説明

無機系スラッジの処理方法

【課題】 従来よりも低コストで無機系スラッジから再資源化が可能な成形体を得ることができる無機系スラッジの処理方法を提供する。
【解決手段】 ステンレス鋼粉末又はアルミニウム合金粉末などの金属粉末及び研削液を含有する研磨スラッジと無機系硬化剤とを混練し、得られた混練物を圧縮成形することによりブロック体を作製する。例えば、研磨スラッジ95質量%と、セメント系硬化剤5質量%からなる混練物に、14.7〜19.6MPaの圧力を印加して圧縮成形した後、7日間養生することにより、700〜1200kN/mの範囲にある一軸圧縮強さを有する円柱体を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末を含む無機系スラッジに、主要成分として例えばポルトランドセメントを含む無機系硬化剤を配合してブロック体を成形する工程を含む無機系スラッジの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製部材の機械加工(例えば研削加工)で発生した切削屑(研磨スラッジ)は、再資源化を図るために、運搬可能な形状(ブロック形状)に成形することが検討されている。研削加工では、加工性を向上するために例えばクーラント(油溶性または水溶性研削油剤を10〜100倍に希釈した溶液)を使用するので、研磨スラッジは、金属粉とともに、研削油を含有している。この研削油を含有しかつ含水率の高い研磨スラッジを容易に成形できるようにするために、研磨スラッジに、その研磨機で研磨された金属材料と同一の材料からなる切削屑を混入し、このスラッジを脱水しながら圧縮成形してブリケットを製造することが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、研削粉や切削粉等の産業廃棄物を有効利用するために、高炉水砕スラグ、水溶性高分子、硬化刺激剤及び水を含有する水硬性組成物を混合、混練した後養生硬化させた硬化体の研削物(切削物)を0.3mm〜20mmに造粒することが提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−277842号公報(第3〜4頁、図1)
【特許文献2】特開2000−344565号公報(第3〜4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された研磨スラッジのリサイクル方法によれば、バインダーを使用する必要はないが、あらたに研磨スラッジに含まれる金属粉と同じ材料の切削屑を準備することが必要となる。また得られたブリケットを溶鉱炉で溶解して、再利用可能な材料を抽出するので、大掛かりな処理設備を必要とするという問題がある。
【0006】
特許文献2に記載された水硬性組成物を再利用するために、硬化体の研削物を造粒する工程が必要となり、処理コストが増大するといった問題がある。
【0007】
従って本発明の目的は、従来よりも簡素化された工程で再資源化が可能な成形体が得られる研磨スラッジの処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の無機系スラッジの処理方法は、金属粉末を含有する無機系スラッジと無機系硬化剤とを混練し、この混練物を成形してブロック体を作製することを特徴とするものである。
【0009】
本発明において、前記混練物は、無機系スラッジ70〜95質量%と、無機系硬化剤30〜5質量%からなることが好ましい。
【0010】
本発明において、前記無機系スラッジは、金属粉末としてステンレス鋼粉末又はアルミニウム合金粉末を含むことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、無機系スラッジに無機系硬化剤を添加してから混練し、ついで圧縮荷重を加えて所定の形状に成形すればよいので、無機系スラッジを従来よりも低いコストで再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の詳細を処理工程順に説明する。
【0013】
本発明の処理方法は、無機系スラッジの含水率を調整する脱水工程と、脱水された無機系スラッジに無機系固化剤を加えて、混練する混練工程と、得られた混練物を所定形状に成形する成形工程と、必要に応じて成形体を養生する養生工程を含む。これらの工程及びそこで使用する無機系硬化剤ならびに固化反応の詳細は次の通りである。
【0014】
[無機系スラッジ]
