説明

無線機およびコンピュータプログラム

【課題】デジタル方式の音声通信を採用した無線機において、通信可能なレピータのコールサインを、ユーザに負担をかけることなく取得する。
【解決手段】無線機の不揮発性メモリには、複数箇所に設置されたレピータの位置情報D1、エリアに関する情報D2、コールサインD4、ならびにアップリンクおよびダウンリンクの周波数D5〜D7のデータを含むテーブルTが格納されている。無線機のコントローラは、交信に先立ち、位置情報取得装置から入手した無線機の現在位置を示す情報を、レピータの位置情報D1と比較し、無線機に近接するレピータをテーブルTから抽出してリストLを作成する。続いてコントローラは、無線機の現在位置を示す情報とリストLのエリア情報D8とを比較して、エリア内に無線機の現在位置が含まれる複数のレピータから1つのレピータを選択し、そのレピータのコールサインを送り元のコールサインとして送信部に通知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル方式の音声通信を採用した無線機、およびその無線機の機能を実現するコンピュータプログラムに関する
【背景技術】
【0002】
近年、例えばアマチュア無線の世界において、より高速の通信を実現し、またクリアな音声での交信を楽しむために、音声通信のデジタル化とネットワーク化が普及しつつある(例えば、特許文献1参照)。アマチュア無線のデジタル音声通信においては、音声信号は符号化されてデジタル信号に変換され、パケット化された後に送信される。
【0003】
以下、図7を参照して、デジタル方式の音声通信を採用したアマチュア無線システムについて簡単に説明する。
【0004】
図7に示すアマチュア無線システム100では、複数の無線機1a〜1eをカバーするサービスエリア(以降、単に「エリア」という)2a、2b毎にレピータ3a、3bが設置されている。図7の例では、レピータ3aがカバーするエリア2aに無線機1a、1b、1cが存在し、レピータ3bがカバーするエリア2b内に無線機1d、1eが存在する。
【0005】
隣接するレピータ3a、3b間は、マイクロ波を使用して音声およびデータが多重化された状態で送信される。レピータ3a、3bで結ばれたエリアをゾーン5という。複数のゾーン5(5a、5b、5c)の間は、ゲートウェイ4を介してインターネット6で結ばれている。以後の説明では、無線機1a〜1eを総称して無線機1ともいう。同様に、エリア2a、2b等を総称してエリア2、レピータ3a、3b等を総称してレピータ3、ゾーン5a、5b、5cを総称してゾーン5ともいう。
【0006】
上述のアマチュア無線システム100においては、音声信号がパケット化され、かつパケットのヘッダ部に送信先、送信元のコールサイン等を示すデータが付加されたことに伴い、アナログ音声通信ではできなかった多くの機能を実現できるようになった。
【0007】
例えば、図7のアマチュア無線システム100を用いることで、以下に示すような様々な形態の交信を実現できる。
(1)各エリア2内での無線機1同士の直接の交信
(2)各エリア2内での無線機1同士のレピータ3を介した交信
(3)同一ゾーン5内の異なるエリア2の無線機1同士のレピータ3を介した交信
(4)異なるゾーン5の無線機1同士のゲートウェイ4とインターネット6を介した交信
【0008】
一方、上述のデジタル方式の音声通信を採用したアマチュア無線システムでは、交信を始める際に、送信先および送信元のコールサインと共に、送り先および送り元のレピータのコールサインを指定する必要がある。
【0009】
従って、無線機を自動車等の移動体に搭載した場合、移動に伴って属するエリアが変わるため、交信の都度、送り元のレピータのコールサインを変更する必要がある。日常的に移動するエリアについては、どのレピータが通信可能かは経験上わかっており、交信の際に通信可能なレピータを選択し、コールサインを設定することは容易である。
【0010】
しかし、旅行や出張などで初めて訪れた場所で交信する場合、その場所でどのレピータが通信可能なのかを簡単に知ることは困難である。そのため、住所とエリアのコールサインとの対照表を持参するか、インターネットの検索ツール等を用いて、予めその場所のレピータのコールサインを調べておく必要があり、ユーザの負担が大きい。
【0011】
ユーザに負担をかけることなく、通信可能なレピータのコールサインを自動的に取得する方法として、携帯電話システムで提案された方法を採用することが考えられる。すなわち、あらかじめメモリに基地局(レピータに相当)の位置情報と識別情報(ID)を記憶しておき、GPSレシーバで取得した携帯電話の現在位置を示す情報に基づいて最も近い基地局を選択し、メモリからその基地局の識別情報を読み出す方法である(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−193315号公報
