説明

無機微粒子凝集体およびその製造方法

【課題】樹脂に無機微粒子を1次粒子レベルまで分散させることができる、無機微粒子凝集体を提供する。
【解決手段】無機微粒子と無機塩との混合液から乾燥によって固化物を得て、該固化物から溶剤を用いて無機塩を除去し乾燥して得られる無機微粒子凝集体であって、該乾燥が無機微粒子同士の表面融着が起こらない温度で行うことにより得られる、無機微粒子同士の凝集力によって形成された無機微粒子凝集体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機微粒子が表面で実質的に融着することなく無機微粒子同士の凝集力によって形成された、強度が低い無機微粒子凝集体およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、樹脂と溶融混合したときに、無機微粒子を物理的に一次粒子レベルまで分散させうる無機微粒子凝集体であって、無機微粒子がナノレベルで分散した、樹脂ナノコンポジットの提供が可能な無機微粒子凝集体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な分野においてより高い性能を有する樹脂組成物が必要とされており、樹脂に充填剤を分散させることで物性や成型性などを改善することが行われている。
特に、特開2001−152030号公報には、多孔質ガラス或いは平均1次粒径12nmのシリカ微粒子からなる多孔体凝集体を600℃以上の温度で焼成した平均粒径100nm〜1000nmのシリカ多孔質体に金属、金属塩、無機化合物から選択される添加剤または難燃剤をあらかじめ担持させておき、樹脂と溶融混合して無機多孔質体が破砕され、平均粒径が10nm〜100nmで、前記添加剤または難燃剤を担持した粒子が樹脂中に粉砕された樹脂複合組成物とその製造方法が記載されている。
【0003】
しかし、上記公報に記載された多孔質ガラスの構造は、通常1200℃以上の高温で製造されるため、ケイ素と酸素の共有結合となっており、多孔質ガラスを破砕することは共有結合を切ることに相当し、大きなエネルギーが必要なため、樹脂との溶融混合で多孔質ガラスを破砕・分散することは極めて難しい。
【0004】
また、平均1次粒径12nmのシリカ微粒子からなる無機微粒子の凝集体を600℃〜700℃で焼成して得られた平均粒径100nm〜1000nmの無機多孔質体は、焼成でシリカ粒子(もしくはシリカ粒子の凝集体)の表面融解によって表層だけが少し融解してお互いに融着して強固な結合を有する骨格に固化されているため、多孔質体の強度が高く(資源と素材、Vol 118,P202、2002)、溶融混合装置で樹脂と溶融混合しても、ポリスチレン(PS)と溶融混合後の無機多孔質体の平均粒径は290nmになり、無機多孔質はポリスチレン中に40nm〜100000nm(100μm)の広い分布をもち、もとの1次粒子までの破砕には成功してない(第13回高分子材料シンポジウム予稿集,P10、2003)。そのため、ポリスチレン樹脂中にある平均粒径10μm以上の多くの無機微粒子凝集焼結体の存在によって力学物性の著しい低下が現れる。
【0005】
一方、無機微粒子或いは無機ナノ粒子(ナノメートルレベルの微粒子)を樹脂に溶融混合する場合、単位体積当たりの微粒子の凝集力は粒径が小さくなるほど大きくなるので、微粒子同士の再凝集が起こる。そのため、ナノ粒子を樹脂と直接溶融混合してもナノ粒子をそのまま樹脂中にナノ分散させることは極めて難しい。
【0006】
更に、最近高分子材料にカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーのようなナノフィラーを入れて溶融混合過程でこれらナノフィラーを樹脂中に分散させた高分子ナノコンポジットにおいては、使用する樹脂の極性によってナノフィラーの分散状態が変化し、二トリルゴム(NBR)のような極性樹脂にはある程度ナノフィラーの均一分散ができるが、エチレンプロピレンゴム(EPDM)のような疎水性樹脂にカーボンナノチューブを均一に分散させるのは難しい(Polymer Preprints,Japan,Vol 52、P1785、2003)。従って、無機微粒子或いは無機ナノ粒子の種類や表面性質だけではなく、分散させる樹脂の種類や疎水性・親水性によっても無機微粒子或いは無機ナノ粒子の分散状態が大きく変化する。
【0007】
