説明

無機粒子担持ポリテトラフルオロエチレン繊維およびその製造方法

【課題】
無機粒子を担持させ、且つ繊維強度が劣化しにくいPTFE繊維を得る。
【解決手段】
ポリテトラフルオロエチレン繊維の表面に無機粒子の一部が露出しており、かつ前記繊維が複数の凸部を含む繊維断面または扁平の繊維断面を有することを特徴とする無機粒子担持ポリテトラフルオロエチレン繊維。およびマトリックスとしてのビスコースとポリテトラフルオロエチレンの水分散液との混合液を、硫酸濃度7〜13%、硫酸ソーダ濃度7〜15%を含有する凝固浴中に複数の口金孔から吐出し、紡糸、精練した後、1〜5%のリラックスを与えながら80以上320℃未満の温度で半焼成した後、320〜380℃の温度で焼成を行ない、繊度が1.5dtex以上18.0dtex以下であって、且つ繊度ばらつきが10%以下である上記ポリテトラフルオロエチレン繊維を製造することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒、吸着などの機能を有する無機粒子を付与したポリテトラフルオロエチレン繊維及びその製造法に関するものである。これらは、触媒や吸着剤として利用できるだけでなくこれらの機能を付与したフィルターなどとして利用できる。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFE)繊維は、耐熱性、耐酸化性、耐蒸熱性が高い材料として知られている。従って、触媒機能を持つ粒子などを担持する基材として有用であることは既に知られており、開示されている。
【0003】
例えば、光触媒を付与したPTFE樹脂の繊維は、特許文献1、2等に開示されている。しかしこれらの公知技術に開示されている方法は、光触媒、フッ素樹脂の粉末を混合、圧延、裁断する方法であり、いったんフィルムにしてから細片状にするという非常に煩雑な方法である。得られる繊維状物質の繊維横断面は、均一ではなく、また繊度も太いモノから細いモノまでさまざまである。従って編み物、織物など高次加工する場合に好ましくない。
【0004】
また、特許文献3には湿式紡糸法によるフッ素繊維の光触媒担持体が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献3には繊維断面に複数の凸部、または扁平の繊維断面を含むなど異形断面の記載はなく、更にPTFE糸状体も1000デニール以下との極太繊度以下との記載のみで本願で言う1.5dtex以下18.0dtex以下、繊度ばらつきが均一なPTFE繊維を安定して得ることは困難という問題があった。
【特許文献1】特開平9−256217号公報
【特許文献2】特開平10−286437号公報
【特許文献3】特開平10−57816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものであり、触媒、吸着などの機能を有する無機粒子を担持したPTFE繊維、及びそれを安定して生産するための製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は課題を解決するために以下の構成を有する。
【0009】
ポリテトラフルオロエチレン繊維の表面に無機粒子の一部が露出しており、かつ前記繊維が複数の凸部を含む繊維断面または扁平の繊維断面を有することを特徴とする無機粒子担持ポリテトラフルオロエチレン繊維である。
【0010】
本発明の好ましい態様としては、繊度が1.5dtex以上18.0dtex以下であって、その繊度バラツキが該繊度の10%以下であることを特徴とすることが好ましい。さらに、無機粒子が光触媒能を有する酸化チタンであることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、マトリックスとしてのビスコースとポリテトラフルオロエチレンの水分散液との混合液を、硫酸濃度7〜13%、硫酸ソーダ濃度7〜15%を含有する凝固浴中に複数の口金孔から吐出し、紡糸、精練した後、1〜5%のリラックスを与えながら80以上320℃未満の温度で半焼成した後、320〜380℃の温度で焼成を行ない、繊度が1.5dtex以上18.0dtex以下であって、且つ繊度ばらつきが10%以下である請求項1〜3いずれか記載のポリテトラフルオロエチレン繊維を製造することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法である。
