説明

無線基地局装置およびデータ送信タイミング制御方法

【課題】2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う際に、複数の無線端末に共通したデータ送信タイミングの調整を行うことを図る。
【解決手段】各無線端末に対して、データを送信する際に、一定の遅延時間を遅延させる送信遅延付加部15を備え、該遅延時間は、各無線基地局装置からの受信電力差が最小である地点における、該無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線基地局装置およびデータ送信タイミング制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代の移動通信システムとして、IMT−Advancedと称される第4世代移動通信システムに関する技術の検討が進められている。IMT−Advancedは、低速移動時に1Gbpsの伝送速度を、高速移動時には100Mbpsの伝送速度をそれぞれ実現することを目標としている。このような広帯域伝送を実現するためには、広帯域な周波数帯を使用した通信方式を利用することが必要になるが、そのような通信方式の一つとして、直交周波数分割多元接続(Orthogonal Frequency Division Multiple Access:OFDMA)方式が知られている。また、複数のアンテナを用いたMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術は、送信側の複数のアンテナから個別に送信された信号を受信側の複数のアンテナで受信し、その受信信号から空間信号分離することで広帯域伝送を実現する技術として注目されている。
【0003】
また、移動通信システムの容量対策として、セル内でトラヒックが集中するエリア(ホットゾーン)に対して、広域セルを構成するマクロ基地局よりも送信電力の小さいマイクロ基地局やピコ基地局等の小型基地局を設置するヘテロジニアスネットワーク(HetNet)が検討されている。
【0004】
OFDMA方式及びMIMO技術を移動通信システムに適用する場合、全周波数帯域を各セルに割当てる指針が考えられる。この場合、セル境界に位置するユーザ端末については、所望信号レベルが距離減衰により劣化するだけでなく、ユーザ端末が通信している基地局に隣接する基地局からの無線信号が通信信号と同レベルの干渉信号となり、通信品質を大きく劣化させるため、広帯域伝送を実現するための大きな課題となる。その対処法として、ユーザ端末に対して複数の基地局が連携してデータを送信する基地局連携送信が検討されている。
【0005】
しかしながら、基地局連携送信では、異なる基地局がユーザ端末へデータを送信するので、通信路が異なることにより信号伝搬遅延の差が生じる。その伝搬遅延時間差により、シンボル間干渉やキャリア間干渉が発生し、通信容量を劣化させる課題がある。特にHetNet構成においてその課題は顕著になる。
【0006】
図6は、ユーザ端末の位置に応じた、マクロ基地局101,102の受信電力P101,P102と伝搬遅延時間差D101を示す概念図である。伝搬遅延時間はマクロ基地局とユーザ端末との間の距離のみで決定される。従って、図6では両マクロ基地局101,102からの距離が等しくなる地点(この地点はセル境界に当たる)で伝搬遅延時間差が0となり、当該地点から離れるほど伝搬遅延時間差が大きくなる。
【0007】
受信電力は、マクロ基地局に近いほど大きく、マクロ基地局から遠ざかるほど急激に減衰する。図6では、隣接するマクロ基地局101,102の送信電力が同一であり、セル境界(伝搬遅延時間差が0となる地点)で両基地局101,102からの受信電力が等しくなっている。ここで、ユーザ端末がマクロ基地局101の近傍に位置する場合、マクロ基地局101,102間の伝搬遅延時間差は大きくなるが、マクロ基地局101からの信号を高レベルで受信でき、隣接するマクロ基地局102からの無線信号が距離減衰により低下するため、当該ユーザ端末はマクロ基地局101とのみ通信を行うことにより高い通信品質を確保できる。
【0008】
一方、ユーザ端末がセル境界に位置する場合には、マクロ基地局101,102からの受信電力が同一レベルであるため、マクロ基地局101,102間で基地局連携送信を行うことにより通信品質の向上を図る。このとき、各マクロ基地局101,102からの伝搬遅延時間はセル境界ではほぼ同じであり、伝搬遅延時間差による基地局連携送信の通信品質劣化は発生しない。
【0009】