【特許文献1】特開2001−152030号公報
【非特許文献1】第13回高分子材料シンポジウム予稿集,P10、2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明者らは、無機微粒子を樹脂に無機微粒子の1次粒子レベルまで分散させることができる無機微粒子凝集体の開発に鋭意研究した結果、本発明に到達した。
本発明は、樹脂に無機微粒子の1次粒子レベルまで分散させることができる、無機微粒子凝集体を提供する。
本発明は、無機微粒子が表面で実質的に融着することなく、無機微粒子同士の凝集力によって形成された強度の低い無機微粒子凝集体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、無機微粒子と無機塩との混合液から乾燥によって固化物を得て、該固化物から溶剤を用いて無機塩を除去し乾燥して得られる、無機微粒子凝集体であって、該乾燥が無機微粒子同士の表面融着が実質的に起こらない温度で行うことにより得られる、無機微粒子同士の凝集力によって形成された無機微粒子凝集体を提供する。
【0010】
前記無機微粒子凝集体の圧壊強度が4.50MPa以下である、前記した無機微粒子は本発明の好ましい態様である。
【0011】
前記無機微粒子の平均1次粒径が1μm以下である、前記した無機微粒子凝集体は本発明の好ましい態様である。
【0012】
前記無機微粒子凝集体の圧縮荷重が110mN以下である、前記したいずれかの無機微粒子は本発明の好ましい態様である。
【0013】
前記無機微粒子が酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、または酸化亜鉛と五酸化アンチモンの複合酸化物からなる、前記した無機微粒子凝集体は本発明の好ましい態様である。
【0014】
前記無機塩がハロゲン化水素酸、燐酸、硫酸、硝酸およびモリブデン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも1種である、前記した無機微粒子凝集体は本発明の好ましい態様である。
【0015】
前記無機塩が臭化カリウム、塩化カリウム、モリブデン酸アンモニウム、リン酸ニ水素ナトリウム、塩化カルシウムおよび臭化アンモニウムから選ばれた少なくとも1種である、前記した無機微粒子凝集体は本発明の好ましい態様である。
【0016】
前記乾燥が無機微粒子同士の表面融着が起こらない温度で行われる前記した低強度無機微粒子凝集体は本発明の好ましい態様である。
【0017】
前記乾燥が絶対温度で示した乾燥の温度(T)と無機微粒子の融点(T)の比(T/T)が0.23以下で行われる、前記した無機微粒子凝集体は本発明の好ましい態様である。
【0018】
本発明はさらに、無機微粒子と無機塩との混合液から乾燥によって固化物を得て、該固化物から溶剤を用いて無機塩を除去した後に乾燥する方法であって、該乾燥が無機微粒子同士の表面融着が実質的に起こらない温度で行われる前記したいずれかの無機微粒子凝集体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、無機微粒子が表面で実質的に融着することなく、無機微粒子同士の凝集力によって形成された無機微粒子凝集体が提供される。
本発明によれば、各種樹脂の充填材として用いて溶融混合したときに、物理的にナノレベルまで破砕・分散しうる無機微粒子凝集体が提供される。
本発明によって提供される無機微粒子凝集体は、各種樹脂と溶融混合したときに、物理的にナノレベルまで破砕・分散することができるので、樹脂をいわゆるナノコンポジット化することができる。
本発明により、上記した特徴的な無機微粒子凝集体の製造方法が提供される。
本発明により提供が可能となる樹脂ナノコンポジットの成形品は、力学物性、寸法安定性、難燃性のほか溶融成型性、耐摩擦・磨耗特性などに優れているので、各種成形品に応用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、無機微粒子と無機塩との混合液から乾燥によって固化物を得て、該固化物から溶剤を用いて無機塩を除去し乾燥して得られる、無機微粒子凝集体であって、該乾燥が無機微粒子同士の表面融着が実質的に起こらない温度で行うことにより得られる、無機微粒子同士の凝集力によって形成された無機微粒子凝集体を提供する。
【0021】
