹脂組成物の固化(結晶化)速度を低下させることにより、成形品表面のガラス繊維等の浮きが防止できるため、成形品の外観は大きく改善され、高強度、高剛性でありながら良好な外観特性で低ソリ性の成形品を得ることができる。また、共重合ポリエステル樹脂などの降温結晶化温度低下剤を樹脂組成物中に含有させて降温結晶化温度を低下させることにより、成形品の表面外観を向上させることができ、剛性と光沢性に優れた無機強化ポリエステル系樹脂組成物成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を具体的に説明する。
本発明におけるポリエステル樹脂(A)とは、本発明の組成物中の全ポリエステル樹脂中で最も含有量が多い主要成分の樹脂であり、無機を強化材として配合して成形品に成形されることが可能な樹脂である。
例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンナフタレートなどのホモポリエステルやこれらのホモポリエステルをハードセグメントとし、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングルコールやポリカプロラクトンなどの脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするポリエステルエラストマーなどの結晶性ポリエステル樹脂である。これらの樹脂は、それ単独でエンジニアリングプラスチックとして使用可能な程度に高い分子量で高い物性、タフネスを有するものが好ましい。
例えば、PBTの場合、還元粘度(0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mLに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定:dL/g)は、0.4〜1.2dL/gの範囲が好ましく、より好ましくは、0.5〜0.8dL/gの範囲である。還元粘度が0.4dL/g以下ではタフネスが低下するため好ましくなく、1.2dL/gを越えると流動性が低下して、目的とする良好な成形品外観が得られないので好ましくない
【0008】
本発明のポリエステル系樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A)の配合量は20〜55質量%であり、好ましくは20〜50質量%である。
【0009】
本発明のポリエステル系樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)としては、次のような共重合ポリエステル樹脂(B)や該共重合ポリエステル樹脂(B)と併用する少量の上記のポリエステル樹脂(A)である。
共重合ポリエステル樹脂(B)の酸成分としては、テレフタル酸(TPA)、イソフタル酸(IPA)、セバシン酸(SA)、アジピン酸(AA)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(NPA)、トリメリット酸(TMA)などが挙げられ、グリコール成分としては、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール(DEG)、ネオペンチルグリコール(NPG)、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、1,4−ブタンジオール(BD)、1,2−プロパンジオール(1,2PG)、1,3−プロパンジオール(1,3PG)、2−メチル−1,3−プロパンジオール(2MG)およびポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ε−カプロラクトン、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。これらの酸成分とグリコール成分との重縮合によって得られるポリエステル共重合体である。
【0010】
具体的には TPA//EG/NPG共重合体、TPA/IPA//EG共重合体、TPA//EG/1,2PG共重合体、TPA/IPA//EG/NPG共重合体、TPA//EG/CHDM共重合体、TPA/IPA/TMA//2MG/1,2PG共重合体、TPE/IPA/TMA//2MG/CHDM共重合体、TPA/IPA/SA//EG/NPG/CHDM共重合体、TPA/IPA//EG/1,3PG共重合体、NPA//BD/PTMG共重合体 等の共重合ポリエステル樹脂を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0011】
本発明に用いられる共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mLに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定:dL/g)は、具体的な共重合ポリエステル樹脂によって異なるが、0.4〜1.5dL/g、より好ましくは0.4〜1.3dL/gである。還元粘度が0.4dL/g未満であると、タフネスが低下して好ましくない。一方1.5dL/gを越えると流動性が低下して好ましくない。
【0012】
本発明のポリエステル系樹脂組成物における共重合ポリエステル樹脂の配合量は3〜30質量%であり、好ましくは3〜25質量%である。
