説明

無段変速機用潤滑油

【課題】高温においても従来にない高いトラクション係数を有し、かつ良好な低温流動性を満足することができ、自動車用CVT(無段変速機)の潤滑油として好適な無段変速機用潤滑油を提供することを目的とする。
【解決手段】基油として、(a)120℃におけるトラクション係数が2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンのそれの115%以上、(b)−40℃における粘度が、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンの粘度(260Pa・s)以下、及び(c)粘度指数が65以上、の性状を有する合成油Iと共に、−40℃における粘度が1Pa・s以下の合成油IIを用い、かつ当該基油が特定の性状を満たすものを用いたことを特徴とする無段変速機用潤滑油である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機用潤滑油に関し、さらに詳しくは、高温においても従来にない高いトラクション係数を有し、かつ良好な低温流動性を満足することができ、自動車用CVT(無段変速機)の潤滑油として好適な無段変速機用潤滑油に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用CVTはトルク伝達容量が大きく、また使用条件も過酷なため、使用する無段変速機用潤滑油のトラクション係数は、使用温度範囲での最低値、すなわち高温(120℃)でのトラクション係数がCVTの設計値より十分に高いことが動力伝達面で必須である。
また無段変速機用潤滑油はCVT内で通常の潤滑油としての役割を担っているので、高温でも十分な油膜を保持できるだけの高い粘度を有することが必要となる。
一方では北米・北欧等の寒冷地での低温始動性のために低温でも低い粘度を有すること(低温流動性)が要求される。すなわち、粘度の温度変化が小さいこと、つまり粘度指数の高いことが必要である。
このような事情のもとで、本発明者らは、先に、特定の物性を有する合成油を基油として使用してなるトラクションドライブ用流体(特許文献1参照)、及び特定の構造を基本骨格とする炭化水素化合物を少なくとも1種含み、かつ−40℃における粘度が40Pa・s以下であり、粘度指数が80以上である潤滑油基油(特許文献2参照)を開示した。
【0003】
ところで、最近では環境問題への意識の高まりから各国で燃費規制が強化されつつある。この燃費向上ニーズの高まりに応えるために、CVTが採用される傾向にある。CVTは無段階に変速できることから、必要な出力トルクにより最適なエンジン回転数を選択することができ、燃費向上効果が大きい。CVTには金属ベルト方式、チェーン方式、トラクションドライブ方式等があり、いずれの方式でも高い伝達効率が求められる。そこでトラクション係数の高い潤滑油を開発し、伝達効率を向上させることが必要となる。
また、CVTは無段階に変速するため、変速ショックがなく、シフトアップ時のエンジン回転数の落ち込みがないので加速性能が向上し、ドライバビリティーに優れている。
さらに、大型自動車やトラックにも搭載する例が増えている。このような大型車は高トルク容量であるため、今まで以上に高いトラクション係数をもつ潤滑油の開発が望まれる。
【0004】
【特許文献1】特開2000−17280号公報
【特許文献2】WO2005/035699号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、高温においても従来にない高いトラクション係数を有し、かつ良好な低温流動性を満足することができ、自動車用CVTの潤滑油として好適な無段変速機用潤滑油を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有する無段変速機用潤滑油を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、基油として、特定の性状を有する合成油を用いることにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)基油として、下記性状
(a)120℃におけるトラクション係数が、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンのそれの115%以上、
(b)−40℃における粘度が、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンの粘度(260Pa・s)以下、及び
(c)粘度指数が65以上、
である合成油Iと共に、−40℃における粘度が1Pa・s以下の合成油IIを用い、かつ当該基油の性状が、
(a’)120℃におけるトランクション係数が、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンのそれの110%以上、
(b’)−40℃における粘度が130Pa・s以下、及び
(c’)粘度指数が70以上、
である無段変速機用潤滑油、
(2)基油の−40℃における粘度が60Pa・s以下である上記(1)に記載の無段変速機用潤滑油、
(3)合成油Iが、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環化合物を二つ含み多重結合を有さない化合物である上記(1)又は(2)に記載の無段変速機用潤滑油、
(4)合成油Iが、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環化合物の二量体の水素化物である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の無段変速機用潤滑油、
(5)合成油IIが、下記の一般式(IV)〜(IX)
【化1】

(式中、R4及びR5は、それぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、k及びmはそれぞれ独立に0〜6の整数を示し、nは0〜2の整数を示す。また、R4、R5が複数ある場合には、複数のR4、R5は同一でも異なっていてもよい。)
で表される炭化水素化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の無段変速機用潤滑油、
