説明

無機繊維層の処理方法

【課題】繊維片の飛散を確実に防止できる無機繊維層の処理方法を提供する。
【解決手段】構造物の表面に形成された無機繊維層を処理する方法であって、前記無機繊維層に、ケイ酸アルカリ金属塩を含有する第一のゲル原料溶液と、アルミニウム化合物を含有する第二のゲル原料溶液と、を含浸させて、ゲルを形成する工程と、前記ゲルが形成された前記無機繊維層を前記構造物の表面から剥離する工程と、を含む無機繊維層の処理方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の表面に形成された無機繊維層の処理方法に関し、特に、当該無機繊維層の剥離に伴う繊維片の飛散を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等の構造物の表面に形成された耐火被覆材及び断熱材等の無機繊維層を剥離する場合には、繊維片の飛散を防止することが好ましい。そこで、従来、例えば、特許文献1においては、吹き付けアスベストにグルコマンナン水和物を噴霧してゲルを形成する方法が記載されている。また、特許文献2においては、アスベスト含有建材にポリビニルアルコール・ビニルエマルジョンの水溶液と、架橋剤としてのホウ砂又はホウ酸と、を噴霧してゲルを形成する方法が記載されている。
【特許文献1】特開平2−229880号公報
【特許文献2】特開2008−6326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、無機繊維層において形成されたゲルが、有機化合物から構成されたゲルであるために、当該無機繊維層を廃棄物として最終的に処理するまでの工程の一部においては繊維片の飛散を十分に防止できない場合があった。
【0004】
すなわち、例えば、石綿を含有する断熱材を剥離し、産業廃棄物として処理する場合には、剥離された当該断熱材を加熱して、当該石綿を溶融する必要がある。しかしながら、断熱材に有機化合物の溶液を噴霧してゲルを形成した場合には、剥離された当該断熱材を加熱することにより当該有機化合物が容易に分解し、当該ゲルが崩壊して、その結果、石綿の繊維片が飛散する可能性があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであって、繊維片の飛散を確実に防止できる無機繊維層の処理方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る無機繊維層の処理方法は、構造物の表面に形成された無機繊維層を処理する方法であって、前記無機繊維層に、ケイ酸アルカリ金属塩を含有する第一の原料溶液と、アルミニウム化合物を含有する第二の原料溶液と、を含浸させてゲルを形成する工程と、前記ゲルが形成された前記無機繊維層を前記構造物の表面から剥離する工程と、を含むことを特徴とする。本発明によれば、繊維片の飛散を確実に防止できる無機繊維層の処理方法を提供することができる。すなわち、無機繊維層において、無機繊維と一体化した、無機化合物のゲルを形成することにより、当該無機繊維層を廃棄物として最終的に処理するまでの全ての工程において、繊維片の飛散を効果的に防止することができる。
【0007】
すなわち、例えば、有機化合物から構成されるゲルに石綿を封じ込めた場合には、当該石綿に対して最終的に溶融処理を施す際に、当該石綿が安全な物質へ変化するか又は溶融する前に、当該有機化合物が燃焼してしまう。このため、有機化合物から構成され石綿を含むゲルを形成した場合には、溶融処理の途中でゲルが崩壊して当該石綿が飛散してしまい、当該石綿を産業廃棄物として安全に処理できない可能性がある。
【0008】
これに対し、本発明によれば、ケイ酸アルカリ金属塩とアルミニウム化合物とを含む無機化合物から構成されるゲルに石綿を封じ込める。この無機化合物から構成されるゲルは、例えば、1300℃程度の温度まで石綿を封じ込めた状態を保つことができる。石綿をゲル中で1300℃まで加熱することができれば、ゲル中のケイ酸アルカリ金属と石綿との反応により、当該石綿はフォレステライトに変化しやすく、また、当該石綿は繊維状から砕けやすい状態へと変化する。したがって、本発明によって、無機化合物から構成され石綿を含むゲルを形成することにより、当該石綿の溶融処理においても当該石綿の飛散を確実に防止することができ、当該石綿を産業廃棄物として安全に処理することができる。
【0009】