【特許文献2】特開2002−165253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の方法において、基地局の識別情報の代わりにレピータのコールサインをメモリに記憶しておけば、通信可能なレピータのコールサインを自動的に取得できる。しかし、小ゾーンセル方式を採用した携帯電話システムと異なり、アマチュア無線システムでは、エリアの大きさがレピータ毎に異なり、また複数のエリアが重複して設定されている場合がある。従って、携帯電話システムで提案された方法をそのまま適用することはできない。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、通信可能なレピータのコールサインを自動的に取得できる、デジタル方式のアマチュア無線システムに好適の無線機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため本発明にかかる無線機は、アナログ音声信号をA/D変換および符号化してデジタル音声信号に変換した後、このデジタル音声信号を含むパケットを生成し、このパケットを無線信号に変換して送信する無線機であって、
前記パケットとして、ヘッダ部に送信先および送信元の無線機を識別する識別子、ならびにこれらの無線機が属するエリアのレピータを識別する識別子のデータが含まれ、データ部に前記デジタル音声信号のデータが含まれるパケットを生成する送信部と、
前記各識別子のデータを前記送信部に通知するコントローラと、
複数箇所に設置された前記レピータの位置情報、サービスエリアを示す情報および識別子のデータを含むテーブルが格納されたメモリと、
前記送信元の無線機の位置を示す情報を取得する位置情報取得装置と、を備え、
前記コントローラは送信に先立ち、
前記位置情報取得装置から入手した前記送信元の無線機の現在位置を示す情報を、前記テーブルに含まれるレピータの位置情報と比較し、前記無線機に近接する複数のレピータのデータを前記テーブルから抽出してリストを作成し、
前記無線機の現在位置を示す情報と前記リストのサービスエリアを示す情報を比較して、前記無線機の現在位置が前記サービスエリア内に含まれる複数のレピータから1つのレピータを選択し、
その選択したレピータの識別子を送り元のレピータの識別子として前記送信部に通知することを特徴とする。
【0016】
本発明にかかる無線機は、受信した前記無線信号を復調して前記パケットを取り出す受信部を更に備え、
また前記テーブルおよびリストは、前記レピータのアップリンクおよびダウンリンクの周波数のデータを含み、
前記コントローラは、前記リストから、前記選択したレピータのアップリンクの周波数を読み出して前記送信部に通知し、ダウンリンクの周波数を読み出して前記受信部に通知することが好ましい。
【0017】
ここで、前記テーブルは、無線機のユーザが前記レピータへの接続を希望するか否かの情報を更に含み、前記コントローラは、前記リストを作成する際、前記テーブルに前記レピータへの接続を希望しない旨の情報が含まれる場合、そのレピータを抽出の対象から除外することが好ましい。
【0018】
前記リストに含まれるレピータには優先順位が設定され、コントローラは、前記リストから1つのレピータを選択する際、優先順位の高いレピータを選択することが好ましい。優先順位の付け方としては、抽出したレピータのエリアの大きさ、もしくは無線機からレピータまでの距離をパラメータとすることが考えられる。また前記サービスエリアは、緯度と経度を示す線で囲まれた四角形で設定され、その四角形の中に前記レピータが設置された位置を含むことが好ましい。
【0019】
前記位置情報取得装置としてGPSレシーバを用いることが好ましい。また前記テーブルを格納するメモリとして不揮発性メモリを用いることが好ましい。
【0020】
また本発明にかかるコンピュータプログラムは、コンピュータを、ヘッダ部に送り先および送り元の無線機を識別する識別子、ならびにこれらの無線機が属するエリアのレピータを識別する識別子のデータを含み、データ部にアナログ音声信号がA/D変換され符号化されたデジタル音声信号を含むパケットを生成するコントローラとして機能させるコンピュータプログラムであって、
前記コントローラは、
前記位置情報取得装置から入手した前記送信元の無線機の現在位置を示す情報を、テーブルに含まれるレピータの位置情報と比較し、前記無線機に近接する複数のレピータのデータを前記テーブルから抽出してリストを作成し、
前記無線機の現在位置を示す情報と前記リストのサービスエリアを示す情報を比較して、前記無線機の現在位置が前記サービスエリア内に含まれる複数のレピータから1つのレピータを選択し、
その選択したレピータの識別子を送り元のレピータの識別子として前記送信部に通知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる無線機では、予めメモリにレピータの位置情報、エリアに関する情報、コールサインおよび周波数を含むテーブルを格納しておき、位置情報取得装置で取得した無線機の現在位置を、レピータの位置情報およびエリアの情報と比較することで、無線機がエリア内に含まれる全てのレピータを抽出し、その中から通信するレピータを選択している。
