説明

無機質板及びその製造方法

【課題】吸水率が高くなることなく、また強度が低下することなく、焼却灰を配合材料として有効利用することができる無機質板を提供する。
【解決手段】セメント、シリカ、焼却灰を少なくとも配合したセメント成形材料で成形された無機質板に関する。焼却灰はかさ比重が0.8〜2.0であり、且つ粒径50μm以下の粒子が50質量%以上である粒度を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却灰を配合したセメント系の無機質板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
焼却灰を有効利用するための方法の一つとして、焼却灰を無機質板の材料として用いることが検討されている。例えば特許文献1や特許文献2では、紙パルプ工場等から排出される製紙スラッジを焼却することによって得られる焼却灰を、セメントに補強繊維等とともに配合すると共に、これを水に分散することによってスラリーを調製し、このスラリーを抄造脱水して得られる抄造板を養生硬化することによって、無機質板を製造するようにしている。
【0003】
そしてこの特許文献1や特許文献2では、無機質板を軽量化するために配合されていたパーライトの代替として、製紙スラッジの焼却灰を用いるようにしているものであり、パーライトの使用量を低減したり、パーライトの使用を不要にしたりして、コスト低減を図っているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−213676号公報
【特許文献2】特開2001−181006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2で使用される製紙スラッジの焼却灰はかさ比重が小さく軽量であるため、上記のように軽量骨材のパーライトの代替として用いることができるのである。しかし、このように製紙スラッジの焼却灰を配合して製造される無機質板にあって、焼却灰の有効利用を図るために配合量を増やそうとすると、無機質板の吸水率が高くなって耐凍害性等が低下し、また板強度が低下するという問題が生じるものであった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、吸水率が高くなることなく、また強度が低下することなく、焼却灰を配合材料として有効利用することができる無機質板を提供することを目的とするものであり、またこのような無機質板を安全に製造することができる無機質板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る無機質板は、セメント、シリカ、焼却灰を少なくとも配合したセメント成形材料で成形された無機質板であって、焼却灰はかさ比重が0.8〜2.0であり、且つ粒径50μm以下の粒子が50質量%以上である粒度を有することを特徴とするものである。
【0008】
上記の特許文献1,2で使用される製紙スラッジの焼却灰は、かさ比重が小さく、また粒度が大きいために、無機質板の吸水率が高くなり、強度が低下するものであるが、かさ比重が0.8〜2.0、粒径50μm以下の粒子が50質量%以上の粒度を有する焼却灰を用いることによって、吸水率が高くなることなく、また強度が低下することなく、焼却灰を配合材料として有効利用した無機質板を得ることができるものである。
【0009】
また本発明において、上記の焼却灰は、バイオマスボイラー灰であることを特徴とするものである。
【0010】
バイオマスボイラー灰は粒度が細かい粉末であって、細骨材として製品性能の向上に作用すると共に、バイオマスボイラー灰はポゾラン活性を有するものであって、セメントやシリカの代替として用いることができ、これらの配合量を低減して材料コストを安価にすることができるものである。
【0011】
また本発明において、焼却灰は、SiOが40質量%以上含有する化学組成を有し、且つブレーン値が2000cm/g以上であることを特徴とするものである。
【0012】
このような焼却灰はセメントやシリカの代替として用いることができるものであり、セメントやシリカの配合量を低減することができるものである。
【0013】
また、本発明に係る無機質板の製造方法は、セメント、シリカ、かさ比重が0.8〜2.0であり、且つ粒径50μm以下の粒子が50質量%以上である焼却灰を少なくとも配合してセメント成形材料を調製し、このセメント成形材料を板状に成形した後に、養生・硬化することを特徴とするものである。
【0014】
本発明によれば、上記のような焼却灰を配合材料として有効利用した無機質板を製造することができるものである。
【0015】
またこの製造方法の発明において、セメント成形材料の調製は乾式で行なわれると共にセメント成形材料の成形は乾式で行なわれることを特徴とするものである。
【0016】