本発明の処理対象物である無機系スラッジは、無機系微粉末(例えば金属粉末)と水分とを含む泥状物質であり、再利用(資源化)を可能とするために、実質的に有機物(例えば高分子重合体)を含まない(有機物の含有量は約1質量%以下)材料である。以下の説明では、無機系スラッジとして、例えば次のような研磨スラッジを使用した例について記載する。
【0015】
金属製部材(ワーク)、例えばステンレス鋼やアルミニウム合金からなるパイプの表面を所定寸法に仕上げる場合、ワークをセンタレス式円筒研削装置にセットし、研削油を水で希釈したクーラントを使用しながら研削加工が行われるので、研磨スラッジは、金属粉末(平均粒径は、例えば10〜50μm)の他に、水と、例えば鉱油、油脂、極圧添加剤、界面活性剤、防錆剤、抗菌剤などからなる研削油を含んでいる。クーラントから金属粉末を掬いとることにより、例えば30〜40%の含水比を有する研磨スラッジ(泥状物質)が準備される。この含水比は、水(g)/固形分(g)×100(%)で算出された値である(JIS A 1202参照)。
【0016】
[脱水工程]
研削装置から回収された研磨スラッジは、所定容器に収容されて、そこで例えば真空吸引により、所定の含水率になるように調整される。この含水比は、金属粉末がステンレス鋼粉末やアルミニウム合金粉末の場合で、20〜60%の範囲とされる。含水比を調整するために、真空吸引装置に限らず、フィルタープレスやスクリュープレスなどの公知の脱水手段を使用することができる。
【0017】
[混練工程]
含水率の調整された研磨スラッジは、混練機に投入され、次いで後述する無機系硬化剤(例えばセメント系硬化剤)が加えられて混練処理が行われる。研磨スラッジとセメント系硬化剤とは、研磨スラッジの含有量が70〜95質量%、セメント系硬化剤の含有量が30〜5質量%となるように混合することが好ましい。混練物中のセメント系硬化剤の含有量が、5質量%未満であると、硬化時間が長くなるので、処理工数が増大し、これに対して、セメント系硬化剤の含有量が、30質量%を超えると、水和反応が阻害されて成形体の強度が低下するので、上記の比率で混合することが好ましい。
【0018】
[無機系硬化剤]
本発明では、成形体を再利用(資源化)できるようにするために、実質的に有機物を含まない無機系硬化剤を使用する。この無機系系硬化剤としては、ポルトランドセメントを母材とし、これに特定の硬化剤、例えば土壌硬化剤とを混合したセメント系硬化剤を使用することが好ましい。ポルトランドセメントと硬化剤は、ポルトランドセメントの含有量が90〜95質量%、無機系硬化剤の含有量が10〜5質量%となるように配合することが好ましい。ポルトランドセメントの含有量が、90質量%未満であると、水和反応の進行速度が遅くなるので、処理工数が増大し、ポルトランドセメントの含有量が、95質量%を超えると、養生過程におけるポゾラン反応が阻害されて成形体の強度が低下するので、上記の比率で混合することが好ましい。
【0019】
(a)ポルトランドセメント
本発明で使用されるポルトランドセンメントは、酸化カルシウム、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを主原料とし、3成分の合計が90質量%を超えるセメントであり、JIS R 5210に定められた普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、又は亜硫酸熱ポルトランドセメントのいずれかを選択して使用することができる。これらのうちでは、普通ポルトランドセメントが好適である。
【0020】
ポルトランドセメントは、水が加えられて混練が行われると、CS、CA、せっこう等の加水分解により、CSやCAの表面からCa2+を放出し、液相を急激にアルカリ性に変化させ、アルカリ度が十分高くなると反応が一時休止して、凝結準備期に入る。このような誘導期を経て、加速度期に入り、水和反応が進行する。この水和反応は、CSやCAの表面で生じ、水和物(ケイ酸カルシウム水和物、水酸化カルシウム、エトリンガイト、モノサルフェート水和物、アルミン酸カルシウム水和物等)が生成するとともに、水や間隙部分にも進出するので、見かけ上CSやCAの容積が増大したような様相を呈する。またセメント粒子内部での反応も進行する。水和反応の進行(水和物の生成)により、表面積が増大するので、強度向上に寄与すると推定される。強度が増大し、さらにポゾラン反応が起こり、安定的な強度の改善が図れる。すなわち、スラッジ中の金属粉自身の強度をベースとし、ポルトランドセメントの添加による含水比の低下とイオン交換及び団粒化によって塑性指数が小さくなるので、高い機械的強度が得られると推定される。