【0012】
本発明の好ましい態様としては、半焼成および焼成の前にアルカリ濃度0.08〜0.16wt%のアルカリ水溶液による洗浄を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、触媒、吸着などの機能を有する無機粒子を担持したPTFE繊維、及びそれを安定して生産するための製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともにを詳細に記述する。
【0015】
本発明は、前述の課題、つまりPTFEの特性を損なうことなく機能性のある無機粒子を担持させたPTFE繊維について、鋭意検討し、PTFE樹脂の表面に無機粒子が露出しており、且つ複数の凸部を含む繊維断面、または扁平の繊維断面を有するPTFE繊維としたところ、かかる課題を一挙に解決できることを究明したものである。
【0016】
フッ素系ポリマーには、PTFEの他にPTFEに共重合した4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、4フッ化エチレン−パーフロロアルコキシ基共重合体(PFA)、または4フッ化エチレン−オレフィン共重合体(ETFE)などがあり、これらは溶融紡糸法により生産されている。しかしながら、耐熱性あるいは耐薬品性の点からPTFEが最も優れており、本発明はこれまで開示されていなかった無機粒子を担持させたPTFE繊維であって複数の凸部を含む繊維断面、または扁平の繊維断面を有する形状・繊度が均一な繊維に関するものである。
【0017】
本発明でいう無機粒子とは、特に限定されないが、光触媒機能を有していれば、光を当てることで有機物を分解する繊維とすることができ好適に用いることが出来る。光触媒機能を有する無機粒子としては、TiO2、WO3、LaRhP3、FeTiO3、Fe2O3、CdFe2O4、SrTiO3、CdSe、GaAs、GaP、RuO2、ZnO、CdS、MoS3、LaRhO3、CdFeO3、Bi2O3、MoS2、In2O3、CdO、SnO2など構成された粒子が挙げられる。光触媒を得るには、これらの半導体物質の一種または複数種を混合した粒子でも良い。なお、TiO2、WO3、SrTiO2、Fe2O3、CdS、MoS3、Bi2O3、MoS2、In2O3、CdOなどは等価電子帯のレドックス・ポテンシャルの絶対値が伝導帯のレドックス・ポテンシャルよりも大きいため、酸化力の方が還元力よりも大きく、有機化合物の分解による消臭作用、防汚作用または抗菌作用に優れており好ましい。また、上記各物質の中で原料コスト面においては、TiO2、Fe2O3およびZnOが優れている。
【0018】
また、200℃前後以下の温度で触媒機能を有する無機粒子も好ましく使用できる。PTFE樹脂は200℃以上の耐熱性があり、200℃程度で使用されることが多い。例えば、V2O5−TiO2−WO3はダイオキシン分解触媒として知られているが(ファインケミカルVol.31,No.13,p13)好ましく使用される。これらの触媒は、アンモニアを共存させるとNOX分解触媒としても利用できる。
【0019】
また、無機多孔性粒子も吸着能力があり好ましく使用できる。シリカゲルやメソポーラスシリカが例としてあげられる。
【0020】
また、ゼオライト、ゼオライト類似物質も使用可能である。ゼオライトとは、
結晶性マイクロポーラス物質のことで、分子サイズの均一な細孔径を有する結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性メタロアルミノシリケート、結晶性アルミノフォスフェート、結晶性メタロアルミノフォスフェート、結晶性シリコアルミノフォスフェートのことである。これらは、吸着能、イオン交換能、酸触媒としての機能があり好ましい。
【0021】
