説明

無水晶体眼内レンズの製造方法

【課題】絞りや偏心による影響を抑え、多焦点の何れの焦点効果もより安定的に得ることの出来る無水晶体眼内レンズの、新規な製造方法を提供すること。
【解決手段】眼内レンズ10の径方向の少なくとも一部の領域においてそれぞれの回折一次光が互いに異なる焦点距離を与える少なくとも二種類のレリーフ26,28を重ねて設定し、且つ、それらの重ねて設定したレリーフにおける格子ピッチが最大のレリーフの各格子ピッチに対して、他のレリーフにおける格子ピッチが周期的に重なり合う同期構造を設定して、得られたレリーフ24をレンズ表面16に形成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶体に代えて水晶体嚢内に配設される無水晶体眼内レンズに係り、特に、回折格子を有する無水晶体眼内レンズの製造方法、およびこれによって有利に製造される新規な構造の無水晶体眼内レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
良く知られているように、視力を司る水晶体は、遺伝や加齢等の要因によって、その調節能力が低下したり、水晶体自体の透明度等の特性が悪化することがあり、それに伴い、例えば近視、遠視、老視等の屈折異常や白内障等の問題が発生して、有効な視力が得られ難くなる。そして、そのような場合の処置のために、従来から、嚢内の水晶体を摘出、除去せしめた後、その水晶体に代替して嚢内に配設される、無水晶体眼内レンズ(以下、適宜に眼内レンズとする)が用いられている。
【0003】
ところが、従来から用いられている眼内レンズは単焦点のものであることから、術後の視力は回復するものの、焦点調節力の無い眼機能になってしまうという問題があった。
【0004】
このような問題に対処するために、例えば特許文献1等に記載の回折レンズ構造を適用して、光の回折作用を利用することによって複数の焦点を得ることの出来る眼内レンズが提案されている。特許文献1に記載の回折レンズは、レンズ表面にレリーフをもった回折格子を備え、レリーフを通過する光の回折現象を利用して、0次光と回折一次光によって、2つの焦点を形成することが可能とされている。従って、例えば0次光による焦点と回折一次光による焦点をそれぞれ遠方視用と近方視用に割り当てることによって、バイフォーカルな眼内レンズを得ることが出来る。
【0005】
ところが、従来型の回折レンズ構造を適用したバイフォーカルな眼内レンズでは、視力回復には未だ不十分であることが、近年認識されつつある。即ち、例えば前記特許文献1に記載の回折レンズ構造を適用した眼内レンズでは、遠方視用と近方視用にそれぞれ0次光と一次光を割り当てているが、その結果、0次光と一次光の間へのエネルギーの配分が困難となって、中間視のコントラストが低くなるという問題が明らかとなってきたのである。
【0006】
そこで、より多数の焦点の生成を可能とするために、例えば特許文献2には、レンズ径方向にそれぞれ異なるレリーフを備えた複数の領域を形成することによって、複数の焦点を備えた眼内レンズが提案されている。しかし、特許文献2に記載の眼内レンズでは、縮瞳等によって入射光線径が変化するような場合には、目的とする焦点効果が発揮されなくなるおそれがあった。更にまた、仮に生理的な瞳孔径を考慮した設計であったとしても、瞳孔に対する所望の相対位置に眼内レンズを挿入し安定させることが出来るとは限らず、偏心等により目的とする焦点効果が発揮されなくなるおそれもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5121980号明細書
【特許文献2】米国特許第7188949号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、縮瞳や偏心による影響を抑え、多焦点の何れの焦点効果もより安定的に得ることの出来る無水晶体眼内レンズの、新規な製造方法を提供することにある。
【0009】
さらに、本発明は、そのような新規な製造方法によって有利に製造され得る、新規な構造の無水晶体眼内レンズを提供することをも、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、前述の如き課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0011】
すなわち、無水晶体眼内レンズの製造方法に関する本発明の第一の態様は、レンズ表面に対して同心円状に延びるレリーフをもった回折格子を設けた水晶体嚢内に配設される無水晶体眼内レンズの製造方法であって、前記レリーフとして、それぞれの回折一次光が互いに異なる焦点距離を与える複数種類のレリーフを採用すると共に、レンズの径方向の少なくとも一部の領域において少なくとも二種類のレリーフを重ねて設定し、且つ、それらの重ねて設定したレリーフにおける格子ピッチが最大のレリーフの各格子ピッチに対して、他のレリーフにおける格子ピッチが周期的に重なり合う同期構造を設定して、得られたレリーフを前記レンズ表面に形成することを、特徴とする。
【0012】
本発明に従う製造方法によれば、少なくとも二種類のレリーフそれぞれの回折一次光によって、少なくとも2つの焦点を生成することが出来る。これにより、例えば眼内レンズの屈折面による0次光を遠方視用焦点に設定すると共に、二種類のレリーフの一方の一次光を近方視用焦点に設定するのに加えて、残り一方の一次光を中間視用焦点に設定することが可能となる。これにより、遠方視および近方視に加え、その中間の中間視においても良好な回折強度を得ることが出来て、中間視においてもより良好な視界を得ることの出来る眼内レンズを提供することが可能となる。なお、本発明におけるレリーフとは起伏形状をいう。
【0013】
そこにおいて、特に本製造方法によって製造された眼内レンズによれば、複数種類のレリーフが重ねて設定されている。これにより、複数種類のレリーフが重ね合わされた領域の全体でそれぞれのレリーフによる回折一次光が生成されることから、例えば前記特許文献2のように、領域毎に異なるレリーフを設定した回折レンズとは異なり、絞り等による入射光線径の変化やレンズの偏心等に対して、特定領域の回折強度が相対的に変化することも抑えることが出来て、所望の光学特性をより安定的に得ることの出来る、従来に無い新しい光学特性を備えた眼内レンズを得ることが出来る。
【0014】
そして、特に本製造方法によれば、重ねて設定されたレリーフにおいて最大の格子ピッチを有するレリーフの各格子ピッチに対して、他のレリーフにおける格子ピッチが周期的に重なり合う同期構造が設定されており、換言すれば、最大の格子ピッチを有するレリーフの各ゾーン半径に対して、他のレリーフにおけるゾーン半径が周期的に重なり合う同期構造が設定されている。ここにおいて、格子ピッチとは、各レリーフの稜線と谷線の間の径方向幅寸法をいう。また、ゾーン半径とは、同心円状に延びる各レリーフの稜線と谷線の間のゾーンにおける、同心円の中心に対して外側に位置する稜線乃至は谷線の同心円の中心からの半径をいう。また、同心円状とは、光軸或いは偏倚軸を中心として円形やそれに近い楕円形などをもって環状に延びる複数条をいう。更にまた、本発明の請求項記載の「レンズの径方向」とは、光軸を中心とする径方向を言うものであり、レンズの幾何中心外に光軸を有する場合には、レンズ外周形状の径方向と必ずしも一致するものではない。これにより、それぞれのレリーフの回折一次光による回折強度のピークを何れも明確に生ぜしめることが出来て、多数の焦点をより確実に得ることが可能とされている。即ち、複数種類のレリーフを単に重ね合わせるのみでは、何れのレリーフによる回折強度のピークも明確に得ることが出来ず、意図しない次数光のピークの発生を引き起こすと共に、迷光等によるグレアの発生も大きくなる。これに対して、本製造方法によれば、異なる種類のレリーフの格子ピッチを同期させることによって、他のレリーフの回折一次光にも回折強度を有効に配分することが出来て、二次光等の必要の無い次数光の強度を低減することが可能となる。その結果、迷光等の光量を低減することが出来て、グレア等の低減も図られ得る。
【0015】