図7は、ユーザ端末の位置に応じた、マクロ基地局101とマイクロ基地局201の各受信電力P101,P201と伝搬遅延時間差D201を示す概念図である。マクロ基地局101からの距離とマイクロ基地局201からの距離が等しくなる地点で伝搬遅延時間差が0となり、当該地点から離れるほど伝搬遅延時間が大きくなる。また、マクロ基地局101とマイクロ基地局201の各電波の進行方向が同一である地点では、各基地局101,201からの距離が伸びても、伝搬距離差は変わらないので、伝搬遅延時間差も変わらない。受信電力は基地局に近いほど大きく、基地局から遠ざかるほど急激に減衰する。
【0010】
図7では、マイクロ基地局201の送信電力がマクロ基地局101に比べて小さいため、マクロ基地局101に比べて、マイクロ基地局201の方が受信電力の距離減衰度が大きい。ユーザ端末が、マクロ基地局101からの受信電力とマイクロ基地局201からの受信電力が等しくなる地点(この地点がセル境界となる)に位置する場合には、マクロ基地局101とマイクロ基地局201が基地局連携送信を行うことにより通信品質の向上を図る。しかしながら、このとき、各基地局101,201からの伝搬遅延時間はセル境界では異なっており、伝搬遅延時間差によるシンボル間干渉やキャリア間干渉が発生し、基地局連携送信の通信品質が劣化する。
【0011】
この課題を解決するために、例えば特許文献1に記載される従来のデータ送信タイミング制御方法では、第1、第2送信局間および第1、第2送信局と受信局との間の信号伝播遅延時間を検出し、該信号伝播遅延時間から、当該受信局宛データの送信タイミングの調整量を算出し、該調整量によって当該受信局に対する第1、第2送信局からの送信タイミングを整合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−225137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上述した従来のデータ送信タイミング制御方法では、受信局毎に、送信局間の信号伝播遅延時間を検出して送信タイミングの調整量を算出し、送信タイミングを調整しなければならない。このため、受信局の台数が多くなると、制御が複雑になる。また、OFDMA方式及びMIMO技術を移動通信システムに適用する場合には、複数のユーザ端末に対して、同一タイミングにおいて周波数軸で分割した無線リソースを割り当てる。この場合には、各ユーザ端末へ送信するデータが同一タイミングにおいて周波数軸上に配置されるので、ユーザ端末毎に送信タイミングを調整することはできない。
【0014】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う際に、複数の無線端末に共通したデータ送信タイミングの調整を行うことができる無線基地局装置およびデータ送信タイミング制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明に係る無線基地局装置は、2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う前記無線基地局装置において、各前記無線端末に対して、データを送信する際に、一定の遅延時間を遅延させる送信遅延付加部を備え、前記遅延時間は、各前記無線基地局装置からの受信電力差が最小である地点における、前記無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差である、ことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る無線基地局装置は、2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う前記無線基地局装置において、各前記無線端末に対して、データを送信する際に、一定の遅延時間を遅延させる送信遅延付加部を備え、前記遅延時間は、各前記無線基地局装置からの受信電力差が該受信電力差の度数分布での中央値である地点における、前記無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差である、ことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る無線基地局装置は、2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う前記無線基地局装置において、各前記無線端末に対して、データを送信する際に、一定の遅延時間を遅延させる送信遅延付加部を備え、前記遅延時間は、各前記無線基地局装置からの受信電力差が該受信電力差の度数分布での最頻値である地点における、前記無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