無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜及び非水電解液電池用セパレータ
【課題】無機粒子を含有したポリオレフィン微多孔膜おいて、良好な耐熱性を有し、非水電解液電池用セパレータとして使用した場合に良好な安全性を示す無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜、及びそれを含む非水電解液電池用セパレータを提供すること。
【解決手段】
ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜であって、
前記無機粒子の含有割合が前記微多孔膜の総重量に対して10質量%以上80質量%以下であり、
前記微多孔膜のDSCにおいて、1回目の測定での融解ピーク数(P1N)が2つ以上あり、2回目の測定での融解ピーク数(P2N)が1回目の測定での融解ピーク数(P1N)よりも少ない無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜。
【解決手段】
ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜であって、
前記無機粒子の含有割合が前記微多孔膜の総重量に対して10質量%以上80質量%以下であり、
前記微多孔膜のDSCにおいて、1回目の測定での融解ピーク数(P1N)が2つ以上あり、2回目の測定での融解ピーク数(P2N)が1回目の測定での融解ピーク数(P1N)よりも少ない無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜及び非水電解液電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、様々な孔径、孔形状、孔数を有し、その特異な構造により発現され得る特性から幅広い分野に利用されている。例えば、孔径の違いによるふるい効果を利用した水処理や濃縮などに用いられる分離膜、微多孔化による大表面積と多孔空間を利用した吸水、吸油、脱臭用材に用いられる吸着シート、分子サイズの違いにより空気や水蒸気などは通すが水は通さないという特徴を利用した透湿防水シート、多孔空間に各種材料を充填することで多機能化し、燃料電池などに有用な高分子電解質膜や加湿膜、さらには液晶材料、電池材料として用いられている。
【0003】
近年、リチウムイオン電池を中心とした非水電解液電池の開発が活発に行われている。通常、非水電解液電池には、微多孔膜(セパレータ)が正負極間に設けられている。このようなセパレータは、正負極間の直接的な接触を防ぎ、微多孔中に保持した電解液を通じイオンを透過させる機能を有する。セパレータの構成材料としては、電気化学的安定性や電解液耐性の観点から、ポリオレフィン材料が主に使用されている。
非水電解液電池の新たな用途として、車載用途への展開が急速に拡大しつつある。車載用途においては、長寿命、高出力、高容量、高電圧などの特性が求められており、その電池の持つ特徴からリチウムイオン二次電池が最も有力視されている。特に、高容量化への要求は大きく、構成材料や電池構造は日々多様化しており、電池内におけるセパレータには様々な状態での安全性が求められる。また、長寿命の観点から、保液性を高める目的で無機粒子を混合したセパレータも検討されている。
【0004】
このような安全性への要望に対して、例えば特許文献1には、ポリオレフィン樹脂及び微細粒子を含有する島状構造体と、該島状構造体間をつなぐフィブリルとを含み、該フィブリルがポリオレフィン樹脂を含有し、実質的に一方向に配列しているポリオレフィン微多孔膜が提案されている。特許文献2には、ポリオレフィン樹脂及び無機粒子からなる微多孔膜であって、該微多孔膜の突刺強度及び突刺しクリープにおける膜厚保持率が特定範囲に調整されたポリオレフィン微多孔膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−218085号公報
【特許文献2】国際公開2008−035674号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜2に記載された無機粒子を含有したポリオレフィン微多孔膜からなるセパレータは、両端を拘束された状態(例えば、角型電池内におけるセパレータ)における耐熱性には改良の余地を有するものである。
上記事情に鑑み、本発明は、無機粒子を含有したポリオレフィン微多孔膜において、良好な耐熱性を有し、非水電解液電池用セパレータとして使用した場合に良好な安全性を示す無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜、及びそれを含む非水電解液電池用セパレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、無機粒子を含有したポリオレフィン微多孔膜の耐熱性を向上させる手段として、微多孔膜の融解挙動に着目した。
即ち、ポリオレフィン微多孔膜に無機粒子を含有させることで機械的強度や面固定された場合における耐熱性の向上は見られるものの、辺固定された状態における耐熱性の向上は必ずしも十分ではない。
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、無機粒子を含有したポリオレフィン微多孔膜において、1回目のDSCにより観察される融解ピーク数をP1N、引き続き冷却後に行われる2回目のDSCにより観察される融解ピーク数をP2Nとしたときに、
P1N>P2N
となる無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜が、辺固定された状態における耐熱性に優れることを見出し、さらに非水電解液電池用セパレータとしての安全性を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]
ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜であって、
前記無機粒子の含有割合が前記微多孔膜の総重量に対して10質量%以上80質量%以下であり、
前記微多孔膜のDSCにおいて、1回目の測定での融解ピーク数(P1N)が2つ以上あり、2回目の測定での融解ピーク数(P2N)が1回目の測定での融解ピーク数(P1N)よりも少ない無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜。
[2]
前記ポリオレフィン樹脂がポリエチレンを主成分とした微多孔膜であって、前記微多孔膜のDSCにおいて、1回目の測定での融解ピーク数(P1N)が2つ以上あり、その融解ピーク温度が140℃未満と140℃以上に1つ以上存在する上記[1]記載の無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜。
[3]
上記[1]又は[2]記載の無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜を含む非水電解液電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜は、辺固定された状態において優れた耐熱特性を示し、非水電解液電池用セパレータとして用いた場合に、良好な安全性を確保し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1におけるTMAの評価結果を示す。
【図2】実施例2におけるTMAの評価結果を示す。
【図3】実施例3におけるTMAの評価結果を示す。
【図4】実施例4におけるTMAの評価結果を示す。
【図5】実施例5におけるTMAの評価結果を示す。
【図6】実施例6におけるTMAの評価結果を示す。
【図7】実施例7におけるTMAの評価結果を示す。
【図8】実施例8におけるTMAの評価結果を示す。
【図9】比較例1におけるTMAの評価結果を示す。
【図10】比較例2におけるTMAの評価結果を示す。
【図11】比較例3におけるTMAの評価結果を示す。
【図12】比較例4におけるTMAの評価結果を示す。
【図13】比較例5におけるTMAの評価結果を示す。
【図14】比較例6におけるTMAの評価結果を示す。
【図15】実施例1におけるDSCの評価結果を示す。
【図16】比較例1におけるDSCの評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本実施の形態の無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜であって、前記無機粒子の含有割合が前記微多孔膜の総重量に対して10質量%以上80質量%以下であり、前記微多孔膜のDSCにおいて、1回目の測定での融解ピーク数(P1N)が2つ以上あり、2回目の測定での融解ピーク数(P2N)が1回目の測定での融解ピーク数(P1N)よりも少ない(P1N>P2N)。なお、本実施の形態において「DSC」とは示差走査熱量測定のことを言う。
【0013】
1回目のDSCと2回目のDSCには以下のような意味がある。1回目のDSCでは、測定片の結晶状態(融解挙動)が測定できる。すなわち微多孔膜を測定した場合には、微多孔膜におけるポリオレフィン樹脂の結晶状態の測定が可能である。続いて試料を一定条件で冷却し、試料を未開封のまま、引き続き行う2回目のDSCでは、微多孔膜を構成しているポリオレフィン原料の特性を反映した結晶状態の測定が可能である。すなわち、1回目の測定においては、融点以上の温度に加熱することで微多孔膜における結晶を一度融解する。続いて、配向を緩和した後、冷却することで微多孔膜を形成しているポリオレフィン樹脂が再結晶化する。2回目の測定においては、再結晶化した結晶状態(ポリオレフィン原料自体が持つ固有の融点)を測定することができる。
【0014】
1回目のDSCにおいて観察されるピーク数をP1N、2回目のDSCにおいて観察されるピーク数をP2Nとしたときに、P1N>P2Nであることは、ある1種類のポリオレフィン樹脂が複数の結晶状態を有し、微多孔膜を構成していることを示唆している。
【0015】
P1N>P2Nである場合には、微多孔膜を辺固定したときの耐熱性に優れる。単一のポリオレフィンが複数の結晶状態を有する微多孔膜(P1N>P2N)は、単一の融点を有する1種類、又は、単一の融点を有する複数のポリオレフィンからなる(P1N=P2N、かつ、P1N≧1)微多孔膜には見られない優れた耐熱性を示す。理由は定かではないが、単一のポリオレフィンが複数の結晶状態を有する場合は、複数の結晶状態が同一の分子鎖でつながれていると推定され、より緻密な構造が形成されることにより無機粒子とポリオレフィン樹脂の密着性が向上しているためと考えている。従来の無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜は、高温に曝された場合、分子鎖の運動性が高まり収縮することで、ポリオレフィンと無機粒子の界面剥離が起点となり破断することがある。本実施形態の微多孔膜は、高温下に曝された場合においても、ポリオレフィンと無機粒子の密着性が高いために、界面剥離が起こりにくく、破断が生じず、安全性が向上するものと推定される。
【0016】
微多孔膜のDSCにおいてP1N>P2Nに調整するための手段としては、複数の影響因子を制御し、特定範囲の成形条件とすることで達成できる。例えば、ポリオレフィン樹脂と無機粒子と第3物質(後工程で抽出除去される可塑剤)を原料とした溶融製膜の場合、(1)Tダイからシート状に溶融物を押出してロールにて冷却するまでの空走部において、特定の倍率で溶融延伸する方法(ドロー比の制御)、(2)溶融物の冷却速度を制御する方法、(3)構成材料における可塑剤比率やポリオレフィン比率を特定範囲にする方法、(4)溶融混錬時における押出量(Q)とスクリュー回転数(N)の比率(Q/N)を制御することなどによりポリマー鎖の状態を制御する方法等が一例として挙げられる。
【0017】
また、前記ポリオレフィン樹脂がポリエチレンを主成分とした微多孔膜であって、前記微多孔膜のDSCにおいて、1回目の測定での融解ピーク数(P1N)が2つ以上あり、その融解ピーク温度が140℃未満と140℃以上に1つ以上存在することが好ましい。P1N及び融解ピーク温度が上記条件を満たすことにより、安全性がさらに向上する傾向にある。これは、おそらく高温下にて、140℃未満のポリエチレン結晶成分による迅速な応力緩和と140℃以上のポリエチレン結晶成分による無機粒子との強固な密着性が両立できるためと推定される。
【0018】
本実施の形態のセパレータは、ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含む樹脂組成物から形成される。本実施の形態において使用するポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のモノマーを重合して得られる重合体(ホモ重合体や共重合体、多段重合体等)が挙げられる。これら重合体は1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0019】
また、前記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(密度0.910〜0.930g/cm3未満)、線状低密度ポリエチレン(密度0.910〜0.940g/cm3未満)、中密度ポリエチレン(密度0.930〜0.942g/cm3未満)、高密度ポリエチレン(密度0.942g/cm3以上)、超高分子量ポリエチレン(密度0.910〜0.970g/cm3未満)、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0020】
