説明

無線通信システム、移動局および無線通信方法

【課題】 容易に導出可能な情報のみを用いて、移動局と基地局との中継に適した中継局を効率よく選択することを目的とする。
【解決手段】 本発明による無線通信システム100では、移動局は、自体の通信範囲内にある1または複数の中継局の識別子を取得する識別子取得部230と、中継局の識別子を含む中継局情報を基地局に送信して中継局の選択要求を行う情報送信部323と、を備え、基地局120は、中継局情報を受信する情報受信部260と、中継局情報の識別子が示す中継局であり、かつ自体と通信を行っていない中継局のうち、移動局が自体と通信するために経由すべき1の中継局を選択する中継局選択部246と、選択された1の中継局を移動局に送信する結果送信部と、を備え、移動局は、基地局が選択した中継局を経由して基地局と通信を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中継局を中継して基地局と無線通信を行うことが可能な無線通信システム、移動局および無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信可能な携帯型の移動局も普及し、そのような移動局による無線通信をサポートするインフラストラクチャーも整備されてきた。無線ネットワークに関する標準的な規格の一例として米国電子技術者協会IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11、HiperLAN/2、IEEE802.15.3、Bluetooth(登録商標)などが挙げられる。上記IEEE802.11規格には、無線通信方式や使用する周波数帯域の違いなどにより、IEEE802.11a規格、IEEE802.11b規格などの各種無線通信プロトコルが存在する。
【0003】
従来から知られているこのような無線通信プロトコルでは、任意の移動局から他の移動局またはインターネット等の通信網に接続する場合、基地局をコーディネータとして介す必要がある。
【0004】
また、近年では、基地局を介さずとも移動局同士で直接通信を行う技術や、基地局との通信に他の移動局を中継局として利用する技術が開示されている。例えば、特許文献1では、複数の移動局が中継局としても機能し、任意の通信端末から発信された情報がかかる中継局を経由して順次他の移動局に転送される技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3894432号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した移動局を中継局として利用可能な技術では、他の移動局による中継を必要とする場合に、移動局自体が他の移動局に対して直接通信許可を求める手順がとられていた。しかし、このような他の移動局の選定は無作為に行われるため却って移動局と基地局との通信距離が長くなってしまい、通信品質の劣化や伝送遅延を招くと共に、他の移動局が当該移動局と基地局との通信に占有されてしまい、中継局資源を無駄に費やす結果をもたらしていた。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑み、容易に導出可能な情報のみを用いて、移動局と基地局との中継に適した中継局を効率よく選択することが可能な無線通信システム、移動局および無線通信方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる無線通信システムの代表的な構成は、基地局と、基地局と無線通信可能な移動局と、基地局および移動局と無線通信可能であり基地局と移動局とを無線中継可能な中継局とからなる無線通信システムであって、移動局は、自体の通信範囲内にある1または複数の中継局の識別子を取得する識別子取得部と、中継局の識別子を含む中継局情報を基地局に送信して中継局の選択要求を行う情報送信部と、を備え、基地局は、中継局情報を受信する情報受信部と、中継局情報の識別子が示す中継局であり、かつ自体と通信を行っていない中継局のうち、移動局が自体と通信するために経由すべき1の中継局を選択する中継局選択部と、選択された1の中継局を移動局に送信する結果送信部と、を備え、移動局は、基地局が選択した中継局を経由して基地局と通信を行うことを特徴とする。
【0009】
本発明の無線通信システムでは、移動局と基地局との通信手段として、中継局を介すという選択肢が追加されるので、移動局の通信可能な範囲が拡大する。また、上述した構成により、移動局で収集可能な情報を用いて、基地局が、移動局と基地局との中継に適した中継局を効率よく選択することができる。このように中継に適した中継局を通信経路とすることで、中継局の利用効率を高め、中継局資源の浪費を防止することができる。
