説明

無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びそれを含む樹脂組成物

【課題】
接着強度改良効果の大きい無水マレイン酸変性ポリプロピレンの提供及びそれを含む機械的強度および耐久性に優れた充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】
無水マレイン酸のグラフト量が1.8〜2.5質量%で、かつメルトフローレート(MFR)が500g/10分より大きく、800g/10分以下である無水マレイン酸変性ポリプロピレン及び該無水マレイン酸変性ポリプロピレンを配合した、充填剤との界面接着性の改善による機械的強度および耐久性の向上した充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びそれを含む充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系樹脂は、成形性、耐熱性、耐薬品性、機械的物性、環境特性が良好など多くの優れた性質を有するため各種成形品として幅広く使用されている。また、汎用樹脂であるプロピレン系樹脂をガラス繊維などで強化し、耐衝撃性、剛性、耐熱性、引張り強度や曲げ強度などの機械的強度、及びクリープ特性や振動疲労性などの耐久性の性能向上が図られている。特に、省資源化の点から耐久性の向上が重要である。しかしながら、ポリプロピレンは非極性ポリマーであり、ガラス繊維などの極性物質との親和性が低いため、該物質に対する界面接着性が悪く、単にプロピレン系樹脂と極性充填物質を溶融混練しても上記の補強効果を得ることが困難である。この問題点を改善する方法として、無水マレイン酸などをプロピレン系樹脂にグラフト結合させた変性プロピレン系樹脂が開発され、これを添加することによりプロピレン系樹脂と極性充填物質との界面接着性の改善が図られている。この無水マレイン酸変性プロピレン系樹脂は、有機過酸化物や熱分解法等によって発生させたラジカルを開始剤として、無水マレイン酸をポリプロピレンにグラフトさせることにより製造される。この無水マレイン酸のグラフト量を上昇させると、極性充填物質との親和性が増し、その結果、界面接着性が向上し、上記の性能の向上も期待できる。
【0003】
上記の変性ポリプロピレンの製造は公知の方法として従来から溶剤中で反応を行う溶媒法、混練押出機を使用して、溶融状態で反応を行う溶融法(特許文献1及び2)とがある。
溶媒法は比較的高グラフトの酸変性ポリプロピレンが得られるという利点がある。即ち、反応時間を長くしたり、ラジカル剤を多くして反応することにより、グラフト量を容易に上げることができる。一方低分子量化も著しく進行する欠点がある。即ち、ポリプロピレンにおいては、その分子骨格中に3級炭素を有することから、グラフト反応の際に、ポリプロピレン分子鎖のβ開裂反応も生じ、両反応の競争反応となる。一般的には、β開裂反応速度の方がグラフト反応速度よりも早く、グラフト量を向上させると、結果的にメルトフローレートの顕著な上昇、つまり、分子量の著しい低下を伴うことが知られている。そして著しく低分子量化した変性ポリプロピレンは、極性充填物質との界面接着性の改善は出来得るが、マトリクス樹脂との絡み合い効果が期待できないため、結果的に機械的物性の低下の原因となる。更に、グラフト量があまり高すぎると、変性ポリプロピレン自体の極性が高すぎるため、マトリクス樹脂に配合したとき、マトリクス樹脂との相溶性がなくなり、両者の間に非相溶界面を形成し、マトリクス樹脂自体の強度を低下させる。また、溶媒法では通常、反応溶媒として使用されるトルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族化合物の完全除去が困難であるため、該変性ポリプロピレン中に比較的高含量で残存し、それを配合した樹脂成型品中にそれらが含まれることとなるため、該樹脂成型品を、揮発性有機化合物(VOC)の規制の厳しい自動車内装部品、食品包装等へ使用することが困難となる。
【0004】
また、溶融法で製造した変性ポリプロピレンは、溶媒法で製造したものに比して、低分子化の程度は著しく押さえることができるが、一方、グラフト化が進行し難いため、グラフト量がかなり低く、充填剤との界面接着性を向上させるためには、マトリクス樹脂にかなり多量の酸変性ポリプロピレン系重合体を添加することが必要であり、更に、大量の未反応酸分(すなわちグラフト反応しなかった不飽和カルボン酸等のエチレン性不飽和化合物等)を含み、更に、高温での処理を行うためその他の副生成物をも多く含む難点がある。特に未反応酸分は、例えば表面処理された充填剤、例えばガラス繊維等の処理表面の官能基と反応し、酸変性ポリプロピレンと該充填剤表面との結合を阻害し、更に、成形物に残存する大量の未反応酸分及びその他の副生成物が成形物の物性や環境へ悪影響を及ぼすので、変性ポリプロピレンがこれらを含有することは好ましくない。
【0005】
この未反応酸分を除去する方法として、得られた変性ポリプロピレンを溶媒に溶解後、再沈殿させ、未反応酸分を除去する方法(特許文献3)、あるいは、60℃以上の温度で加熱乾燥する方法(特許文献4)等が提案されているが、前者処理は上述のように洗浄溶剤の完全除去が困難である上、コスト面で不利である。また、後者処理は未反応酸分の除去が十分ではない。
【0006】
