無線センサチップ及び測定システム
【課題】高感度で定量計測が可能な簡便・安価な遺伝子計測システムを実現する。
【解決手段】遺伝子増幅を無線センサチップよって計測するシステムにおいて増幅産物を効率よくセンサ電極に捕捉するため、通信用のアンテナコイルの出力とセンサ電極をコンデンサ19,20によって結合する。
【解決手段】遺伝子増幅を無線センサチップよって計測するシステムにおいて増幅産物を効率よくセンサ電極に捕捉するため、通信用のアンテナコイルの出力とセンサ電極をコンデンサ19,20によって結合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症対策の検査や食品検査などにおいて、安価・簡便かつ高感度・迅速な計測を可能とする無線センサチップ及びそれを用いた測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ウィルス遺伝子検査や食品検査に利用される遺伝検査手段としては、PCR法と組み合わせたDNAマイクロアレイ、PCR法と組み合わせた電気泳動法、real time PCR法、LAMP法などがある。ウィルス感染症対策についてみると、ウィルス遺伝子検査はウィルス抗原タンパクを検出する方法に比べて感度が高い、抗体開発の期間が不要などの利点がある。このため感染症治療や流行拡大の防止のために正確、迅速に病原の遺伝子を検出する遺伝子検査の重要性は増している。
【0003】
【特許文献1】特開2004−101253号公報
【特許文献2】特開2006−30132号公報
【特許文献3】特開2006−125902号公報
【特許文献4】特開2007−141131号公報
【特許文献5】特開2007−114925号公報
【特許文献6】特開2005−207797号公報
【特許文献7】特開2007−333695号公報
【特許文献8】特開2003−329681号公報
【非特許文献1】Science, issue 5375, pp. 363-365, 1998
【非特許文献2】ISSCC Dig. Tech. papers, pp. 562-563, 2005.
【非特許文献3】J. Mavor, M.A. Jack and P.B.Denyer “Introduction to MOS LSI DESIGN” ADDISON -WESLEY,1983.
【非特許文献4】M.R. Haskard and I.C. May “Analog VLSI Design nMOS and CMOS” PRENTICE HALL, 1988
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
遺伝子計測システムにおける課題として、(1)計測システムが小型かつ低コストであること、(2)計測感度が高いこと、(3)定量的な計測が可能であること、(4)検査に要する時間が短いこと、(5)同一反応槽内で多数の項目を同時に測定できること、(6)試料が少量で済み、試薬のコストが安いこと、の6点をあげることができる。
【0005】
従来から広く利用されているDNAマイクロアレイや電気泳動の場合はあらかじめPCR法によって遺伝子を増幅しなければならないが、試料に温度サイクルをかけるためのサーマルサイクラーが必要になる。DNAマイクロアレイにおける信号検出にはスキャナと呼ばれる蛍光計測装置が用いられる。ここでは励起光源としてのレーザー、共焦点光学系、光電子増倍管、さらに高精度のxy移動ステージが必要である。したがって小型化、低コスト化が難しく、低コストで簡便な検出手段が必要とされていた。また、マイクロアレイは複数項目の同時計測という点において有力な手法であるが、一般に基板に固定されたプローブに対する標的DNAのハイブリダイゼーション反応の速度は遅く、10時間程度を要することもあり、高スループット化が難しかった。電気泳動法ではDNAシーケンサなどの高価で大型の検出装置が必要であった。そこで簡便で高速な検査方法の実現が求められていた。
【0006】
real time PCR法は、遺伝子増幅の過程でリアルタイムに増幅産物の濃度を計測することができる。温度サイクルの発生と、蛍光検出核酸、タンパク質などの生体物質以外を対象とした、温度、圧力、イオン濃度などの物理及び化学的な計測においては、センサ信号を取り出すためのリード線が必要であり、特に多数の項目について測定を行う場合にリード線の敷設、結線及び信号処理についてコストと作業スペースが必要であった。そこで、リード線が不要で複数の測定項目についても簡便に対応できるような測定システムの開発が待たれていた。また、前記の生体あるいは化学物質をターゲットとしたセンサを備えた計測装置と物理・化学量を計測するセンサを同一の反応槽に同時に投入し、同時に計測できるような技術も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決のために、本発明では、センサとRF通信機能と識別番号(ID)を微小チップ上集積した無線センサチップを用いる。本発明の測定システムは、遺伝子増幅産物等を検出する無線センサチップ上のセンサ電極に交流電圧を印加して増幅産物等のセンサ電極上への捕捉を促進する。また、遺伝子増幅のための溶液加熱に温度センサ内蔵の無線センサチップを利用する。電荷センサ内蔵の無線センサチップを反応槽に投入し、無線センサチップに捕捉された増幅産物密度によって変化する表面電位を計測することによって増幅産物を計測する。
【0008】
本発明による無線センサチップは、センサ電極を備えるセンサと、信号処理回路と、制御回路と、無線通信回路と、アンテナコイルとを有し、センサ電極はコンデンサを介して前記アンテナコイルに接続されている。また、本発明による無線センサチップは、センサ電極を備えるセンサと、信号処理回路と、制御回路と、無線通信回路と、アンテナコイルとを有し、センサ電極は、間に絶縁膜を挟んで前記アンテナコイルの少なくとも一部と平面パターン上で重なっている。
【0009】
センサ電極には、無線センサチップのアンテナコイル端に発生した交流電圧が印加される。センサの出力からはセンサ電極に印加された交流電圧の周波数が遮断され、センサ出力はアンテナコイルから印加される交流電圧の影響を受けない。
【0010】
本発明の測定システムは、上記無線センサチップと、リーダコイルを備えて無線センサチップと通信するリーダとを有する。また、本発明の測定システムは、温度センサを搭載する無線センサチップを含み、温度センサを搭載する無線センサチップによって検出された温度が所定の温度になるようにリーダから送信される交流電磁波のオンオフあるいは交流電磁波の振幅を調整するように構成することもできる。センサ電極を備えるセンサは、典型的にはISFETであり、センサ電極に捕捉したターゲットにDNA等によるセンサ電極の電位変動を計測することでターゲットの検出を行う。
【発明の効果】
【0011】
遺伝子の増幅産物等を無線センサチップで計測することによる効果は5つある。第1は外部計測装置の小型・低コスト化に有利であること、第2は計測データの数値化が用意であること、第3は時間変化計測が容易であり、遺伝子増幅産物等に対応するセンサ出力の変化点から対象物の定量が可能になること、第4は無線センサチップの制御プロトコルに含まれる輻輳制御機能により測定項目の増減や膜部材の形状変化について無線センサチップの配置換えだけで対応できる設計の柔軟性が得られること、第5は計測結果が無線センサチップの識別番号(UID)と一体となってリーダを通して制御装置に読み取られるため、ネットワークを利用した計測データの利用・管理において利便性が高く、とり違いや改ざんを防止する上でも有効であること、である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
無線センサチップは、遺伝子増幅産物等を検出するセンサ、センシング情報の処理・リーダとの通信制御・識別番号の格納と照合・電源の発生と制御の各機能を有する回路ブロック、リーダとの通信を行うアンテナ、の各機能ブロックを備えている。無線センサチップは、遺伝子の増幅反応が実行される反応槽に投入される。反応槽内で遺伝子の増幅が進むと、無線センサチップは増幅産物濃度を計測してディジタル電気信号に変換し、リーダに送信する。リーダからは、複数の計測装置の中から特定の計測装置を制御するための各種コマンドが交流の電場あるいは磁場を伝達手段として送信される。無線センサチップの駆動に必要な電力は、前記交流の電場あるいは磁場を整流、平滑化することによって発生される。そのため、無線センサチップはバッテリーレス、ワイヤレスで駆動することができる。反応槽には複数の無線センサチップを投入してもよい。この場合、各チップには固有の識別番号が書き込まれており、リーダから送信された識別番号との照合によって複数の無線センサチップを識別する。この無線センサチップを、遺伝子増幅を行う反応層に投入して増幅産物をリアルタイムで検出することにより、安価・簡便で高感度の遺伝子検査システムを実現することができる。
【0013】