【0010】
情報送信部は、基地局との直接通信における電界強度が所定値以下になったことを契機に動作してもよい。
【0011】
本発明では、移動局と基地局とが既に直接通信している状況を想定している。基地局との電界強度が所定値以下、即ち、通信の維持が困難になることが予想された時点で中継局を選択させ、処理負荷を最小限に抑えつつ通信の安定性維持を図ることが可能となる。
【0012】
移動局は、中継局の識別子の取得時における電波の電界強度の強い順を、中継局の識別子に関連付けて中継局情報に含める電界強度設定部をさらに備え、中継局選択部は、自体と通信を行っていない中継局のうち、電界強度が最も強い中継局を選択してもよい。
【0013】
本発明では、移動局と通信可能かつ基地局との通信が為されていない中継局から、移動局との電界強度が最も強い中継局が選定される。移動局は、中継局の識別子の取得と同時に電界強度を取得することができるので、迅速な情報収集が可能となり、早期に中継局を含む通信経路を確立することができる。
【0014】
基地局は、自体と通信を行っていない中継局の電界強度を導出する電界強度導出部をさらに備え、中継局選択部は、導出された電界強度が最も強い中継局を選択してもよい。
【0015】
本発明では、移動局と通信可能かつ基地局との通信が為されていない中継局から、基地局との電界強度が最も強い中継局が選定される。ここでは、処理能力の高い基地局が電界強度を導出するため、移動局は通信可能範囲にある中継局を特定するだけで済み、迅速な情報収集が可能となる。従って、早期に中継局を含む通信経路を確立することができる。
【0016】
移動局は、中継局との距離を、中継局の識別子に関連付けて中継局情報に含める距離設定部をさらに備え、基地局は、自体と通信を行っていない中継局との距離を導出する距離導出部をさらに備え、中継局選択部は、移動局と中継局との距離および中継局と自体との距離との和が最短となる中継局を選択してもよい。
【0017】
本発明では、移動局と通信可能かつ基地局との通信が為されていない中継局から、実際の通信経路距離が短い中継局が選定される。かかる構成により通信経路距離が短い、即ち、通信品質の劣化や伝送遅延を最小限に抑えることが可能な中継局が選択可能となり、通信の安定性の維持を図ることができる。
【0018】
距離設定部および距離導出部は、電波の伝搬遅延に基づいて距離を導出してもよい。基地局、移動局、中継局同士が時間の同期を図っている場合、またはそれぞれが正確な絶対時間を有している場合、電波の送信から受信までの伝搬遅延に基づいてその伝搬距離を導出することができる。こうして、中継局を介した基地局から移動局への実際の通信経路距離を導出することが可能となる。
【0019】
距離設定部および距離導出部は、GPSによる絶対位置に基づいて距離を導出してもよい。基地局が自体の絶対位置を把握し、移動局および中継局がGPS(Global Positioning System)によって絶対値を特定できる場合、その絶対位置間の距離を導出することができる。こうして、中継局を介した基地局から移動局への実際の通信経路距離を導出することが可能となる。
【0020】
基地局は、移動局からの次回の選択要求のため、電界強度導出部または距離導出部の導出結果を保持する結果保持部をさらに備えてもよい。
【0021】
中継局が移動を伴わない場合、電界強度導出部または距離導出部による導出結果、即ち、基地局と中継局との電界強度または距離は、同移動局からの次回の選択要求、または他の移動局からの選択要求に再利用できる。かかる結果保持部の構成により、次回の選択要求の際に保持された導出結果を適宜用いることができ、処理時間および消費電力の大幅な削減を図ることが可能となる。
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の移動局の構成は、基地局と、基地局と無線通信可能であり基地局と自体とを無線中継可能な中継局と、無線通信可能な移動局であって、自体の通信範囲内にある1または複数の中継局のうち基地局と通信を行っていない中継局からの電波の電界強度を測定する電界強度測定部と、測定された電界強度が最も強い中継局を、基地局と通信するために経由すべき1の中継局として決定する中継局決定部と、を備えることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の移動局の他の構成は、基地局と、基地局と無線通信可能であり基地局と自体とを無線中継可能な中継局と、無線通信可能な移動局であって、自体の通信範囲内にある1または複数の中継局のうち基地局と通信を行っていない中継局との距離を測定する距離測定部と、中継局と基地局との距離を中継局から取得する距離取得部と、自体と中継局との距離および中継局と基地局との距離との和が最短となる中継局を、基地局と通信するために経由すべき1の中継局として決定する中継局決定部と、を備えることを特徴とする。