差である、ことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る無線基地局装置においては、前記遅延時間として用いる伝搬遅延時間差を採用する候補である前記地点が複数存在する場合に、データ送信タイミングの調整における主である前記無線基地局装置に最も近い地点が選出された、ことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る無線基地局装置において、前記遅延時間は、前記無線基地局装置からの受信電力が所定値を超える前記地点のみを対象にして決定された、ことを特徴とする。
【0020】
本発明に係る無線基地局装置においては、前記無線端末から、各前記無線基地局装置からの受信電力差を示す情報を受信する受信電力差情報受信部と、前記無線端末から、前記無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差を示す情報を受信する伝搬遅延時間差情報受信部と、前記遅延時間として用いる伝搬遅延時間差を採用する無線端末を選出する端末選出部と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る無線基地局装置においては、前記無線端末から、該無線端末の位置を示す情報を受信する端末位置情報受信部を備え、前記端末選出部は、前記遅延時間として用いる伝搬遅延時間差を採用する候補である前記無線端末が複数存在する場合に、データ送信タイミングの調整における主である前記無線基地局装置に最も近い無線端末を選出する、ことを特徴とする。
【0022】
本発明に係る無線基地局装置において、前記端末選出部は、前記無線基地局装置からの受信電力が所定値を超える前記無線端末のみを選出する、ことを特徴とする。
【0023】
本発明に係る無線基地局装置において、前記主である無線基地局装置のセルは、従である無線基地局装置のセルを包含することを特徴とする。
【0024】
本発明に係るデータ送信タイミング制御方法は、2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う前記無線基地局装置におけるデータ送信タイミング制御方法であって、各前記無線端末に対して、データを送信する際に、一定の遅延時間を遅延させるステップを含み、前記遅延時間は、各前記無線基地局装置からの受信電力差が最小である地点における、前記無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差である、ことを特徴とする。
【0025】
本発明に係るデータ送信タイミング制御方法は、2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う前記無線基地局装置におけるデータ送信タイミング制御方法であって、各前記無線端末に対して、データを送信する際に、一定の遅延時間を遅延させるステップを含み、前記遅延時間は、各前記無線基地局装置からの受信電力差が該受信電力差の度数分布での中央値である地点における、前記無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差である、ことを特徴とする。
【0026】
本発明に係るデータ送信タイミング制御方法は、2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う前記無線基地局装置におけるデータ送信タイミング制御方法であって、各前記無線端末に対して、データを送信する際に、一定の遅延時間を遅延させるステップを含み、前記遅延時間は、各前記無線基地局装置からの受信電力差が該受信電力差の度数分布での最頻値である地点における、前記無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う際に、複数の無線端末に共通したデータ送信タイミングの調整を行うことができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る無線基地局装置1の概略構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態に係る移動通信システムの実施例である。
【図3】本発明の一実施例に係るデータ送信タイミング制御処理のシーケンスチャートである。
【図4】本発明の一実施例に係るユーザ端末選出処理のフローチャートである。
【図5】本発明の一実施例に係るマクロ基地局(主基地局)とマイクロ基地局(従基地局)の各受信電力と、伝搬遅延時間差を示す概念図である。
