説明

無機酸化物、及びそれを用いた排ガス浄化用触媒

【課題】優れた耐熱性を有する無機酸化物を提供すること。
【解決手段】酸化アルミニウムと、酸化アルミニウムとの複合酸化物を形成しない金属酸化物と、希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の添加元素と、を含有する粒子状の無機酸化物であって、
前記酸化アルミニウムの含有割合が、前記酸化アルミニウム中のアルミニウム、前記金属酸化物中の金属元素、及び前記添加元素の合計量に対して、元素として48〜92at%であり、
前記無機酸化物の一次粒子のうちの80%以上が100nm以下の粒子径を有し、
前記一次粒子のうちの少なくとも一部が、表層部において前記添加元素の含有割合が局部的に高められた表面濃化領域を有するものであり、且つ、
前記表面濃化領域における前記添加元素の量が、前記無機酸化物の全体量に対して、酸化物換算で0.06〜0.98質量%であることを特徴とする無機酸化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物、及びそれを用いた排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関等の排気の浄化に用いる排ガス浄化用触媒には、高温で長期間使用されても高い触媒活性を維持するために、極めて高い耐熱性を有することが要求されている。
【0003】
排ガス浄化用触媒としては、例えば、粒子状の金属酸化物からなる担体に、触媒活性を有する金属を担持させたものが知られている。そして、このような排ガス浄化用触媒の耐熱性を高めるために、例えば、特開平05−285386号公報(特許文献1)には、酸化ジルコニウム粒子に希土類元素の酸化物を均一に固溶したものを担体として用いた触媒が開示されている。また、特開平09−141098号公報(特許文献2)には、酸化アルミニウムと希土類元素の酸化物とを組み合わせたものを担体として用いた触媒が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載のような従来の触媒は、耐熱性の点で未だ十分なものではなかった。
【0005】
また、例えば、特開2006−36556号公報(特許文献3)には、酸化アルミニウムと、酸化アルミニウムとの複合酸化物を形成しない金属酸化物と、希土類元素及びアルカリ土類元素のうち少なくとも一方からなる添加元素と、を含有する粒子状の無機酸化物であって、前記酸化アルミニウムの含有割合が、前記酸化アルミニウム中のアルミニウム、前記金属酸化物中の金属元素及び前記添加元素の合計量に対して15〜40モル%であり(元素として30〜80at%)、前記無機酸化物の一次粒子のうち80%以上が100nm以下の粒子径を有し、前記一次粒子の少なくとも一部は、その表層部において前記添加元素の含有割合が局部的に高められた表面濃化領域を有する無機酸化物が開示されており、明細書中において、前記表面濃化領域において、酸化物の量に換算したときに、前記無機酸化物の全体量に対して1〜5質量%の前記添加元素が存在している無機酸化物が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献3に記載のような無機酸化物を担体として用いた触媒は、担体の耐熱性が向上しているために比較的高い耐熱性を有するものの、耐熱性の点で未だ必ずしも十分なものではなかった。
【特許文献1】特開平05−285386号公報
【特許文献2】特開平09−141098号公報
【特許文献3】特開2006−36556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、優れた耐熱性を有する無機酸化物、並びにその無機酸化物を用いた排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねたところ、上記特許文献3に記載のような従来の触媒においては、一般的に耐熱性を向上させるとされる塩基性の添加元素の含有割合や酸化アルミニウムの含有割合が必ずしも適正な範囲となっていないことが明らかとなった。
【0009】
そして、本発明者らは、上記目的を達成すべく更に研究を重ねた結果、酸化アルミニウムと、酸化アルミニウムとの複合酸化物を形成しない金属酸化物と、特定の添加元素とを含有する粒子状の無機酸化物であって、前記添加元素を前記無機酸化物の一次粒子の表層部において局部的に高濃度となるように含有させた無機酸化物において、前記無機酸化物中の酸化アルミニウムの含有割合を特定の範囲に調整し、さらには前記添加元素が局部的に高濃度となっている領域(表面濃化領域)における添加元素の量を適正な範囲に調整することにより、驚くべきことに極めて優れた耐熱性を有する無機酸化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の無機酸化物は、酸化アルミニウムと、酸化アルミニウムとの複合酸化物を形成しない金属酸化物と、希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の添加元素と、を含有する粒子状の無機酸化物であって、
前記酸化アルミニウムの含有割合が、前記酸化アルミニウム中のアルミニウム、前記金属酸化物中の金属元素、及び前記添加元素の合計量に対して、元素として48〜92at%であり、
前記無機酸化物の一次粒子のうちの80%以上が100nm以下の粒子径を有し、
前記一次粒子のうちの少なくとも一部が、表層部において前記添加元素の含有割合が局部的に高められた表面濃化領域を有するものであり、且つ、
前記表面濃化領域における前記添加元素の量が、前記無機酸化物の全体量に対して、酸化物換算で0.06〜0.98質量%であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の無機酸化物においては、前記金属酸化物が少なくとも酸化ジルコニウムを含むものであることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の無機酸化物においては、前記金属酸化物がZrO、ZrO−CeO、ZrO−Y、ZrO−La、ZrO−Nd、ZrO−Prからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含むものであることが好ましい。
