説明

無線端末

【課題】高温環境下での使用に耐えることができ、且つ、電波の減衰が生じない無線端末を提供すること。
【解決手段】無線通信を行う無線端末1において、無線通信回路2と、前記無線通信回路2を内包する誘電体の断熱筐体3と、断熱筐体3外部に設けられ、無線通信回路2に対して電磁結合により無線通信の信号を送受信するアンテナ素子4とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境下での使用に耐え得る無線端末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、外部装置との情報のやり取りを電波により非接触で行う無線センサーやRFID(Radio Frequency Identification)などの種々の無線端末が普及している。このような無線端末は小型化になるにつれて用途が広がり、高温環境等の様々な環境下で利用されるようになってきている。
【0003】
ところで、無線端末等が備えている通常の電子回路は、耐熱性能が55℃程度であるため、それ以上の高温環境下で利用する場合には信頼性が劣るという問題がある。そこで、従来から、無線端末においては、電子回路(無線通信回路)を高温環境から保護するために種々の方法が採られている。
【0004】
例えば、特許文献1〜3に記載された技術では、無線通信回路及びこの無線通信回路にケーブル等の配線で接続されたアンテナ素子(放射導体素子)を内包する、非金属の耐熱性樹脂等からなる断熱部を無線端末が備えることで、無線通信回路を高温環境から保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−9883号公報
【特許文献2】特開2003−302290号公報
【特許文献3】特開2001−236485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1〜3に記載された技術のようにアンテナ素子を断熱部で内包すると、このアンテナ素子を介した外部装置との無線通信時において、電波は誘電率の異なる媒質の境界面を通過することになるため、この境界面において生じる反射や散乱により減衰される問題がある。また、特許文献1〜3に記載された技術において、アンテナ素子を断熱部の外部に設けて電波の減衰が生じないようにすることも考えられるが、アンテナ素子が受けた熱が、アンテナ素子と無線通信回路とを接続する配線を介して無線通信回路に伝わることになるため、無線通信回路の温度が上昇し、その結果、無線通信回路の信頼性が劣る問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてされたものであり、高温環境下での使用に耐えることができ、且つ電波の減衰が生じない無線端末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、無線通信を行う無線端末において、無線通信回路と、前記無線通信回路を内包する誘電体の断熱筐体と、前記断熱筐体外部に設けられ、前記無線通信回路に対して電磁結合により前記無線通信の信号を送受信するアンテナ素子とを備えていることを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、環境温度が、無線通信回路に伝わることを断熱筐体により抑制することができる。また、アンテナ素子は断熱筐体の外部に設けられているため、従来のように断熱筐体(断熱部)により電波が減衰することはなく、より大きな面積を確保できるためアンテナ効率が向上する。またさらに、アンテナ素子と無線通信回路とは電磁結合により無線通信の信号を送受信することから、ケーブル等の配線で接続されておらず非接触な状態にされて熱的に遮断されているため、アンテナ素子が受けた熱が無線通信回路に伝わることはない。
【0010】
また、本発明の無線端末においては、前記断熱筐体外部に輻射熱を反射する反射層が設けられており、前記アンテナ素子は該反射層で構成されていてもよい。上記の構成によれば、輻射熱を放射する高温物が無線端末の近くに配置されていた場合において、この高温物からの輻射熱が無線通信回路に伝わることを反射層で遮断することができる。また、アンテナ素子は反射層で構成されているため、反射層により無線通信が阻害されることはない。
【0011】