ところで、センサ電極に交流電圧を印加することで効率よく増幅産物等を捕捉できることが知られている。そこで本発明では、無線センサチップのセンサ電極に無線通信に利用している電磁場から得られる交流電圧を印加することにより、効率的に増幅産物を捕捉する。
【0014】
本発明が想定する応用は、遺伝子を対象とした計測装置である。センサと無線機能を具備する無線センサチップ(特開2004−101253号公報)を遺伝子増幅が行われる反応容器に入れて増幅産物を計測し、計測結果を無線で外部のリーダを介して制御装置に送信する。
【0015】
本発明による無線センサチップ10の構成例を図1に示す。センサ14には増幅産物を検出する信号検出用センサ電極17とブランク信号を検出する参照用のセンサ電極18が接続され、信号検出用センサ電極の表面にはたとえばpoly-L-lysineをコーティングして遺伝子を吸着させる。遺伝子の吸着の密度によってセンサ電極表面の電位が変化し、増幅産物の遺伝子の濃度に対応する信号が得られる。リーダ70からのコマンド信号は無線通信回路11を経て制御回路12に送られ、ここでセンサ初期化、センサ信号の増幅・ディジタル信号への変換のための信号に変換され、対応する回路状態への遷移が逐次実行される。信号処理回路13で信号とブランク信号の差分が増幅、符号化され、無線通信回路11において変調されてアンテナコイル15からリーダコイル71を経てリーダ70に送信され、制御装置80で読み取られ、データ処理されて表示・記録される。参照電極(qRE)27は、溶液に対して無線センサチップの電位を決めるための電極である。無線通信には種々の周波数の電磁波を搬送波として用いることが可能であるが、本実施例ではICカードなどで広く使用されている13.56MHzの交流磁場を搬送波に用いた場合について説明する。
【0016】
本実施例の無線センサチップ10において特徴的なのは、遺伝子計測のためのセンサ電極17,18がコンデンサ(カップリングコンデンサ)19,20を介してアンテナコイル端子に接続されていることである。特開2006−30132号公報には、遺伝子を吸着させようとする電極に交流電圧を印加することにより吸着の速度を増加できることが示されている。一般に交流電圧を生成するには発信器が必要となるが、本実施例の無線センサチップにおいては、アンテナコイル端子から交流電圧を得ることが可能である。
【0017】
図2は、リーダ70と、無線センサチップ10のアンテナコイル15と無線通信回路11の一部を示す図である。アンテナコイル15は、センサチップの小型化とウェハ上での一括形成の観点から、チップ上に直接形成することが望ましいが、センサチップとは別に形成してから組み立て・接続してもよい。搬送波は、図2(b)に示すように13.56MHzの交流磁場である。これによりアンテナコイル15と共振コンデンサ16からなる共振回路の両端LA,LBの間に、図2(b)に示すような誘導起電力を発生する。全波整流回路23により誘導起電力は全波清流され、チップ内部の電源電圧VDDの平滑容量26によって平滑化されて、VDD端子には無線センサチップで利用する直流電圧VDDが生成される。
【0018】
図3は、端子LAの交流電圧をセンサ電極17,18に伝達する手段を示している。コンデンサ19,20を介して、LAの交流電圧をセンサ電極17,18に伝達する。特開2006−30132号公報によれば、交流電圧の振幅は200mVであることが示されている。LAの交流電圧は0(VSS)Vを起点にして振れている。センサ電極の電圧振幅v2は、LAの振幅をv1、カップリングコンデンサ容量をC2、センサ電極の容量をC4とすれば、
v2=v1*C2/(C2+C4)
で表せる。v1=4V、C4=20pFとすれば、C2=1pFとすればセンサ電極における振幅200mVを得ることができる。
【0019】
ここで、センサ電極17と18に印加する交流電圧の位相は一致させることが望ましい。図3に示すように、センサ電極17,18はそれぞれ信号検出用のISFET30、ブランク信号検出用のREFET31のゲートに接続され、ISFET、REFETの出力はそれぞれ専用の増幅器37,38によってインピーダンス変換された後、差動増幅器39によって差動増幅される。ここで各センサ電極に印加された交流電圧が同相であれば、この差動増幅によってキャンセルすることができる。参照電極(qRE)27は、参照電極電位を設定するための可変電圧源に接続されている。
【0020】
特開2006−30132号公報には、交流電圧周波数として1kHz以上が有効であり、1MHzまでの重畳高周波の効果についてデータが示されている。溶液中におけるDNA鎖の併進あるいは回転の時定数は高々100psであり100GHzの振動に対応する。したがってDNA鎖の併進・回転が追従できる高周波の周波数範囲は100GHz以下であると考えられる。重畳高周波の周波数は、このDNA鎖の併進・回転が追従できる範囲内にあればよい。無線センサチップにおけるパッシブ通信に使われる代表的な周波数として13.56MHzがあるが、この周波数を重畳高周波として用いることができる。ここで13.56MHzをそのまま使用しても良いし、分周して低い周波数を使ってもよい。分周器としてはカウンタを用いることができ、たとえばJ. Mavor, M.A. jack and P.B.Denyer “Introduction to MOS LSI DESIGN” ADDISON -WESLEY,1983 p110-118にあるような回路構成によって実現できる。
【0021】
別の実施例を図4により説明する。図4(a)はセンサチップの平面図、図4(b)、(c)は、そのXY断面図である。実施例1では、センサ電極17,18に交流電圧を伝達するためにカップリングコンデンサ19,20が必要になるが、以下の方法により新たな部品や特別な工程を必要とすることなく、カップリングコンデンサを形成できる。図4(a)の平面図に示すように、無線センサチップ10にはアンテナコイル15が形成されている。一般にセンサ電極17,18は、特開2004−101253号公報にあるようにアンテナコイル15の中心の開口部に設けられていた。その場合、センサ電極とアンテナコイルは平面的に見て重なりがなく、センサ電極とアンテナコイルを結合するのに十分な容量を形成することができない。
【0022】
本実施例では、図4(a)に示すように、センサ電極17,18とアンテナコイル15に重なりを持たせることによってカップリング容量19,20を形成した。電極17,18は、平面的にみてアンテナコイル15と重なりがあればよい。電極17はサンプル検出用、電極18はブランク用の電極である。電極17にはAu24がコートされ、チオール基で修飾されたプローブが結合される。一方、電極18はサンプルによる電位変動を小さくするように、サンプルに特異的なプローブを固定しない、あるいは電極表面の保護膜を厚くする、等の構造とする。図4(b)は電極17,18とアンテナコイル15の結合を示す断面図である。
【0023】
図4(c)は、電極17とアンテナコイル15を結合する容量を形成する他の方法を示す図である。この場合、電極17とアンテナコイル15に平面的な重なりを持たせる代わりに、電極17が接続されるシリコン基板上の不純物拡散層61とアンテナコイル15に平面的な重なりを持たせることによって、アンテナコイル15と電極17を結合する容量を形成する。この方法によれば無線センサ表面のサンプル検出用の電極17の面積を小さくすることができる。
【0024】
遺伝子増幅法としては、PCR法あるいはLAMP法などを採用することができる。広く利用されているサーマルサイクラーによって温度サイクルをかけて遺伝子を増幅することができるが、本発明を拡張することにより、さらに装置の小型化が可能である。特開2006−125902号公報、特開2007−141131号公報、特開2007−114925号公報に示されているように、反応層内の溶液の温度管理を温度センサ内蔵の無線センサチップで行うことが可能である。
【0025】
本発明の一実施例を、図5の断面模式図により説明する。本実施例は、増幅産物をISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor)を用いて検出する場合について説明する。特開2004−101253号公報に示されているように、信号を検出するISFETとブランクを検出するREFETを組み合わせて、両者の出力を図3(a)に示すような作動増幅器39によって処理することにより、夾雑物の非特異的な吸着によるノイズの影響を低減することができる。
【0026】
また、本チップは水溶液に接する状態で使用されるため、溶液によってチップの動作が阻害されない対策、すなわち無線センサチップ内に形成されたISFET30、REFET31、pMOS/nMOSの動作が溶液との接触によって影響されないような対策が必要となる。センサチップにおいて溶液と接するのは、測定対象を検出するISFET30のゲート43に接続されたAu膜24、参照電極32に接続された参照電極用金属膜55である。Au膜24上にはDNAを捕捉するための遺伝子固定膜45、たとえばpoly L lysineなどがコーティングされ、ターゲットDNAの捕獲を検出する。参照電極は、溶液に対してセンサチップの基準電位を定める。