無機粒子の添加量は、多ければ多いほどその効果が発現できるが、逆に生産時の
工程通過性悪化に繋がるため、1〜50%、より好ましくは5〜30%である。
【0022】
また、PTFEなどのフッ素繊維は、静電気がたまりやすいが、炭素物質を入れることによって静電気を防止することができ、単独もしくは機能性のある無機粒子と併用して用いることが出来る。本発明で言う炭素物質とは、活性炭、アモルファスカーボン、グラファイト、カーボンナノファイバー、アセチレンブラック、カーボンナノチューブなど炭素を主成分とした粒子状物質のことである。
【0023】
上記のような無機粒子、炭素物質は水に分散しやすいことが好ましい。即ち粒子表面にOH基を有していることが好ましい。これは、FT−IR等の機器分析で同定することができる。
【0024】
更に本発明のPTFE繊維の表面には無機粒子の一部が表面に露出していることが必要である。無機粒子、炭素物質の触媒、吸着等の機能を利用する場合、これらの少なくとも一部が表面に露出していることが好ましい。繊維を構成する成分は単成分で
も良いが、芯鞘構造を有し芯部よりも鞘部の無機粒子及び/又は炭素物質の含有率が大きいことがより好ましい。その場合でも、無機粒子の少なくとも一部が表面に露出していることが必要である。その理由は、触媒、吸着剤として作用する無機粒子、炭素物質が外表面に露出する確率が高いからである。また、炭素材料の導電性、熱導電性を利用する場合も、繊維表面の制電性を高める意味でこのような構成の繊維は好ましい。
【0025】
また、本発明に係る繊維は、複数の凸部を含む繊維断面、または扁平の繊維断面を有するPTFE繊維であることが必要である。丸断面形状の繊維に比べ、繊維断面形状に複数の凸部を含む繊維は。その表面積が格段に大きいことから機能性を有する無機粒子の高い効果を発現できる。
【0026】
本発明における複数の凸部を含む繊維断面の断面形状は特に限定されず、三角や四角や3葉〜8葉などの多葉断面、Y、H形などの異形断面およびその他の異形断面などいずれの断面形状も用いることが出来、特に限定されない。また、凸部が扁平断面形状であっても良い。紡糸時の糸切れの面からの生産安定性、繊維の表面積を増大させる観点などから、該繊維の凸部の数は3〜8葉であることが好ましく、更に好ましくは3〜5葉であることが好ましい。
【0027】
また、本発明の異形断面PTFE繊維は1.5dtex以上18.0dtex以下であることが好ましい。一般に、フィルター用途等に用いる場合、ダスト捕集効率などを向上させる目的では表面積を上げるため細繊度化が求められるが、一方で通気性を確保する目的で太繊度化も要望される。本発明の異形断面繊維を用いれば18.0dtex
程度まで太繊度化しても、その表面積の増大さゆえ、通気性を高いレベルに保ったまま、ダスト捕集性能も高いフェルトが得られる。フェルト加工性の観点から、更に好ましくは、2.0dtex以上15.0dtex以下であり、この範囲内においては、これまでのダスト捕集性能を遙かに凌ぐフェルトが得られる。
次に、本発明の異形断面PTFE繊維の繊度ばらつきは、該繊維の繊度の10%以下であることが好ましい。前述した通り、スプリット剥離法やペースト押出法で得られる繊維の断面はランダムでその繊度も不均一である。従って、その繊度ばらつきも非常に大きい。そのため、フィルターとした場合の捕集効率は良好であるが、その一方でフェルト加工時にネップなどが生成されやすく加工が困難という欠点があった。本発明で異形化とともに
繊度ばらつきを抑えた異形断面PTFE繊維を発明したことでこれらの両立ができるようになったのである。繊度ばらつきが該繊維の繊度の10%を超えることは、断面形状および繊度が不均一であることを意味しており、安定した加工を行うことが困難となり好ましくない。
【0028】
一方、フェルト加工時に本発明で得られる繊度の異なる繊度ばらつき10%以下に抑えた異形断面繊維同士、もしくは繊度の異なる繊度ばらつきを10%以下に抑えた異形断面繊維と丸断面繊維やスプリット剥離法やペースト押出法で得られる繊維を適正な混合割合で用いても工程通過性に問題なく実施できる。