【0021】
本発明では、ポルトランドセメントの水和反応の後、イオン交換反応及びポゾラン反応により、研磨スラッジの硬化反応を促進するために、次のような無機系の材料からなる硬化剤を使用することが好ましい。
【0022】
(b)硬化剤
本発明で使用する硬化剤は、次のような5種類の必須成分を含み、さらに必要に応じて一種又は二種以上の任意成分を含むことができる。
【0023】
(b−1)必須成分
(1)固化剤:研磨スラッジの固化促進及び骨材機能を持たせるために、例えばセメント成分(酸化カルシウム、シリカ、アルミナ)、石灰(生石灰、炭酸カルシウム)等の無機粒子の一種又は2種以上を用い得る。無機粒子の含有量は、60〜90%の範囲が好ましい。
【0024】
(2)凝結遅緩剤:混合開始からの水和開始を適度に遅らせて作業時間を確保するために、ケイフッ化ソーダ、ケイフッ化ナトリウムなどのフッ化物、石こう(硫酸カルシウム)などの材料の一種又は二種以上を用い得る。その含有量は、1〜25%の範囲が好ましい。
【0025】
(4)分散剤:センメントの表面を被覆(疎水化)して流動性を向上させるために、リグニンスルホン酸などのリグニン成分を用い得る。その含有量は、1〜10%の範囲が好ましい。
【0026】
(5)硬化促進剤:リグニンスルホン酸でセメントの表面を被覆したときの遅結時間を取り戻すために、水酸化マグネシウム、水酸化銅等の金属水酸化物の一種又は2種以上を用い得る。硬化促進剤の含有量は、1〜10%の範囲が好ましい。
【0027】
(b−2)任意成分
肥料成分(第二リン酸カルシウム等)、中和剤(ステアリン酸カルシウム、水酸化亜鉛、塩化アルミニウム等のCaイオンの溶出を防止するための材料)、ガラス形成物質(ホウ酸、メタケイ酸ソーダ等)、増粘剤(メチルセルロース等)、凝結剤(無機塩:塩化マグネシウム、塩化カルシウム等)、骨材(2回焼成炭酸カルシウム、頁岩等)を含有することができる。
【0028】
(b−3)硬化剤の例示
上記の硬化剤としては、例えば、次のような4種類の成分を、第1成分:第2成分:第3成分:第4成分を3〜10:5〜20:10〜20:60〜80の質量比率で混合して全体が100質量部となるように調整した市販の土壌硬化剤{(株)松村綜合科学研究所製、商品名シュタインR}を使用することができる。
【0029】
「第1成分」
凝結遅延剤(フッカ物(ケイフッカソーダ及びケイフッカマグネシウム)の内の1種又は2種):15〜18質量部、無機粒子(酸化アルミニウム(活性)):14〜22質量部、イオン封鎖剤(ステアリン酸亜鉛、水酸化亜鉛等):14〜17質量部、肥料成分(第二リン酸カルシウム):30〜40質量部、ガラス質形成成分(ホウ酸):7〜9質量部、増粘剤(メチルセルロース):6〜7質量部からなる混合物100質量部を混合後粒径50μm以下に粉砕して調整する。組成中のコロイド粒子を静電付着させる。
【0030】
「第2成分」
石灰(酸化カルシウム又は炭酸カルシウム):30〜35質量部、中和剤(塩化アルミニウム等):10〜15質量部及びメタケイ酸ソーダ:12〜25質量部の六水塩熱反応(300℃以下)による組成物100質量部と石こう(CaSO・2HO):25〜30質量部を混合後、粒径50μm以下に粉砕する。
【0031】
「第3成分」
分散・粘着剤(リグニンスルホン酸塩等):20〜25質量部、塩化物(塩化マグネシウム及び塩化カルシウムの内の1種又は2種):20〜30質量部、2回焼成した炭酸カルシウム及び頁岩の内の1種:40〜60質量部を全体が100質量部になるように混合する。
【0032】
「第4成分」
硬化促進剤として、水酸化マグネシウムおよび/または水酸化銅10〜20重量部を添加する。
【0033】
この硬化剤を使用すると、石こうの効果で多量の水と結合した針状の結晶であるエトリンガイトが生成する。次いでセメントの水和が90%程度まで進行すると、エトリンガイトが結合する水量は32〜40%(理論値)に達し、水が化合して生じた空隙に針状の結晶となって侵入して成長し、この結晶がネット状に絡み合って金属粉の移動を拘束し、含水比の低下も加わって、成形体の強度が向上すると推定される。
【0034】
[成形]
上記の混練物は、ブロック形状(例えば円柱体)などのそのままで取り扱いが容易な形状に成形される。成形は、流し込み成形、圧縮成形、押出成形等の公知の手法で実施することが可能となる。これらのうちでは、適切な機械的強度を有する成形体を得るために、圧縮成形が好適である。本発明において、圧縮強度は、成形体を恒温{常温(20〜25℃)}で養生(材齢7日)したときの値である。
【0035】