【0013】
また、本発明の無機酸化物においては、前記添加元素が、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Ceからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の無機酸化物においては、前記添加元素が、Y、La、Pr、Nd、Yb、Mg、Ca、Baからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の無機酸化物においては、前記添加元素が、La、Ndからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0016】
本発明の排ガス浄化用触媒は、前記無機酸化物にロジウムを担持してなることを特徴とするものである。
【0017】
なお、本発明によって優れた耐熱性を有する無機酸化物が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、上記のような組み合わせで構成される無機酸化物においては、酸化アルミニウムと上記金属酸化物とは互いに複合酸化物を形成しないため、それぞれの酸化物を主成分とする一次粒子が別個に存在している。そして、これら異種の一次粒子が互いに介在しながら凝集して二次粒子を形成しているため、互いの粒子が拡散の障壁となって、一次粒子同士の融着によるシンタリングが抑制されると考えられる。また、それぞれの一次粒子は添加元素を上記特定範囲の割合で含有しており、これにより、それぞれの一次粒子自体の高温環境下での相安定性及び結晶安定性も高められている。
【0018】
さらに、この無機粒子を構成する一次粒子の表層部において、添加元素の含有割合が局部的に高められた表面濃化領域が形成されている。言い換えると、添加元素の含有割合が高められた領域が、一次粒子の表面を覆うように形成されている。ただし、この表面濃化領域は一次粒子の表面を完全に覆っている必要は必ずしもなく、一次粒子の表面の少なくとも一部を覆っていればよい。上記のような添加元素は、酸化物となったときに塩基性を有するため、ロジウム(Rh)が担持されたときに、Rh−O−M(Mは担体中の添加元素)で表される結合を生成する。したがって、担体の一次粒子表面に希土類元素が多く存在すると、担持されたロジウム粒子が移動しにくくなり、これによりロジウムの粒成長が効果的に抑制される。一次粒子は、表層部だけでなく、表面濃化領域よりも内層の部分(内層部)においても添加元素を含有するが、希土類元素の含有割合を、局部的でなく、内層部も含む一次粒子全体にわたって高くすると、ロジウム等の触媒金属との相互作用は強まる一方で、担体自体の粒成長が促進される傾向にあるため、触媒金属の粒成長が十分に抑制されなくなる。
【0019】
そして、本発明の無機酸化物においては、無機酸化物中の酸化アルミニウムの含有割合と、上記表面濃化領域における添加元素の量とが、それぞれ適正な範囲に調整されていることにより、上記説明したような作用が十分に発揮され、優れた耐熱性を達成することができるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れた耐熱性を有する無機酸化物、並びにその無機酸化物を用いた排ガス浄化用触媒を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0022】
<無機酸化物>
先ず、本発明の無機酸化物について説明する。すなわち、本発明の無機酸化物は、酸化アルミニウムと、酸化アルミニウムとの複合酸化物を形成しない金属酸化物と、希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の添加元素と、を含有する粒子状の無機酸化物であって、
前記酸化アルミニウムの含有割合が、前記酸化アルミニウム中のアルミニウム、前記金属酸化物中の金属元素、及び前記添加元素の合計量に対して、元素として48〜92at%であり、
前記無機酸化物の一次粒子のうちの80%以上が100nm以下の粒子径を有し、
前記一次粒子のうちの少なくとも一部が、表層部において前記添加元素の含有割合が局部的に高められた表面濃化領域を有するものであり、且つ、
前記表面濃化領域における前記添加元素の量が、前記無機酸化物の全体量に対して、酸化物換算で0.06〜0.98質量%であることを特徴とするものである。
【0023】
(酸化アルミニウム)
本発明の無機酸化物は、酸化アルミニウムと、後述する金属酸化物と、後述する添加元素とを含有する無機酸化物である。このような酸化アルミニウム(Al)は、非晶質(例えば活性アルミナ)であっても、結晶質であってもよい。
【0024】
本発明においては、このような酸化アルミニウムの含有割合が、酸化アルミニウム中のアルミニウム、後述する金属酸化物中の金属元素、及び後述する添加元素の合計量に対して、元素として48〜92at%の範囲であることが必要である。酸化アルミニウムの含有割合が48at%未満では、得られる無機酸化物の耐熱性が不足する。他方、92at%を超えると、ロジウムを担持して触媒とした際に、水蒸気改質反応活性が低下する。また、得られる無機酸化物の担体としての耐熱性等の観点から、酸化アルミニウムの含有割合が55〜90at%の範囲であることが好ましい。
【0025】
(金属酸化物)
本発明にかかる金属酸化物は、酸化アルミニウムとの複合酸化物を形成しない酸化物であり、酸化アルミニウムとの組み合わせにおいて、互いに実質的に均一に固溶又は分散した状態の複合酸化物からなる一次粒子を形成しない酸化物である。すなわち、このような金属酸化物は、その前駆体としての水酸化物と、水酸化アルミニウムとを共沈した共沈物を焼成したときに、酸化アルミニウムを主成分とする一次粒子とは別個に一次粒子を形成する酸化物である。したがって、本発明の無機酸化物は、酸化アルミニウムを主成分とする一次粒子と、酸化アルミニウム以外の金属酸化物を主成分とする一次粒子とを含有する。このようにそれぞれの一次粒子が別個に形成されることは、後述する分析方法等によって確認することができる。
【0026】