酸変性ポリプロピレンにおける無水マレイン酸のグラフト量とメルトフローレート(MFR)との関係については、通常上記のように、ある程度グラフト量は高く、メルトフローレートはできれば上限が数百程度までが好ましいとされており、例えば特許文献5には、成形体の外観に優れ、剛性と耐衝撃性のバランス、および、耐衝撃性と耐熱性のバランスに優れたプロピレン系樹脂組成物の製造方法が記載され、該樹脂組成物に配合する変性ポリプロピレンとして、グラフト率が0.01〜10重量%であり、メルトフローレートが0.1〜500g/10分のものが記載されており、具体的に、MFRが200g/10分でマレイン酸グラフト率が0.3重量%のもの、MFRが70g/10分で、マレイン酸グラフト率が0.8重量%のマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂が開示されている。また、特許文献6には、充填剤含有ポリオレフィン樹脂組成物が開示され、そこに配合されるポリオレフィン樹脂として、グラフト率が0.30〜20重量%、特に好ましくは0.50〜10重量%であり、メルトフローレート(MFR)が400g/10分以下であるものが開示され、機械的強度と生産安定性から、5〜400g/10分が好ましいとされ、より好ましくは10〜200g/10分、特に好ましくは20〜90g/10分であることが開示され、具体的に、MFRが70g/10分でマレイン酸グラフト率が0.64重量%のもの(実施例1)、MFRが350g/10分で、マレイン酸グラフト率が0.82重量%のマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂が開示されている。
【0007】
更に、特許文献7には、パーオキシカーボネート構造を有する有機過酸化物を使用して、溶媒の存在下に無水マレイン酸をグラフトした酸変性ポリプロピレン系重合体の製造方法が開示され、グラフト化率(GR)が0.5〜10%、より好ましくは1〜5%、更に好ましくは1.2〜4%で、メルトフローレート(MFR)が1〜1000g/10分、より好ましくは1〜500g/10分程度、更に好ましくは1〜300g/10分程度である酸変性ポリプロピレン系重合体が開示され、具体的には、実施例1〜5に、グラフト化率0.5〜1.3質量%で、メルトフローレート4〜151g/10分の無水マレイン酸変性ポリプロピレンが開示されている。
【特許文献1】特開昭58−17156号公報
【特許文献2】特開平4−198243号公報
【特許文献3】特開昭54−99193号公報
【特許文献4】特開昭56−95914号公報
【特許文献5】特開2006−56971号公報
【特許文献6】特開2004−197068号公報
【特許文献7】特開2006−249340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように従来充填剤含有ポリオレフィン系樹脂における充填剤とポリオレフィン系樹脂との接着性の改善のためのマレイン酸変性ポリプロピレンは種々知られているが、一般的に、そのメルトフローレートは500g/10分以下が好ましいとされている。そしてメルトフローレートは500g/10分以下で実際に得られているものは、無水マレイン酸でのグラフト化率が1%未満か、高くても1.5%のものである。そして、その効果においては満足すべきものは得られていない。特に、充填剤含有ポリオレフィン系樹脂における機械的強度及び耐久性の低下等の改善を充分に行うことができると共に、揮発性有機化合物の除去が充分に行われたマレイン酸変性ポリプロピレンは得られていない。
また、成形品における、耐衝撃性、剛性及び耐熱性等の機械的強度及び耐久性が改善され、かつ、揮発有機成分および未反応酸分等が低減された充填剤含有ポリオレフィン樹脂の開発が望まれていた。
従って、本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消しうる無水マレイン酸変性ポリオレフィン及びそれを含む充填剤強化ポリオレフィン系組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは比較的高い特定のグラフト量を有し、かつ、従来好ましいと考えられていたメルトフローレートよりも高い一定の範囲のメルトフローレートを有する特定の無水マレイン酸変性ポリプロピレンは、メルトフローレートの値が従来好ましいと考えられていたメルトフローレートよりも高いにもかかわらず、充填剤強化ポリオレフィン樹脂組成物に配合したとき、少量の添加であっても該樹脂組成物の物性を低下させることなくポリオレフィン系樹脂と充填剤との界面接着性の改善による機械的強度および耐久性を向上させることができると共に、該無水マレイン酸変性ポリプロピレンは揮発性有機化合物(以下VOCともいう)の含量を著しく減じたものとして得ることが出来るので、充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物に配合しても、VOC含量の少ない充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。なお、本発明において使用するメルトフローレート(g/10分)はJIS−K7210に基づき、温度230℃、荷重21.18Nで測定したものである。
【0010】
従って、本発明は、
(1) 無水マレイン酸のグラフト量が1.8〜2.5質量%で、かつメルトフローレート(MFR)が500g/10分より大きく、800g/10分以下である無水マレイン酸変性ポリプロピレン、
(2) 無水マレイン酸変性ポリプロピレンを80℃で1時間加熱した時に、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測定される揮発性有機化合物の合計量(以下トータルVOCともいう)が100μg/g以下である請求項1に記載の無水マレイン酸変性ポリプロピレン、
