説明

無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物

【課題】シアン酸エステルとエポキシ樹脂とを組み合わせてなる、優れた硬化性及び耐熱性と共に、その硬化物が低誘電率及び低誘電正接(低tanδ)をも有する、無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ樹脂組成物を提供すること
【解決手段】(A)平均シアネート基数が2.5以上である多官能シアン酸エステル又はその混合物、(B)平均エポキシ基数が2.5以上である多官能液状エポキシ樹脂又はその混合物、及び、(C)アミン系潜在性硬化剤を含有してなることを特徴とする無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無溶剤一液型のシアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物に関し、特に、多官能シアン酸エステル、多官能液状エポキシ樹脂、及びアミン系潜在性硬化剤を含有してなり、硬化性・耐熱性に優れると共に、低誘電率、低誘電正接(低tanδ)など、硬化後の電気特性にも優れる、無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は優れた電気的性能と接着力を有するため、従来から、電気・電子分野の種々の用途に使用されている。また、既存のエポキシ樹脂を単独で或いは混合して用いただけでは不十分な場合には、エポキシ樹脂とシアン酸エステルを混合してなるシアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物が、高耐熱性の樹脂組成物として、半導体封止や成形用途などに多用されている。
【0003】
近年では、電子部品用途の拡大に伴い、これまでになく、厳しい環境下での耐久性と生産性が要求されており、これまで以上の耐熱性や優れた硬化性が要求されている。また、半導体周辺の電子回路の高集積化や高速化に伴い、低誘電率と共に低誘電正接(tanδ)を有する有機材料が求められている。
【0004】
このような需要に応えるために、これまでにも、例えば、シアン酸エステル、エポキシ樹脂、無機充填剤、及びジヒドラジド化合物などからなる半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物(特許文献1)や、シアン酸エステル及びエポキシ樹脂を含む複合組成物にアミン系硬化剤を使用する例(特許文献2)が提案されている他、シアン酸エステル及びエポキシ樹脂にイミダゾール成分を含む潜在性硬化剤を使用した熱硬化性樹脂組成物(特許文献3)など、シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物が数多く提案されているが、これらの組成物は硬化に時間がかかるため生産性が低いだけでなく、耐熱性が不十分であったり、低誘電率、低誘電正接(tanδ)の要求を満足する事ができなかったりするため、更なる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−302767号公報
【特許文献2】特開昭60−250026号公報
【特許文献3】特表2001−506313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、シアン酸エステルとエポキシ樹脂とを組み合わせてなる、優れた硬化性及び耐熱性と共に低誘電率及び低誘電正接(低tanδ)をも有する、無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者等は、上記の目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、多官能シアン酸エステル、多官能液状エポキシ樹脂及びアミン系潜在性硬化剤を含有してなるシアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物が良好であることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち本発明は、(A)下記式(1)で表される、平均シアネート基数が2.5以上である多官能シアン酸エステル又はその混合物、(B)下記式(2)で表される平均エポキシ基数が2.5以上である多官能液状エポキシ樹脂又はその混合物、及び、(C)アミン系潜在性硬化剤を含有してなることを特徴とする無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物である。
式(1):

但し、Aiは成分iのシアネート基数、Xiは成分iの含有割合(%)であり、
式(2):

上式中のBkは成分kのエポキシ基数、Ykは成分kの含有割合(%)である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシアン酸エステル−エポキシ樹脂組成物は、優れた硬化性と耐熱性のみならず、低誘電率及び低誘電正接(tanδ)を有しているので、封止用材料、接着剤、フィルム、接着構造物、半導体パッケージ、樹脂被膜物、電子回路基板等の用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1及び比較例1について、昇温速度2℃/分、走査温度範囲−100〜250℃として、動的粘弾性を測定した結果を示す図である。尚、実線は実施例1、点線は比較例1である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に使用される(A)成分である多官能シアン酸エステルは、特に限定されるものではなく、例えば、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
一般式(3)


但し、上式中のnは0.5以上、Rは、非置換又はフッ素置換の2価の炭化水素基であり、R’及びR”は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。
【0012】
また、下記一般式(4)で表される化合物の、シアネート基の一部がトリアジン環を形成したプレポリマーも(A)成分として使用することができる。
一般式(4)