【図6】従来のマクロ基地局の受信電力と伝搬遅延時間差を示す概念図である。
【図7】従来のマクロ基地局とマイクロ基地局の各受信電力と伝搬遅延時間差を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る無線基地局装置1の概略構成を示すブロック図である。図1において、無線基地局装置1は、無線通信部10と端末選出部11を備える。無線通信部10は、受信電力差情報受信部12と端末位置情報受信部13と伝搬遅延時間差情報受信部14と送信遅延付加部15を有する。
【0030】
無線基地局装置1は、2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う。無線通信部10は、セル境界に在る無線端末に対して基地局連携送信を行う。受信電力差情報受信部12は、基地局連携送信の対象である無線端末から、基地局連携送信を行う各無線基地局装置からの受信電力差を示す情報(受信電力差情報)を受信する。
【0031】
伝搬遅延時間差情報受信部14は、基地局連携送信の対象である無線端末から、基地局連携送信を行う無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差を示す情報(伝搬遅延時間差情報)を受信する。端末位置情報受信部13は、基地局連携送信の対象である無線端末から、該無線端末の位置を示す情報(端末位置情報)を受信する。
【0032】
端末選出部11は、基地局連携送信の対象である複数の無線端末の中から、受信電力差情報に基づいて受信電力差が最小である無線端末を選出する。このとき、端末選出部11は、受信電力差が最小である無線端末が複数存在する場合に、データ送信タイミングの調整における主である無線基地局装置に最も近い無線端末を選出する。
【0033】
送信遅延付加部15は、各無線端末に対して、データを送信する際に、端末選出部11が選出した無線端末の伝搬遅延時間差情報が示す伝搬遅延時間差分を遅延させる。
【0034】
以下、本実施形態に係る無線基地局装置1の実施例を説明する。
【実施例】
【0035】
図2は、本実施形態に係る移動通信システムの実施例である。この移動通信システムは、OFDMA方式及びMIMO技術を用いている。図2において、マクロ基地局101は、従来と同様の構成であり、広域のセル110を提供する。図2には、マクロ基地局101が1台のみ図示しているが、実際には複数のマクロ基地局101が提供するセル110により連続した移動通信サービスエリアが形成される。マイクロ基地局1−1,1−2は、本実施形態に係る無線基地局装置1から構成されている。マイクロ基地局1−1,1−2とマクロ基地局101とはバックボーン回線(図示せず)を介してデータを送受する。
【0036】
本実施例では、マクロ基地局101が提供するセル110において、多くのユーザ端末が集中して存在するエリア(ホットゾーン)に対し、トラヒックの負荷分散対策として、マイクロ基地局1−1,1−2が設置されている。ホットゾーンとしては、例えば繁華街や駅等が考えられる。マイクロ基地局1−1,1−2の送信電力は、マクロ基地局101の送信電力よりも小さい。従って、マイクロ基地局1−1,1−2が提供するセル211,212は、マクロ基地局101が提供するセル110に包含されている。
【0037】
なお、本実施例では、本実施形態に係る無線基地局装置1をマイクロ基地局に適用してホットゾーンに対し設置しているが、マイクロ基地局よりもさらに送信電力が小さいピコ基地局等の小型基地局に本実施形態に係る無線基地局装置1を適用して、ホットゾーンに対し設置してもよい。
【0038】
マクロ基地局101は、データ送信タイミングの調整における主である基地局(主基地局)として定義される。マイクロ基地局1−1,1−2は、データ送信タイミングの調整における従である基地局(従基地局)として定義される。マクロ基地局101(主基地局)とマイクロ基地局1−1,1−2(従基地局)とは、時間同期が取れている。マクロ基地局101とマイクロ基地局1−1,1−2とは、同一周波数帯を用いて無線通信を行う。基地局連携送信を行う際には、マイクロ基地局1−1,1−2(従基地局)は、データ送信タイミングをマクロ基地局101(主基地局)に合わせる。マイクロ基地局1−1,1−2は、マクロ基地局101が設置されている位置の情報を保持している。
【0039】
