説明

無線通信装置

【課題】使用状況に応じて適切なタイムスロット数を自動的に設定できるようにする。
【解決手段】タイムスロット数を決定するための数値を可変自在に記憶するメモリエリアを設ける。アンテナの交信領域内に存在すると仮定される通信媒体の数を取得する。そして、取得した通信媒体の数に基づいて数値を決定し、メモリエリアに設定する。かくして、このメモリエリアに設定された数値によって決定されるタイムスロット数のタイムスロット通信を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイムスロット方式のアンチコリジョン機能を利用して複数の通信媒体から情報を受信する無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物流分野においては、近年、無線タグを利用したRFID(Radio Frequency Identification)システムの導入が進められている。この分野では、取り扱うデータ量が膨大となる上、複数の国をまたぐことがある。このため、グローバルで完全にユニークになる物品管理用のコード、いわゆるエレクトリック・プロダクト・コード(Electric Product Code:以下、EPCと略称する)が活用されている。
【0003】
EPCコードには、SGTIN(Serialized Global Trade Item Number)やSSCC(Serial Shipping Container Code)等のコードがある。SGTINコードは、国際標準の個体識別コードであるGTINにシリアル番号を付すことで製品等の個体を個別管理するためのコード体系であり、現在、96ビットを使用したSGTIN−96と198ビットとのSGTIN−198とがEPCグローバルで規定されている。SSCCコードは、ケース、段ボール、パレット等の輸送用梱包体を個別管理するためのコード体系であり、現在、96ビットを使用したSSCC−96が、RFIDの標準化団体であるEPCグローバルで規定されている。
【0004】
この種のRFIDシステムを活用する場合、製造業者は、製品に対して1品毎に異なるSGTINコードが書き込まれた無線タグを取り付ける。また、各製品を梱包する梱包体に対しても、個々に異なるSSCCコードが書き込まれた無線タグを取り付ける。そして、梱包体に取り付けられた無線タグのSSCCコードと、その梱包体によって梱包された各製品にそれぞれ取り付けられた無線タグのSGTINコードとが紐付けされたデータベースを作成する。
【0005】
一方、物流の中継点となる卸センタや最終点となる店舗では、製品を入荷または出荷する毎に各製品にそれぞれ付された無線タグのデータ(SGTINコード)と、梱包体に付された無線タグのデータ(SSCCコード)とを、無線タグ読取装置を使用して非接触で読取る。そして、前記データベースにアクセスして、梱包体と製品との間の対応関係に変化があるか否かをチェックする。こうすることにより、製品の検品作業を容易に行うことができる。
【0006】
ところで、このRFIDシステムのような無線通信システムの特徴的な仕組みの1つに、無線通信装置(無線タグ読取装置)が複数の通信媒体(無線タグ)から略同時にデータを受信することを可能とする仕組みがある。この仕組みは、アンチコリジョン(衝突防止)と称される機能を利用することで実現できる。アンチコリジョンは、通信媒体の応答手順を制御する機能であり、国際標準規格に採用されている代表的なアルゴリズムとしてバイナリツリー方式とタイムスロット方式とがある。タイムスロット方式は、無線LAN(Local Area Network)等のパケット通信において広く使われているアクセス制御方式で、アロハ(ALOHA)方式とも呼ばれている。
【0007】
一般的なタイムスロット方式のアンチコリジョン機能について説明する。
先ず、無線通信装置は、そのアンテナの交信領域内に存在する通信媒体に対し、読取り開始コマンド(QUERY)を発行する。このコマンドには、通信媒体が選択可能なタイムスロットの数を指定するための数値が含まれる。この数値は、ビット数(2:Qは≧0の固定値)を指定するもので、Q値と称される。
【0008】
読取り開始コマンドを受信した通信媒体は、そのコマンド中のQ値により指定されるタイムスロット数(2)の範囲内で乱数を生成する。例えばQ値が“1”であった場合、2は2なので、通信媒体は2ビットの乱数[00],[01],[10],[11]のいずれかを生成する。そして、生成された乱数に一致したタイミングのタイムスロットを選択して通信装置に応答を返す。
【0009】
この際、1つのタイムスロットに対して1つの通信媒体しか応答を返さなかった場合には、その通信媒体のデータは通信装置によって受信される。しかし、1つのタイムスロットに対して複数の通信媒体が同時に応答を返した場合には衝突となるので、それらの通信媒体のデータは受信されない。