【0022】
結果として、本発明の無線機によれば、ユーザが煩雑な操作を行うことなく、通信可能なレピータのコールサインを自動的に取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態にかかる無線機の構成を示すブロック図である。
【図2】無線機によって送信されるパケットの構成を示す図である。
【図3】自動車に搭載された無線機が複数のエリアを通過する状態を示す概念図である。
【図4】メモリに格納されたテーブル(a)およびこのテーブルに基づいて作成されたリスト(b)の一例を示す図である。
【図5】表示部の画面に表示された受信機の位置情報を示す図である。
【図6】メモリに格納されたテーブルからレピータを選択する際の手順を説明するフローチャートである。
【図7】デジタル方式の音声通信を採用したアマチュア無線システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態にかかる無線機について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
<無線機の構成>
図1に、デジタル音声通信を採用した本実施の形態にかかる無線機の構成を示す。無線機1は、マイク11、スピーカ12、AF増幅器13、音声コーデック14、送信部15、送受切替部16、アンテナ17、受信部18、インターフェース部19、コントローラ21、操作部26および表示部28で構成されている。図中、太線の矢印は音声信号やデータの流れを示し、細線の矢印は制御系統の信号の流れを示している
【0026】
マイク11は、送信用の音声を入力としてアナログ音声信号を生成し、その音声信号をAF増幅器13に出力する。一方、スピーカ12は、AF増幅器13から出力されたアナログ音声信号を音声に変換する。
【0027】
AF(Audio Frequency)増幅器13は、マイク11から入力されたアナログ音声信号を増幅して音声コーデック14に供給する。また、音声コーデック14から供給された受信音声のアナログ音声信号を増幅してスピーカ12に出力する。
【0028】
音声コーデック14は、AF増幅器13から供給されたアナログ音声信号をA/D(アナログ/デジタル)変換および符号化して送信部15に出力する。音声コーデック14はまた、受信部18から供給されたデジタル音声信号を復号化し、更にD/A(デジタル/アナログ)変換した後、AF増幅器13に出力する。
【0029】
送信部15は、音声コーデック14から供給されたデジタル音声信号に無線通信用のヘッダを付すと共に、後述するPTTスイッチ27の出力に基づいて分割し、送信用のパケットを生成する。パケットの構成については、後に図2を用いて詳述する。送信部15は更に、パケットを構成するデジタルデータで搬送波を変調し、必要に応じて周波数変換を行い、送受切替部16を介してアンテナ17から送信する。
【0030】
送受切替部16は、PTTスイッチ27が押されてオンになると送信部15からの送信信号をアンテナ17に導き、PTTスイッチ27が放されてオフになるとアンテナ17の受信信号を受信部18に導く。
【0031】
受信部18は、コントローラ21からの指示信号に従って受信周波数を切り替え、受信周波数に同調して受信信号を増幅し、更に復調してパケットを再生する。そして再生したパケットからヘッダ部を取り除き、音声データについては音声コーデック14に供給し、その他のデータ(例えば、イーサネット[登録商標]に準拠したパケット)についてはインターフェース部19に供給する。
【0032】
インターフェース部19は外部接続端子20を介してGPS(Global Positioning System)レシーバ29に接続され、GPSレシーバ29から供給されるパケットをコントローラ21に供給する。またインターフェース部19は、受信部18から供給されたイーサネット準拠のパケットを、外部接続端子20を介して外部機器(例えばパソコン)に供給する。
【0033】
なお、本実施の形態では、位置情報の取得装置として外付けのGPSレシーバ29を用いているが、無線機1にGPSユニットを内蔵させ、そのGPSユニットから位置情報を取得するようにしてもよい。また、インターネットに接続されたパソコンを用いて、Googleマップのリンク情報から位置情報を取得するようにしてもよい。
【0034】
コントローラ21は無線機1の動作を制御する。コントローラ21は、CPU(Central Processing Unit)22、CPU22の動作を規定するプログラムを記憶したROM(Read Only Memory)23、CPU22のワークメモリとして機能するRAM(Random Access Memory)24、および図4(a)に示すテーブルを格納した不揮発性メモリ25を備えている。
【0035】