また、本発明の無線端末において、前記アンテナ素子は、使用周波数の電波を透過可能な絶縁性の保護層と、前記保護層と前記断熱筐体の外周面との間に配置された、輻射熱を反射する導電性の高反射材料層とを有していてもよい。上記の構成によれば、保護層によりアンテナ素子の耐久性が高められている。また、保護層は使用周波数の電波を透過可能な絶縁性であり、且つ高反射材料層における保護層側の表面において使用周波数の信号(電流)が励起されるので、アンテナ素子における表皮効果の影響を緩和することができる。その結果、導体損の少なく、アンテナ効率が高い無線端末にすることができる。
【0012】
また、本発明の無線端末においては、前記断熱筐体の外周面と前記高反射材料層との間に配置された、当該高反射材料層よりも導電率の高い良導電体層を更に有し、前記高反射材料層は、使用周波数に対する表皮深さよりも薄くされていてもよい。上記の構成によれば、高反射材料層は使用周波数に対する表皮深さよりも薄くされているため、高周波電流は、良導電体層における保護層側の表面に主に励起されることになる。これにより、高反射材料層が導電率の低い材料からなる場合においても、導体損の少なくアンテナ効率が高い無線端末にすることができる。
【0013】
また、本発明の無線端末においては、前記断熱筐体の外周面に、前記アンテナ素子を支持するスペーサが設けられており、前記断熱筐体の外周面、前記アンテナ素子、及び前記スペーサにより断熱空間が形成されていてもよい。上記の構成によれば、断熱筐体とアンテナ素子との間に空気層による断熱空間が形成されているため、環境温度が無線通信回路に伝わることをより抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、高温環境下での使用に耐えることができ、且つ電波の減衰が生じない無線端末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一実施形態に係る無線端末を説明する説明図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のA−A線端面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る無線端末の放射特性について説明する図であり、(a)はアンテナ素子と信号線との位置関係を示す上面図、(b)は(a)の位置関係での無線端末の放射特性を示す図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る無線端末の放射特性について説明する図であり、(a)はアンテナ素子と信号線との位置関係を示す上面図、(b)は(a)の位置関係での無線端末の放射特性を示す図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係る無線端末の放射特性について説明する図であり、(a)はアンテナ素子と信号線との位置関係を示す上面図、(b)は(a)の位置関係での無線端末の放射特性を示す図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る無線端末を説明する説明図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のB−B線端面図である。
【図6】図5の(b)の無線端末のアンテナ素子の変形例を示す図である。
【図7】図5の(b)の無線端末のアンテナ素子の変形例を示す図である。
【図8】本発明の第三実施形態に係る無線端末を説明する説明図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のC−C線端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第一実施形態]
以下、本発明の無線端末を送信用の無線端末に適用した第一実施形態について、図1乃至4を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る無線端末1は、無線通信回路2と、断熱筐体3と、アンテナ素子4とを備えている。
【0018】
(断熱筐体)
断熱筐体3は、熱伝導率が低い断熱材料からなる誘電体の密封容器である。ここで、断熱筐体3の材料としては、断熱材料全般を用いることができ、その種類は特に限定されないが、例として珪酸カルシウム系のニチアス(株)製のルミボード、セラミック系の菱電化成(株)製のミオレックス、耐熱ガラスエポキシ、セラミックファイバー系のイビデン(株)製のイビウールが挙げられる。図1に示すように、断熱筐体3は長方体状又は立方体状の形状をしており、その内部には内部空間6が形成されている。
【0019】