前記ポリオレフィン樹脂は、耐熱性、耐久性、延伸性などの観点からポリエチレンを主成分として含むことが好ましく、中でも高密度ポリエチレンを含むことが好ましい。ここで「主成分」とは、ポリエチレンが前記ポリオレフィン樹脂中に占める割合として、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であることを言う。ポリエチレンの含有量の上限としては、好ましくは100質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0021】
なお、前記樹脂組成物には、必要に応じて、フェノール系やリン系やイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の公知の各種添加剤を混合してもよい。
【0022】
前記ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量(後述する実施例における測定法に準じて測定される。なお、複数種のポリオレフィン樹脂が用いられる場合には、各々のポリオレフィン樹脂について測定される値を意味する。)としては、好ましくは5万以上、より好ましくは10万以上であり、上限としては、好ましくは1000万以下、より好ましくは300万以下、更に好ましくは100万以下である。当該粘度平均分子量を5万以上とすることは、溶融成形の際のメルトテンションを高く維持し良好な成形性を確保する観点、又は、十分な絡み合いを付与し微多孔膜の強度を高める観点から好ましい。一方、粘度平均分子量を1000万以下とすることは、均一な溶融混練を実現し、シートの成形性、特に厚み成形性を向上させる観点から好ましい。粘度平均分子量を100万以下とすることは、より厚み成形性を向上させる観点から好ましい。
【0023】
前記無機粒子としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。上記の中でも、電気化学的安定性の観点から、シリカ、アルミナ、チタニウム、マグネシアがより好ましい。
【0024】
前記無機粒子の平均一次粒径としては、好ましくは1nm以上、より好ましくは6nm以上、更に好ましくは10nm以上であり、上限としては、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、更に好ましくは60nm以下である。無機粒子の平均一次粒径を100nm以下とすることは、延伸等を施した場合でもポリオレフィンと無機粒子間での剥離が生じにくくなる傾向にあり、マクロボイドの発生を低減し、孔径分布を良好に制御する観点から好ましい。ここで、ポリオレフィンと無機粒子間での剥離が生じにくいことは、微多孔膜を構成するフィブリル自身の高硬度化の観点から好ましい。一方、無機粒子の平均一次粒径を1nm以上とすることは、無機粒子の分散性を確保し、微多孔膜を構成するフィブリル自身の高硬度化の観点から好ましい。
【0025】
前記無機粒子が、微多孔膜中に占める割合(微多孔膜の総重量に対する無機粒子の割合)としては、10質量%以上、好ましくは20質量%以上であり、上限としては、80質量%以下、好ましくは60質量%以下である。当該割合を10質量%以上とすることは、辺固定されたときの耐熱性向上、透過性向上、強度向上の観点から好ましい。一方、当該割合を80質量%以下とすることは、辺固定されたときの耐熱性を向上させる観点から好ましく、また、均一に無機粒子を分散させる観点からも好ましい。
【0026】
ポリオレフィン樹脂と無機粒子を含む微多孔膜、中でもセパレータとして好適な無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜の製法は複数開示されているが、大きくは、その原料から下記の(A)及び(B)の2種に大別される。
(A):ポリオレフィンと無機粒子を原料とした溶融製膜。
(B):ポリオレフィンと無機粒子と第3物質(後工程で抽出除去する物質)を原料とした溶融製膜。
【0027】
また、前記(A)及び(B)に、更に延伸を組み合わせることで下記のように細分化される。
(A)−a:ポリオレフィンと無機粒子を溶融混錬した後、シート化。延伸により多孔化。
(B)−a:ポリオレフィンと無機粒子と第3物質を溶融混錬した後、シート化。第3物質を抽出(全て又は一部残留)することで多孔化。
(B)−b:ポリオレフィンと無機粒子と第3物質を溶融混錬した後、シート化。第3物質を抽出(全て又は一部残留)することで多孔化。次いで延伸により孔構造制御。
(B)−c:ポリオレフィンと無機粒子と第3物質を溶融混錬した後、シート化。延伸によりポリオレフィンと無機粒子及び第3物質の形態を制御。次いで第3物質を抽出(全て又は一部残留)することで多孔化。
【0028】
本実施の形態のセパレータの製法としては、前記(B)の方法が、P1N>P2Nに制御する観点、及び高強度化の観点から好ましい。
【0029】
本実施の形態における無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜のより具体的な製造方法としては、例えば、下記(1)〜(4)の各工程を含む製造方法を用いることができる。
(1)ポリオレフィン樹脂及び無機粒子を含むポリオレフィン樹脂組成物と、可塑剤とを所定の比率、所定のQ/N比(Q:押出量[kg/hr]、N:スクリュー回転数[rpm])で溶融混練する工程、
(2)前記混練工程の後、混練物をシート状に成形し、所定のドロー比で溶融延伸し、冷却してシート状成形体に加工する成形工程、
(3)前記成形工程の後、前記シート状成形体を面倍率20倍以上200倍以下で二軸延伸し、延伸物を形成する延伸工程、
(4)前記延伸物から可塑剤を抽出して多孔体を形成する多孔体形成工程。
【0030】
前記(1)の工程で用いられる可塑剤としては、ポリオレフィン樹脂と混合した際にポリオレフィン樹脂の融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒であることが好ましい。また、常温において液体であることが好ましい。
【0031】
前記可塑剤としては、例えば、流動パラフィンやパラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジエチルヘキシルやフタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコールやステアリルアルコール等の高級アルコール類等が挙げられる。
【0032】
前記可塑剤が、前記混練物中に占める割合としては、好ましくは60質量%を超え、より好ましくは65質量%以上であり、上限としては、好ましくは80質量%以下である。当該割合を60質量%を超えて80質量%以下とすることは、複数の結晶構造を形成する観点から好ましい。さらに、当該割合を80質量%以下とすることは、シート成形性を確保する観点から好ましい。
【0033】
溶融混錬は二軸スクリューを用いて行うことが好ましい。Q/N比(Q:押出量[kg/hr]、N:スクリュー回転数[rpm])は、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。上限としては、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.2以下である。Q/N比が0.3以上であるとポリマー分子鎖の切断が起こることなく、ポリマーの可塑剤中への均一な溶解が可能となるため、より高強度な微多孔膜が得られる傾向にあり、1.5以下であると、ポリマー分子鎖間のほぐれを解き、かつ、無機粒子を高分散させるのに十分なせん断力を与えることが可能となるため、結晶化した際に、複数の結晶構造を得やすい傾向にある。
【0034】
溶融混練部の温度は無機粒子の分散性の観点から200℃未満が好ましい。温度の下限はポリオレフィン樹脂を可塑剤へ均一に溶解させる観点からポリオレフィンの融点以上である。
【0035】
溶融混練工程以降から溶融物をシート状に成形する工程における設定温度は、押出し機の設定温度より高温に設定することが好ましい。設定温度の上限はポリオレフィン樹脂の熱劣化の観点から300℃以下が好ましく、260℃以下がより好ましい。例えば、押出し機より連続してシート状成形体を製造する際に、溶融混練工程後、シート状に成形する工程、即ち、押出し機出口からTダイまでの経路、及びTダイの設定温度が押出し工程の設定温度よりも高温に設定されている場合は、溶融混練工程で微細に分散した無機粒子が再凝集することなくシート状に成形することが可能となるため好ましい。特に粒径の小さい無機粒子等を用いた場合に凝集を抑制する効果が大きい。
【0036】
前記(2)の工程は、例えば、前記混練物をTダイ等を介してシート状に押し出し、ロール間で挟み込んで厚さ制御したシートを作成し、熱伝導体に接触させて冷却固化させる工程である。当該熱伝導体としては、金属、水、空気、あるいは可塑剤自身等が使用できる。Tダイからシート状に押出し、ロール間で挟み込むまでの空走部では、所定のドロー比で溶融延伸した後に、冷却することで、結晶状態を制御することができる。Tダイの幅をAとし、ロールにて挟み込んだシートの幅をBとしたときに、0.98>B/A>0.75の範囲にロール速度を制御することで、単一のポリオレフィン樹脂から複数の結晶状態を有する(P1N>P2N)微多孔膜が得られやすい。
【0037】
前記(3)の工程における延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延、多段延伸、多数回延伸等のいずれの方法を単独若しくは併用しても構わないが、突刺強度の増加や膜厚均一化の観点から、同時二軸延伸が好ましい。ここでいう同時二軸延伸とは膜の長さ方向(機械方向(MD)。以下「MD方向」と記載することがある。)の延伸と膜の幅方向(機械方向と直交する方向(TD)。以下「TD方向」と記載することがある。)の延伸が同時に施される手法であり、各方向の変形率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD方向、又はTD方向の延伸が独立して施される手法であり、MD方向、又はTD方向に延伸がなされている際は、他方向が非拘束状態、又は定長に固定されている状態にある。延伸倍率は、総面積倍率で好ましくは20倍以上200倍未満の範囲であり、20倍以上100倍以下がより好ましく、25倍以上50倍以下が更に好ましい。総面積倍率が20倍以上である場合は、高強度になりやすい傾向にあり、200倍未満である場合は、熱収縮が低減する傾向にある。
【0038】
各軸方向の延伸倍率はMD方向に4倍以上10倍以下、TD方向に4倍以上10倍以下の範囲が好ましく、MD方向に5倍以上8倍以下、TD方向に5倍以上8倍以下の範囲がより好ましい。延伸倍率がMD方向に4倍以上、TD方向に4倍以上であると、MD方向、TD方向共に、膜厚ムラが小さい製品が得られやすい傾向にあり、それぞれ10倍以下であると、捲回性に優れる傾向にある。
【0039】
延伸温度はポリオレフィンの融点−50℃以上、融点未満が好ましく、ポリオレフィンの融点−30℃以上、融点−2℃以下がより好ましく、ポリオレフィンの融点−15℃以上、融点−3℃以下が更に好ましい。延伸温度が上記範囲であると、より高強度であり、耐電圧の高い微多孔膜が得られる傾向にある。
【0040】
前記(4)の工程は、前記可塑剤の溶剤に対して前記延伸物を浸漬する方法が挙げられる。なお、抽出後の微多孔膜中の可塑剤の残存量としては1質量%未満にすることが好ましい。また、当該工程により無機粒子が抽出される量としては、微多孔膜中の配合量の好ましくは1質量%以下、より好ましくは実質的に0質量%である。
【0041】
延伸は可塑剤の抽出前でも抽出後でも可能であるが、孔径制御の観点から可塑剤抽出後にさらに延伸を施すことが好ましい。さらに延伸過程に引き続いて熱固定及び熱緩和等の熱処理工程を加えることは、微多孔膜の収縮を更に抑制する観点から好ましい。
【0042】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、微多孔膜に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を施してもよい。
【0043】
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜の膜厚は、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上であり、上限としては、好ましくは100μm未満、より好ましくは60μm未満、更に好ましくは40μm未満である。膜厚を2μm以上とすることは、機械強度を向上させる観点及び耐電圧を向上させる観点から好適である。一方、膜厚を100μm未満とすることは、ポリオレフィン微多孔膜の占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向にある。なお、ポリオレフィン微多孔膜の膜厚は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。
【0044】
なお、膜厚は、前記(2)の工程におけるシート厚さ、前記(3)の工程における延伸倍率、延伸温度等を調整すること等により調節可能である。
【0045】