但し、上式中のR1は、非置換又はフッ素置換の2価の炭化水素基、-O-、-S-、又は単結合を表し、R2及びR3は、それぞれ独立して非置換又は1〜4個のアルキル基で置換されているフェニレン基である。上記プレポリマーとしては、例えば一般式(4)の化合物の全部又は一部が3量化した物が挙げられる。
【0013】
より好ましいのは、前記一般式(3)であらわされる下記の化合物の中でも、


特に、Rが、非置換又はフッ素置換のメチレン基、若しくは、下記の基


で表される化合物(ここで、nは1〜12の整数)、及び、前記一般式(3)で表される化合物のプレポリマー、又は、前記一般式(4)の化合物の内、下記の一般式(5)で表される化合物のプレポリマーである。
一般式(5)

但し、上式中のR5は、基:

(ここで、R10、R11はそれぞれ独立して、水素原子又は非置換若しくはフッ素置換のメチル基である)、又は、基:

であり、上式中のnは4〜12の整数、前記式(5)中のR6、R7、R8及びR9はそれぞれ独立して、水素原子又は非置換若しくはフッ素置換のメチル基である。
【0014】
本発明で(A)成分として使用する好ましい多官能シアン酸エステル化合物は、具体的にはフェノールノボラックポリシアネート化合物及びクレゾールノボラックポリシアネート化合物であり、特に、フェノールノボラックポリシアネート、クレゾールノボラックポリシアネート、4,4’−エチリデンビスフェニレンシアネート、2,2−ビス(4―シアナトフェニル)プロパン及びビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)メタンのプレポリマーが好ましい。
【0015】
これらの多官能シアン酸エステルは、単独で使用することも2種以上のシアン酸エステルと組み合わせて使用することもできるが、次式(1)で表される平均シアネート基数が2.5以上となるように使用することが必要である。
式(1)

但し、上式中のAiは成分iのシアネート基数、Xiは成分iの含有割合(%)である。
【0016】
本発明に使用される(B)成分である多官能液状エポキシ樹脂、及びその混合物を構成しうるエポキシ樹脂としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ピロカテコール、フロログルクシノール等の単核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物;ジヒドロキシナフタレン、ビフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、メチレンビス(オルトクレゾール)、エチリデンビスフェノール、イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、イソプロピリデンビス(オルトクレゾール)、テトラブロモビスフェノールA、1,3−ビス(4−ヒドロキシクミルベンゼン)、1,4−ビス(4−ヒドロキシクミルベンゼン)、1,1,3−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,2,2−テトラ(4−ヒドロキシフェニル)エタン、チオビスフェノール、スルホビスフェノール、オキシビスフェノール、フェノールノボラック、オルソクレゾールノボラック、エチルフェノールノボラック、ブチルフェノールノボラック、オクチルフェノールノボラック、レゾルシンノボラック、テルペンフェノール等の多核多価フェノール化合物のポリグリジルエーテル化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ポリグリコール、チオジグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ビスフェノールA−エチレンオキシド付加物等の多価アルコール類のポリグリシジルエーテル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、トリマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂肪族、芳香族又は脂環族多塩基酸のグリシジルエステル類及びグリシジルメタクリレートの単独重合体又は共重合体;N,N−ジグリシジルアニリン、ビス(4−(N−メチル−N−グリシジルアミノ)フェニル)メタン、ジグリシジルオルトトルイジン、N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)−4−(2,3−エポキシプロポキシ)−2−メチルアニリン、N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)−4−(2,3−エポキシプロポキシ)アニリン、N,N,N’,N’−テトラ(2,3−エポキシプロピル)−4,4’−ジアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミノ基を有するエポキシ化合物;ビニルシクロヘキセンジエポキシド、ジシクロペンタンジエンジエポキサイド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート等の環状オレフィン化合物のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン−ブタジエン共重合物等のエポキシ化共役ジエン重合体、トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環化合物等があげられる。また、これらのエポキシ樹脂は末端イソシアネートのプレポリマーによって内部架橋されたもの、或いは多価の活性水素化合物(多価フェノール、ポリアミン、カルボニル基含有化合物、ポリリン酸エステル等)で高分子量化したものでもよい。
【0017】
本発明において使用する場合には、これらのエポキシ樹脂を、下記式(2)で表される、平均エポキシ基数が2.5以上となるように使用する必要がある。
式(2)