なお、この内部空間6には、無線通信回路2に対する断熱性の向上の観点から、断熱筐体3と同一の断熱材料が充填されていてもよく、或いは断熱筐体3とは異なる断熱材料が充填されていてもよい。また、断熱筐体3は、所定の載置姿勢を維持する形状であれば、長方体状や立方体状に限定されることはない。例えば、上面と下面とが密封された円筒形状であってもよいし、6面体等の多面体形状であってもよい。また、断熱筐体3は、地面や机等の支持面に載置可能な平面状の載置面と、載置面に対向する上面とを備えた形状であることが好ましい。この場合には、断熱筐体3を上面と下面とが鉛直方向に対して水平となるように簡単に設置することができる。
【0020】
なお、断熱筐体3の厚さは、後述するアンテナ素子4と信号線23(無線通信回路2)との電磁結合の結合度や無線通信回路2に対する断熱性等を考慮して決定される。
【0021】
(無線通信回路)
無線通信回路2は、断熱筐体3の内部空間6に配置されている。換言すれば、無線通信回路2は、断熱筐体3に内包されている。従って、断熱筐体3外部の環境温度が、無線通信回路2に伝わることを、この断熱筐体3により抑制することができる。
【0022】
無線通信回路2は、図1に示すように、無線通信回路本体20、マイクロストリップ線路25、及び無線通信回路本体20とマイクロストリップ線路25とを電気的に接続する配線24とを備えている。
【0023】
(無線通信回路本体)
無線通信回路本体20は、各構成回路(図示せず)から入力された無線通信の信号となる情報(データ)を、所定の周波数の搬送波(高周波信号)で変調して、この搬送波を、配線24を介してマイクロストリップ線路25へ給電(出力)する電子回路である。
【0024】
(マイクロストリップ線路)
マイクロストリップ線路25は、誘電体基板22、誘電体基板22の一方の面全体に形成された接地導体である地導体21、及び誘電体基板22の他方の面に形成された信号線23を備えている。
【0025】
誘電体基板22は、図1に示すように、誘電体である断熱筐体3における内周面3a(内周面)の上面に当接して固定されている。これにより、信号線23は、誘電体基板22と断熱筐体3との間(接触面)に配置されることになる。信号線23は、図1に示すように誘電体基板22の図中X方向における一端から他端にわたって形成されている。この信号線23の長さは、アンテナ素子4の一辺の長さよりも長くされている。
【0026】
信号線23には給電用の給電配線24a(24)が、地導体21には接地用の接地配線24b(24)が電気的に接続されている。給電配線24a(24)の長さは、無線通信回路本体20への熱伝達を遅くするために、無線通信回路本体20を断熱筐体3の中心に配置させたときの該無線通信回路本体20から信号線23までの長さより長い方がよい。同様に、接地配線24b(24)の長さは、無線通信回路本体20を断熱筐体3(内部空間6)の中心に配置させたときの該無線通信回路本体20から地導体21までの長さより長い方がよい。断熱筐体3が内周面3aの上面を上位置にして設置されたときに、給電配線24a(24)及び接地配線24b(24)は、無線通信回路本体20を断熱筐体3内に懸吊することによって、無線通信回路本体20を断熱筐体3から非接触の状態にし、無線通信回路2に対する断熱性を断熱筐体3と内部空間6とで発揮させるようになっている。
【0027】
(アンテナ素子)
アンテナ素子4は、パターニングされた正方形状の放射素子導体(放射パッチ)であり、断熱筐体3の外周面3b(外周面)の上面に形成されている。このように、アンテナ素子4は断熱筐体3の外部に設けられているため、アンテナ素子4から放射される電波が従来のように断熱筐体3(断熱部)により減衰することはない。アンテナ素子4の材料としては、銅や金(めっき)などが挙げられる。なお、本実施形態において、アンテナ素子4は正方形状(方形パッチアンテナと呼ぶ)にされているが、これに限定されるものではなく、例えば、円形状(円形パッチアンテナと呼ぶ)でもよい。
【0028】
アンテナ素子4は、信号線23(無線通信回路2)と無線通信の信号を送受信(授受)するように、電磁結合可能(電磁気的な結合が可能)に配置されている。具体的には、アンテナ素子4は上面視において、その一部が信号線23と重なるように配置されている。換言すれば、アンテナ素子4と信号線23とは、アンテナ素子4を図中Z方向に投影させた時に、信号線23と重なり合う部分ができるような位置関係にされている。またさらに、アンテナ素子4は、上面視において、その中心位置が信号線23の垂直二等分線上に配置されるとともに、アンテナ素子4の一辺が信号線23と平行になるように配置されている。つまり、アンテナ素子4と信号線23の両端(開放端)とは、上面視において重なるようには配置されていない。