(3) 無水マレイン酸変性ポリプロピレン中に含まれる非グラフト無水マレイン酸(無水マレイン酸オリゴマーも含む)含量が、グラフトした無水マレイン酸量を100質量%として、25質量%以下である請求項1又は2に記載の無水マレイン酸変性ポリプロピレン、
(4) 無水マレイン酸のグラフト量が2質量%より多くかつ2.5質量%以下で、かつメルトフローレート(MFR)が550g/10分より大きく、800g/10分以下であり、かつ80℃で1時間加熱した時に、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測定される揮発性有機化合物の合計量が100μg/g以下であり、非グラフト無水マレイン酸(無水マレイン酸オリゴマーも含む)含量が、グラフトした無水マレイン酸量を100質量%として、20質量%以下である無水マレイン酸変性ポリプロピレン、
(5) 請求項1〜4の何れか一項に記載の無水マレイン酸変性ポリプロピレンを含む充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物、
(6) 充填剤とポリオレフィン系樹脂の合計量に対する無水マレイン酸変性ポリプロピレン含量が0.01〜3質量%である請求項5に記載の充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物、
(7) 充填剤が繊維類である請求項5又は6に記載の充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物、
(8) 繊維類が、ガラス繊維、炭素繊維及び天然繊維からなる群から選ばれるものである請求項7に記載の充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の無水マレイン酸変性ポリプロピレンは、充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物に配合されたとき、少量の配合で、該充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物の引張り強度、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度及び疲労強度を改善することができると共に、本発明の無水マレイン酸変性ポリプロピレンは揮発性有機化合物の含量が少ないことから、充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物に配合されても、配合された充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物における揮発性有機化合物での汚染を著しく軽減することができる。従って、本発明の無水マレイン酸変性ポリプロピレンを配合された充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物は、該組成物から得られる成型物の厚さ等を軽減することができ、成型物の軽量化が可能であり、また、リサイクル樹脂製品における補強用等に配合することも可能であり、更に、揮発性有機化合物の含量規制の厳しい、自動車内装及び食品包装等への用途拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
上記のように本発明の無水マレイン酸変性ポリプロピレン(以下において、単に本発明の変性ポリプロピレンとも言う)は、特定のグラフト率とメルトフローレート(MFR)を有することで特徴づけられるが、また、揮発性有機化合物及びグラフト化されない無水マレイン酸成分(非グラフト化無水マレイン酸)(未反応無水マレイン酸成分及び無水マレイン酸オリゴマー:以下両者を含めて、単に未反応酸分ともいう)の含量が少ないことによっても特徴づけられるもので、厳密にはこれら非グラフト化無水マレイン酸の含量の少ないことで特徴付けられる本発明の無水マレイン酸変性ポリプロピレンは組成物に当たるが、本発明においては便宜上、単に、無水マレイン酸変性ポリプロピレンという。
本発明の無水マレイン酸変性ポリプロピレンは上記から明らかなように、充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物への添加剤として適するものである。該無水マレイン酸変性ポリプロピレンは、例えば、次のようにして合成することができる。
例えば溶媒として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレートを使用し、原料ポリプロピレン、無水マレイン酸及び有機過酸化物として例えばターシャリーブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネートを、適宜任意の順序で、もしくは一緒に仕込み、通常加熱下、例えば150℃程度において、無水マレイン酸をポリプロピレンにグラフト重合させることにより、本発明の無水マレイン酸変性ポリプロピレンを得ることが出来る。
【0013】
原料ポリプロピレンとしては、通常メルトフローレート10g/10分以下程度のものが好ましく、通常市販の粉状又は粒状のポリプロピレンを用いることができる。なお、メルトフローレートの値は前記したように、JIS−K7210に従って温度230℃、荷重21.18Nで測定された値である。通常、原料ポリプロピレンとしては平均粒径は5〜0.01mm程度、好ましくは2〜0.05mm程度のものが使用される。本発明においては粉状のポリプロピレンを用いるのが好ましい。原料ポリプロピレンに対する無水マレイン酸の使用量は特に限定は無いが、通常、原料ポリプロピレン100質量部(以下部は特に断りのない限り質量部を表す)に対して、2〜100部程度であり、好ましくは20〜80部程度である。また、有機過酸化物としては、本発明の無水マレイン酸変性ポリプロピレンを得ることが出来るものであれば等に限定は無いが、上記ターシャリーブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネートが好ましい。有機過酸化物の使用量も反応条件等により異なるので一概にはいえないが、通常、原料ポリプロピレン100部に対して、0.1〜30部、好ましくは0.5〜25部、より好ましくは2〜20部、更に好ましくは4〜18部である。