なお、本発明における回折一次光とは、回折に伴う干渉光の一次のものであって、1波長分の位相差を生じる回折光である。即ち、光は、空気よりも高い屈折率の媒質内では速度が遅くなる。この作用を利用することで、同心円の中央側に稜線を有するレリーフの回折格子において、同心円の中央から周辺方向に向かって、隣り合うレリーフを通過する光が1波長ずつ遅れて重なることで得られる干渉光の一次のものが回折+1次光であり、反対に、同心円の外側に稜線を有する正負反転したレリーフの回折格子を用いた場合には、中央から周辺方向に向かって隣り合うレリーフを通過する光が1波長ずつ進んで重なることで得られる、レリーフ形状に関して反対側に発生する干渉光の一次のものが回折−1次光である。そして、本発明の請求項記載の「一次光」は、+1次光と−1次光の両者を含む絶対値としての一次光として理解されるものとする。
【0016】
また、本発明において、複数種類のレリーフは、レンズの径方向の少なくとも一部の領域において重ねて設定されていれば良いのであって、必ずしもレンズ全面に亘って複数種類のレリーフが重ねて設定される必要は無い。従って、例えば、レンズ中央部分のみやレンズ径方向中間部分のみ等において、複数種類のレリーフを重ねて設定し、他の領域では一種類のレリーフのみを設定する等しても良い。
【0017】
さらに、本発明における複数種類のレリーフとしては、少なくとも二種類であれば良いのであって、三種類以上のレリーフを重ねて設定することも、勿論可能である。
【0018】
なお、本発明における無水晶体眼内レンズとは、水晶体を除去した後に、水晶体に代えて水晶体膿内に配設される眼内レンズを言う。そして、レリーフの同期構造が形成される基準面の形状や材質等は特に限定されるものではない。例えば、かかる基準面は凸および凹を含む球面の他、非球面、シリンドリカル面、トーリック面などであっても良く、或いは平面であっても良い。特に、基準面が平面以外の場合には、光学的な屈折特性も、本発明の回折に加えて発揮されることとなる。
【0019】
無水晶体眼内レンズの製造方法に関する本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る眼内レンズの製造方法において、前記レンズの屈折面による0次光に対して、前記複数種類のレリーフによる何れの回折一次光の焦点距離とも異なる焦点距離を設定することを、特徴とする。
【0020】
本態様によれば、少なくとも二種類のレリーフそれぞれの回折一次光による焦点と、屈折面による0次光の焦点によって、3つ以上の焦点を有する眼内レンズを得ることが出来る。ここにおいて、複数のレリーフは、屈折面に形成されていても良いし、屈折面以外の面に形成されていても良い。従って、本態様は、一方が凹面や凸面の屈折面としての湾曲面で、他方が非屈折面としての平面とされた眼内レンズに対して、その平面側にレリーフを形成する態様も含むものであるし、無水晶体眼内レンズの製造方法に関する本発明の第三の態様として、前記第二の態様に係る眼内レンズの製造方法において、前記レリーフを形成する前記レンズ表面が、前記屈折面である態様も含むものである。
【0021】
無水晶体眼内レンズの製造方法に関する本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れか一つの態様に係る眼内レンズの製造方法において、前記格子ピッチが最大のレリーフのレリーフ段差であって、前記複数のレリーフが重なった各レリーフ段差の大きさが、ゾーン方向で一定となるように形成することを、特徴とする。
【0022】
ここにおいて、レリーフ段差とは、レリーフの各ゾーン半径位置における光軸方向寸法をいう。本態様によれば、格子ピッチが最大のレリーフのレリーフ段差をゾーン毎に設定することが不要とされて、レリーフ形状をより容易に設定することが出来る。
【0023】
無水晶体眼内レンズの製造方法に関する本発明の第五の態様は、前記第四の態様に係る眼内レンズの製造方法において、前記複数のレリーフを重ねて設定した径方向の領域には、前記格子ピッチが最大のレリーフの各一つのゾーンにおいて、別の種類の前記レリーフが少なくとも二つのレリーフ段差をもって形成され、且つそれら少なくとも二つのレリーフ段差における前記ベース表面に対する高さがゾーン方向で次第に変化するように設定することを、特徴とする。
【0024】
本態様によれば、別の種類のレリーフのレリーフ段差をより精度良く設定することが出来て、別の種類のレリーフによる回折強度のピークをより明瞭に生ぜしめることが出来る。なお、本態様において、レリーフ段差におけるベース表面に対する高さがゾーン方向で次第に変化するとは、ゾーン方向で次第に低くなる態様と、高くなる態様の何れをも含む。
【0025】
無水晶体眼内レンズの製造方法に関する本発明の第六の態様は、前記第四の態様に係る眼内レンズの製造方法において、前記複数のレリーフを重ねて設定した径方向の領域には、前記格子ピッチが最大のレリーフの各一つのゾーンにおいて、別の種類の前記レリーフが少なくとも二つのレリーフ段差をもって形成され、且つそれら少なくとも二つのレリーフ段差における前記ベース表面に対する高さがゾーン方向で一定となるように設定することを、特徴とする。本態様によれば、別の種類のレリーフの形状をゾーン半径ごとに設定することが不要とされて、別の種類のレリーフ形状をより容易に設定することが出来る。
【0026】
無水晶体眼内レンズの製造方法に関する本発明の第七の態様は、前記第一乃至第六の何れか一つの態様に係る眼内レンズの製造方法において、複数種類の前記レリーフが、何れも、鋭角の頂角をもった断面形状で周方向に延びる稜線と鋭角の夾角をもった断面形状で周方向に延びる谷線とを有していることを、特徴とする。
【0027】
本態様によれば、複数種類のレリーフにおいて回折作用をそれぞれ有効に生ぜしめることが出来て、各種類のレリーフの回折一次光のピークをそれぞれ有効に生ぜしめることが出来る。
【0028】
無水晶体眼内レンズの製造方法に関する本発明の第八の態様は、前記第一乃至第七の何れか一つの態様に係る眼内レンズの製造方法において、前記レンズの屈折面による0次光を遠方視用焦点に設定する一方、一つの種類の前記レリーフによる回折一次光を近方視用焦点に設定すると共に、別の種類の前記レリーフによる回折一次光を中間視用焦点に設定することを、特徴とする。
【0029】
本態様によれば、遠方視用焦点および近方視用焦点に加えて、中間視用焦点を備えた眼内レンズを得ることが出来る。従って、回折型の眼内レンズにおいてこれまで問題とされていた、中間視のコントラスト低下の問題も改善され得て、より良好な中間視を得ることが出来る。
【0030】
無水晶体眼内レンズの製造方法に関する本発明の第九の態様は、前記第一乃至第七の何れか一つの態様に係る眼内レンズの製造方法において、前記レンズの屈折面による0次光を近方視用焦点に設定する一方、一つの種類の前記レリーフによる回折一次光を遠方視用焦点に設定すると共に、別の種類の前記レリーフによる回折一次光を中間視用焦点に設定することを、特徴とする。
【0031】
本態様においても、より良好な中間視を実現することの出来る眼内レンズを得ることが出来る。なお、本態様においては、近方視用焦点および遠方視用焦点が何れも、対応するレリーフの−1次光となるが、前述のように、本発明における一次光は、−1次光を含む絶対値としての一次光として理解される。
【0032】
無水晶体眼内レンズの製造方法に関する本発明の第十の態様は、前記第一乃至第九の何れか一つの態様に係る眼内レンズの製造方法において、複数の前記レリーフは、一方の該レリーフのゾーン定数をA、他方の該レリーフのゾーン定数をa,一方の該レリーフのゾーン番号をM、他方の該レリーフのゾーン番号をm、一方の該レリーフの焦点距離/他方の該レリーフの焦点距離をNとして、下式:
A=(2(m−NM)+a)/N
を満足するように設定されていることを、特徴とする。
【0033】
ここにおいて、ゾーン定数とは、所定ゾーン番号のゾーン半径を所定の値に設定するための定数であり、ゾーン半径は、ゾーン定数:aを用いて、下式:
ゾーン半径=√((2m+a)λf)
で表される。なお、λは設計波長、fは焦点距離を示す。また、ゾーン番号とは、ゾーン毎に割り振られた番号であり、中央を0としてゾーン方向外方に向けて1、2、3、…の順に割り振られる番号である。
【0034】
本態様によれば、他方のレリーフの格子ピッチに対して、一方のレリーフの格子ピッチが周期的に重なり合う同期構造を容易に設定することが出来る。
【0035】
無水晶体眼内レンズの製造方法に関する本発明の第十一の態様は、前記第一乃至第十の何れか一つの態様に係る眼内レンズの製造方法において、複数の前記レリーフは、レリーフ段差の高さ寸法をD、設計波長をλ、前記光学材料の屈折率をNlens、周囲媒質屈折率をNmed として、下式:
D≦λ/(Nlens−Nmed
を満足するように設定されていることを、特徴とする。
【0036】
本態様によれば、レリーフ段差は最大1波長分に相当し、0次光と1次光との光の配分をより有効に確保することが出来る。従って、本態様は、前記第三の態様のように、レリーフ形状が屈折面に形成された態様と組み合わせて、好適に用いられる。このようにすれば、二次光等の必要のない次数光の強度を低減でき、0次光と1次光の焦点効果をより有効に確保することが出来る。
【0037】
無水晶体眼内レンズに関する本発明の第一の態様は、レンズ表面に対して同心円状に延びるレリーフをもった回折格子が設けられた水晶体嚢内に配設される無水晶体眼内レンズであって、レンズの径方向の少なくとも一部の領域において、それぞれの回折一次光が互いに異なる焦点距離を与える少なくとも二種類のレリーフが重ねて設定されており、且つ、それらの重ねて設定されたレリーフにおける格子ピッチが最大のレリーフの各格子ピッチに対して、他のレリーフにおける格子ピッチが周期的に重なり合う周期構造を有することを、特徴とする。
【0038】
本態様における眼内レンズによれば、少なくとも二種類のレリーフそれぞれの回折一次光によって、少なくとも2つの焦点を生成することが出来る。これにより、例えば眼内レンズの屈折面による0次光によって遠方視用焦点を得ると共に、二種類のレリーフの一方の一次光によって近方視用焦点を得るのに加えて、残り一方の一次光によって中間視用焦点を得ることが可能となる。これにより、遠方視および近方視に加え、その中間の中間視においても良好な回折強度を得ることが出来て、中間視においてもより良好な視界を得ることの出来る無水晶体眼内レンズを提供することが可能となる。なお、本発明におけるレリーフとは起伏形状をいう。
【0039】
そこにおいて、特に本態様における眼内レンズによれば、複数種類のレリーフが重ねて設定されている。これにより、複数種類のレリーフが重ね合わされた領域の全体でそれぞれのレリーフによる回折一次光が生成されることから、例えば前記特許文献2のように、領域毎に異なるレリーフを設定した回折レンズとは異なり、絞り等による入射光線径の変化やレンズの偏心等に対して、特定領域の回折強度が相対的に変化することも抑えることが出来て、所望の光学特性をより安定的に得ることの出来る、従来に無い新しい光学特性を備えた眼内レンズを得ることが出来る。
【0040】
そして、特に本態様においては、重ねて設定されたレリーフにおいて最大の格子ピッチを有するレリーフの各格子ピッチに対して、他のレリーフにおける格子ピッチが周期的に重なり合う同期構造を備えており、換言すれば、最大の格子ピッチを有するレリーフの各ゾーン半径に対して、他のレリーフにおけるゾーン半径が周期的に重なり合う同期構造を有している。なお、同心円状とは、光軸或いは偏倚軸を中心として円形やそれに近い楕円形などをもって環状に延びる複数条をいう。そして、本発明の請求項記載の「レンズの径方向」とは、光軸を中心とする径方向を言うものであり、レンズの幾何中心外に光軸を有する場合には、レンズ外周形状の径方向と必ずしも一致するものではない。これにより、それぞれのレリーフの回折一次光による回折強度のピークを何れも明確に生ぜしめることが出来て、多数の焦点をより確実に得ることが可能とされている。即ち、複数種類のレリーフを単に重ね合わせるのみでは、何れのレリーフによる回折強度のピークも明確に得ることが出来ず、意図しない次数光のピークの発生を引き起こすと共に、迷光等によるグレアの発生も大きくなる。これに対して、本態様における眼内レンズによれば、異なる種類のレリーフの格子ピッチが同期されていることによって、他のレリーフの回折一次光にも回折強度を有効に配分することが出来て、二次光等の必要の無い次数光の強度を低減することが可能となる。その結果、迷光等の光量を低減することが出来て、グレア等の低減も図られ得る。
【0041】
また、本態様において、複数種類のレリーフは、レンズの径方向の少なくとも一部の領域において重ねて設定されていれば良いのであって、必ずしもレンズ全面に亘って複数種類のレリーフが重ねて設定されている必要は無い。従って、例えば、レンズ中央部分のみやレンズ径方向中間部分のみ等において、複数種類のレリーフが重ねて設定されており、他の領域では一種類のレリーフのみが設定される等しても良い。
【0042】
さらに、本態様における複数種類のレリーフとしては、少なくとも二種類であれば良いのであって、三種類以上のレリーフを重ねて設定することも、勿論可能である。
【0043】
なお、本態様における無水晶体眼内レンズとは、水晶体を除去した後に、水晶体に代えて水晶体膿内に配設される眼内レンズを言う。そして、レリーフの同期構造が形成される基準面の形状や材質等は特に限定されるものではない。例えば、かかる基準面は凸および凹を含む球面の他、非球面、シリンドリカル面、トーリック面などであっても良く、或いは平面であっても良い。特に、基準面が平面以外の場合には、光学的な屈折特性も、本態様の回折に加えて発揮されることとなる。
【0044】
無水晶体眼内レンズに関する本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る無水晶体眼内レンズにおいて、前記レンズの屈折面による0次光に対して、前記複数種類のレリーフによる何れの回折一次光の焦点距離とも異なる焦点距離が設定されていることを、特徴とする。
【0045】
本態様によれば、少なくとも二種類のレリーフそれぞれの回折一次光による焦点と、屈折面による0次光の焦点によって、3つ以上の焦点を有する眼内レンズを得ることが出来る。ここにおいて、複数のレリーフは、屈折面に形成されていても良いし、屈折面以外の面に形成されていても良い。従って、本態様は、一方が凹面や凸面の屈折面としての湾曲面で、他方が非屈折面としての平面とされた眼内レンズに対して、その平面側にレリーフが形成された態様も含むものであるし、無水晶体眼内レンズに関する本発明の第三の態様として、前記第二の態様に係る眼内レンズにおいて、前記レリーフが形成される前記レンズ表面が、前記屈折面である態様も含むものである。
【0046】
無水晶体眼内レンズに関する本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れか一つの態様に係る眼内レンズにおいて、前記格子ピッチが最大のレリーフのレリーフ段差であって、前記複数のレリーフが重なった各レリーフ段差の大きさが、ゾーン方向で一定とされていることを、特徴とする。
【0047】
ここにおいて、レリーフ段差とは、レリーフの各ゾーン半径位置における光軸方向寸法をいう。本態様によれば、格子ピッチが最大のレリーフのレリーフ段差をゾーン毎に設定することが不要とされて、レリーフ形状をより容易に設定することが可能となり、製造もより容易となる。
【0048】
無水晶体眼内レンズに関する本発明の第五の態様は、前記第四の態様に係る眼内レンズにおいて、前記複数のレリーフを重ねて設定した径方向の領域には、前記格子ピッチが最大のレリーフの各一つのゾーンにおいて、別の種類の前記レリーフが少なくとも二つのレリーフ段差をもって形成され、且つそれら少なくとも二つのレリーフ段差における前記ベース表面に対する高さがゾーン方向で次第に変化していることを、特徴とする。
【0049】
本態様によれば、別の種類のレリーフのレリーフ段差がより精度良く設定されて、別の種類のレリーフによる回折強度のピークをより明瞭に生ぜしめることが出来る。なお、本態様において、レリーフ段差におけるベース表面に対する高さがゾーン方向で次第に変化するとは、ゾーン方向で次第に低くなる態様と、高くなる態様の何れをも含む。
【0050】
無水晶体眼内レンズに関する本発明の第六の態様は、前記第四の態様に係る眼内レンズにおいて、前記複数のレリーフを重ねて設定した径方向の領域には、前記格子ピッチが最大のレリーフの各一つのゾーンにおいて、別の種類の前記レリーフが少なくとも二つのレリーフ段差をもって形成され、且つそれら少なくとも二つのレリーフ段差における前記ベース表面に対する高さがゾーン方向で一定とされていることを、特徴とする。本態様によれば、別の種類のレリーフの形状をゾーン半径ごとに設定することが不要とされて、別の種類のレリーフ形状をより容易に形成することが出来る。
【0051】