更に、本発明のPTFE繊維をカットして短繊維として使用する際には、繊維長は30〜100mm程度であればよいが、特に限定されない。
本発明のPTFE繊維の単糸強度は0.7cN/dtex以上、単糸伸度は50%以下であることが好ましい。単糸強度が0.7cN/dtex未満、単糸強度が50%を超えると、その繊維を加工する場合、単繊維が延伸され、工程通過性不良となるので好ましくない。
【0029】
また、本発明の繊維の300℃×30分における乾熱収縮率は30%以下であることが好ましい。実際フェルトなどを作製して使用する場合、その素材のもつ耐熱性ゆえ、高温度下で使用される用途が多く、乾熱収縮率が高すぎるとフェルトが収縮し、目詰まりも起こしやすくなり、好ましくない。乾熱収縮率は、より好ましくは20%以下である。
【0030】
これまでPTFE繊維の製造方法にはマトリックス紡糸法(エマルジョン法ともいう)、スプリット剥離法、ペースト押出法などが知られている。スプリット剥離法とはPTFEの粉末をシリンダ圧縮せしめた後、焼結、スプリット剥離させた後、延伸する製法である。ペースト押出法とはマトリックスポリマーを用いずに、PTFEの粉末をワックス状潤滑剤と混連し、棒状もしくはフィルム状の成形した後、該潤滑剤を除去し、延伸、焼成(焼成しない場合もある)する製法である。しかしながら、これら2つの方法では、どうしてもその製法上細く切り裂いて得られる最終繊維状物の断面は扁平形状であり、しかもランダムで均一性に劣り、特に短繊維としてフェルト加工する際にはネップなどが生成されやすいという欠点があった。
【0031】
本発明に係る異形断面PTFE繊維を得るにはマトリックス紡糸法の実施が必要である。マトリックス紡糸法とはビスコースなどをマトリックスとしてPTFEの水分散液との混合液を凝固浴中に吐出して繊維化し、次いで精練した後、焼成を行う、ポリマーの融点以上とすることで、マトリックスポリマーの大部分を焼成飛散させながら、PTFEを溶融し、粒子間を融着させることで、初めて
その後の延伸性が付与される。焼成後、未延伸糸は延伸されて、強度が発現する。
【0032】
本発明でいう複数の凸部を含む繊維断面、または扁平の繊維断面を有するPTFE繊維は該マトリックス紡糸法を用い、しかも特定の条件下で製糸を行うことで初めて得られるものであり、スプリット剥離法やペースト押出法で得ることはできない。
【0033】
本発明のPTFE繊維は、マトリックスとしてのビスコースとポリテトラフルオロエチレンの水分散液との混合液を、硫酸濃度7〜13%、硫酸ソーダ濃度7〜15%を含有する凝固浴中に複数の口金孔から吐出し、紡糸、精練した後、1〜5%のリラックスを与えながら80以上320℃未満の温度で半焼成した後、320〜380℃の温度で焼成を行ない、一旦巻き取るか、もしくはそのまま延伸することが必要である。
【0034】
本発明で用いるビスコースは通常レーヨン製造に用いられるもの、すなわちセルロース濃度5〜10重量%、アルカリ濃度4〜10%重量%、二硫化炭素27〜32重量%(セルロースに対し)が好ましい。
【0035】
本発明で用いるPTFEの水分散液は濃度は50〜70重量%、安定剤として非イオン活性剤またはアニオン活性剤をPTFEポリマに対して3〜10重量%含有するものが好ましく用いられる。またPTFE水分散液の分散粒子の大きさは0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下である。
【0036】
これらビスコースとPTFEの水分散液と無機粒子を含む分散液を混合させて混合液を作製する。 この際、混合液中のセルロース濃度は2〜6%、好ましくは3〜5%となるように調整し、PTFE粒子に対する無機粒子の割合を1〜50%、より好ましくは5〜30%になるように調整する。
この時、分散液中のPTFE濃度が40%を超えて高すぎると凝固浴中で糸条が凝固し にくくなる。また精練浴・アルカリ浴中で糸条からPTFE粒子が脱落して安定した紡糸が行えなくなってしまう。また、焼成時にPTFE粒子同士の融着が強固となり単糸間融着が激しくなるので好ましくない。PTFE濃度が20%未満となると、凝固浴中で凝固はしやすくなるが焼成時に均一な断面形状を保つことが困難になる他、焼成後の繊維中に炭化成分が多く残存するようになるため繊維強度が著しく低下し好ましくない。