【0010】
衝突となった通信媒体では、再度乱数を生成する。そして、生成された乱数に一致したタイミングのタイムスロットを選択して無線通信装置に応答を返す。このような一連の処理を繰り返すことにより、無線通信装置は複数の通信媒体から略同時にデータを受信できるようになる(例えば、特許文献1:[0003]〜[0006]を参照)。
【特許文献1】特開2006−148522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、タイムスロット方式の場合、無線通信装置のアンテナ交信領域内に存在する通信媒体の数が多いときには、タイムスロットの数を増やすことによって衝突発生回数を減らすことができる。逆に、通信媒体の数が少ないときには、タイムスロットの数を減らすことによって通信時間を短縮することができる。
【0012】
しかしながら、従来のこの種の無線通信装置においては、タイムスロットの数を決めるためのQ値は予め実装されたソフトウェアによって固定化されており、タイムスロットの数を適宜増減するようなことはできなかった。このためユーザは、システムの利用環境等から適切なQ値が設定された無線通信装置を選択することとなるが、見込み違いがあったり利用環境が変化したりした場合には良好な通信効率が得られないという問題があった。
【0013】
本発明はこのような事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、使用状況に応じて適切なタイムスロット数を自動的に設定することができ、常に良好な通信効率で通信媒体から情報を受信することができる無線通信装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、アンテナの交信領域内に存在する複数の通信媒体からの情報をタイムスロット方式のアンチコリジョン機能を利用して受信する無線通信装置において、タイムスロット数を決定するための数値を可変自在に記憶する数値記憶手段と、前記数値によって決定されるタイムスロット数のタイムスロット通信を実行する通信制御手段と、交信領域内に存在すると仮定される通信媒体の数に基づいて数値を決定し数値記憶手段に設定する数値設定手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
かかる手段を講じた本発明によれば、使用状況に応じて適切なタイムスロット数を自動的に設定することができ、常に良好な通信効率で、通信媒体から情報を受信することができる無線通信装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。
なお、この実施の形態は、タイムスロット方式のアンチコリジョン機能を採用したRFIDシステムの無線タグ読取装置に、本発明を適用した場合である。
【0017】
(第1の実施の形態)
初めに、第1の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態の全体構成図である。同図において、一点鎖線で囲われた枠A,Bは、それぞれRFIDシステムを示している。これらRFIDシステムA,Bは、基本的な構成を同一としている。すなわちRFIDシステムA,Bは、無線タグ読取装置1とクライアント端末2とから構成されている。
【0018】
無線タグ読取装置1は、本発明に関わる無線通信装置の一態様であって、ゲート式アンテナ11と、RFIDリーダ・ライタ12とから構成されている。RFIDリーダ・ライタ12は、ゲート式アンテナ11の交信領域内であるアンテナ間を通過する物品から無線タグのデータを非接触で読み取る機能と、同無線タグにデータを非接触で書き込む機能とを有する。
【0019】
クライアント端末2は、RFIDリーダ・ライタ12のデータ読取り動作及びデータ書込動作を制御する。クライアント端末2は、インターネット等のネットワーク3を介してサーバ4に接続可能である。サーバ4は、主としてデータベース5の管理を行う。
【0020】
さて、本実施の形態では、一方のRFIDシステムAは卸センタに構築され、他方のRFIDシステムBは店舗に構築される。そして卸センタでは、製造業者から入荷した製品及び店舗に出荷する製品を検品する際にRFIDシステムAを利用し、店舗では、卸センタを介して入荷した製品を検品する際にRFIDシステムBを利用する。
【0021】