本発明はまた、無機微粒子と無機塩との混合液から乾燥によって固化物を得て、該固化物から溶剤を用いて無機塩を除去した後に乾燥する方法であって、該乾燥が無機微粒子同士の表面融着が実質的に起こらない温度で行われる無機微粒子凝集体の製造方法を提供する。
【0022】
本発明における無機微粒子同士の凝集力によって形成された無機微粒子凝集体とは、無機微粒子が表面で実質的に融着することなく、無機微粒子同士の凝集力よって形成されている凝集体である。
【0023】
本発明の無機微粒子凝集体は、無機微粒子同士の比較的弱い凝集力よって形成されているので、低強度の無機微粒子凝集体であり、樹脂に無機微粒子の1次粒子レベルまで分散させることができるという従来技術では到達できなかった特徴を有するものである。
【0024】
本発明では、予め無機微粒子同士が比較的弱い隣接粒子との凝集力によって構造が形成された強度が低い無機微粒子の凝集体を調製するが、無機微粒子としては、酸化ケイ素、酸化チタン、ゼオライト、酸化ジルコニウム、アルミナ、五酸化アンチモン、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ボロンナイト、酸化鉛、酸化亜鉛、酸化すず、酸化セリウム、酸化マグネシウム、セリウムジルコネイト、カルシウムシリケート、ジルコニウムシリケートなどのナノ無機微粒子の分散液(以下、ゾルと言うことが有る)などを挙げることができる。これら無機微粒子は単独でまたは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
本発明の無機微粒子の凝集体は、無機微粒子と無機塩との混合液から得られる無機微粒子と無機塩の固化物から、無機塩を溶出させる溶剤を用いて無機塩を除去し、続いて乾燥して得ることができる。
【0026】
本発明の無機微粒子凝集体は、樹脂と溶融混合したときに、無機微粒子を物理的に一次粒子レベルまで分散させうるものである。無機微粒子がナノ無機微粒子であるとき、本発明の無機微粒子凝集体は、樹脂中に無機微粒子がナノレベルで分散した樹脂ナノコンポシットの提供を可能とする。したがって、ナノ無機微粒子は本発明の無機微粒子として好適なものである。
【0027】
無機微粒子と無機塩の固化物は、無機微粒子のゾルと無機塩とを混合して、混合液を乾燥して得られる無機微粒子と無機塩の固化物が好ましい。固化物を得るための乾燥は、無機微粒子同士の表面融着が実質的に起こらない温度、好ましくは後述するネックの形成が起こらない温度で行われる。
【0028】
ナノ無機微粒子と無機塩の固化物から、無機塩を溶出させる溶剤を用いて、無機塩を除去してから無機微粒子同士の表面融着が実質的に起こらない温度で乾燥して得られる無機微粒子凝集体は本発明の凝集体の好ましい態様である。
無機微粒子同士の表面融着が実質的に起こっていないことは、得られる凝集体の電子顕微鏡写真観察において表面融着が実質的な割合で観察されないことによって確認することができる。
【0029】
本発明の無機微粒子凝集体は、無機微粒子同士の凝集力により形成された凝集体であるため、無機微粒子と無機塩との混合体を高温で焼成して無機微粒子同士を融着させて作製した無機微粒子の凝集体(特開2001−152030号公報)よりも強度が低い無機微粒子凝集体になる。
【0030】
本発明で無機塩を溶剤で除去し、無機微粒子同士の表面融着が実質的に起こらない温度で乾燥して得られる無機微粒子凝集体は、通常は平均粒径が大きい粗粒子または塊状の凝集体が得られるが、必要に応じて適当に粉砕し、分級を行ってもよい。本発明の無機微粒子の凝集体の平均粒径は、押出機のホッパーでの食い込みの観点から、平均粒径が50μm〜400μmの範囲、好ましくは70μm〜300μmの範囲が好ましい。凝集体を粉砕し、分級する場合には、平均粒径が上記範囲になるように行うのが好ましい。
【0031】
無機微粒子と無機塩の固化物から無機塩を溶出するための溶剤は、無機微粒子と無機塩との混合液に用いる溶剤と同じでも異なっていてもよいが、無機微粒子に対して不活性であることが好ましい。このような溶剤としては、極性溶剤であって、無機微粒子に対しては貧溶媒で、無機塩に対しては良溶媒であるものから適宜選択して使用することができる。水はこのような溶剤の好適な例の一つである。無機塩は、固化物から無機塩を溶出させる溶剤を用いて溶出・除去されるので、得られる凝集体に対して一種の孔形成剤の役割をする。
【0032】
