説明

無機質系塗料用組成物及び無機質塗膜の形成方法

【課題】 常温で硬化して塗膜を形成することができ、得られた塗膜は、常温硬化であるにかかわらず高い耐水性を有し、また、基材との付着性が良好な無機質系の塗料用組成物を提供する。
【解決手段】 主剤としてSiO2/M2O(MはR4N、Na、K又はLiであり、Rは水素または炭素数1〜10のアルキル基を示す。)のモル比が2.5〜8であるケイ酸アルカリ、シリカ系無機粒子及び水を混合し、さらに硬化剤として弱酸のアンモニウム塩を含む無機質系塗料用組成物を使用する。ケイ酸アルカリは、当該組成物中に固形分全体の35〜90質量%、シリカ系無機粒子は5〜60質量%含有する。また弱酸のアンモニウム塩としては、四ホウ酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、酢酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等を0.1〜8質量%配合することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築・土木分野の内外装塗料として好適に使用される無機質系塗料用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築・土木用の内外装用に使用される有機系塗料における塗料用樹脂としては、通常、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂系のものが多く用いられている。これらの合成樹脂を使った塗料は、常温近くの低温で、しかも、短時間で塗膜が形成できるうえ、塗膜の密着性、耐衝撃性、耐水性等に優れるという利点がある。しかしながら、一方、有機系塗料は、耐熱性が低く、塗膜硬度が低く、また、耐候性が低いこと等から、車両等のエンジン回りの高温パイプの塗装、不燃性が要求される建築物の内装材塗装、耐熱性、耐磨耗性の要求の高いトンネル内壁の塗装等の用途には適していない。
【0003】
そこで、近年では、塗料用有機合成樹脂を使用せず、基本的に、耐熱性、耐磨耗性、耐久性が高い無機質系の塗料について、様々な検討がなされ、一部実用化されつつある。
無機質系の塗料バインダーとしては、水ガラスに代表されるケイ酸アルカリ水溶液を主体とするものがよく知られている。しかしながら、ケイ酸アルカリの場合、トンネル内壁やビル外壁等の施工性の観点から要請される常温硬化では、塗膜の耐水性、基材との付着性が不十分なことが大きなネックになっており、完全に実用化されるには至っていない。
【0004】
また無機質系塗料バインダーを使った無機質塗料は、これまでのところ、緻密な塗膜とするには温度200℃以上の高温で焼結する必要とされており、素材として可撓性に欠けるため耐衝撃性が低い等の理由から、ごく限られた用途にのみしか使用されていなかった(例えば特許文献1を参照。)。
【0005】
これらの課題を解決するため、金属アルコキシドを無機質系塗料バインダーとし、これに無機フィラーと有機エマルションを含有させた塗料が開発されているものの、塗膜耐久性が上記無機質系塗料に比べ劣っているうえ、硬度、耐衝撃性でもあまり満足した結果が得られていないという実状にある(例えば特許文献2を参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開平6−329949号公報(特許請求の範囲(請求項1〜3))
【特許文献2】特開2000−334373号公報(特許請求の範囲(請求項1〜9))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、無機質系の塗料バインダーを使用する無機質系塗料において、なんら加熱することなく常温で硬化して塗膜を形成することができ、得られた塗膜は、常温硬化であるにかかわらず高い耐水性を有し、また、基材との付着性が良好な無機質系の塗料用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従えば、(1)主剤としてSiO2/M2O(MはR4N、Na、K又はLiであり、Rは水素または炭素数1〜10のアルキル基を示す。)