【0027】
センサチップが正しく機能するには、上記のように意図的に溶液と接触するように設計された部分以外の領域、たとえばpあるいはn型MOS33やISFET30やREFET31のゲート以外の領域は溶液と電気的に分離されていなければならない。センサチップの表面及び裏面の絶縁は、表面については一般に用いられる有機パッシベーション膜60、裏面についてはSOI(Silicon on Insulator)基板50を用いることによって達成できるが、センサチップ側面の絶縁が問題となる。表面・裏面の絶縁は、ダイシング前のウェハレベルのプロセスによって対策することができる。しかし、チップ側面の絶縁についてはウェハレベルのプロセスによる対応で困難であった。ダイシング後にセンサチップ側面への絶縁膜を堆積すれば溶液との分離は可能であるが、センサチップ毎の堆積が必要でウェハレベルのプロセスによる一括処理が難しくコストの上昇が避けられない。
【0028】
そこで特開2005−207797号公報の構造を利用することによってウェハレベルのプロセスが採用でき、安価にチップ側面の絶縁が達成できる。具体的には図5に示すように、電位固定された不純物拡散層34と電気的にフローティングにされた不純物拡散層35を組み合わせることにより、ダイシングした状態のチップ端面における溶液と半導体層接触の影響を回避することができる。不純物拡散層35の導伝型はn,pいずれでもよいが、ここでは例としてp型とする。不純物拡散層35はセンサチップの最外周に配置され、チップ外周に途切れることなく配置される。不純物拡散層35は特定の電位に固定せずフローティングとする。不純物拡散層35の内側には不純物拡散層34を配置する。不純物拡散層34の導伝型は不純物拡散層35がp型の場合はn型とし、センサチップを構成するISFET30、REFET31、参照電極32、p及びnMOS33などセンサチップを構成するデバイスをすべて取り囲むように配置される。n型不純物拡散層34はセンサチップ内の最も高い電位VDDに接続する。不純物拡散層34,35によって構成されるダイオードは、カソードがVDD、アノードがフローティングの状態になる。不純物拡散層35は、センサチップ端面において溶液と接するが不純物拡散層34と35によって構成されるダイオードのバイアスが順方向になったり、逆方向耐圧以上になったりしない限り、溶液との電気的分離を維持できる。順方向バイアスにするには溶液の電位を増加して不純物拡散層35の電位を不純物拡散層34に対して高くする必要があるが、不純物拡散層35はVDDに固定されており、VDDを1.0V以上とすれば、一般の使用においてダイオードによる電気的分離が損なわれることはない。
【0029】
本発明の一実施例を図6、図7の断面模式図により説明する。PCR法やLAMP法などDNA増幅法による増幅産物の溶液中濃度の増大に伴って、センサチップ表面に吸着されるDNAの数を変化させることができる。図6(a)はDNAが吸着される前のセンサチップのISFET30及びREFET31を示す。ここでそれぞれの電極17及び18には、図1や図4に示す方法によって交流電圧が印加される。図6及び図7では、交流電圧印加の方法は記号化して容量19,20とコイル15によって示している。
【0030】
ISFETに接続されるセンサ電極17の上に遺伝子固定膜45たとえばpoly-L-Lysineを堆積する。これによって図6(b)に示すように、DNAが吸着されるとその電荷(マイナス)により43をゲートとするISFET30のチャネル伝導度が変動して、ドレイン電流はDNA吸着前のId11からId12に変化し、これによってターゲットDNAを検出できる。交流電圧の重畳は、このDNA吸着の反応を促進する上で有効である。REFET31に接続されるセンサ電極18上は厚いチップ保護膜(1−20μm)44が形成されており、ISFET30に比較して吸着されたDNAの電荷の影響が小さく、電流変化(Id21からId22)は小さい。図3に示した差動増幅器39によってISFETとREFETの差をとることにより、吸着されたDNAを検出することができる。
【0031】
ドレイン電流Id11、Id12、Id21、Id22には交流電圧が重畳されている。センサチップに表面に吸着したDNA量を反映するのは、吸着前後のISFETのドレイン電流の差(Id11−Id12)の直流成分である。精度の高い計測のためには、ここから重畳された交流電圧成分は除去されている必要がある。図3に示したとおり、ISFET30とREFET31の出力を差動増幅しているので、同相である各FET出力の交流電圧成分は除去される。さらに増幅前あるいは増幅後にローパスフィルタを挿入して残留する交流成分を除去することで、より精度の高い計測が可能になる。フィルタには、たとえば、M.R. Haskard and I.C. May “Analog VLSI Design nMOS and CMOS” PRENTICE HALL, 1988 pp98-106にあるような回路構成を用いることができる。
【0032】
図7(a)は、ターゲットDNA47に特異的に結合するプローブ46をセンサチップ表面に固定した無線センサチップの例を示す。ISFET30のゲート43の上にはAu層24を堆積してプローブ固定膜48としてavidineをコーティングし、biotin修飾したプローブ46を固定する。REFET31に接続されるセンサ電極18の上には、ISFETと同様にAu層24を堆積してavidineをコーティングしてプローブは固定しない。図7(b)のように、増幅されたDNAをISFET上のプローブで捕獲し、洗浄した後、ISFETとREFTの出力の差分をとることによって増幅産物を検出する。
【0033】
本発明の他の実施例を、図8−10により説明する。
図8に、増幅法としてLAMP法を用いたときの測定手順を示す。図8(a)に示すように、test及びblank用チューブを用意する。図6に示した電荷センサ(ISFET)をセンサとする無線センサチップ10の表面にpoly-L-Lysineを塗布する。これを上記の2個のチューブに1個ずつ投入する。各チューブにはLAMP法のプライマセット、鎖置換型DNA合成酵素、基質を含む溶液を入れる。次に、図8(b)に示すように、test用チューブにのみ試料DNAを入れる。次に、図8(c)に示すように、2つのチューブを恒温槽72にセットして50−60℃でインキュベートする。2個のチューブはリーダコイル71の通信フィールド内にセットし、センサチップの信号を、リーダ70を介してリアルタイムでPC80に読み込む。
【0034】
測定結果の一例を図9に示す。testチューブにおいてISFETのゲート電位がREFETのゲート電位に比較して低下、すなわち負の電荷をもつDNAがセンサチップ表面に吸着されたことがわかる。一方、試料DNAを加えないblankチューブではISFETのゲート電位の低下はなく、センサチップ表面のDNA密度に変化がないことを示している。本発明による簡便な遺伝子計測システムにより、DNAの増幅産物による出力の変動が明瞭に観察でき、DNA増幅モニタリングに利用できることがわかった。
【0035】
また、複数のターゲットを計測する場合には、図10に示すように、異なるチューブに異なるターゲットに対応するプライマを導入し、それぞれのチューブに無線センサチップを投下することにより、複数のターゲットを同時に計測することができる。複数のセンサチップをひとつのリーダで読む手段は、特開2007−333695号公報の図9に示されている。固有の識別番号(UID:Unique Identifier)を使って、ひとつのリーダ70によって各センサチップの信号を読み取ることができる。
【0036】
ここまで電荷センサ内蔵の無線センサによる実施例を説明してきたが、フォトダイオード内蔵の無線センサによっても遺伝子の計測が可能である。ターゲットDNAにハイブリダイズさせたプライマの伸長に伴う生物発光を使った例を示す(Science, issue 5375, pp. 363-365, 1998)。生物発光信号は、図11に示すようなフォトセンサ部53と増幅器部54によって検出・処理される。フォトセンサについては特開2003−329681号公報、増幅器部分についてはISSCC Dig. Tech. papers, pp. 562-563, 2005で述べられているものを用いた。
【0037】