また、例えば、無機繊維層にケイ酸リチウムを含有する溶液を単独で含浸させる場合には、当該溶液を含浸させた無機繊維層を乾燥させた後でなければ、繊維片の飛散を十分に防止することができない。このため、ケイ酸リチウム溶液を用い、ゲルを形成しない場合には、無機繊維層の剥離を開始するまでに当該溶液を乾燥させるための長い待ち時間を要し、作業性が低かった。
【0010】
これに対し、本発明によれば、無機繊維層において、ケイ酸リチウム等のケイ酸アルカリ金属塩とアルミニウム化合物とを含むゲルを形成するため、当該ゲルの乾燥を待つことなく、繊維片の飛散を十分に防止しつつ、当該無機繊維層を剥離することができる。したがって、本発明によれば、繊維片の飛散を十分に防止しつつ、短時間で効率よく無機繊維層の処理を進めることができる。
【0011】
また、前記第一の原料溶液は、塩基性溶液であり、前記第二の原料溶液は、酸性溶液であるとすることができる。こうすれば、ゲルを容易且つ確実に形成して、繊維片の飛散を効果的に防止することができる。また、前記アルミニウム化合物は、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つとすることができる。また、前記ケイ酸アルカリ金属塩は、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一つとすることができる。このようなケイ酸アルカリ金属塩及びアルミニウム化合物を用いることにより、ゲルを形成する際においても繊維片の飛散を効果的に防止することができるとともに、当該ゲルを効率よく確実に形成することができる。また、この無機繊維層の処理方法は、剥離された前記無機繊維層を乾燥して硬化する工程をさらに含むこととしてもよい。こうすれば、剥離された無機繊維層の輸送や溶融等のさらなる処理を効率よく行うこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態に係る無機繊維層の処理方法(以下、「本方法」という。)について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0013】
本方法は、構造物の表面に形成された無機繊維層を処理する方法である。処理の対象とする無機繊維層は、断熱、保温、耐火、吸音等の目的で構造物の表面に形成される、無機繊維を含有する層であれば特に限定されない。
【0014】
すなわち、例えば、建築物の壁面や煙突の内面を被覆する、無機繊維から構成された、断熱材、保温材、耐火材又は吸音材を処理の対象とすることができる。無機繊維を構成する材料は無機化合物であれば特に限られず、例えば、石綿及びロックウールの一方又は両方を含有する無機繊維層を処理の対象とすることができる。なお、石綿は、蛇紋石又は角閃石に属する繊維状の無機ケイ酸塩鉱物である。具体的に、蛇紋石系の石綿としてはクリソタイル(白石綿)があり、角閃石の石綿としてはアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)、アクチノライト、トレモライト、アンソフィライトがある。
【0015】
図1は、本方法に含まれる主な工程を示すフロー図である。図1に示すように、本方法は、無機繊維層に、第一の原料溶液(以下、「第一溶液」という。)と、第二の原料溶液(以下、「第二溶液」という。)と、を含浸させてゲルを形成するゲル化工程10と、ゲルが形成された無機繊維層を構造物の表面から剥離する剥離工程20と、剥離された無機繊維層を乾燥して硬化する硬化工程30と、を含む。
【0016】
ゲル化工程10においては、まず、第一溶液と第二溶液とをそれぞれ準備する。第一溶液は、ゲルを形成する原料の一部としてケイ酸アルカリ金属塩を含有し、第二溶液は、当該ゲルを形成する当該原料の他の一部としてアルミニウム化合物を含有している。
【0017】
ケイ酸アルカリ金属塩としては、例えば、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一つを用いることができる。
【0018】
アルミニウム化合物としては、例えば、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つを用いることができる。なお、酸化アルミニウムとしては、例えば、アルミナゾルを好ましく用いることができる。また、リン酸アルミニウムとしては、第一リン酸アルミニウム、第二リン酸アルミニウム及び第三リン酸アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つを用いることができる。