【0029】
上記のように、アンテナ素子4と信号線23(無線通信回路2)とは電磁結合可能にされている。従って、アンテナ素子4と信号線23(無線通信回路2)とは、無線通信の信号を電磁結合により送受信(授受)することができる。これにより、アンテナ素子4と信号線23(無線通信回路2)とは、ケーブル等の配線で接続させておらず非接触な状態にされて熱的に遮断されているため、アンテナ素子4が受けた熱が、無線通信回路2に伝わることはない。
【0030】
なお、信号線23のインピーダンスは、信号線23の長さや幅等(特に信号線23の幅)を調整することで適切に設定することができる。
【0031】
(無線端末の動作)
次に、無線端末1の動作について説明する。
【0032】
まず、各構成回路(図示せず)から入力された情報(データ)は、無線通信回路本体20において、所定の周波数の搬送波(高周波信号)で変調される。この高周波信号は、給電配線24aを介して信号線23に給電される。そして、高周波信号は、信号線23とアンテナ素子4とにおいて電磁結合により送受信(授受)され、アンテナ素子4から電波として放射される。
【0033】
(放射強度の調整方法)
次に、アンテナ素子4(無線端末1)から放射される電波の放射強度の調整方法について、図2乃至4を参照して説明する。
【0034】
図2の(b)は、図2の(a)に示すように、アンテナ素子4の中心位置が信号線23上に位置されている場合における放射特性を示す図である。図3の(b)は、図3の(a)に示すように、アンテナ素子4の中心位置を信号線23上の位置から図中X方向にずらした場合(上面視において、アンテナ素子4の中心位置と信号線23との垂直距離を0よりも大きくした場合)の放射特性を示す図である。また、図4の(b)は、図4の(a)に示すように、アンテナ素子4の中心位置を信号線23上の位置から、図3の(a)よりもさらに図中X方向にずらした場合(上面視において、アンテナ素子4の中心位置と信号線23との垂直距離を図3の(a)よりも大きくした場合)の放射特性である。なお、図2乃至4の放射特性は、電磁界解析により算出している。
【0035】
図2乃至4から分かるように、アンテナ素子4から放射される電波の放射強度は、アンテナ素子4の中心位置と信号線23上の位置に対する図中X方向の位置関係を変える(上面視において、アンテナ素子4の中心位置と信号線23との垂直距離を変える)ことで調整することができる。つまり、アンテナ素子4と信号線23とを所定の位置関係にするだけで、所望の放射強度を容易に得ることができる。
【0036】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について図5乃至7を参照して説明する。
【0037】
本実施形態が上記第一実施形態の無線端末と異なるところは、断熱筐体外部に輻射熱を反射する反射層が設けられており、アンテナ素子は該反射層の一部で構成されている点である。なお、その他の構成については、上記第一実施形態と略同様である。
【0038】
無線端末1の近くに輻射熱を放射する高温物が配置された場合、この高温物からの輻射熱が無線通信回路2に伝導することで、無線通信回路本体20の信頼性が劣る問題が生じる。一般的に、この輻射熱を遮断(遮熱)するには、金属製の反射層を設けるのが効果的である。しかしながら、無線端末1の外側に新たに金属性の反射層を設けた場合、アンテナ素子4がこの反射層に覆われることになるため、無線通信が阻害されるという問題が生じる。本発明の第二実施形態は、上記の点に鑑みてされたものである。
【0039】
第二実施形態に係る無線端末1は、図5に示すように、断熱筐体3の外周面3bの上面に輻射熱を反射する反射層40が形成されている。この反射層40の一部はアンテナ素子41を構成している。即ち、このアンテナ素子41を構成する反射層40の一部は、放射素子導体として機能する。なお、アンテナ素子41の構成、及び配置位置は上記第一実施形態におけるアンテナ素子4と略同様である。また、反射層40は、図5に示すように、無線通信回路2に対して電磁結合により無線通信の信号を送受信するアンテナ素子4(放射素子導体)として機能する部分と、その他の部分とは区画されている。
【0040】