【0024】
上述した無線通信システムにおいて基地局に実行させていた中継局の選択を本発明では移動局自体が実行する。従って、中継局を特定するための識別子等中継局情報を生成する必要がなくなり、より早期に中継局を含む通信経路を確立することができる。また、移動局が単独で中継局を選択することが可能となるため、基地局との通信が困難な状況下においてもスムーズな通信経路の確立が可能となる。このような簡易な構成により中継に適した中継局を通信経路とすることで、中継局の利用効率を高め、中継局資源の浪費を回避することができる。
【0025】
移動局は、他の移動局と基地局とを中継する機能を有してもよい。かかる構成により当該移動局も中継局として機能することができ、互いに中継局資源として機能し合う総合的なネットワークを形成することが可能となる。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の無線通信方法の構成は、基地局と、基地局と無線通信可能な移動局と、基地局および移動局と無線通信可能であり基地局と移動局とを無線中継可能な中継局とを用いて無線通信を行う無線通信方法であって、移動局は、自体の通信範囲内にある1または複数の中継局の識別子を取得し、中継局の識別子を含む中継局情報を基地局に送信して中継局の選択要求を行い、基地局は、中継局情報を受信し、中継局情報の識別子が示す中継局であり、かつ自体と通信を行っていない中継局のうち、移動局が自体と通信するために経由すべき1の中継局を選択し、選択された1の中継局を移動局に送信し、移動局は、基地局が選択した中継局を経由して基地局と通信を行うことを特徴とする。
【0027】
上述した、無線通信システムの技術的思想に基づく構成要素やその説明は、当該無線通信方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように本発明によれば、容易に導出可能な情報のみを用いて、移動局と基地局との中継に適した中継局を効率よく選択することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1の実施形態における無線通信システム全体の構成を示した説明図である。
【図2】第1の実施形態における無線通信システムを用いた無線通信方法の処理の流れを示したフローチャートである。
【図3】第1の実施形態におけるPHS端末のハードウェア構成を示した機能ブロック図である。
【図4】第1の実施形態におけるPHS端末の外観を示した斜視図である。
【図5】第1の実施形態における基地局のハードウェア構成を示したブロック図である。
【図6】第2の実施形態におけるPHS端末のハードウェア構成を示した機能ブロック図である。
【図7】第2の実施形態における基地局のハードウェア構成を示したブロック図である。
【図8】第2の実施形態における距離の計算を説明するための説明図である。
【図9】第3の実施形態におけるPHS端末のハードウェア構成を示した機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0031】
以下の本実施形態では、理解を容易にするため、まず、無線通信システム全体の構成を説明し、その後各構成要素の機能および動作について詳述する。ここでは、移動局や中継局としてPHS端末110を挙げているが、かかる場合に限らず、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、PDA(Personal Digital Assistant)、デジタルカメラ、音楽プレイヤー、カーナビゲーション、ポータブルテレビ、ゲーム機器、DVDプレイヤー、リモートコントローラ等様々な電子機器を移動局として用いることもできる。
(第1の実施形態:無線通信システム100)
図1は、無線通信システム100全体の構成を示した説明図である。かかる無線通信システム100は、PHS端末110(110A、110B、110C、110D、110E)と、基地局120(120A、120B)と、ISDN(Integrated Services Digital Network)やインターネット等の通信網130と、接続設定サーバ140とを含んで構成される。本実施形態におけるPHS端末110は基地局120との通信が可能であると共に他のPHS端末110と基地局120とを中継することも可能である。