操作部26は複数のキーやスイッチで構成され、種々の入力やユーザの指示をコントローラ21に伝達する。操作部26にはPTT(Pres To Talk)スイッチ27が含まれている。PTTスイッチ27は、押す(オンにする)と送受切替部16が送信側に切り替わってアンテナ17から送信が行われ、放す(オフにする)と、送受切替部16が受信側に切り替わって受信した音声信号の再生が行われる。
【0036】
表示部28は液晶ディスプレイ等で構成され、種々のデータを表示するのに用いられる。表示部28の画面には、無線機1がアマチュア無線信号を受信したこと(呼び出しがあったこと)や、送信元(自局)や送信先(相手局)のコールサイン、ニックネーム等が表示される。
【0037】
<パケットの構成>
次に、図2を参照して、送信部15で生成されるパケットの構成を説明する。パケットの構成は、デジタル方式の音声通信の一連のデータを、どのような順番でどのようにまとめて送信するかを示したものである。
【0038】
パケットPaはヘッダ部Phとデータ部Pdとで構成されている。ヘッダ部Phには、同期信号h1、フラグh2、送り先レピータのコールサインh3、送り元レピータのコールサインh4、送信先コールサインh5、送信元コールサインh6が含まれている。
【0039】
ヘッダ部Phのうち同期信号h1は、入力信号の同期をとり、またこれより信号であることを表す信号である。フラグh2は、レピータ経由通信、直接通信、レピータ制御信号等を表すデータであり、複数ビットのデータで構成されている。
【0040】
送り先レピータのコールサインh3は、例えば送信先の無線機が属するエリア内のレピータのコールサインであり、送り元レピータのコールサインh4は送信元の無線機が属するエリア内のレピータのコールサインである。また送信先コールサインh5は、送信する相手局の無線機のコールサインであり、送信元コールサインh6は、自局の無線機のコールサインである。これらのコールサイン(h3〜h6)は、送信先および送信元の無線機、更には無線信号を中継するレピータを識別するための識別子としての役割を果たす。なお送信先コールサインh5については、不特定局を呼び出すCQとしてもよい。
【0041】
データ部Pdは、デジタル化された音声信号を含む音声フレームd1と、小さな静止画やメモ等のデータを含むデータフレームd2が交互に配置され、最後にパケットの終わりを示す終話フレームd3が付加されている。
【0042】
<アマチュア無線の交信動作>
次に、図1、図2および前述の図7を参照して、アマチュア無線の交信動作を説明する。以下、代表的なケースとして、任意のエリア内の無線機1aの局が異なるエリア内の無線機1dの局を呼び出す場合について説明する。
【0043】
ユーザは交信に先立ち、無線機1aの操作部26を操作して、交信に必要な情報、例えば送信元(自局)コールサインや送り元レピータのコールサインを、不揮発性メモリ25に格納しておく。
【0044】
交信の際、ユーザは無線機1aの操作部26を操作し、送信先の無線機1dに予め割り当てられたコールサインおよび送り先レピータのコールサインを指定して、呼び出しを指示する。
【0045】
操作部26から入力された情報は、コントローラ21によって送信部15に通知され、コントローラ21の指示に従って送信部15でパケットが生成される。図2に示したようにパケットPaのヘッダ部Phには、送り先レピータ3bのコールサインh3、送り元レピータ3aのコールサインh4、送信先(相手局)である無線機1dのコールサインh5、および送信元(自局)である無線機1aのコールサインh6の各情報が含まれる。
【0046】
送信部15で生成され無線信号に変換されたパケットPaは、送受切替部16およびアンテナ17を介して送信される。無線機1aから送信されたパケットPaは、指定された経路にあるレピータ3a、3bによって中継され、無線機1dに到達する。
【0047】
無線機1dで受信した無線信号は、アンテナ17および送受切替部16を介して受信部18に供給され、受信部18で復調されてパケットPaが再生される。更に、受信部18で再生されたパケットPaからヘッダ部Phが取り除かれ、データ部Pdの内容に応じて音声コーデック14またはインターフェース部19に供給される。
【0048】
音声コーデック14に供給された音声データは復号化され、さらにアナログの音声信号に変換されてAF増幅器13に供給される。AF増幅器13で増幅された音声信号はスピーカ12から出力され、送信元のユーザの声が再生される。
【0049】
また受信部18で再生されたパケットPaはコントローラ21に供給される。コントローラ21のCPU22は、ECC(Error Check Code)チェックなどにより、受信したパケットPaが有効なパケットであるか否かを判別する。
【0050】
CPU22は、有効と判別されたパケットPaのヘッダ部PhのデータをRAM24に格納すると共に、ヘッダ部Phの情報を解析する。CPU22は、解析結果に基づいて、受信したパケットPaの送信先コールサインや送信元コールサインを表示部28に表示する。
【0051】
<レピータのコールサイン取得方法>