無線センサチップでプライマ伸長による生物発光を測ることによってターゲットDNAの増幅モニタを実施する例を、図12及び図13に示す。センサチップにはシリコンへのn型不純物が拡散されたカソード62,66、p型不純物が拡散されたアノード63からなる1組のフォトダイオードが形成されている。2個のフォトダイオードは、素子分離用酸化膜65によって分離されている。カソード62を含むフォトダイオード(PDsig)51は後述する生物発光を検出するもので、その上部には光を透過するチップ保護膜44、プライマを固定化する層45が成膜されている。カソード66を含むフォトダイオード(PDref)52は参照用のフォトダイオードであって、主に暗電流を計測することを目的とし、その上部には遮光膜64が形成されている。図11にあるように2個のフォトダイオードPDsigとPDrefの出力を増幅器部54で差動増幅することによって、暗電流変動の効果を減少させることができる。
【0038】
ここでもフォトダイオード上へのDNAの捕獲を促進するために交流電圧の重畳が有効である。そこで図11及び図12、図13に示す結合用の容量19,20によって、アンテナコイル15に誘起された交流電圧をフォトダイオードに印加している。プライマ67は検出対象のDNA47と相補的な配列をもつように設計する。図12は、これをセンサチップ表面に固定してターゲットDNAを捕捉する例を示している。図12(b)に示すように、固定されたプライマ67にターゲットDNA47がハイブリダイズすると、図12(c)に示すように、プライマ端から相補鎖伸長68が起き、ピロリン酸(PPi)が放出される。反応式を以下に示す。
【0039】
【化1】
【0040】
DNAポリメラーゼ(polymerase)存在下での反応基質dNTP(デオキシヌクレオチド3リン酸)のDNA相補鎖合成によって、副産物としてピロリン酸(PPi;inorganic pyrophosphate)ができる。これをAPS(adenosine5 - phosphosulfate)とATP sulfurylaseの存在下で反応させるとATPが生成される。発光基質73であるルシフェリンはATPとルシフェラーゼ存在下で反応生成物74を生成する際に光を発し、これを測定することで相補鎖伸長を検出することができる。
【0041】
【化2】
【0042】
発光反応ではPPiが生成するので、発光はAPSを消費して持続する。具体的には緩衝液(10 mM Tris-acetate buffer, pH7.75)中にルシフェリン(0.1μg/μl)とルシフェラーゼ1.0μg/μlが溶解された基質溶液として、dNTPを添加する。ここにターゲットとなるDNAが増幅産物として存在すれば、上記の反応によって生物発光が無線センサチップのPDsigによって検出され、検出信号は増幅・ディジタル化された上で外部のリーダに送信される。
【0043】
図13は、プライマをセンサチップに固定せず、サンプルDNAを無線センサチップ基板上に捕獲する一例を示している。無線センサチップ基板には、例えばpoly-L-Lysineをコートすることで、図13(a)に示すように、増幅産物DNAをセンサチップ上に捕獲できる。次に、図13(b)に示すように、検出対象のDNAと相補的な配列をもつプライマをターゲットDNAにハイブリダイズさせ、図13(c)に示すように、図12の場合と同様にしてプライマ伸長反応を実行してそれに伴う生物発光を計測する。すなわち、発光基質73であるルシフェリンがATPとルシフェラーゼ存在下で反応生成物74を生成する際の発光を測定する。図12、図13は、いずれも溶液中の状態を示しており、計測は図10と同様のセットアップによって実行することができる。溶液中からの無線通信機能については上記の緩衝液(10mM Tris-acetate buffer)を用い、13.56MHzの周波数によって認証番号の読み取りに問題がないことを確認している。センサチップの表面はSiO2膜あるいはSi3N4膜等から成る保護膜44で覆われており、チップの側面については図5で説明した絶縁対策が施されており、センサチップ内のセンサ・増幅器・通信回路などは溶液中においても正常に動作することができる。また、緩衝液にいれた場合の通信距離は、大気中の場合の70−80%であった。
【0044】
装置の構成例を図14に示す。遺伝子増幅の反応槽78の中にISFETを搭載した無線センサチップ10あるいはフォトセンサ内蔵の無線センサチップ75(図では生物発光を計測する場合を想定してフォトセンサ内蔵の無線センサチップ75を示した)と温度センサ内蔵の無線センサチップ76を投入する。特開2007−114925号公報にあるように、無線センサは搬送波を介して電力の供給を受け、これにより発熱する。搬送波の強度調整やオン/オフによって無線センサの発熱を制御することが可能である。これにより特別な加熱機構を必要としない遺伝子増幅が可能である。無線センサチップには加熱する作用はあるが冷却の機構はもたない。そこで、特に一定温度で増幅ができる恒温増幅法の場合に、無線センサチップによる温度制御は有効である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明による無線センサチップの構成例を示す図。
【図2】リーダと、無線センサチップのアンテナコイルと無線通信回路の一部を示す図。
【図3】端子LAの交流電圧をセンサ電極に伝達する手段の説明図。
【図4】本発明による無線センサチップの構成例を示す図。
【図5】本発明による無線センサチップの断面模式図。
【図6】本発明による無線センサチップの断面模式図。
【図7】本発明による無線センサチップの断面模式図。
【図8】増幅法としてLAMP法を用いたときの測定手順を示す図。
【図9】計測結果の一例を示す図。
【図10】複数のターゲットを計測する場合の模式図。
【図11】フォトダイオード内蔵の無線センサチップの説明図。
【図12】フォトダイオード内蔵の無線センサチップを用いた計測法の説明図。
【図13】フォトダイオード内蔵の無線センサチップを用いた計測法の説明図。
【図14】温度センサ内蔵の無線センサチップによる温度制御方法の説明図。
【符号の説明】
【0046】
10:無線センサチップ、11:無線通信回路、12:制御回路、13:信号処理回路、14:センサ、15:アンテナコイル、16:共振コンデンサ、17:センサ電極、18:センサ電極(ブランク)、19:コンデンサ、20:コンデンサ、23:全波整流回路、24:Au電極、26:平滑容量、27:参照電極(qRE)、30:ISFET、31:REFET、32:参照電極、36:可変電圧源、37:ISFET増幅器、38:REFET増幅器、39:差動増幅器、40:ISFETのドレイン、41:ISFETのソース、43:ISFETのゲート、44:チップ保護膜、45:遺伝子固定膜、46:プローブ、47:ターゲットDNA、48:プローブ固定膜、50:SOI基板、51:フォトダイオード(PDsig)、52:フォトダイオード(PDref)、53:フォトセンサ部、54:増幅器部、55:参照電極用金属膜、56:SOI基板の埋め込み酸化膜層(BOX:Buried oxide layer)、57:層間絶縁膜、60:有機パッシベーション膜、61:不純物拡散層、62:カソード、63:アノード、64:遮光層、65:素子分用酸化膜、66:カソード、67:プライマ、68:相補鎖伸長、70:リーダ、71:リーダコイル、72:恒温槽、73:発光基質、74:発光後の反応生成物、75:フォトセンサを内蔵した無線センサチップ、76:温度センサを内蔵した無線センサチップ、77:遮光ボックス、78:反応槽、80:制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症対策の検査や食品検査などにおいて、安価・簡便かつ高感度・迅速な計測を可能とする無線センサチップ及びそれを用いた測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ウィルス遺伝子検査や食品検査に利用される遺伝検査手段としては、PCR法と組み合わせたDNAマイクロアレイ、PCR法と組み合わせた電気泳動法、real time PCR法、LAMP法などがある。ウィルス感染症対策についてみると、ウィルス遺伝子検査はウィルス抗原タンパクを検出する方法に比べて感度が高い、抗体開発の期間が不要などの利点がある。このため感染症治療や流行拡大の防止のために正確、迅速に病原の遺伝子を検出する遺伝子検査の重要性は増している。
【0003】
【特許文献1】特開2004−101253号公報
【特許文献2】特開2006−30132号公報
【特許文献3】特開2006−125902号公報
【特許文献4】特開2007−141131号公報
【特許文献5】特開2007−114925号公報
【特許文献6】特開2005−207797号公報
【特許文献7】特開2007−333695号公報
【特許文献8】特開2003−329681号公報
【非特許文献1】Science, issue 5375, pp. 363-365, 1998
【非特許文献2】ISSCC Dig. Tech. papers, pp. 562-563, 2005.
【非特許文献3】J. Mavor, M.A. Jack and P.B.Denyer “Introduction to MOS LSI DESIGN” ADDISON -WESLEY,1983.