但し、上式中のBkは成分kのエポキシ基数、Ykは成分kの含有割合(%)である。
【0018】
本発明においては、これらのうち、反応性と耐熱性のバランスに優れた低粘度の化合物である、N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)−4−(2,3−エポキシプロポキシ)−2−メチルアニリン、N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)−4−(2,3−エポキシプロポキシ)アニリン、N,N,N’,N’−テトラ(2,3−エポキシプロピル)−4,4’−ジアミノジフェニルメタン等の、グリシジルアミノ基を有するエポキシ化合物の中から選ばれる少なくとも1つを、50〜100質量%含有することが好ましい。
【0019】
本発明に使用される(C)成分であるアミン系潜在性硬化剤は、活性水素含有アミン系潜在性硬化剤であることが、反応性に優れるので好ましい。このアミン系潜在性硬化剤は、特に、(a−1)ポリアミン化合物及び(a−2)エポキシ化合物を反応させてなる、(a)分子内に活性水素を持つアミノ基を1個以上有する変性アミン、及び、(b)フェノール樹脂を含有してなる潜在性硬化剤であることが好ましい。
【0020】
本発明に使用される上記(a−1)成分であるポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン等の脂肪族ポリアミン;イソホロンジアミン、メンセンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン等の脂環式ポリアミン;m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、トリレン−2,4−ジアミン、トリレン−2,6−ジアミン、メシチレン−2,4−ジアミン、メシチレン−2,6−ジアミン、3,5−ジエチルトリレン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトリレン−2,6−ジアミン等の単核ポリアミン;ビフェニレンジアミン、4,4−ジアミノジフェニルメタン、2,5−ナフチレンジアミン、2,6−ナフチレンジアミン等の芳香族ポリアミン;2−アミノプロピルイミダゾール等のイミダゾール等があげられる。
【0021】
上記ポリアミン化合物の中でも、本発明においては特に、(1)分子内にそれぞれ反応性を異にする2個の第1級又は第2級アミノ基を有するジアミン、及び/又は、(2)分子内に2個以上の第1級又は第2級アミノ基を有し、その1個がエポキシ基と反応した場合その立体障害により残りの第1級又は第2級アミノ基のエポキシ基との反応性が低下する、芳香族ポリアミン、脂環式ポリアミン、及び脂肪族ポリアミンの中から選択された少なくとも一つのポリアミン化合物を使用することが、本発明のシアン酸エステル−エポキシ樹脂組成物硬化物の接着性のみならず、硬化物の物性等を向上させることができるため好ましい。
【0022】
上記(1)に該当するジアミンとしては、例えば、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン等があげられ、上記(2)に該当するジアミンとしては、例えば、m−キシリレンジアミン、1,3−ビスアミノシクロヘキサン等があげられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明に使用される(a−2)成分のエポキシ化合物としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、第二ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル等のモノグリシジルエーテル化合物;バーサティック酸グリシジルエステル等のモノグリシジルエステル化合物;ハイドロキノン、レゾルシン、ピロカテコール、フロログルクシノール等の単核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物;ジヒドロキシナフタレン、ビフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、メチレンビス(オルトクレゾール)、エチリデンビスフェノール、イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、イソプロピリデンビス(オルトクレゾール)、テトラブロモビスフェノールA、1,3−ビス(4−ヒドロキシクミルベンゼン)、1,4−ビス(4−ヒドロキシクミルベンゼン)、1,1,3−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,2,2−テトラ(4−ヒドロキシフェニル)エタン、チオビスフェノール、スルホビスフェノール、オキシビスフェノール、フェノールノボラック、オルソクレゾールノボラック、エチルフェノールノボラック、ブチルフェノールノボラック、オクチルフェノールノボラック、レゾルシンノボラック、テルペンフェノール等の多核多価フェノール化合物のポリグリジルエーテル化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ポリグリコール、チオジグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ビスフェノールA−エチレンオキシド付加物等の多価アルコール類のポリグリシジルエーテル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、トリマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂肪族、芳香族又は脂環族多塩基酸のグリシジルエステル類、及び、グリシジルメタクリレートの単独重合体又は共重合体;N,N−ジグリシジルアニリン、ビス(4−(N−メチル−N−グリシジルアミノ)フェニル)メタン、ジグリシジルオルトトルイジン等のグリシジルアミノ基を有するエポキシ化合物;ビニルシクロヘキセンジエポキシド、ジシクロペンタンジエンジエポキサイド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート等の環状オレフィン化合物のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン−ブタジエン共重合物等のエポキシ化共役ジエン重合体、トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環化合物があげられる。
【0024】
本発明においては、これらの中でも、分子内にエポキシ基を2個以上有するポリグリシジルエーテル化合物を使用することが好ましく、特に、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、メチレンビス(オルトクレゾール)、エチリデンビスフェノール、イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、イソプロピリデンビス(オルトクレゾール)等のビスフェノール化合物のポリグリシジルエーテルを使用することが好ましい。
【0025】
ここで、(a−1)成分として1級及び2級アミノ基を併せて2個以上有するポリアミンを用いる場合には、(a−1)成分が1モルとなる量に対し、(a−2)成分をそのエポキシ当量が0.5〜2当量、特に0.8〜1.5当量となる量反応させて得られる変性ポリアミンを、(a)成分として使用することが好ましい。また、本発明においては、(a−1)成分として、上記(1)に該当するポリアミンを用いて得られる変性アミンとイミダゾール化合物を用いて得られる変性アミンを組み合わせて使用する等、異なる変性アミン化合物及び/又はイミダゾール化合物を組み合わせて使用することができる。
【0026】
本発明に使用される(b)成分であるフェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類から合成されるフェノール樹脂である。上記フェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、n−プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、第三ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノール、シクロヘキシルフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−チオジフェノール、ジヒドロキシジフェニルメタン、ナフトール、テルペンフェノール、フェノール化ジシクロペンタジエン等があげられ、前記アルデヒド類としてはホルムアルデヒドがあげられる。
【0027】
また、(b)成分であるフェノール樹脂として、数平均分子量が750〜1200であるものを使用することによって、特に貯蔵安定性と硬化性とのバランスに優れた、本発明のシアン酸エステル−エポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0028】
(b)成分の使用量は、(a)成分100質量部に対して10〜100質量部であることが好ましく、特に、20〜60質量部であることが好ましい。10質量部未満では十分な硬化性が得られず、100質量部を超えると、硬化物の物性が低下するので好ましくない。
【0029】
本発明に使用される(C)成分であるアミン系潜在性硬化剤は、グアニジン化合物であることが、配合部数が少なくても、安定性に優れた本発明のシアン酸エステル−エポキシ樹脂組成物が得られるため好ましい。このようなグアニジン化合物としては、例えば、下記一般式で表される化合物等があげられる。
【0030】