【0019】
第一溶液に含有されるケイ酸アルカリ金属塩と、第二溶液に含有されるアルミニウム化合物と、の組み合わせは、当該第一溶液と第二溶液とを混合することによってゲルを形成できる組み合わせであれば特に限られず、目的に応じて適切に決定される任意の組み合わせとすることができる。
【0020】
すなわち、例えば、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一つと、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つと、の組み合わせを用いることができ、特に、ケイ酸リチウム又はケイ酸ナトリウムの一方又は両方と、酸化アルミニウム又はリン酸アルミニウムの一方又は両方と、の組み合わせを好ましく用いることができる。
【0021】
また、第一溶液に含有されるアルカリ金属塩の濃度、及び第二溶液に含有されるアルミニウム化合物の濃度は、それぞれ目的に応じて適切に決定される任意の濃度とすることができる。
【0022】
すなわち、第一溶液は、例えば、ケイ酸リチウムを3〜25重量%の範囲の濃度で含有することができる。また、第一溶液は、例えば、ケイ酸ナトリウムを10〜40重量%の範囲の濃度で含有することができる。
【0023】
一方、第二溶液は、例えば、酸化アルミニウムを5〜30重量%の範囲の濃度で含有することができ、好ましくは10〜11重量%の範囲の濃度で含有することができる。また、第二溶液は、例えば、リン酸アルミニウムを20〜45重量%の範囲の濃度で含有することができる。
【0024】
また、第一溶液は塩基性溶液であり、第二溶液は酸性溶液であるとすることもできる。すなわち、第一溶液は、例えば、pHが10〜12の範囲であって、ゲルの原料としてケイ酸リチウムを含有する溶液とすることができる。この場合のケイ酸リチウムの濃度は、例えば、3〜25重量%の範囲とすることができる。また、第一溶液は、pHが10〜12の範囲であって、ゲルの原料としてケイ酸ナトリウムを含有する溶液とすることができる。この場合のケイ酸ナトリウムの濃度は、例えば、10〜40重量%の範囲とすることができる。
【0025】
一方、第二溶液は、例えば、pHが4〜6の範囲であって、ゲルの原料として酸化アルミニウムを含有する溶液とすることができる。この場合の酸化アルミニウムの濃度は、例えば、5〜30重量%の範囲とすることができる。また、第二溶液は、例えば、pHが1〜2の範囲であって、ゲルの原料としてリン酸アルミニウムを含有する溶液とすることができる。この場合のリン酸アルミニウムの濃度は、例えば、20〜45重量%の範囲とすることができる。
【0026】
ゲル化工程10においては、これら準備した第一溶液及び第二溶液を無機繊維層に含浸させる。この含浸は、目的に応じて適切に選択された任意の方法で行うことができ、例えば、無機繊維層に対して、第一溶液と第二溶液とをそれぞれ噴霧することにより行うことができる。
【0027】
そして、ゲル化工程10においては、無機繊維層内で、ケイ酸アルカリ金属塩を含有する第一溶液と、アルミニウム化合物を含有する第二溶液と、を接触させてゲルを形成させる。すなわち、無機繊維層内において、第一溶液と第二溶液とが混合されることにより進行する化学反応によって、当該無機繊維層を構成する無機繊維を一体的に保持した、無機化合物から構成されるゲルを形成する。
【0028】
ここで、無機繊維層で形成されるゲルは、第一溶液及び第二溶液に含有される水等の液体成分と、当該無機繊維層に含まれる無機繊維と、を一体的に保持しつつ、一定の形状を維持できるものが好ましい。このゲルの特性は、上述したような第一溶液及び第二溶液の組成やpH等、当該第一溶液及び第二溶液の特性によって調整することができる。
【0029】
また、第一溶液が塩基性溶液であり、第二溶液が酸性溶液である場合には、無機繊維層においてゲルを効率よく形成することができる。すなわち、この場合、例えば、無機繊維層に第一溶液を含浸させ、ついで、当該無機繊維層に第二溶液を含浸させることにより、当該第二溶液の含浸後、当該無機繊維層において速やかにゲルを形成することができる。この効率的なゲルの形成には、第二溶液の追加によって、第一溶液のpHを塩基性側から酸性側にシフトさせることが寄与していると考えられる。
【0030】