【0032】
上記無線通信システム100において、ユーザが自身のPHS端末110Aから通信回線の接続を行う場合、PHS端末110Aは、通信可能範囲150内にある基地局120Aに無線接続要求を行う。無線接続要求を受信した基地局120Aは、通信網130を介して接続設定サーバ140に通信相手との通信接続を要求し、接続設定サーバ140は、通信相手の無線通信範囲内にある例えば基地局120Bを選択して基地局120Aと基地局120Bとの通信経路を設定する。
【0033】
このように、PHS端末110Aは、基地局120Aの通信可能範囲内にあり基地局120Aと直接通信を行うことができる。しかし、何らかの原因によりPHS端末110Aと基地局120Aとの間の通信品質が劣化すると、通信の継続が困難になる場合がある。本実施形態ではそのような事態に陥った場合においても、他のPHS端末110を経由して基地局120Aとの通信を継続することが可能である。
【0034】
図2は、無線通信システム100を用いた無線通信方法の処理の流れを示したフローチャートである。本実施形態における無線通信システム100の基本的な動作を説明すると、PHS端末110Aは、直接通信している基地局120Aの電波の電界強度を常に監視しており(S170)、その電界強度と所定の閾値とを比較する(S172)。かかる電界強度が閾値以下になると、基地局120Aとの通信を維持するため中継局として経由可能な他のPHS端末110を探し始める(S174)。
【0035】
PHS端末110Aと基地局120Aとを中継するためには、PHS端末110Aや基地局120Aと無線通信が可能でなくてはならない。従って、PHS端末110Aは、まず、自体と無線通信可能なPHS端末110を選ぶ(S176)。そうすると、中継局として利用するPHS端末110の候補として、PHS端末110B、110C、110Dとが選択され、例えば通信可能範囲150以外にあるPHS端末110Eはそのリストから除外される。以下では特に断らない限りPHS端末110Aは移動局、PHS端末110B、110C、110Dは中継局として機能する。
【0036】
本実施形態においては、中継局として利用するPHS端末110の選択を基地局120に委託するため、PHS端末110Aは、通信可能範囲150にあるPHS端末110B、110C、110Dの識別子を記した中継局情報を基地局120Aに送信し(S178)、基地局120Aは、そのPHS端末110B、110C、110Dの中から通信の中継に適した1のPHS端末110を選択する。
【0037】
かかるPHS端末110の選択において、基地局120Aは、中継局資源を考慮し、即ち、既に基地局120Aと通信が実行されているPHS端末110にさらに中継局としての負荷を課さないため、通信中のPHS端末110はその選択候補から除外する(S180)。こうして選択(S182)されたPHS端末110が中継局としてPHS端末110Aに送信され(S184)、PHS端末110Aは、基地局120Aとのさらなる電界強度の低下に応じて、選択されたPHS端末110を介した通信に接続切換を行う(S186)。
【0038】
本実施形態の無線通信システム100では、上述したように、PHS端末110Aと基地局120Aとの通信手段として他のPHS端末110を介すという選択肢が追加されるので、事実上の通信可能範囲が拡大することとなる。以下、PHS端末110および基地局120の具体的な構成要素を説明する。
(PHS端末110)
図3は、PHS端末110のハードウェア構成を示した機能ブロック図であり、図4は、PHS端末110の外観を示した斜視図である。PHS端末110は、端末制御部210と、端末メモリ212と、表示部214と、操作部216と、音声入力部218と、音声出力部220と、無線通信部222とを含んで構成される。
【0039】
上記端末制御部210は、中央処理装置(CPU)を含む半導体集積回路によりPHS端末110全体を管理および制御する。また、端末制御部210は、端末メモリ212のプログラムを用いて、通話機能、メール送受信機能、撮像機能、音楽再生機能、TV視聴機能も遂行する。
【0040】
上記端末メモリ212は、ROM、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等で構成され、端末制御部210で処理されるプログラムや音声データ等を記憶する。
【0041】
上記表示部214は、液晶ディスプレイ、EL(Electro Luminescence)等で構成され、端末メモリ212に記憶された、または通信網130を介してアプリケーション中継サーバ(図示せず)から提供される、WebブラウザやアプリケーションのGUI(Graphical User Interface)を表示することができる。