のモル比が2.5〜8であるケイ酸アルカリ、(2)シリカ系無機粒子及び(3)水を混合して得られる無機塗料用組成物であって、さらに、硬化剤として(4)弱酸のアンモニウム塩を含むことを特徴とする無機質系塗料用組成物が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の無機質系塗料用組成物によれば、後記実施例にも示されているように、室温で硬化し、耐水性に優れ、かつ、基板との付着性の良好な無機質塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の無機塗料用組成物は、(1)SiO2/M2O(MはR4N、Na、K又はLiであり、Rは水素または炭素数1〜10のアルキル基を示す。)のモル比が2.5〜8であるケイ酸アルカリを主剤とし、これに(2)シリカ系無機粒子及び(3)水を混合して得られる組成物に、さらに硬化剤として(4)弱酸のアンモニウム塩を含ませた組成物である。
【0011】
(ケイ酸アルカリ主剤)
本発明において、主剤としての役割を奏するケイ酸アルカリは、SiO2/M2Oであらわされるモル比(=SiO2/M2O、以下単にモル比という。)が2.5〜8のものであり、好ましくは3〜6である。モル比が2.5未満であると、塗膜の耐水性が低下しやすくなるため好ましくなく、モル比が8を超えると、基材と塗膜との密着性が低下して剥がれやすくなるため好ましくない。
【0012】
上記ケイ酸アルカリを表示する式中、Mは、通常はNa、K又はLiのアルカリ金属であるが、また、R4Nで表される4級アンモニウム(H4N)または4級アミンであってもよい。アルキル基の炭素数は通常1〜10程度のもの、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等である。
本発明においては、ケイ酸アルカリは、水溶液原料を使用することが好ましく、組成物中においても主として水溶液の形で存在することが好ましい。
【0013】
(シリカ系無機粒子)
本発明において、シリカ系無機粒子は、基本的には、骨材またはフィラーとしても働き、塗膜収縮を防止し亀裂の発生を抑制する効果があるものである。
【0014】
シリカ系無機粒子としては、その形態が塗膜中で基板に平行に配位し易い形態が好ましいことから、板状または針状の形態を有するシリカ系無機粒子が好ましく、特に好ましくは鱗片状シリカである。鱗片状シリカとしては、薄片1次粒子であってもよいが、好ましくは、当該鱗片状シリカの薄片1次粒子が互いに面間が平行的に配向し、複数枚重なって形成される積層状態の粒子となっており、いわばその2次粒子が好ましい。後記するように、この層状構造の鱗片状シリカは、塗膜中で互いに積層して当該塗膜の強度を向上させるとともに、この層間に酸等の硬化剤をインターカレートして保持し時間の経過とともに徐放し、硬度の高い塗膜を形成する作用を奏する。また、鱗片状シリカは、塗膜の透明性を損なうことがないので好ましい。
【0015】
シリカ系無機粒子、特に好ましくは鱗片状シリカとしては、アスペクト比5〜100のものが好ましく、10〜50のものがさらに好ましい。アスペクト比が5未満であると鱗片状シリカ粒子同士の積層効果による連続性が無くなるため、塗膜の形成性が悪化し、またその膜質向上の効果が低下することから好ましくなく、アスペクト比が100を超えると、鱗片状シリカ同士がからみつき塗料用組成物の流動性が損なわれるおそれがあるため好ましくない。
【0016】
また、シリカ系無機粒子、特に好ましくは鱗片状シリカとしては平均粒径0.1〜20μm、好ましくは0.2〜10μmで、かつ、比表面積が10〜1000m2/g、好ましくは20〜50m2/gであることが望ましい。平均粒径が0.1μm未満であると、骨材としての役割を果たすことが困難になり、平均粒径20μmを超えると、塗料用組成物中で、沈降分離が生じたり、表面性状が悪くなることから、好ましくない。
【0017】
また、粒子の比表面積が10m2/g未満であると、鱗片状シリカ粒子同士の積層効果による連続性がなくなるため、塗膜強度の向上作用が低くなり、一方比表面積が1000m2/gを超えると、無機粒子同士のもつれが生じ、塗液の流動性が損なわれるので好ましくない。
【0018】
無機質粒子の添加量は、全固形分中5〜60質量%が望ましい。5質量%より低くなると、亀裂が生じたり、耐水性が下がる現象が生じ、また、60質量%より高いと、基材との付着性が低下する。
【0019】
なお、シリカ系無機粒子とは、シリカを主たる構成成分とする無機質粒子という意味であり、その特性を大幅に損なわない限り他の成分、又は不純物を含んでいてもよい。好ましくはシリカ成分が50質量%以上、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95質量%以上のものである。
