説明

無線送信装置

【課題】移動通信システムにおける基地局等の無線送信装置に関し、独立して動作する複数の送信系回路の一つが故障した際に、送信ダイバシチを構成する場合と同等の送信電力を供給する。
【解決手段】送信信号を出力する送信部1と、送信部1からの出力信号を増幅するパワー増幅部2と、送信部1及びパワー増幅部2を含む回路部に電力を供給する電源部5とを有し、独立して動作する複数の送信系回路TX#1,TX#2を備える。パワー増幅部2からの出力信号を監視部3により監視し、送信異常が検出された送信系回路の電源部5の電力経路を、他の送信系回路の電力経路へ切り替える電力経路切替え部6と、電源部5からの供給電力と、電力経路切替え部6を介して供給される他の送信系回路の電源部5からの供給電力とを重畳し、該重畳した電力を、送信部1及びパワー増幅部2を含む回路部に供給する電力重畳部7を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線送信装置に関する。本発明は、例えば、移動通信システムにおける基地局の無線送信装置等に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置の1例として、送信ダイバシチ用に複数の送信系回路を備えた無線送信装置の従来の構成例を図5に示す。図5は、送信ダイバシチ用に2つの送信系回路Tx#1,Tx#2を備えた無線送信装置の構成例を示している。2つの送信系回路Tx#1,Tx#2は、同様の回路構成を有し、それぞれ独立して動作する。各送信系回路Tx#1,Tx#2は、送信信号を出力する送信部(TX)1、送信部(TX)1からの出力信号を増幅するパワー増幅部2、送信部(TX)1及びパワー増幅部2を含む各回路部に電力を供給する電源部(PS)5、送信出力の異常を検出し、異常時にアラーム信号(ALM)を送出する監視部(DET)3、パワー増幅部2のバイアス設定値を変更するバイアス制御部(BIAS)4を備える。
【0003】
ここで、片側の送信系回路に送信出力の異常が発生した場合、その異常は、電力を監視する監視部(DET)3よりアラーム信号(ALM)として検出され、該アラーム信号(ALM)が検出された故障側の送信系回路はその動作を停止する。各送信系回路は独立に動作し、故障を示すアラーム信号(ALM)による動作停止も、各送信系回路が個別に行うため、残存した送信系回路により継続して送信動作が行われる。しかし、片側の送信系回路が故障により動作を停止した状態では、複数アンテナを使用することを前提としたダイバシチの効果は失われ、合成の送信電力は低下することから、エリアカバレージを縮小した形での運用となる。
【0004】
このような課題を解決するための一つの手段は、例えば特許文献1等によって知られている。特許文献1は、ダイバシチ機能を有する移動無線基地局装置において、片系の送信部に異常が発生した場合、制御部であるベースバンド送信部(BB送信部)において電力制御を行い、残系の送信電力を3dB増加させることにより、送信ダイバシチを構成する場合と同等の送信電力を維持する技術が提案されている。
【0005】
特許文献1の技術では、片系の送信部の異常時に残系の送信部にて送信電力をカバーするための電力源を確保するために、通常の運用状態においては、下記の(i)又は(ii)の何れかの運用形態を採ることとなる。
【0006】
(i)送信電力増加に伴う供給電力の増加に対して、元々実装されている電源にて補う。このために通常状態から電源容量にマージンを持たせておく。通常、電源ユニットは、電源容量の増加に伴って、内部構成部品の大型化や放熱処理のためにサイズが大きくなり、近年に求められる装置の小型化の要件を満たすことが難しくなる。また、電源効率は、使用する電力範囲を横軸とした効率カーブにより設計されるが、一般に使用電力範囲の拡大に伴い、電源効率は低下する。このため、消費電力の増加が伴うこととなる。
【0007】