一方、製造業者は、図2に示すように、1つの梱包体21に複数の製品22を梱包し、これら複数の製品22が梱包された梱包体21を店舗別に必要な数だけ1出荷単位としてまとめて出荷する。ここで、梱包体21と各製品22とには、製造業者から出荷される前に、それぞれ無線タグ23,24が付される。梱包体21に付される無線タグ23(第1の通信媒体)には、それぞれその梱包体固有のSSCCコードをエンコードしたEPCデータが格納される。各製品22に付される無線タグ24(第2の通信媒体)には、それぞれその製品固有のSGTINコードをエンコードしたEPCデータが格納される。
【0022】
SSCCコードは、ヘッダ、梱包タイプ、企業コード及び出荷梱包ナンバから構成されている。ヘッダは、データのコード体系を識別する領域である。梱包タイプは、梱包体の種類(ケース,ダンボール箱,パレット等)を分類する。企業コードは、梱包体の製造元企業を識別する。出荷梱包ナンバは、製造業者から出荷される際に梱包体毎に割り当てられる固有の番号である。上記梱包タイプ及び企業コードに出荷梱包ナンバを付すことによって、梱包体21は個別管理される。
【0023】
SGTINコードは、ヘッダ、企業コード、アイテムコード及びシリアルナンバから構成されている。ヘッダは、データのコード体系を識別する領域である。企業コード及びアイテムコードは、国際標準の製品識別コードであるGTINである。上記GTINにシリアルナンバを付すことによって、各製品22は個別管理される。
【0024】
製造業者は、店舗毎に1出荷単位としてまとめられた製品22を出荷する際に、図3に示すように、その出荷単位を特定する固有の出荷コードに対応して、梱包体21の数、いわゆる梱包数nと、そのn個の梱包体21にそれぞれ付された無線タグ23のSSCCコード(SSCC1,SSCC2,…,SSCCn)及びその梱包体21にそれぞれ梱包されている製品22の数、いわゆるアイテム数m1,m2,…,mnとを記憶した出荷データテーブル30を作成し、サーバ4のデータベース5に登録する。また、この出荷データテーブル30の少なくとも出荷コードを記録した発注伝票を付けて出荷する。
【0025】
製造業者から出荷された製品22は、発注伝票を付したまま卸センタを介して各店舗に配送される。このとき、卸センタや各店舗では、図2に示すように、一出荷単位の梱包体21をゲート式アンテナ11の間を通過させることによって、検品作業を行う。すなわち、ゲート式アンテナ11の間は交信領域であり、この交信領域内に無線タグが存在すると、その無線タグのデータがRFIDリーダ・ライタ12に読み取られる。したがって、一出荷単位の梱包体21群をゲート式アンテナ11の間を通過させることによって、各梱包体21にそれぞれ付されている無線タグ23のデータと、各梱包体21内の製品22にそれぞれ付されている無線タグ24のデータとがRFIDリーダ・ライタ12に読み取られる。無線タグ23のデータに含まれるSSCCコードによって、梱包体21の個体が識別される。また、無線タグ24のデータに含まれるSGTINコードによって、製品22の個体が識別される。かくして、一出荷単位の梱包体21とそれに梱包されている製品22とを検品することができる。
【0026】
ここで、RFIDリーダ・ライタ12は、無線タグ23,24との交信制御にタイムスロット方式のアンチコリジョン機能を利用している。この機能により、ゲート式アンテナ11の交信領域内に複数の無線タグ23,24が存在してもデータを一括して読み取ることができる。
【0027】
図4は、上記RFIDリーダ・ライタ12の要部構成示すブロック図である。図示するようにRFIDリーダ・ライタ12は、インターフェイス部41、変調部42,送信アンプ43,サーキュレータ44,受信アンプ45,復調部46、メモリ部47及び各部を制御する制御部48等で構成されている。
【0028】
インターフェイス部41は、通信ケーブルを介して接続されたクライアント端末2と制御部48との間で行われるデータ通信を中継する。変調部42は、制御部48から与えられる送信データを高周波信号に変調して送信アンプ43に出力する。送信アンプ43は、変調部42にて変調された高周波信号を増幅してサーキュレータ44に出力する。サーキュレータ44は、送信アンプ43にて増幅された変調波信号をゲート式アンテナ11側に出力する。また、ゲート式アンテナ11で受信した高周波信号を受信アンプ45側に出力する。受信アンプ45は、サーキュレータ44側から入力された高周波信号を増幅して復調部46に出力する。復調部46は、受信アンプ45にて増幅された高周波信号を復調して受信データに変換し、制御部48に出力する。制御部48は、復調部46にて復調された受信データに基づき無線タグデータを読み取る。
【0029】
メモリ部47には、Q値エリア49が形成されている。Q値エリア49には、少なくとも読取り開始コマンド(QUERY)に含まれるQ値が可変自在に記憶される。Q値は、タイムスロット方式において、タイムスロット数を決定するための数値である。ここに、Q値エリア49は、数値記憶手段を構成する。