【0037】
この混合された混合液は脱泡されるが、この時の温度が高いとビスコースが凝固してしまう懸念、また水分が蒸発しPTFEが凝集する懸念がある。そのため、脱泡時は15℃以下の低温に制御することが好ましい。真空度は約10Torr程度が好ましい。ビスコースとPTFEの水分散液と無機粒子を含む分散液の混合のタイミングについては脱泡前にこれらの水分散液を混合するか、それぞれ脱泡した後スタティックミキサーなどを用い口金に導く直前で混合する方法が採用できる。
【0038】
次に、この紡糸混合液は凝固浴中に浸漬された多数の吐出孔からなる成型用口金より吐出し、凝固される。
【0039】
凝固浴としては無機鉱酸および/または無機塩の水溶液が用いられるが、本発明では硫酸−硫酸ソーダの混合水溶液を用いる。
【0040】
このとき硫酸濃度は7〜13%が好ましい。硫酸濃度が7%未満であると凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に遅くなるため所望の凸部を有する異形断面もしくは扁平断面を得ることが困難となるので好ましくない。一方、硫酸濃度が13%を超えると繊維表面に付着した硫酸が脱酸されにくく焼成工程で糸切れが多発する他、凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に速くなり、この場合も断面形状のコントロールが困難となるので好ましくない。
【0041】
硫酸ソーダ濃度は7〜15%に調整することが好ましい。硫酸ソーダはセルロースの急激な凝固を抑制する。硫酸ソーダ濃度が7%未満の場合、凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に速くなり、断面形状のコントロールが困難となるので好ましくない。一方、硫酸ソーダ濃度が15%を超える場合、凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に遅くなるため所望の断面形状を得ることが困難となり好ましくない。すなわち、本発明ではマトリックス法を用いて上記した硫酸濃度及び硫酸ソーダ濃度の両方を特定の範囲内に調整することで均一なPTFE繊維を製造することができたのである。
【0042】
半焼成には接触タイプの焼成ローラまたは非接触タイプの焼成ヒーターを用いることができるが、好ましくは、接触タイプの焼成ローラを用いる。精練浴もしくはアルカリ浴から導かれた未焼成糸をそのままもしくはニップローラなどで絞った後、焼成ローラ間で1〜5%のリラックスを与えながら80以上320℃未満の温度の半焼成工程を行うことが必要である。80以上320℃未満の温度に保った接触タイプの半焼成工程のローラに導かれた未焼成糸はローラ上で急速に収縮し張力を増す。リラックス率が1%未満であれば張力が高くなりすぎて丸形もしくは扁平の断面形状を均一に保つことが困難となり、また、特に3.3dtex以下の細繊度糸を製造する場合には収縮による糸切れが多発してしまう。5%を超えるとリラックス率が高すぎて糸が弛み工程通過性に問題が生じてしまう。但し、1〜5%のリラックスは、半焼成に入った直後の焼成ローラ間に1回だけではなく半焼成工程のローラ間や焼成工程のローラ間においても行うことができる。半焼成工程は次いで行う焼成工程に入る前になくてはならない工程である。半焼成工程のローラ温度が80℃より低い場合は、次いで行う焼成工程で一気に繊維に熱がかかるため繊維断面が変形もしくは単糸間での融着が発生する。一方、320℃より高い場合は半焼成段階で一気に繊維に熱がかかるため繊維断面が変形もしくは単糸間での融着が発生しやすい。従って、半焼成工程のローラは80以上320℃未満の温度の範囲に保つことが必要である。
この時、各ローラ温度は単独で変更出来、上記範囲内で有れば特に限定無く設定できる。
焼成ローラ数により半焼成工程のローラ温度は異なる。半焼成工程のローラ温度は、好ましくは150以上320℃未満、より好ましくは250以上320℃未満である。