(ii)通常時と異常時とで同等の送信電力を実現するために、通常運用時では合成の送信電力を抑えた状態で運用させる。この場合、通常運用での送信ダイバシチとしての効果は、送信能力に見合った効果が十分には発揮されず、装置として余分な余力を持たせた構成となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−34573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の無線送信装置では、片系の送信部の異常時に残系の送信部で送信電力をカバーする電力源を確保するために、両系の送信部が動作する通常の運用時において、両系の送信部の電力源に余力を持たせた構成としている。そして、異常発生時には、異常が発生した系の電力源は、動作が停止されて、機能しない状態となり、リソースが無駄となるという問題があった。そこで、本発明の1側面では送信異常が発生した系の電力源の有効利用を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する無線送信装置は、送信信号を出力する送信部と、該送信信号の電力を増幅するパワー増幅部と、前記送信部及び前記パワー増幅部を含む回路部に電力を供給する電源部とを有する系を複数備えた無線送信装置において、いずれかの系における前記パワー増幅部からの出力信号を監視する監視部と、前記監視部により異常が検出されたとき、該異常が検出された系の前記電源部によって供給される電力を他の正常な系に与えるように電力経路の切り替えを行う電力経路切替え部と、前記電力経路切替え部によって与えられる異常な系における前記電源部からの供給電力と、正常な系の電源部からの供給電力とを重畳し、該重畳した電力を、前記正常な系の前記送信部及び前記パワー増幅部を含む回路部に供給する電力重畳部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の1側面によれば、異常が発生した系の電力源の有効利用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】複数の送信系回路を備えた無線送信装置の構成例を示す図である。
【図2】パワー増幅部における動作点の変更による入出力特性の変化を示す図である。
【図3】電力経路切替えの動作例のフローチャートを示す図である。
【図4】無線送信装置の送信部の構成例を示す図である。
【図5】複数の送信系回路を備えた無線送信装置の従来の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に複数の送信系回路を備えた無線送信装置の構成例を示す。該無線送信装置は、移動局に送信信号を送信する複数の送信系回路を備えた無線基地局に好適に適用することができる。この構成例として、送信系回路Tx#1,Tx#2の2つの送信系回路を有する無線送信装置の例について説明する。
【0014】
各送信系回路Tx#1,Tx#2は、同一の回路構成を有し、送信信号を出力する送信部(TX)1と該送信部(TX)1からの出力信号を増幅するパワー増幅部2、該パワー増幅部2からの送信電力を監視し、送信異常を検出する監視部(DET)3、正常時用と異常時用の2点のバイアス設定値を有し、該バイアス設定値の切り替えを、アラーム信号(ALM)をトリガとして行うバイアス制御部(BIAS)4、送信部(TX)1及びパワー増幅部2を含む各回路部に電力を供給する電源部(PS)5、故障した送信系回路の電源部(PS)5の電力を、正常状態の送信系回路に供給するために電力経路を切替える電力経路切替え部(SW)6、2つの電源部(PS)5からの電力を重ね合わせる電力重畳部(ADD)7を備える。
【0015】
図1において、監視部(DET)3はパワー増幅部2からの出力電力を監視する。該監視部(DET)3は、パワー増幅部2からの出力信号のレベルを、予め設定した上限閾値及び下限閾値と比較し、該出力信号のレベルが該上限閾値を超え、又は該下限閾値を下回ったとき、送信出力異常として検出し、送信出力異常を示すアラーム信号(ALM)を自系の電力経路切替え部(SW)及び他系のバイアス制御部(BIAS)4に通知する。このアラーム信号(ALM)は、例えば、ローレベル/ハイレベルの切り替えにより通知する電圧値変換によるものでも良い。
【0016】