本発明の凝集体を得る好ましい形態としては、無機微粒子としてシリカゾル、酸化チタンゾル、アルミナゾル、五酸化アンチモンゾル、酸化亜鉛ゾル、酸化亜鉛と五酸化アンチモンとの複合酸化物のゾルおよびゼオライトゾルから選ばれる少なくとも1種を用い、溶剤として水を用い、無機塩として水溶性の無機塩を用いる形態を挙げることができる。水溶性の無機塩としては、ハロゲン化水素酸、燐酸、硫酸、硝酸およびモリブデン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。好ましくは、硝酸カリウム、ヨウ化カリウム、モリブデン酸アンモニウム、リン酸ニ水素ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウムなどが挙げられる。これら無機塩は、単独でもまたは二種以上の組み合わせでも使用することができる。上記の形態の中でも、無機微粒子としてシリカゾルを使用した形態がより好ましい。
【0033】
また、溶剤として純度の高い溶剤を使用すると得られる無機微粒子凝集体として、純度の高い無機微粒子凝集体を得ることができる。例えば、純水を用いて繰り返して残留無機塩の溶出を行うと、極めて純度が高い無機微粒子凝集体を得ることができる。シリカゾルを原料としてシリカ粒子からなる凝集体を得る際に、この方法を適用するとシリカ粒子からなる高純度の凝集体を得ることができる。このようにして得られる高純度凝集体は、半導体製造装置などに用いられる純粋性が要求される部品用として好適に用いられる。
【0034】
本発明の凝集体を樹脂と溶融混合すると、溶融混合装置で生じるせん断応力によって、物理的に1次粒子のレベルまで分散させることができるので、無機微粒子としてナノ無機微粒子を用いるとき、樹脂中に無機微粒子をナノレベルまで分散させることが可能となる。
【0035】
本発明で得られる、無機微粒子同士が比較的弱い隣接粒子との凝集力によって構造が形成された強度が低い無機微粒子凝集体の強度は、無機微粒子ゾルの種類および粒径、無機微粒子ゾルのpH、無機塩の種類および含量、乾燥温度などによって変化するので、これらの条件を選択することによって無機微粒子凝集体の強度を制御することができる。
【0036】
また、本発明の無機微粒子凝集体を樹脂と溶融混合して、樹脂中に無機微粒子を分散させる場合、溶融混合する樹脂の種類や使用する溶融混合装置の構造(スクリューの構造および組み合わせ)、溶融混合条件(温度およびスクリュー回転数)などによって、樹脂中に分散された無機微粒子凝集体の平均粒径および分散状態が変わる。したがって、樹脂と無機微粒子凝集体を熱溶融性脂中に物理的にもとの1次粒子のレベルまで均一に破砕・分散させるために、使用する無機微粒子凝集体および樹脂の種類に応じて、溶融混合の条件を選択することが必要である。
【0037】
シリカ多孔体の場合、強度は多孔体を形成する多数のシリカ1次粒子間の接触点に働く粒子間付着力の和であるため、主にシリカ多孔体の空孔率とシリカ平均1次粒径によって決まり、(Chemie Ingenieur Technik,vol 42,p538,1970)、強度が低い無機微粒子凝集体としてシリカ多孔体を作製するためには、無機塩の含量を増やして空孔率を大きくするか、シリカ平均1次粒径が大きいものを使用することが好ましい。従って、平均1次粒径が50nm以上、好ましくは90nm以上、更に好ましくは110nm以上であることがよい。空孔率が同じ場合には凝集体の強度は1次粒子径に反比例する関係があり、平均1次粒径が小さくなると凝集体の強度が大きくなり、溶融混合過程で破砕され難くなる。また、同じ強度の無機微粒子の凝集体を用いる場合は、より強いせん断応力で溶融混合した方が、無機微粒子の凝集体が樹脂中にナノ無機微粒子が均一に破砕・分散される。
【0038】
本発明に使用する無機塩は、無機微粒子の凝集体に対して一種の孔形成剤の役割をするため、無機塩の含量によっても無機微粒子凝集体の強度が変化する。無機微粒子に対する無機塩の含量が増えるほど、ナノ無機微粒子凝集体の強度が低くなる。しかし、無機塩の含量が多すぎると、無機微粒子凝集体が計量工程などで簡単に破砕され、1次粒子に戻ってしまう。従って、無機塩の含量は1〜90体積%、好ましくは50〜85体積%、更に好ましくは60〜80体積%であることが望ましい。
【0039】