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上であり、上限としては、好ましくは80%未満、より好ましくは75%以下である。気孔率を45%以上とすることは、良好な出力特性を確保する観点から好適である。一方、80%未満とすることは、突刺強度を確保する観点及び耐電圧を確保する観点から好ましい。なお、ポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。
【0046】
なお、上記気孔率は、前記(1)の工程におけるポリオレフィン樹脂/無機粒子/可塑剤の割合、前記(3)の工程における延伸温度、延伸倍率を調整すること等により調節可能である。
【0047】
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜の透気度は、好ましくは10秒以上、より好ましくは40秒以上であり、上限としては、好ましくは500秒以下、より好ましくは300秒以下、更に好ましくは200秒以下である。透気度を10秒以上とすることは、電池の自己放電を抑制する観点から好適である。一方、500秒以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好適である。なお、ポリオレフィン微多孔膜の透気度は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。
【0048】
なお、上記透気度は、前記(1)の工程におけるポリオレフィン樹脂/無機粒子/可塑剤の割合、前記(3)の工程における延伸温度、延伸倍率を調整すること等により調節可能である。
【0049】
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜は、良好な耐熱特性を示し、特に非水電解液電池用セパレータとして好適に用いることができる。
【0050】
本実施の形態における非水電解液電池は、上述したポリオレフィン微多孔膜を含む非水電解液電池用セパレートと、正極板と、負極板と、非水電解液(非水溶媒とこれに溶解した金属塩とを含む。)とを備えている。具体的には、例えば、リチウムイオン等を吸蔵及び放出可能な遷移金属酸化物を含む正極板と、リチウムイオン等を吸蔵及び放出可能な負極板とが、セパレータを介して対向するように捲回又は積層され、非水電解液を保液し、容器に収容されている。
【0051】
正極板について以下に説明する。正極活物質としては、例えば、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム又はコバルト酸リチウム等のリチウム複合金属酸化物、リン酸鉄リチウム等のリチウム複合金属リン酸塩等を用いることができる。正極活物質は導電剤及びバインダーと混錬され、正極ペーストとしてアルミニウム箔等の正極集電体に塗布乾燥され、所定厚に圧延された後、所定寸法に切断されて正極板となる。ここで、導電剤としては、正極電位下において安定な金属粉末、例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック又は黒鉛材料を用いることができる。また、バインダーとしては、正極電位下において安定な材料、例えば、ポリフッ化ビニリデン、変性アクリルゴム又はポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。
【0052】
負極板について以下に説明する。負極活物質としては、リチウムを吸蔵できる材料を用いることができる。具体的には、例えば、黒鉛、シリサイド、及びチタン合金材料等からなる群から選ばれる少なくとも1種類を用いることができる。また、非水電解質二次電池の負極活物質としては、例えば、金属、金属繊維、炭素材料、酸化物、窒化物、珪素化合物、錫化合物、又は各種合金材料等を用いることができる。特に、珪素(Si)若しくは錫(Sn)の単体又は合金、化合物、固溶体等の珪素化合物若しくは錫化合物が、電池の容量密度が大きくなる傾向にあるため好ましい。上記炭素材料としては、例えば、各種天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、各種人造黒鉛、及び非晶質炭素等が挙げられる。負極活物質としては、上記材料のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。負極活物質はバインダーと混錬され、負極ペーストとして銅箔等の負極集電体に塗布乾燥され、所定厚に圧延された後、所定寸法に切断されて負極板となる。ここで、バインダーとしては、負極電位下において安定な材料、例えば、PVDF又はスチレン−ブタジエンゴム共重合体等を用いることができる。
【0053】
非水電解液について以下に説明する。非水電解液は、一般的に、非水溶媒とこれに溶解したリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩等の金属塩とを含む。非水溶媒としては、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル等が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO2)2、LiAsF6、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、ホウ酸塩類、イミド塩類等が挙げられる。
なお、上述した各種パラメータの測定方法については、特に断りの無い限り、後述する実施例における測定方法に準じて測定されるものである。
【実施例】
【0054】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0055】
(1)粘度平均分子量(Mv)
デカヒドロナフタリンへ試料の劣化防止のため2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを0.1質量%の濃度となるように溶解させ、これ(以下DHNと略す)を試料溶媒として用いた。
試料をDHNへ0.1質量%の濃度となるように150℃で溶解させ試料溶液を作製した。作製した試料溶液を10mL採取し、キャノンフェンスケ粘度計(SO100)により135℃での標線間通過秒数(t)を計測した。試料に無機粒子が含有している場合は、試料をDHNに溶解させた溶液をろ過し、無機粒子を除去したものを試料とした。なお、無機粒子が溶解除去可能な場合は、予め無機粒子を溶解除去した試料を用いてもよい。また、DHNを150℃に加熱した後、10mL採取し、同様の方法により粘度計の標線間を通過する秒数(tB)を計測した。得られた通過秒数t、tBを用いて次の換算式により極限粘度[η]を算出した。
[η]=((1.651t/tB−0.651)0.5−1)/0.0834
求められた[η]より、次式によりMvを算出した。
[η]=6.77×10−4Mv0.67
【0056】
(2)平均一次粒径
無機粒子の平均一次粒径は、走査型電子顕微鏡にて計測した。具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)にて拡大した10μm×10μmの視野画像を直接、あるいはネガより写真に焼き付けた後、画像解析装置に読み込み、これから計算される各粒子の円換算径(面積を同じくする円の直径)の数平均値を、無機粒子の平均一次粒径とした。ただし、写真から画像解析装置に入力する際に染色境界が不明瞭な場合には、写真のトレースを行い、この図を用いて画像解析装置に入力を行った。
【0057】
(3)膜厚(μm)
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)を用いて室温23℃で測定した。
【0058】
(4)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料をポリオレフィン微多孔膜から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm3)より、次式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積−質量/混合組成物の密度)/体積×100
なお、混合組成物の密度は、用いたポリオレフィン樹脂と無機粒子の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。
【0059】
(5)透気度(sec)
JIS P−8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計、G−B2(商標)により測定した。
【0060】
(6)突刺強度(N)
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーでポリオレフィン微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、25℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として突刺強度(N)を得た。
【0061】
(7)DSC(示差走査熱量測定:Differential Scanning Calorimetry)
島津製作所社製DSC60を用いて測定した。試料を直径5mmの円形に打ち抜き、数枚重ね合わせて3mgとしたものを測定サンプルとして用いた。これを直径5mmのアルミ製オープンサンプルパンに敷き詰め、クランピングカバーを乗せサンプルシーラーでアルミパン内に固定した。
1回目測定
窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで30℃から200℃までを測定し、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線のピーク数をP1Nとし、ピークトップ温度を融点(℃)とした。
続いて200℃で5分間ホールドした後、10℃/minで200℃から30℃まで冷却し、30℃で5分間ホールドした。
2回目測定
1回目の測定に続いて、昇温速度10℃/minで30℃から200℃まで再度測定し、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線のピーク数をP2Nとし、ピークトップ温度を融点(℃)とした。
【0062】
(8)MD熱収縮率
セパレータをMD方向に100mm、TD方向に100mmに切り取り、150℃のオーブン中に1時間静置した。このとき、温風が直接サンプルにあたらないよう、サンプルを2枚の紙にはさんだ。サンプルをオーブンから取り出し冷却した後、長さ(mm)を測定し、以下の式にてMD熱収縮率を算出した。
MD熱収縮率(%)=(100−加熱後のMDの長さ)/100×100
【0063】
(9)引張強度
JIS K7127に準拠し、島津製作所製の引張試験機、オートグラフAG−A型(商標)を用いて、MD及びTDサンプル(形状;幅10mm×長さ100mm)について測定した。また、サンプルはチャック間を50mmとし、サンプルの両端部(各25mm)の片面にセロハンテープ(日東電工包装システム(株)製、商品名:N.29)を貼ったものを用いた。更に、試験中のサンプル滑りを防止するために、引張試験機のチャック内側に、厚み1mmのフッ素ゴムを貼り付けた。引張強度(kg/cm2)は、破断時の強度を、試験前のサンプル断面積で除することにより求めた。なお、測定は、温度23±2℃、チャック圧0.30MPa、引張速度200mm/分で実施した。
【0064】
(10)耐熱性評価(TMA(熱機械分析):Thermomechanical Analysis)
島津製作所TMA50(商標)を用いて測定した。MD方向に約15mm、TD方向に幅3mmに切り出したサンプルを、チャック間距離(MD方向)が10mmとなるようにチャックに固定し、専用プロープにセットした。初期荷重を0.0098N(1.0gf)とし、定長モードにて30℃より10℃/minの速度にてプロープを150℃まで昇温させ、続いて150℃で10分間保持した。150℃到達後から、収縮応力が0.0098N(1.0gf)を下回るまでの時間を保持時間とした。収縮応力が0.0098N(1.0gf)を下回った時点を破断とみなし、保持時間を耐熱性評価の指標とした。
【0065】
(11)電池評価(安全性評価)
a.電池作製
(a−1) 正極板作製
活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoO2を92.2重量%、導電剤としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3重量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2重量%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗付し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の活物質塗付量は250g/m2,活物質嵩密度は3.00g/cm3になるようにした。これを幅約40mmに切断して帯状にした。
(a−2) 負極板作製
活物質として人造グラファイト96.9重量%、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4重量%とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7重量%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗付し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗付量は106g/m2,活物質嵩密度は1.35g/cm3になるようにした。これを幅約40mmに切断して帯状にした。