[固化反応]
上記の混練及び成形過程では、次のような固化反応が生じて所定の機械的強度を有する成形体が得られると推定される。
(イ)多量のエトリンガイトが生成し、その過程で多量の水が結合水として取り込まれるので、含水率が低下する。また金属粉末の移動が拘束されて、セメンティングが容易な状態が現出する。
(ロ)水酸化カルシウムやケイ酸カルシウムから溶出するCa2+により、金属粉が凝集して団粒化する。
(ハ)ケイ酸カルシウム水和物が生成することにより、機械的強度が向上する。
(ニ)ポゾラン反応により、可溶成分(二酸化ケイ素、アルミナ等)が水酸化カルシウムと不溶性の水和物を生成して硬化する。
【0036】
[養生]
上記の硬化剤を使用して作製した成形体は、水和反応により固化した後に、ポゾラン反応がさらに進行して(硬化が進行する)、安定した強度が得られるので、所定期間(例えば材齢7日)、恒温で養生することが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0038】
[実施例1]
オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)からなる研磨粉(平均粒径20μm)と水溶性研削油を含む研磨スラッジを密閉タンクに回収して、真空吸引を行ってスラッジの含水比を28%に調整した。この原料80質量部とセメント系硬化剤{(株)松村綜合科学研究所製、商品名シュタインR}20質量部を混練した後、圧縮成形装置の成形空間に充填し、2940kgの荷重(14.7MPaの圧力)を印加して圧縮成形を行い、円柱状(直径50mm×高さ6〜7mm)のブロック体(単重:0.300kg)を作製した。成形時の環境温度は18℃であった。この円柱体を恒温養生して(平均気温20℃、材齢7日)、供試体(No.1、単重:0.282kg)を作成した。上記の硬化剤(シュタインR)の物性(カタログ値)は、比重:3.08、比表面積:5.293m/Kg、凝結の始発:0h−16min、凝結の終結:2h−20minである。
【0039】
[実施例2]
3920kgの荷重(19.6MPaの圧力)を印加して圧縮成形を行った以外は、実験例1と同様の条件でブロック体(単重:0.308kg)を作成し、次いで恒温養生して供試体(No.2、単重:0.292kg)を作成した。
【0040】
[実施例3]
原料70質量部と固化剤30質量部を配合した以外は、実験例1と同様の条件でブロック体(単重:0.307kg)を作成し、次いで恒温養生して供試体(No.3、単重:0.290kg)を作成した。
【0041】
[実施例4]
3920kgの荷重を印加して圧縮成形を行った以外は、実験例2と同様の条件でブロック体(単重:0.320kg)を作成し、次いで恒温養生して供試体(No.4、単重:0.319kg)を作成した。
【0042】
上記各成形体の一軸圧縮強さを表1に示す。また各供試体の破壊荷重も同じく表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
一般軟弱土(粘土:含水比110%)に普通ポルトランドセメントを10%添加して固化した場合の改良土の一軸圧縮強さ(材齢7日)は300〜400kN/mであることを考慮すると、表1から、本発明の方法で作製したブロック体はハンドリングや車両による運搬途中での破損が生じないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末を含有する無機系スラッジと無機系硬化剤とを混練し、この混練物を成形して、ブロック体を作製することを特徴とする無機系スラッジの処理方法。
【請求項2】
前記混練物は、無機系スラッジ70〜95質量%と、セメント系硬化剤30〜5質量%からなることを特徴とする請求項1に記載の無機系スラッジの処理方法。
【請求項3】
前記無機系スラッジは、金属粉末としてステンレス鋼粉末又はアルミニウム合金粉末を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の無機系スラッジの処理方法。

【公開番号】特開2009−39597(P2009−39597A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204151(P2007−204151)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(393027383)NEOMAX機工株式会社 (46)
【出願人】(507264479)株式会社SPEC (2)
【Fターム(参考)】