【0020】
ちなみに、本発明において使用する上記鱗片状シリカ粒子は、その形態に起因してきわめて特異な自己造膜性を有し、常温においても容易に強固なシリカ皮膜を形成する。当該鱗片状シリカの水分散液は、これをガラス基体上等に塗布し、常温で乾燥すると、皮膜形成剤や造膜助剤等を使用することなしに硬化し、容易に強靱な塗膜が形成される。この塗膜は、極めて強固であり、容易には剥離することはない。
【0021】
この鱗片状シリカは、活性ケイ酸、シリカゾル、エアロジル、シリカヒドロゲル、シリカゲル(シリカキセロゲル)等を出発物質として、これらをアルカリ金属の存在下で水熱処理する方法により、シリカ3次凝集体粒子を生成させ、次いでこれを湿式ビーズミル等により解砕することにより得られる。
【0022】
また、鱗片状シリカの形態は、水スラリー状、粉体状、有機媒体スラリー状のいずれかの形態を選択できるが、好ましくは、水スラリー状のものである。
【0023】
なお、水スラリー状の鱗片状シリカは、上記のようにして調製することができるが、その他、市販のものを適宜使用してもよい。例えば、市販の鱗片状シリカ水分散液としては、サンラブリーLFS−HN−010(平均粒径:0.11μm、比表面積371.6m2/g、シラノール基:7544μmol/g)、サンラブリーLFS−HN−020(平均粒径:0.18μm、比表面積206.8m2/g、シラノール基:4856μmol/g)、サンラブリーLFS−HN−050(平均粒径:0.52μm、比表面積152.2m2/g、シラノール基:4611μmol/g)、サンラブリーLFS−HN−150(平均粒径:1.5μm、比表面積72.7m2/g、シラノール基:4133μmol/g)、サンラブリーLFS−C(平均粒径:0.54μm、比表面積143.6m2/g、シラノール基:4133μmol/g)(以上洞海化学工業社製)が好ましいものとして挙げられる。
【0024】
(弱酸のアンモニウム塩)
本発明の無機質系塗料用組成物においては、主剤であるケイ酸アルカリの硬化剤として、弱酸のアンモニウム塩を使用する。
【0025】
ここで弱酸とは、pKaが少なくとも1以上、好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上、最も好ましくは4以上の無機酸及び有機酸をいう。
【0026】
無機酸としては、メタホウ酸(HBO2)、オルトホウ酸(H3BO3)、テトラホウ酸(四ホウ酸)(H247)、炭酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、亜硝酸等があげられ、有機酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸等が挙げられる。
【0027】
これらのアンモニウム塩としては、例えば四ホウ酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、炭酸一水素アンモニウム、酢酸アンモニウム、酪酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等が挙げられ、特に四ホウ酸アンモニウムが好ましい。
【0028】
弱酸のアンモニウム塩の添加量は、固形分全体の0.1〜8質量%の添加量が望ましく、0.5〜5質量%の添加がさらに好ましい。添加量が、0.1質量%より少なくなると、耐水性向上をもたらす効果が少なくなり、また、8質量%を超えて添加すると、ケイ酸アルカリとの反応が急激に進むことから、塗膜の連続性が阻害されることになる。
【0029】
(鱗片状シリカ粒子への弱酸アンモニウム塩の坦持)
鱗片状シリカは、当該鱗片状シリカの薄片1次粒子が互いに面間が平行的に配向し、複数枚重なって形成される積層状態の粒子となっているため、この層間に、上記硬化剤である弱酸のアンモニウム塩をインターカレートして保持すなわち坦持する。塗膜形成後に、当該鱗片状シリカ中に坦持された、弱酸のアンモニウム塩は、時間の経過とともに徐々に塗膜内部から厚み方向に均一に放出され、塗膜を徐々に硬化させる。したがって、本発明者らがすでに提案している塗膜を形成後、酸を加えて硬化させる操作を行う場合のように、場合によっては局所的な硬化が生じて硬度の不均一等が起こることはなく全体的に硬度の高い塗膜を形成することができる。
【0030】