(6)酸化防止剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、摩擦低減剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、耐摩耗剤、消泡剤及び極圧剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む上記(1)〜(5)のいずれかに記載の無段変速機用潤滑油、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高温においても従来にない高いトラクション係数を有し、かつ良好な低温流動性を満足することができ、自動車用CVTの潤滑油として好適な無段変速機用潤滑油を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の無段変速機用潤滑油(以下、単に「本発明の潤滑油」と称することがある。)は、基油として、下記性状
(a)120℃におけるトラクション係数が、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンのそれの115%以上、
(b)−40℃における粘度が、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンの粘度(260Pa・s)以下、及び
(c)粘度指数が65以上、
を有する合成油Iと共に、−40℃における粘度が1Pa・s以下の合成油IIを用い、かつ当該基油が特定の性状を有するものを用いることを特徴とする。
本発明の潤滑油において、基油を構成する合成油Iは、120℃におけるトラクション係数が、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン(以下、DC2MPと略記することがある。)のそれの115%以上であることを要す。DC2MPは、産業用トラクションドライブ流体の基油として市販されている。合成油Iのトラクション係数が、DC2MPのそれの115%未満であると、高温におけるトラクション係数が低く、後述する低粘度の合成油IIを混合したときに、さらにトラクション係数が低くなり、高トルク容量車への搭載が不可能となる。
またCVTの設計値を高くすることができず、伝達効率が悪い。前記トラクション係数は、DC2MPのそれの120%以上がより好ましい。その上限は他の性能を満足すれば特に制限はない。
【0009】
なお、前記トラクション係数は、下記の方法で測定して求めた値である。
<トラクション係数の測定>
120℃でのトラクション係数の測定は二円筒転がり滑り摩擦試験機にて行った。すなわち、接している同じサイズの円筒(直径52mm、厚さ6mmで被駆動側は曲率半径10mmのタイコ型、駆動側はクラウニングなしのフラット型)の一方を一定速度で、他方の回転速度を連続的に変化させ、両円筒の接触部分に錘により98.0Nの荷重を与えて、両円筒間に発生する接線力、即ちトラクション力を測定し、トラクション係数を求めた。この円筒は軸受鋼SUJ−2鏡面仕上げでできており、平均周速6.8m/s、最大ヘルツ接触圧は1.23GPaであった。また、流体温度(油温)120℃でのトラクション係数を測定するにあたっては、油タンクをヒーターで加熱することにより、油温を40℃から140℃まで昇温させ、すべり率5%におけるトラクション係数を求めた。
【0010】
当該合成油Iは、−40℃における粘度が、DC2MPの粘度(260Pa・s)以下であることを要す。この粘度が、DC2MPの粘度(260Pa・s)を超えると、北米や北欧などの寒冷地においては、使用しにくい。−40℃における粘度は、好ましくは130Pa・s以下、より好ましくは100Pa・s以下、さらに好ましくは60Pa・s以下である。
このように、−40℃における粘度を低くするには、後述の低粘度の合成油IIを少量加え、トラクション係数の低下を抑制すると共に、粘度を下げることが望ましい。
なお、前記−40℃における粘度は、ASTM D2983に準拠し、ブルックフィールド粘度を測定した値である。
当該合成油Iは、粘度指数が65以上であることを要す。この粘度指数が65未満であれば、高温時での粘度が不足し、油膜切れを起こす原因となる。該粘度指数は、好ましくは70以上、より好ましくは75以上、さらに好ましくは80以上である。
なお、前記粘度指数は、JIS K 2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した値である。
【0011】
本発明の無段変速機用潤滑油においては、基油として、前記合成油Iと共に、−40℃における粘度が1Pa・s以下の合成油IIを用い、かつ当該基油の性状が、
(a’)120℃におけるトラクション係数が、好ましくはDC2MPのそれの110%以上、より好ましくは115%以上、
(b’)−40℃における粘度が、好ましくは130Pa・s以下、より好ましくは100Pa・s以下、さらに好ましくは60Pa・s以下、及び
(c’)粘度指数が、好ましくは70以上、より好ましくは75以上、さらに好ましくは80以上、
であることが必要である。
【0012】
[合成油I]
本発明の潤滑油において、基油を構成する合成油Iとしては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環化合物を二つ含み、かつ多重結合を有しない化合物が好ましい。具体的には、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環を二つ有し、かつ炭素数1〜3のアルキル基(好ましくはメチル基)が1以上置換していてもよい化合物であって、分子量が200〜400のものが挙げられる。
なお、多重結合を有さない化合物とは、二重結合、三重結合、及び芳香族結合などを含まない化合物であり、通常製造過程で水素化工程を経ることによって得ることができるものである。
このような化合物の中で、特にビシクロ[2.2.1]ヘプタン環化合物の二量体の水素化物が好ましい。
このような化合物としては、例えば下記一般式(I)
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基、R3は側鎖にメチル基もしくはエチル基が置換していてもよいメチレン基、エチレン基又はトリメチレン基を示し、s及びtは、それぞれ0〜3の整数、uは0又は1を示す。)
で表される化合物を挙げることができる。
前記一般式(I)で表される化合物の中でも、下記一般式(I−a)