【0043】
次いで、半焼成された糸は320〜380℃の温度で焼成される。この段階でセルロースの大部分は燃焼飛散し、セルロース中のPTFE粒子は繊維状に熱融着してPTFE未延伸糸が得られる。焼成温度が320℃より低いと繊維内のPTFE粒子同士の融着が不十分で、焼成後の延伸時に糸切れが頻発する他、繊維強度も低くなり好ましくない。一方、焼成温度が380℃より高いと熱により繊維断面形状が変形し所望の均一な断面形状を得ることが困難となってしまう。また、単糸間の融着も生じ製品の開繊性に悪影響を与える結果となるので好ましくない。また、焼成時、各ローラ温度は単独で変更出来、上記範囲内で有れば特に限定無く設定できる。
【0044】
次いでPTFE未延伸糸は、通常用いられる公知の延伸方法で一旦巻き取るか、もしくはそのまま300〜400℃の温度で熱延伸されてPTFE延伸糸が得られる。
【0045】
また、焼成の際に非接触タイプの焼成ヒーターを用い上記と同様にし製造することもできる。
【0046】
精錬された後、半焼成、焼成工程を行う前に0.08〜0.16%のアルカリ濃度でアルカリによる洗浄工程を行うことが好ましい。かかるアルカリ洗浄浴には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩から選ばれた化合物の水溶液を用いるが、一般にはアルカリ金属の水溶液、中でも苛性ソーダ水溶液が好適に用いられる。該化合物の濃度は0.08〜0.16wt%が好ましい。一般に、次工程の焼成温度範囲にもよるが、PTFE繊維は焼成工程に入る際、繊維表面に酸成分が残存していると焼成工程での糸切れが頻発する。従来の丸断面PTFE繊維であれば、精錬工程のみでもその精錬時間を長く考慮すれば洗浄は十分である。しかしながら、本発明でいう複数の凸部を有する、または扁平形状を有するPTFE繊維を製造する場合には、その表面の広い表面積ゆえ、表面の酸成分をアルカリで中和および洗浄することが好ましい。アルカリによる洗浄は脱酸による糸切れ抑制の他に焼成具合つまり色目やフィブリル化しやすさにも影響を与える。本発明の半焼成及び焼成温度の範囲内であれば、アルカリ浴の濃度が0.08〜0.16%が好ましい。アルカリ浴の濃度が0.08wt%未満であると焼成時にセルロース分が分解しにくく、その結果、焼成後の繊維に分解しきれないセルロース分が多く残存し、その後の延伸がしにくくなり、延伸工程で糸切れが頻発する傾向となる。一方、アルカリ浴の濃度が0.16wt%を超えるとアルカリ洗浄時にセルロースが溶けだし、アルカリ浴中やガイドにカスが溜まりやすくなる。また半焼成・焼成工程に入る際の未焼成糸強度が弱くなり、工程通過性トラブルを発生しやすくなるので好ましくない。より好ましいアルカリ濃度は、0.10〜0.14wt%である。
【0047】
更にアルカリ浴の温度は、20℃以下が好ましい。アルカリ浴の温度が20℃を超えた場合もアルカリ濃度が高すぎる場合と同様にアルカリ洗浄時にセルロースが溶けだし、アルカリ浴中やガイドにカスが溜まりやすくなる他、半焼成・焼成工程に入る際の未焼成糸強度が弱くなり、工程通過性トラブルを発生しやすくなるので好ましくない。アルカリ浴の温度は、好ましくは15℃以下である。
【0048】
本発明のPTFE繊維は布帛に加工され使用されるが、その形態は織編物、不織布、フェルトなど特に限定されない。また、該布帛は本発明のPTFE繊維とともにガラス繊維やアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリパラフェニレンベンゾオキサゾールなどと混合して作製することができる。しかし、アラミドは分解温度が500℃以上と優れているが、耐酸性が低い弱点があり、ポリフェニレンサルファイドは耐薬品性に優れるものの、融点が285℃と耐熱性がやや低い。ポリイミドの場合耐アルカリ性にやや問題があり、ポリフェニレンベンゾオキサゾールは、高強度ではあるが、市場価格が非常に高価である。ガラス繊維は分解点が700℃以上と耐熱性は問題ないが、耐アルカリ性にやや問題がある。これに対してフッ素樹脂系繊維、中でもPTFEは特定の過フッ化有機液体に299℃以上で溶けることと、溶融アルカリ金属にわずかに侵される以外は、非常に優れた耐薬品性を示し、また耐熱性も融点が327℃と高温であることから総合的に見てフッ素樹脂系繊維が最もバランスよく優れた性能を発揮する。そのため、最もフィルター用途に好適である。その混合比率としては本発明のPTFE繊維を20〜100%、好ましくは40〜100%の割合で混繊することが好ましい。