水分散の無機微粒子ゾルと無機塩とを混合してから、混合液を乾燥して無機微粒子と無機塩の固化物を作製する際の乾燥温度、および無機微粒子と無機塩の固化物から無機塩を溶出させる溶剤を用いて、無機塩を除去してから乾燥を行う乾燥温度は、前記したとおり無機微粒子同士の表面融着が実質的に起こらない温度、好ましくはネックの形成が起こらない温度が望ましい。無機微粒子の表面での融点は内部(バルク状態)の融点より低いため、乾燥温度が高くなると無機微粒子の表面の一部が融解し、隣接無機微粒子同士の融着によって無機微粒子の凝集体の強度が強くなる。また、無機微粒子は一般に生成された時に粒子表面に結晶構造の欠陥を持っており、このような欠陥はいづれも熱的に不安定であるため、加熱すると急速に回復したり移動したりし、隣接無機微粒子の接触部に結合部(ネック)が形成する。このネックの形成によっても無機微粒子の凝集体の強度は強くなる。ネックの形成の主要因は、隣接無機微粒子同士の表面融着であると考えられる。ネックの形成は、絶対温度で示した乾燥の温度(T)と無機微粒子の融点(T)の比(T/T)が0.23のころから始まるため、絶対温度で示した乾燥の温度と無機微粒子の融点の比が0.23以下、好ましくは0.21以下が好ましい。よって、例えば、無機微粒子がシリカである場合の乾燥は、150℃以下、好ましくは120℃以下の温度で行うのが望ましい。
【0040】
本発明の無機微粒子凝集体の強度は、圧縮荷重(Compressive Load)が110mN以下、好ましくは40mN以下であることが好ましい。
【0041】
また、本発明の無機微粒子凝集体は、圧壊強度Sが4.50MPa以下,好ましくは1.50MPa以下であることが好ましい。圧壊強度Sは、後述するとおり粒径の違いの効果が補正された強度の尺度である。
【0042】
本発明は、無機微粒子と無機塩との混合液を乾燥して得られる固化物から、該無機塩を溶出させる溶剤を用いて無機塩を除去し、続いて乾燥し、該乾燥を無機微粒子同士の表面融着が実質的に起こらない温度で行うことによって前記した無機微粒子同士の凝集力によって形成された低強度無機微粒子凝集体を製造する方法を提供する。
【0043】
本発明の低強度無機微粒子凝集体を各種樹脂の充填材として用いて溶融混合する場合、溶融混合装置で発生するせん断応力により共に混ぜ合わせた強度が低い無機微粒子の凝集体が物理的にナノスケールまで破砕・分散させることによって、樹脂をいわゆるナノコンポジット化することができる。溶融混合する方法には特に限定がなく、当該樹脂について通常溶融混合するのに用いられる装置および条件を適用することができる。
【0044】
このようにして得られる樹脂ナノコンポジットから製造される成形品は、力学物性、寸法安定性、難燃性のほか溶融成型性、耐摩擦・磨耗特性などにすぐれているので、各種成形品に応用できる。応用できる成形品の例を挙げれば、例えばチューブ類、シート類、棒類、繊維類、パッキング類、ライニング類、電線被覆などがある。
【実施例】
【0045】
以下に本発明を、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
本発明において各物性の測定は、下記の方法によって行った。
(1)無機微粒子凝集体の圧縮荷重および圧壊強度
微小圧縮試験機(MCT―W500,株式会社島津製作所製)を用いて、高剛性ステージに試料を約100mg散布し、試料一粒ずつ粒径Dを測定してから荷重を与え、実験力P(Compressive Load)と圧縮変位を測定し、下記の式で試料の圧壊強度S(または 破壊強度)を求めた(日本鉱業会誌、vol.81,p24,1965参照)。実験力Pを圧縮荷重とした。
圧壊強度は、各試料につき5回測定しその平均値を圧壊強度(MPa)にした。本発明の無機微粒子凝集体は、平均粒径が約150μmの大きさのものを選んで圧壊強度を測定した。但し、比較例として用いた市販のシリカの平均粒径は本発明の試料より小さいので、実験力Pの値は小さくなるが、粒径の違いの効果が補正された圧壊強度Sは大きくなる。
=2.8P/(πD
(MPa):試料の圧壊強度(または 破壊強度)
P(N):微小圧縮試験機で測定した実験力(Compressive Load)
D(mm):試料の粒径
【0047】
本発明の実施例、比較例および参考例で用いた原料は下記の通りである。
(1)シリカゾル
日産化学工業製
スノーテックス MP2040(シリカ平均1次粒径:190nm)、
スノーテックス MP1040(シリカ平均1次粒径:110nm)、