【0042】
上記操作部216は、キーボード、十字キー、ジョイスティック等のスイッチから構成され、ユーザの操作入力を受け付ける。
【0043】
上記音声入力部218は、マイク等の音声認識手段で構成され、通話時に入力されたユーザの音声をPHS端末110内で処理可能な電気信号に変換する。
【0044】
上記音声出力部220は、スピーカで構成され、PHS端末110で受信した通話相手の音声信号を音声に変えて出力する。また、着信音や、操作部216の操作音、アラーム音等も出力できる。
【0045】
上記無線通信部222は、通信網130における基地局120との無線通信を行う。かかる無線通信としては、基地局120内でフレームを時分割した複数のタイムスロットをそれぞれPHS端末110のチャネルに割り当てて通信を行う時分割多重方式等が採用されている。
【0046】
また、本実施形態において無線通信部222は、他のPHS端末110と基地局120との通信を中継する。従って、他のPHS端末110からの中継要求を了承後、他のPHS端末110から受信した情報に、当該PHS端末110を経由していることを示す情報を付加して基地局120に送信することとなる。このようにしてPHS端末110同士が、互いに中継局資源として機能し合う総合的なネットワークを形成する。
【0047】
また、PHS端末110が中継局として機能する場合においても、PHS端末110が基地局120との間で複数の通信経路を確保できない場合に、例えば自体の発着呼等の優先度が高い通信が生じ過負荷になることが予想される場合にはその中継機能を停止することもある。この場合、例えば、中継元のPHS端末110がBCH(Broad Cast Channel)により常に中継局となりうる他のPHS端末110を探し続け、中継先を切り換えることもできる。かかる場合を考慮すると、中継局を用いる通信はリアルタイム性を要さない方が望ましい場合もある。
【0048】
また、本実施形態において端末制御部210は、識別子取得部230、情報送信部232、電界強度設定部234としても機能する。
【0049】
上記識別子取得部230は、自体の通信範囲150内にある1または複数の他のPHS端末110の識別子を取得する。かかる識別子の取得は、例えば、他のPHS端末110が定期的に識別子を含む制御電波を送信している場合にそれを受信することで為されてもよいし、当該PHS端末110Aから他のPHS端末110に対して識別子の取得要求を行うことで為されてもよい。以下、識別子に限らず、このような他のPHS端末110からの情報を得る場合にその取得方法は限定されず様々な方法を適用することができる。
【0050】
上記情報送信部232は、中継局となり得る他のPHS端末110の識別子を含む中継局情報を基地局120Aに送信してPHS端末(中継局)の選択要求を行う。ここで、情報送信部232は、基地局120Aとの直接通信における電界強度が所定値、例えば25dBμV以下になったことを契機に動作する。本実施形態では、PHS端末110Aと基地局120Aとが既に直接通信している状況を想定しており、基地局120Aとの電界強度が所定値以下、即ち、通信の維持が困難になることが予想された時点で中継局としての他のPHS端末110を選択させる。そして、電界強度がさらに低下、例えば23dBμVとなったとき、その選択したPHS端末110に中継要求を行う。こうして、処理負荷を最小限に抑えつつ通信の安定性維持を図ることが可能となる。
【0051】
上記電界強度設定部234は、他のPHS端末110(110B、110C、110D)の識別子の取得時における電波の電界強度の強い順を、他のPHS端末110の識別子に関連付けて中継局情報に含める。このとき後述する基地局120Aの中継局選択部264は、自体と通信を行っていないPHS端末110のうち、電界強度が最も強いPHS端末110を選択する。
【0052】
本実施形態では、当該PHS端末110Aと通信可能かつ基地局120Aとの通信が為されていないPHS端末110から、当該PHS端末110Aとの電界強度が最も強いPHS端末110が選定される。PHS端末110Aは、他のPHS端末110の識別子の取得と同時に電界強度を取得することができるので、迅速な情報収集が可能となり、早期に中継局を含む通信経路を確立することができる。
(基地局120)
図5は、基地局120のハードウェア構成を示したブロック図である。基地局120は、基地局制御部250と、基地局メモリ252と、基地局無線通信部254と、基地局有線通信部256とを含んで構成される。
【0053】