また、本発明の塗料用組成物によれば、最初に塗膜を形成する工程を行い、引き続いて、硬化剤である酸を塗膜に含浸させて硬化を促進する工程を行うという二重の工程を実施する必要がなくなり、塗装の作業工程がきわめて簡単になる効果もある。
【0031】
(塗料用組成物の成分割合)
本発明の塗料用組成物は、組成物中の全固形分100質量%に対して、ケイ酸アルカリが好ましくは35〜90質量%、特に好ましくは50〜80質量%である。ケイ酸アルカリ含有量が35質量%未満であると、形成される塗膜の基材との密着性が悪くなり、また、ケイ酸アルカリ量が90質量%を超えると、形成される塗膜の耐水性、耐候性が低下するため好ましくない。
【0032】
一方、シリカ系無機粒子の組成物中の含有量は、好ましくは5〜60質量%であり、15〜40質量%が特に好ましい。無機粒子の含有量が5質量%未満であると、塗膜にクラックが生じ、耐汚染性が低下すると同時に、塗膜の耐水性、耐候性が低下するおそれがあるため好ましくなく、無機粒子が60質量%を超えると、塗膜表面平滑度が悪くなるうえ、塗膜の基材との密着性が低下して、膜剥がれ等が起きるおそれがあるため好ましくない。
【0033】
(塗料用組成物の調製)
本発明の無機質系塗料用組成物は、(1)ケイ酸アルカリ水溶液、(2)シリカ系無機粒子、(3)さらに、固形分割合調整用の(4)適量の水と混ぜることにより調製することが好ましい。得られた塗料用組成物は、当該組成物(塗料液)全体の量を100質量%とすると、固形分濃度20〜70質量%であることが好ましく、35〜60質量%であることが特に好ましい。固形分濃度が20質量%未満であると、固形分の沈降分離が生じるため、好ましくなく、また、固形分濃度が70質量%を超えると、保管中の高粘性化が生じることや、塗布操作が困難になり好ましくない。当該組成物の調製は、サンドミル、ボールミル、ペイントシェイカーや捏和機等、塗料の調製に通常使用される一般的な混合装置により容易に行うことができる。
【0034】
以上のようにして、調製された本発明の無機質系塗料用組成物は、室温において、少なくとも24時間は、固形分の沈降分離等を生じることなく好適に保存可能なものである。
【0035】
本発明の組成物には、塗膜に求められる機能に応じて、通常使用される添加剤、例えば、泡立ち防止剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防カビ剤等を適宜添加することができる。また、塗膜を目的に応じた色に着色するため、塗料用として通常使用される種々の顔料、例えばチタニア、ジルコニア、鉛白、ベンガラ等を配合することも可能である。
【0036】
(塗布工程)
本発明の塗料組成物により塗布被膜を形成するには、当該塗料組成物を、公知の方法により基材表面にコーティングすればよい。塗布手段としては、特に限定するものではないが、スプレーコーター、デッピング、はけ塗り、ローラ仕上げ、バーコータ等の公知の方法を適宜採用することができる。
【0037】
なお、本発明の塗料組成物は、1液型として取り扱うこともできるが、主剤であるケイ酸アルカリを含有する第1液と、シリカ系無機粒子及び弱酸のアンモニウム塩を含有する第2液からなる、いわゆる2液型塗料組成物として構成することもできる。
【0038】
この場合、第1液と第2液は、別々に保管、輸送等を行い、施工現場における基材への塗布に際し、当該ケイ酸アルカリを含有する第1液と、シリカ系無機粒子及び弱酸のアンモニウム塩を含有する第2液とを使用直前に混合し、塗布液を形成する工程を行い、当該得られた塗布液を基材に塗布する工程さらに当該塗布基材を乾燥する工程をさらに行うことにより、基材表面に無機質塗膜を形成するのである。
【0039】
本発明の無機質系塗料組成物は、常温硬化型であり、室温において、自然乾燥することにより自動的に硬化する。これにより、硬化のために高い温度をかけることのできないトンネル内壁・橋梁塗装等の場所にも好ましく使用できる。
【0040】
本発明の方法により形成される塗膜は、膜厚10〜500μmであることが好ましい。塗膜が10μm未満であると、耐久性が充分でなくなるおそれがあり、塗膜厚みが500μmを超えると、塗膜に亀裂が入るおそれのあることから好ましくない。
【0041】
なお、本発明の塗料組成物が塗装される基材は、特に限定されるものではないが、例えば、コンクリート、モルタル、スレート、ガラス、ホーロー、金属等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の実施例(例1〜2,5,9〜11)及び比較例(例3〜4,6〜8,12)をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこの実施例に限定されるものではない。なお、単に部とあるのは質量部、%とあるものは質量%である。