【0030】
卸センタや各店舗における検品作業の担当者は、それぞれ検品対象の製品22が梱包された一出荷単位の梱包体21群をゲート式アンテナ11の交信領域内に置いたならば、その出荷単位の発注伝票に記録されている出荷コードをクライアント端末2に入力する。
【0031】
そうすると、クライアント端末2は、サーバ4に対して当該出荷コードに対応する出荷データテーブル30の問合せを行う。サーバ4は、問合せのあった出荷データテーブル30をデータベース5から読出し、問合せ元のクライアント端末2に送信する。サーバ4から出荷データテーブル30を受信すると、クライアント端末2は、RFIDリーダ・ライタ12に対して検品開始を指令する。また、サーバ4から受信した出荷データテーブル30をRFIDリーダ・ライタ12に転送する。これにより、RFIDリーダ・ライタ12の制御部48は、図5の流れ図に示す手順の処理を実行する。
【0032】
すなわち制御部48は、検品開始指令に応じてこの処理を開始すると、先ず、ST(ステップ)1としてクライアント端末2から出荷データテーブル30が送られてくるのを待機する。そして、出荷データテーブル30を受信したならば、この出荷データテーブル30をメモリ部47に書き込む。
【0033】
次に、制御部48は、ST2としてメモリ部47に書き込んだ出荷データテーブル30から梱包体21の数nを取得する。また、ST3として同出荷データテーブル30からSSCCコード別のアイテム数m1,m2,…,mnを取得し、その総和Σmi(i=0〜n)を算出する。そして、ST4として上記梱包数nとアイテム数の総和Σmiとを合計し、その合計値Tを求める。
【0034】
ここで、ST2の処理で取得される梱包数nは、一出荷単位の梱包体21の数である。また、ST3の処理で算出されるアイテム数の総和Σmiは、一出荷単位の製品22の総数である。各梱包体21と各製品22とには、それぞれ1つずつ無線タグ23,24が付されている。したがって、ST4の処理で算出される合計値Tは、ゲート式アンテナ11の交信領域内に置かれた一出荷単位の製品22及び梱包体21にそれぞれ付与されている無線タグ23,24の合計数に相当する。ここに、制御部48が実行するST2〜ST4の処理は、媒体数取得手段を構成する。
【0035】
ST4にて合計値Tを算出したならば、制御部48は、ST5としてこの合計値Tに基づいて最適なQ値を算出する。そして、ST6としてこの最適なQ値を、メモリ部47のQ値エリア49に上書きして設定する。
【0036】
ここで、最適なQ値は、予め設定された演算式によって求める。この演算式は、特に限定されないが、その一例としては、2のQ乗が合計値Tを超えるときの最小のQを、Q値として算出する式を適用する。あるいは、2のQ乗が合計値Tの1/2を超えるときの最小のQを、Q値として算出する式を適用してもよい。この他、演算式としては様々な形態が考えられる。ここに、制御部48が実行するST5〜ST6の処理は、数値設定手段を構成する。
【0037】
こうして、最適なQ値がQ値エリア49に設定されたならば、制御部48は、ST7として、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在する無線タグの読取処理を実行する。この読取処理は、Q値エリア49のQ値によって決定されるタイムスロット数のタイムスロット通信によって行われる。
【0038】
先ず、制御部48は、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在する無線タグに対して読取り開始コマンド(QUERY)を発行する。このコマンドには、Q値エリア49のQ値が含まれる。制御部48から発行されたコマンドは、変調部42にて変調され、送信アンプ43にて増幅された後、ゲート式アンテナ11から電波として放射される。この電波は、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在する無線タグで受信される。
【0039】
上記読取り開始コマンドの電波を受信した無線タグは、そのコマンド中のQ値により指定されるタイムスロット数(2)の範囲内で乱数を生成する。そして、生成された乱数に一致したタイミングのタイムスロットを選択して応答を返す。
【0040】
この際、1つのタイムスロットに対して1つの無線タグしか応答を返さなかった場合には、その無線タグのデータは、ゲート式アンテナ11を介してRFIDリーダ・ライタ12で受信される。しかし、1つのタイムスロットに対して複数の無線タグが同時に応答を返した場合には衝突となるので、それらの無線タグのデータはRFIDリーダ・ライタ12で受信されない。
【0041】