また、無機繊維層が石綿を含有する場合には、第一溶液は、ケイ酸リチウムを含有することが特に好ましい。すなわち、ケイ酸リチウムは、ケイ酸アルカリ金属塩の中でも特に石綿との親和性が高い。このため、例えば、ケイ酸リチウムを含有する水溶液を無機繊維層に含浸させることにより、当該無機繊維層に含まれる石綿繊維をケイ酸リチウムにより効果的に被覆することができる。
【0031】
ここで、ケイ酸リチウムの水溶液においては、負の表面電荷を有するコロイド状シリカと、正の電荷を有するリチウムイオンと、が電気的なバランスを維持して共存している。これに対し、無機繊維層に含まれる石綿のうち、クロシドライト、アモサイトの表面電荷は負であり、ケイ酸リチウム水溶液中のコロイド状シリカの表面電荷と同じである。したがって、石綿繊維の集合体にケイ酸リチウム水溶液が浸透すると、当該石綿繊維の表面電荷とコロイド状シリカの表面電荷とが反発し、当該石綿繊維間にコロイド状シリカが分散するが、リチウムイオンによって電気的なバランスが維持される。この結果、ケイ酸リチウムと石綿繊維との親和性が高くなり、当該石綿繊維はケイ酸リチウム水溶液に濡れやすくなっていると考えられる。
【0032】
また、リチウムイオンのイオン半径は、他のアルカリ金属イオンのそれに比較して小さい。このため、ケイ酸リチウムが石綿繊維の表面に吸着できる量は、他のケイ酸アルカリ金属塩のそれに比べても多く、ケイ酸リチウムは、石綿繊維との親和性が特に高くなっていると考えられる。
【0033】
したがって、第一溶液としてケイ酸リチウム溶液を用いた場合には、ケイ酸リチウムは無機繊維層内の石綿繊維に効率よく保持されて、当該石綿繊維の飛散を極めて効果的に防止することができる。
【0034】
また、第一溶液として、ケイ酸リチウムを含有する塩基性水溶液を用い、第二溶液として、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つを含有する酸性水溶液を用いる場合には、各水溶液のpHを比較的中性に近くすることができるため、作業時の安全性が高く、作用現場における浸食も起こりにくい。
【0035】
また、ゲル化工程10におけるゲルの形成は、無機繊維層に、まず、第一溶液及び第二溶液の一方を含浸させ、次いで、他方を含浸させることができる。このように、第一溶液及び第二溶液を互いに独立に順次含浸させる場合には、後に含浸させるタイミングによって、ゲルを形成するタイミングを調整することができる。したがって、この場合、例えば、第一溶液と第二溶液との混合液を調製し、その後、当該混合液を無機繊維層に含浸させる場合に比べて、ゲルを形成する際の操作性を向上させることができる。
【0036】
また、例えば、無機繊維層に、まず、第一溶液を含浸させ、次いで、第二溶液を含浸させる場合には、まずはケイ酸アルカリ金属塩を無機繊維層に十分浸透させることにより、ゲルを形成する際の繊維片の飛散を効果的に防止することもできる。
【0037】
特に、石綿繊維を含有する無機繊維層に、まず、第一溶液としてケイ酸リチウム溶液を含浸させる場合には、上述したようなケイ酸リチウムと石綿繊維との高い親和性に基づいて、当該石綿繊維の全体に、当該第一溶液を効率よく且つ確実に浸透させることができる。したがって、この場合、石綿繊維の飛散を特に効果的に防止することができる。
【0038】
また、このように無機繊維層の全体に第一溶液を十分に浸透させた後に、第二溶液を含浸させる場合には、無機繊維層の全体にわたって、石綿繊維を一体的に保持するゲルを効率よく且つ確実に形成することができる。
【0039】
続く剥離工程20においては、ゲル化工程10で形成されたゲルを含む無機繊維層を剥離する。この剥離は、目的に応じて適切に選択された任意の方法で行うことができる。すなわち、例えば、ケレン等の剥離用の道具を用いて無機繊維層を構造物の表面から削ぎ落とす方法や、高圧で水を噴射するウォータージェットにより無機繊維層を破砕して構造物の表面から除去する方法を用いることができる。
【0040】
この無機繊維層の剥離は、当該無機繊維層において形成されているゲルが十分に水分を保持した状態で行うことが好ましい。ゲルが水分を保持していることによって、剥離に伴って無機繊維層が破砕された場合にも、当該無機繊維層からの繊維片の飛散を効果的に防止することがでる。
【0041】
また、無機繊維層が石綿繊維を含有する場合には、第一溶液としてケイ酸リチウム溶液を用いることにより、当該石綿繊維の飛散を特に効果的に防止することができる。すなわち、この場合、ゲル中の石綿繊維を、第一溶液に由来するケイ酸リチウムにより拘束して、これらを効果的に一体化することができるため、当該石綿繊維の飛散を確実に防止することができる。