【非特許文献4】M.R. Haskard and I.C. May “Analog VLSI Design nMOS and CMOS” PRENTICE HALL, 1988
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
遺伝子計測システムにおける課題として、(1)計測システムが小型かつ低コストであること、(2)計測感度が高いこと、(3)定量的な計測が可能であること、(4)検査に要する時間が短いこと、(5)同一反応槽内で多数の項目を同時に測定できること、(6)試料が少量で済み、試薬のコストが安いこと、の6点をあげることができる。
【0005】
従来から広く利用されているDNAマイクロアレイや電気泳動の場合はあらかじめPCR法によって遺伝子を増幅しなければならないが、試料に温度サイクルをかけるためのサーマルサイクラーが必要になる。DNAマイクロアレイにおける信号検出にはスキャナと呼ばれる蛍光計測装置が用いられる。ここでは励起光源としてのレーザー、共焦点光学系、光電子増倍管、さらに高精度のxy移動ステージが必要である。したがって小型化、低コスト化が難しく、低コストで簡便な検出手段が必要とされていた。また、マイクロアレイは複数項目の同時計測という点において有力な手法であるが、一般に基板に固定されたプローブに対する標的DNAのハイブリダイゼーション反応の速度は遅く、10時間程度を要することもあり、高スループット化が難しかった。電気泳動法ではDNAシーケンサなどの高価で大型の検出装置が必要であった。そこで簡便で高速な検査方法の実現が求められていた。
【0006】
real time PCR法は、遺伝子増幅の過程でリアルタイムに増幅産物の濃度を計測することができる。温度サイクルの発生と、蛍光検出核酸、タンパク質などの生体物質以外を対象とした、温度、圧力、イオン濃度などの物理及び化学的な計測においては、センサ信号を取り出すためのリード線が必要であり、特に多数の項目について測定を行う場合にリード線の敷設、結線及び信号処理についてコストと作業スペースが必要であった。そこで、リード線が不要で複数の測定項目についても簡便に対応できるような測定システムの開発が待たれていた。また、前記の生体あるいは化学物質をターゲットとしたセンサを備えた計測装置と物理・化学量を計測するセンサを同一の反応槽に同時に投入し、同時に計測できるような技術も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決のために、本発明では、センサとRF通信機能と識別番号(ID)を微小チップ上集積した無線センサチップを用いる。本発明の測定システムは、遺伝子増幅産物等を検出する無線センサチップ上のセンサ電極に交流電圧を印加して増幅産物等のセンサ電極上への捕捉を促進する。また、遺伝子増幅のための溶液加熱に温度センサ内蔵の無線センサチップを利用する。電荷センサ内蔵の無線センサチップを反応槽に投入し、無線センサチップに捕捉された増幅産物密度によって変化する表面電位を計測することによって増幅産物を計測する。
【0008】
本発明による無線センサチップは、センサ電極を備えるセンサと、信号処理回路と、制御回路と、無線通信回路と、アンテナコイルとを有し、センサ電極はコンデンサを介して前記アンテナコイルに接続されている。また、本発明による無線センサチップは、センサ電極を備えるセンサと、信号処理回路と、制御回路と、無線通信回路と、アンテナコイルとを有し、センサ電極は、間に絶縁膜を挟んで前記アンテナコイルの少なくとも一部と平面パターン上で重なっている。
【0009】
センサ電極には、無線センサチップのアンテナコイル端に発生した交流電圧が印加される。センサの出力からはセンサ電極に印加された交流電圧の周波数が遮断され、センサ出力はアンテナコイルから印加される交流電圧の影響を受けない。
【0010】
本発明の測定システムは、上記無線センサチップと、リーダコイルを備えて無線センサチップと通信するリーダとを有する。また、本発明の測定システムは、温度センサを搭載する無線センサチップを含み、温度センサを搭載する無線センサチップによって検出された温度が所定の温度になるようにリーダから送信される交流電磁波のオンオフあるいは交流電磁波の振幅を調整するように構成することもできる。センサ電極を備えるセンサは、典型的にはISFETであり、センサ電極に捕捉したターゲットにDNA等によるセンサ電極の電位変動を計測することでターゲットの検出を行う。
【発明の効果】
【0011】
遺伝子の増幅産物等を無線センサチップで計測することによる効果は5つある。第1は外部計測装置の小型・低コスト化に有利であること、第2は計測データの数値化が用意であること、第3は時間変化計測が容易であり、遺伝子増幅産物等に対応するセンサ出力の変化点から対象物の定量が可能になること、第4は無線センサチップの制御プロトコルに含まれる輻輳制御機能により測定項目の増減や膜部材の形状変化について無線センサチップの配置換えだけで対応できる設計の柔軟性が得られること、第5は計測結果が無線センサチップの識別番号(UID)と一体となってリーダを通して制御装置に読み取られるため、ネットワークを利用した計測データの利用・管理において利便性が高く、とり違いや改ざんを防止する上でも有効であること、である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
無線センサチップは、遺伝子増幅産物等を検出するセンサ、センシング情報の処理・リーダとの通信制御・識別番号の格納と照合・電源の発生と制御の各機能を有する回路ブロック、リーダとの通信を行うアンテナ、の各機能ブロックを備えている。無線センサチップは、遺伝子の増幅反応が実行される反応槽に投入される。反応槽内で遺伝子の増幅が進むと、無線センサチップは増幅産物濃度を計測してディジタル電気信号に変換し、リーダに送信する。リーダからは、複数の計測装置の中から特定の計測装置を制御するための各種コマンドが交流の電場あるいは磁場を伝達手段として送信される。無線センサチップの駆動に必要な電力は、前記交流の電場あるいは磁場を整流、平滑化することによって発生される。そのため、無線センサチップはバッテリーレス、ワイヤレスで駆動することができる。反応槽には複数の無線センサチップを投入してもよい。この場合、各チップには固有の識別番号が書き込まれており、リーダから送信された識別番号との照合によって複数の無線センサチップを識別する。この無線センサチップを、遺伝子増幅を行う反応層に投入して増幅産物をリアルタイムで検出することにより、安価・簡便で高感度の遺伝子検査システムを実現することができる。
【0013】
ところで、センサ電極に交流電圧を印加することで効率よく増幅産物等を捕捉できることが知られている。そこで本発明では、無線センサチップのセンサ電極に無線通信に利用している電磁場から得られる交流電圧を印加することにより、効率的に増幅産物を捕捉する。
【0014】
本発明が想定する応用は、遺伝子を対象とした計測装置である。センサと無線機能を具備する無線センサチップ(特開2004−101253号公報)を遺伝子増幅が行われる反応容器に入れて増幅産物を計測し、計測結果を無線で外部のリーダを介して制御装置に送信する。
【0015】
本発明による無線センサチップ10の構成例を図1に示す。センサ14には増幅産物を検出する信号検出用センサ電極17とブランク信号を検出する参照用のセンサ電極18が接続され、信号検出用センサ電極の表面にはたとえばpoly-L-lysineをコーティングして遺伝子を吸着させる。遺伝子の吸着の密度によってセンサ電極表面の電位が変化し、増幅産物の遺伝子の濃度に対応する信号が得られる。リーダ70からのコマンド信号は無線通信回路11を経て制御回路12に送られ、ここでセンサ初期化、センサ信号の増幅・ディジタル信号への変換のための信号に変換され、対応する回路状態への遷移が逐次実行される。信号処理回路13で信号とブランク信号の差分が増幅、符号化され、無線通信回路11において変調されてアンテナコイル15からリーダコイル71を経てリーダ70に送信され、制御装置80で読み取られ、データ処理されて表示・記録される。参照電極(qRE)27は、溶液に対して無線センサチップの電位を決めるための電極である。無線通信には種々の周波数の電磁波を搬送波として用いることが可能であるが、本実施例ではICカードなどで広く使用されている13.56MHzの交流磁場を搬送波に用いた場合について説明する。
【0016】
本実施例の無線センサチップ10において特徴的なのは、遺伝子計測のためのセンサ電極17,18がコンデンサ(カップリングコンデンサ)19,20を介してアンテナコイル端子に接続されていることである。特開2006−30132号公報には、遺伝子を吸着させようとする電極に交流電圧を印加することにより吸着の速度を増加できることが示されている。一般に交流電圧を生成するには発信器が必要となるが、本実施例の無線センサチップにおいては、アンテナコイル端子から交流電圧を得ることが可能である。
【0017】
図2は、リーダ70と、無線センサチップ10のアンテナコイル15と無線通信回路11の一部を示す図である。アンテナコイル15は、センサチップの小型化とウェハ上での一括形成の観点から、チップ上に直接形成することが望ましいが、センサチップとは別に形成してから組み立て・接続してもよい。搬送波は、図2(b)に示すように13.56MHzの交流磁場である。これによりアンテナコイル15と共振コンデンサ16からなる共振回路の両端LA,LBの間に、図2(b)に示すような誘導起電力を発生する。全波整流回路23により誘導起電力は全波清流され、チップ内部の電源電圧VDDの平滑容量26によって平滑化されて、VDD端子には無線センサチップで利用する直流電圧VDDが生成される。
【0018】