基地局制御部250は、中央処理装置(CPU)を含む半導体集積回路により基地局120全体を管理および制御する。また、基地局制御部250は、基地局メモリ252のプログラムを用いて、PHS端末110の通信網130や他のPHS端末110への通信接続を制御する。
【0054】
基地局メモリ252は、ROM、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、基地局制御部250で処理されるプログラムや時刻情報等を記憶する。
【0055】
基地局無線通信部254は、PHS端末110との通信を確立する。また、PHS端末110の通信品質に応じて、変調方式やコーデックを変更することもできる。
【0056】
基地局有線通信部256は通信網130を介して接続設定サーバ140やその他の様々なサーバと接続することができる。
【0057】
また、本実施形態の基地局制御部250は、情報受信部260、電界強度導出部262、中継局選択部264、結果送信部266、結果保持部268としても機能する。
【0058】
上記情報受信部260は、PHS端末110から送信された中継局情報を受信する。
【0059】
上記電界強度導出部262は、中継局情報にPHS端末110Aにおける他のPHS端末110の電界強度(または電界強度による優先順位)が示されていない場合、中継局情報に示された識別子により特定可能なPHS端末110(110B、110C、110D)から、自体と通信を行っていないPHS端末110を抽出して、そのPHS端末110からの電波の電界強度を導出する。中継局選択部264は、導出された電界強度が最も強いPHS端末110を中継局として選択する。また、電界強度導出部262は、PHS端末110Aにおける他のPHS端末110の電界強度と自体における他のPHS端末110の電界強度との和が最大となる中継局を選択することもできる。
【0060】
ここでは、処理能力が個々のPHS端末110Aより高い基地局120が電界強度を導出するため、PHS端末110Aは通信可能範囲にあるPHS端末110を特定するだけで済み、迅速な情報収集が可能となる。従って、早期に中継局を含む通信経路を確立することができる。
【0061】
上記中継局選択部264は、PHS端末110Aが自体と通信するために経由すべき1のPHS端末110を選択する。中継局選択部264は、少なくとも、PHS端末110Aから受信した中継局情報の識別子が示すPHS端末110であり、かつ自体と通信を行っていないPHS端末110を選択する。こうして、PHS端末110Aで収集可能な情報を用いて、基地局120Aが、PHS端末110Aと基地局120Aとの中継に適した中継局を効率よく選択することができる。このように中継に適した中継局を通信経路とすることで、中継局の利用効率を高め、中継局資源の浪費を防止することができる。
【0062】
上記結果送信部266は、中継局選択部264によって選択された1のPHS端末110をPHS端末110Aに送信する。
【0063】
上記結果保持部268は、移動局としてのPHS端末110からの次回の選択要求のため、電界強度導出部262または後述する距離導出部の導出結果を基地局メモリ252に保持する。中継局としてのPHS端末110が移動を伴わない場合、電界強度導出部252または距離導出部による導出結果、即ち、基地局120Aと他のPHS端末110との電界強度または距離は、同PHS端末110Aからの次回の選択要求または他のPHS端末110からの選択要求に再利用できる。かかる結果保持部268の構成により、次回の選択要求の際に保持された導出結果を適宜用いることができ、処理時間および消費電力の大幅な削減を図ることが可能となる。
(第2の実施形態)
第1の実施形態においては、PHS端末110Aまたは基地局120Aで、中継局候補であるPHS端末110の電界強度を導出し、中継局を選定していた。本実施形態では、基地局−中継局−移動局(PHS端末110A)といった実際の通信経路距離を用いて、中継局を選定している。
【0064】
図6は、PHS端末310のハードウェア構成を示した機能ブロック図であり、図7は、基地局320のハードウェア構成を示したブロック図である。PHS端末310は、端末制御部210と、端末メモリ212と、表示部214と、操作部216と、音声入力部218と、音声出力部220と、無線通信部222とを含んで構成され、端末制御部210は、識別子取得部230、情報送信部232、距離設定部312としても機能する。また、基地局320は、基地局制御部250と、基地局メモリ252と、基地局無線通信部254と、基地局有線通信部256とを含んで構成され、情報受信部260、距離導出部322、中継局選択部264、結果送信部266、結果保持部268としても機能する。