無水晶体眼内レンズに関する本発明の第七の態様は、前記第一乃至第六の何れか一つの態様に係る眼内レンズにおいて、複数種類の前記レリーフが、何れも、鋭角の頂角をもった断面形状で周方向に延びる稜線と鋭角の夾角をもった断面形状で周方向に延びる谷線とを有していることを、特徴とする。
【0052】
本態様によれば、複数種類のレリーフにおいて回折作用をそれぞれ有効に生ぜしめることが出来て、各種類のレリーフの回折一次光のピークをそれぞれ有効に生ぜしめることが出来る。
【0053】
無水晶体眼内レンズに関する本発明の第八の態様は、前記第一乃至第七の何れか一つの態様に係る眼内レンズにおいて、前記レンズの屈折面による0次光が遠方視用焦点に設定されている一方、一つの種類の前記レリーフによる回折一次光が近方視用焦点に設定されていると共に、別の種類の前記レリーフによる回折一次光が中間視用焦点に設定されていることを、特徴とする。
【0054】
本態様によれば、遠方視用焦点および近方視用焦点に加えて、中間視用焦点を得ることが出来る。従って、これまで回折型の眼内レンズにおいて問題とされていた、中間視のコントラスト低下の問題も改善され得て、より良好な中間視を得ることが出来る。
【0055】
無水晶体眼内レンズに関する本発明の第九の態様は、前記第一乃至第七の何れか一つの態様に係る眼内レンズにおいて、前記レンズの屈折面による0次光が近方視用焦点に設定されている一方、一つの種類の前記レリーフによる回折一次光が遠方視用焦点に設定されていると共に、別の種類の前記レリーフによる回折一次光が中間視用焦点に設定されていることを、特徴とする。
【0056】
本態様においても、より良好な中間視を実現することの出来る眼内レンズを得ることが出来る。なお、本態様においては、近方視用焦点および遠方視用焦点が何れも、対応するレリーフの−1次光となるが、前述のように、本発明における一次光は、−1次光を含む絶対値としての一次光として理解される。
【0057】
無水晶体眼内レンズに関する本発明の第十の態様は、前記第一乃至第九の何れか一つの態様に係る眼内レンズにおいて、複数の前記レリーフが、一方の該レリーフのゾーン定数をA、他方の該レリーフのゾーン定数をa,一方の該レリーフのゾーン番号をM、他方の該レリーフのゾーン番号をm、他方の該レリーフの焦点距離/一方の該レリーフの焦点距離をNとして、下式:
A=(2(m−NM)+a)/N
を満足するように形成されていることを、特徴とする。
【0058】
ここにおいて、ゾーン定数とは、所定ゾーン番号のゾーン半径を所定の値に設定するための定数であり、ゾーン半径は、ゾーン定数:aを用いて、下式:
ゾーン半径=√((2m+a)λf)
で表される。なお、λは設計波長、fは焦点距離を示す。また、ゾーン番号とは、ゾーン毎に割り振られた番号であり、中央を0としてゾーン方向外方に向けて1、2、3、…の順に割り振られる番号である。
【0059】
本態様によれば、他方のレリーフの格子ピッチに対して、一方のレリーフの格子ピッチが周期的に重なり合う同期構造が設定される。
【0060】
無水晶体眼内レンズに関する本発明の第十一の態様は、前記第一乃至第十の何れか一つの態様に係る眼内レンズにおいて、複数の前記レリーフが、レリーフ段差の高さ寸法をD、設計波長をλ、前記光学材料の屈折率をNlens、周囲媒質屈折率をNmed として、下式:
D≦λ/(Nlens−Nmed
を満足するように設定されていることを、特徴とする。
【0061】
本態様によれば、レリーフ段差は最大1波長分に相当し、0次光と1次光との光の配分をより有効に確保することが出来る。従って、本態様は、前記第三の態様のように、レリーフ形状が屈折面に形成された態様と組み合わせて、好適に用いられる。このようにすれば、二次光等の必要のない次数光の強度を低減でき、0次光と1次光の焦点効果をより有効に確保することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第一の実施形態としての眼内レンズを示す正面モデル図。
【図2】図1のII−II断面に相当する、同眼内レンズにおける光学部の断面モデル図。
【図3】図1に示した眼内レンズに形成されたレリーフ形状を説明するための断面モデル図。
【図4】同レリーフ形状を構成する近方視レリーフの形状を説明するための断面モデル図。
【図5】同レリーフ形状を構成する中間視レリーフの形状を説明するための断面モデル図。
【図6】同レリーフ形状における回折強度のシミュレーション結果を示すグラフ。
【図7】同レリーフ形状の設計方法を説明するための説明図。
【図8】同レリーフ形状を構成する近方視レリーフのレリーフプロファイル。
【図9】同レリーフ形状を構成する中間視レリーフのレリーフプロファイル。
【図10】同レリーフ形状のレリーフプロファイル。
【図11】本発明の第二の実施形態としてのレリーフ形状を示すレリーフプロファイル。
【図12】同レリーフ形状における回折強度のシミュレーション結果を示すグラフ。
【図13】本発明の第三の実施形態としてのレリーフ形状を示すレリーフプロファイル。
【図14】同レリーフ形状における回折強度のシミュレーション結果を示すグラフ。
【図15】本発明の第四の実施形態としてのレリーフ形状を示すレリーフプロファイル。
【図16】同レリーフ形状における回折強度のシミュレーション結果を示すグラフ。
【図17】本発明の第五の実施形態としてのレリーフ形状を示すレリーフプロファイル。
【図18】同レリーフ形状における回折強度のシミュレーション結果を示すグラフ。
【図19】本発明の異なる態様としての眼内レンズの光学部を示す断面モデル図。
【図20】本発明の更に異なる態様としての眼内レンズの光学部を示す断面モデル図。
【図21】従来構造に従うレリーフ形状における回折強度のシミュレーション結果を示すグラフ。
【図22】本発明に従う構造とされたレリーフ形状および従来技術に従う構造とされたレリーフ形状についての回折強度のシミュレーション結果。
【図23】比較例2としてのレリーフ形状を構成する近方視レリーフのレリーフプロファイル。
【図24】比較例2としてのレリーフ形状を構成する中間視レリーフのレリーフプロファイル。
【図25】比較例2としてのレリーフ形状を示すレリーフプロファイル。
【図26】同レリーフ形状における回折強度のシミュレーション結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0064】
先ず、図1に、本発明における無水晶体眼内レンズに係る、第一の実施形態としての眼内レンズ10の正面図をモデル的に示すと共に、図2に、同眼内レンズ10の後述する光学部12の断面図をモデル的に示す。なお、図1および図2においては、理解を容易とするために、後述するレリーフ24の大きさを誇張して図示している。
【0065】
眼内レンズ10は、レンズ本体を構成して眼内レンズ10の光学特性を与える光学部12と、光学部12から延び出す一対の支持部14を含んで構成されている。光学部12は、全体として略球状の凸面形状を有する光学部前面16と、全体として略球状の凸面形状を有する光学部後面18をもって形成されている。そして、光学部12は、全体として、中心部が厚肉とされた略円板形状とされており、光学部12は、幾何中心軸としてのレンズ中心軸20を回転中心軸とする回転体形状とされている。一方、一対の支持部14は、光学部12における周縁部の互いに径方向で対向位置する2箇所から互いに反対方向に向かって延び出して形成されており、一対の支持部14それぞれの先端部分は、光学部12の周方向に湾曲して伸びるように形成された自由端とされている。このような眼内レンズ10は、水晶体が除去された後の水晶体嚢内に挿入されて、支持部14で光学部12を嚢内の所定位置に支持せしめることによって、水晶体に代えて嚢内に配設される。
【0066】
光学部12は、レンズ表面として光学部前面16と光学部後面18を備えており、これら光学部前面16および光学部後面18が屈折面とされている。そして、これら光学部前面16および光学部後面18による0次光に対して所定の焦点距離が設定されている。
【0067】
なお、光学部12の形成材料としては、光透過性等の光学特性を備えた各種の重合性モノマーからなる従来公知の樹脂材料等が好適に採用され、具体的には、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やシリコーンゴム等が例示される。
【0068】
そして、特に本実施形態における光学部前面16には、回折格子22が略全体に亘って形成されている。回折格子22は、レンズ中心軸20を中心として同心円状に、レンズ周方向に連続して延びる起伏形状であるレリーフ24を含んで構成されている。