【0014】
反応温度はグラフト反応が行われる温度であれば、特に限定されないが、通常60〜250℃、好ましくは70〜180℃、より好ましくは80〜170℃である。高温での反応は反応時間を短くできる点で好ましく、その場合には、100〜180℃程度、より好ましくは120〜170℃程度である。反応時間は、本発明の無水マレイン酸変性ポリプロピレンが得られるよう反応温度などとの関係で適宜決めればよい。また、溶媒の2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレートの使用量は特に限定はなく、反応に最適な量を適宜決めればよい。通常は原料ポリプロピレン100部に対して、1部以上、好ましくは10部以上、更に好ましくは20部以上であり、上限は特に無いが経済性などから、通常500部以下、好ましくは400部以下、より好ましくは350部以下、更に好ましくは300部以下程度である。
【0015】
グラフト反応後、得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレンからの未反応酸分の除去は、未反応酸分を溶解し得る溶剤での洗浄で行うことができる。洗浄は1回でもよいが、未反応酸分の少ないものとするため複数回、2〜5回程度繰り返すのが好ましい。溶剤は未反応酸分を溶解し得る溶剤であれば良いが、洗浄後の加熱減圧乾燥による洗浄溶剤の除去を考慮すると低沸点溶剤が好ましい。特に限定されないがメチルエチルケトン等のケトン系溶媒は好ましいものの一つである。
【0016】
上記のようにして得られた本発明の無水マレイン酸変性ポリプロピレンは、無水マレイン酸のグラフト量が1.8〜2.5質量%(本明細書においては特に断りのない限り%は質量%を意味する)である。好ましくはグラフト量が2%以上、更に好ましくは2%より多い方が良く、上限は2.4%以下が好ましく、更には2.3%以下が好ましい。好ましいものの一つとしてはグラフト量が1.8〜2.3%のものを挙げることができ、更に最も好ましいものの一つはグラフト量が2%より多く、かつ2.3%以下のものを挙げることができる。
メルトフローレートは500〜800g/10分の範囲であり、好ましくは500g/10分より大きいものであり、より好ましくは550g/10分より大きいものであり、更には600g/10分以上のものである。上限は800g/10分以下であればよいが、好ましくは750g/10分以下であり、更に好ましくは700g/10分程度である。
また、未反応酸分含量は、グラフトした酸分量を100%とすると、本発明においては通常、30%以下であり、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下であり、必要に応じて、更に好ましい15%以下、又は10〜0%のものを得ることが出来る。少なければ少ない程よいが、経済性など考慮すると、本発明の無水マレイン酸変性ポリプロピレン中に含有される未反応酸分含量が、該変性ポリプロピレン全体に対して、0.5%以下程度であれば、充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物に添加した場合にも、添加量も少ないことから、通常の使用においてはほとんど悪影響が無いと思われる。
【0017】
更に本発明の変性ポリプロピレンは揮発性有機化合物含量が少ないことが特徴であり、該変性ポリプロピレンを、80℃で1時間加熱したときの、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測定される揮発性有機化合物の合計量が100μg/g以下であり、好ましくは80μg/g以下であり、更に好ましくは60μg/g以下であることである。最も好ましいものの一つは50μg/g以下であり、場合によっては、40μg/g以下とすることが可能である。
【0018】
上記のようにして得られた本発明の変性ポリプロピレンは、従来の酸変性ポリオレフィンと同様に、ポリオレフィン系樹脂の添加剤、例えば、相溶性改善のための相溶剤又は接着性改善用の接着性ポリプロピレンなどとして有用であり、さらに、ナノコンポジットなど公知の用途に有用である。
【0019】
次に本発明の変性ポリプロピレンを配合した充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物について説明する。
該樹脂組成物は、変性ポリプロピレン、充填剤及びポリオレフィン系樹脂を、従来公知の方法で、混練することにより得ることが出来る。
該樹脂組成物への本発明の変性ポリプロピレンの配合量は、充填剤の種類によるが、ポリオレフィン系樹脂と充填剤の総質量を100%として、通常0.01〜3%程度である。好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.3%以上であり、更に好ましくは0.4%以上であり、また、場合によっては0.5%以上が最適であり、2.5%以下が好ましく、より好ましくは2%以下であり、1.5%以下又は1%以下においても充分な効果を発揮する。