【0065】
第1の実施形態において既に説明した構成要素に関しては実質的に機能が同一なので重複説明を省略し、ここでは、構成が相違する図6の距離設定部312と、図7の距離導出部322とを主に説明する。
【0066】
PHS端末310の距離設定部312は、他のPHS端末110との距離を導出し、PHS端末110の識別子に関連付けて中継局情報に含める。従って、基地局320は、中継局情報によりPHS端末110Aと中継局となり得るPHS端末110との距離を把握することができる。
【0067】
基地局320の距離導出部322は、自体と通信を行っていないPHS端末110との距離を導出している。そして、中継局選択部264は、距離設定部312で導出された移動局としてのPHS端末310と中継局候補のPHS端末110との距離と、距離導出部352で導出した中継局候補のPHS端末110と自体との距離とを加算し、その結果が最短となる中継局を選択する。
【0068】
図8は、かかる距離の計算を説明するための説明図である。移動局としてのPHS端末310と中継局候補のPHS端末110との距離(図8中(1))と、中継局候補のPHS端末110と基地局320との距離(図8中(2))との和は、中継局を経由した実際の通信経路距離を示し、その通信経由距離が短いほど、通信品質の劣化や伝送遅延が少なくなり、通信の安定性の維持を図ることができる。
【0069】
ここで、距離設定部312および距離導出部322は、電波の伝搬遅延に基づいて距離を導出してもよい。基地局320とPHS端末310、110とが時間の同期を図っている場合、またはそれぞれが正確な絶対時間を有している場合、電波の送信から受信までの伝搬遅延に基づいてその伝搬距離を導出することができる。こうして、中継局としてのPHS端末110を介した基地局320から移動局310への実際の通信経路距離を導出することが可能となる。
【0070】
また、距離設定部312および距離導出部322は、GPSによる絶対位置に基づいて距離を導出してもよい。基地局320が自体の絶対位置を把握し、PHS端末310、110がGPSによって絶対値を特定できる場合、その絶対位置間の距離を導出することができる。こうして、中継局を介した基地局320からPHS端末310への実際の通信経路距離を導出することが可能となる。
(第3の実施形態)
第1および第2の実施形態においては、移動局側で収集した情報を基に基地局において中継局が選択されていた。本実施形態では、移動局が自己完結的に情報を収集し基地局を介さずに中継局を選定している。
【0071】
図9は、PHS端末410のハードウェア構成を示した機能ブロック図である。PHS端末410は、端末制御部210と、端末メモリ212と、表示部214と、操作部216と、音声入力部218と、音声出力部220と、無線通信部222とを含んで構成され、端末制御部210は、電界強度測定部412、距離測定部414、距離取得部416、中継局決定部418としても機能する。
【0072】
第1の実施形態において既に説明した構成要素に関しては実質的に機能が同一なので重複説明を省略し、ここでは、構成が相違する電界強度測定部412と、距離測定部414と、距離取得部416と、中継局決定部418とを主に説明する。
【0073】
上記電界強度測定部412は、PHS端末410自体の通信範囲内にある1または複数のPHS端末110のうち基地局120と通信を行っていないPHS端末110からの電波の電界強度を測定する。ここで、基地局120と通信を行っていないPHS端末110の抽出は、通信の有無をPHS端末110に問い合わせることで為されてもよいし、PHS端末110に、基地局120との通信が確立している場合、当該PHS端末410に電波を送信しない構成を予め設けておくことによって為されてもよい。
【0074】
上記距離測定部414は、中継局の選択を上述した電界強度ではなく距離によって行う場合に、自体の通信範囲内にある1または複数のPHS端末110のうち基地局120と通信を行っていないPHS端末110との距離を測定する。
【0075】
上記距離取得部416は、中継局としてのPHS端末110に問い合わせることにより、そのPHS端末110と基地局120との距離を取得する。
【0076】
上記中継局決定部418は、電界強度測定部412により測定された電界強度が最も強いPHS端末110、または、自体とPHS端末110との距離およびPHS端末110と基地局120との距離との和が最短となるPHS端末110を、基地局120と通信するために経由すべき1の中継局として決定する。
【0077】