【0069】
図3に、レリーフ24の径方向断面形状をモデル的に示す。特に本実施形態におけるレリーフ24は、図4に径方向断面形状をモデル的に示す近方視レリーフ26と、図5に径方向断面形状をモデル的に示す中間視レリーフ28が重ね合わされて形成されている。なお、これら図3乃至図5は、各レリーフ24、26、28それぞれにおいて、光学部前面16のベースカーブ面を直線:BCとした場合におけるベースカーブ面からの高さ寸法のレンズ径方向での変化を示したレリーフプロファイルである。
【0070】
これら近方視レリーフ26および中間視レリーフ28は、それぞれ、レンズ中心軸20を中心として同心円状に延びると共に、光学部12の外方(図3乃至5中、上方)に向けて突出する稜線30と、光学部12の内方(図3乃至5中、下方)に向けて突出する谷線32を有する起伏形状とされている。
【0071】
なお、以下の説明において、格子ピッチとは、稜線30と谷線32の間の径方向幅寸法をいう。また、ゾーンとは、稜線30と谷線32の間をいい、各ゾーンには、中央のゾーンを0として、ゾーン方向外方に向けて1,2,3、…のゾーン番号が割り振られる。また、ゾーン半径とは、各ゾーンの外周半径、換言すれば、各ゾーンにおいて同心円の中心(本実施形態においては、レンズ中心軸20)に対して外側に位置する稜線30又は谷線32の同心円の中心からの半径をいう。従って、格子ピッチは各ゾーンの径方向幅寸法であり、所定ゾーンの格子ピッチは、該ゾーンのゾーン半径と、該ゾーンよりもゾーン番号が1小さいゾーンのゾーン半径との差となる。また、レリーフ段差とは、ゾーン半径位置における稜線30と谷線32の光軸方向での離隔距離をいう。
【0072】
特に本実施形態においては、稜線30は鋭角の頂角をもった断面形状で光学部12の周方向に延びると共に、谷線32は、鋭角の挟角をもった断面形状で光学部12の周方向に延びる形状とされている。そして、これら近方視レリーフ26および中間視レリーフ28は、それぞれ、レンズ径方向で隣り合う稜線30と谷線32において、谷線32がレンズ中心軸20から遠方に位置せしめられて、各ゾーンにおいて、レンズ中心軸20に対する遠方側に比して近方側が光学部前面16から突出せしめられた起伏形状とされている。
【0073】
これら近方視レリーフ26および中間視レリーフ28は、それぞれの回折一次光が互いに異なる焦点距離を与えるように設定されており、本実施形態においては、近方視レリーフ26に+4.00Dの屈折力が与えられて、近方視レリーフ26による回折一次光が近方視用焦点に設定される一方、中間視レリーフ28に+2.00Dの屈折力が与えられて、中間視レリーフ28による回折一次光が中間視用焦点に設定されている。更に、光学部前面16および光学部後面18による0次光の焦点距離は、これら近方視レリーフ26および中間視レリーフ28何れの回折一次光の焦点距離とも異ならされており、光学部前面16および光学部後面18による0次光が、遠方視用焦点に設定されている。
【0074】
そして、これら近方視レリーフ26と中間視レリーフ28が重ね合わされることによって、レリーフ24が形成されている。そこにおいて、中間視レリーフ28の格子ピッチは、近方視レリーフ26の格子ピッチよりも大きくされており、中間視レリーフ28の各ゾーンの格子ピッチに対して、近方視レリーフ26のゾーンの格子ピッチが周期的に重なり合う同期構造が設定されている。これにより、近方視レリーフ26における各ゾーンのゾーン半径は、中間視レリーフ28における各ゾーンのゾーン半径と周期的に重ね合わされている。特に本実施形態においては、中間視レリーフ28の1つのゾーンにおいて、近方視レリーフ26のレリーフ段差が1つ形成されており、中間視レリーフ28の1つのゾーンにおいて、近方視レリーフ26の2つのゾーンが形成されている。即ち、近方視レリーフ26のゾーンの2つに一つの割合で、中間視レリーフ28の各ゾーンが重なり合うようにされている。
【0075】
さらに、これら近方視レリーフ26および中間視レリーフ28は、中間視レリーフ28のゾーン定数をA、近方視レリーフ26のゾーン定数をa, 中間視レリーフ28のゾーン番号をM、近方視レリーフ26のゾーン番号をm、中間視レリーフ28の焦点距離/近方視レリーフ26の焦点距離をNとして、下式:
A=(2(m−NM)+a)/N
を満足するように設定されている。これにより、近方視レリーフ26と中間視レリーフ28とが周期的に重なり合う同期構造が設定されている。ここにおいて、ゾーン定数A、aとは、所定のゾーン番号のゾーン半径を所定の値に設定するための定数であり、ゾーン半径は、ゾーン定数:aを用いて、下式:
ゾーン半径=√((2m+a)λf)
で表される。なお、λは設計波長、fは焦点距離である。
【0076】
更にまた、これら近方視レリーフ26および中間視レリーフ28は、それぞれ、レリーフ段差の高さ寸法をD、設計波長をλ、レンズ材料の屈折率をnlens、周囲媒質屈折率をnmed として、下式:
D≦λ/(Nlens−Nmed
を満足するように設定されている。これにより、近方視レリーフ26および中間視レリーフ28のそれぞれにおいて、0次光と1次光との光の配分をより有効に確保することが可能とされている。そして、レリーフ24のレリーフ段差は、近方視レリーフ26と中間視レリーフ28が重なり合う位置においては、これら両レリーフ26,28のレリーフ段差が合成されたものとなる。更に、特に本実施形態においては、近方視レリーフ26と重ね合わされた中間視レリーフ28の各レリーフ段差の大きさが、ゾーン方向(図3中、左右方向)で一定とされている。
【0077】
そして、これら近方視レリーフ26と中間視レリーフ28が重ね合わされて形成されたレリーフ28が光学部前面16のベースカーブ面に形成されることによって、回折格子22が形成されている。
【0078】
このような構造とされた眼内レンズ10によれば、光学部前面16および光学部後面18の0次光によって遠方視用焦点を与えると共に、近方視レリーフ26の回折一次光によって近方視用焦点を与えるのに加えて、中間視レリーフ28の回折一次光によって、中間視用焦点を与えることが出来る。これにより、遠近に加えて中間視の焦点を得ることが可能となり、中間視においても十分な光量を得ることが出来て、より明瞭なコントラストを得ることが出来る。
【0079】
なお、図6に、実施例として、本実施形態に従うレリーフ形状によって得られる光軸上の回折強度について、計算機上でシミュレートした結果を示す。図6から明らかなように、本実施例によれば、屈折面としての光学部前面16および光学部後面18の0次光による遠方視用焦点と、近方視レリーフ26の回折一次光による近方視用焦点の間に、中間視レリーフ28の回折一次光による中間視用焦点のピークが発生することが確認出来る。そして、これら遠方視、近方視、および中間視の何れにおいてもピークが明瞭に生ぜしめられることも確認出来る。
【0080】
そして、特に本実施形態においては、レリーフ24は、近方視レリーフ26と中間視レリーフ28が重ね合わされて形成されていることから、それぞれの回折一次光が、レリーフ24の全体で生成される。これにより、縮瞳等による入射光線径の変化や光学部12の偏心等に対して、特定領域の回折強度が相対的に変化することも抑えることが出来て、所望の光学特性をより安定的に得ることが出来る。
【0081】
加えて、特に本実施形態においては、レリーフ24において、近方視レリーフ26と中間視レリーフ28が、互いの格子ピッチが周期的に重なり合う同期構造をもって形成されている。これにより、近方視レリーフ26および中間視レリーフ28それぞれの回折一次光によるピークを何れも明確に得ることが出来ると共に、迷光等の光量を低減して、グレア等の低減も図られる。
【0082】
次に、上述の如き眼内レンズ10を製造するに際して有利に用いられる無水晶体眼内レンズの製造方法について、図7を参照しつつ説明する。
【0083】
先ず、屈折面として、0次光が遠方視用焦点を生成する光学部前面16および光学部後面18の形状を設計する。そこにおいて、光学部前面16および光学部後面18による0次光の焦点距離は、近方視レリーフ26および中間視レリーフ28の何れの一次光による焦点距離とも異なる焦点距離に設定される。かかる光学部前面16および光学部後面18の設計は、従来公知の方法が適宜に採用可能である。
【0084】