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、qは1又は2の整数を示し、rは2又は3の整数を示す。)
で表される化合物が特に好ましい。
前記一般式(I−a)で表される化合物としては、例えば下記式(II)
で表されるendo−2−メチル−exo−3−メチル−exo−2−〔(exo−3−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−exo−2−イル)メチル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタン及びendo−2−メチル−exo−3−メチル−exo−2−〔(exo−2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−exo−3−イル)メチル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、並びに式(III)で表されるendo−2−メチル−exo−3−メチル−exo−2−〔(endo−3−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−endo−2−イル)メチル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタン及びendo−2−メチル−exo−3−メチル−exo−2−〔(endo−2−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−endo−3−イル)メチル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタンを好ましく挙げることができる。
【0017】
【化4】

【0018】
当該合成油Iは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
[合成油II]
本発明の潤滑油において、基油を構成する合成油IIとしては、下記一般式(IV)〜(IX)
【0019】
【化5】

【0020】
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、k及びmはそれぞれ独立に0〜6の整数を示し、nは0〜2の整数を示す。また、R4、R5が複数ある場合には、複数のR4、R5は同一でも異なっていてもよい。)
で表される炭化水素化合物が好ましい。
一般式(IV)〜(IX)で表される炭化水素化合物には、ビシクロ[2.2.1]ヘプタンの2位と6位、または3位と5位が結合した構造のものも含まれる。また、R4、R5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n‐プロピル基、イソプロピル基を挙げることができる。
前記一般式(IV)〜(IX)で表される炭化水素化合物の具体例としては、例えば4,8,8,9−テトラメチルデカヒドロ−1,4−メタノアズレン、1,1,5,5−テトラメチルオクタヒドロ−2H−2,4a−メタノナフタレン、4−イソプロピル−1,7a−ジメチル−オクタヒドロ−1,4−メタノ−インデン、4,7a、9,9−テトラメチル−オクタヒドロ−1,3a−エタノ−インデン、1,1,5,5,8−ペンタメチル−オクタヒドロ−2,4a−メタノ−ナフタレン、スピロ[1,2,7,7−テトラメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−3,1’−シクロペンタン、スピロ[1,2,7,7−テトラメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−3,1’−シクロヘキサンを挙げることができる。
当該合成油IIは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の潤滑油においては、当該合成油IIの使用量は、必要とされる−40℃における粘度によって決められるが、その使用量が多ければ多いほどトラクション係数が低下するため、基油全量に基づき、3〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
【0021】
本発明の無段変速機用潤滑油においては、基油に、本発明の効果が損なわれない範囲で、トラクションドライブ用流体として、従来用いられているその他の化合物を適宜含有させることができる。また、本発明の潤滑油には、本発明の効果が損なわれない範囲で、各種添加成分、例えば酸化防止剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、摩擦低減剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、耐摩耗剤、消泡剤及び極圧剤の中から選ばれる少なくとも1種を含有させることができる。
[任意添加成分]
任意添加成分としては、例えば酸化防止剤として、アルキル化ジフェニルアミン,フェニル−α−ナフチルアミンなどのアミン系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール,4,4’−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)などのフェノール系化合物;粘度指数向上剤として、ポリメチルメタクリレート系,ポリイソブチレン系,エチレン−プロピレン共重合体系,スチレン−イソプレン共重合体系,スチレン−ブタジエン水添共重合体系を挙げることができる。
【0022】
さらに、清浄分散剤として、アルカリ土類金属スルホネート, アルカリ土類金属フェネート,アルカリ土類金属サリチレート,アルカリ土類金属ホスホネート等の金属系清浄剤、並びにアルケニルコハク酸イミド,ベンジルアミン,アルキルポリアミン,アルケニルコハク酸エステル等の無灰系分散剤;摩擦低減剤としては、脂肪族アルコール,脂肪酸,脂肪酸エステル,脂肪族アミン,脂肪酸アミン塩,脂肪酸アミド;金属不活性化剤として、ベンゾトリアゾール,チアジアゾール,アルケニルコハク酸エステル;流動点降下剤として、ポリアルキルメタクリレート,ポリアルキルスチレン;耐摩耗剤としては、MoDTP,MoDTCなどの有機モリブデン化合物、ZnDTPなどの有機亜鉛化合物、アルキルメルカプチルボレートなどの有機ホウ素化合物、グラファイト,二硫化モリブデン,硫化アンチモン,ホウ素化合物,ポリテトラフルオロエチレンなどの固体潤滑剤系耐摩耗剤;消泡剤として、ジメチルポリシロキサン,ポリアクリレート;極圧剤として、硫化油脂,ジフェニルスルフィド,メチルトリクロロステアレート,塩素化ナフタレンなどを挙げることができる。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた流体の性状は、以下に示す方法に従って測定した。