(a−3) 非水電解液の調製
非水電解液としてエチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1:1(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/リットルとなるように溶解させて調製した。
(a−4) 捲回・組み立て
上記の微多孔膜セパレータ、帯状正極及び帯状負極を、帯状負極、セパレータ、帯状正極、セパレータの順に重ねて渦巻状に複数回捲回することで電極板積層体を作製した。
この電極板積層体を平板状にプレス後、アルミニウム製容器に収納し、正極集電体から導出したアルミニウム製リードを容器壁に、負極集電体から導出したニッケル製リードを容器蓋端子部に接続した。さらにこの容器内に前記した非水電解液を注入し封口した。こうして作製される角型リチウムイオン電池は、縦(厚み)6.3mm,横30mm,高さ48mmの大きさで、公称放電容量が620mAhとなるように設計されていた。
【0066】
b.容量測定(mAh)
上記のようにして組み立てたリチウムイオン電池にて、電流値310mA(0.5C)、終止電池電圧4.2Vの条件で6時間定電流定電圧(CCCV)充電を行った。このとき充電終了直前の電流値はほぼ0の値となった。その後、25℃雰囲気下で1週間放置(エージング)した。
その次に、電流値620mA(1.0C)、終止電池電圧4.2Vの条件で3時間定電流定電圧(CCCV)充電し、一定電流値(CC)620mAで電池電圧3.0Vまで放電する、というサイクルを行った。このときの放電容量を初回放電容量とした。初回放電容量が±10mA以内の電池を安全性評価に使用した。
【0067】
c.安全性評価(釘刺し試験)
電流値620mA(1.0C)、終止電池電圧4.2Vの条件で3時間定電流定電圧(CCCV)充電した電池に対して、中央部に、直径2.7mmの鉄製丸釘を、20℃環境下で、5mm/秒の速度で貫通させ、その時の発熱状態を観測した。電池貫通箇所近傍の電池表面における1秒後の温度と60秒後の温度を測定した。1秒後の温度が100℃未満の場合を合格とし、100℃以上の場合を不合格(×)とした。さらに、合格の場合において、60秒後においての電池表面温度が100℃未満の場合を好適(◎)とし、100℃以上の場合を適(○)と判断した。
【0068】
[実施例1]
粘度平均分子量(Mv)27万の高密度ポリエチレン「SH800」(旭化成ケミカルズ(株)製)を13.4質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」(旭化成ケミカルズ(株)製)を5.8質量部、平均一次粒径が12nmであるシリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を12.8質量部、可塑剤として流動パラフィン「スモイル P−350P」((株)松村石油研究所製)を15.4質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.1質量部添加したものをスーパーミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し、押し出される全混合物(100質量部)中に占める流動パラフィン量比が68質量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、スクリュー回転数50rpm、押出量30kg/hで行った。この時のQ/N比は0.6であった。設定温度は、混練部は160℃、Tダイは230℃とした。続いて、溶融混練物をTダイよりシート状に押出し、表面温度70℃に制御された冷却ロールで冷却し、厚み1800μmのシート状のポリオレフィン樹脂組成物を得た。この時、Tダイの幅A[mm]と冷却後のシート幅B[mm]の比率、すなわちB/Aが0.8となるように、冷却ロールの速度を調整した。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に6.4倍に同時二軸延伸を行った。この時の延伸設定温度は122℃であった。次に塩化メチレン槽に導き、十分に塩化メチレンに浸漬して流動パラフィンを抽出除去した。その後塩化メチレンの乾燥を行った。更に横テンターに導き横方向に1.84倍延伸したのち最終出口は1.65倍となるように10%の緩和率とし(緩和率=(1.84−1.65)/1.84×100=10%)、無機含有ポリオレフィン微多孔膜の巻取りを行った。横延伸部の設定温度は137℃、緩和部の設定温度は144℃であった。製膜条件を表1に、微多孔膜の特性を表2に示す。またTMAの評価結果を図1に、DSCの評価結果を図15に示す。さらに電池評価結果を表2に示す。なお、得られた微多孔膜を600℃で30分間焼成し、残重量からシリカ量を算出したところ、39.8質量%であり、配合されたシリカはほぼ抽出されず、残存していた。他の実施例、比較例も原料組成比から算出されるシリカ含有量と比較し±1%未満の値を示した。
【0069】
[実施例2]〜[実施例8]
製膜条件を表1に示すように変更し、表1に記載された条件以外は実施例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
実施例4は、Mv27万の高密度ポリエチレン「SH800」を13.0質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を5.5質量部に、シリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を18.5質量部に変更し、表1に記載された条件以外は実施例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
実施例6は、Mv27万の高密度ポリエチレン「SH800」を10.8質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を4.6質量部に、ランダムポリプロピレン「B221WA」((株)プライムポリマー製)を3.8質量部に変更し、表1に記載された条件以外は実施例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
実施例7は、Mv27万の高密度ポリエチレン「SH800」を23.0質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を5.8質量部に、シリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を3.2質量部に変更し、表1に記載された条件以外は実施例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
実施例8は、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を6.4質量部に、シリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を25.6質量部に変更し、表1に記載された条件以外は実施例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
微多孔膜の特性を表2に示す。またTMAの評価結果を図2〜8に示す。さらに電池評価結果を表2に示す。
【0070】
[比較例1]
粘度平均分子量(Mv)27万の高密度ポリエチレン「SH800」(旭化成ケミカルズ(株)製)を16.8質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」(旭化成ケミカルズ(株)製)を7.2質量部、平均一次粒径が12nmであるシリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を16質量部、可塑剤として流動パラフィン「スモイル P−350P」((株)松村石油研究所製)を19.2質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.1質量部添加したものをスーパーミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し、押し出される全混合物(100質量部)中に占める流動パラフィン量比が60質量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、スクリュー回転数80rpm、押出量18kg/hで行った。この時のQ/N比は0.23であった。設定温度は、混練部は200℃、Tダイは220℃とした。続いて、溶融混練物をTダイよりシート状に押出し、表面温度40℃に制御された冷却ロールで冷却し、厚み1800μmのシート状のポリオレフィン樹脂組成物を得た。この時、Tダイの幅A[mm]と冷却後のシート幅B[mm]の比率、すなわちB/Aが0.74となるように、冷却ロールの速度を調整した。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に6.4倍に同時二軸延伸を行った。この時の延伸設定温度は122℃であった。次に塩化メチレン槽に導き、十分に塩化メチレンに浸漬して流動パラフィンを抽出除去した。その後塩化メチレンの乾燥を行った。更に横テンターに導き横方向に1.84倍延伸したのち最終出口は1.65倍となるように10%の緩和率とし(緩和率=(1.84−1.65)/1.84×100=10%)、無機含有ポリオレフィン微多孔膜の巻取りを行った。横延伸部の設定温度は137℃、緩和部の設定温度は139℃であった。製膜条件を表3に、微多孔膜の特性を表4に示す。またTMAの評価結果を図9に、DSCの評価結果を図16に示す。さらに電池評価結果を表4に示す。
【0071】
[比較例2]〜[比較例6]
製膜条件を表3に示すように変更し、表3に記載された条件以外は比較例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
比較例3は、Mv27万の高密度ポリエチレン「SH800」を36.0質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を9.0質量部に変更し、シリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を使用しなかったこと以外は、表3に記載された条件及び比較例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
比較例4は、Mv27万の高密度ポリエチレン「SH800」を13.4質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を5.8質量部に、ランダムポリプロピレン「B221WA」((株)プライムポリマー製)を4.8質量部に変更し、表3に記載された条件以外は比較例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
比較例5は、Mv27万の高密度ポリエチレン「SH800」を24.3質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を6.1質量部に変更し、シリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を1.6質量部に変更し、表3に記載された条件以外は比較例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
比較例6は、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を5.6質量部に変更し、シリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を34.4質量部に変更し、表3に記載された条件以外は比較例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
微多孔膜の特性を表4に示す。またTMAの評価結果を図10〜14に示す。さらに電池評価結果を表4に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
表2の結果から明らかなように、DSCにより得られるピーク数がP1N>P2Nである実施例1〜8の微多孔膜はTMAにおける耐熱性評価において240秒以上であるのに対して、比較例1〜6の微多孔膜では90秒以下であり、本実施の形態の微多孔膜は明らかに良好な耐熱性を示した。さらに、実施例1〜8の微多孔膜を非水電解液用電池セパレータとして用いた場合には、安全性評価において良好な結果を示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の微多孔膜は、良好な耐熱特性を示し、非水電解液電池用セパレータとして用いた場合には、良好な安全性を確保し得る。
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜及び非水電解液電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、様々な孔径、孔形状、孔数を有し、その特異な構造により発現され得る特性から幅広い分野に利用されている。例えば、孔径の違いによるふるい効果を利用した水処理や濃縮などに用いられる分離膜、微多孔化による大表面積と多孔空間を利用した吸水、吸油、脱臭用材に用いられる吸着シート、分子サイズの違いにより空気や水蒸気などは通すが水は通さないという特徴を利用した透湿防水シート、多孔空間に各種材料を充填することで多機能化し、燃料電池などに有用な高分子電解質膜や加湿膜、さらには液晶材料、電池材料として用いられている。