スノーテックス ST−YL(シリカ平均1次粒径:57nm)、
スノーテックス 30(シリカ平均1次粒径:12nm)
(2)多孔体シリカ
富士シリシア化学製、C−1504(平均粒径:4μm)
(3)溶融シリカ
電気化学工業製、FB−74(平均粒径:32μm)
(4)ポリスチレン(PS)
旭化成製、スタイロン685
【0048】
(実施例1)
ビーカーに水1L、表1に示した平均粒径(1次粒径)のシリカ微粒子が水中に分散したシリカゾル245.7g(シリカ粒子40重量%)、臭化カリウム(KBr)を292.3gを順に加えてKBrが全て溶解するまで攪拌し、シリカ微粒子の凝集を促すために硝酸をpH4.0程度となるように加えた。次に、攪拌した混合液をフッ素樹脂製容器に移し、80℃の乾燥機で重量変化がなくなるまで乾燥を行った。乾燥した試料を粉砕し、目開き300μmと75μmのふるいで分級して平均粒径75μm〜300μmの固化物を作った。そして、分級後の試料100gと純水2.5Lをビーカーに入れ、80℃で加熱しながら200rpmで30分間攪拌した後、静置して固化物を沈殿させ、溶出されたKBrを含む上澄み液を取り除いた。上澄み液を取り除いた後、120℃の乾燥機で約10時間試料を乾燥させ、更に120℃で3時間真空乾燥を行い、KBrが除去され、SiOの骨格のみが残ったシリカ微粒子凝集体試料S1を得た。得られた試料の圧壊強度を表1に示す。
【0049】
(実施例2)
平均1次粒径が0.110μmのシリカ粒子が水溶液中に分散されたシリカゾル(40重量%)を用いた以外は、実施例1同じ方法で試料S2を得た。得られた試料の圧壊強度を表1に示す。
【0050】
(実施例3)
平均1次粒径が0.057μmのシリカ粒子が水溶液中に分散されたシリカゾル(40重量%)を用いた以外は、実施例1同じ方法で試料S3を得た。得られた試料の圧壊強度を表1に示す。
【0051】
(実施例4)
平均1次粒径が0.012μmのシリカ粒子が水溶液中に分散されたシリカゾル(シリカ粒子30重量%)327.6gを用いた以外は、実施例1同じ方法で試料集体S4を得た。得られた試料の圧壊強度を表1に示す。また、試料S4の電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0052】
(比較例1)
ビーカーに水1L、表1に示した平均粒径(0.012μm)のシリカ微粒子が水中に分散したシリカゾル327.6g(シリカ微粒子30重量%)とKBrを292.3gを順に加え攪拌し、微粒子の凝集を促すために硝酸をpH4.0程度となるように加えた。次に、攪拌した混合液をフッ素樹脂製容器に移し、80℃の乾燥機で重量変化がなくなるまで乾燥を行った。乾燥後粉砕し、目開き300μmと75μmのふるいで分級して平均粒径75μm〜300μmの固化物を得た。得られた固化物を焼成皿にのせ、全自動開閉式管状炉(ISUZU製、EKRO−23)にて、表1に示した温度600℃で2時間焼成した。焼成した固化物100gと純水2.5Lをビーカーに入れ、80℃で加熱しながら攪拌した後、静置して固化物を沈殿させ、溶出されたKBrを含む上澄み液を取り除いた。上澄み液を取り除いた後、120℃の乾燥機で約10時間乾燥し、更に120℃で3時間真空乾燥を行い、KBrが除去され、SiOの骨格のみが残ったシリカ微粒子凝集体試料S5を得た。得られた試料の圧壊強度を表1に示す。また、電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0053】
(参考例1)
市販の多孔体シリカ試料R1(平均粒径:4μm)の圧壊強度を表1に示す。
【0054】
(参考例2)
市販の溶融シリカ試料R2(平均粒径:32μm)の圧壊強度を表1に示す。
【0055】
(参考例3)
ポリスチレン59.51gとシリカ微粒子凝集体(S1)3.13g(5重量%)を溶融混合装置(東洋精機製作所製 KF−70V小型セグメントミキサー)、5枚のKneading discの位相を0.5pitchずらした高せん断の組み合わせを用い180℃、200rpmで1分20秒間溶融混合し、ポリスチレンにシリカ微粒子が分散された複合体組成物を得た。得られた複合体組成物破断面の電子顕微鏡観察結果を図3に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1から、焼成していない乾燥のみ行ったシリカ微粒子凝集体(実施例1〜4)の方が焼成したシリカ微粒子凝集焼成体(比較例1)より圧壊強度が低いことが分かる。これは、本発明のシリカ微粒子凝集体(実施例1〜4)では、シリカ微粒子の凝集力のみで骨格が形成されたため、圧壊強度が低い無機微粒子凝集体になる。しかし、焼成したシリカ微粒子凝集焼成体(比較例1)は、焼成過程でシリカ微粒子の表面融解によって表層が融解して互いに融着して、もしくはネックが形成されて強固な結合を有する骨格を形成した強度が高い無機微粒子凝集体になったためである。