但し、上式中のnは0〜5の整数、Rは、アミノ基、又は、非置換若しくはフッ素置換の1価の炭化水素基を表す。Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。
【0031】
これらのグアニジン化合物の中でも、安定性と反応性のバランスに優れるという観点から、本発明においては、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン又はジシアンジアミドが好ましい。
【0032】
本発明のシアン酸エステル−エポキシ樹脂組成物における(A)成分と(B)成分の使用量は、(A)成分100質量部に対し、通常(B)成分が1〜10,000質量部であり、好ましくは10〜1,000質量部、更に好ましくは20〜500質量部である。
【0033】
本発明のシアン酸エステル−エポキシ樹脂組成物における(C)成分の使用量は、(A)成分及び(B)成分の合計量100質量部に対して3〜60質量部であることが好ましく、特に、5〜50質量部であることが好ましい。また、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量は、本願発明のシアン酸エステル−エポキシ樹脂組成物中、30質量%以上であることが好ましい。
【0034】
本発明のシアン酸エステル−エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、ガラス繊維、炭素繊維、セルロース、ケイ砂、セメント、カオリン、クレー、水酸化アルミニウム、ベントナイト、タルク、シリカ、微粉末シリカ、二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉄、瀝青物質、金属粒子、金属で被覆された樹脂粒子などの充填剤又は顔料;増粘剤;チキソトロピック剤;難燃剤;消泡剤;防錆剤;コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ等の常用の添加物を含有してもよく、更に、キシレン樹脂、石油樹脂等の、粘着性の樹脂類を含有することもできる。
【0035】
本発明のシアン酸エステル−エポキシ樹脂組成物を無溶剤一液型で用いることによって、例えば、VOCの発生を抑制することができるだけでなく、環境負荷を押さえた安全性の高い材料を提供することが出来る他、狭間部位への浸透・硬化等、溶剤が使えない用途に使えるようになる。
【0036】
本発明の無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ樹脂組成物は、例えば、コンクリート、セメントモルタル、各種金属、皮革、ガラス、ゴム、プラスチック、木、布、紙等に対する塗料、或いは接着剤等の広範な用途に使用することができる。特に、高い耐熱性と優れた接着性を有するため、半導体保護封止や電子部品の接着など、電子材料用途や自動車材料用途に好適に使用される。
【0037】
以下製造例及び実施例によって本発明のシアン酸エステル−エポキシ樹脂組成物を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0038】
<製造例1(アミン系潜在性硬化剤の合成)>
イソホロンジアミン352gと、アデカレジンEP−4100E((株)ADEKAの商品名;エポキシ当量が190のビスフェノールA型エポキシ樹脂)580g(イソホロンジアミン1モルに対するアデカレジンEP−4100Eのエポキシ当量は1.47)とを反応させて、変性ポリアミンを得た。得られた変性ポリアミン100gに対してフェノール樹脂30gを仕込み、180〜190℃、30〜40トールで1時間かけて脱溶媒を行い、潜在性硬化剤(EH−1)を得た。
[実施例1,2及び比較例1−3]
【0039】
下記[表1]に示したように配合して、撹拌、混合、分散を行って樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物に対して以下の試験を実施した。その結果を[表1]に併せて示した。尚、各測定は下記のようにして行った。
【0040】
(粘度)
ブルックフィールドE型回転粘度計を用いて、5rpmで25℃における粘度を測定した。
【0041】
(ゲルタイム)
各測定温度に保たれた熱盤上に、得られた組成物を0.5g滴下し、スパチュラ等でかき混ぜながら流動性がなくなるまでの時間を測定した。
【0042】
(DSC)
SIIナノテクノロジーズ社製の示差走査熱量計DSC6220を用い、昇温速度を10℃/分、走査温度範囲を25〜250℃として、DSCチャートを測定した。更に、2次昇温を同条件で行い、熱容量の変曲点からガラス転移点を測定した。
【0043】
(線膨張係数)
直径4mmの円柱状硬化物を作製し、SIIナノテクノロジーズ社製の示差走査熱量計TMA6220を用いて、昇温速度を2℃/分、走査温度範囲を20〜250℃としてDSCチャートを測定し、低温側(30〜80℃)及び高温側(170〜220℃)の線膨張係数を示した。
【0044】
(高周波特性)
1mm厚の硬化板を作製し、アジレント・テクノロジー社製のRFインピーダンス/マテリアル・アナライザE4991Aを用いて、各周波数における誘電率εと誘電正接tanδを測定した。
【0045】
(動的粘弾性)
実施例1及び比較例1についてのみ、5mm×20mm×0.2mmの板状硬化物を作製し、エー・アンド・デイ社製の動的粘弾性自動測定器であるレオバイブロンDDV−01FPを用いて、昇温速度2℃/分、走査温度範囲−100〜250℃として動的粘弾性を測定した。その結果を〔図1〕に示した。