(1)動粘度
JIS K 2283に準拠し、40℃、100℃における動粘度を測定する。
(2)粘度指数
JIS K 2283に準拠して測定する。
(3)ブルックフィールド粘度
ASTM D2983に準拠し、−40℃における粘度を測定する。
(4)15℃密度
JIS K 2249に準拠して測定する。
(5)トラクション係数
明細書本文記載の方法に従って測定する。
(6)2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンとのトラクション係数の比
下記の式により、%で表示した。
〔(各流体の120℃におけるトラクション係数)×100〕/(2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンの120℃におけるトラクション係数)
【0024】
製造例1 合成油I:流体1の製造
(1)原料オレフィンの調製
2Lのステンレス製オートクレーブに、クロトンアルデヒド561g(8モル)及びジシクロペンタジエン352g(2.67モル)を仕込み、170℃で3時間攪拌して反応させた。
反応溶液を室温まで冷却した後、スポンジニッケル触媒〔川研ファインケミカル(株)製,M−300T〕18gを加え、水素圧0.9MPa・G、反応温度150℃で4時間水素化を行った。冷却後、触媒を濾別した後、濾液を減圧蒸留し、105℃/2.66kPa留分565gを得た。この留分をマススペクトル,核磁気共鳴スペクトルで分析した結果、この留分は2−ヒドロキシメチル−3−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン及び3−ヒドロキシメチル−2−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタンであることが確認された。次いで、外径20mm,長さ500mmの石英ガラス製流通式常圧反応管に、γ−アルミナ〔日揮化学(株)製,N612N〕20gを入れ、反応温度285℃,質量空間速度(WHSV)1.1hr -1で脱水反応を行い、2−メチレン−3−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン及び3−メチレン−2−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン55質量%、2,3−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン30質量%を含有する2−ヒドロキシメチル−3−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタンと3−ヒドロキシメチル−2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタンの脱水反応生成物490gを得た。
(2)二量体の調製
1Lの四つ口フラスコに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体8g、及び上記(1)で得たオレフィン化合物400gを入れ、メカニカルスターラーを用いて攪拌しながら、0℃で6時間二量化反応を行った。この反応混合物を希NaOH水溶液と飽和食塩水で洗浄した。
(3)水素化工程
1Lオートクレーブに上記(2)で得たオレフィン化合物300g及び水素化用ニッケル/ケイソウ土触媒〔日揮化学(株)製,N−113〕12gを加え、水素圧3MPa・G,反応温度180℃,反応時間2時間の条件で水素化反応を行った。反応終了後、濾過により触媒を除き、濾液を減圧で蒸留することにより、目的とする二量体水素化物240gを得た(合成油I:流体1)。流体1の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表1に示す。
【0025】
製造例2 合成油I:流体2の製造
二量体の調製までは、流体1と同様に実施した。
1Lオートクレーブにイソオクタン200ml及び水素化用ニッケル/ケイソウ土触媒〔堺化学(株)製,SN−750〕9.0gを加え、水素圧3MPa・G,反応温度180℃,反応時間1時間の条件で触媒を活性化した。それに上記で得たオレフィン化合物300gを加え、水素圧3MPa・G,反応温度80℃,反応時間5時間水素化反応を行った。さらに10質量%Pd−C 9.0gを加え、水素圧3MPa・G 、反応温度150℃で1時間反応した。反応終了後、濾過により触媒を除き、濾液を減圧で蒸留することにより、目的とする二量体水素化物240g(合成油I:流体2)を得た。流体2の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表1に示す。
製造例3 合成油I:流体3の製造
前記流体2を充填材を詰めた40mmφ、120cmのカラムで精密蒸留し、沸点137−139℃/266Paの留分を21%の収率で得た(合成油I:流体3)。流体3の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
流体1〜3は、いずれも従来にない高いトラクション係数を有し、粘度指数も高く、かつ低温粘度がDC2MPより低い。
【0028】
製造例4 流体Aの製造
純度80質量%ロンギフォーレン〔Honghe Fine Chemical社製〕1000gと水添用ニッケル/ケイソウ土触媒(日揮化学社製、N−113)30gを2Lオートクレーブに入れ、水素圧3MPa・G、反応温度180℃で3時間水素化を行った。反応終了後濾過により触媒を除き、精密蒸留することにより、目的とするロンギフォーレン水素化物700gを得た(合成油II:流体A:4,8,8,9−テトラメチルデカヒドロ−1,4−メタノアズレン)。流体Aの一般性状及びトラクション係数の測定結果を表2に示す。
実施例1 流体4の製造
製造例4の流体Aを含有量が全質量の8質量%となるように流体1に混合して、流体4を製造した。流体4の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表2に示す。