【0042】
続く硬化工程30においては、剥離工程20で剥離された無機繊維層の破砕物を乾燥させて硬化させる。すなわち、例えば、構造物の表面から落下した無機繊維層の破砕物を、所定の温度で所定の時間放置することにより、当該無機繊維層において形成されたゲルに含まれる水分を蒸発させる。なお、このゲルの乾燥においては、必要に応じて無機繊維層を加熱する方法を採用することもできる。
【0043】
こうして硬化された破砕物においては、ゲルを構成していた無機化合物が析出し、当該無機化合物の内部に無機繊維を一体的に封入することができる。この乾燥後の破砕物の硬度は、例えば、無機繊維層にケイ酸アルカリ金属塩の水溶液のみを含浸させ、その後、当該無機繊維層を剥離して乾燥させた場合に比べて、高くなっている。したがって、例えば、破砕物を輸送する際に、振動等により当該破砕物が破壊されて繊維片が飛散するといった問題を効果的に回避することができる。
【0044】
また、ゲルを乾燥させることによって、無機繊維層の破砕物の重量を低減することができるとともに、当該破砕物の取り扱いがより容易になる。このため、破砕物を輸送する際の作業性を向上させることができ、コストを低減することもできる。
【0045】
このように硬化された破砕物は、必要に応じて、さらなる処理に供することができる。すなわち、例えば、無機繊維層に石綿を含む場合には、当該無機繊維層の破砕物は、溶融炉に投入されて加熱され、当該石綿は溶融されることとなる。
【0046】
ここで、本方法において、石綿繊維が封じ込められたゲルは、無機化合物から構成されている。このため、石綿繊維を溶融させるための加熱においても、ゲルは崩壊することなく、保持される。したがって、石綿繊維を溶融する工程においても、ゲルによる繊維片の飛散防止効果を十分に維持することができる。
【0047】
このように、本方法によれば、無機繊維層の剥離、剥離された無機繊維層の破砕物の輸送、破砕物の溶融といったいずれに工程においても、無機繊維の飛散を効果的に防止することができる。
【0048】
また、無機繊維層に石綿が含まれ、ケイ酸リチウムを含有する第一溶液を用いた場合には、当該無機繊維層の破砕物を溶融処理する際に、当該石綿の繊維を溶融するために必要な温度(溶融温度)を効果的に低下させることもできる。
【0049】
すなわち、石綿繊維が封入されたゲルにケイ酸リチウムが含まれていることにより、通常1500℃以上である当該石綿繊維の溶融温度を、約1360℃まで低下させることができる。したがって、この場合、無機繊維層の処理に必要なコストや時間を効果的に低減することができる。
【0050】
また、ケイ酸リチウムが付着した石綿クリソタイル(白石綿)からなる廃棄物を700
℃以上に加熱すると、当該クリソタイルがフォレステライト、シリカ、エンスタタイトの
結晶構造に変化し、さらに900℃以上に加熱すると、その多くがシリカ、エンスタタイ
トの結晶になり、フォレステライトの結晶は殆ど含まれなくなる。フォレステライトは長
期的には水和してクリソタイルに戻る可能性がある。このため、ケイ酸リチウムを含有する第一溶液を用いることにより、廃棄物の安全性を高めることもできる。
【0051】
次に、本方法におけるゲルの形成に関する具体的な実施例について説明する。
【0052】
[実施例]
第一溶液としては、ケイ酸リチウムを含有する塩基性の水溶液(以下、「第一溶液A」とぃう。)、又はケイ酸ナトリウムを含有する塩基性の水溶液(以下、「第一溶液B」という。)を用いた。また、処理の対象とする無機繊維層としては、吹き付けロックウールの破砕物を用いた。
【0053】
第一溶液Aは、ケイ酸リチウムを25重量%含有するケイ酸リチウム溶液と、フッ素系界面活性剤を0.5重量%含有する界面活性剤溶液と、水と、を混合することにより調製した。この結果、第一溶液Aは、上記ケイ酸リチウム溶液を15重量%、上記界面活性剤溶液を1.0重量%、及び水を84重量%含有する、pHが10の溶液となった。
【0054】
第二溶液としては、アルミナゾルを10〜11重量%含有し、pHが4〜6である溶液(以下、「第二溶液A」という。)、又は第一リン酸アルミニウムを40.1〜42.9重量%含有し、pHが1.5である溶液(以下、「第二溶液B」という。)を用いた。
【0055】