このような金属酸化物としては、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ケイ素(SiO)及び酸化チタン(TiO)からなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含むものを挙げることができる。これらの中でも、触媒金属としてのロジウムと組み合わせたときに、耐熱性や触媒活性が特に優れた触媒が得られるという観点から、少なくとも酸化ジルコニウムを含むものが好ましく、ZrO、ZrO−CeO、ZrO−Y、ZrO−La、ZrO−Nd、ZrO−Prからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含むものがより好ましい。
【0027】
本発明においては、このような金属酸化物の含有割合が、金属酸化物中の金属元素、前記酸化アルミニウム中のアルミニウム及び後述する添加元素の合計量に対して、元素として2.7〜51.1at%の範囲であることが好ましく、10〜40at%の範囲であることがより好ましい。金属酸化物の含有割合が前記下限未満では、ロジウムを担持し触媒とした際の水蒸気改質反応活性が低下する傾向にある。他方、前記上限を超えると、担体自体の耐熱性が低下し、ロジウムの粒成長を十分に抑制することができない傾向にある。
【0028】
(添加元素)
本発明にかかる添加元素は、希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素である。このような添加元素としては、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、セリウム(Ce)を好適に用いることができる。これらの中でも、得られる無機酸化物の担体としての耐熱性等の観点から、Y、La、Pr、Nd、Yb、Mg、Ca、Baがより好ましく、La、Ndが特に好ましい。なお、これらの添加元素は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、後述する表面濃化領域とこれ以外の領域とで、異なる添加元素を無機酸化物中に含有させてもよい。
【0029】
本発明の無機酸化物中において、このような添加元素は、酸化アルミニウム又は前記金属酸化物に対して固溶、分散等した状態で存在している。特に、添加元素による本発明の効果をより顕著に発現させるため、無機酸化物の一次粒子の内層部分(後述する表面濃化領域以外の部分)においては、添加元素の少なくとも一部が酸化アルミニウム又は前記金属酸化物に固溶していることが好ましい。この場合、酸化アルミニウム及び前記金属酸化物がともに添加元素を固溶していることがより好ましい。
【0030】
本発明においては、このような添加元素の含有割合が、前記酸化アルミニウム中のアルミニウム、前記金属酸化物中の金属元素、及び添加元素の合計量に対して、元素として1.1〜8.0at%の範囲であることが好ましく、1.1〜6.0at%の範囲であることがより好ましい。添加元素の含有割合が前記下限未満では、高温環境下で触媒金属の粒成長が十分に抑制されなくなる傾向にある。他方、前記上限を超えると、触媒金属との相互作用が過剰に強くなって、触媒活性が低下する傾向にある。
【0031】
(粒子状の無機酸化物)
本発明の無機酸化物は、前述した酸化アルミニウム、金属酸化物及び添加元素を含有する粒子状の無機酸化物である。そして、このような無機酸化物の一次粒子のうち粒子数の割合で80%以上は、比表面積を大きくして触媒活性を高めるために、100nm以下の粒子径を有することが必要である。また、100nm以下の粒子径を有する一次粒子の割合は、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。なお、この粒子径は、1つの粒子に定義可能な直径のうち最大のものとする。また、粒子状の無機酸化物全体における一次粒子の平均粒子径は、1〜50nmであることが好ましく、3〜40nmであることがより好ましい。
【0032】
さらに、このような無機酸化物の一次粒子が凝集してなる二次粒子のうち少なくとも一部は、主として酸化アルミニウムからなる粒子径100nm以下の一次粒子と、主として酸化アルミニウム以外の金属酸化物からなる粒子径100nm以下の一次粒子と、が凝集して形成されていることが好ましい。これにより、高温環境下における担体のシンタリングがさらに顕著に抑制される傾向にある。
【0033】
ここで、「主として酸化アルミニウムからなる一次粒子」とは、酸化アルミニウムを主成分として形成される一次粒子のことを意味する。具体的には、主として酸化アルミニウムからなる粒子は、モル比又は質量比での比率において、全体の少なくとも半分以上が酸化アルミニウムで構成されることが好ましい。また、「主として金属酸化物からなる一次粒子」や、「主として酸化ジルコニウムからなる一次粒子」等の同様の表現についても、上記と同様の内容を意味する。
【0034】
なお、一次粒子の粒子径やそれぞれの組成、さらに二次粒子の凝集状態は、TEM(透過電子顕微鏡)、SEM(走査電子顕微鏡)、FE−STEM(フィールドエミッション−走査透過電子顕微鏡)、EDX(エネルギー分散型X線検出装置)、XPS(光電子分光分析装置)等を適宜組み合わせて無機酸化物を観察又は分析することにより、確認することができる。
【0035】
(表面濃化領域)
本発明においては、無機酸化物を構成する一次粒子のうちの少なくとも一部が、表層部において、前記添加元素の含有割合が局部的に高められた表面濃化領域を有していることが必要である。無機酸化物を構成する一次粒子のうち前記添加元素を含有するものについては、実質的に全てがこのような表面濃化領域を有していることが好ましいが、本発明の効果を著しく損なわない程度に、表面濃化領域を有しない一次粒子が混在していてもよい。
【0036】
また、本発明において、表面濃化領域における添加元素の含有割合は、粒子中のさらに内層側の領域における含有割合に対して相対的に高められていればよい。このような表面濃化領域は、ある程度の深さを有しながら一次粒子の表面を覆うように形成されるが、必ずしも一次粒子の表面全体を完全に覆っている必要はない。また、通常、一次粒子における添加元素の含有割合は、内層側から表層側に向かって徐々に高められている。したがって、表面濃化領域と、これより深層側の粒子中心部とは必ずしも明瞭な境界を形成するものではない。
【0037】