このように、断熱筐体3外部に輻射熱を反射する反射層40が設けられているため、輻射熱を放射する高温物が無線端末1の近くに配置されていた場合においても、高温物からの輻射熱が無線通信回路2に伝わることをこの反射層40で遮断することができる。また、アンテナ素子41は反射層40の一部で構成されているため、この反射層40が無線通信の阻害になることはなく、安定した通信を行うことができる。なお、本実施形態においては、アンテナ素子41は反射層40の一部で構成されているが、反射層40の全部で構成されていてもよい。
【0041】
(アンテナ素子の第一変形例)
次に、第二実施形態に係るアンテナ素子の第一変形例について説明する。本変形例のアンテナ素子が上記第二実施形態のアンテナ素子41と異なるところは、放射素子導体である高反射材料層の上面に、使用周波数(高周波信号)の電波を透過可能な絶縁性の保護層を有している点である。その他の構成ついては、上記第二実施形態と略同様である。
【0042】
無線端末の耐久性を向上させるためには、放射素子導体の上面に保護層を設けるのが効果的である。しかしながら、保護層を導電率の低い導電性材料で形成すると、放射素子導体から放射される高周波信号は表皮効果の影響により、保護層の表面を流れることになるため、無線端末1のアンテナ効率が劣化する問題がある。本変形例は、上記点に鑑みてされたものである。
【0043】
本変形例のアンテナ素子41aは、図6に示すように、導電性の高反射材料層43と、高反射材料層43の上面に形成された、使用周波数の電波を透過可能な絶縁性の保護層42とを有している。この高反射材料層43は、断熱筐体3の外周面に形成されている。即ち、高反射材料層43は、保護層42と断熱筐体3の外周面3bとの間に配置されている。保護層42は、絶縁性の酸化防止被膜であれば、特に限定されることはなく、例としてフッ素系のコーティング、ガラス系のコーティングが挙げられる。
【0044】
このように、放射素子導体である高反射材料層43の上面に形成された保護層は使用周波数の電波を透過可能な絶縁性であり、且つ高反射材料層43における保護層42側の表面において使用周波数の信号(電流)が励起されるので、アンテナ素子41aにおける表皮効果の影響を緩和することができる。その結果、導体損の少なく、アンテナ効率が高い無線端末1にすることができる。
【0045】
(アンテナ素子の第二変形例)
次に、第二実施形態に係るアンテナ素子の第二変形例について説明する。本変形例のアンテナ素子41bが上記第一変形例のアンテナ素子41aと異なるところは、高反射材料層を使用周波数の表皮深さよりも薄くし、この高反射材料層と断熱筐体の外周面との間に、高反射材料層よりも導電率の高い良導電体層を配置している点である。その他の構成ついては、上記第一変形例と略同様である。
【0046】
なお、表皮深さδとは、導電性材料に入射した電磁界が1/eに減衰する距離(厚さ方向の長さ)であり、次式で表される。
【0047】
δ=1/√(πfμσ)
上式においてfは高周波信号の周波数,μは導電性材料の透磁率,σは導電性材料の導電率である。
【0048】
アルミニウムは、銅や金(めっき)と比べると、輻射熱を高反射することができるが、導電率は低い材料である。従って、高反射材料層43の材料としてアルミニウムを用いた場合は、銅や金(めっき)を高反射材料層43の材料として用いた場合と比べると、輻射熱を高反射することはできるので無線通信回路本体20に対する断熱性を向上させることはできるが、導電率が低いため導体損は大きくなりアンテナ効率は悪くなる。本変形例は、上記の点に鑑みてされたものである。
【0049】
本変形例のアンテナ素子41bは、図7に示すように、断熱筐体3の外周面3bと高反射材料層43との間に配置された、高反射材料層43よりも導電率の高い良導電体層44を有している。具体的には、良導電体層44は断熱筐体3の外周面3bの上面に形成されており、この良導電体層44の上面に高反射材料層43が形成されている。良導電体層44は、例えば銅や金(めっき)などの導電率の高い材料からなり、その厚さは使用周波数の表皮深さよりも厚くされている。
【0050】
高反射材料層43は、例えばアルミニウムなどの輻射熱を高反射する材料からなり、その厚さは、使用周波数の表皮深さ以下にされている。
【0051】
このように、高反射材料層43は使用周波数に対する表皮深さよりも薄くされているため、高周波電流は、良導電体層44における保護層42側の表面に主に励起されることになる。これにより、高反射材料層43が導電率の低い材料からなる場合においても、導体損の少なくアンテナ効率が高い無線端末1にすることができる。
【0052】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について図8を参照して説明する。