配合量0.01%以下であると相溶化剤としての効果が低くなり、機械的物性が得られない。また、3%を超えた場合、配合量に対する機械的物性の向上は少なくなるので、コスト的に不利である。
本発明の変性ポリプロピレンを配合した充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物において、該樹脂組成物全体に対するグラフトした無水マレイン酸の割合(樹脂組成物全量に対するグラフト率とも言う)では、0.003〜0.06%程度が好ましく、より好ましくは0.006〜0.06%程度、更に好ましくは0.01〜0.06%程度であり、上限は経済性等も考慮すると、0.04%以下でもよく、更に、0.03%以下でも好ましい。また、0.02%以下においても本発明の優れた効果が充分に発揮される。
【0020】
本発明において、本発明の変性ポリプロピレンを配合する充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂に、成型品における強度等を改善する目的で、充填剤を配合した樹脂組成物であり、ポリオレフィン系樹脂はマトリクス樹脂となる。
該マトリクス樹脂として使用されるポリオレフィン系樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂であれば特に限定されない。典型的なものとしてはポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂などが挙げられる。ポリプロピレン系樹脂としてプロピレン単独重合体及びプロピレンと他の共重合成分との共重合体などを挙げることができる。またポリエチレン系樹脂としてはエチレン単独重合体及び他の共重合成分との共重合体などを挙げる。これらの中で、ポリプロピレン系樹脂がより好ましく、プロピレン単独重合体及びプロピレンとエチレンの共重合体などが更に好ましい。
【0021】
マトリクス樹脂にポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル又はポリフェニレンオキサイド等のエンジニアリングプラスチックやEPR又はEBR等のエラストマーを配合してもよい。
【0022】
該マトリクス樹脂に配合される充填剤は、通常使用されている何れであってもよく、例えばガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、芳香族ポリアミド繊維、ケナフ繊維、麻繊維、竹繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ジュート繊維、セルロース繊維又は木粉等の繊維類、あるいは、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、タルク、マイカ又はクレー等の無機材料等を挙げることができる。これらは単独であっても、2種以上を併用されていても良い。例えば無機材料と有機材料とを組み合わせた複合材料であってもよい。これらの中でも繊維類が好ましく、より好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維および天然繊維等が挙げられる。なお天然繊維に含まれるものとしては、ケナフ繊維、麻繊維、竹繊維、ジュート繊維、天然のセルロース繊維及び木粉等が挙げられる。
【0023】
また、繊維を収束するために収束剤を用いてもよい。さらに、繊維がシラン系カップリング剤などの表面処理剤で予め処理されていてもよい。また、本発明では繊維強化プロピレン系樹脂組成物中の平均繊維長、平均繊維径やフィラメント集束本数等は何れも公知のものが使用できる。
【0024】
上記の充填剤の配合量は、特に制限は無く、通常の配合量がそのまま適用できる。例えば、ポリオレフィン系樹脂と充填剤の総質量を100%として、充填剤の配合量は2〜80%程度であり、好ましくは5〜70%程度である。また、場合により10〜60%程度がより好ましい。
【0025】
本発明では従来ポリオレフィン系樹脂に添加される任意の添加剤や配合剤成分、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、分散剤、紫外線吸収剤、滑剤、造核剤、離型剤、着色剤、アルカリ金属化合物、超高分子量成分、光安定剤、可塑剤、発泡剤などをさらに配合することも可能である。これらの配合量は、通常使用される量であれば特に制限は無く、ポリオレフィン系樹脂と充填剤の総質量を100%として、0〜10%程度である。
【0026】
本発明の充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物において、上記各成分の配合量の残部がポリオレフィン系樹脂である。
本発明の充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物の好ましいものの一つは、本発明の変性ポリプロピレンを、ポリオレフィン系樹脂と充填剤の総質量を100%として、0.1〜2.5%含み、かつ、揮発性有機化合物が10μg/g以下、好ましくは3μg/g以下、より好ましくは1μg/g以下、若しくは検出限界以下であり、充填材が繊維類であるものである。
本発明の充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物は、従来公知の射出成形、押出成形又はブロー成形等の方法に従って、成型品とすることができる。
【実施例】
【0027】
以下実施例、参考例及び比較例により本発明をより詳しく説明する。