【0049】
本発明で得られるPTFE繊維は、本発明によれば、光触媒性能、NOX分解性能、吸着性能、制電性能、導電性能等を有した耐熱性、耐薬品性繊維を提供することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、布帛の各物性の測定方法は以下の通りである。
【0051】
[繊度ばらつき]
フィブリル化させる前のPTFE延伸糸からサンプルをランダムに抜き取り下記の通り包埋法により断面写真を撮影する。その上でそれぞれの断面写真を切り取り重量を測定することで断面積を求め、本発明のPTFE繊維は比重2.30g/cmを用いて繊度を計算した。ランダムに30本測定し、平均値を算出する。その平均値と最小繊度、最大繊度の大きい方のばらつきの程度を測定した。
【0052】
<包埋法>
サンプル糸を成形枠にやや張力を加えセロハンテープで固定する。200℃で加熱してパラフィンとステアリン酸の混合物を溶融させる。130℃になったらエチルセルロースを少量ずつ加え、攪拌しながら1時間保温して泡を抜く。100℃まで落とした後、成形枠に流し込む。冷却・固化させた後、適当な大きさのブロックに切り分ける。ミクロトームを用いて、ブロックから切片(厚さ7μm程度)を切り出し、スライドグラスの上に載せる。このとき、スライドグラス上にアルブメンを薄く塗り延ばしておく(アルブメンは卵の白身とグリセリン等量、防腐剤としてサリチル酸ソーダ1wt%添加したもの)。70℃に保った乾燥機に20分放置して熱処理を行い乾燥させた後、酢酸イソアミル浴に約1時間浸し、脱包埋を行ない、その後風乾する。スライドグラスの上に流動パラフィンを一滴つけ、空気が入らないようにカバーグラスを静かに載せ、顕微鏡を用いて写真を撮影する。
【0053】
[カード通過性]
室内温度30℃、相対湿度60%とし、カード機に2g/m〜10g/mの原綿を投入しつつ、ローラー通過時のシリンダーローラーの巻き付き、ネップの発生を観察し、以下のように評価した。
○ 良好 △ やや悪い × 非常に悪い。
【0054】
[目付]
布帛を400mm角にカットして、布帛重量から算出した。
【0055】
[光触媒性能評価]
光触媒製品協議会の光触媒性能評価試験法の、ガスバッグA法に準拠して、アセトアルデヒドの分解実験を評価した。評価として、紫外線照射開始後2時間でのアセトアルデヒド除去率が80%以上であれば○、70以上80%未満であれば△、70%未満であれば×とした。
【0056】
(実施例1〜3)
ビスコース熟成度(塩点)8.0、セルロース濃度9.0%、アルカリ濃度6.2%のビスコース(A)と濃度60%のPTFE水分散液(B)と酸化チタンエマルジョン(C)(酸化チタン40%と純水60%とを撹拌しながら水酸化カリウムを添加しpH12に調整したもの)をA:B:C=55:5:40の割合で混合した後、10Torrの減圧下で脱泡して成形用原液を得た。この原液を複数凸部を有する成型用口金に導き、表1に示した断面形状、繊度になるように紡糸口金を変更して凝固浴中に吐出した。
凝固浴は硫酸濃度10.0%、硫酸ソーダ濃度11.0%の混合水溶液であり、温度は10℃であった。次いで凝固した未焼成糸を温度80℃の温水で洗浄した後、濃度0.12%の苛性ソーダ水溶液を入れたアルカリ浴中に導いて精練し、酸成分を完全に除去した。その後、アルカリ浴から導かれた未焼成糸をニップローラで絞った後、4%のリラックスを与えながら280℃の温度で半焼成を行ない、次いで350℃に保った焼成ローラを用いて焼成を行い30m/分の速度で引き取り、未延伸糸を得た。次いで未延伸糸を350℃の温度で熱延伸し、表1に示す断面形状のPTFE延伸糸を得た。この紡糸、延伸工程において工程通過性は良好で1錘当たりの糸切れ回数は約12時間当たり1回の割合であった。