【0058】
焼成してない乾燥のみ行ったシリカ微粒子凝集体(実施例1〜4)では、シリカ平均1次粒径が大きい程圧壊強度が弱いことが分かる。これは、シリカ1次粒子の平均粒径が大きくなるにしたがって隣接粒子との凝集力が弱くなり、シリカ微粒子凝集体の圧壊強度も低くなるためである。
【0059】
また、市販多孔体シリカR1(参考例1)および市販溶融シリカR2(参考例2)は、圧壊強度が本発明のシリカ微粒子凝集体(実施例1〜4)は勿論、焼成を行ったシリカ微粒子凝集体(比較例1)よりも圧壊強度が高い。特に、少なくとも1200℃以上の温度で製造された市販溶融シリカR2(参考例2)は、高温でシリカが完全溶融されたため、骨格がケイ素(Si)と酸素(O)の共有結合となっており、この構造を破砕することは共有結合を切ることに相当し、大きなエネルギーが必要なため、圧壊強度が実施例1のもっとも圧壊強度が低いシリカ微粒子凝集体の1800倍も大きかった。
【0060】
したがって、図3から、本発明の実施例1で得られたシリカ微粒子凝集体は、市販の溶融シリカより圧壊強度が1800倍も低く、市販の汎用樹脂であるポリスチレンと溶融混合を行うとせん断応力により容易にもとのシリカ1次粒子(シリカナノ粒子)まで均一に破砕・分散され、いわゆる高分子ナノコンポジットを作ることができたことが分かる。
なお、本発明に用いるシリカ凝集体の作製手順と乾燥・焼成温度によるシリカ微粒子からなる骨格構造の違いを説明する概念を図4に示す。
【0061】
図4は、本発明における無機微粒子凝集体の製造方法の好ましい実施態様を示している概念図である。図4の(1)は容器に入ったシリカゾルが攪拌子4によって攪拌されており、シリカ微粒子1は分散状態にある。(2)は臭化カリウム(KBr)の水溶液である。シリカゲルとKBr水溶液を混合して攪拌すると(3)に示すようにシリカが強制分散した混合液が得られる。この混合物は(4)に示すように、攪拌を停止するとKBrにシリカゲルが凝集すると思われるが、凝集物が沈殿してくる状態となる。(4)の混合物から水分を蒸発させて乾燥することによってシリカゲル微粒子と晶出したKBrからなる固化物(5)が得られる。固化物(5)からKBrを溶出させると孔空間3を有するシリカ微粒子凝集体(6)が得られる。微粒子凝集体(6)をシリカ微粒子同士の表面融着が起こらない温度で乾燥することによって、シリカ微粒子同士の凝集力によって形成された無機微粒子凝集体(7)を得ることができる。
【0062】
図4の微粒子凝集体(6)を焼成すると、シリカ微粒子の表面融解によって表層が融解してお互いに融着するため、強固な結合を有する骨格を形成した強度が高いシリカ微粒子凝集体(8)になってしまう。
【0063】
本発明においては、予めナノ無機微粒子同士が比較的弱い隣接粒子との凝集力によって形成された強度が低い無機微粒子の凝集体と熱可塑性樹脂を溶融混合して、溶融混合装置で発生するせん断応力により共に混ぜ合わせた強度が低い無機微粒子の凝集体を物理的にもとのナノ無機微粒子までに破砕・分散させることができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、各種樹脂と溶融混合したとき、溶融混合装置で発生するせん断応力によって、物理的にナノスケールまで破砕・分散しうる無機微粒子凝集体が提供される。
本発明によって提供される無機微粒子凝集体は、各種樹脂と溶融混合したときに、物理的にナノスケールまで破砕・分散するので、樹脂をいわゆるナノコンポジット化することができ、樹脂用の充填材として好適なものである。
本発明により提供が可能となる樹脂ナノコンポシットの成形品は、力学物性、寸法安定性、難燃性などに優れているので、粒子がナノレベルに均一に分散されることで期待できるあらゆる分野に応用することができる。