このような表面濃化領域における添加元素は、無機酸化物の一次粒子の表層部に存在している。そして、本発明においては、表面濃化領域における添加元素の量が、前記無機酸化物の全体量に対して0.06〜0.98質量%であることが必要である。表面濃化領域における添加元素の量が0.06質量%未満では、添加元素とロジウム等の触媒金属との相互作用が不十分となるために、優れた耐熱性を有する無機酸化物を得ることができない。他方、0.98質量%を超えると、触媒金属との相互作用が強すぎるために、得られた無機酸化物を担体として使用した際に触媒活性が低下する。
【0038】
なお、表面濃化領域における添加元素は、硝酸水溶液等の酸性溶液と接触したときに溶出する。したがって、表面濃化領域に存在する添加元素の量は、無機酸化物を硝酸水溶液に接触させたときに、硝酸水溶液中に溶出する添加元素の量を定量することによって、確認できる。より具体的には、例えば、無機酸化物0.1gを10mlの1N硝酸水溶液に加え、これを2時間攪拌して表面濃化領域に存在している添加元素を溶出し、溶出した添加元素の量を化学分析により定量することにより、表面濃化領域における添加元素の量を確認できる。
【0039】
また、無機酸化物の一次粒子において表面濃化領域が形成されていることは、上述のような添加元素の溶出による方法の他、例えば、EDX、SIMS(二次イオン質量分析装置)等を用いて組成分析して、一次粒子表層部と中心部とで添加元素の含有割合を比較することにより確認できる。あるいは、一次粒子中心部について直接組成分析するのに代えて、無機酸化物全体についてICP(高周波プラズマ発光分析装置)等で組成分析して無機酸化物全体の平均値としての添加元素の含有割合を定量し、表層部での添加元素の含有割合がこれよりも高いことを確認してもよい。
【0040】
(無機酸化物の製造方法)
以上説明したような無機酸化物は、例えば、アルミニウム、酸化物となったときに酸化アルミニウムとの複合酸化物を形成しない金属元素、並びに、希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の添加元素、を含有する共沈物を得る共沈工程と、得られた共沈物を焼成して酸化物の混合物を得る第一焼成工程と、得られた混合物に希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の添加元素を付着させた後に、更に焼成する第二焼成工程と、を含む製造方法によって好適に得ることができる。
【0041】
前記共沈物は、アルミニウム、前記金属元素及び添加元素が溶解した溶液から生成される。そして、このような溶液におけるアルミニウムの含有割合を、当該アルミニウム、前記金属元素及び前記添加元素の合計量に対して、元素として48〜95at%とすることが好ましく、50〜93at%とすることがより好ましい。溶液中のアルミニウムの含有割合が前記下限未満では、得られる無機酸化物の耐熱性が不足する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ロジウムを担持し触媒とした際の水蒸気改質反応活性が低下する傾向にある。
【0042】
また、このような溶液における添加元素の含有割合を、当該添加元素、アルミニウム及び前記金属元素の合計量に対して、元素として0.3〜5.7at%とすることが好ましく、0.3〜4.6at%とすることがより好ましい。溶液中の添加元素の含有割合が前記下限未満では、得られる無機酸化物を担体として用いたときに、無機酸化物の粒成長を抑制する効果が十分でなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる無機酸化物を担体として用いたときに、触媒金属との相互作用が強すぎるために、触媒活性が低下する傾向にある。
【0043】
このような溶液としては、無機酸化物を構成する各金属元素の塩等を水、アルコール等に溶解したものが好適に用いられる。このような塩としては、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0044】
また、これらの溶液をアルカリ性溶液と混合するなどして、溶液のpHを各金属元素の水酸化物が析出するような範囲(好ましくはpH9以上)となるように調整することにより、アルミニウム等を含有する共沈物が生成することができる。アルカリ性溶液としては、焼成時等に揮発により除去しやすい点等から、アンモニア又は炭酸アンモニウムの溶液が好適に用いられる。
【0045】
前記第一焼成工程においては、得られた共沈物を、好ましくは遠心分離及び洗浄した後、加熱により焼成して、酸化物の混合物を得る。このような第一焼成工程では、大気雰囲気等の酸化性雰囲気下、600〜1200℃で好ましくは0.5〜10時間加熱して共沈物を焼成するのがよい。
【0046】
さらに、前記第二焼成工程において、酸化物の混合物に添加元素を付着し、これを更に焼成することにより、粒子状の無機酸化物が得られる。このような方法によって、付着された添加元素の大部分は、焼成により酸化物となるとともに、一次粒子表層部に存在するようになり、表面濃化領域を有する無機酸化物を得ることができる。
【0047】
このように添加元素を付着させる方法としては、添加元素の塩(硝酸塩等)が溶解した溶液中に、酸化物の混合物を懸濁させてこれを攪拌する方法を挙げることができる。また、酸化物の混合物に付着させる添加元素の量は、得られる無機酸化物の表面濃化領域における添加元素の量を調整するという観点から、前記無機酸化物の全体量に対して、元素として0.6〜3.0at%とすることが好ましく、1.0〜2.8at%とすることがより好ましい。
【0048】
さらに、このような第二焼成工程においては、焼成温度が400〜1100℃の範囲であることが好ましく、500〜900℃の範囲であることがより好ましい。焼成温度が前記下限未満では、得られる無機酸化物の表面濃化領域を適正な範囲とすることが困難となり、触媒金属と添加元素との相互作用を適正に制御できない傾向にある。他方、前記上限を超えると、添加元素と酸化物の混合物との反応が進行し、表面濃化領域の保持が困難となる傾向にある。また、焼成時間は0.5〜10時間の範囲であることが好ましい。
【0049】
<排ガス浄化用触媒>