【0057】
得られたPTFE延伸糸を合糸し、捲縮を掛けカットしてPTFEステープルを得た。該ステープルをカーディング処理してウェッブを得た。しかる後にPTFEマルチフィラメントよりなる織物(東レ・ファインケミカル製TOYOFLON#4300)の表裏両側に上記のウェッブを積層して、350本/cmでニードルパンチ処理して一体化し、フェルトを得た。該繊維の繊度、繊度ばらつき、目付、カード通過性、光触媒特性を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
繊維断面形状を丸断面とした以外は実施例1と同様に光触媒能を有する酸化チタンを添加してしてPTFE繊維を得た。実施例1〜3と比較して表1に示す。実施例1〜3と比較すると光触媒性能が劣っていることが分かる。
【0059】
(比較例2)
PTFEステープルファイバー(東レ・ファインケミカル社製“TOYOFLON“7.4dtex×70mm;丸断面)を用い、実施例1と同様にして布帛を得た。この布帛を用いた光触媒性能評価において、光触媒性能は全く見られなかった。
【0060】
【表1】

【0061】
これらの結果から明らかなように、本発明で得られる無機粒子を担持させたPTFE糸を用いると、より効果的にその性能を発揮することができる。またこれらの複数の凸部もしくは扁平の繊維断面を有する繊度が均一なPTFE繊維は本発明で言うマトリックス紡糸法によってのみ製造され、更に詳しくはPTFEの水分散液との混合液を特定の成分、濃度に調整された凝固浴に複数の口金孔から吐出し、紡糸を行う製造方法で、特に焼成を行う際、特定の弛緩率でリラックスを与えながら、特定温度で半焼成工程を経た後に明特定温度で焼成を行うことが必要である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、、触媒や吸着剤として利用できるだけでなくこれらの機能を付与したフィルターなどとして利用できる。特に、本発明で得られる無機粒子担持PTFE繊維は高温雰囲気下でも実用に耐えるという効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン繊維の表面に無機粒子の一部が露出しており、かつ前記繊維が複数の凸部を含む繊維断面または扁平の繊維断面を有することを特徴とする無機粒子担持ポリテトラフルオロエチレン繊維。
【請求項2】
繊度が1.5dtex以上18.0dtex以下であって、その繊度バラツキが該繊度の10%以下であることを特徴とする請求項1記載の無機粒子担持ポリテトラフルオロエチレン繊維。
【請求項3】
無機粒子が光触媒能を有する酸化チタンであることを特徴とする請求項1または2記載の無機粒子担持ポリテトラフルオロエチレン繊維。
【請求項4】
マトリックスとしてのビスコースとポリテトラフルオロエチレンの水分散液との混合液を、硫酸濃度7〜13%、硫酸ソーダ濃度7〜15%を含有する凝固浴中に複数の口金孔から吐出し、紡糸、精練した後、1〜5%のリラックスを与えながら80以上320℃未満の温度で半焼成した後、320〜380℃の温度で焼成を行ない、繊度が1.5dtex以上18.0dtex以下であって、且つ繊度ばらつきが10%以下である請求項1〜3いずれか記載のポリテトラフルオロエチレン繊維を製造することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。
【請求項5】
半焼成および焼成の前にアルカリ濃度0.08〜0.16wt%のアルカリ水溶液による洗浄を行うことを特徴とする請求項4記載のポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。

【公開番号】特開2007−100230(P2007−100230A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288598(P2005−288598)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】