次に、図3、図4および図5を参照して、無線機が属するエリア内のレピータのコールサインを取得する方法について説明する。
【0052】
最初に、図3を参照して、本発明の前提となるエリアについて説明する。図3は、自動車7に搭載された無線機が複数のエリア2を通過する状態を示している。自動車7は矢印で示すように地点PからUに向けて移動するものとする。
【0053】
図3に示すように、表示された地域には4つのレピータ3c〜3fが設置されており、レピータ毎にエリア2c〜2fが、緯度と経度の線によって囲まれた四角形として設定されている。1つのレピータ3でカバーできるエリアは立地条件によって大幅に異なり、実際は複雑な形状をしている。この形状をそのまま不揮発性メモリ25に記憶させると記憶容量が膨大になるため、本実施の形態では、レピータ3の設置位置を重心とする、緯度と経度を示す線で囲まれた正方形をエリア2としている。
【0054】
当然のことながら、各エリア2c〜2fは、レピータ3c〜3fによって無線機1との通信を確実に実現できる範囲に設定されている。なお、地形によって電波の届く範囲に偏りがある場合には、レピータ3の位置をエリア2の重心からずらしてもよい。また不揮発性メモリ25の記憶容量が許すのであれば、エリア2を地形に合わせて設定してもよい。
【0055】
エリア2c〜2fの大きさはレピータ3d〜3fの立地条件によって異なり、レピータ3cのように見晴らしの良い高い場所に設置されている場合、エリアは大きくなる。これに対し、レピータ3dのように街中で障害物が多い場所に設置されている場合、エリアは小さくなる。
【0056】
また、携帯電話システムと異なり、アマチュア無線システムでは、エリアでカバーされない場所(図3の地点Pより手前、もしくは地点Uより後)や、複数のエリアによってカバーされる場所(図3の地点QからTの間)がある。当然のことながら、いずれのエリアでもカバーされない場所では、レピータ2を介しての通信はできない。
【0057】
これに対し、1つのエリア(例えば2c)でカバーされる場所(図3の地点PからQの間)では、パケットPaのヘッダ部Phに、送り元レピータのコールサインとして、レピータ3cのコールサインを設定する必要がある。また2つのエリア(例えば2cと2d)でカバーされる場所(図3の地点QからRの間)では、パケットPaのヘッダ部Phに、送り元レピータのコールサインとして、レピータ3cまたはレピータ3dのいずれかのコールサインを設定する必要がある。
【0058】
自動車7で移動している無線機1のユーザが、現在属しているエリア2内のレピータ3のコールサインを知らない場合には、ユーザは、GPSレシーバ29で取得した位置情報と、コントローラ21の不揮発性メモリ25に格納されたテーブルのデータを用いて、レピータ3のコールサインを取得する。
【0059】
図4(a)に不揮発性メモリ25に格納されたテーブルTの一例を示す。通常、テーブルTには、日本国内(記憶容量が許せば世界中)のレピータの情報が含まれている。なお、図4(a)のテーブルの内容は図3のレピータの配置に対応している。
【0060】
リスト形式のテーブルには7種類のデータD1〜D7が含まれている。位置情報D1はレピータ3が設置されている場所の位置を示す情報であり、緯度を示すデータLATと経度を示すデータLONを含んでいる。例えば、1段目のレピータ3cの位置情報は(LAT1、LON1)で表される。
【0061】
レンジ情報D2はエリア2の大きさを示す情報である。図3に示したように、エリア2はレピータ2の設置位置を重心とする正方形で囲まれており、その大きさを表すレンジ情報D2は、各辺の長さ(km)を示している。
【0062】
接続情報D3は、ユーザがレピータ2への接続を希望するか否かを示す情報である。レピータの中には、非常用に使用されるレピータ等、できれば使用を避けた方がよいものがある。ユーザがそのようなレピータへの接続を希望しない場合には、接続情報D3を「不可」とし、そうでない場合には「可」とする。
【0063】
コールサインD4はレピータ毎に付与されたコールサインを示す。またデータD5、D6およびD7は、レピータ3と無線機1との間で通信を行う際の周波数に関するデータである。レピータ3の送受信の周波数は、隣接するレピータ間で混信が生じないようにずらして設定されている。
【0064】
データD5はダウンリンクの周波数、すなわちレピータ3から無線機1への送信周波数である。一方、アップリンクの周波数、すなわち無線機1からレピータ3への送信周波数は、データD5、D6およびD7を用いて算出される。オフセットD7はダウンリンクの周波数D5とアップリンクの周波数の差分を示し、DUP D6はその差分をシフトする方向を示す。DUP D6が+の場合、オフセットD7の値を周波数D5の値に加えることにより、またDUP D6が−の場合、オフセットD7の値を周波数D5の値から引くことにより、アップリンクの周波数が得られる。
【0065】