この無線送信装置によれば、一系に送信異常が発生した際、電力経路の切替により、故障した系への電力供給を停止し、正常動作を行う残系への電力供給に切り替えるため、残系における出力信号の増加、及びバイアス制御部(BIAS)4によるパワー増幅部2のバイアス設定値切り替えを行うことが可能となる。
【0017】
これにより、故障していない残系の出力電力を増加させることができ、故障により失われることとなる送信電力の低下を補填することができる。更には、故障していない残系の送信信号を分岐して2つのアンテナから送信信号を送信することにより、ダイバシチ効果を維持することも可能となる。
【0018】
図1の構成例において、片側送信系回路に異常が発生した際の電力経路の切り替えの一連の動作について説明する。ここでは、第1の送信系回路Tx#1において故障が発生したものとする。第1の送信系回路Tx#1において、送信出力の異常は、送信電力を監視する監視部(DET)3により検出される。
【0019】
この検出は、予め定められた出力範囲外に閾値を設定し、該閾値(上限値及び下限値)を送信電力が跨いだ際に、送信電力異常と判断する。なお、異常検出方法は、送信電力レベルが閾値を越えたことの検出に限定されず、送信電力レベルの急激な変動の検出等、他の種々の異常検出手法を採用することができる。
【0020】
異常を検知した監視部(DET)3は、アラーム信号(ALM)として、残系である第2の送信系回路Tx#2のバイアス制御部(BIAS)4、及び自系の第1の送信系回路Tx#1の電力切替え部(SW)6に通知する。第1の送信系回路Tx#1の電力切替え部(SW)6では、通知されたアラーム信号(ALM)をトリガに、第1の送信系回路TX#1における電源部(PS)5の電力経路を、故障系(TX#1)の電力重畳部(ADD)7から残系(TX#2)の電力重畳部(ADD)7へ切り替える。
【0021】
一方、残系となる第2の送信系回路Tx#2では、通知されたアラーム信号(ALM)をバイアス制御部(BIAS)4に入力し、パワー増幅部2の動作点のバイアス設定値を異状時のバイアス設定値へと変更する。バイアス制御部(BIAS)4は、正常時用と異常時用の2点のバイアス設定値を有し、アラーム信号(ALM)をトリガとしてこの切り替えを行い、パワー増幅部2のバイアス設定値の変更を行う。
【0022】
図2にパワー増幅部における動作点の変更による入出力特性の変化を示す。図2において、Aは各送信系回路が独立して動作する通常時におけるパワー増幅部の動作点を示し、Bは異常時におけるパワー増幅部の動作点を示している。図2に示すように、パワー増幅部のバイアス設定値を変更することにより、出力電力を増加させることが可能となる。なお、パワー増幅部を動作点Bで動作させる場合、送信部(TX)1からの出力信号の電力を増加させる。この電力不足分に対して、故障した系(TX#1)から得る電力量にて送信部(TX)1への給電を補う。
【0023】
図3に電力経路切替えの動作例のフローチャートを示す。まず、第1の送信系回路(TX#1)で異常が発生したとする(3−1)。第1の送信系回路(TX#1)では監視部(DET)3により出力電力異常を検出し(3−2)、監視部(DET)3はアラーム信号(ALM)を送出する(3−3)。
【0024】
第1の送信系回路(TX#1)は、アラーム信号(ALM)の発生をトリガとして、電力切替え部(SW)6により、電源部(PS)5の電力経路を第2の送信系回路(TX#2)への経路に切り替える(3−4)。第2の送信系回路(TX#2)では、バイアス制御部(BIAS)4によりパワー増幅部2のバイアス設定値を変更し(3−5)、また、送信部(TX)1から出力される送信信号を増幅する(3−6)。これにより、パワー増幅部2の動作点が変更され、かつ、送信出力が増大する(3−7)。
【0025】
以上の動作により、残系(Tx#2)では、加増(重畳)された供給電力を用い、送信部(TX)1から出力される送信信号を増幅すると共に、バイアス制御部(BIAS)4によりバイアス設定値を切り替えることで、パワー増幅部2の動作点を再設定し、出力電力を引き上げることが可能となる。
【0026】