【0003】
近年、リチウムイオン電池を中心とした非水電解液電池の開発が活発に行われている。通常、非水電解液電池には、微多孔膜(セパレータ)が正負極間に設けられている。このようなセパレータは、正負極間の直接的な接触を防ぎ、微多孔中に保持した電解液を通じイオンを透過させる機能を有する。セパレータの構成材料としては、電気化学的安定性や電解液耐性の観点から、ポリオレフィン材料が主に使用されている。
非水電解液電池の新たな用途として、車載用途への展開が急速に拡大しつつある。車載用途においては、長寿命、高出力、高容量、高電圧などの特性が求められており、その電池の持つ特徴からリチウムイオン二次電池が最も有力視されている。特に、高容量化への要求は大きく、構成材料や電池構造は日々多様化しており、電池内におけるセパレータには様々な状態での安全性が求められる。また、長寿命の観点から、保液性を高める目的で無機粒子を混合したセパレータも検討されている。
【0004】
このような安全性への要望に対して、例えば特許文献1には、ポリオレフィン樹脂及び微細粒子を含有する島状構造体と、該島状構造体間をつなぐフィブリルとを含み、該フィブリルがポリオレフィン樹脂を含有し、実質的に一方向に配列しているポリオレフィン微多孔膜が提案されている。特許文献2には、ポリオレフィン樹脂及び無機粒子からなる微多孔膜であって、該微多孔膜の突刺強度及び突刺しクリープにおける膜厚保持率が特定範囲に調整されたポリオレフィン微多孔膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−218085号公報
【特許文献2】国際公開2008−035674号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜2に記載された無機粒子を含有したポリオレフィン微多孔膜からなるセパレータは、両端を拘束された状態(例えば、角型電池内におけるセパレータ)における耐熱性には改良の余地を有するものである。
上記事情に鑑み、本発明は、無機粒子を含有したポリオレフィン微多孔膜において、良好な耐熱性を有し、非水電解液電池用セパレータとして使用した場合に良好な安全性を示す無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜、及びそれを含む非水電解液電池用セパレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、無機粒子を含有したポリオレフィン微多孔膜の耐熱性を向上させる手段として、微多孔膜の融解挙動に着目した。
即ち、ポリオレフィン微多孔膜に無機粒子を含有させることで機械的強度や面固定された場合における耐熱性の向上は見られるものの、辺固定された状態における耐熱性の向上は必ずしも十分ではない。
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、無機粒子を含有したポリオレフィン微多孔膜において、1回目のDSCにより観察される融解ピーク数をP1N、引き続き冷却後に行われる2回目のDSCにより観察される融解ピーク数をP2Nとしたときに、
P1N>P2N
となる無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜が、辺固定された状態における耐熱性に優れることを見出し、さらに非水電解液電池用セパレータとしての安全性を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]
ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜であって、
前記無機粒子の含有割合が前記微多孔膜の総重量に対して10質量%以上80質量%以下であり、
前記微多孔膜のDSCにおいて、1回目の測定での融解ピーク数(P1N)が2つ以上あり、2回目の測定での融解ピーク数(P2N)が1回目の測定での融解ピーク数(P1N)よりも少ない無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜。
[2]
前記ポリオレフィン樹脂がポリエチレンを主成分とした微多孔膜であって、前記微多孔膜のDSCにおいて、1回目の測定での融解ピーク数(P1N)が2つ以上あり、その融解ピーク温度が140℃未満と140℃以上に1つ以上存在する上記[1]記載の無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜。
[3]
上記[1]又は[2]記載の無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜を含む非水電解液電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜は、辺固定された状態において優れた耐熱特性を示し、非水電解液電池用セパレータとして用いた場合に、良好な安全性を確保し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1におけるTMAの評価結果を示す。
【図2】実施例2におけるTMAの評価結果を示す。
【図3】実施例3におけるTMAの評価結果を示す。
【図4】実施例4におけるTMAの評価結果を示す。
【図5】実施例5におけるTMAの評価結果を示す。
【図6】実施例6におけるTMAの評価結果を示す。
【図7】実施例7におけるTMAの評価結果を示す。
【図8】実施例8におけるTMAの評価結果を示す。
【図9】比較例1におけるTMAの評価結果を示す。
【図10】比較例2におけるTMAの評価結果を示す。
【図11】比較例3におけるTMAの評価結果を示す。
【図12】比較例4におけるTMAの評価結果を示す。
【図13】比較例5におけるTMAの評価結果を示す。
【図14】比較例6におけるTMAの評価結果を示す。
【図15】実施例1におけるDSCの評価結果を示す。
【図16】比較例1におけるDSCの評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本実施の形態の無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜であって、前記無機粒子の含有割合が前記微多孔膜の総重量に対して10質量%以上80質量%以下であり、前記微多孔膜のDSCにおいて、1回目の測定での融解ピーク数(P1N)が2つ以上あり、2回目の測定での融解ピーク数(P2N)が1回目の測定での融解ピーク数(P1N)よりも少ない(P1N>P2N)。なお、本実施の形態において「DSC」とは示差走査熱量測定のことを言う。
【0013】
1回目のDSCと2回目のDSCには以下のような意味がある。1回目のDSCでは、測定片の結晶状態(融解挙動)が測定できる。すなわち微多孔膜を測定した場合には、微多孔膜におけるポリオレフィン樹脂の結晶状態の測定が可能である。続いて試料を一定条件で冷却し、試料を未開封のまま、引き続き行う2回目のDSCでは、微多孔膜を構成しているポリオレフィン原料の特性を反映した結晶状態の測定が可能である。すなわち、1回目の測定においては、融点以上の温度に加熱することで微多孔膜における結晶を一度融解する。続いて、配向を緩和した後、冷却することで微多孔膜を形成しているポリオレフィン樹脂が再結晶化する。2回目の測定においては、再結晶化した結晶状態(ポリオレフィン原料自体が持つ固有の融点)を測定することができる。
【0014】
1回目のDSCにおいて観察されるピーク数をP1N、2回目のDSCにおいて観察されるピーク数をP2Nとしたときに、P1N>P2Nであることは、ある1種類のポリオレフィン樹脂が複数の結晶状態を有し、微多孔膜を構成していることを示唆している。
【0015】
P1N>P2Nである場合には、微多孔膜を辺固定したときの耐熱性に優れる。単一のポリオレフィンが複数の結晶状態を有する微多孔膜(P1N>P2N)は、単一の融点を有する1種類、又は、単一の融点を有する複数のポリオレフィンからなる(P1N=P2N、かつ、P1N≧1)微多孔膜には見られない優れた耐熱性を示す。理由は定かではないが、単一のポリオレフィンが複数の結晶状態を有する場合は、複数の結晶状態が同一の分子鎖でつながれていると推定され、より緻密な構造が形成されることにより無機粒子とポリオレフィン樹脂の密着性が向上しているためと考えている。従来の無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜は、高温に曝された場合、分子鎖の運動性が高まり収縮することで、ポリオレフィンと無機粒子の界面剥離が起点となり破断することがある。本実施形態の微多孔膜は、高温下に曝された場合においても、ポリオレフィンと無機粒子の密着性が高いために、界面剥離が起こりにくく、破断が生じず、安全性が向上するものと推定される。
【0016】
微多孔膜のDSCにおいてP1N>P2Nに調整するための手段としては、複数の影響因子を制御し、特定範囲の成形条件とすることで達成できる。例えば、ポリオレフィン樹脂と無機粒子と第3物質(後工程で抽出除去される可塑剤)を原料とした溶融製膜の場合、(1)Tダイからシート状に溶融物を押出してロールにて冷却するまでの空走部において、特定の倍率で溶融延伸する方法(ドロー比の制御)、(2)溶融物の冷却速度を制御する方法、(3)構成材料における可塑剤比率やポリオレフィン比率を特定範囲にする方法、(4)溶融混錬時における押出量(Q)とスクリュー回転数(N)の比率(Q/N)を制御することなどによりポリマー鎖の状態を制御する方法等が一例として挙げられる。
【0017】
また、前記ポリオレフィン樹脂がポリエチレンを主成分とした微多孔膜であって、前記微多孔膜のDSCにおいて、1回目の測定での融解ピーク数(P1N)が2つ以上あり、その融解ピーク温度が140℃未満と140℃以上に1つ以上存在することが好ましい。P1N及び融解ピーク温度が上記条件を満たすことにより、安全性がさらに向上する傾向にある。これは、おそらく高温下にて、140℃未満のポリエチレン結晶成分による迅速な応力緩和と140℃以上のポリエチレン結晶成分による無機粒子との強固な密着性が両立できるためと推定される。
【0018】
本実施の形態のセパレータは、ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含む樹脂組成物から形成される。本実施の形態において使用するポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のモノマーを重合して得られる重合体(ホモ重合体や共重合体、多段重合体等)が挙げられる。これら重合体は1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0019】
また、前記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(密度0.910〜0.930g/cm3未満)、線状低密度ポリエチレン(密度0.910〜0.940g/cm3未満)、中密度ポリエチレン(密度0.930〜0.942g/cm3未満)、高密度ポリエチレン(密度0.942g/cm3以上)、超高分子量ポリエチレン(密度0.910〜0.970g/cm3未満)、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0020】
前記ポリオレフィン樹脂は、耐熱性、耐久性、延伸性などの観点からポリエチレンを主成分として含むことが好ましく、中でも高密度ポリエチレンを含むことが好ましい。ここで「主成分」とは、ポリエチレンが前記ポリオレフィン樹脂中に占める割合として、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であることを言う。ポリエチレンの含有量の上限としては、好ましくは100質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0021】
なお、前記樹脂組成物には、必要に応じて、フェノール系やリン系やイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の公知の各種添加剤を混合してもよい。
【0022】
前記ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量(後述する実施例における測定法に準じて測定される。なお、複数種のポリオレフィン樹脂が用いられる場合には、各々のポリオレフィン樹脂について測定される値を意味する。)としては、好ましくは5万以上、より好ましくは10万以上であり、上限としては、好ましくは1000万以下、より好ましくは300万以下、更に好ましくは100万以下である。当該粘度平均分子量を5万以上とすることは、溶融成形の際のメルトテンションを高く維持し良好な成形性を確保する観点、又は、十分な絡み合いを付与し微多孔膜の強度を高める観点から好ましい。一方、粘度平均分子量を1000万以下とすることは、均一な溶融混練を実現し、シートの成形性、特に厚み成形性を向上させる観点から好ましい。粘度平均分子量を100万以下とすることは、より厚み成形性を向上させる観点から好ましい。
【0023】