図2において、ユーザ端末2−1は、マイクロ基地局1−1が提供するセル211のセル境界に在る。マクロ基地局101とマイクロ基地局1−1は、ユーザ端末2−1に対して、基地局連携送信を行う。ユーザ端末2−2は、マイクロ基地局1−1が提供するセル211のセル境界に在る。マクロ基地局101とマイクロ基地局1−1は、ユーザ端末2−2に対して、基地局連携送信を行う。従って、マクロ基地局101とマイクロ基地局1−1は、ユーザ端末2−1とユーザ端末2−2に対して、同時に基地局連携送信を行う。ユーザ端末2−3は、マイクロ基地局1−2が提供するセル212のセル境界に在る。マクロ基地局101とマイクロ基地局1−2は、ユーザ端末2−3に対して、基地局連携送信を行う。
【0040】
次に、図3を参照して、本実施例におけるデータ送信タイミング制御処理を説明する。図3は、本実施例に係るデータ送信タイミング制御処理のシーケンスチャートである。図3では、図2に示すマイクロ基地局1−1,1−2を特に区別しないでマイクロ基地局1と称する。同様に、ユーザ端末についても特に区別しないでユーザ端末2と称する。
【0041】
図3において、マクロ基地局101(主基地局)とマイクロ基地局1(従基地局)とはバックボーン回線を介してデータを送受する。ユーザ端末2は、マイクロ基地局1が提供するセルのセル境界に在り、マイクロ基地局1と無線回線を介してデータを送受している。
【0042】
ステップS1:マイクロ基地局1、マクロ基地局101およびユーザ端末2の間で連携通信判断・調整処理を行って、基地局連携送信を用いた通信を行うか否かを判断する。この判断は、定期的に取得される、ユーザ端末2が接続する基地局(マイクロ基地局1)の受信品質及び該マイクロ基地局1の近傍に在る基地局(マクロ基地局101等)の受信品質など、に基づいて行われる。ここでは、マイクロ基地局1とマクロ基地局101は、ユーザ端末2に対して、基地局連携送信を用いた通信を行うと判断したとする。
【0043】
ステップS2:ユーザ端末2は、マクロ基地局101からの受信電力とマイクロ基地局1からの受信電力とを測定する。さらに、ユーザ端末2は、マクロ基地局101からの信号の伝搬遅延時間とマイクロ基地局1からの信号の伝搬遅延時間との差(伝搬遅延時間差)を測定する。
【0044】
ステップS3:ユーザ端末2は、マイクロ基地局1に対して、マクロ基地局101からの受信電力及びマイクロ基地局1からの受信電力を示す情報を格納する受信電力差情報と、伝搬遅延時間差を示す伝搬遅延時間差情報と、自端末の位置を示す端末位置情報とを送信する。ここで、マイクロ基地局1は、同時に基地局連携送信を行うユーザ端末2が複数存在する場合には、複数のユーザ端末2からそれぞれに、受信電力差情報、伝搬遅延時間差情報および端末位置情報を受信する。
【0045】
ステップS4:マイクロ基地局1は、ユーザ端末2から受信した情報を用いて、ユーザ端末選出処理を行う。
【0046】
ここで、図4を参照して、ステップS4のユーザ端末選出処理を説明する。図4は、本実施例に係るユーザ端末選出処理のフローチャートである。
ステップS11:ユーザ端末2から受信した受信電力差情報に基づいて、連携基地局の受信電力の差の絶対値が最小であるユーザ端末2を抽出する。あるユーザ端末2から受信した受信電力差情報は、当該ユーザ端末2に対して基地局連携送信するマクロ基地局101とマイクロ基地局1とについて、それぞれの受信電力を示す。このマクロ基地局101の受信電力とマイクロ基地局1の受信電力との差が、当該ユーザ端末2に係る連携基地局の受信電力の差である。
【0047】
ステップS12:ステップS11で抽出されたユーザ端末2が複数あるかを判断する。この結果、複数ある場合にはステップS13に進み、1つしかない場合にはステップS14に進む。
【0048】
ステップS13:ステップS11で抽出された複数のユーザ端末2のそれぞれについて、端末位置情報に基づいてユーザ端末2とマクロ基地局101(主基地局)との間の距離を算出する。そして、該複数のユーザ端末2の中から、該算出した距離が最も短いユーザ端末2を選出する。あるいは、ステップS11で抽出された複数のユーザ端末2のそれぞれについて、マクロ基地局101(主基地局)からの受信電力を調べ、該マクロ基地局101からの受信電力が最も大きい(伝搬ロスが最も小さい)ユーザ端末2を選出する。
【0049】
ステップS14:ステップS11で抽出された唯一のユーザ端末2を選出する。
【0050】
説明を図3に戻す。
ステップS5:ステップS4で選出されたユーザ端末2の伝搬遅延時間差情報が示す伝搬遅延時間差を、送信タイミング調整量に決定する。これにより、マイクロ基地局1(従基地局)の送信遅延付加部15は、各ユーザ端末2に対して、データを送信する際に、共通して該送信タイミング調整量の時間を遅延させる。このとき、送信遅延付加部15は、マクロ基地局101(主基地局)のデータ送信タイミングを基準にして、送信タイミング調整量の時間を遅延させる。
【0051】