焼却灰にアルミニウムが含まれている場合、多量の水と混合する湿式でセメント成形材料を調製するとアルミニウムに多量の水が作用して水素が発生するおそれがあるが、このように乾式で混合してセメント成形材料を調製すると共にセメント成形材料を乾式で成形することによって、焼却灰に含まれるアルミニウムに多量の水が作用して水素が発生することを抑制することができると共に、仮に水素が発生しても、乾式の工程はオープンな系であるのが一般的であって、水素が滞留するようなことはなく、多量の水素が滞留して引火・爆発するような危険性なく、無機質板の製造を行なうことができるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、かさ比重が0.8〜2.0、粒径50μm以下の粒子が50質量%以上の粒度を有する焼却灰を用いることによって、吸水率が高くなることなく、また強度が低下することなく、焼却灰を配合材料として有効利用した無機質板を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】バイオマスボイラー灰や製紙スラッジ焼却灰の配合量と吸水率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
本発明において焼却灰は、かさ比重が0.8〜2.0、粒径50μm以下の粒子が50質量%以上の粒度を有するものを用いるものである。本発明ではこのような焼却灰として、バイオマスボイラー灰を用いるのが好ましい。
【0021】
建築廃材などとして廃棄される木屑を有効利用するために、この木屑をバイオマスボイラーで燃焼し、この際の燃焼熱で蒸気を発生させ、発電や暖房等を行なうことがなされている。このように木屑をバイオマスボイラーで燃焼する際に、高い燃焼熱を得るために、廃プラスチックや廃タイヤなども木屑と共に燃焼させるのが一般的である。そして木屑をこのようにバイオマスボイラーで燃焼させる際に、バイオマスボイラーから大量の集塵灰が発生し、この集塵灰を回収したものがバイオマスボイラー灰である。このバイオマスボイラー灰は埋め立て等の処分で廃棄されていたが、本発明では廃棄することなくバイオマスボイラー灰を有効利用することができるものであり、バイオマスボイラー灰の廃棄による環境負荷を低減することができるものである。
【0022】
ここで、3種のバイオマスボイラー灰と、製紙スラッジの焼却灰の性状及び化学分析の測定値の例を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1にみられるように、バイオマスボイラー灰は製紙スラッジ焼却灰よりも、かさ比重が大きく、ブレーン値が小さく、粒度も小さいものであり、緻密で且つ微小な粉体である。そしてバイオマスボイラー灰のかさ比重は0.8〜2.0という条件を満たすものである。また粒度はふるい目開き53μmのメッシュを通過するものが53.8〜62.6質量%であり、つまり粒径53μm以下の粒子が53.8〜62.6質量%であって50質量%以上であり、このことは実質的に、上記の粒径50μm以下の粒子が50質量%以上の粒度を有するという条件を満たすものである。一方、製紙スラッジ焼却灰は、上記のかさ比重の範囲を大きく下回って小さい値であり、また上記の粒度よりもはるかに大きい値である。
【0025】
そしてセメント成形材料は、セメント、シリカ(珪石粉)、骨材を含有し、その他必要に応じてシリカヒューム、パルプやPP繊維等の補強繊維などを配合して調製されるが、本発明では必須成分としてさらにバイオマスボイラー灰などの焼却灰を配合するものである。これら各配合材料の配合量は特に限定されるものではないが、例えばセメント25〜40質量%、シリカ20〜45質量%、骨材10〜35質量%の範囲で配合することができ、さらにシリカヒュームは3〜13質量%、パルプは3〜7質量%、PP繊維は0〜0.5質量%の範囲で配合することができる。また焼却灰は1〜15質量%の範囲で配合するのが好ましく、バイオマスボイラー灰を配合することによって、後述のように、セメント、シリカ、骨材の配合量を上記の範囲より少なくすることが可能である。
【0026】
ここで本発明では、セメント成形材料は上記の各配合材料を乾式で混合することによって調製されるものである。この乾式で混合するとは、水分を添加しないで、粉状あるいは粒状の各配合材料を混合することを意味するものであるが、湿り気を与えて混合の際に粉粒が舞い上がることを防止するなどのために少量の水を添加するようにしてもよい。このようにセメント成形材料を乾式で混合することによって、焼却灰中に微量のアルミニウムが含まれていても、湿式の場合のスラリーのように大量の水分がアルミニウムに作用することがないので、アルミニウムと水が反応して水素が発生することを抑制することができるものである。
【0027】