実施例2 流体5の製造
製造例4の流体Aを含有量が全質量の15質量%となるように流体1に混合して、流体5を製造した。流体5の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表2に示す。
実施例3 流体6の製造
製造例4の流体Aを含有量が全質量の8質量%となるように流体2に混合して、流体6を製造した。流体6の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表2に示す。
実施例4 流体7の製造
製造例4の流体Aを含有量が全質量の15質量%となるように流体2に混合して、流体7を製造した。流体7の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
製造例5 流体Bの製造
5L四つ口フラスコに製造例4と同じロンギフォーレン1000g、酢酸500mlを入れ、20℃で攪拌しながら三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体500mlを4時間で滴下して異性化を行った。この反応混合物を氷水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、蒸留精製後、2Lオートクレーブに水添用パラジウム−カーボン触媒18gと共に加え、水素化を行った(水素圧 3MPa・G、反応温度100℃、反応時間 3時間)。反応終了後、濾過により触媒を除き、精密蒸留することにより、目的とするロンギフォーレン異性化水素化物600g(合成油II:流体B:1,1,5,5−テトラメチルオクタヒドロ−2,4a−メタノナフタレン)を得た。流体Bの一般性状及びトラクション係数の測定結果を表3に示す。
実施例5 流体8の製造
製造例5の流体Bを含有量が全質量の8質量%となるように流体1に混合して、流体8を製造した。流体8の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表3に示す。
【0031】
実施例6 流体9の製造
製造例5の流体Bを含有量が全質量の15質量%となるように流体1に混合して、流体9を製造した。流体9の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表3に示す。
実施例7 流体10の製造
製造例5の流体Bを含有量が全質量の8質量%となるように流体2に混合して、流体10を製造した。流体10の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表3に示す。
実施例8 流体11の製造
製造例5の流体Bを含有量が全質量の15質量%となるように流体2に混合して、流体11を製造した。流体11の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
製造例6 流体Cの製造
2L四つ口フラスコに製造例4と同じロンギフォーレン1000g、ブロム酢酸100gを入れ、170℃で18時間反応を行った。この反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水で洗浄し、蒸留精製後、2Lオートクレーブに水添用パラジウム−カーボン触媒18gと共に加え、水素化を行った(水素圧 6MPa・G,反応温度 100℃、反応時間 2時間)。反応終了後、濾過により触媒を除き、精密蒸留することにより、目的とする2−イソプロピル−1,7a―ジメチル−オクタヒドロ−1,4−メタノ−インデン200g(合成油II:流体C)を得た。流体Cの一般性状及びトラクション係数の測定結果を表4に示す。
実施例9 流体12の製造
製造例6の流体Cを含有量が全質量の8質量%になるように流体1に混合して、流体12を製造した。流体12の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表4に示す。
実施例10 流体13の製造
製造例6の流体Cを含有量が全質量の8質量%となるように流体2に混合して、流体13を製造した。流体13の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表4に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
製造例7 流体Dの製造
3L四つ口フラスコにジエチルエーテル680mlを入れ、0℃で濃硫酸360g、β―カリオフィレン(東京化成工業社製試薬)920gをゆっくりと滴下した。20時間後、水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、水蒸気蒸留により反応混合物を取り出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離、さらに精密蒸留を行い、β―カリオフィレン異性化物100gを得た。これをヘキサンで300mlに希釈し、1Lオートクレーブに水添用パラジウム−カーボン触媒9gと共に加え、水素化を行った(水素圧 6MPa・G,反応温度 100℃、反応時間 1時間)。反応終了後、濾過により触媒を除き、濾液を減圧で蒸留することにより、目的とする4,7a,9,9−テトラメチル−オクタヒドロ−1,3a−エタノ−インデン95g(合成油II:流体D)を得た。流体Dの一般性状及びトラクション係数の測定結果を表5に示す。
実施例11 流体14の製造
製造例7の流体Dを含有量が全質量の8質量%になるように流体1に混合して、流体14を製造した。流体14の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表5に示す。
実施例12 流体15の製造
製造例7の流体Dを含有量が全質量の8質量%となるように流体2に混合して、流体15を製造した。流体15の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表5に示す。
【0036】
【表5】

【0037】
製造例8 流体Eの製造