前記無機粒子としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。上記の中でも、電気化学的安定性の観点から、シリカ、アルミナ、チタニウム、マグネシアがより好ましい。
【0024】
前記無機粒子の平均一次粒径としては、好ましくは1nm以上、より好ましくは6nm以上、更に好ましくは10nm以上であり、上限としては、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、更に好ましくは60nm以下である。無機粒子の平均一次粒径を100nm以下とすることは、延伸等を施した場合でもポリオレフィンと無機粒子間での剥離が生じにくくなる傾向にあり、マクロボイドの発生を低減し、孔径分布を良好に制御する観点から好ましい。ここで、ポリオレフィンと無機粒子間での剥離が生じにくいことは、微多孔膜を構成するフィブリル自身の高硬度化の観点から好ましい。一方、無機粒子の平均一次粒径を1nm以上とすることは、無機粒子の分散性を確保し、微多孔膜を構成するフィブリル自身の高硬度化の観点から好ましい。
【0025】
前記無機粒子が、微多孔膜中に占める割合(微多孔膜の総重量に対する無機粒子の割合)としては、10質量%以上、好ましくは20質量%以上であり、上限としては、80質量%以下、好ましくは60質量%以下である。当該割合を10質量%以上とすることは、辺固定されたときの耐熱性向上、透過性向上、強度向上の観点から好ましい。一方、当該割合を80質量%以下とすることは、辺固定されたときの耐熱性を向上させる観点から好ましく、また、均一に無機粒子を分散させる観点からも好ましい。
【0026】
ポリオレフィン樹脂と無機粒子を含む微多孔膜、中でもセパレータとして好適な無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜の製法は複数開示されているが、大きくは、その原料から下記の(A)及び(B)の2種に大別される。
(A):ポリオレフィンと無機粒子を原料とした溶融製膜。
(B):ポリオレフィンと無機粒子と第3物質(後工程で抽出除去する物質)を原料とした溶融製膜。
【0027】
また、前記(A)及び(B)に、更に延伸を組み合わせることで下記のように細分化される。
(A)−a:ポリオレフィンと無機粒子を溶融混錬した後、シート化。延伸により多孔化。
(B)−a:ポリオレフィンと無機粒子と第3物質を溶融混錬した後、シート化。第3物質を抽出(全て又は一部残留)することで多孔化。
(B)−b:ポリオレフィンと無機粒子と第3物質を溶融混錬した後、シート化。第3物質を抽出(全て又は一部残留)することで多孔化。次いで延伸により孔構造制御。
(B)−c:ポリオレフィンと無機粒子と第3物質を溶融混錬した後、シート化。延伸によりポリオレフィンと無機粒子及び第3物質の形態を制御。次いで第3物質を抽出(全て又は一部残留)することで多孔化。
【0028】
本実施の形態のセパレータの製法としては、前記(B)の方法が、P1N>P2Nに制御する観点、及び高強度化の観点から好ましい。
【0029】
本実施の形態における無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜のより具体的な製造方法としては、例えば、下記(1)〜(4)の各工程を含む製造方法を用いることができる。
(1)ポリオレフィン樹脂及び無機粒子を含むポリオレフィン樹脂組成物と、可塑剤とを所定の比率、所定のQ/N比(Q:押出量[kg/hr]、N:スクリュー回転数[rpm])で溶融混練する工程、
(2)前記混練工程の後、混練物をシート状に成形し、所定のドロー比で溶融延伸し、冷却してシート状成形体に加工する成形工程、
(3)前記成形工程の後、前記シート状成形体を面倍率20倍以上200倍以下で二軸延伸し、延伸物を形成する延伸工程、
(4)前記延伸物から可塑剤を抽出して多孔体を形成する多孔体形成工程。
【0030】
前記(1)の工程で用いられる可塑剤としては、ポリオレフィン樹脂と混合した際にポリオレフィン樹脂の融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒であることが好ましい。また、常温において液体であることが好ましい。
【0031】
前記可塑剤としては、例えば、流動パラフィンやパラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジエチルヘキシルやフタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコールやステアリルアルコール等の高級アルコール類等が挙げられる。
【0032】
前記可塑剤が、前記混練物中に占める割合としては、好ましくは60質量%を超え、より好ましくは65質量%以上であり、上限としては、好ましくは80質量%以下である。当該割合を60質量%を超えて80質量%以下とすることは、複数の結晶構造を形成する観点から好ましい。さらに、当該割合を80質量%以下とすることは、シート成形性を確保する観点から好ましい。
【0033】
溶融混錬は二軸スクリューを用いて行うことが好ましい。Q/N比(Q:押出量[kg/hr]、N:スクリュー回転数[rpm])は、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。上限としては、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.2以下である。Q/N比が0.3以上であるとポリマー分子鎖の切断が起こることなく、ポリマーの可塑剤中への均一な溶解が可能となるため、より高強度な微多孔膜が得られる傾向にあり、1.5以下であると、ポリマー分子鎖間のほぐれを解き、かつ、無機粒子を高分散させるのに十分なせん断力を与えることが可能となるため、結晶化した際に、複数の結晶構造を得やすい傾向にある。
【0034】
溶融混練部の温度は無機粒子の分散性の観点から200℃未満が好ましい。温度の下限はポリオレフィン樹脂を可塑剤へ均一に溶解させる観点からポリオレフィンの融点以上である。
【0035】
溶融混練工程以降から溶融物をシート状に成形する工程における設定温度は、押出し機の設定温度より高温に設定することが好ましい。設定温度の上限はポリオレフィン樹脂の熱劣化の観点から300℃以下が好ましく、260℃以下がより好ましい。例えば、押出し機より連続してシート状成形体を製造する際に、溶融混練工程後、シート状に成形する工程、即ち、押出し機出口からTダイまでの経路、及びTダイの設定温度が押出し工程の設定温度よりも高温に設定されている場合は、溶融混練工程で微細に分散した無機粒子が再凝集することなくシート状に成形することが可能となるため好ましい。特に粒径の小さい無機粒子等を用いた場合に凝集を抑制する効果が大きい。
【0036】
前記(2)の工程は、例えば、前記混練物をTダイ等を介してシート状に押し出し、ロール間で挟み込んで厚さ制御したシートを作成し、熱伝導体に接触させて冷却固化させる工程である。当該熱伝導体としては、金属、水、空気、あるいは可塑剤自身等が使用できる。Tダイからシート状に押出し、ロール間で挟み込むまでの空走部では、所定のドロー比で溶融延伸した後に、冷却することで、結晶状態を制御することができる。Tダイの幅をAとし、ロールにて挟み込んだシートの幅をBとしたときに、0.98>B/A>0.75の範囲にロール速度を制御することで、単一のポリオレフィン樹脂から複数の結晶状態を有する(P1N>P2N)微多孔膜が得られやすい。
【0037】
前記(3)の工程における延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延、多段延伸、多数回延伸等のいずれの方法を単独若しくは併用しても構わないが、突刺強度の増加や膜厚均一化の観点から、同時二軸延伸が好ましい。ここでいう同時二軸延伸とは膜の長さ方向(機械方向(MD)。以下「MD方向」と記載することがある。)の延伸と膜の幅方向(機械方向と直交する方向(TD)。以下「TD方向」と記載することがある。)の延伸が同時に施される手法であり、各方向の変形率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD方向、又はTD方向の延伸が独立して施される手法であり、MD方向、又はTD方向に延伸がなされている際は、他方向が非拘束状態、又は定長に固定されている状態にある。延伸倍率は、総面積倍率で好ましくは20倍以上200倍未満の範囲であり、20倍以上100倍以下がより好ましく、25倍以上50倍以下が更に好ましい。総面積倍率が20倍以上である場合は、高強度になりやすい傾向にあり、200倍未満である場合は、熱収縮が低減する傾向にある。
【0038】
各軸方向の延伸倍率はMD方向に4倍以上10倍以下、TD方向に4倍以上10倍以下の範囲が好ましく、MD方向に5倍以上8倍以下、TD方向に5倍以上8倍以下の範囲がより好ましい。延伸倍率がMD方向に4倍以上、TD方向に4倍以上であると、MD方向、TD方向共に、膜厚ムラが小さい製品が得られやすい傾向にあり、それぞれ10倍以下であると、捲回性に優れる傾向にある。
【0039】
延伸温度はポリオレフィンの融点−50℃以上、融点未満が好ましく、ポリオレフィンの融点−30℃以上、融点−2℃以下がより好ましく、ポリオレフィンの融点−15℃以上、融点−3℃以下が更に好ましい。延伸温度が上記範囲であると、より高強度であり、耐電圧の高い微多孔膜が得られる傾向にある。
【0040】
前記(4)の工程は、前記可塑剤の溶剤に対して前記延伸物を浸漬する方法が挙げられる。なお、抽出後の微多孔膜中の可塑剤の残存量としては1質量%未満にすることが好ましい。また、当該工程により無機粒子が抽出される量としては、微多孔膜中の配合量の好ましくは1質量%以下、より好ましくは実質的に0質量%である。
【0041】
延伸は可塑剤の抽出前でも抽出後でも可能であるが、孔径制御の観点から可塑剤抽出後にさらに延伸を施すことが好ましい。さらに延伸過程に引き続いて熱固定及び熱緩和等の熱処理工程を加えることは、微多孔膜の収縮を更に抑制する観点から好ましい。
【0042】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、微多孔膜に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を施してもよい。
【0043】
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜の膜厚は、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上であり、上限としては、好ましくは100μm未満、より好ましくは60μm未満、更に好ましくは40μm未満である。膜厚を2μm以上とすることは、機械強度を向上させる観点及び耐電圧を向上させる観点から好適である。一方、膜厚を100μm未満とすることは、ポリオレフィン微多孔膜の占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向にある。なお、ポリオレフィン微多孔膜の膜厚は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。
【0044】
なお、膜厚は、前記(2)の工程におけるシート厚さ、前記(3)の工程における延伸倍率、延伸温度等を調整すること等により調節可能である。
【0045】
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上であり、上限としては、好ましくは80%未満、より好ましくは75%以下である。気孔率を45%以上とすることは、良好な出力特性を確保する観点から好適である。一方、80%未満とすることは、突刺強度を確保する観点及び耐電圧を確保する観点から好ましい。なお、ポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。
【0046】
なお、上記気孔率は、前記(1)の工程におけるポリオレフィン樹脂/無機粒子/可塑剤の割合、前記(3)の工程における延伸温度、延伸倍率を調整すること等により調節可能である。
【0047】
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜の透気度は、好ましくは10秒以上、より好ましくは40秒以上であり、上限としては、好ましくは500秒以下、より好ましくは300秒以下、更に好ましくは200秒以下である。透気度を10秒以上とすることは、電池の自己放電を抑制する観点から好適である。一方、500秒以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好適である。なお、ポリオレフィン微多孔膜の透気度は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。
【0048】
なお、上記透気度は、前記(1)の工程におけるポリオレフィン樹脂/無機粒子/可塑剤の割合、前記(3)の工程における延伸温度、延伸倍率を調整すること等により調節可能である。
【0049】
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜は、良好な耐熱特性を示し、特に非水電解液電池用セパレータとして好適に用いることができる。
【0050】
本実施の形態における非水電解液電池は、上述したポリオレフィン微多孔膜を含む非水電解液電池用セパレートと、正極板と、負極板と、非水電解液(非水溶媒とこれに溶解した金属塩とを含む。)とを備えている。具体的には、例えば、リチウムイオン等を吸蔵及び放出可能な遷移金属酸化物を含む正極板と、リチウムイオン等を吸蔵及び放出可能な負極板とが、セパレータを介して対向するように捲回又は積層され、非水電解液を保液し、容器に収容されている。
