説明

無機酸化物蛍光体及びその製造方法並びに発光装置

【課題】有害物質を含まない照明装置を実現するために、化学的安定性に優れた白色蛍光体を提供する。
【解決手段】ペロブスカイト型の無機酸化物蛍光体であるCaTiOに、Bi元素を0.1原子%以上0.4原子%以下添加することにより、450から700nmの波長全域で発光強度が大である白色蛍光特性を得ることができる。CaTiOに、Bi元素を0.1原子%以上0.4原子%以下添加した後、900℃以上1100℃以下で焼成することにより、発光強度をより向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的安定性に優れ、演色性に優れた白色蛍光特性を有するペロブスカイト型酸化物の蛍光体及びその製造方法、並びに、蛍光体を用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主として利用されている照明器具は、白熱電球と蛍光灯である。蛍光灯は、水銀に低い蒸気圧で放電させることで効率良く254nmおよび185nmの紫外線を放出させることができる。該紫外線はガラス管内に塗布した蛍光体により白色光に変換される。蛍光灯は白熱電球に比べ発熱が極めて少なく同じ明るさを得るために必要な電力は数%である。しかし、近年になって欧州ではRoHS指令により、電気電子機器関連装置・デバイスにおいて、鉛や水銀等の有害物質の使用を将来的に禁止する規制が発せられている。これによって、これまで利用してきた蛍光灯の使用が限定されることが予想され、新たな照明装置の開発が急務とされている。今後の照明としての候補は、白色LED、有機・無機EL等が挙げられるが、現時点で、何が先行するのかは決定されておらず、化学的安定性に優れた白色蛍光体の開発が求められている。
【0003】
従来、ペロブスカイト型構造の酸化物からなる蛍光体について研究開発が進められてきた(特許文献1〜2、非特許文献1〜5)。特許文献1には、多結晶体Snペロブスカイト酸化物系の蛍光特性が示されている。特許文献2には、アルカリ土類金属とジルコニウムの酸化物を蛍光母体とした、ペロブスカイト系材料の蛍光体で赤色、青色、緑色が実現されることが示されている。また、非特許文献には、多結晶体ASnO系ペロブスカイト構造においてCa、Sr、Baで置換することで蛍光特性が得られることが示されている。非特許文献2には、多結晶体Sn系層状ペロブスカイト構造で青色蛍光が得られることが示されている。非特許文献3には、多結晶体層状ペロブスカイトSrn+1Ti3n+1系で赤色蛍光特性が示されている。非特許文献4には、多結晶体Pr原子置換(CaSrBa)TiOの赤色蛍光特性が示されている。非特許文献5には、CaTiO:Prの赤色蛍光特性が示されている。
【0004】
また白色蛍光体について先行技術を調査すると、特許文献3に白色蛍光体が示されている。特許文献3には、aMO・bM・cM(但し、MはBa、Sr、Ca、Mg及びZnからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、MはAl、Sc、Ga、Y、In、La、Gd及びLuからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、MはSi、Ti、Ge、Zr、Sn及びHfからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、aは8以上10以下、bは0.8以上1.2以下、cは5以上7以下の範囲の値である)で表される化合物に、付活剤として希土類元素、Mn及びBiからなる群より選ばれる1種以上の元素が含有されてなる蛍光体が記載されている。しかしながら、特許文献3の酸化物は、ペロブスカイト構造ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−146102号公報
【特許文献2】特開2009−35623号公報
【特許文献3】特開2007−77307号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Alloy Compd.Vol.387,pp L1−4(2005)
【非特許文献2】J.Mater.Sci.Lett.,Vol.11,1330(1992)
【非特許文献3】J.J.Appl.Phys.Vol.44,pp.761−764(2005)
【非特許文献4】Chem.Mater.Vol.17,3200(2005)
【非特許文献5】Physica Status Solidi A.Vol.160,pp255−263(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
化学的安定性に優れた白色蛍光体が求められているが、従来の結晶構造が単純なペロブスカイト型の無機酸化物においては、白色蛍光特性が実現できなかった。
【0008】
本発明は、これらの問題を解決しようとするものであり、ぺロブスカイト型酸化物を用いて、照明器具で使用可能な演色性の優れた白色蛍光特性を有する蛍光体を提供することを目的とする。また、白色蛍光特性を向上させる製造方法を提供することを目的とする。また、ペロブスカイト型酸化物を用いた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ぺロブスカイト型酸化物として知られているCaTiOに原子番号83番のビスマスBiを少量導入することによって、540nm近傍に中心を持つ波長領域でブロードな演色性に優れた白色蛍光特性を実現する。本発明は、前記目的を達成するために、以下の特徴を有する。
【0010】
本発明は、ペロブスカイト型の無機酸化物蛍光体であって、CaTiOにBi元素を0.1原子%以上0.4原子%以下添加し、白色蛍光特性を有することを特徴とする。Biの添加量は、CaTiOに対するモル%ともいえる。CaTiOは、CaとTiの比は1:1で、Biの添加量は、CaまたはTiを100%としたときの原子%である。また、本発明の無機酸化物蛍光体は、450から700nmの波長全域で発光スペクトルを有することを特徴とする。