2L四つ口フラスコにロンギフォーレン500g、酢酸250mlを入れ、20℃で撹拌しながら、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体250mlを4時間で滴下して異性化反応を行った。この反応混合物を氷水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、蒸留精製後、塩化メチレン1800mlと0.5モル/L炭酸水素ナトリウム水溶液900mlに混合し、10℃以下で3−クロロ過安息香酸400gをゆっくりと加えた。反応終了後、1モル/L水酸化ナトリウム水溶液、水で洗浄し、減圧濃縮により得られる粗生成物をトルエン3Lに溶解させ、5℃以下で三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体260mlをゆっくりと滴下した。反応終了後、水で洗浄し、蒸留精製することで1,1,5,5−テトラメチルヘキサヒドロ−2H−2,4a−メタノ−ナフタレン−8−オン270gを得た。これを2.1モル/Lメチルリチウム/ジエチルエーテル溶液640ml中に5℃以下で滴下し、アルキル化を行い、反応終了後、飽和塩化アンモニウム水溶液、水で洗浄した。この反応生成物を1Lオートクレーブに水添用ニッケル/ケイソウ土触媒(日揮化学社製、N−113)30g共に加え、脱水水素化を行った(水素圧 6MPa・G、反応温度 250℃、反応時間 6時間)。
反応終了後、濾過により触媒を除き、濾液を減圧で蒸留することにより、目的とする1,1,5,5,8−ペンタメチルオクタヒドロ−2H−2,4a−メタノ−ナフタレン240g(合成油II:流体E)を得た。流体Dの一般性状及びトラクション係数の測定結果を表6に示す。
実施例13 流体16の製造
製造例8の流体Eを含有量が全質量の8質量%となるように流体1に混合して、流体16を製造した。流体16の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表6に示す。
実施例14 流体17の製造
製造例8の流体Eを含有量が全質量の15質量%となるように流体1に混合して、流体17を製造した。流体17の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表6に示す。
【0038】
【表6】

【0039】
製造例9 流体Fの製造
2L四つ口フラスコに、ヘキサン600ml、ソジウムアミド195gを入れ、懸濁液を加熱還流した。カンファー304g、1,4−ジブロモブタン628gを600mlのヘキサンに溶かした溶液を1時間かけて滴下し、そのまま13時間加熱還流した。反応物を10質量%硫酸水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出し、有機層を乾燥、濃縮後、減圧蒸留し、スピロ[1,7,7−トリメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オン−3.1’−シクロペンタン]326gを得た。
2L四つ口フラスコにスピロ[1,7,7−トリメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オン−3.1’−シクロペンタン]206g及びジエチルエーテル600mlを入れ、室温で2.1モル/Lメチルリチウム/ジエチルエーテル溶液600mlを1時間かけて滴下し、室温にて6時間反応した。
反応物を10質量%硫酸水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出し、有機層を乾燥、濃縮し、残渣を2Lナスフラスコに入れ、トルエン1L及びp−トルエンスルホン酸1.8gを加え、2時間脱水反応を行った。飽和炭酸水素ナトリウム水で洗い、有機層を乾燥、濃縮し、スピロ[1,7,7−トリメチル−2−メチレン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−3.1’−シクロペンタン]204gを得た。それをヘキサンに溶かし600mlとし、水添用パラジウム−カーボン触媒18gを加え、2Lオートクレーブで水素化した(水素圧 4MPa・G,反応温度 40℃、反応時間 6時間)。反応物を濾過し、濃縮後減圧蒸留し、スピロ[1,2,7,7−テトラメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−3.1’−シクロペンタン]190g(合成油II:流体F)を得た。流体Fの一般性状及びトラクション係数の測定結果を表7に示す。
実施例15 流体18の製造
製造例9の流体Fを含有量が全質量の8質量%となるように流体1に混合して、流体18を製造した。流体18の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表7に示す。
実施例16 流体19の製造
製造例7の流体Fを含有量が全質量の8質量%となるように流体2に混合して、流体19を製造した。流体19の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表7に示す。
【0040】
【表7】

【0041】
製造例10 流体Gの製造
2L四つ口フラスコに、ヘキサン600ml、ソジウムアミド195gを入れ、懸濁液を加熱還流した。カンファー304g、1,5−ジブロモペンタン690gを600mlのヘキサンに溶かした溶液を1時間かけて滴下し、そのまま13時間加熱還流した。反応物を10質量%硫酸水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出し、有機層を乾燥、濃縮後、減圧蒸留し、スピロ[1,7,7−トリメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オン−3,1’−シクロヘキサン]250gを得た。
2L四つ口フラスコにスピロ[1,7,7−トリメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オン−3,1’−シクロヘキサン]220g及びジエチルエーテル600mlを入れ、室温で2.1モル/Lメチルリチウム/ジエチルエーテル溶液600mlを1時間かけて滴下し、室温にて6時間反応した。