本発明の排ガス浄化用触媒は、前述した本発明の無機酸化物にロジウムを担持してなることを特徴とするものである。本発明の排ガス浄化用触媒においては、表面濃化領域における添加元素の量が適正に調整された本発明の無機酸化物を担体として用いることにより、その担体の固体塩基性が適正に制御されている。そして、このように担体の固体塩基性を適正に制御することにより、高温環境下においても担持されたロジウムの移動が抑制され、その粒成長が抑制されるものと推察される。さらに、このような排ガス浄化用触媒を実車に用いる場合には、白金、パラジウム等のロジウム以外の触媒金属を担持した触媒成分と組み合わせて用いることになるが、その場合でも、ロジウムの移動が抑制されているため、他の触媒金属とロジウムとの貴金属間の相互作用による触媒活性の低下を抑制することができる。また、ロジウムの劣化が抑制されることにより、排気雰囲気が還元剤過剰な場合のNO浄化性能の低下も抑制することができる。さらに、ロジウムの粒成長抑制と固体塩基性制御の相乗効果により、ロジウムメタルへの還元性が改善され、低温性能(低温域における触媒活性)も向上するものと推察される。なお、ロジウムは、含浸法等の従来公知の方法を採用して、担体に担持させることができる。また、本発明の無機酸化物に白金、パラジウム等のロジウム以外の触媒金属を更に担持してもよい。
【0050】
本発明の排ガス浄化用触媒中のロジウムの少なくとも一部は、前記無機酸化物の一次粒子の表層部において前記添加元素の含有割合が局部的に高められた領域(表面濃化領域)と接触するように担持されていることが好ましい。これにより、添加元素によるロジウムの粒成長抑制の効果がより顕著に発現する。
【0051】
ロジウムを担持させる量は、十分に高い触媒活性を発現させるため、担体質量に対して0.01〜3質量%であることが好ましく、0.05〜2質量%であることがより好ましく、0.1〜1質量%であることが更に好ましい。
【0052】
このような排ガス浄化用触媒を使用する形態は特に限定されず、例えば、ハニカム形状のモノリス基材、ペレット基材又はフォーム基材などの基材の表面上に排気浄化用触媒からなる層を形成させて、これを内燃機関等の排気流路中に配置する等して用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
先ず、1モルの硝酸アルミニウム9水和物、0.95モルのオキシ硝酸ジルコニウム2水和物及び0.05モルの硝酸ランタン6水和物を1600mLのイオン交換水に溶解して得た溶液を、十分に攪拌しながら、溶液中の金属カチオンに対する中和当量の1.2倍のアンモニアを含有するアンモニア水に加えて溶液のpHを9以上とし、アルミニウム、ジルコニウム及びランタンの水酸化物を共沈させて水酸化物前駆体を得た。そして、得られた水酸化物前駆体を遠心分離してから十分に洗浄した後、大気中400℃で5時間加熱して仮焼成した。続いて、仮焼成後の固形物を、大気中700℃で5時間加熱してから、さらに900℃で5時間加熱することにより焼成(第一焼成)して、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)及び酸化ランタン(La)を含有する第一焼成後の混合物を得た。得られた混合物における組成比はAl/ZrO/La=50/95/2.5(モル比)であった。すなわち、得られた混合物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として50at%であった。
【0055】
次に、得られた混合物49gを、2.6gの硝酸ネオジム6水和物(得られる無機酸化物の全体量に対して、酸化ネオジム換算で2質量%となる量)が溶解した硝酸ネオジム水溶液中で懸濁させた懸濁液を、2時間攪拌した。その後、懸濁液から水を蒸発させて残った固形物を、大気中110℃で12時間加熱した後、更に大気中900℃で5時間加熱することにより焼成(第二焼成)し、粒子状の無機酸化物を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として49.5at%であった。また、得られた無機酸化物における添加元素(ランタン及びネオジム)の含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として3.6at%であった。さらに、得られた無機酸化物をTEMにより観察したところ、その一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0056】
次いで、得られた無機酸化物を担体として、これをRh(NO水溶液中に加えて攪拌した後、水を蒸発させて残った固形物を大気中500℃で3時間加熱して焼成したものを、直径φ0.5〜1mmのペレット状に成形して、担体にロジウムが担持された排ガス浄化用触媒を得た。得られた排ガス浄化触媒における担持されたロジウムの量は担体100gに対して約0.5gであった。
【0057】
(実施例2)
1.5モルの硝酸アルミニウム9水和物、0.95モルのオキシ硝酸ジルコニウム2水和物及び0.05モルの硝酸ランタン6水和物を1600mLのイオン交換水に溶解して得た溶液を用いて共沈物を生成させ、混合物の組成比をAl/ZrO/La=75/95/2.5(モル比)とした以外は実施例1と同様にして、無機酸化物及び排ガス浄化触媒を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として59.4at%であった。また、得られた無機酸化物における添加元素(ランタン及びネオジム)の含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として3.0at%であり、一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0058】
(実施例3)
2モルの硝酸アルミニウム9水和物、0.95モルのオキシ硝酸ジルコニウム2水和物及び0.05モルの硝酸ランタン6水和物を1600mLのイオン交換水に溶解して得た溶液を用いて共沈物を生成させ、混合物の組成比をAl/ZrO/La=100/95/2.5(モル比)とした以外は実施例1と同様にして、無機酸化物及び排ガス浄化触媒を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として66.0at%であった。また、得られた無機酸化物における添加元素(ランタン及びネオジム)の含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として2.6at%であり、一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0059】