【0043】
〔例1〕
(無機質系塗料用組成物の調製)
主剤のSiO2/M2Oで表されるケイ酸アルカリとしてケイ酸リチウム(モル比M:4.5)、シリカ系無機粒子として鱗片状シリカ〔平均粒子径0.52μm(測定:HORIBA LA−920)、比表面積152.2m2/g(測定:日本ベル社製、ベルソープ28型)、洞海化学工業社製サンラブリーLFS−HN−050〕、弱酸のアンモニウム塩としては四ホウ酸アンモニウムを使用した。
【0044】
鱗片状シリカ32部(固形分含量)を含む水溶液スラリーを300ccのビーカー内に秤量し、十文字羽根による強制撹拌を行なった。当該水溶液スラリーを撹拌しながら、四ホウ酸アンモニウム水溶液(固形分2部)を徐々に添加し、300回転/分の混練速度で、5分間混練した。次に、ケイ酸リチウム水溶液(固形分66部)を混合しながら投入し、さらに撹拌を1時間続け、無機質系塗料用組成物(以下「本バインダー液」と称することもある。)を調製した。
【0045】
(試験基材作成)
76×26×1mmのガラス基材を準備し、当該基材に本バインダー液を#40バーコーターで塗布し、塗布被膜を形成した試験体とした。なお、ひとつの調合組成のバインダー液に対し、試験体は、6枚作成した。作成した各試験体は、本バインダー液塗布後、室温で72時間乾燥を行った。
【0046】
乾燥終了後、うち、3体の試験体は、JIS K7136に基づくヘイズ測定試験を行なった。また、ヘイズ測定後、JIS K5600−5−6に示す付着性試験(クロスカット法)に準じて付着性の測定を行ない、それぞれこれらの値を初期値とした。
【0047】
(耐水性評価)
作成した試験基材についてJIS K5400に準じ、半水浸漬試験を24時間行なった。
試験終了後、試験体が表面乾燥状態になるまで、室内で乾燥した。
室内乾燥後、初期値における試験と同様、浸水部のヘイズ値、付着性能を測定した。
【0048】
ヘイズ値においては、初期値と浸水後のヘイズの差Δ値が10以下のものを合格とした。また、付着性については、初期値、浸水後、いずれも0もしくは1を合格とした。
表1に本バインダー液の調合割合と、塗布被膜についてヘイズ値測定結果及び付着性試験結果を示す。これらを総合的に判断して、合格を「合」、不合格を「否」として示した。
【0049】
〔例2〕
ケイ酸アルカリとしてケイ酸カリウム(モル比M:4)77部、シリカ系無機粒子として例1と同じ鱗片状シリカ20部、弱酸のアンモニウム塩として四ホウ酸アンモニウム3部を使用するほかは、例1と同様の試験を行った。結果をまとめて表1に示した。
【0050】
〔例3〕
ケイ酸アルカリとしてケイ酸ナトリウム(モル比M:2)78部、シリカ系無機粒子として例1と同じ鱗片状シリカ20部、弱酸のアンモニウム塩として四ホウ酸アンモニウム2部を使用するほかは、例1と同様の試験を行った。結果をまとめて表1に示した。
【0051】
〔例4〕
ケイ酸アルカリとしてケイ酸リチウム(モル比M:9)70部、シリカ系無機粒子として例1と同じ鱗片状シリカ29部、弱酸のアンモニウム塩として四ホウ酸アンモニウム1部を使用するほかは、例1と同様の試験を行った。結果をまとめて表1に示した。
【0052】
〔例5〕
ケイ酸アルカリとしてケイ酸アンモニウム(NR4のRはHであり、モル比M:3)46部、シリカ系無機粒子として例1と同じ鱗片状シリカ50部、弱酸のアンモニウム塩として四ホウ酸アンモニウム4部を使用するほかは、例1と同様の試験を行った。結果をまとめて表1に示した。
【0053】
〔例6〕
ケイ酸アルカリとしてケイ酸リチウム(モル比M:3.5)94部、シリカ系無機粒子として例1と同じ鱗片状シリカ3部、弱酸のアンモニウム塩として四ホウ酸アンモニウム3部を使用するほかは、例1と同様の試験を行った。結果をまとめて表1に示した。
【0054】
〔例7〕
ケイ酸アルカリとしてケイ酸カリウム(モル比M:3.5)17部、シリカ系無機粒子として例1と同じ鱗片状シリカ80部、弱酸のアンモニウム塩として四ホウ酸アンモニウム3部を使用するほかは、例1と同様の試験を行った。結果をまとめて表1に示した。
【0055】
〔例8〕
ケイ酸アルカリとしてケイ酸カリウム(モル比M:4)80部、シリカ系無機粒子として例1と同じ鱗片状シリカ20部、弱酸のアンモニウム塩として四ホウ酸アンモニウムを添加しないほかは、例1と同様の試験を行った。結果をまとめて表1に示した。