【0011】
本発明は、無機酸化物蛍光体の製造方法であって、CaTiOに、Bi元素を0.1原子%以上0.4原子%以下添加し、900℃以上1100℃以下で焼成することを特徴とする。また、本発明は、発光装置に関し、本発明の無機酸化物蛍光体を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ぺロブスカイト型酸化物のCaTiOにBi元素を添加することにより、演色性の優れた白色蛍光を得ることができる。ペロブスカイト型酸化物を用いることにより、化学的安定性に優れた白色蛍光体が得られる。特にBi元素の添加量が0.1原子%以上0.4原子%以下であると、450から700nmの波長全域でブロードな発光スペクトルを得ることができ発光強度が大である。本発明の製造方法によれば、900℃以上1100℃以下で焼成することにより、450から700nmの波長域で発光強度をさらに向上させることできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1のCaTiO:Bi(0.2at.%)の(a)拡散反射スペクトルと(b)励起・発光スペクトル
【図2】実施例1におけるBiを0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.6at.%添加したCaTiO:Biの拡散反射スペクトル(上段)と励起発光スペクトル(下段)
【図3】実施例1におけるBiの濃度に対する発光強度
【図4】実施例2における900、1000、1100、1200℃で焼成したCaTiO:Bi(0.2at.%)のXRDパターン
【図5】実施例2における900、1000、1100、1200℃で焼成したCaTiO:Bi(0.2at.%)の(400)、(242)、(004)面における回折ピーク
【図6】実施例2における900、1000、1100、1200℃で焼成したCaTiO:Bi(0.2at.%)の拡散反射スペクトル(上段)と励起・発光スペクトル(下段)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について、以下説明する。本発明者等は、ペロブスカイト型酸化物において、白色蛍光特性の可能性について次の調査を行った。まず、最適化された合成条件でペロブスカイト型新規蛍光体の探索を行った。母体にはCaTiO、SrTiO、BaTiOを用いて、これに発光中心として期待できる元素を添加した。調査した母体と発光中心として期待できる元素の組み合わせを表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
表1の組み合わせのCaTiOにBiを添加した試料から発光が観測された。その他の組み合わせからは、発光が観測できなかった。
【0017】
(実施例1)
本発明の実施例1について、図及び表を参照して以下詳しく説明する。
【0018】
CaTiOにBiを添加した試料の製造について説明する。CaTiO:Biは、CaCO(99.99%)、TiO(99.99%)、B(99.9%)、Bi(99.9%)を用いて、以下の手順で合成した。CaCO粉末とTiO粉末は吸湿を防ぐため、120℃のオーブンで常時乾燥させた。まず、CaCOとBを乾式混合し、850℃で12h焼成することで、フラックスとなるCaBを合成した(粉末X線回折で不純物がないことを確かめた)。次に、Biを硝酸で溶解し、過剰な硝酸を蒸発させて硝酸ビスマスとした後、これをエタノールに溶解してBi(NOのエタノール溶液を作製した。CaTiO:Biが1g合成されるように、CaCO、TiO、CaBを0.975:1:0.025のモル比で秤量し、これにBi(NOエタノール溶液をCaTiOに対してBiが、0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6モル%になるように加え、さらにエタノールを数ml加えて、メノウ乳鉢中でエタノールが蒸発するまで湿式混合した。この混合粉末を白金ボートに入れ、200℃/hで1100℃まで昇温し、その温度で6h焼成した後、室温まで炉冷することによって、CaTiO:Bi粉末試料を合成した。得られた粉末は少し凝集しているが、これを軽く粉砕し、測定試料とした。
【0019】
CaTiO:Biの詳細な発光特性について以下調べた。まず、紫外線(330nm)をCaTiO:Biに照射した時、白色の発光を示すことが分かった。図1(a)と図1(b)に、CaTiO:Bi(0.2at.%)の拡散反射と励起・発光スペクトルをそれぞれ示す。発光スペクトルに白色に見える要因の450から700nmにブロードな発光が観測された。励起スペクトルからは335nmにピークA’、365nmに肩B’が観測された。反射スペクトルからは335nm以下にCaTiOのバンド間遷移による吸収と、365nm付近にBi3+のs−p遷移による吸収が観測された。
【0020】
次に、発光強度のBi濃度依存性について説明する。Biの添加量を、0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.6at.%とした試料を合成し、Biの最適な組成比を調べた。またBiを添加することによりCaTiOの格子定数が変化するか粉末X線回折実験により得た回折ピーク位置を比較し調べた。表2に、Biを0at.%添加して合成した試料と0.6at.%添加して合成した試料の格子定数を示す。なお、括弧内の数値は最後の桁の数値の誤差を示す。
【0021】
【表2】

【0022】
表2において、0at.%添加して合成した試料と0.6at.%添加して合成した試料の格子定数は、誤差内で一致したことから、0.6at.%の添加では格子定数の変化は観測されないことが分かる。