【0013】
共重合ポリエステル樹脂(B)と併用する少量の上記のポリエステル樹脂(A)(以下、ポリエステル樹脂(B)と表記することがある)としては、共重合ポリエステル樹脂(B)と併用し、かつ上記のポリエステル樹脂(A)より少ない量であれば、上記の結晶性ポリエステル樹脂を使用することができる。
例えば、テレフタル酸とエチレングリコールから重縮合によって得られる代表的な熱可塑性ポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)である。PETの還元粘度(0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mLに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定:dL/g)は、0.4〜1.0dL/gの範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜0.9dL/gの範囲である。還元粘度が0.4dL/g以下ではタフネスが低下するため好ましくなく、1.0dL/gを越えると流動性が低下し、目的とする良好な成形品外観が得られないので好ましくない。
【0014】
ポリエステル系樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(B)の配合量は0〜30質量%であり、好ましくは0〜25質量%である。
【0015】
本発明における無機強化材とは、板状晶のタルク、マイカ、未焼成クレー類、不特定あるいは球状した炭酸カルシウム、焼成クレー、シリカ、ガラスビーズ、一般的に使用されているワラストナイト及び針状ワラストナイト、ガラス繊維、炭素繊維、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム等のウイスカー類、平均粒径4〜20mm程度でカット長は35〜80mm程度のガラス短繊維であるミルドファイバー等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。成形品外観の面ではタルクやワラストナイト、強度、剛性向上の面ではガラス繊維が最も優れている。これらの無機強化材は1種類を単独で使用しても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0016】
無機強化材の中でガラス繊維としては、平均繊維径が4〜20μm程度、カット長は3〜6mm程度であり、ごく一般的なものを使用することが出来る。ガラス繊維には有機シラン系化合物、有機チタン系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ系化合物等のカップリング剤で予め処理をしてあるものが好ましい。カップリング剤で処理してあるガラス繊維を配合したポリエステル系樹脂組成物では優れた機械的特性や外観特性の優れた成形品が得られるので好ましい。また、他の無機強化材においても、カップリング剤が未処理の場合は後添加して使用することが出来る。
本発明のポリエステル系樹脂組成物における無機強化材(C)の配合量は30〜60質量%であり、好ましくは35〜55質量%である。
【0017】
本発明の無機強化ポリエステル系樹脂組成物は、示差走査型熱量計(DSC)で求められる降温結晶化温度をTc2M(℃)、前記ポリエステル系樹脂組成物の中で前記ポリエステル樹脂(B)のみを含有しない場合の降温結晶化温度をTc2N(℃)としたとき、下記関係を満足することを特徴とする。
Tc2N(℃)−Tc2M(℃) ≧ 10(℃)
Tc2N(℃)−Tc2M(℃)は、好ましくは13(℃)以上、より好ましくは15(℃)以上である。
なお、本発明における降温結晶化温度(Tc2)とは、示差走査型熱量計(DSC)を用い、窒素気流下で20℃/分の昇温速度にて300℃まで昇温し、その温度で5分間保持した後、10℃/分の速度で100℃まで降温させることにより得られるサーモグラムの結晶化ピークのトップ温度である。
本発明の無機強化ポリエステル系樹脂組成物は、示差走査型熱量計(DSC)で求められる降温結晶化温度Tc2M(℃)は、185℃以下が好ましく、180℃以下が好ましい。
【0018】
Tc2M(℃)が特に190℃を超えるような高い温度の場合は、ポリエステル系樹脂組成物の結晶化速度が速すぎて金型内での結晶化が早く起こるため、射出圧力の伝播速度が低下する傾向にあり、射出物と金型との密着が不充分になることや結晶化収縮の影響により、ガラス繊維等の無機の存在が成形品の表面で目立つ、所謂、ガラス繊維等の無機の浮き等が発生し、成形品の外観性が悪くなってしまうことになる。
また、結晶化速度が速い無機強化樹脂組成物の場合、金型温度を120から130℃と高温にして成形表面の固化を遅延させる方法が考えられるが、この方法では、金型内で射出圧力が高い中心部分では表面光沢が改良されるが、射出圧力が加わりにくい成形品の末端部分では、ガラス繊維等の無機の浮き出しが発生しやすく、成形品全体での良好な外観特性は得られにくい。また、金型から取り出された後の成形品温度が高いため、成形品のそりが大幅に大きくなってしまう欠点がある。