【0056】
〔例9〕
ケイ酸アルカリとしてケイ酸カリウム(モル比M:4)79.9部、シリカ系無機粒子として例1と同じ鱗片状シリカ20部、弱酸のアンモニウム塩として四ホウ酸アンモニウム0.1部を使用するほかは、例1と同様の試験を行った。結果をまとめて表1に示した。
【0057】
〔例10〕
ケイ酸アルカリとしてケイ酸カリウム(モル比M:4)76部、シリカ系無機粒子として例1と同じ鱗片状シリカ19部、弱酸のアンモニウム塩として四ホウ酸アンモニウム5部を使用するほかは、例1と同様の試験を行った。結果をまとめて表1に示した。
【0058】
〔例11〕
ケイ酸アルカリとしてケイ酸カリウム(モル比M:4)74部、シリカ系無機粒子として例1と同じ鱗片状シリカ18部、弱酸のアンモニウム塩として四ホウ酸アンモニウム8部を使用するほかは、例1と同様の試験を行った。結果をまとめて表1に示した。
【0059】
〔例12〕
ケイ酸アルカリとしてケイ酸カリウム(モル比M:4)72部、シリカ系無機粒子として例1と同じ鱗片状シリカ18部、弱酸のアンモニウム塩として四ホウ酸アンモニウム10部を使用するほかは、例1と同様の試験を行った。結果をまとめて表1に示した。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の塗料用組成物は、車両等のエンジン回りの高温パイプの塗装、不燃性が要求される建築物の内装材塗装、さらには、耐熱性、耐磨耗性の要求の高いトンネル内壁塗装等の分野に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)主剤としてSiO2/M2O(MはR4N、Na、K又はLiであり、Rは水素または炭素数1〜10のアルキル基を示す。)のモル比が2.5〜8であるケイ酸アルカリ、(2)シリカ系無機粒子及び(3)水を混合して得られる無機塗料用組成物であって、さらに、硬化剤として(4)弱酸のアンモニウム塩を含むことを特徴とする無機質系塗料用組成物。
【請求項2】
前記ケイ酸アルカリを当該組成物中に固形分換算で固形分全体の35〜90質量%含有する請求項1に記載の無機質系塗料用組成物。
【請求項3】
前記シリカ系無機粒子が、平均粒径0.1〜20μmで、かつ、比表面積が10〜1000m2/gの鱗片状シリカである請求項1又は2に記載の無機質系塗料用組成物。
【請求項4】
前記シリカ系無機粒子の含有量が、固形分換算で固形分全体の5〜60質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の無機質系塗料用組成物。
【請求項5】
前記鱗片状シリカが、鱗片状シリカの薄片1次粒子が互いに面間が平行的に配向し、複数枚重なって形成される積層状態の粒子である請求項3に記載の無機質系塗料用組成物。
【請求項6】
前記弱酸のアンモニウム塩が、ホウ酸のアンモニウム塩である請求項1〜5のいずれかに記載の無機質系塗料用組成物。
【請求項7】
前記弱酸のアンモニウム塩が、四ホウ酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、酢酸アンモニウム及びクエン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種のアンモニウム塩であり、固形分換算で固形分全体の0.1〜8質量%含有する請求項1〜6のいずれかに記載の無機質系塗料用組成物。
【請求項8】
前記組成物が、主剤であるケイ酸アルカリを含有する第1液と、シリカ系無機粒子及び弱酸のアンモニウム塩を含有する第2液からなるものである請求項1〜8のいずれかに記載の無機質系塗料用組成物。
【請求項9】
塗布に際し、請求項8に記載の主剤であるケイ酸アルカリを含有する第1液と、シリカ系無機粒子及び弱酸のアンモニウム塩を含有する第2液を混合して塗布液を形成する工程、得られた塗布液を基材に塗布する工程、及び塗布基材を乾燥する工程からからなる無機質塗膜の形成方法。

【公開番号】特開2006−143934(P2006−143934A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337846(P2004−337846)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(390005728)旭硝子エスアイテック株式会社 (16)
【Fターム(参考)】