本発明によって提供される低強度無機微粒子凝集体が応用可能な成形品としては、例えば、チューブ類、シート類、棒類、繊維類、パッキング類、ライニング類、電線被覆などがある。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例4に使用したシリカ微粒子凝集体(焼成なし)の電子顕微鏡写真。
【図2】比較例1に使用した600℃で焼成したシリカ微粒子凝集焼成体の電子顕微鏡写真。
【図3】ポリスチレン中にシリカ微粒子凝集体がシリカ1次粒子までに破砕・分散されている参考例3試料の電子顕微鏡写真。
【図4】本発明に用いるシリカ微粒子凝集体の作製手順と乾燥・焼成温度によるシリカ微粒子からなる骨格構造の違いを説明する概念図。
【符号の説明】
【0066】
(1):シリカゾル
(2):臭化カリウム(KBr)の水溶液
(3):シリカゾルとKBrの混合液で、シリカが攪拌下に強制分散している状態
(4):シリカゾルとKBrの混合液で、攪拌停止後シリカとKBrが凝集し沈殿してくる状態
(5):混合液から得られた固化物
(6):KBrを溶出させて除去したシリカ微粒子凝集体
(7):シリカ微粒子の凝集力のみで骨格が形成された本発明の無機微粒子凝集体。
(8):焼成過程でシリカ微粒子の表面融解によって表層が融解してお互いに融着して強固な結合を有する骨格を形成した強度が高い無機微粒子凝集体。
1:シリカ1次粒子
2:KBr
3:KBrが除去された空間(孔)
4:攪拌子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機微粒子と無機塩との混合液から乾燥によって固化物を得て、該固化物から溶剤を用いて無機塩を除去し乾燥して得られる無機微粒子凝集体であって、該乾燥が無機微粒子同士の表面融着が起こらない温度で行うことにより得られる、無機微粒子同士の凝集力によって形成された無機微粒子凝集体。
【請求項2】
前記無機微粒子凝集体が、圧壊強度が4.5MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の無機微粒子凝集体。
【請求項3】
無機微粒子の平均1次粒径が、1μm以下である請求項1または2に記載の無機微粒子凝集体。
【請求項4】
前記無機微粒子凝集体の圧壊荷重が、110mN以下であることを特徴とする請求項1〜3に記載の無機微粒子凝集体。
【請求項5】
前記無機微粒子が酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、または酸化亜鉛と五酸化アンチモンの複合酸化物からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無機微粒子凝集体。
【請求項6】
前記無機塩がハロゲン化水素酸、燐酸、硫酸、硝酸およびモリブデン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の無機微粒子凝集体。
【請求項7】
前記無機塩が臭化カリウム、塩化カリウム、モリブデン酸アンモニウム、リン酸ニ水素ナトリウム、塩化カルシウムおよび臭化アンモニウムから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載の無機微粒子凝集体。
【請求項8】
前記乾燥が、絶対温度で示した乾燥の温度(T)と無機微粒子の融点(T)の比(T/T)が0.23以下で行われることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の無機微粒子凝集体。
【請求項9】
無機微粒子と無機塩との混合液から乾燥によって固化物を得て、該固形物から溶剤を用いて無機塩を除去した後に乾燥する方法であって、該乾燥が無機微粒子同士の表面融着が実質的に起こらない温度で行われる請求項1〜8のいずれかに記載の無機微粒子凝集体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−213577(P2006−213577A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29823(P2005−29823)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年12月1日 日本材料学会主催の「第14回 高分子材料シンポジウム」において文書をもって発表
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】