これらは本発明をより詳しく説明するための例示であり、これら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例を含め、本明細書における無水マレイン酸グラフト量、未反応酸分、メルトフローレート及びトータルVOCは以下に記載する方法により測定又は算出された値である。
【0028】
無水マレイン酸グラフト量の測定
サンプルの無水マレイン酸変性ポリプロピレン中に含まれる未反応酸分を完全に除くため、該酸変性ポリプロピレンを大量の140℃のキシレン中に完全に溶解し、冷却後、アセトンで析出、ろ過し、得られた析出物を、140℃、15mmHgで、1時間、加熱真空乾燥処理した。これを120℃、200kgf/cmで1分間熱プレスして、厚さ100μmのフイルムを作成した。この作成したフイルムの赤外吸収スペクトルを測定し、1780cm−1付近の吸収より無水マレイン酸グラフト量を定量した。
【0029】
未反応酸分の測定
サンプルの無水マレイン酸変性ポリプロピレンを140℃の加熱プレスにより、200kgf/cmで5分間保持し、厚さ100μmのフィルムを作成した。この作成したフィルムの吸水を避けるために成形後直ちに赤外吸収スペクトルを測定し、1780cm−1付近の吸収より、該サンプル中の無水マレイン酸量を定量した。前述精製処理を行った無水マレイン酸グラフト量との差を未反応酸分とした。
【0030】
メルトフローレートの測定
JIS−K7210に基づき、温度230℃、荷重21.18Nで測定した。
【0031】
トータルVOCの測定
ヘッドスペースガスクロマトグラフィーを用い、サンプルの無水マレイン酸変性ポリプロピレンを0.1gとり、20mlバイアル瓶に入れ、80℃で1時間加熱後の揮発性有機成分を定量し、合計をトータルVOCとした。
【0032】
実施例1
無水マレイン酸変性ポリプロピレンA(本発明変性ポリプロピレン)の合成
冷却管を備えた2Lのフラスコに溶媒として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート750ml、粉状ポリプロピレン250g(プロピレン単独重合体、平均粒子径約0.4mm、メルトフローレート:2g/10分、メルトフローレートの値はJIS−K7210に従って温度230℃、荷重21.18Nで測定された値である。)、無水マレイン酸180g及びターシャリーブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート40gを入れ150℃に加熱し、20分間撹拌し、グラフト重合を行った。なお、加熱はオイルバスを用いた。得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレンから未反応の無水マレイン酸を除去するために、1Lのメチルエチルケトンに懸濁し、30分間撹拌し、その後、ろ過した。この操作を4回繰り返した後、120℃、20mmHg以下で2時間、真空乾燥を行い本発明の無水マレイン酸変性ポリプロピレンを得た。得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレンにおける、グラフト量は2.2%、メルトフローレートは650g/10分であった。
【0033】
本発明の無水マレイン酸変性ポリプロピレンと従来品の比較
本発明の変性ポリプロピレンを、下記の2種類の市販の無水マレイン酸変性ポリプロピレン(B及びC)及び、後記従来の溶剤法で合成した無水マレイン酸変性ポリプロピレン(D)と、無水マレイン酸グラフト量、メルトフローレート、グラフト無水マレイン酸量に対する未反応酸分の割合及びトータルVOCについて、比較し、その結果を後記表1に示した。
【0034】
比較用サンプル
無水マレイン酸変性ポリプロピレンB:無水マレイン酸変性ポリプロピレン OREVAC CA100(商品名)(アルケマ社製、グラフト量:0.6%、メルトフローレート:1000g/10分以上)
無水マレイン酸変性ポリプロピレンC:ユーメックス1001(商品名、三洋化成株式会社製)(グラフト量:1.7%、メルトフローレート:1000g/10分以上)
【0035】
無水マレイン酸変性ポリプロピレンD:下記参考例に示す方法により合成した。
参考例
比較用無水マレイン酸変性ポリプロピレンDの合成
冷却管を備えた1000mlのフラスコに溶媒としてキシレン400ml、粒状ポリプロピレン60g(単独重合体、メルトフローレート:2g/10分、メルトフローレートの値はJIS−K7210に従って温度230℃、荷重21.18Nで測定された値である。)、無水マレイン酸11.3gを入れ140℃に加熱、撹拌し、ポリプロピレンを溶解させた後、40mlのキシレンにジクミルパーオキサイド4.1gを溶解させたキシレン溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、更に6時間、140℃を保持し、反応を行った。なお、加熱はオイルバスを用いた。反応終了後、内容物を室温まで下げ、アセトンに投入して、目的の無水マレイン酸変性ポリプロピレンを析出させ、濾過した。得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレンから未反応の無水マレイン酸を除去するために、500mlのメチルエチルケトンに入れ、10分間撹拌し、その後、ろ過した。この操作を2回繰り返した後、120℃、10mmHg以下で2時間、真空乾燥を行い、比較用の無水マレイン酸変性ポリプロピレンDを得た。この操作により得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレンのグラフト量は3.5質量%、メルトフローレートは1000g/10分以上であった。
【0036】