すなわち、木屑をバイオマスボイラーで燃焼させる際に燃焼熱を高く得るため、上記のように廃プラスチックを木屑とともに燃焼させているが、廃プラスチックには表面をアルミニウムでメッキしたものが多く、このような廃プラスチックを木屑とともに燃焼させて得られるバイマスボイラー灰には、微量のアルミニウムが含まれている。そして焼却灰を配合材料の一つとして配合し、水に分散させる湿式でセメント成形材料のスラリーを調製する場合、このように焼却灰にアルミニウムが含まれていると、アルミニウムが多量の水と次のように反応し、
2Al+6HO→2Al(OH)+3H
水素が発生することになる。スラリーの調製は通常、槽内で行なわれるため、このように水素が発生すると、水素はスラリー槽内に滞留し、場合によっては引火・爆発のおそれがある。そこで本発明では上記のように、セメント成形材料を乾式で混合することによって、アルミニウムと水が反応して水素が発生することを抑制するようにしているものである。
【0028】
このように調製したセメント成形材料を用いて、乾式工法で無機質板を製造することができる。製造の一例を説明すると、まず成形ベルトの上に粉状のセメント成形材料を層状に供給する。本発明において乾式工法とは、スラリーのように多量の水を用いて抄造する湿式工法ではないものをいうが、セメント成形材料を成形して賦形するためには水分が必要であり、セメントの水硬性反応にも水分が必要であるので、成形ベルトの上に層状に供給されたセメント成形材料には成形と硬化に必要な量の水の散布を行なう必要はある。このように少量の水を撒布するが、焼却灰中に微量のアルミニウムが含まれていても、湿式の場合のスラリーのように大量の水分がアルミニウムに作用することがないので、水素の発生が問題になることはない。仮に水素が発生しても、成形の工程はオープンな系で行なわれるので、水素の発生による危険が生じることはない。
【0029】
このようにして、セメント成形材料を乾式で成形した後、成形ベルトで送りつつロールなどを用いて圧縮成形することによって板状のグリーンシートに成形し、さらにオートクレーブなどで養生して硬化させることによって、セメント系の無機質板を製造することができるものである。
【0030】
上記のように焼却灰を配合したセメント成形材料を用いて作製した無機質板にあって、焼却灰はかさ比重が0.8〜2.0であって、且つ粒径50μm以下の粒子が50質量%以上の粒度を有するものであり、かさ比重が大きく緻密で微小な粒子であるので、細骨材として作用する。このため、焼却灰を骨材の代替品として用いることができるものであり、製品性能を低下させることなく、骨材の配合量を低減することができるものである。
【0031】
ここで、焼却灰のかさ比重が0.8未満であると、焼却灰の粒子は表面積が大きいポーラスな性状になって、無機質板の吸水率が大きくなると共に強度が低下し、焼却灰の配合量を多くすることが難しくなる。逆に焼却灰のかさ比重が2.0を超える場合、セメントやシリカ等の他の材料と比べて比重が極端に大きくなり、これらの材料と分離し易くなって、均一な組成のセメント成形材料を調製することが難しくなる。また粒径50μm以下の粒子の含有率が50質量%未満と、焼却灰の粒度が大きくなると、補強効果が不十分になって強度が低下し、焼却灰の配合量を多くすることが難しくなる。粒径50μm以下の粒子の含有率の上限は特に設定されるものではなく、粒径50μm以下の粒子が100%である焼却灰が最も望ましい。
【0032】
特に焼却灰としてバイオマスボイラー灰を用いる場合、バイオマスボイラー灰はフライアッシュと性状が似ており、水酸化カルシウムと反応して不溶性のケイ酸カルシウム水和物を生成するポゾラン活性を有する。このため、バイオマスボイラー灰をセメントやシリカの代替として用いることができるものであり、製品性能を低下させることなく、セメントやシリカの配合量を低減することができるものである。
【0033】
このように焼却灰をセメントやシリカの代替として用いる場合、焼却灰は、SiOを40質量%以上含有する化学組成を有し、且つブレーン値が2000cm/g以上であることが好ましい。このように多量のSiOを含有し、またブレーン値が高く比表面積が大きいことによって、製品性能を低下させることなく、焼却灰をセメントやシリカの代替として用いることができるものである。SiOの含有率の上限は特に設定されるものではないが、実用的には90質量%程度が上限である。またブレーン値の上限も特に設定されるものではないが、6000cm/g程度が上限である。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0035】
焼却灰として、バイオマスボイラーから集塵灰として回収したa〜cの3種のバイオマスボイラー灰と、製紙スラッジを焼却して得られる製紙スラッジ焼却灰を用いた。a〜cのバイオマスボイラー灰と製紙スラッジ焼却灰の性状及び化学成分を上記の表1に示す。