反応物を10質量%硫酸水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出し、有機層を乾燥、濃縮し、残渣を2Lナスフラスコに入れ、トルエン1L及びp−トルエンスルホン酸1.2gを加え、2時間脱水反応を行った。飽和炭酸水素ナトリウム水で洗い、有機層を乾燥、濃縮し、スピロ[1,7,7−トリメチル−2−メチレン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−3、1’−シクロヘキサン]150gを得た。それをヘキサンに溶かし600mlとし、水添用パラジウム−カーボン触媒18gを加え、2Lオートクレーブで水素化した(水素圧 4MPa・G,反応温度 40℃、反応時間 6時間)。反応物を濾過し、濃縮後減圧蒸留し、スピロ[1,2,7,7−テトラメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−3,1’−シクロヘキサン]80g(合成油II:流体G)を得た。流体Gの一般性状及びトラクション係数の測定結果を表8に示す。
実施例17 流体20の製造
製造例10の流体Gを含有量が全質量の8質量%となるように流体1に混合して、流体20を製造した。流体20の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表8に示す。
実施例18 流体21の製造
製造例10の流体Gを含有量が全質量の15質量%となるように流体1に混合して、流体21を製造した。流体21の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表8に示す。
【0042】
【表8】

【0043】
実施例1〜17の流体は、いずれも高いトラクション係数を有し、かつ粘度指数が高く、低温粘度も低い。
【0044】
比較例1 流体22製造(WO2003/014268に記載)
還流冷却器、攪拌装置および温度計を備えた500mlの四つ口フラスコに活性白土(水澤化学工業(株)製「ガレオンアースNS」)4g、ジエチレングリコールモノエチルエーテル10g及びα−メチルスチレン200gを入れ、反応温度105℃に加熱し、4時間攪拌した。反応終了後、生成液をガスクロマトグラフィーで分析して、転化率70%、目的物α−メチルスチレン線状二量体の選択率95%、副生成物α−メチルスチレン環状二量体の選択率1%、三量体等の高沸点物選択率4%であることが分かった。この反応混合物を1Lオートクレーブに水添用ニッケル/ケイソウ土触媒(日揮化学(株)製,「N−113」)15gを加え,水素化を行った(水素圧3MPa・G、反応温度250℃,反応時間5時間)。反応物を濾過し、濃縮後、減圧蒸留を行うことにより、99%純度のα−メチルスチレン線状二量体水素化物すなわち2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン125g(流体22)を得た。流体22の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表9に示す。
流体22はトラクション係数、粘度指数が低くかつ低温粘度が高い。
【0045】
比較例2 流体23の製造(特開2000−17280に記載)
(1)原料オレフィンの調製
1Lのステンレス製オートクレーブに、クロトンアルデヒド350.5g(5モル)及びジシクロペンタジエン198.3g(1.5モル)を仕込み、170℃で2時間攪拌して反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、5質量%ルテニウム−カーボン触媒〔NEケムキャット(株)製〕22gを加え、水素圧7MPa・G、反応温度180℃で4時間水素化を行った。冷却後、触媒を濾別した後、濾液を減圧蒸留し、70℃/120Pa留分242gを得た。この留分をマススペクトル,核磁気共鳴スペクトルで分析した結果、この留分は2−ヒドロキシメチル−3−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタンであることが確認された。次いで、外径20mm,長さ500mmの石英ガラス製流通式常圧反応管に、γ−アルミナ〔日化精工(株)製,ノートンアルミナSA−6273〕15gを入れ、反応温度270℃,質量空間速度(WHSV)1.07hr‐1 で脱水反応を行い、2−メチレン−3−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン65質量%
及び2,3−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン28質量%を含有する2−ヒドロキシメチル−3−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタンの脱水反応生成物196gを得た。
【0046】
(2)二量体水素化物の調製
500mlの四つ口フラスコに活性白土〔水澤化学(株)製ガレオンアースNS〕9.5g及び上記(1)で得たオレフィン化合物190gを入れ、145℃で3時間攪拌して二量化反応を行った。この反応混合物から活性白土を濾過した後、1Lオートクレーブに水素化用ニッケル/ケイソウ土触媒〔日揮化学(株)製,N−113〕6gを加え、水素圧4MPa・G、反応温度160℃、反応時間4時間の条件で水素化反応を行った。反応終了後、濾過により触媒を除き、濾液を減圧で蒸留することにより、目的とする沸点126〜128℃/27Pa留分の二量体水素化物116g(流体23)を得た。この二量体水素化物の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表9に示す。
流体23は粘度指数が低い。
【0047】
比較例3 流体24の製造(特開2000−17280に記載)
(1)原料オレフィンの調製
2Lのステンレス製オートクレーブに、クロトンアルデヒド561g(8モル)及びジシクロペンタジエン352g(2.67モル)を仕込み、170℃で3時間攪拌して反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、ラネーニッケル触媒〔川研ファインケミカル(株)製,M−300T〕18gを加え、水素圧0.9MPa・G、反応温度150℃で4時間水素化を行った。冷却後、触媒を濾別した後、濾液を減圧蒸留し、105℃/2.66kPa留分565gを得た。この留分をマススペクトル,核磁気共鳴スペクトルで分析した結果、この留分は2−ヒドロキシメチル−3−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタンであることが確認された。次いで、外径20mm,長さ500mmの石英ガラス製流通式常圧反応管に、γ−アルミナ〔日揮化学(株)製,N612N〕20gを入れ、反応温度285℃,質量空間速度(WHSV)1.1hr-1で脱水反応を行い、2−メチレン−3−メチルビシクロ〔2,2,1〕へプタン55質量%及び2,3−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン30質量%を含有する2−ヒドロキシメチル−3−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタンの脱水反応生成物490gを得た。