本発明及び比較用の無水マレイン酸変性ポリプロピレンの比較を下記表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から明らかなように、従来市販されている比較用1及び2は何れもグラフト量が低く、しかもメルトフローレートも1000g/10分以上と高くなっており、更に、未反応酸分及びトータルVOCも高いものとなっている。また、比較用に従来の溶媒法で合成した比較用3(無水マレイン酸変性ポリプロピレンD)はグラフト量が高く、未反応酸も少なくなっているが、メルトフローレートも1000g/10分以上と高い上、トータルVOCも高いものとなっている。
【0039】
次に本発明の充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物について実施例及び試験例を示す。
なお、本実施例及び比較例で使用したガラス繊維、木粉及びプロピレン重合体は下記のものを使用した。
ガラス短繊維:繊維径10μm、繊維長3.1mm、旭ファイバーグラス株式会社製。
木粉:セルロシンNo.100(商品名)、株式会社カジノ製。
プロピレン重合体:ノバテックRTMPP BC06C(商品名)、日本ポリプロ株式会社製、メルトフローレート:60g/10分。
【0040】
実施例2、3及び4
下記表2に示す割合で、無水マレイン酸変性ポリプロピレンA、プロピレン重合体およびガラス繊維を二軸同方向回転混練押出機に供給して、本発明のガラス繊維強化ポリプロピレン樹脂組成物を、ペレット状で得た。
なお、無水マレイン酸変性ポリプロピレンAの添加量は、プロピレン重合体およびガラス繊維の合計量を100%として、それに対する割合である。
配合割合が0.3%のものが実施例2、配合割合が0.6%のものが実施例3及び配合割合が0.9%のものが実施例4である。
また、表中に示した樹脂組成物全量に対するグラフト率(%)はガラス繊維、プロピレン重合体及び無水マレイン酸変性ポリプロピレンの合計量(質量)に対するグラフトした無水マレイン酸の割合(質量%)である。実施例2では0.006%、実施例3では0.012%、実施例4では0.018%である。
また、上記押出機機種及びその運転条件は下記の通りである。
機種:ベルストルフZE40A(スクリュー長:1340mm、L/D=33.5、ダイス:φ3mm×5)
運転条件:スクリュー回転数:150rpm、ヘッド温度:190℃、ポリプロピレン供給量:21.0kg/h、ガラス繊維供給量:6.0kg/h、樹脂圧力:1.3〜1.4MPa
【0041】
【表2】

【0042】
比較例1〜5
実施例2と同様にして下記表3に示す割合で、無水マレイン酸変性ポリプロピレンB〜D、プロピレン重合体およびガラス繊維を二軸同方向回転混練押出機に供給して、比較用のガラス繊維強化ポリプロピレン樹脂組成物をペレット状で得た。無水マレイン酸変性ポリプロピレンB〜Dの配合割合は、上記実施例と同様に、プロピレン重合体およびガラス繊維の合計量を100%として、それに対する割合であり、樹脂組成物全量に対するグラフト率(%)はガラス繊維、プロピレン重合体及び無水マレイン酸変性ポリプロピレンの合計量(質量)に対するグラフトした無水マレイン酸の割合(質量%)である。
【0043】
【表3】

【0044】
試験例1
(I)試験片の作成
上記実施例2〜4で得られた本発明の樹脂組成物のペレット及び比較例1〜5で得られた比較用の樹脂組成物のペレットを、クロックナー社製F85射出成形機を用いてJIS−K7139多目的試験片を作製した。
(II)試験方法
上記で得られたそれぞれの多目的試験片を用いて、下記の方法により、下記の項目に付き、それぞれの物性値を測定した。
(1)引張り強度:JIS−K7113により測定した。
(2)曲げ弾性率:JIS−K7171により測定した。
(3)シャルピー衝撃強度:JIS−K7110により測定した。
(4)疲労強度:片持ち曲げ疲労試験方法ASTM D671に従って、下記条件で測定を行い、破断までの繰り返し回数によって評価した。
試験片形状:TYPE A、試験温度:80℃、繰返し速度:30Hz、負荷応力:20MPa
上記試験により測定された(1)引張り強度、(2)曲げ弾性率及び(3)シャルピー衝撃強度については下記表4に、また、(4)疲労強度については、下記表5に示した。
【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【0047】
実施例5〜8
下記表6に示す割合で、無水マレイン酸変性ポリプロピレンA、プロピレン重合体および木粉を二軸同方向回転混練押出機に供給して、本発明の木粉充填ポリプロピレン樹脂組成物を、バルク状で得た。
なお、無水マレイン酸変性ポリプロピレンAの添加量は、プロピレン重合体および木粉の合計量を100%として、それに対する割合である。配合割合が0.7%のものが実施例5、配合割合が1.0%のものが実施例6、配合割合が1.5%のものが実施例7、及び配合割合が2.0%のものが実施例8である。
また、表中に示した樹脂組成物全量に対するグラフト率(%)は木粉、プロピレン重合体及び無水マレイン酸変性ポリプロピレンの合計量(質量)に対するグラフトした無水マレイン酸の割合(質量%)である。実施例5では0.015%、実施例6では0.022%、実施例7では0.033%、実施例8では0.044%である。
また、上記押出機機種及びその運転条件は下記の通りである。
機種:ベルストルフZE40A(スクリュー長:1340mm、L/D=33.5、ダイス:φ3mm×5)
運転条件:スクリュー回転数:150rpm、ヘッド温度:190℃、ポリプロピレン及び木粉の供給量:各々21.0kg/h。
【0048】
【表6】

【0049】