ユーザ端末2とマクロ基地局101間の伝搬遅延時間をτマクロ、ユーザ端末2とマイクロ基地局1間の伝搬遅延時間をτマイクロとする。このとき、連携基地局間の伝搬遅延時間差Δは、
Δ=τマクロ−τマイクロ
と表される。
本実施例では、マクロ基地局101のデータ送信タイミングを基準として、マイクロ基地局1のデータ送信タイミングを伝搬遅延時間差Δだけ遅らせる。従って、マクロ基地局101のデータ送信タイミングを基準にすると、マイクロ基地局1からユーザ端末2までの総伝搬遅延時間は、
τマイクロ+Δ=τマイクロ+τマクロ−τマイクロ=τマクロ
となる。これにより、マクロ基地局101とマイクロ基地局1のデータ送信タイミングを調整することができる。
【0052】
図5は、本実施例に係る、ユーザ端末の位置に応じた、マクロ基地局101とマイクロ基地局1の各受信電力P101,P211と、伝搬遅延時間差D201,D211,D212を示す概念図である。図5において、伝搬遅延時間差D201はデータ送信タイミング調整前であり、伝搬遅延時間差D211,D212はデータ送信タイミング調整後である。伝搬遅延時間差D211は、マイクロ基地局1(従基地局)のセル211におけるマクロ基地局101(主基地局)に近い側において、連携基地局の受信電力の差の絶対値が最小であるユーザ端末2のデータ送信タイミング調整結果である。伝搬遅延時間差D212は、マイクロ基地局1(従基地局)のセル211におけるマクロ基地局101(主基地局)に遠い側において、連携基地局の受信電力の差の絶対値が最小であるユーザ端末2のデータ送信タイミング調整結果である。なお、マクロ基地局101とマイクロ基地局201の各電波の進行方向が同一である地点では、各基地局101,201からの距離が伸びても、伝搬距離差は変わらない。従って、図5において、マイクロ基地局1(従基地局)のセル211におけるマクロ基地局101(主基地局)に遠い側において、連携基地局の受信電力の差の絶対値が最小であるユーザ端末2のデータ送信タイミング調整を行う場合には、マイクロ基地局1の地点における伝搬遅延時間差(マクロ基地局101からマイクロ基地局1までの伝搬遅延時間)を送信タイミング調整量としてデータ送信タイミングを調整すればよい。
【0053】
本実施例によれば、マクロ基地局101とマイクロ基地局1とが同時に基地局連携送信を行う対象である複数のユーザ端末2のうち、連携基地局の受信電力の差の絶対値が最小であるユーザ端末2における連携基地局間の伝搬遅延時間差を、該複数のユーザ端末2に対する共通した送信タイミング調整量として使用する。これにより、複数のユーザ端末2に共通したデータ送信タイミングの調整を行うことができるという効果が得られる。
【0054】
また、基地局連携送信を用いた通信を行うユーザ端末2のうち、連携基地局の受信電力の差の絶対値が最小であるユーザ端末2は、基地局連携送信を行わない場合に、所望基地局(マイクロ基地局1)からの受信電力と干渉基地局(マクロ基地局101)からの受信電力との差の絶対値が最小であるので、受信信号電力対干渉電力比(Signal to Interference Ratio:SIR)が最も悪いユーザ端末である。ここで、基地局連携送信を行うことによって干渉電力(マクロ基地局101からの受信電力)を所望信号電力として活用することができるので、SIRが最悪のユーザ端末2は最も効率がよい。従って、SIRが最悪のユーザ端末2における連携基地局間の伝搬遅延時間差を複数のユーザ端末2に共通した送信タイミング調整量とすることによって、連携基地局間の伝搬遅延時間差による通信品質の劣化を軽減しながら、電波利用効率の向上に寄与することができる。
【0055】
なお、図3のステップS2において、信号伝搬遅延時間は、例えばLTE(Long Term Evolution)システムの場合には、LTEの仕様に規定されているRSTD(Reference Signal Time Difference)を用いることにより求めることができる。また、以下に示す方法1又は2を用いて信号伝搬遅延時間を求めてもよい。
(方法1)マクロ基地局及びマイクロ基地局からそれぞれに信号伝搬遅延時間の測定用に送信時刻を格納したパケットを送信し、ユーザ端末が当該パケットを受信した時刻を記憶する。そして、パケットに格納された送信時刻と受信時刻から当該パケットの伝搬遅延時間を計算する。
(方法2)マクロ基地局及びマイクロ基地局からそれぞれに信号伝搬遅延時間の測定用に自基地局の位置座標を格納したパケットを送信する。当該パケットを受信したユーザ端末は、当該パケットに格納された基地局の位置座標と、GPS等により求められる自ユーザ端末の位置座標とから当該基地局と自ユーザ端末間の距離を計算し、当該距離を光速で割ることにより伝搬遅延時間を計算する。