図3は、端子LAの交流電圧をセンサ電極17,18に伝達する手段を示している。コンデンサ19,20を介して、LAの交流電圧をセンサ電極17,18に伝達する。特開2006−30132号公報によれば、交流電圧の振幅は200mVであることが示されている。LAの交流電圧は0(VSS)Vを起点にして振れている。センサ電極の電圧振幅v2は、LAの振幅をv1、カップリングコンデンサ容量をC2、センサ電極の容量をC4とすれば、
v2=v1*C2/(C2+C4)
で表せる。v1=4V、C4=20pFとすれば、C2=1pFとすればセンサ電極における振幅200mVを得ることができる。
【0019】
ここで、センサ電極17と18に印加する交流電圧の位相は一致させることが望ましい。図3に示すように、センサ電極17,18はそれぞれ信号検出用のISFET30、ブランク信号検出用のREFET31のゲートに接続され、ISFET、REFETの出力はそれぞれ専用の増幅器37,38によってインピーダンス変換された後、差動増幅器39によって差動増幅される。ここで各センサ電極に印加された交流電圧が同相であれば、この差動増幅によってキャンセルすることができる。参照電極(qRE)27は、参照電極電位を設定するための可変電圧源に接続されている。
【0020】
特開2006−30132号公報には、交流電圧周波数として1kHz以上が有効であり、1MHzまでの重畳高周波の効果についてデータが示されている。溶液中におけるDNA鎖の併進あるいは回転の時定数は高々100psであり100GHzの振動に対応する。したがってDNA鎖の併進・回転が追従できる高周波の周波数範囲は100GHz以下であると考えられる。重畳高周波の周波数は、このDNA鎖の併進・回転が追従できる範囲内にあればよい。無線センサチップにおけるパッシブ通信に使われる代表的な周波数として13.56MHzがあるが、この周波数を重畳高周波として用いることができる。ここで13.56MHzをそのまま使用しても良いし、分周して低い周波数を使ってもよい。分周器としてはカウンタを用いることができ、たとえばJ. Mavor, M.A. jack and P.B.Denyer “Introduction to MOS LSI DESIGN” ADDISON -WESLEY,1983 p110-118にあるような回路構成によって実現できる。
【0021】
別の実施例を図4により説明する。図4(a)はセンサチップの平面図、図4(b)、(c)は、そのXY断面図である。実施例1では、センサ電極17,18に交流電圧を伝達するためにカップリングコンデンサ19,20が必要になるが、以下の方法により新たな部品や特別な工程を必要とすることなく、カップリングコンデンサを形成できる。図4(a)の平面図に示すように、無線センサチップ10にはアンテナコイル15が形成されている。一般にセンサ電極17,18は、特開2004−101253号公報にあるようにアンテナコイル15の中心の開口部に設けられていた。その場合、センサ電極とアンテナコイルは平面的に見て重なりがなく、センサ電極とアンテナコイルを結合するのに十分な容量を形成することができない。
【0022】
本実施例では、図4(a)に示すように、センサ電極17,18とアンテナコイル15に重なりを持たせることによってカップリング容量19,20を形成した。電極17,18は、平面的にみてアンテナコイル15と重なりがあればよい。電極17はサンプル検出用、電極18はブランク用の電極である。電極17にはAu24がコートされ、チオール基で修飾されたプローブが結合される。一方、電極18はサンプルによる電位変動を小さくするように、サンプルに特異的なプローブを固定しない、あるいは電極表面の保護膜を厚くする、等の構造とする。図4(b)は電極17,18とアンテナコイル15の結合を示す断面図である。
【0023】
図4(c)は、電極17とアンテナコイル15を結合する容量を形成する他の方法を示す図である。この場合、電極17とアンテナコイル15に平面的な重なりを持たせる代わりに、電極17が接続されるシリコン基板上の不純物拡散層61とアンテナコイル15に平面的な重なりを持たせることによって、アンテナコイル15と電極17を結合する容量を形成する。この方法によれば無線センサ表面のサンプル検出用の電極17の面積を小さくすることができる。
【0024】
遺伝子増幅法としては、PCR法あるいはLAMP法などを採用することができる。広く利用されているサーマルサイクラーによって温度サイクルをかけて遺伝子を増幅することができるが、本発明を拡張することにより、さらに装置の小型化が可能である。特開2006−125902号公報、特開2007−141131号公報、特開2007−114925号公報に示されているように、反応層内の溶液の温度管理を温度センサ内蔵の無線センサチップで行うことが可能である。
【0025】
本発明の一実施例を、図5の断面模式図により説明する。本実施例は、増幅産物をISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor)を用いて検出する場合について説明する。特開2004−101253号公報に示されているように、信号を検出するISFETとブランクを検出するREFETを組み合わせて、両者の出力を図3(a)に示すような作動増幅器39によって処理することにより、夾雑物の非特異的な吸着によるノイズの影響を低減することができる。
【0026】
また、本チップは水溶液に接する状態で使用されるため、溶液によってチップの動作が阻害されない対策、すなわち無線センサチップ内に形成されたISFET30、REFET31、pMOS/nMOSの動作が溶液との接触によって影響されないような対策が必要となる。センサチップにおいて溶液と接するのは、測定対象を検出するISFET30のゲート43に接続されたAu膜24、参照電極32に接続された参照電極用金属膜55である。Au膜24上にはDNAを捕捉するための遺伝子固定膜45、たとえばpoly L lysineなどがコーティングされ、ターゲットDNAの捕獲を検出する。参照電極は、溶液に対してセンサチップの基準電位を定める。
【0027】
センサチップが正しく機能するには、上記のように意図的に溶液と接触するように設計された部分以外の領域、たとえばpあるいはn型MOS33やISFET30やREFET31のゲート以外の領域は溶液と電気的に分離されていなければならない。センサチップの表面及び裏面の絶縁は、表面については一般に用いられる有機パッシベーション膜60、裏面についてはSOI(Silicon on Insulator)基板50を用いることによって達成できるが、センサチップ側面の絶縁が問題となる。表面・裏面の絶縁は、ダイシング前のウェハレベルのプロセスによって対策することができる。しかし、チップ側面の絶縁についてはウェハレベルのプロセスによる対応で困難であった。ダイシング後にセンサチップ側面への絶縁膜を堆積すれば溶液との分離は可能であるが、センサチップ毎の堆積が必要でウェハレベルのプロセスによる一括処理が難しくコストの上昇が避けられない。
【0028】
そこで特開2005−207797号公報の構造を利用することによってウェハレベルのプロセスが採用でき、安価にチップ側面の絶縁が達成できる。具体的には図5に示すように、電位固定された不純物拡散層34と電気的にフローティングにされた不純物拡散層35を組み合わせることにより、ダイシングした状態のチップ端面における溶液と半導体層接触の影響を回避することができる。不純物拡散層35の導伝型はn,pいずれでもよいが、ここでは例としてp型とする。不純物拡散層35はセンサチップの最外周に配置され、チップ外周に途切れることなく配置される。不純物拡散層35は特定の電位に固定せずフローティングとする。不純物拡散層35の内側には不純物拡散層34を配置する。不純物拡散層34の導伝型は不純物拡散層35がp型の場合はn型とし、センサチップを構成するISFET30、REFET31、参照電極32、p及びnMOS33などセンサチップを構成するデバイスをすべて取り囲むように配置される。n型不純物拡散層34はセンサチップ内の最も高い電位VDDに接続する。不純物拡散層34,35によって構成されるダイオードは、カソードがVDD、アノードがフローティングの状態になる。不純物拡散層35は、センサチップ端面において溶液と接するが不純物拡散層34と35によって構成されるダイオードのバイアスが順方向になったり、逆方向耐圧以上になったりしない限り、溶液との電気的分離を維持できる。順方向バイアスにするには溶液の電位を増加して不純物拡散層35の電位を不純物拡散層34に対して高くする必要があるが、不純物拡散層35はVDDに固定されており、VDDを1.0V以上とすれば、一般の使用においてダイオードによる電気的分離が損なわれることはない。
【0029】
本発明の一実施例を図6、図7の断面模式図により説明する。PCR法やLAMP法などDNA増幅法による増幅産物の溶液中濃度の増大に伴って、センサチップ表面に吸着されるDNAの数を変化させることができる。図6(a)はDNAが吸着される前のセンサチップのISFET30及びREFET31を示す。ここでそれぞれの電極17及び18には、図1や図4に示す方法によって交流電圧が印加される。図6及び図7では、交流電圧印加の方法は記号化して容量19,20とコイル15によって示している。
【0030】
ISFETに接続されるセンサ電極17の上に遺伝子固定膜45たとえばpoly-L-Lysineを堆積する。これによって図6(b)に示すように、DNAが吸着されるとその電荷(マイナス)により43をゲートとするISFET30のチャネル伝導度が変動して、ドレイン電流はDNA吸着前のId11からId12に変化し、これによってターゲットDNAを検出できる。交流電圧の重畳は、このDNA吸着の反応を促進する上で有効である。REFET31に接続されるセンサ電極18上は厚いチップ保護膜(1−20μm)44が形成されており、ISFET30に比較して吸着されたDNAの電荷の影響が小さく、電流変化(Id21からId22)は小さい。図3に示した差動増幅器39によってISFETとREFETの差をとることにより、吸着されたDNAを検出することができる。