【0046】
【表1】

【0047】
表中の各使用成分は下記の通りである。
CE−1:2官能シアン酸エステル(ロンザ社製;PrimasetLeCy、ビスフェノールE型シアン酸エステル)、
CE−2:多官能シアン酸エステル(ロンザ社製;PrimasetPT−30、フェノールノボラック型シアン酸エステル、平均官能基数7.3)、
EP−1:2官能エポキシ樹脂((株)ADEKA社製;EP−4100L、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量170)
EP−2:3官能エポキシ樹脂((株)ADEKA社製;EP−3950S、アミノフェノール型エポキシ樹脂、エポキシ当量95)
DICY:ジシアンジアミド((株)ADEKA社製;EH−3636AS)
SiO:シリカフィラー(電気化学工業(株)社製;FB−950)
【0048】
表1から明らかなように、多官能シアン酸エステル、多官能液状エポキシ樹脂及びアミン系潜在性硬化剤を含有してなる本発明の無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物(実施例1及び2)は、エポキシ樹脂を単独で使用した比較例3の場合より硬化性が優れる上、誘電率及び誘電性正接が低いので良好な高周波特性が得られる。更に、本発明の無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物(実施例1及び2)は、2官能のシアン酸エステル及び2官能のエポキシ樹脂を使用した比較例1や、2官能のシアン酸エステル及び多官能のエポキシ樹脂を使用した比較例2の場合より、高温側線膨張係数が小さくなり、耐熱性が高い。また、上記耐熱性の向上は、粘弾性のデータにおける弾性率の低下が少ないことからも明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のシアン酸エステル−エポキシ樹脂組成物を無溶剤一液型で用いることによって、例えば、VOCの発生を抑制することができるだけでなく、環境負荷を押さえた安全性の高い材料を提供することが出来る上、狭間部位への浸透・硬化等、溶剤が使えない用途に使えるので産業上極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で表される、平均シアネート基数が2.5以上である多官能シアン酸エステル又はその混合物、(B)下記式(2)で表される平均エポキシ基数が2.5以上である多官能液状エポキシ樹脂又はその混合物、及び、(C)アミン系潜在性硬化剤を含有してなることを特徴とする、無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物;
式(1):