次に、近方視レリーフ26として、パワー=+4.00Dのレリーフ形状を設計する。レリーフ段差の計算式は、一般に、下式:
レリーフ段差=p/( nlens−nmed )・・・(1)
で表される。なお、pは位相差、nlensはレンズ材料の屈折率、nmed は周囲媒質屈折率である。
【0085】
そこにおいて、レリーフ段差は、遠方視を生成する0次光への配分も考慮して、1波長以下、より好適には、半波長以下の位相差とすることが望ましい。そこで、λを設計波長として、例えばp=λ/3、nlens=1.500、nmed =1.336、λ=500nmとすると、
レリーフ段差=(0.0005/3)/(1.500−1.336)
=0.001016260163・・・
となる。
【0086】
次に、瞳孔径やゾーンピッチを考慮して、中央ゾーン(ゾーン番号=0)のゾーン半径を決定する。例えば、瞳孔径に比して十分小さい、中央ゾーン径=0.2mmに設定する。中央ゾーン径を任意の値に設定した回折の公式は、一般式である次式:
ゾーン半径=√2mλf・・・(2)
を、下式:
ゾーン半径=√((2m+a)λf)・・・(3)
と変形することで与えられる。ここにおいて、mはゾーン番号、λは設計波長、fは焦点距離(f=1000/パワー)、aはゾーン定数である。
【0087】
従って、中央ゾーンの半径を0.2mmとして設定すると、ゾーン定数aは、
0.2=√((2×0+a)0.0005×250)
a=0.32
となり、中央ゾーンの半径を0.2mmに設定したゾーン半径の計算式は、
ゾーン半径=√((2m+0.32)λf))・・・(4)
で与えられる。
【0088】
(3)式から明らかなように、ゾーン定数aは2増加する毎に一つのゾーン番号の増加に相当する。従って、中央のレリーフ高さは、
中央レリーフ高さ=レリーフ段差×(a/2)
=0.0001626016261・・・
となる。そして、レリーフ段差の中間点は、仮想的なベースカーブとの交点であることから、ベースカーブの頂点を原点座標とすると、中央頂点Y座標は、
中央頂点Y座標=中央レリーフ高さ−(レリーフ段差/2)
=0.0001626016261−(0.001016260163/2)
=−0.0003455284554・・・
となる。
【0089】
【表1】

【0090】
以上により、幾何学的な関係から、近方視レリーフ26の回折面の曲率や、中心位置等の形状パラメータおよびレリーフプロファイルを得ることが出来る。表1に、近方視レリーフ26の形状パラメータを示すと共に、図8に、近方視レリーフ26のレリーフプロファイルを示す。
【0091】
次に、中間視レリーフ28として、パワー=+2.00Dのレリーフ形状を設計する。中間視レリーフ28は、上記手順により決定した近方視レリーフ26に同期しつつ、近方視レリーフ26とは異なる焦点距離を持つ1次光を設計する必要がある。
【0092】
先ず、中間視レリーフ28のゾーン半径の計算式を、下式:
ゾーン半径=√((2M+A)λ(Nf))・・・(5)
と定義する。なお、Mはゾーン番号、Aはゾーン定数、Nは中間視レリーフの焦点距離と近方視レリーフの焦点距離の比であって、中間視レリーフの焦点距離/近方視レリーフの焦点距離である。
【0093】
そして、近方視レリーフ26と中間視レリーフ28を同期させるため、近方視レリーフ26の任意のゾーンと中間視レリーフ28の任意のゾーンが一致するとした場合、(3)式と(5)式より、下式:
√((2m+a)λf)=√((2M+A)λ(Nf))
が得られ、これを変形して、下式:
A=(2(m−MN)+a)/N・・・(6)
但し、A>0
が得られる。
【0094】
(6)式より、例えば、近方視レリーフ26のゾーン番号1のゾーンと中間視レリーフ28のゾーン番号0のゾーンが同期するとした場合、ゾーン定数Aは、
A=(2(1−0×2)+0.32)/2
=1.16
となり、近方視レリーフ26のゾーン半径と同期した中間視レリーフ28のゾーン半径は、下式:
ゾーン半径=√((2M+1.16)λ(Nf))・・・(7)
で表される。
【0095】
【表2】

【0096】
そして、前記近方視レリーフ26と同様にして、中央レリーフ高さや中央頂点Y座標を決定することが出来、幾何学的な関係から、近方視レリーフ26と同期する、中間視レリーフ28の回折面の曲率や、中心位置等の形状パラメータおよびレリーフプロファイルを得ることが出来る。表2に、中間視レリーフ28の形状パラメータを示すと共に、図9に、中間視レリーフ28のレリーフプロファイルを示す。
【0097】
【表3】

【0098】
続いて、近方視レリーフ26のレリーフプロファイルと、中間視レリーフ28のレリーフプロファイルを合算することによって、近方視レリーフ26と中間視レリーフ28が周期的に重なり合う、同期構造を有するレリーフ24のレリーフプロファイルが完成する。表3に、レリーフ24の形状パラメータを示すと共に、図10に、レリーフ24のレリーフプロファイルを示す。
【0099】
そして、得られたレリーフプロファイルに従って、レリーフ24を光学部前面16に形成する。レリーフ24の光学部前面16への形成は、型成形のみならず、レーザー加工やエッチング、切削等の機械加工等が適宜に採用され得る。このようにして、上記実施形態としての眼内レンズ10を得ることが出来る。
【0100】
以上、本発明の一実施形態および製造方法について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。以下に、本発明において好適に採用され得るその他の態様を幾つか示すが、本発明が以下の態様に限定されることを示すものではないことが理解されるべきである。なお、以下の説明において、前述の実施形態と実質的に同様の部材および部位については、前述の実施形態と同様の符号を付することによって、詳細な説明を省略する。
【0101】
先ず、図11に、本発明の第二の実施形態としてのレリーフ50をレリーフプロファイルとして示す。本実施形態においては、近方視レリーフとしてパワー=+3.0D、中間視レリーフとしてパワー=+1.0Dの2つのレリーフが周期的に重なり合う同期構造が設定されている。なお、本実施形態におけるレリーフプロファイルは、光学部前面16のベースカーブ曲率半径=8.000mm、光学部12のパワー=+25.0D、レンズ材料屈折率=1.500、周囲媒質屈折率=1.336、設計波長=500nm、近方視レリーフのゾーン定数:a=1の条件下で得たものである。なお、格子ピッチは、近方視レリーフに比して、中間視レリーフの方が大きい。
【0102】
特に本実施形態においては、中間視レリーフの各1つのゾーンに対して、近方視レリーフが2つのレリーフ段差をもって、3つのゾーンで形成されており、換言すれば、近方視レリーフのゾーン半径の3つに1つの割合で、中間視レリーフのゾーン半径が近方視レリーフのゾーン半径と一致せしめられている。そして、近方視レリーフが重ね合わされた中間視レリーフの各ゾーンにおいて、中間視レリーフのレリーフ段差間に位置せしめられた近方視レリーフのレリーフ段差における仮想ベースカーブ面に対する高さが、ゾーン方向(図11中、左右方向)で次第に変化せしめられており、本実施形態においては、ゾーン方向で中央から離隔するにつれて次第に低くなるようにされている。なお、このようなレリーフ50も、前記第一の実施形態と同様の製造方法に従って形成することが可能である。
【0103】
なお、図12に、本実施形態におけるレリーフ50によって得られる光軸上の回折強度について、前記第一の実施形態と同様に計算機上でシミュレートした結果を示す。図12から明らかなように、本実施形態においても、屈折面の0次光による遠方視用焦点と、近方視レリーフの回折一次光による近方視用焦点との間に、中間視レリーフの回折一次光による中間視用焦点のピークが発生すると共に、これら遠方視、近方視、および中間視の何れにおいても明瞭なピークが生ぜしめられることが確認された。
【0104】
さらに、特に本実施形態においては、中間視レリーフの回折二次光が発生する。このように、レリーフ50の設計パラメータを変更することによって、複数の中間視を生成することも可能である。また、回折のピーク強度や焦点位置は、例えば同期構造を有するレリーフ50に対して、更に周期的に重なり合うレリーフを加える等することで様々な態様が設定可能である。
【0105】
次に、図13に、本発明の第三の実施形態としてのレリーフ60をレリーフプロファイルとして示す。本実施形態においては、近方視レリーフとしてパワー=+3.0D、中間視レリーフとしてパワー=+1.0Dの2つのレリーフが周期的に重なり合う同期構造が設定されている。なお、格子ピッチは、近方視レリーフに比して、中間視レリーフの方が大きい。