【0036】
そして、セメント(ポルトランドセメント)、シリカ、シリカヒューム、パルプ、骨材として細砂、ドライスクラップ、ポリプロピレン繊維、バイオマスボイラー灰を用い、これを表2の配合量で、乾式で混合することによって、配合A〜Hのセメント成形材料を調製した。ここで、配合Aはバイオマスボイラー灰を配合しないものであり、また配合B〜Dは、骨材の細砂の代替としてバイオマスボイラー灰aを配合するようにしたものである。さらに配合E,Fは、セメント及びシリカの代替としてバイオマスボイラー灰aを配合するようにしたものである。また、配合Gは、骨材の細砂の代替としてバイオマスボイラー灰bを配合するようにしたものであり、配合Hは、骨材の細砂の代替としてバイオマスボイラー灰cを配合するようにしたものである。
【0037】
【表2】

【0038】
次に、この配合A〜Hのセメント成形材料を成形ベルトの上に層状に供給し、セメント成形材料に水を散布して供給しつつ、ロールで圧縮成形することによって板状のグリーンシートに成形した。次いでこのグリーンシートをオートクレーブに入れ、180℃で高温高圧養生して硬化させることによって、比較例1及び実施例1〜7の無機質板を作製した。
【0039】
上記のようにして作製した比較例1及び実施例1〜7の無機質板について、曲げ強度とヤング率を測定し、さらに吸水率、比重を測定した。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3にみられるように、骨材の細砂の代替としてバイオマスボイラー灰aを配合した実施例1〜3や、セメント及びシリカの代替としてバイオマスボイラー灰aを配合した実施例4,5、さらに骨材の細砂の代替としてバイオマスボイラー灰b,cを配合した実施例6,7のものは、バイオマスボイラー灰を使用しない従来配合の比較例1のものと比較して、強度等の機械的特性や吸水率において有意な差がない。従って、製品性能を低下させることなくバイオマスボイラー灰を配合して無機質板を製造することができ、バイオマスボイラー灰を有効利用することができると共に、骨材や、セメント、シリカの配合量を低減して材料コストを安価にすることができるものであった。
【0042】
次に比較のために、バイオマスボイラー灰の代わりに、製紙スラッジ焼却灰を用い、表4の配合量で配合I〜Kのセメント成形材料を調製した。
【0043】
【表4】

【0044】
そしてこの配合I〜Kのセメント成形材料を用い、上記と同様にして、比較例2〜4の無機質板を作製した。このように作製した比較例2〜4の無機質板について、曲げ強度とヤング率を測定し、さらに吸水率、比重を測定した。結果を表5に示す。
【0045】
【表5】

【0046】
表5にみられるように、製紙スラッジ焼却灰を配合した比較例2〜4では、製紙スラッジ焼却灰の配合量を増量するに従って含水率や吸水率が上昇するものであった。また比較例4にみられるように、製紙スラッジ焼却灰の配合量が増えると、強度が低下するものであった。
【0047】
ここで、バイオマスボイラー灰を配合した実施例1〜3と、製紙スラッジ焼却灰を配合した比較例2〜4と、バイオマスボイラー灰と製紙スラッジ灰のいずれも配合しない比較例1について、吸水率と配合量との関係を図1に示す。図1にみられるように、製紙スラッジ焼却灰の配合量が増えると、比較例2,3のように吸水率が急激に上昇するが、バイオマスボイラー灰を配合した実施例1〜3では吸水率は殆ど変化しないものであり、バイオマスボイラー灰の配合は吸水性に悪影響を与えないことが確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、シリカ、焼却灰を少なくとも配合したセメント成形材料で成形された無機質板であって、焼却灰はかさ比重が0.8〜2.0であり、且つ粒径50μm以下の粒子が50質量%以上である粒度を有することを特徴とする無機質板。
【請求項2】
焼却灰は、バイオマスボイラー灰であることを特徴とする請求項1に記載の無機質板。
【請求項3】
焼却灰は、SiOが40質量%以上含有する化学組成を有し、且つブレーン値が2000cm/g以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無機質板。
【請求項4】
セメント、シリカ、かさ比重が0.8〜2.0であり、且つ粒径50μm以下の粒子が50質量%以上である粒度を有する焼却灰を少なくとも配合してセメント成形材料を調製し、このセメント成形材料を板状に成形した後に、養生・硬化することを特徴とする無機質板の製造方法。
【請求項5】
セメント成形材料の調製は乾式で行なわれると共にセメント成形材料の成形は乾式で行なわれることを特徴とする請求項4に記載の無機質板の製造方法。

【図1】
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