一方、GPSレシーバ29から出力されるGPSセンテンスには緯度と経度を示す情報が含まれている。図5は、GPSレシーバ29で取得した無線機1の現在位置を示す情報DPを表示部28に表示した例である。図中、「MY POSITION」は、送り元の無線機1の位置情報であることを示し、「34°37′000″N」は緯度を、「135°36′000″E」は経度を示している。
【0066】
コントローラ21のCPU22は、図5に示す無線機1の現在位置の情報DPとテーブルTのレピータの位置情報D1を用いてレピータのリストを作成する。
【0067】
具体的には、CPU22は、無線機1の位置情報DPとテーブルTのレピータ3の位置情報D1の緯度と経度を比較し、テーブルTから無線機1に近接する(例えば東西南北に50km以内)レピータのデータを抽出して、図4(b)に示すリストLを作成する。作成されたリストLはRAM24に一時的に格納される。
【0068】
前述したように、テーブルTは図3のレピータの配置に対応しており、作成されたリストの1段目にはレピータ3cのデータが掲載され、2段目にはレピータ3dのデータが掲載されている。リストを作成する際、テーブルTの接続情報D3が「不可」となっているレピータは抽出の対象から除外される。テーブルの3段目に掲載されたレピータは図3のレピータ3eに対応し、図では他のレピータと区別するためエリア2eを破線で示している。
【0069】
リストLには、データD8、D4、D5およびD9が含まれる。これらのうち、コールサインD4およびダウンリンクの周波数D5は、テーブルTから読み出したものである。
【0070】
エリア情報D5は、レピータ3のエリア2の位置を示す。例えば1段目のエリア情報D8は、図3のエリア2cに対応し、データD81は、正方形のエリア2cの南北の境界の緯度を示し、データD82はエリア2cの東西の境界の経度を示す。エリア情報D8は、CPU22により、テーブルTの位置情報D1およびレンジ情報D2に基づいて算出される。
【0071】
周波数D9はレピータ3のアップリンクの周波数を示す。周波数D9は、CPU22により、テーブルTのデータD5,D6およびD7に基づいて算出される。
【0072】
CPU22は、RAM24に格納されたリストLから、エリア2内に無線機1の現在位置が含まれるレピータを抽出し、更にその中から優先順位が最も高いレピータを選択する。
【0073】
優先順位の付け方としては、抽出したレピータのエリアの大きさ、もしくは無線機からレピータまでの距離をパラメータとすることが好ましい。いずれのパラメータについて優先順位を設定するかは、ユーザによる操作部26への入力によって決定される。
【0074】
レピータのエリアの大きさはリストLに掲載されたエリア情報D8の値によって判断される。一方、無線機からレピータまでの距離について優先順位を設定した場合、CPU22は、無線機1の位置情報DPとテーブルTのレピータ3の位置情報D1に基づいて距離を算出し、その値に基づいて判断する。
【0075】
CPU22は、このようにしてリストLから選択されたレピータのコールサインを送信部15に通知し、送信部15は、通知されたコールサインをヘッダ部Phの送り元のレピータのコールサインに設定してパケットを作成する。
【0076】
同時にCPU22は、レピータのアップリンクおよびダウンリンクの周波数(D9、D5)をリストLから読み出し、アップリンクの周波数は送信部15に通知し、ダウンリンクの周波数は受信部18に通知する。送信部15は送信周波数を通知された周波数に設定し、受信部18は受信周波数を通知された周波数に設定する。
【0077】
<テーブルTから無線機の属するエリア内のレピータを選択する際の手順>
コントローラ21は、交信に先立ち、不揮発性メモリ25から無線機1に近接するレピータ3を抽出すると共に、無線機1の属するエリアから1つのレピータを選択し、そのレピータのコールサインおよび通信周波数を読み出す。図6のフローチャートを参照して、不揮発性メモリ25に格納されたテーブルTから無線機1の属するエリア内のレピータ3を選択する際の手順を説明する。
【0078】
ユーザは、操作部26を操作し、コントローラ21に対してレピータ3のコールサインのデータ取得を指示する。コントローラ21はユーザの指示に従い、無線機1に接続されたGPSレシーバ29から、前述の図5に示した無線機1の現在位置を示す情報(LAT、LON)を取得する(ステップS1)。
【0079】
具体的には、コントローラ21は操作部26からの指示信号に従い、インターフェース部19を介してGPSレシーバ29から送信された位置情報を含むパケットを取り込み、そのパケットから位置情報DPを取り出してRAM24に一時的に格納する。
【0080】
次にコントローラ21は、不揮発性メモリ25に格納されたテーブルTからレピータの位置情報D1を読み出して、GPSレシーバ29から取得した位置情報DPと比較し、緯度LATおよび経度LONに基づいて近接するレピータ3のデータを抽出する(ステップS2)。この際、接続情報D3が「不可」であるレピータは抽出の対象から除外される。
【0081】