【0051】
正極板について以下に説明する。正極活物質としては、例えば、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム又はコバルト酸リチウム等のリチウム複合金属酸化物、リン酸鉄リチウム等のリチウム複合金属リン酸塩等を用いることができる。正極活物質は導電剤及びバインダーと混錬され、正極ペーストとしてアルミニウム箔等の正極集電体に塗布乾燥され、所定厚に圧延された後、所定寸法に切断されて正極板となる。ここで、導電剤としては、正極電位下において安定な金属粉末、例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック又は黒鉛材料を用いることができる。また、バインダーとしては、正極電位下において安定な材料、例えば、ポリフッ化ビニリデン、変性アクリルゴム又はポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。
【0052】
負極板について以下に説明する。負極活物質としては、リチウムを吸蔵できる材料を用いることができる。具体的には、例えば、黒鉛、シリサイド、及びチタン合金材料等からなる群から選ばれる少なくとも1種類を用いることができる。また、非水電解質二次電池の負極活物質としては、例えば、金属、金属繊維、炭素材料、酸化物、窒化物、珪素化合物、錫化合物、又は各種合金材料等を用いることができる。特に、珪素(Si)若しくは錫(Sn)の単体又は合金、化合物、固溶体等の珪素化合物若しくは錫化合物が、電池の容量密度が大きくなる傾向にあるため好ましい。上記炭素材料としては、例えば、各種天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、各種人造黒鉛、及び非晶質炭素等が挙げられる。負極活物質としては、上記材料のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。負極活物質はバインダーと混錬され、負極ペーストとして銅箔等の負極集電体に塗布乾燥され、所定厚に圧延された後、所定寸法に切断されて負極板となる。ここで、バインダーとしては、負極電位下において安定な材料、例えば、PVDF又はスチレン−ブタジエンゴム共重合体等を用いることができる。
【0053】
非水電解液について以下に説明する。非水電解液は、一般的に、非水溶媒とこれに溶解したリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩等の金属塩とを含む。非水溶媒としては、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル等が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO2)2、LiAsF6、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、ホウ酸塩類、イミド塩類等が挙げられる。
なお、上述した各種パラメータの測定方法については、特に断りの無い限り、後述する実施例における測定方法に準じて測定されるものである。
【実施例】
【0054】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0055】
(1)粘度平均分子量(Mv)
デカヒドロナフタリンへ試料の劣化防止のため2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを0.1質量%の濃度となるように溶解させ、これ(以下DHNと略す)を試料溶媒として用いた。
試料をDHNへ0.1質量%の濃度となるように150℃で溶解させ試料溶液を作製した。作製した試料溶液を10mL採取し、キャノンフェンスケ粘度計(SO100)により135℃での標線間通過秒数(t)を計測した。試料に無機粒子が含有している場合は、試料をDHNに溶解させた溶液をろ過し、無機粒子を除去したものを試料とした。なお、無機粒子が溶解除去可能な場合は、予め無機粒子を溶解除去した試料を用いてもよい。また、DHNを150℃に加熱した後、10mL採取し、同様の方法により粘度計の標線間を通過する秒数(tB)を計測した。得られた通過秒数t、tBを用いて次の換算式により極限粘度[η]を算出した。
[η]=((1.651t/tB−0.651)0.5−1)/0.0834
求められた[η]より、次式によりMvを算出した。
[η]=6.77×10−4Mv0.67
【0056】
(2)平均一次粒径
無機粒子の平均一次粒径は、走査型電子顕微鏡にて計測した。具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)にて拡大した10μm×10μmの視野画像を直接、あるいはネガより写真に焼き付けた後、画像解析装置に読み込み、これから計算される各粒子の円換算径(面積を同じくする円の直径)の数平均値を、無機粒子の平均一次粒径とした。ただし、写真から画像解析装置に入力する際に染色境界が不明瞭な場合には、写真のトレースを行い、この図を用いて画像解析装置に入力を行った。
【0057】
(3)膜厚(μm)
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)を用いて室温23℃で測定した。
【0058】
(4)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料をポリオレフィン微多孔膜から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm3)より、次式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積−質量/混合組成物の密度)/体積×100
なお、混合組成物の密度は、用いたポリオレフィン樹脂と無機粒子の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。
【0059】
(5)透気度(sec)
JIS P−8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計、G−B2(商標)により測定した。
【0060】
(6)突刺強度(N)
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーでポリオレフィン微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、25℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として突刺強度(N)を得た。
【0061】
(7)DSC(示差走査熱量測定:Differential Scanning Calorimetry)
島津製作所社製DSC60を用いて測定した。試料を直径5mmの円形に打ち抜き、数枚重ね合わせて3mgとしたものを測定サンプルとして用いた。これを直径5mmのアルミ製オープンサンプルパンに敷き詰め、クランピングカバーを乗せサンプルシーラーでアルミパン内に固定した。
1回目測定
窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで30℃から200℃までを測定し、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線のピーク数をP1Nとし、ピークトップ温度を融点(℃)とした。
続いて200℃で5分間ホールドした後、10℃/minで200℃から30℃まで冷却し、30℃で5分間ホールドした。
2回目測定
1回目の測定に続いて、昇温速度10℃/minで30℃から200℃まで再度測定し、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線のピーク数をP2Nとし、ピークトップ温度を融点(℃)とした。
【0062】
(8)MD熱収縮率
セパレータをMD方向に100mm、TD方向に100mmに切り取り、150℃のオーブン中に1時間静置した。このとき、温風が直接サンプルにあたらないよう、サンプルを2枚の紙にはさんだ。サンプルをオーブンから取り出し冷却した後、長さ(mm)を測定し、以下の式にてMD熱収縮率を算出した。
MD熱収縮率(%)=(100−加熱後のMDの長さ)/100×100
【0063】
(9)引張強度
JIS K7127に準拠し、島津製作所製の引張試験機、オートグラフAG−A型(商標)を用いて、MD及びTDサンプル(形状;幅10mm×長さ100mm)について測定した。また、サンプルはチャック間を50mmとし、サンプルの両端部(各25mm)の片面にセロハンテープ(日東電工包装システム(株)製、商品名:N.29)を貼ったものを用いた。更に、試験中のサンプル滑りを防止するために、引張試験機のチャック内側に、厚み1mmのフッ素ゴムを貼り付けた。引張強度(kg/cm2)は、破断時の強度を、試験前のサンプル断面積で除することにより求めた。なお、測定は、温度23±2℃、チャック圧0.30MPa、引張速度200mm/分で実施した。
【0064】
(10)耐熱性評価(TMA(熱機械分析):Thermomechanical Analysis)
島津製作所TMA50(商標)を用いて測定した。MD方向に約15mm、TD方向に幅3mmに切り出したサンプルを、チャック間距離(MD方向)が10mmとなるようにチャックに固定し、専用プロープにセットした。初期荷重を0.0098N(1.0gf)とし、定長モードにて30℃より10℃/minの速度にてプロープを150℃まで昇温させ、続いて150℃で10分間保持した。150℃到達後から、収縮応力が0.0098N(1.0gf)を下回るまでの時間を保持時間とした。収縮応力が0.0098N(1.0gf)を下回った時点を破断とみなし、保持時間を耐熱性評価の指標とした。
【0065】
(11)電池評価(安全性評価)
a.電池作製
(a−1) 正極板作製
活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoO2を92.2重量%、導電剤としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3重量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2重量%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗付し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の活物質塗付量は250g/m2,活物質嵩密度は3.00g/cm3になるようにした。これを幅約40mmに切断して帯状にした。
(a−2) 負極板作製
活物質として人造グラファイト96.9重量%、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4重量%とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7重量%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗付し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗付量は106g/m2,活物質嵩密度は1.35g/cm3になるようにした。これを幅約40mmに切断して帯状にした。
(a−3) 非水電解液の調製
非水電解液としてエチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1:1(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/リットルとなるように溶解させて調製した。
(a−4) 捲回・組み立て
上記の微多孔膜セパレータ、帯状正極及び帯状負極を、帯状負極、セパレータ、帯状正極、セパレータの順に重ねて渦巻状に複数回捲回することで電極板積層体を作製した。
この電極板積層体を平板状にプレス後、アルミニウム製容器に収納し、正極集電体から導出したアルミニウム製リードを容器壁に、負極集電体から導出したニッケル製リードを容器蓋端子部に接続した。さらにこの容器内に前記した非水電解液を注入し封口した。こうして作製される角型リチウムイオン電池は、縦(厚み)6.3mm,横30mm,高さ48mmの大きさで、公称放電容量が620mAhとなるように設計されていた。
【0066】
b.容量測定(mAh)
上記のようにして組み立てたリチウムイオン電池にて、電流値310mA(0.5C)、終止電池電圧4.2Vの条件で6時間定電流定電圧(CCCV)充電を行った。このとき充電終了直前の電流値はほぼ0の値となった。その後、25℃雰囲気下で1週間放置(エージング)した。
その次に、電流値620mA(1.0C)、終止電池電圧4.2Vの条件で3時間定電流定電圧(CCCV)充電し、一定電流値(CC)620mAで電池電圧3.0Vまで放電する、というサイクルを行った。このときの放電容量を初回放電容量とした。初回放電容量が±10mA以内の電池を安全性評価に使用した。
【0067】
c.安全性評価(釘刺し試験)