但し、Aiは成分iのシアネート基数、Xiは成分iの含有割合(%)であり、
式(2):

但し、Bkは成分kのエポキシ基数、Ykは成分kの含有割合(%)である。
【請求項2】
前記(B)成分である多官能液状エポキシ樹脂が、N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)−4−(2,3−エポキシプロポキシ)−2−メチルアニリン、N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)−4−(2,3−エポキシプロポキシ)アニリン、及び、N,N,N’,N’−テトラ(2,3−エポキシプロピル)−4,4’−ジアミノジフェニルメタンの中から選ばれる少なくとも1種を50〜100質量%含む、請求項1に記載された無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)成分であるアミン系潜在性硬化剤が活性水素含有アミン系潜在性硬化剤である、請求項1又は2に記載された無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)成分であるアミン系潜在性硬化剤が、(a−1)ポリアミン化合物及び(a−2)エポキシ化合物を反応させてなる(a)分子内に活性水素を持つアミノ基を1個以上有する変性アミン、及び、(b)フェノール樹脂を含有してなる潜在性硬化剤である、請求項3に記載された無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物。
【請求項5】
前記(a−1)ポリアミン化合物が、(1)分子内にそれぞれ反応性を異にする2個の第1級又は第2級アミノ基を有するジアミン、(2)分子内に2個以上の第1級又は第2級アミノ基を有し、その1個がエポキシ基と反応した場合、その立体障害により残りの第1級又は第2級アミノ基のエポキシ基との反応性が低下する芳香族ポリアミン、(3)脂環式ポリアミン及び(4)脂肪族ポリアミンからなる群の中から選択された少なくとも1種である、請求項4に記載された無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物。
【請求項6】
前記(a−2)であるエポキシ化合物が、分子内にエポキシ基を2個以上有するポリグリシジルエーテル化合物である、請求項4又は5に記載された無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物。
【請求項7】
前記(a)成分である変性ポリアミンが、(a−1)成分が1モルとなる量に対し、(a−2)成分0.5〜2当量となる量使用して反応させて得られた変性ポリアミンである、請求項4〜6の何れかに記載された無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物。
【請求項8】
前記(b)成分であるフェノール系樹脂の数平均分子量が750〜1200である、請求項4〜7の何れかに記載された無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物。
【請求項9】
(a)成分である変性ポリアミン100質量部に対し、(b)成分であるフェノール樹脂を10〜100質量部使用する、請求項4〜8の何れかに記載された無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物。
【請求項10】
前記(C)成分であるアミン系潜在性硬化剤が、下記グアニジン化合物の中から選択された少なくとも一種のグアニジン化合物である、請求項1〜10の何れかに記載された無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物;

但し、上式中のnは0〜5の整数、Rは、アミノ基又は非置換若しくはフッ素置換の炭素数1〜15の1価の炭化水素基、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。
【請求項11】
前記グアニジン化合物が、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、及びジシアンジアミドの中から選ばれた少なくとも一種のグアニジン化合物である、請求項10に記載された無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物。
【請求項12】
前記(A)成分である多官能シアン酸エステルが、下記一般式(3)で表される化合物、及び、下記一般式(4)で表される化合物のプレポリマーからなる群の中から選択される少なくとも1種の化合物及び/又はプレポリマーである、請求項1〜11の何れかに記載された無溶剤一液型シアン酸エステル−エポキシ複合樹脂組成物;
一般式(3):


但し、上式中のnは0.5以上、Rは、非置換又はフッ素置換の2価の炭化水素基、R’及びR”は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である;
下記一般式(4):

但し、上式中のR1は、非置換又はフッ素置換の2価の炭化水素基、又は-O-、-S-、若しくは単結合を表し、R2及びR3は、それぞれ独立に、非置換又は1〜4個のアルキル基で置換されたフェニレン基である。
【請求項13】
請求項1〜12の何れかに記載された樹脂組成物を、重合硬化させてなることを特徴とする硬化物。
【請求項14】
請求項1〜12の何れかに記載された樹脂組成物を、型内で硬化させることを特徴とする硬化物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−162710(P2011−162710A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28945(P2010−28945)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】