(実施例4)
4モルの硝酸アルミニウム9水和物、0.95モルのオキシ硝酸ジルコニウム2水和物及び0.05モルの硝酸ランタン6水和物を1600mLのイオン交換水に溶解して得た溶液を用いて共沈物を生成させ、混合物の組成比をAl/ZrO/La=200/95/2.5(モル比)とした以外は実施例1と同様にして、無機酸化物及び排ガス浄化触媒を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として79.4at%であった。また、得られた無機酸化物における添加元素(ランタン及びネオジム)の含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として1.8at%であり、一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0060】
(実施例5)
12モルの硝酸アルミニウム9水和物、0.95モルのオキシ硝酸ジルコニウム2水和物及び0.05モルの硝酸ランタン6水和物を1600mLのイオン交換水に溶解して得た溶液を用いて共沈物を生成させ、混合物の組成比をAl/ZrO/La=600/95/2.5(モル比)とした以外は実施例1と同様にして、無機酸化物及び排ガス浄化触媒を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として91.7at%であった。また、得られた無機酸化物における添加元素(ランタン及びネオジム)の含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として1.1at%であり、一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0061】
(実施例6)
実施例1で得られた第一焼成後の混合物48gを、5.3gの硝酸ネオジム6水和物(得られる無機酸化物の全体量に対して、酸化ネオジム換算で4質量%となる量)が溶解した硝酸ネオジム水溶液中で懸濁させた懸濁液を用いた以外は実施例1と同様にして、無機酸化物及び排ガス浄化触媒を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として48.9at%であった。また、得られた無機酸化物における添加元素(ランタン及びネオジム)の含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として4.6at%であり、一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0062】
(実施例7)
先ず、1モルの硝酸アルミニウム9水和物、0.95モルのオキシ硝酸ジルコニウム2水和物及び0.05モルの硝酸ネオジム6水和物を1600mLのイオン交換水に溶解して得た溶液を、十分に攪拌しながら、溶液中の金属カチオンに対する中和当量の1.2倍のアンモニアを含有するアンモニア水に加えて溶液のpHを9以上とし、アルミニウム、ジルコニウム及びネオジムの水酸化物を共沈させて水酸化物前駆体を得た。そして、得られた水酸化物前駆体を遠心分離してから十分に洗浄した後、大気中400℃で5時間加熱して仮焼成した。続いて、仮焼成後の固形物を、大気中700℃で5時間加熱してから、さらに900℃で5時間加熱することにより焼成(第一焼成)して、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)及び酸化ネオジム(Nd)を含有する第一焼成後の混合物を得た。得られた混合物における組成比はAl/ZrO/Nd=50/95/2.5(モル比)であった。すなわち、得られた混合物における酸化アルミニウムの含有割合は、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として50at%であった。
【0063】
次に、得られた混合物48gを、5.2gの硝酸ランタン6水和物(得られる無機酸化物の全体量に対して、酸化ランタン換算で4質量%となる量)が溶解した硝酸ランタン水溶液中で懸濁させた懸濁液を、2時間攪拌した。その後、懸濁液から水を蒸発させて残った固形物を、大気中110℃で12時間加熱した後、更に大気中900℃で5時間加熱することにより焼成(第二焼成)し、粒子状の無機酸化物を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として48.9at%であった。得られた無機酸化物における添加元素(ランタン及びネオジム)の含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として4.6at%であった。また、得られた無機酸化物をTEMにより観察したところ、その一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0064】
次いで、得られた無機酸化物を担体として、これをRh(NO水溶液中に加えて攪拌した後、水を蒸発させて残った固形物を大気中500℃で3時間加熱して焼成したものを、直径φ0.5〜1mmのペレット状に成形して、担体にロジウムが担持された排ガス浄化用触媒を得た。得られた排ガス浄化触媒における担持されたロジウムの量は担体100gに対して約0.5gであった。
【0065】
(実施例8)
第二焼成温度を500℃とした以外は実施例5と同様にして、無機酸化物及び排ガス浄化触媒を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として91.7at%であった。また、得られた無機酸化物における添加元素(ランタン及びネオジム)の含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として1.1at%であり、一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0066】