本発明のポリエステル系樹脂組成物では、金型内での結晶化速度が最適となり、金型温度100℃以下の温度で射出成形しても、表面光沢に優れた成形品が得られる。
【0019】
無機強化ポリエステル系樹脂組成物におけるTc2M(℃)の温度に関与する最も重要な因子は、共重合ポリエステル樹脂(B)である。共重合ポリエステル樹脂(B)成分はPETやPBTと分子分散に近い相容性があり、かつ樹脂組成によって非晶性から結晶性まで幅広い物性を付与できる。そのため特定の共重合ポリエステル樹脂を最適な添加量を配合する事によって、無機強化ポリエステル系樹脂組成物のTc2M温度のコントロールが可能となり、良好な成形品外観が得られる。また、成形品のソリ変形を低減することも可能となり、共重合ポリエステル樹脂(B)は、良好な外観や低ソリ化には極めて重要である。
【0020】
つまり、本発明者らは、高濃度の強化材を含有する無機強化ポリエステル系樹脂組成物においては、金型内の樹脂充填速度に関係するメルトフローインデックス(MFI)は成形品の外観特性(ガラス繊維等の無機強化材の浮き出し等)にはあまり関連がなく、外観特性は、組成物の溶融状態から冷却過程での結晶化速度と密接に関連しており、組成物の冷却過程の結晶化特性をコントロールすることが重要なことを見出したのである。
【0021】
すなわち、他の発明は、全ポリエステル樹脂中でポリエステル樹脂(A)を最も多く含有し、かつ全組成物中で無機を最も多く含有する無機強化ポリエステル系樹脂組成物から成形品を得るに際し、ポリエステル系樹脂組成物の示差走査型熱量計(DSC)で求められる降温結晶化温度Tc2M(℃)が10℃以上低下するように、組成物中に降温結晶化温度低下剤を含有せしめて成形することを特徴とする無機強化ポリエステル系樹脂組成物成形品の表面外観改良方法である。
【0022】
特に、ポリエステル樹脂(A)が、通常のポリエステル樹脂に比べて結晶化速度が速いポリエステル樹脂や結晶核剤を含有した射出成形ハイサイクル性ポリエステル樹脂の場合、さらには、組成物中にポリエステル樹脂の結晶化を促進する物質が配合される場合に表面外観改良効果が大きい。
【0023】
降温結晶化温度低下剤としては、前記の共重合ポリエステル樹脂(B)が好適であるが、無機強化ポリエステル系樹脂組成物の降温結晶化温度を低下させることができるものであれば特に限定されない。
降温結晶化温度Tc2M(℃)のポリエステル樹脂(A)の降温結晶化温度Tc2N(℃)からの低下温度幅は、好ましくは13℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは17℃以上である。
【0024】
また、本発明の無機強化ポリエステル系樹脂組成物には、必要に応じて公知の範囲で耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、結晶核剤、離型剤、変性剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料等を添加することが出来る。また、本発明の目的を損なわない範囲で他の樹脂や充填剤等を配合することが出来る。
【0025】
本発明の無機強化ポリエステル系樹脂組成物を製造する方法としては、上述した各成分、例えば、PBT(A)、共重合ポリエステル樹脂(B)、PET(B)、無機強化材(C)の各成分および必要に応じて各種安定剤、離型剤や顔料を混合し、溶融混錬することによって製造出きる。溶融混錬方法は、当業者に周知のいずれかの方法も可能であり、単軸押出機、2軸押出機、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等が使用することが出来る。なかでも2軸押出機を使用することが好ましい。一般的な溶融混練り条件としては、2軸押出機ではシリンダー温度は240〜290℃、混錬時間は2〜15分である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
また、以下の実施例、比較例において示した各特性、物性値は、下記の試験方法で測定した。
・ ポリエステル樹脂の還元粘度(dL/g):
0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mLに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定した。
・ 曲げ強度:ISO−178に準じて測定した。
・ 曲げ弾性率:ISO−178に準じて測定した。
・ シャルピー衝撃強度:JIS K7111に準じて測定した。
(5)降温結晶化温度(Tc2)の測定は示差走査型熱量計(DSC)を用い、各サンプルは水分率0.03以下の乾燥状態でDSC装置に封入し、水分による変動を防止して測定した。すなわち、窒素気流下で20℃/分の昇温速度にて300℃まで昇温し、その温度で5分間保持した後、10℃/分の速度で100℃まで降温させることにより得られるサーモグラムの結晶化ピークのトップ温度を求めた。
(6)メルトフローインデックス(MFI):
JIS K−7210に準じて、275℃の温度において荷重2160grをかけ、10分間で流動した樹脂量(gr)である。なお、各サンプルは水分率0.03%以下の乾燥状態で装置に装入し、水分によるMFIの変動を防止して測定した。
【0027】
(7)成形品外観:
100×100×2mmtのシボプレート金型を用い、射出成形機で樹脂温度275〜280℃、金型温度80℃、100℃および120℃で射出成形し、得られた成形品について、目視で次のような評価を行った。
○ :平板全面でのガラス繊維の浮きがなく、表面光沢が優れている。
△ :ゲートから離れた端面でガラス繊維の浮きが観測される。
× :成形品の全面にガラス繊維の浮きが見られ、表面光沢が悪い。
(8)ソリ変形:
片側リブ付きの100×100×2mmtのフィルムゲートの金型を用い、(7)項の成形品と同様な成形条件(金型温度:80℃、100℃、120℃)で、樹脂の流れ方向に対して垂直方向に長さ100mm、高さ1mmで厚み1mmのリブを5本有する成形品を成形し、そのソリ変形量を測定した(図1でAの値、3枚の成形品の平均値)
× : ソリ変形量>3mm
△ : 3≧ソリ変形量≧2mm
○ : ソリ変形量<2mm
【0028】
また、実施例、比較例において使用した原料は次のようである。
(イ)ポリエステル樹脂(A):
・PBT :還元粘度0.70dL/g
(ロ)共重合ポリエステル樹脂(B成分):
・CoPE−1:TPA//EG/NPG=100//70/30モル%の組成比の共重合体、還元粘度0.83dL/g
・CoPE−2:TPA/IPA//EG/NPG=50/50//50/50モル%の組成比の共重合体、還元粘度0.56dL/g
・CoPE−3:TPA//EG/1,2PG=100//30/70モル%の組成比の共重合体、還元粘度0.56dL/g
・CoPE−7:TPA/IPA//EG=90/10//100モル%の組成比の共重合体、還元粘度1.12dL/g
【0029】
(ハ)ポリエステル樹脂(B成分):
・PET :東洋紡PET、RE−530A(還元粘度0.72dL/g)
(ニ)無機強化材(C成分)
・ガラス繊維:T−120H(日本電気硝子社製)
・タルク:ミクロン406(林化成株式会社製)
【0030】
(ホ)その他の添加剤:
・酸化防止剤:イルガノックス1010(チバスペシャリティケミカルズ社製)およびシーノックス412S(シプロ化成社製)
・離型剤:WE40(クラリアントジャパン社製)
・黒顔料:PAB8K470(住化カラー社製)
【0031】
[CoPE−1(B成分):TPA//EG/NPG共重合体の重合例]
攪拌機及び留出コンデンサーを有する、容積10Lのエステル化反応槽に、テレフタル酸(TPA)2414質量部、エチレングリコール(EG)1497質量部、ネオペンチルグリコール(NPG)515質量部を投入し、触媒として、二酸化ゲルマニウムを8g/Lの水溶液として生成ポリエステルに対してゲルマニウム原子として30ppm、酢酸コバルト4水和物を50g/Lのエチレングリコール溶液として生成ポリマーに対してコバルト原子として35ppm含有するように添加した。
その後、反応系内を最終的に240℃となるまで除々に昇温し、圧力0.25MPaでエステル化反応を180分間行った。反応系内からの留出水が出なくなるのを確認した後、反応系内を常圧に戻し、リン酸トリメチルを130g/Lのエチレングリコール溶液として生成ポリマーに対してリン原子として52ppm含有するように添加した。
得られたオリゴマーを重縮合反応槽に移送し、除々に昇温しながら減圧し最終的に温度が280℃で、圧力が0.2hPaになるようにした。固有粘度に対応する攪拌翼のトルク値が所望の数値となるまで反応させ、重縮合反応を終了した。反応時間は100分であった。得られた溶融ポリエステル樹脂を重合槽下部の抜き出し口からストランド状に抜き出し、水槽で冷却した後チップ状に切断した。
以上のようにして得られた共重合ポリエステルはNMR分析の結果、ジカルボン酸成分はテレフタル酸100モル%、ジオール成分はエチレングリコール70モル%、ネオペンチルグリコール30モル%の組成を有していた。
【0032】
その他の実施例に記載の共重合ポリエステル樹脂は、使用する原料・組成比以外は、すべてTPA//EG//NPG共重合体と同様にして重合した。
【0033】
実施例、比較例の無機強化ポリエステル系組成物の製造法は、上記原料を表1および表2に示した配合比率(質量%、および質量部)に従い計量して、35φ二軸押出機(東芝機械社製)でシリンダー温度270℃、スクリュー回転数100rpmにて溶融混錬した。ガラス繊維以外の原料はホッパーから二軸押出機に投入し、ガラス繊維はベント口からサイドフィードで投入した。
得られた無機強化ポリエステル系樹脂組成物のペレットは射出成形機でそれぞれの評価サンプルを成形した。
成形条件は強化材が40%以下の場合はシリンダー温度275℃、40%以上の場合は280℃、金型温度は80℃、100℃および120℃である。
評価結果を表1、表2に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
表1では、無機強化材(C)としてガラス繊維を40質量%使用して、共重合ポリエステル樹脂の種類および有無についての評価を行った。実施例1〜4ではいずれも種々の共重合ポリエステル樹脂(B)を6〜10質量%配合した組成物であるが、Tc2Mが185℃以下であり、成形品の外観およびソリ変形量が優れている。
一方、比較例1および2では共重合ポリエステル樹脂(B)を配合しない組成であり、Tc2Mがいずれも190℃以上あり、成形品外観が良くない。特に比較例2では金型温度を120℃まで高めたが、成形品のガラス繊維の浮きを防止することが出来なかった。