【0106】
本実施形態においては、中間視レリーフの各1つのゾーンに対して、近方視レリーフが2つのレリーフ段差をもって、3つのゾーンで形成されており、換言すれば、近方視レリーフのゾーン半径の3つに1つの割合で、中間視レリーフのゾーン半径が近方視レリーフのゾーン半径と一致するようにされている。そして、近方視レリーフが重ね合わされた中間視レリーフの各ゾーンにおいて、中間視レリーフのレリーフ段差間に位置せしめられた近方視レリーフのレリーフ段差における仮想ベースカーブ面に対する高さが、ゾーン方向(図13中、左右方向)で略一定とされている。
【0107】
このようなレリーフ60は、前記第一および第二の実施形態に比して、より簡易な方法で製造することが出来る。即ち、互いに重ね合わされる複数のレリーフの重なり合いの周期に基づいて、格子ピッチが小さい方のレリーフにおいて、格子ピッチが大きい方のレリーフが重なり合うレリーフ段差を大きくすることによって、同期構造を有するレリーフを簡易に得ることが出来る。例えば、本実施形態における近方視レリーフと中間視レリーフのパワーは前記第二の実施形態と等しいが、第二の実施形態(図11参照)から明らかなように、中間視レリーフは近方視レリーフに対して3回に1回の割合で同期する。従って、前記製造方法に従って近方視レリーフ形状を設計した後には、前記製造方法のように中間視レリーフ形状を厳密に設計せずとも、得られた近方視レリーフ形状に対して3回に1回の割合で、レリーフ段差を大きくすることによって、第二の実施形態に近いレリーフ形状を簡易に得ることが出来る。
【0108】
なお、図14に、本実施形態におけるレリーフ60によって得られる光軸上の回折強度について、前記第一の実施形態と同様に計算機上でシミュレートした結果を示す。図14から明らかなように、前記第二の実施形態(図12参照)に比して中間視の回折強度はやや低下するものの、本実施形態によれば、簡易な製造方法で、中間視用焦点のピークを生ぜしめ、前記第二の実施形態に近い効果が得られることが確認された。
【0109】
次に、図15に、本発明の第四の実施形態としてのレリーフ70をレリーフプロファイルとして示す。本実施形態においては、遠方視レリーフとしてパワー=+4.0D、中間視レリーフとしてパワー=+2.0Dの2つのレリーフが周期的に重なり合う同期構造が設定されている。なお、格子ピッチは、遠方視レリーフに比して、中間視レリーフの方が大きい。
【0110】
図15から明らかなように、本実施形態におけるレリーフ70は、前記第一の実施形態におけるレリーフ24(図10参照)のレリーフ高さが正負反転せしめられたものであり、各ゾーンにおいて、稜線30が谷線32よりも中央側に位置せしめられている。本実施形態によれば、屈折面の0次光が近方視用焦点に設定されると共に、遠方視レリーフの回折−1次光が遠方視用焦点に設定される一方、中間視レリーフの回折−1次光が中間視用焦点に設定される。そして、前述のように、本発明における回折一次光は、−1次光を含む絶対値としての一次光として理解される。
【0111】
なお、図16に、本実施形態におけるレリーフ70によって得られる光軸上の回折強度について、前記第一の実施形態と同様に計算機上でシミュレートした結果を示す。図16から明らかなように、本実施形態によれば、屈折面の0次光による近方視用焦点に加えて、遠方視レリーフの回折−1次光による遠方視用焦点のピークが発生すると共に、これら近方視用焦点と遠方視用焦点の間に、中間視レリーフの回折−1次光による中間視用焦点のピークが発生する。そして、本実施形態においても、これら遠方視、近方視、および中間視の何れにおいても明瞭なピークが生ぜしめられることが確認された。
【0112】
次に、図17に、本発明の第五の実施形態としてのレリーフ80をレリーフプロファイルとして示す。本実施形態においては、近方視レリーフとしてパワー=+3.0D、中間視レリーフとしてパワー=+1.0Dの2つのレリーフが周期的に重なり合う同期構造が設定されている。なお、格子ピッチは、近方視レリーフに比して、中間視レリーフの方が大きい。
【0113】
本実施形態におけるレリーフ80は、前記第二の実施形態としてのレリーフ50(図11参照)に近い形状とされており、特に本実施形態においては、前記第二の実施形態としてのレリーフ50に対して、近方視レリーフのレリーフ成分のみが中央から外方に向けて0から次第に増加せしめられている。このようにすれば、近方視の回折強度を低減することが出来る。
【0114】
なお、図18に、本実施形態におけるレリーフ80によって得られる光軸上の回折強度について、前記第一の実施形態と同様に計算機上でシミュレートした結果を示す。図18から明らかなように、本実施形態によれば、前記第二の実施形態(図12参照)に比して、近方視焦点における回折強度のピークが低減されることが確認できる。
【0115】
なお、前記各実施形態においては、複数のレリーフが周期的に重なり合う同期構造を有する回折格子が光学部12における光学部前面16の略全体に亘って形成されていたが、かかる回折格子は、レンズの径方向の少なくとも一部に形成されていれば良いのであって、例えば光学部前面16の径方向中間部分のみに形成されて、他の領域では一種類のレリーフだけが形成されている等しても良い。例えば、前記第一の実施形態としての眼内レンズ10に形成されたレリーフ24においては、同期構造を有する回折格子を、光学部後面18に形成することも、勿論可能である。
【0116】
加えて、同期構造を有する回折格子が形成されるレンズ表面は、屈折面に限定されない。例えば、図19にモデル的に示す、本発明の異なる態様としての眼内レンズの光学部100のように、両表面が平面102、104とされた一方の平面102に回折格子22を形成しても良いし、或いは、図20にモデル的に示す、本発明の更に異なる態様としての眼内レンズの光学部110のように、一方の表面が平面112とされて、他方の表面が屈折面としての湾曲面114とされた平面112に回折格子22を形成する等しても良い。
【0117】
更にまた、収差軽減等の目的のために、例えば特開2001−42112号公報等に記載のように、分散が異なる二つの材質からなる積層面に、本発明にかかる回折格子を形成することも可能である。
【0118】
なお、前記第一の実施形態に従う実施例(図6参照)に対する比較例1として、従来構造に従う2焦点レンズのレリーフ形状によって得られる回折強度について実施例と同様に計算機上でシミュレートした。比較例1のレリーフ形状としては、近方視用の+4.00Dの屈折力を有する形状を設定した。かかるシミュレート結果を、図21に示す。公知のように、従来構造に従う比較例1においては、実施例と異なり、屈折面の0次光と、近方視レリーフの回折一次光とによる2つのピークのみ生ぜしめられることが確認出来る。
【0119】
更に、シミュレート結果の信頼性を高めるために、波動光学設計・解析ソフトウェア(LightTrans社製の商品名:Virtual Lab)を用いて、実施例に従うレリーフ形状と、比較例1に従うレリーフ形状について、回折強度のピークの生成を検証した。かかる検証結果を、実施例について図22(a)に、比較例1について図22(b)に示す。図22から明らかなように、本シミュレートにおいても、本発明に従う構造とされた実施例によれば、従来構造とは異なり、遠方視焦点と近方視焦点の間に中間視焦点の強いピークが発生することが確認出来た。
【0120】
また、比較例2として、近方視レリーフと中間視レリーフを同期させることなく単に重ね合わせた、非同期構造のレリーフ形状を有する眼内レンズを用意した。比較例2は、バイコンベックス形状の眼内レンズにおいて、パワー=+20.0D、レンズ材料屈折率=1.500、周囲媒質屈折率=1.336、設計波長=500nmとして、パワー=+4.00Dの近方視レリーフおよびパワー=+2.00Dの中間視レリーフを、何れのゾーン定数も1に設定して、互いに同期しない形状で重ね合わせてレリーフ形状を設定し、かかるレリーフ形状を光学部前面に形成した。図23に近方視レリーフを、図24に中間視レリーフのレリーフプロファイルを示す。そして、図25に、これら近方視レリーフと中間視レリーフが互いに同期することなく重ね合わされた、比較例2としてのレリーフプロファイルを示すと共に、図26に、かかる比較例2のレリーフ形状によって得られる回折強度のシミュレート結果を示す。図26から明らかなように、複数のレリーフ形状を単に重ね合わせた比較例2においては、屈折面による0次光、近方視レリーフによる回折一次光、中間視レリーフによる回折一次光の何れも明瞭なピークの発生が認められず、意図しない次数光の発生も引き起こすことが確認された。これにより、複数のレリーフが互いに周期的に重なり合う同期構造を設定する本発明の有用性が明らかとされた。