続いてコントローラ21は、テーブルTの位置情報D1およびレンジ情報D2に基づいて、抽出したレピータ毎にエリア情報D8を算出する(ステップS3)。併せてコントローラ21は、テーブルTのデータD5、D6およびD7に基づいてアップリンクの周波数D9を算出する(同ステップ)。
【0082】
そしてコントローラ21は、これらのデータを含むリストLを作成する(同ステップ)。リストLには、算出したエリア情報D8およびアップリンクの周波数D9以外に、レピータのコールサインD4とダウンリンクの周波数D5が含まれる。
【0083】
続いてコントローラ21は、リストLに掲載されたレピータのエリア情報D8と、GPSレシーバ29から取得したレピータ3の位置情報DPとを比較する(ステップS4)。そしてコントローラ21は、エリア内に無線機1の現在位置が含まれるレピータ3を抽出すると共に、レピータが複数ある場合には、予め設定した優先順位の最も高いレピータを選択する(同ステップ)。
【0084】
続いてコントローラ21は、選択したレピータのコールサインD4をリストLから読み出して送信部15に通知する(ステップS5)。更にコントローラ21は、選択されたレピータの周波数のデータをリストLから読み出して、アップリンクの周波数D9を送信部15に通知し、ダウンリンクの周波数D5を受信部18に通知する(同ステップ)。
【0085】
続いて送信部15は、転送されたコールサインを送り元レピータのコールサインとしてパケットに設定し、また送信周波数を通知されたアップリンクの周波数に切り替える(ステップS6)。一方、受信部18は、受信周波数を、通知されたダウンリンクの周波数に切り替える(ステップS7)。
【0086】
このようにして交信の準備が終了すると、コントローラ21はスピーカ12からビープ音等を出力して、交信の準備が終了したことを無線機1のユーザに知らせる。ユーザは、その後PTTスイッチ27を操作して他局との交信を開始する。
【0087】
以上説明したように本発明にかかる無線機は、予めメモリにレピータの位置情報、エリアに関する情報、コールサインおよび周波数を含むテーブルを格納しておき、位置情報取得装置で取得した無線機の現在位置を、メモリに格納されたレピータの位置情報およびエリアの情報と比較することで、無線機がエリア内に含まれる全てのレピータを自動的に抽出し、その中から通信を行う1台のレピータのコールサインを取り出す。結果として、ユーザが煩雑な操作を行うことなく、通信可能なレピータのコールサインを自動的に取得できる。
【0088】
またテーブルにはレピータのアップリンクおよびダウンリンクの周波数のデータが含まれているため、その周波数を読み出して送信部および受信部に通知することで、送信周波数および受信周波数をレピータに対応した値に自動的に切り替えることができる。
【0089】
なお、本実施の形態では、リストから抽出されたレピータのうち優先順位の最も高いレピータのコールサインを送信部に通知したが、障害物等の関係で、選択されたレピータとの間で通信できない場合がある。このような場合には、優先順位の次に高いレピータのコールサインを送信部に通知すれば、レピータ3との間の通信を確実に確保できる。更に、リストから抽出されたレピータの選択をコントローラに任せず、ユーザが行うようにしてもよい。
【0090】
また本実施の形態では、無線機を移動体に搭載する場合について説明したが、本発明は、半固定局や固定局の無線機についても適用できる。この場合、無線機を設置する際に、GPSレシーバを接続して無線機の位置情報を獲得し、その後無線機からGPSレシーバを外すようにすれば、GPSレシーバを常時接続しておく必要はない。
【0091】
また本実施の形態では、無線機の電源がオフの場合にデータが消滅しないように、テーブルTに含まれるデータを不揮発性メモリに格納したが、バッテリでバックアップされたRAMに格納するようにしてもよい。
【0092】
また、本実施の形態のコントローラの機能をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録媒体(例えばCD−ROM)に記録して配布したり、ネットワークで配信したりしてもよい。このコンピュータプログラムは、コンピュータの記録媒体に記録されインストールされる。
【符号の説明】
【0093】
1、1a〜1e 無線機
2、2a、2b エリア
3、3a,3b レピータ
4 ゲートウェイ
5a,5b,5c ゾーン
6 インターネット
11 マイク
12 スピーカ
13 AF増幅器
14 音声コーデック
15 送信部
16 送受切替部
17 アンテナ
18 受信部
19 インターフェース部
21 コントローラ
25 不揮発性メモリ
26 操作部
27 PTTスイッチ
28 表示部
100 アマチュア無線システム
Pa パケット
Ph ヘッド部
Pd データ部
T テーブル
L リスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ音声信号をA/D変換および符号化してデジタル音声信号に変換した後、このデジタル音声信号を含むパケットを生成し、このパケットを無線信号に変換して送信する無線機であって、