(実施例9)
1モルの硝酸アルミニウム9水和物、0.95モルのオキシ硝酸ジルコニウム2水和物及び0.1モルの硝酸ネオジム6水和物を1600mLのイオン交換水に溶解して得た溶液を用いて共沈物を生成させ、混合物の組成比をAl/ZrO/Nd=50/95/5(モル比)とし、この混合物49gを、2.6gの硝酸ランタン6水和物(得られる無機酸化物の全体量に対して、酸化ランタン換算で2質量%となる量)が溶解した硝酸ランタン水溶液中で懸濁させた懸濁液を用い、第二焼成温度を1000℃とした以外は実施例7と同様にして、無機酸化物及び排ガス浄化触媒を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として48.3at%であった。また、得られた無機酸化物における添加元素(ランタン及びネオジム)の含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として5.9at%であり、一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0067】
(比較例1)
0.5モルの硝酸アルミニウム9水和物、0.95モルのオキシ硝酸ジルコニウム2水和物及び0.05モルの硝酸ランタン6水和物を1600mLのイオン交換水に溶解して得た溶液を用いて共沈物を生成させ、混合物の組成比をAl/ZrO/La=25/95/2.5(モル比)とした以外は実施例1と同様にして、比較用の無機酸化物及び排ガス浄化触媒を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として32.9at%であった。また、得られた無機酸化物における添加元素(ランタン及びネオジム)の含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として4.5at%であり、一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0068】
(比較例2)
実施例1で得られた第一焼成後の混合物49gに代えて酸化アルミニウム49gを用いた以外は実施例1と同様にして、比較用の無機酸化物及び排ガス浄化触媒を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、ネオジム及びアルミニウムの合計量に対して、元素として99.4at%であった。また、得られた無機酸化物における添加元素(ランタン及びネオジム)の含有割合は、ランタン、ネオジム及びアルミニウムの合計量に対して、元素として0.6at%であり、一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0069】
(比較例3)
実施例6で用いた硝酸ネオジム6水和物5.3gに代えて硝酸ランタン6水和物6.5g(得られる無機酸化物の全体量に対して、酸化ランタン換算で5質量%となる量)を用い、第二焼成温度を500℃とした以外は実施例6と同様にして、比較用の無機酸化物及び排ガス浄化触媒を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として48.7at%であった。得られた無機酸化物における添加元素(ランタン)の含有割合は、ランタン、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として5.1at%であり、一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0070】
(比較例4)
実施例1で得られた第一焼成後の混合物49gを硝酸ネオジム水溶液中に含浸しなかった以外は実施例1と同様にして、比較用の無機酸化物及び排ガス浄化触媒を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として50.0at%であった。得られた無機酸化物における添加元素(ランタン)の含有割合は、ランタン、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として2.5at%であり、一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0071】
(比較例5)
実施例6で用いた硝酸ネオジム6水和物5.3gに代えて硝酸ネオジム6水和物6.6g(得られる無機酸化物の全体量に対して、酸化ネオジム換算で5質量%となる量)を用い、第二焼成温度を500℃とした以外は実施例6と同様にして、比較用の無機酸化物及び排ガス浄化触媒を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として48.7at%であった。得られた無機酸化物における添加元素(ランタン及びネオジム)の含有割合は、ランタン、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として5.1at%であり、一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0072】
(比較例6)
実施例6で用いた硝酸ネオジム6水和物5.3gに代えて硝酸ランタン6水和物6.5g(得られる無機酸化物の全体量に対して、酸化ランタン換算で5質量%となる量)を用いた以外は実施例6と同様にして、比較用の無機酸化物及び排ガス浄化触媒を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として48.7at%であった。得られた無機酸化物における添加元素(ランタン)の含有割合は、ランタン、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として5.1at%であり、一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0073】
(比較例7)