【符号の説明】
【0121】
10:眼内レンズ、12:光学部、16:光学部前面、20:レンズ中心軸、22:回折格子、24:レリーフ、26:近方視レリーフ、28:中間視レリーフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ表面に対して同心円状に延びるレリーフをもった回折格子を設けた水晶体嚢内に配設される無水晶体眼内レンズの製造方法であって、
前記レリーフとして、それぞれの回折一次光が互いに異なる焦点距離を与える複数種類のレリーフを採用すると共に、レンズの径方向の少なくとも一部の領域において少なくとも二種類のレリーフを重ねて設定し、且つ、それらの重ねて設定したレリーフにおける格子ピッチが最大のレリーフの各格子ピッチに対して、他のレリーフにおける格子ピッチが周期的に重なり合う同期構造を設定して、得られたレリーフを前記レンズ表面に形成することを特徴とする無水晶体眼内レンズの製造方法。
【請求項2】
前記レンズの屈折面による0次光に対して、前記複数種類のレリーフによる何れの回折一次光の焦点距離とも異なる焦点距離を設定する請求項1に記載の無水晶体眼内レンズの製造方法。
【請求項3】
前記レリーフを形成する前記レンズ表面が、前記屈折面である請求項2に記載の無水晶体眼内レンズの製造方法。
【請求項4】
前記格子ピッチが最大のレリーフのレリーフ段差であって、前記複数のレリーフが重なった各レリーフ段差の大きさが、ゾーン方向で一定となるように形成する請求項1乃至3の何れか一項に記載の無水晶体眼内レンズの製造方法。
【請求項5】
前記複数のレリーフを重ねて設定した径方向の領域には、前記格子ピッチが最大のレリーフの各一つのゾーンにおいて、別の種類の前記レリーフが少なくとも二つのレリーフ段差をもって形成され、且つそれら少なくとも二つのレリーフ段差における前記ベース表面に対する高さがゾーン方向で次第に変化するように設定する請求項4に記載の無水晶体眼内レンズの製造方法。
【請求項6】
前記複数のレリーフを重ねて設定した径方向の領域には、前記格子ピッチが最大のレリーフの各一つのゾーンにおいて、別の種類の前記レリーフが少なくとも二つのレリーフ段差をもって形成され、且つそれら少なくとも二つのレリーフ段差における前記ベース表面に対する高さがゾーン方向で一定となるように設定する請求項4に記載の無水晶体眼内レンズの製造方法。
【請求項7】
複数種類の前記レリーフが、何れも、鋭角の頂角をもった断面形状で周方向に延びる稜線と鋭角の夾角をもった断面形状で周方向に延びる谷線とを有している請求項1乃至6の何れか一項に記載の無水晶体眼内レンズの製造方法。
【請求項8】
前記レンズの屈折面による0次光を遠方視用焦点に設定する一方、一つの種類の前記レリーフによる回折一次光を近方視用焦点に設定すると共に、別の種類の前記レリーフによる回折一次光を中間視用焦点に設定する請求項1乃至7の何れか一項に記載の無水晶体眼内レンズの製造方法。
【請求項9】
前記レンズの屈折面による0次光を近方視用焦点に設定する一方、一つの種類の前記レリーフによる回折一次光を遠方視用焦点に設定すると共に、別の種類の前記レリーフによる回折一次光を中間視用焦点に設定する請求項1乃至7の何れか一項に記載の無水晶体眼内レンズの製造方法。
【請求項10】
複数の前記レリーフは、一方の該レリーフのゾーン定数をA、他方の該レリーフのゾーン定数をa,一方の該レリーフのゾーン番号をM、他方の該レリーフのゾーン番号をm、一方の該レリーフの焦点距離/他方の該レリーフの焦点距離をNとして、下式:
A=(2(m−NM)+a)/N
を満足するように設定されている請求項1乃至9の何れか一項に記載の無水晶体眼内レンズの製造方法。
【請求項11】
複数の前記レリーフは、レリーフ段差の高さ寸法をD、設計波長をλ、前記光学材料の屈折率をNlens、周囲媒質屈折率をNmed として、下式:
D≦λ/(Nlens−Nmed
を満足するように設定されている請求項1乃至10の何れか一項に記載の無水晶体眼内レンズの製造方法。
【請求項12】
レンズ表面に対して同心円状に延びるレリーフをもった回折格子が設けられた水晶体嚢内に配設される無水晶体眼内レンズであって、
レンズの径方向の少なくとも一部の領域において、それぞれの回折一次光が互いに異なる焦点距離を与える少なくとも二種類のレリーフが重ねて設定されており、且つ、それらの重ねて設定されたレリーフにおける格子ピッチが最大のレリーフの各格子ピッチに対して、他のレリーフにおける格子ピッチが周期的に重なり合う周期構造を有することを特徴とする無水晶体眼内レンズ。
【請求項13】
前記レンズの屈折面による0次光に対して、前記複数種類のレリーフによる何れの回折一次光の焦点距離とも異なる焦点距離が設定されている請求項12に記載の無水晶体眼内レンズ。
【請求項14】
前記レリーフが形成される前記レンズ表面が、前記屈折面である請求項13に記載の無水晶体眼内レンズ。
【請求項15】
前記格子ピッチが最大のレリーフのレリーフ段差であって、前記複数のレリーフが重なった各レリーフ段差の大きさが、ゾーン方向で一定とされている請求項12乃至14の何れか一項に記載の無水晶体眼内レンズ。
【請求項16】
前記複数のレリーフを重ねて設定した径方向の領域には、前記格子ピッチが最大のレリーフの各一つのゾーンにおいて、別の種類の前記レリーフが少なくとも二つのレリーフ段差をもって形成され、且つそれら少なくとも二つのレリーフ段差における前記ベース表面に対する高さがゾーン方向で次第に変化している請求項15に記載の無水晶体眼内レンズ。
【請求項17】
前記複数のレリーフを重ねて設定した径方向の領域には、前記格子ピッチが最大のレリーフの各一つのゾーンにおいて、別の種類の前記レリーフが少なくとも二つのレリーフ段差をもって形成され、且つそれら少なくとも二つのレリーフ段差における前記ベース表面に対する高さがゾーン方向で一定とされている請求項15に記載の無水晶体眼内レンズ。
【請求項18】
複数種類の前記レリーフが、何れも、鋭角の頂角をもった断面形状で周方向に延びる稜線と鋭角の夾角をもった断面形状で周方向に延びる谷線とを有している請求項12乃至17の何れか一項に記載の無水晶体眼内レンズ。
【請求項19】
前記レンズの屈折面による0次光が遠方視用焦点に設定されている一方、一つの種類の前記レリーフによる回折一次光が近方視用焦点に設定されていると共に、別の種類の前記レリーフによる回折一次光が中間視用焦点に設定されている請求項12乃至18の何れか一項に記載の無水晶体眼内レンズ。
【請求項20】
前記レンズの屈折面による0次光が近方視用焦点に設定されている一方、一つの種類の前記レリーフによる回折一次光が遠方視用焦点に設定されていると共に、別の種類の前記レリーフによる回折一次光が中間視用焦点に設定されている請求項12乃至18の何れか一項に記載の無水晶体眼内レンズ。
【請求項21】
複数の前記レリーフが、一方の該レリーフのゾーン定数をA、他方の該レリーフのゾーン定数をa,一方の該レリーフのゾーン番号をM、他方の該レリーフのゾーン番号をm、他方の該レリーフの焦点距離/一方の該レリーフの焦点距離をNとして、下式:
A=(2(m−NM)+a)/N
を満足するように形成されている請求項12乃至20の何れか一項に記載の無水晶体眼内レンズ。
【請求項22】
複数の前記レリーフが、レリーフ段差の高さ寸法をD、設計波長をλ、前記光学材料の屈折率をNlens、周囲媒質屈折率をNmed として、下式:
D≦λ/(Nlens−Nmed
を満足するように形成されている請求項12乃至21の何れか一項に記載の無水晶体眼内レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−158315(P2010−158315A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1169(P2009−1169)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】