【0031】
ドレイン電流Id11、Id12、Id21、Id22には交流電圧が重畳されている。センサチップに表面に吸着したDNA量を反映するのは、吸着前後のISFETのドレイン電流の差(Id11−Id12)の直流成分である。精度の高い計測のためには、ここから重畳された交流電圧成分は除去されている必要がある。図3に示したとおり、ISFET30とREFET31の出力を差動増幅しているので、同相である各FET出力の交流電圧成分は除去される。さらに増幅前あるいは増幅後にローパスフィルタを挿入して残留する交流成分を除去することで、より精度の高い計測が可能になる。フィルタには、たとえば、M.R. Haskard and I.C. May “Analog VLSI Design nMOS and CMOS” PRENTICE HALL, 1988 pp98-106にあるような回路構成を用いることができる。
【0032】
図7(a)は、ターゲットDNA47に特異的に結合するプローブ46をセンサチップ表面に固定した無線センサチップの例を示す。ISFET30のゲート43の上にはAu層24を堆積してプローブ固定膜48としてavidineをコーティングし、biotin修飾したプローブ46を固定する。REFET31に接続されるセンサ電極18の上には、ISFETと同様にAu層24を堆積してavidineをコーティングしてプローブは固定しない。図7(b)のように、増幅されたDNAをISFET上のプローブで捕獲し、洗浄した後、ISFETとREFTの出力の差分をとることによって増幅産物を検出する。
【0033】
本発明の他の実施例を、図8−10により説明する。
図8に、増幅法としてLAMP法を用いたときの測定手順を示す。図8(a)に示すように、test及びblank用チューブを用意する。図6に示した電荷センサ(ISFET)をセンサとする無線センサチップ10の表面にpoly-L-Lysineを塗布する。これを上記の2個のチューブに1個ずつ投入する。各チューブにはLAMP法のプライマセット、鎖置換型DNA合成酵素、基質を含む溶液を入れる。次に、図8(b)に示すように、test用チューブにのみ試料DNAを入れる。次に、図8(c)に示すように、2つのチューブを恒温槽72にセットして50−60℃でインキュベートする。2個のチューブはリーダコイル71の通信フィールド内にセットし、センサチップの信号を、リーダ70を介してリアルタイムでPC80に読み込む。
【0034】
測定結果の一例を図9に示す。testチューブにおいてISFETのゲート電位がREFETのゲート電位に比較して低下、すなわち負の電荷をもつDNAがセンサチップ表面に吸着されたことがわかる。一方、試料DNAを加えないblankチューブではISFETのゲート電位の低下はなく、センサチップ表面のDNA密度に変化がないことを示している。本発明による簡便な遺伝子計測システムにより、DNAの増幅産物による出力の変動が明瞭に観察でき、DNA増幅モニタリングに利用できることがわかった。
【0035】
また、複数のターゲットを計測する場合には、図10に示すように、異なるチューブに異なるターゲットに対応するプライマを導入し、それぞれのチューブに無線センサチップを投下することにより、複数のターゲットを同時に計測することができる。複数のセンサチップをひとつのリーダで読む手段は、特開2007−333695号公報の図9に示されている。固有の識別番号(UID:Unique Identifier)を使って、ひとつのリーダ70によって各センサチップの信号を読み取ることができる。
【0036】
ここまで電荷センサ内蔵の無線センサによる実施例を説明してきたが、フォトダイオード内蔵の無線センサによっても遺伝子の計測が可能である。ターゲットDNAにハイブリダイズさせたプライマの伸長に伴う生物発光を使った例を示す(Science, issue 5375, pp. 363-365, 1998)。生物発光信号は、図11に示すようなフォトセンサ部53と増幅器部54によって検出・処理される。フォトセンサについては特開2003−329681号公報、増幅器部分についてはISSCC Dig. Tech. papers, pp. 562-563, 2005で述べられているものを用いた。
【0037】
無線センサチップでプライマ伸長による生物発光を測ることによってターゲットDNAの増幅モニタを実施する例を、図12及び図13に示す。センサチップにはシリコンへのn型不純物が拡散されたカソード62,66、p型不純物が拡散されたアノード63からなる1組のフォトダイオードが形成されている。2個のフォトダイオードは、素子分離用酸化膜65によって分離されている。カソード62を含むフォトダイオード(PDsig)51は後述する生物発光を検出するもので、その上部には光を透過するチップ保護膜44、プライマを固定化する層45が成膜されている。カソード66を含むフォトダイオード(PDref)52は参照用のフォトダイオードであって、主に暗電流を計測することを目的とし、その上部には遮光膜64が形成されている。図11にあるように2個のフォトダイオードPDsigとPDrefの出力を増幅器部54で差動増幅することによって、暗電流変動の効果を減少させることができる。
【0038】
ここでもフォトダイオード上へのDNAの捕獲を促進するために交流電圧の重畳が有効である。そこで図11及び図12、図13に示す結合用の容量19,20によって、アンテナコイル15に誘起された交流電圧をフォトダイオードに印加している。プライマ67は検出対象のDNA47と相補的な配列をもつように設計する。図12は、これをセンサチップ表面に固定してターゲットDNAを捕捉する例を示している。図12(b)に示すように、固定されたプライマ67にターゲットDNA47がハイブリダイズすると、図12(c)に示すように、プライマ端から相補鎖伸長68が起き、ピロリン酸(PPi)が放出される。反応式を以下に示す。
【0039】
【化1】
【0040】
DNAポリメラーゼ(polymerase)存在下での反応基質dNTP(デオキシヌクレオチド3リン酸)のDNA相補鎖合成によって、副産物としてピロリン酸(PPi;inorganic pyrophosphate)ができる。これをAPS(adenosine5 - phosphosulfate)とATP sulfurylaseの存在下で反応させるとATPが生成される。発光基質73であるルシフェリンはATPとルシフェラーゼ存在下で反応生成物74を生成する際に光を発し、これを測定することで相補鎖伸長を検出することができる。
【0041】
【化2】
【0042】
発光反応ではPPiが生成するので、発光はAPSを消費して持続する。具体的には緩衝液(10 mM Tris-acetate buffer, pH7.75)中にルシフェリン(0.1μg/μl)とルシフェラーゼ1.0μg/μlが溶解された基質溶液として、dNTPを添加する。ここにターゲットとなるDNAが増幅産物として存在すれば、上記の反応によって生物発光が無線センサチップのPDsigによって検出され、検出信号は増幅・ディジタル化された上で外部のリーダに送信される。
【0043】
図13は、プライマをセンサチップに固定せず、サンプルDNAを無線センサチップ基板上に捕獲する一例を示している。無線センサチップ基板には、例えばpoly-L-Lysineをコートすることで、図13(a)に示すように、増幅産物DNAをセンサチップ上に捕獲できる。次に、図13(b)に示すように、検出対象のDNAと相補的な配列をもつプライマをターゲットDNAにハイブリダイズさせ、図13(c)に示すように、図12の場合と同様にしてプライマ伸長反応を実行してそれに伴う生物発光を計測する。すなわち、発光基質73であるルシフェリンがATPとルシフェラーゼ存在下で反応生成物74を生成する際の発光を測定する。図12、図13は、いずれも溶液中の状態を示しており、計測は図10と同様のセットアップによって実行することができる。溶液中からの無線通信機能については上記の緩衝液(10mM Tris-acetate buffer)を用い、13.56MHzの周波数によって認証番号の読み取りに問題がないことを確認している。センサチップの表面はSiO2膜あるいはSi3N4膜等から成る保護膜44で覆われており、チップの側面については図5で説明した絶縁対策が施されており、センサチップ内のセンサ・増幅器・通信回路などは溶液中においても正常に動作することができる。また、緩衝液にいれた場合の通信距離は、大気中の場合の70−80%であった。
【0044】
装置の構成例を図14に示す。遺伝子増幅の反応槽78の中にISFETを搭載した無線センサチップ10あるいはフォトセンサ内蔵の無線センサチップ75(図では生物発光を計測する場合を想定してフォトセンサ内蔵の無線センサチップ75を示した)と温度センサ内蔵の無線センサチップ76を投入する。特開2007−114925号公報にあるように、無線センサは搬送波を介して電力の供給を受け、これにより発熱する。搬送波の強度調整やオン/オフによって無線センサの発熱を制御することが可能である。これにより特別な加熱機構を必要としない遺伝子増幅が可能である。無線センサチップには加熱する作用はあるが冷却の機構はもたない。そこで、特に一定温度で増幅ができる恒温増幅法の場合に、無線センサチップによる温度制御は有効である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明による無線センサチップの構成例を示す図。