これら2種類の第一溶液の一方と、2種類の第二溶液の一方と、を組み合わせて、4種類の組み合わせを用いたゲルの形成を行った。すなわち、まず、30gの吹き付けロックウールに対して、30mLの第一溶液A又は第一溶液Bを噴霧することにより、当該ロックウールの繊維に当該第一溶液A又は第一溶液Bを含浸させた。
【0056】
この第一溶液A又は第一溶液Bを含浸させたロックウールにおいては、繊維の全体に当該第一溶液A又は第一溶液Bが浸透することにより、当該ロックウールからの繊維片の飛散を効果的に防止することができた。ただし、ロックウールにおいては、第一溶液A又は第一溶液Bを含浸させることのみによっては、ゲルは形成されなかった。
【0057】
次いで、第一溶液A又は第一溶液Bが予め含浸されたロックウールに、30mLの第二溶液A又は第二溶液Bをさらに噴霧することにより、当該ロックウールに当該第二溶液A又は第二溶液Bをさらに含浸させた。
【0058】
さらに、第一溶液A又は第一溶液Bと、第二溶液A又は第二溶液Bと、を含浸させたロックウールを室温にて数分放置することにより、当該ロックウールに含まれる繊維を一体的に保持するゲルを形成することができた。すなわち、ケイ酸リチウム又はケイ酸ナトリウムと、酸化アルミニウム又は第一リン酸アルミニウムと、を主成分として含有する無機化合物から構成されるゲル内に、ロックウールの繊維を封入することができた。
【0059】
なお、第二溶液Aを用いた場合、すなわち、ケイ酸リチウム又はケイ酸ナトリウムと、酸化アルミニウムと、を組み合わせて用いた場合には、やや白濁したゲルが形成された。一方、第二溶液Bを用いた場合、すなわち、ケイ酸リチウム又はケイ酸ナトリウムと、第一リン酸アルミニウムと、を組み合わせて用いた場合には、透明なゲルが形成された。
【0060】
さらに、このゲルが形成されたロックウールを室温にて24時間放置することにより、当該ゲルに含まれる水分を蒸発させた。この結果、ロックウールを乾燥させ、硬化することができた。すなわち、ロックウールにおいては、ゲルを形成していた無機化合物が白く析出し、ロックウールの繊維は、当該析出物に一体的に封入されていた。したがって、このように硬化したロックウールにおいては、繊維片の飛散が効果的に防止されていた。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態に係る無機繊維層の処理方法に含まれる主な工程を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0062】
10 ゲル化工程、20 剥離工程、30 硬化工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に形成された無機繊維層を処理する方法であって、
前記無機繊維層に、ケイ酸アルカリ金属塩を含有する第一の原料溶液と、アルミニウム化合物を含有する第二の原料溶液と、を含浸させてゲルを形成する工程と、
前記ゲルが形成された前記無機繊維層を前記構造物の表面から剥離する工程と、
を含む
ことを特徴とする無機繊維層の処理方法。
【請求項2】
前記第一の原料溶液は、塩基性溶液であり、
前記第二の原料溶液は、酸性溶液である
ことを特徴とする請求項1に記載された無機繊維層の処理方法。
【請求項3】
前記アルミニウム化合物は、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載された無機繊維層の処理方法。
【請求項4】
前記ケイ酸アルカリ金属塩は、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一つである
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載された無機繊維層の処理方法。
【請求項5】
剥離された前記無機繊維層を乾燥して硬化する工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載された無機繊維層の処理方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−243227(P2009−243227A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93512(P2008−93512)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】