実施例6で用いた硝酸ネオジム6水和物5.3gに代えて硝酸ネオジム6水和物6.6g(得られる無機酸化物の全体量に対して、酸化ネオジム換算で5質量%となる量)を用いた以外は実施例6と同様にして、比較用の無機酸化物及び排ガス浄化触媒を得た。得られた無機酸化物における酸化アルミニウムの含有割合は、ランタン、ネオジム、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として48.7at%であった。得られた無機酸化物における添加元素(ランタン及びネオジム)の含有割合は、ランタン、アルミニウム及びジルコニウムの合計量に対して、元素として5.1at%であり、一次粒子の80%以上は100nm以下の粒子径を有していた。
【0074】
<表面濃化領域における添加元素の量の測定>
先ず、実施例1〜9及び比較例1〜7で得られた無機酸化物0.1gを1N硝酸10cm中で1時間攪拌後、濾液を抽出した。次に、得られた濾液中に溶解した添加元素(La、Nd)の量を誘導結合高周波プラズマ発光分光法〔Inductively copuled plasma atmoic emssion spectroscopy (ICP−AES)〕により測定した。そして、濾液中に溶解した添加元素の量を、無機酸化物0.1g中の表面濃化領域における添加元素の量として、無機酸化物の全体量に対する添加元素の量を算出した。なお、添加元素の量は無機酸化物中の酸化物の質量に換算した値で示した。
【0075】
<触媒の耐熱性の評価>
先ず、実施例1〜9及び比較例1〜7で得られた排ガス浄化用触媒の耐久試験を行った。すなわち、CO(2%)、CO(10%)、O(0%)、HO(3%)及びN(残部)からなるリッチガスと、CO(0%)、CO(10%)、O(1%)、HO(3%)及びN(残部)からなるリーンガスとを5分ずつ、温度1000℃、空間速度(SV)10000h−1の条件下で、50時間排ガス浄化用触媒に交互に供給した。
【0076】
次いで、耐久試験後の排ガス浄化用触媒のロジウム還元特性を評価した。すなわち、測定装置としては、昇温脱離測定装置(TPD)(大倉理研製)を用い、以下の測定条件の下で、耐久試験後の排ガス浄化用触媒における水素消費量をH−TPD法により測定した。なお、水素消費量はロジウムの酸化物のメタルへの還元されやすさと、ロジウムの有効な活性点数の両方を反映した指標であり、測定した数値が大きいほど触媒活性が高いと考えられる。そして、水素消費量の測定値が大きいほど触媒の耐熱性が優れると評価することができる。
前処理:O(20%)/Ar、20ml/min、500℃、10min
測定:H(2%)/Ar、20ml/min、30℃→600℃、20℃/min
触媒量:0.4g
検出器:質量分析計。
【0077】
<評価結果>
実施例1〜9及び比較例1〜7で得られた無機酸化物の表面濃化領域における添加元素の量、並びに排ガス浄化用触媒における水素消費量を表1に示す。また、実施例1〜9及び比較例1〜7で得られた第一焼成後の混合物及び無機酸化物における、酸化アルミニウムの含有割合、並びに添加元素の元素種及び含有割合を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表1に示した結果から明らかなように、無機酸化物中の酸化アルミニウムの含有割合、及び表面濃化領域における添加元素の量が特定の範囲に調整されている本発明の無機酸化物を用いた触媒(実施例1〜9)は、耐久試験後においても水素消費量が大きく、触媒活性が優れたものであった。したがって、本発明の無機酸化物を用いた排ガス浄化用触媒は、優れた耐熱性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、本発明によれば、優れた耐熱性を有する無機酸化物、並びにその無機酸化物を用いた排ガス浄化用触媒を提供することが可能となる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウムと、酸化アルミニウムとの複合酸化物を形成しない金属酸化物と、希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の添加元素と、を含有する粒子状の無機酸化物であって、
前記酸化アルミニウムの含有割合が、前記酸化アルミニウム中のアルミニウム、前記金属酸化物中の金属元素、及び前記添加元素の合計量に対して、元素として48〜92at%であり、
前記無機酸化物の一次粒子のうちの80%以上が100nm以下の粒子径を有し、
前記一次粒子のうちの少なくとも一部が、表層部において前記添加元素の含有割合が局部的に高められた表面濃化領域を有するものであり、且つ、
前記表面濃化領域における前記添加元素の量が、前記無機酸化物の全体量に対して、酸化物換算で0.06〜0.98質量%であることを特徴とする無機酸化物。
【請求項2】
前記金属酸化物が少なくとも酸化ジルコニウムを含むものであることを特徴とする請求項1に記載の無機酸化物。
【請求項3】
前記金属酸化物がZrO、ZrO−CeO、ZrO−Y、ZrO−La、ZrO−Nd、ZrO−Prからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含むものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の無機酸化物。
【請求項4】
前記添加元素が、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Ceからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の無機酸化物。
【請求項5】
前記添加元素が、Y、La、Pr、Nd、Yb、Mg、Ca、Baからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の無機酸化物。
【請求項6】
前記添加元素が、La、Ndからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の無機酸化物。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の無機酸化物にロジウムを担持してなることを特徴とする排ガス浄化用触媒。

【公開番号】特開2007−331992(P2007−331992A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167111(P2006−167111)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】