【図2】リーダと、無線センサチップのアンテナコイルと無線通信回路の一部を示す図。
【図3】端子LAの交流電圧をセンサ電極に伝達する手段の説明図。
【図4】本発明による無線センサチップの構成例を示す図。
【図5】本発明による無線センサチップの断面模式図。
【図6】本発明による無線センサチップの断面模式図。
【図7】本発明による無線センサチップの断面模式図。
【図8】増幅法としてLAMP法を用いたときの測定手順を示す図。
【図9】計測結果の一例を示す図。
【図10】複数のターゲットを計測する場合の模式図。
【図11】フォトダイオード内蔵の無線センサチップの説明図。
【図12】フォトダイオード内蔵の無線センサチップを用いた計測法の説明図。
【図13】フォトダイオード内蔵の無線センサチップを用いた計測法の説明図。
【図14】温度センサ内蔵の無線センサチップによる温度制御方法の説明図。
【符号の説明】
【0046】
10:無線センサチップ、11:無線通信回路、12:制御回路、13:信号処理回路、14:センサ、15:アンテナコイル、16:共振コンデンサ、17:センサ電極、18:センサ電極(ブランク)、19:コンデンサ、20:コンデンサ、23:全波整流回路、24:Au電極、26:平滑容量、27:参照電極(qRE)、30:ISFET、31:REFET、32:参照電極、36:可変電圧源、37:ISFET増幅器、38:REFET増幅器、39:差動増幅器、40:ISFETのドレイン、41:ISFETのソース、43:ISFETのゲート、44:チップ保護膜、45:遺伝子固定膜、46:プローブ、47:ターゲットDNA、48:プローブ固定膜、50:SOI基板、51:フォトダイオード(PDsig)、52:フォトダイオード(PDref)、53:フォトセンサ部、54:増幅器部、55:参照電極用金属膜、56:SOI基板の埋め込み酸化膜層(BOX:Buried oxide layer)、57:層間絶縁膜、60:有機パッシベーション膜、61:不純物拡散層、62:カソード、63:アノード、64:遮光層、65:素子分用酸化膜、66:カソード、67:プライマ、68:相補鎖伸長、70:リーダ、71:リーダコイル、72:恒温槽、73:発光基質、74:発光後の反応生成物、75:フォトセンサを内蔵した無線センサチップ、76:温度センサを内蔵した無線センサチップ、77:遮光ボックス、78:反応槽、80:制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ電極を備えるセンサと、信号処理回路と、制御回路と、無線通信回路と、アンテナコイルとを有し、
前記センサ電極はコンデンサを介して前記アンテナコイルに接続されていることを特徴とする無線センサチップ。
【請求項2】
センサ電極を備えるセンサと、信号処理回路と、制御回路と、無線通信回路と、アンテナコイルとを有し、
前記センサ電極は、間に絶縁膜を挟んで前記アンテナコイルの少なくとも一部と平面パターン上で重なっていることを特徴とする無線センサチップ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の無線センサチップにおいて、前記アンテナコイル端に発生した交流電圧が前記センサ電極に印加されることを特徴とする無線センサチップ。
【請求項4】
請求項1又は2記載の無線センサチップにおいて、前記アンテナコイル端に発生した交流電圧を分周して得られた第2の周波数を有する交流電圧が前記センサ電極に印加されることを特徴とする無線センサチップ。
【請求項5】
請求項1又は2記載の無線センサチップにおいて、前記センサの出力から当該センサ電極に印加される交流電圧の周波数を遮断するフィルタ機能を有することを特徴とする無線センサチップ。
【請求項6】
請求項1又は2記載の無線センサチップにおいて、前記センサはISFETであることを特徴とする無線センサチップ。
【請求項7】
請求項1記載の無線センサチップにおいて、前記センサ電極を備えるセンサに代えてフォトダイオードを備え、前記フォトダイオードはコンデンサを介して前記アンテナコイルに接続されていることを特徴とする無線センサチップ。
【請求項8】
請求項2記載の無線センサチップにおいて、前記センサ電極を備えるセンサに代えてフォトダイオードを備え、前記フォトダイオードは、間に絶縁膜を挟んで前記アンテナコイルの少なくとも一部と平面パターン上で重なっていることを特徴とする無線センサチップ。
【請求項9】
センサ電極を備えるセンサと、信号処理回路と、制御回路と、無線通信回路と、アンテナコイルとを有する無線センサチップと、
リーダコイルを備え前記無線センサチップと通信するリーダとを有する測定システムにおいて、
前記無線センサチップの前記センサ電極はコンデンサを介して前記アンテナコイルに接続されていることを特徴とする測定システム。
【請求項10】
センサ電極を備えるセンサと、信号処理回路と、制御回路と、無線通信回路と、アンテナコイルとを有する無線センサチップと、
リーダコイルを備え前記無線センサチップと通信するリーダとを有する測定システムにおいて、
前記センサチップの前記センサ電極は、間に絶縁膜を挟んで前記アンテナコイルの少なくとも一部と平面パターン上で重なっていることを特徴とする測定システム。
【請求項11】
請求項9又は10記載の測定システムにおいて、温度センサを搭載する無線センサチップを含み、前記温度センサを搭載する無線センサチップによって検出された温度が所定の温度になるように前記リーダから送信される交流電磁波のオンオフあるいは交流電磁波の振幅を調整することを特徴とする測定システム。
【請求項12】
請求項9又は10記載の測定システムにおいて、前記センサ電極を備えるセンサはISFETであり、前記センサ電極に捕捉したターゲットによる当該センサ電極の電位変動を計測することを特徴とする測定システム。
【請求項1】
センサ電極を備えるセンサと、信号処理回路と、制御回路と、無線通信回路と、アンテナコイルとを有し、
前記センサ電極はコンデンサを介して前記アンテナコイルに接続されていることを特徴とする無線センサチップ。
【請求項2】
センサ電極を備えるセンサと、信号処理回路と、制御回路と、無線通信回路と、アンテナコイルとを有し、
前記センサ電極は、間に絶縁膜を挟んで前記アンテナコイルの少なくとも一部と平面パターン上で重なっていることを特徴とする無線センサチップ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の無線センサチップにおいて、前記アンテナコイル端に発生した交流電圧が前記センサ電極に印加されることを特徴とする無線センサチップ。
【請求項4】
請求項1又は2記載の無線センサチップにおいて、前記アンテナコイル端に発生した交流電圧を分周して得られた第2の周波数を有する交流電圧が前記センサ電極に印加されることを特徴とする無線センサチップ。
【請求項5】
請求項1又は2記載の無線センサチップにおいて、前記センサの出力から当該センサ電極に印加される交流電圧の周波数を遮断するフィルタ機能を有することを特徴とする無線センサチップ。
【請求項6】
請求項1又は2記載の無線センサチップにおいて、前記センサはISFETであることを特徴とする無線センサチップ。
【請求項7】
請求項1記載の無線センサチップにおいて、前記センサ電極を備えるセンサに代えてフォトダイオードを備え、前記フォトダイオードはコンデンサを介して前記アンテナコイルに接続されていることを特徴とする無線センサチップ。
【請求項8】
請求項2記載の無線センサチップにおいて、前記センサ電極を備えるセンサに代えてフォトダイオードを備え、前記フォトダイオードは、間に絶縁膜を挟んで前記アンテナコイルの少なくとも一部と平面パターン上で重なっていることを特徴とする無線センサチップ。
【請求項9】
センサ電極を備えるセンサと、信号処理回路と、制御回路と、無線通信回路と、アンテナコイルとを有する無線センサチップと、
リーダコイルを備え前記無線センサチップと通信するリーダとを有する測定システムにおいて、
前記無線センサチップの前記センサ電極はコンデンサを介して前記アンテナコイルに接続されていることを特徴とする測定システム。
【請求項10】
センサ電極を備えるセンサと、信号処理回路と、制御回路と、無線通信回路と、アンテナコイルとを有する無線センサチップと、
リーダコイルを備え前記無線センサチップと通信するリーダとを有する測定システムにおいて、
前記センサチップの前記センサ電極は、間に絶縁膜を挟んで前記アンテナコイルの少なくとも一部と平面パターン上で重なっていることを特徴とする測定システム。
【請求項11】
請求項9又は10記載の測定システムにおいて、温度センサを搭載する無線センサチップを含み、前記温度センサを搭載する無線センサチップによって検出された温度が所定の温度になるように前記リーダから送信される交流電磁波のオンオフあるいは交流電磁波の振幅を調整することを特徴とする測定システム。
【請求項12】
請求項9又は10記載の測定システムにおいて、前記センサ電極を備えるセンサはISFETであり、前記センサ電極に捕捉したターゲットによる当該センサ電極の電位変動を計測することを特徴とする測定システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−127757(P2010−127757A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302518(P2008−302518)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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