【0056】
また、図3のステップS3において、端末位置情報は、ユーザ端末2が備える位置測定装置(例えばGPS)により取得される。
【0057】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、上述した実施例では、データ送信タイミングの調整における主である基地局のセルは、従である基地局のセルを包含するようにしたが、これに限定されない。例えば、図6に示されるように、セルの一部分が重複する2つの基地局のうちいずれか一方を主である基地局とし、もう一方を従である基地局として定義してもよい。
【0058】
また、受信電力差情報として、例えばSIRを用いてもよい。
【0059】
なお、上述した実施例では、基地局連携送信の対象である複数の無線端末の中から、受信電力差情報に基づいて受信電力差が最小である無線端末を選出し、SIRが最悪であるユーザ端末2の通信品質を最も改善するようにデータ送信タイミングを調整しているが、本発明に係る無線端末選出方法はこれに限定されない。例えば、各無線端末における受信電力差の度数分布グラフを作成し、その度数分布グラフにおいて受信電力差の中央値をとる無線端末における伝搬遅延時間差を送信タイミング調整量としてデータ送信タイミングを調整してもよい。この場合には、基地局連携送信を行う対象である全無線端末に対して平均的な送信タイミング調整を行うことができる。
【0060】
あるいは、各無線端末における受信電力差の度数分布グラフにおいて受信電力差の最頻値をとる無線端末における伝搬遅延時間差を送信タイミング調整量としてデータ送信タイミングを調整してもよい。この場合には、基地局連携送信を行う対象である最も多くの無線端末に対して送信タイミングを調整することができる。
【0061】
なお、送信タイミング調整量として用いる伝搬遅延時間差を採用する候補にする無線端末は、基地局連携送信を行う対象である全無線端末であってもよく、又は、基地局連携送信する基地局からの受信電力が所定値を超える無線端末のみであってもよい。該候補として、基地局連携送信する基地局からの受信電力が所定値を超える無線端末のみとする場合には、例えば、基地局連携送信を行うことによって所望のスループットを満たすことができる無線端末のみを、送信タイミング調整量を決定する際に考慮する対象とすることが可能となる。
【0062】
また、上述した実施例では、無線端末からのフィードバック情報(受信電力差情報、伝搬遅延時間差情報)を用いてデータ送信タイミングの調整を行なうが、これに限定されない。例えば、マイクロ基地局の設置後に伝測車等を用いてドライブテストを行い、当該ドライブテストの結果得られる受信電力差(マクロ基地局からの受信電力とマイクロ基地局からの受信電力との差)が最も小さくなる(SIR=0dBとなる)地点における伝搬遅延時間差(マクロ基地局からの伝搬遅延時間とマイクロ基地局からの伝搬遅延時間との差)を送信タイミング調整量としてデータ送信タイミングの調整を行なってもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…無線基地局装置、10…無線通信部、11…端末選出部、12…受信電力差情報受信部、13…端末位置情報受信部、14…伝搬遅延時間差情報受信部、15…送信遅延付加部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う前記無線基地局装置において、
各前記無線端末に対して、データを送信する際に、一定の遅延時間を遅延させる送信遅延付加部を備え、
前記遅延時間は、各前記無線基地局装置からの受信電力差が最小である地点における、前記無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差である、
ことを特徴とする無線基地局装置。
【請求項2】
2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う前記無線基地局装置において、
各前記無線端末に対して、データを送信する際に、一定の遅延時間を遅延させる送信遅延付加部を備え、
前記遅延時間は、各前記無線基地局装置からの受信電力差が該受信電力差の度数分布での中央値である地点における、前記無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差である、
ことを特徴とする無線基地局装置。
【請求項3】
2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う前記無線基地局装置において、