【0048】
(2)二量体水素化物の調製
1Lの四つ口フラスコに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体8g、及び上記(1)で得たオレフィン化合物400gを入れ、メカニカルスターラーを用いて攪拌しながら、20℃で4時間二量化反応を行った。この反応混合物を希NaOH水溶液と飽和食塩水で洗浄した後、1Lオートクレーブに水素化用ニッケル/ケイソウ土触媒〔日揮化学(株)製,N−113〕12gを加え、水素圧3MPa・G、反応温度250℃,反応時間6時間の条件で水素化反応を行った。反応終了後、濾過により触媒を除き、濾液を減圧で蒸留することにより、目的とする
二量体水素化物240gを得た(流体24)。この二量体水素化物の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表9に示す。
流体24はトラクション係数が低い。
比較例4 流体25の製造
実施例1の流体Aを含有量が全質量の8質量%となるように比較例1の流体22に混合して、流体25を製造した。流体25の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表9に示す。
流体25はトラクション係数及び粘度指数が低い。
【0049】
【表9】

【0050】
比較例5 流体26の製造
実施例1の流体Aを含有量が全質量の15質量%となるように比較例1の流体22に混合して、流体26を製造した。流体26の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表10に示す。
流体26はトラクション係数及び粘度指数が低い。
比較例6 流体27の製造
実施例1の流体Aを含有量が全質量の8質量%となるように比較例2の流体23に混合して流体27を製造した。流体27の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表10に示す。流体27はトラクション係数が低く、粘度指数も低い。
比較例7 流体28の製造
実施例1の流体Aを含有量が全質量の8質量%となるように比較例3の流体24に混合して、流体28を製造した。流体28の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表10に示す。
流体28はトラクション係数が低い。
比較例8 流体29の製造
実施例5の流体Bを含有量が全質量の8質量%となるように比較例3の流体24に混合して、流体29を製造した。流体29の一般性状及びトラクション係数の測定結果を表10に示す。
流体29はトラクション係数が低い。
【0051】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の無段変速機用潤滑油は、高温においても従来にない高いトラクション係数を有し、かつ良好な低温流動性を満足することができ、自動車用CVTの潤滑油として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油として、下記性状
(a)120℃におけるトラクション係数が、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンのそれの115%以上、
(b)−40℃における粘度が、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンの粘度(260Pa・s)以下、及び
(c)粘度指数が65以上、
である合成油Iと共に、−40℃における粘度が1Pa・s以下の合成油IIを用い、かつ当該基油の性状が、
(a’)120℃におけるトランクション係数が、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンのそれの110%以上、
(b’)−40℃における粘度が130Pa・s以下、及び
(c’)粘度指数が70以上、
である無段変速機用潤滑油。
【請求項2】
基油の−40℃における粘度が60Pa・s以下である請求項1に記載の無段変速機用潤滑油。
【請求項3】
合成油Iが、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環化合物を二つ含み多重結合を有しない化合物である請求項1又は2に記載の無段変速機用潤滑油。
【請求項4】
合成油Iが、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環化合物の二量体の水素化物である請求項1〜3のいずれかに記載の無段変速機用潤滑油。
【請求項5】
合成油IIが、下記の一般式(IV)〜(IX)
【化1】

(式中、R4及びR5は、それぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、k及びmはそれぞれ独立に0〜6の整数を示し、nは0〜2の整数を示す。また、R4、R5が複数ある場合には、複数のR4、R5は同一でも異なっていてもよい。)
で表される炭化水素化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の無段変速機用潤滑油。
【請求項6】
酸化防止剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、摩擦低減剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、耐摩耗剤、消泡剤及び極圧剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む請求項1〜5のいずれかに記載の無段変速機用潤滑油。

【公開番号】特開2009−1756(P2009−1756A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166808(P2007−166808)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】