【0023】
図2に、Biの添加量を0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.6at.%とした試料(CaTiO:Bi)の拡散反射スペクトル(上段)と励起発光スペクトル(下段)を示す。Biを0.2at.%添加した試料の発光強度が最大であることから、CaTiOに対するBiの最適な添加量は0.2at.%である。
【0024】
図3に、Biの濃度に対する発光強度を示す。発光強度は0at.%から0.2at.%まで増大しそれ以降減少していることがわかる。またBiを0.6at.%添加した試料から明らかにCaTiO:Prの発光と思われる先鋭なピークが確認された(図2参照)。これはPrが湿式混合の際乳鉢から混入したか炉心間に付着していて、焼成の際試料に混入したものと考えられる。
【0025】
本実施例によれば、CaTiOにBiを添加することにより、白色蛍光体としての特性を有することがわかる。一般にBiを用いた蛍光体の発光はs−p遷移とされているため、本発明の発光は、Biのs−p遷移によるものと考えられる。図1に示した励起・発光スペクトルにおけるピークA’の波長はCaTiOのバンドギャップに相当することから、母体のバンド間遷移により生成した電子正孔対のエネルギーがBiに移動して発光しているものと考えられる。Biの添加濃度を増やしていくと反射スペクトルにおける365nm付近の吸収が大きくなったことから、この吸収はBi3+のs−p遷移によるものと考えられる。したがって、励起・発光スペクトルにおいて365nm付近に観測されたピークB’はBi3+のs−p遷移によるものと考えられる。
【0026】
以上のことから、本発明において、CaTiOに対するBiの添加量は、0.1〜0.4at.%が好ましい。さらに、0.1〜0.3at.%であれば、発光強度が大であるので(図2、3)より好ましい。
【0027】
(実施例2)
本実施例では、CaTiO:Biの製造における焼成条件について説明する。実施例1で示した同じ条件の製造方法において、焼成温度を変えて調べた。焼成時間6h、Biの添加量を0.2at.%とし、900、1000、1100、1200℃で焼成した試料を合成した。
【0028】
図4に、900、1000、1100、1200℃で焼成したCaTiO:Bi(0.2at.%)のXRDパターンを示す。1100℃と1200℃で焼成した試料からはCaTiOに帰属するピークのみ観測された。900、1000℃で焼成した試料からはCaTiOのほかにTiO(rutile)に帰属するピークが確認された。
【0029】
図5に、(400)、(242)、(004)面の回折ピークの拡大図を示す。合成した試料における(242)面の線幅は、焼成温度900℃から1200℃まで連続的に狭くなっている。
【0030】
図6に、900、1000、1100、1200℃で焼成したCaTiO:Bi(0.2at.%)の拡散反射スペクトル(上段)と励起・発光スペクトル(下段)を示す。1200℃で焼成した試料は発光強度が著しく下がった。900℃と1000℃で焼成した試料の発光スペクトルからは、1100℃の試料で見られたような365nm付近の肩B’は見られなかった。反射スペクトルからは、焼成温度を高くするにつれ365nm付近のBiのs−p遷移による吸収が大きくなっていることが観測された。
【0031】
1200℃で焼成したCaTiO:Bi(0.2at.%)の発光強度は、900、1000、1100℃で焼成したCaTiO:Bi(0.2at.%)の発光強度より大幅に低かった。この原因として、まず、低融点のBiが焼成中に蒸発したことが考えられる。しかし、1200℃で焼成したCaTiO:Biの反射スペクトルにおける365nm付近のBiの吸収は消失していないことから、Biは蒸発していないと考えられる。別の原因として、1200℃で焼成したCaTiO:Biに酸素欠損が生じ、この酸素欠損が照射光や発光を吸収し、発光効率が低下したことが考えられる。実際に、1200℃で焼成したCaTiO:Biの反射スペクトルでは可視領域の反射率が低下し、新たな吸収が現れている。
【0032】
以上のことから、本発明のCaTiO:Biを製造する際の、焼成条件は、900℃以上1100℃以下であることが好ましい。
【0033】
上記実施例では、粉末形状の例を示したが、その形状構造は粉末に限定されず、従来、蛍光体として用いられているバルク状、薄膜状等で用いることができる。
【0034】
上記実施の形態等で示した例は、発明を理解しやすくするために記載したものであり、この形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のペロブスカイト型の無機酸化物蛍光体は、演色特性の優れた白色蛍光特性を実現するものであり、かつ化学的安定性に優れるので、照明器具等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型の無機酸化物蛍光体であって、
CaTiOにBi元素を0.1原子%以上0.4原子%以下添加し、白色蛍光特性を有することを特徴とする無機酸化物蛍光体。
【請求項2】
450から700nmの波長全域で発光スペクトルを有することを特徴とする請求項1記載の無機酸化物蛍光体。
【請求項3】
CaTiOに、Bi元素を0.1原子%以上0.4原子%以下添加し、900℃以上1100℃以下で焼成することを特徴とする請求項1記載の無機酸化物蛍光体の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至2のいずれか1項記載の無機酸化物蛍光体を有することを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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