各前記無線端末に対して、データを送信する際に、一定の遅延時間を遅延させる送信遅延付加部を備え、
前記遅延時間は、各前記無線基地局装置からの受信電力差が該受信電力差の度数分布での最頻値である地点における、前記無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差である、
ことを特徴とする無線基地局装置。
【請求項4】
前記遅延時間として用いる伝搬遅延時間差を採用する候補である前記地点が複数存在する場合に、データ送信タイミングの調整における主である前記無線基地局装置に最も近い地点が選出された、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の無線基地局装置。
【請求項5】
前記遅延時間は、前記無線基地局装置からの受信電力が所定値を超える前記地点のみを対象にして決定された、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の無線基地局装置。
【請求項6】
前記無線端末から、各前記無線基地局装置からの受信電力差を示す情報を受信する受信電力差情報受信部と、
前記無線端末から、前記無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差を示す情報を受信する伝搬遅延時間差情報受信部と、
前記遅延時間として用いる伝搬遅延時間差を採用する無線端末を選出する端末選出部と、
を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の無線基地局装置。
【請求項7】
前記無線端末から、該無線端末の位置を示す情報を受信する端末位置情報受信部を備え、
前記端末選出部は、前記遅延時間として用いる伝搬遅延時間差を採用する候補である前記無線端末が複数存在する場合に、データ送信タイミングの調整における主である前記無線基地局装置に最も近い無線端末を選出する、
ことを特徴とする請求項6に記載の無線基地局装置。
【請求項8】
前記端末選出部は、前記無線基地局装置からの受信電力が所定値を超える前記無線端末のみを選出する、
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の無線基地局装置。
【請求項9】
前記主である無線基地局装置のセルは、従である無線基地局装置のセルを包含することを特徴とする請求項4又は7に記載の無線基地局装置。
【請求項10】
2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う前記無線基地局装置におけるデータ送信タイミング制御方法であって、
各前記無線端末に対して、データを送信する際に、一定の遅延時間を遅延させるステップを含み、
前記遅延時間は、各前記無線基地局装置からの受信電力差が最小である地点における、前記無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差である、
ことを特徴とするデータ送信タイミング制御方法。
【請求項11】
2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う前記無線基地局装置におけるデータ送信タイミング制御方法であって、
各前記無線端末に対して、データを送信する際に、一定の遅延時間を遅延させるステップを含み、
前記遅延時間は、各前記無線基地局装置からの受信電力差が該受信電力差の度数分布での中央値である地点における、前記無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差である、
ことを特徴とするデータ送信タイミング制御方法。
【請求項12】
2台の無線基地局装置が連携して1台の無線端末にデータを送信する基地局連携送信を複数の無線端末に対して同時に行う前記無線基地局装置におけるデータ送信タイミング制御方法であって、
各前記無線端末に対して、データを送信する際に、一定の遅延時間を遅延させるステップを含み、
前記遅延時間は、各前記無線基地局装置からの受信電力差が該受信電力差の度数分布での最頻値である地点における、前記無線基地局装置間の信号の伝搬遅延時間差である、
ことを特徴とするデータ送信タイミング制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−175276(P2012−175276A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33769(P2011−33769)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】