【0053】
本実施形態が上記第一、及び第二実施形態の無線端末と異なるところは、断熱筐体の外周面にアンテナ素子を支持するスペーサが設けられており、断熱筐体の外周面、アンテナ素子、及びスペーサにより断熱空間が形成されている点である。なお、その他の構成については、上記第一、及び第二実施形態と略同様である。
【0054】
第三実施形態に係る無線端末1は、図8に示すように、断熱筐体3の外周面3bに、反射層40(アンテナ素子41)の端部を支持するスペーサ7が設けられている。ここで、スペーサ7の材料としては、断熱材料全般を用いることができ、従って、断熱筐体3と同一の材料を用いることもできる。また、スペーサ7に必要な耐熱温度に合わせて材料を選定してもよく、例えば、必要な耐熱温度が比較的低い場合にはポリプラスチック(株)製のジュラコン等の樹脂を、必要な耐熱温度が比較的高い場合にはアルミナ等のセラミックスをスペーサ7の材料として選定してもよい。なお、スペーサ7として誘電率の高い絶縁体を用いると、アンテナ特性に大きな影響を与えるため、スペーサ7として誘電率が低い絶縁体を用いることが好ましいが、誘電率が高い絶縁体を用いた場合でもアンテナ設計によりアンテナ特性を補正することは可能である。
【0055】
断熱筐体3の外周面、スペーサ7、及び反射層40(アンテナ素子41)により囲繞された断熱空間8が形成されている。この断熱空間8は空気が充満されているか、もしくは真空にされている。即ち、断熱空間8には空気、又は真空による断熱層が形成されている。
【0056】
このように、断熱筐体3とアンテナ素子41との間に断熱空間が形成されているため、環境温度が無線通信回路2に伝わることをより抑制することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0058】
例えば、本発明の実施形態において、無線端末1を送信用の端末を主体として説明したが、アンテナの可逆原理により、無線端末1は特性を何等変更することなく受信用の端末として作用し得ることは勿論である。
【0059】
また、本発明の実施形態において、アンテナ素子4と信号線23の両端(開放端)とは上面視において重なるようには配置されていないが、信号線23の開放端の一方がアンテナ素子4と上面視において重なるように配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 無線端末
2 無線通信回路
3 断熱筐体
4、41、41a、41b アンテナ素子
7 スペーサ
8 断熱空間
40 反射層
42 保護層
43 高反射材料層
44 良導電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信を行う無線端末において、
無線通信回路と、
前記無線通信回路を内包する誘電体の断熱筐体と、
前記断熱筐体外部に設けられ、前記無線通信回路に対して電磁結合により前記無線通信の信号を送受信するアンテナ素子と
を備えていることを特徴とする無線端末。
【請求項2】
前記断熱筐体外部に輻射熱を反射する反射層が設けられており、前記アンテナ素子は該反射層で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の無線端末。
【請求項3】
前記アンテナ素子は、
使用周波数の電波を透過可能な絶縁性の保護層と、
前記保護層と前記断熱筐体の外周面との間に配置された、輻射熱を反射する導電性の高反射材料層と
を有することを特徴とする請求項2に記載の無線端末。
【請求項4】
前記断熱筐体の外周面と前記高反射材料層との間に配置された、当該高反射材料層よりも導電率の高い良導電体層を更に有し、
前記高反射材料層は、使用周波数に対する表皮深さよりも薄くされていることを特徴とする請求項3に記載の無線端末。
【請求項5】
前記断熱筐体の外周面に、前記アンテナ素子を支持するスペーサが設けられており、
前記断熱筐体の外周面、前記アンテナ素子、及び前記スペーサにより断熱空間が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の無線端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−34155(P2012−34155A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171397(P2010−171397)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】