前記パケットとして、ヘッダ部に送信先および送信元の無線機を識別する識別子、ならびにこれらの無線機が属するエリアのレピータを識別する識別子のデータが含まれ、データ部に前記デジタル音声信号のデータが含まれるパケットを生成する送信部と、
前記各識別子のデータを前記送信部に通知するコントローラと、
複数箇所に設置された前記レピータの位置情報、サービスエリアを示す情報および識別子のデータを含むテーブルが格納されたメモリと、
前記送信元の無線機の位置を示す情報を取得する位置情報取得装置と、を備え、
前記コントローラは送信に先立ち、
前記位置情報取得装置から入手した前記送信元の無線機の現在位置を示す情報を、前記テーブルに含まれるレピータの位置情報と比較し、前記無線機に近接する複数のレピータのデータを前記テーブルから抽出してリストを作成し、
前記無線機の現在位置を示す情報と前記リストのサービスエリアを示す情報を比較して、前記無線機の現在位置が前記サービスエリア内に含まれる複数のレピータから1つのレピータを選択し、
その選択したレピータの識別子を送り元のレピータの識別子として前記送信部に通知することを特徴とする無線機。
【請求項2】
受信した前記無線信号を復調して前記パケットを取り出す受信部を更に備え、
また前記テーブルおよびリストは、前記レピータのアップリンクおよびダウンリンクの周波数のデータを含み、
前記コントローラは、前記リストから、前記選択したレピータのアップリンクの周波数を読み出して前記送信部に通知し、ダウンリンクの周波数を読み出して前記受信部に通知することを特徴とする、請求項1に記載の無線機。
【請求項3】
前記テーブルは、無線機のユーザが前記レピータへの接続を希望するか否かの情報を更に含み、
前記コントローラは、前記リストを作成する際、前記テーブルに前記レピータへの接続を希望しない旨の情報が含まれる場合、そのレピータを抽出の対象から除外することを特徴とする、請求項1または2に記載の無線機。
【請求項4】
前記リストに含まれるレピータには優先順位が設定され、
前記コントローラは、前記リストから1つのレピータを選択する際、優先順位の高いレピータを選択することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の無線機。
【請求項5】
前記優先順位は、前記レピータのサービスエリアの大きさをパラメータとして設定されることを特徴とする、請求項4に記載の無線機。
【請求項6】
前記優先順位は、前記無線機から前記レピータまでの距離をパラメータとして設定されることを特徴とする、請求項4に記載の無線機。
【請求項7】
前記サービスエリアは、緯度と経度を示す線で囲まれた四角形で設定され、その四角形の中に前記レピータが設置された位置を含むことを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載の無線機。
【請求項8】
前記位置情報取得装置としてGPSレシーバを用いることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の無線機。
【請求項9】
前記テーブルを格納するメモリとして不揮発性メモリを用いることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれかに記載の無線機。
【請求項10】
コンピュータを、
ヘッダ部に送り先および送り元の無線機を識別する識別子、ならびにこれらの無線機が属するエリアのレピータを識別する識別子のデータを含み、データ部にアナログ音声信号がA/D変換され符号化されたデジタル音声信号を含むパケットを生成するコントローラとして機能させるコンピュータプログラムであって、
前記コントローラは、
前記位置情報取得装置から入手した前記送信元の無線機の現在位置を示す情報を、テーブルに含まれるレピータの位置情報と比較し、前記無線機に近接する複数のレピータのデータを前記テーブルから抽出してリストを作成し、
前記無線機の現在位置を示す情報と前記リストのサービスエリアを示す情報を比較して、前記無線機の現在位置が前記サービスエリア内に含まれる複数のレピータから1つのレピータを選択し、
その選択したレピータの識別子を送り元のレピータの識別子として前記送信部に通知することを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−115671(P2013−115671A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261119(P2011−261119)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000100746)アイコム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】