本実施形態では、移動局としてのPHS端末410自体が中継局の選択を実行する。従って、中継局を特定するための中継局情報を生成する必要がなくなり、より早期に中継局を含む通信経路を確立することができる。また、PHS端末410が単独で中継局を選択することが可能となるため、基地局120との通信が困難な状況下においてもスムーズな通信経路の確立が可能となる。このような簡易な構成により中継に適した中継局を通信経路とすることで、中継局の利用効率を高め、中継局資源の浪費を回避することができる。
【0078】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0079】
なお、本明細書の無線通信方法における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいは個別に実行される処理(例えば、並列処理あるいはオブジェクトによる処理)も含むとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、中継局を中継して基地局と無線通信を行うことが可能な無線通信システム、移動局および無線通信方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0081】
100… 無線通信システム
110、310、410… PHS端末
120、320… 基地局
230… 識別子取得部
232… 情報送信部
234… 電界強度設定部
260… 情報受信部
262… 電界強度導出部
264… 中継局選択部
266… 結果送信部
268… 結果保持部
312… 距離設定部
314… 距離導出部
412… 電界強度測定部
414… 距離測定部
416… 距離取得部
418… 中継局決定部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局と、該基地局と無線通信可能な移動局と、該基地局および該移動局と無線通信可能であり該基地局と該移動局とを無線中継可能な中継局とからなる無線通信システムであって、
前記移動局は、
自体の通信範囲内にある1または複数の中継局の識別子を取得する識別子取得部と、
前記中継局の識別子を含む中継局情報を前記基地局に送信して中継局の選択要求を行う情報送信部と、
を備え、
前記基地局は、
前記中継局情報を受信する情報受信部と、
前記中継局情報の識別子が示す中継局であり、かつ自体と通信を行っていない中継局のうち、前記移動局が自体と通信するために経由すべき1の中継局を選択する中継局選択部と、
前記選択された1の中継局を前記移動局に送信する結果送信部と、
を備え、
前記移動局は、前記基地局が選択した中継局を経由して前記基地局と通信を行うことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
基地局と、該基地局と無線通信可能であり該基地局と自体とを無線中継可能な中継局と、無線通信可能な移動局であって、
自体の通信範囲内にある1または複数の中継局のうち前記基地局と通信を行っていない中継局からの電波の電界強度を測定する電界強度測定部と、
前記測定された電界強度が最も強い中継局を、前記基地局と通信するために経由すべき1の中継局として決定する中継局決定部と、
を備えることを特徴とする移動局。
【請求項3】
基地局と、該基地局と無線通信可能な移動局と、該基地局および該移動局と無線通信可能であり該基地局と該移動局とを無線中継可能な中継局とを用いて無線通信を行う無線通信方法であって、
前記移動局は、
自体の通信範囲内にある1または複数の中継局の識別子を取得し、
前記中継局の識別子を含む中継局情報を前記基地局に送信して中継局の選択要求を行い、
前記基地局は、
前記中継局情報を受信し、
前記中継局情報の識別子が示す中継局であり、かつ自体と通信を行っていない中継局のうち、前記移動局が自体と通信するために経由すべき1の中継局を選択し、
前記選択された1の中継局を前記移動局に送信し、
前記移動局は、
前記基地局が選択した中継局を経由して前記基地局と通信を行うことを特徴とする無線通信方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−249317(P2012−249317A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−171073(P2012−171073)
【出願日】平成24年8月1日(2012.8.1)
【分割の表示】特願2007−336568(P2007−336568)の分割
【原出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】