この無線送信装置の送信部の構成例を図4に示す。この送信部(TX)1の構成例では、送信信号(Tx)は第1の増幅部9により増幅され、該送信信号(Tx)は切替え部8により正常時と異常時とで経路が切り分けられる。切替え部8は、監視部(DET)3からのアラーム信号(ALM)に応じて、通常時の経路と異常時の経路の何れか一方に切り分ける。
【0027】
異常発生時には、切替え部8は異状時の経路を選択し、第2の増幅部10により送信信号(Tx)の出力電力を通常時より増加させる。また、通常時において無駄な消費電力を発生させないようにするため、第2の増幅部10は異状時のみ電力供給を行うよう、切替え部11によりその電力経路を制御する。ここで、切替え部11における通常時の経路は、第2の増幅部10への電力供給をしないオープン経路となり、異状時の経路は第2の増幅部10へ電力を供給する経路となる。
【0028】
以上の構成は、電力経路切替え部(SW)6、電力重畳部(ADD)7、バイアス制御部(BIAS)4によって実現可能であり、最小限の回路規模で実現可能である。また、故障が発生した送信系回路で不要となった電源部(PS)5を有効利用することで、電源容量に余力を持たせなくてもよいため、装置の小型化、低消費電力化に影響を与えること無く、故障に対する冗長運用を実現することが可能となる。
【0029】
特に、ダイバシチ用に複数の送信系回路を備えた無線送信装置において、一つの系の送信系回路が故障したときに、残存した送信系回路を用いて、通常時のエリアカバレージを保った運用を行うことができる。更には、残存した送信系回路からの出力信号を分岐して、2つのアンテナから送信することで、ダイバシチ効果を維持することも可能となる。
【符号の説明】
【0030】
Tx#1,Tx#2 送信系回路
1 送信部
2 パワー増幅部
3 監視部
4 バイアス制御部
5 電源部
6 電力経路切替え部
7 電力重畳部
8 切替え部
9 第1の増幅部
10 第2の増幅部
11 切替え部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を出力する送信部と、該送信信号の電力を増幅するパワー増幅部と、前記送信部及び前記パワー増幅部を含む回路部に電力を供給する電源部とを有する系を複数備えた無線送信装置において、
いずれかの系における前記パワー増幅部からの出力信号を監視する監視部と、
前記監視部により異常が検出されたとき、該異常が検出された系の前記電源部によって供給される電力を他の正常な系に与えるように電力経路の切り替えを行う電力経路切替え部と、
前記電力経路切替え部によって与えられる異常な系における前記電源部からの供給電力と、正常な系の電源部からの供給電力とを重畳し、該重畳した電力を、前記正常な系の前記送信部及び前記パワー増幅部を含む回路部に供給する電力重畳部と、
を備えた無線送信装置。
【請求項2】
前記監視部により前記他の系の異常が検出されたとき、前記電力重畳部から供給される電力で動作する前記パワー増幅部のバイアス設定値を、前記各系が独立して動作するときのダイナミックレンジより大きいダイナミックレンジで動作するバイアス設定値に切替えるバイアス制御部を備えた請求項1に記載の無線送信装置。
【請求項3】
前記監視部は、前記パワー増幅部からの出力信号のレベルを、予め設定した上限閾値及び下限閾値と比較し、該出力信号のレベルが前記上限閾値を超え、又は前記下限閾値を下回ったとき、異常として検出し、異常を示すアラーム信号を前記電力経路切替え部及び前記バイアス制御部に通知するアラーム通知手段を備えた請求項2に記載の無線送信装置。
【請求項4】
前記監視部により他の系の異常が検出されたとき、前記送信部から出力される送信信号の出力レベルを増大させ、該出力レベルを増大させた送信信号を、前記パワー増幅部に入力する送信レベル変更手段を備えた請求項1に記載の無線送信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−212951(P2010−212951A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56276(P2009−56276)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】