表2の実施例5および比較例3ではPET(B)成分を含まない組成の場合である。この組成でも共重合ポリエステル樹脂(B)を含有する実施例5ではTc2Mが低く、成形品の外観やソリ変形が良好である。また比較例3ではTc2Mが198℃と異常に高く、成形品の外観やソリ変形が極めて悪い。特に金型温度を120℃まで上げても成形品の外観は悪く、成形品表面にガラス繊維の浮きが観察される。
【0037】
表2の実施例6、7および比較例4、5では、無機強化材(C)が55質量%と無機高充填の組成である。また実施例7および比較例5ではガラス繊維とタルクの併用系を示している。無機強化材の高充填組成に於いても、共重合ポリエステル樹脂(B)を配合した実施例6および7では、極めて優れた成形品外観を示し、ソリ変形も少ない成形品が得られる。比較例5ではタルクを配合しているため、成形品のソリ変形は改良されるが成形品の外観は良くない。
一方、表1及び2から、金型内の樹脂充填速度に関係するメルトフローインデックス(MFI)は、各実施例、比較例においても、成形品の外観特性、特にガラス繊維等の無機強化材の浮き出し等にはあまり関連がないことが明らかである。
以上より、無機強化材含有ポリエステル系成形品におけるガラス繊維等の無機強化材の浮き出しなどによる外観不良やソリ変形の問題は、共重合ポリエステル樹脂などを配合して組成物の降温結晶化温度(Tc2M)を低下させ、100℃以下の金型温度での成形によって改良可能なことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は熱可塑性ポリエステル樹脂系のガラス繊維等の無機強化材含有樹脂組成物において、高強度、高剛性でありながら良好な外観特性で低ソリ性の成形品が得られるので、自動車の内装部品や外装部品をはじめ、各種機構部品を納める高剛性が要求されるハウジング部品や筐体等の幅広い分野で使用することが出来る。したがって産業界に寄与すること大である。

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ソリ変形を評価するために成形した成形品の例を模式的に示す(a)概略上面図及び(b)概略側面図である。
【符号の説明】
【0040】
L:樹脂組成物の流れ方向
W:樹脂組成物の流れの直角方向
1:成形品
2:フィルムゲート
3:リブ
A:ソリ変形量


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)、ポリエステル樹脂(A)以外の少なくとも1種のポリエステル樹脂(B)及び無機強化材を含有するポリエステル系樹脂組成物において、該ポリエステル系樹脂組成物の示差走査型熱量計(DSC)で求められる降温結晶化温度をTc2M(℃)、前記ポリエステル系樹脂組成物の中で前記ポリエステル樹脂(B)のみを含有しない場合の降温結晶化温度をTc2N(℃)としたとき、下記関係を満足することを特徴とする無機強化ポリエステル系樹脂組成物。
Tc2N(℃)−Tc2M(℃) ≧ 10(℃)
【請求項2】
ポリエステル樹脂(A)が、ポリブチレンテレフタレート樹脂であり、かつポリエステル系樹脂組成物のTc2Mが185℃以下である請求項1に記載の無機強化ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)が、共重合ポリエステル樹脂である請求項1に記載の無機強化ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)が、共重合ポリエステル樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂である請求項1に記載の無機強化ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
共重合ポリエステル樹脂が、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸およびエチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を共重合したポリエステル樹脂である請求項3又は4に記載の無機強化ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
全ポリエステル樹脂中でポリエステル樹脂(A)を最も多く含有し、かつ全組成物中で無機を最も多く含有する無機強化ポリエステル系樹脂組成物から成形品を得るに際し、ポリエステル系樹脂組成物の示差走査型熱量計(DSC)で求められる降温結晶化温度Tc2M(℃)が10℃以上低下するように、組成物中に降温結晶化温度低下剤を含有せしめて成形することを特徴とする無機強化ポリエステル系樹脂組成物成形品の表面外観改良方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−214558(P2008−214558A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56772(P2007−56772)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】