電流値620mA(1.0C)、終止電池電圧4.2Vの条件で3時間定電流定電圧(CCCV)充電した電池に対して、中央部に、直径2.7mmの鉄製丸釘を、20℃環境下で、5mm/秒の速度で貫通させ、その時の発熱状態を観測した。電池貫通箇所近傍の電池表面における1秒後の温度と60秒後の温度を測定した。1秒後の温度が100℃未満の場合を合格とし、100℃以上の場合を不合格(×)とした。さらに、合格の場合において、60秒後においての電池表面温度が100℃未満の場合を好適(◎)とし、100℃以上の場合を適(○)と判断した。
【0068】
[実施例1]
粘度平均分子量(Mv)27万の高密度ポリエチレン「SH800」(旭化成ケミカルズ(株)製)を13.4質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」(旭化成ケミカルズ(株)製)を5.8質量部、平均一次粒径が12nmであるシリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を12.8質量部、可塑剤として流動パラフィン「スモイル P−350P」((株)松村石油研究所製)を15.4質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.1質量部添加したものをスーパーミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し、押し出される全混合物(100質量部)中に占める流動パラフィン量比が68質量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、スクリュー回転数50rpm、押出量30kg/hで行った。この時のQ/N比は0.6であった。設定温度は、混練部は160℃、Tダイは230℃とした。続いて、溶融混練物をTダイよりシート状に押出し、表面温度70℃に制御された冷却ロールで冷却し、厚み1800μmのシート状のポリオレフィン樹脂組成物を得た。この時、Tダイの幅A[mm]と冷却後のシート幅B[mm]の比率、すなわちB/Aが0.8となるように、冷却ロールの速度を調整した。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に6.4倍に同時二軸延伸を行った。この時の延伸設定温度は122℃であった。次に塩化メチレン槽に導き、十分に塩化メチレンに浸漬して流動パラフィンを抽出除去した。その後塩化メチレンの乾燥を行った。更に横テンターに導き横方向に1.84倍延伸したのち最終出口は1.65倍となるように10%の緩和率とし(緩和率=(1.84−1.65)/1.84×100=10%)、無機含有ポリオレフィン微多孔膜の巻取りを行った。横延伸部の設定温度は137℃、緩和部の設定温度は144℃であった。製膜条件を表1に、微多孔膜の特性を表2に示す。またTMAの評価結果を図1に、DSCの評価結果を図15に示す。さらに電池評価結果を表2に示す。なお、得られた微多孔膜を600℃で30分間焼成し、残重量からシリカ量を算出したところ、39.8質量%であり、配合されたシリカはほぼ抽出されず、残存していた。他の実施例、比較例も原料組成比から算出されるシリカ含有量と比較し±1%未満の値を示した。
【0069】
[実施例2]〜[実施例8]
製膜条件を表1に示すように変更し、表1に記載された条件以外は実施例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
実施例4は、Mv27万の高密度ポリエチレン「SH800」を13.0質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を5.5質量部に、シリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を18.5質量部に変更し、表1に記載された条件以外は実施例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
実施例6は、Mv27万の高密度ポリエチレン「SH800」を10.8質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を4.6質量部に、ランダムポリプロピレン「B221WA」((株)プライムポリマー製)を3.8質量部に変更し、表1に記載された条件以外は実施例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
実施例7は、Mv27万の高密度ポリエチレン「SH800」を23.0質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を5.8質量部に、シリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を3.2質量部に変更し、表1に記載された条件以外は実施例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
実施例8は、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を6.4質量部に、シリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を25.6質量部に変更し、表1に記載された条件以外は実施例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
微多孔膜の特性を表2に示す。またTMAの評価結果を図2〜8に示す。さらに電池評価結果を表2に示す。
【0070】
[比較例1]
粘度平均分子量(Mv)27万の高密度ポリエチレン「SH800」(旭化成ケミカルズ(株)製)を16.8質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」(旭化成ケミカルズ(株)製)を7.2質量部、平均一次粒径が12nmであるシリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を16質量部、可塑剤として流動パラフィン「スモイル P−350P」((株)松村石油研究所製)を19.2質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.1質量部添加したものをスーパーミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し、押し出される全混合物(100質量部)中に占める流動パラフィン量比が60質量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、スクリュー回転数80rpm、押出量18kg/hで行った。この時のQ/N比は0.23であった。設定温度は、混練部は200℃、Tダイは220℃とした。続いて、溶融混練物をTダイよりシート状に押出し、表面温度40℃に制御された冷却ロールで冷却し、厚み1800μmのシート状のポリオレフィン樹脂組成物を得た。この時、Tダイの幅A[mm]と冷却後のシート幅B[mm]の比率、すなわちB/Aが0.74となるように、冷却ロールの速度を調整した。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に6.4倍に同時二軸延伸を行った。この時の延伸設定温度は122℃であった。次に塩化メチレン槽に導き、十分に塩化メチレンに浸漬して流動パラフィンを抽出除去した。その後塩化メチレンの乾燥を行った。更に横テンターに導き横方向に1.84倍延伸したのち最終出口は1.65倍となるように10%の緩和率とし(緩和率=(1.84−1.65)/1.84×100=10%)、無機含有ポリオレフィン微多孔膜の巻取りを行った。横延伸部の設定温度は137℃、緩和部の設定温度は139℃であった。製膜条件を表3に、微多孔膜の特性を表4に示す。またTMAの評価結果を図9に、DSCの評価結果を図16に示す。さらに電池評価結果を表4に示す。
【0071】
[比較例2]〜[比較例6]
製膜条件を表3に示すように変更し、表3に記載された条件以外は比較例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
比較例3は、Mv27万の高密度ポリエチレン「SH800」を36.0質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を9.0質量部に変更し、シリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を使用しなかったこと以外は、表3に記載された条件及び比較例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
比較例4は、Mv27万の高密度ポリエチレン「SH800」を13.4質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を5.8質量部に、ランダムポリプロピレン「B221WA」((株)プライムポリマー製)を4.8質量部に変更し、表3に記載された条件以外は比較例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
比較例5は、Mv27万の高密度ポリエチレン「SH800」を24.3質量部、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を6.1質量部に変更し、シリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を1.6質量部に変更し、表3に記載された条件以外は比較例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
比較例6は、Mv200万の超高分子量ポリエチレン「UH850」を5.6質量部に変更し、シリカ「RX200」(日本アエロジル(株)製)を34.4質量部に変更し、表3に記載された条件以外は比較例1と同様にして製膜することにより微多孔膜を得た。
微多孔膜の特性を表4に示す。またTMAの評価結果を図10〜14に示す。さらに電池評価結果を表4に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
表2の結果から明らかなように、DSCにより得られるピーク数がP1N>P2Nである実施例1〜8の微多孔膜はTMAにおける耐熱性評価において240秒以上であるのに対して、比較例1〜6の微多孔膜では90秒以下であり、本実施の形態の微多孔膜は明らかに良好な耐熱性を示した。さらに、実施例1〜8の微多孔膜を非水電解液用電池セパレータとして用いた場合には、安全性評価において良好な結果を示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の微多孔膜は、良好な耐熱特性を示し、非水電解液電池用セパレータとして用いた場合には、良好な安全性を確保し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜であって、
前記無機粒子の含有割合が前記微多孔膜の総重量に対して10質量%以上80質量%以下であり、
前記微多孔膜のDSCにおいて、1回目の測定での融解ピーク数(P1N)が2つ以上あり、2回目の測定での融解ピーク数(P2N)が1回目の測定での融解ピーク数(P1N)よりも少ない無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂がポリエチレンを主成分とした微多孔膜であって、前記微多孔膜のDSCにおいて、1回目の測定での融解ピーク数(P1N)が2つ以上あり、その融解ピーク温度が140℃未満と140℃以上に1つ以上存在する請求項1記載の無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
請求項1又は2記載の無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜を含む非水電解液電池用セパレータ。
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜であって、
前記無機粒子の含有割合が前記微多孔膜の総重量に対して10質量%以上80質量%以下であり、
前記微多孔膜のDSCにおいて、1回目の測定での融解ピーク数(P1N)が2つ以上あり、2回目の測定での融解ピーク数(P2N)が1回目の測定での融解ピーク数(P1N)よりも少ない無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂がポリエチレンを主成分とした微多孔膜であって、前記微多孔膜のDSCにおいて、1回目の測定での融解ピーク数(P1N)が2つ以上あり、その融解ピーク温度が140℃未満と140℃以上に1つ以上存在する請求項1記載の無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
請求項1又は2記載の無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜を含む非水電解液電池用セパレータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−249240(P2011−249240A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123406(P2010−123406)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】
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