比較例6〜11
実施例5〜8と同様にして、下記表7に示す割合で、無水マレイン酸変性ポリプロピレンB〜D、プロピレン重合体および木粉を二軸同方向回転混練押出機に供給して、比較用の木粉充填ポリプロピレン樹脂組成物をバルク状で得た。
無水マレイン酸変性ポリプロピレンB〜Dの配合割合は、上記実施例5〜8と同様に、プロピレン重合体および木粉の合計量を100%として、それに対する割合である。表中に示した樹脂組成物全量に対するグラフト率(%)は木粉、プロピレン重合体及び無水マレイン酸変性ポリプロピレンの合計量(質量)に対するグラフトした無水マレイン酸の割合(質量%)である。
【0050】
【表7】

【0051】
試験例2
(I)試験片の作成
上記実施例5〜8で得られた本発明の樹脂組成物及び比較例6〜11で得られた比較用の樹脂組成物を180℃で加熱プレス後、30〜40℃で冷却プレスし、220×220×4mmの平板を作成した。この平板から各種物性試験用試験片(JIS K7139多目的試験片)を旋盤を用いて切り出した。
(II)試験方法
上記で得られたそれぞれの試験片を用いて、下記の方法により、下記の項目に付き、それぞれの物性値を測定した。
(1)引張り強度:JIS−K7113により測定した。
(2)曲げ強度及び曲げ弾性率:JIS−K7171により測定した。
(3)シャルピー衝撃強度:JIS−K7110により測定した。
上記により測定された(1)引張り強度、(2)曲げ強度・曲げ弾性率、及び(3)シャルピー衝撃強度について下記表8に示した。
【0052】
【表8】

【0053】
前記表4及び表5から明らかなように、本発明の実施例2〜4のガラス繊維強化ポリプロピレン樹脂組成物については、ノッチありのシャルピー衝撃試験において実施例2の値が比較例2の値を下回ったことを除くほか、引張り降伏応力、曲げ弾性率、シャルピー衝撃値及び片持ち曲げ疲労試験のいずれの結果についても、比較例1〜4に対して優れた値を示した。また上記表8から明らかなように、本発明の実施例5〜8の木粉充填ポリプロピレン樹脂組成物については、引張り降伏応力、曲げ強度、曲げ弾性率及びシャルピー衝撃値のいずれについても、比較例6〜11に対して優れた値を示した。
以上の結果から、本発明の無水マレイン酸変性ポリプロピレンを充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物に配合することにより、引張り強度、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度及び疲労強度等の機械的強度及び耐久性の優れた充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水マレイン酸のグラフト量が1.8〜2.5質量%で、かつメルトフローレート(MFR)が500g/10分より大きく、800g/10分以下である無水マレイン酸変性ポリプロピレン。
【請求項2】
無水マレイン酸変性ポリプロピレンを80℃で1時間加熱した時に、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測定される揮発性有機化合物の合計量が100μg/g以下である請求項1に記載の無水マレイン酸変性ポリプロピレン。
【請求項3】
無水マレイン酸変性ポリプロピレン中に含まれる非グラフト無水マレイン酸(無水マレイン酸オリゴマーも含む)含量が、グラフトした無水マレイン酸量を100質量%として、25質量%以下である請求項1又は2に記載の無水マレイン酸変性ポリプロピレン。
【請求項4】
無水マレイン酸のグラフト量が2質量%より多くかつ2.5質量%以下で、かつメルトフローレート(MFR)が550g/10分より大きく、800g/10分以下であり、かつ80℃で1時間加熱した時に、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測定される揮発性有機化合物の合計量が100μg/g以下であり、非グラフト無水マレイン酸(無水マレイン酸オリゴマーも含む)含量が、グラフトした無水マレイン酸量を100質量%として、20質量%以下である無水マレイン酸変性ポリプロピレン。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の無水マレイン酸変性ポリプロピレンを含む充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項6】
充填剤とポリオレフィン系樹脂の合計量に対する無水マレイン酸変性ポリプロピレン含量が0.01〜3質量%である請求項5に記載の充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項7】
充填剤が繊維類である請求項5又は6に記載の充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項8】
繊維類が、ガラス繊維、炭素繊維及び天然繊維からなる群から選ばれるものである請求項7に記載の充填剤強化ポリオレフィン系樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−114435(P2009−114435A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264800(P2008−264800)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000123550)化薬アクゾ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】