衝突となった無線タグでは、再度乱数を生成する。そして、生成された乱数に一致したタイミングのタイムスロットを選択して応答を返す。このような一連の処理を繰り返すことにより、RFIDリーダ・ライタ12は、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在する複数の無線タグ、つまりはゲート式アンテナ11の交信領域内に置かれた一出荷単位の各梱包体21にそれぞれ付された無線タグ23及び各梱包体21に梱包されている各製品22にそれぞれ付された無線タグ24のデータを略同時に読み取ることができる。ここに、制御部48が実行するST7の処理は、通信制御手段を構成する。
【0042】
制御部48は、ST8として無線タグの読取りを終了したか否かを判断する。例えば、最後の無線タグデータを受信してから予め設定された時間を経過し、その間に次の無線タグデータを受信しなかった場合には、読取り終了とみなす。読取り終了と判断した場合、制御部48は、今回の読取処理を終了する。
【0043】
このように第1の実施の形態においては、RFIDリーダ・ライタ12のメモリ部47に、Q値を可変自在に記憶するためのQ値エリア49を形成している。また、RFIDリーダ・ライタ12の制御部48は、検品対象の製品22及びそれを梱包する梱包体21に関連付けられた出荷データテーブル30のデータから、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在すると仮定される無線タグ23,24の数を取得し、この数に基づいて最適なQ値を決定して、Q値エリア49に設定する。そして、このQ値によって決定されるタイムスロット数のタイムスロット通信を実行することにより、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在する複数の無線タグ23,24のデータを一括して読み取るようにしている。
【0044】
したがって、本実施の形態によれば、製品入荷時や出荷時の検品作業のように、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在する無線タグの数が一定でなく変動し易い使用環境下においても、タイムスロット方式のタイムスロット数として適切な値を自動的に設定して無線通信を行うことができるので、常に良好な通信効率で短時間のうちに多くの無線タグからデータを読み取ることができる。
【0045】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態で説明したタイムスロット方式は、RFIDの標準化団体であるEPCグローバルにより提案されたRFIDの通信規格の1つであるGen.2(Generation2)規格でも採用されている。そして、このGen.2規格には、セレクト機能と称される機能がある。この機能は、特定の無線タグのみが応答するセレクトコマンドを発行することで、読み出しを行う無線タグの種類を指定する機能である。
【0046】
そこで次に、上記セレクト機能を利用して、読取り対象の無線タグを、第1の通信媒体である梱包体用無線タグ23と、第2の通信媒体である製品用無線タグ24とに区分する。そして、梱包体用無線タグ23を読み取る際にはその梱包体用無線タグ23の数に適したQ値を設定して読み取り動作を行い、製品用無線タグ24を読み取る際にはその製品用無線タグ24の数に適したQ値を設定して読み取り動作を行うことで、通信効率の向上を図るようにした、第2の実施の形態について説明する。
なお、図1,図2及び図4に示した第1の実施の形態の構成は、第2の実施の形態でも同一であるので、同一部分に同一符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0047】
第2の実施の形態が第1の実施の形態と異なる点の1つは、出荷データテーブル30のデータ構造である。第2の実施の形態における出荷データテーブル30のデータ構造を図6に示す。図3と図6とを対比すれば明らかなように、第2の実施の形態の出荷データテーブル30は、n個の梱包体21にそれぞれ付された無線タグ23のSSCCコード(SSCC1,SSCC2,…,SSCCn)毎に、そのSSCCコードを有する無線タグ23のデータを読み取ったか否かを識別する読取フラグFを、さらに記憶している点が第1の実施の形態と異なる。
【0048】
しかして、RFIDリーダ・ライタ12の制御部48は、クライアント端末2から検品開始指令を受信すると、図7の流れ図に示す手順の処理を実行する。先ず、ST11としてクライアント端末2から出荷データテーブル30が送られてくるのを待機する。そして、出荷データテーブル30を受信したならば、この出荷データテーブル30をメモリ部47に書き込む。なお、この時点において、出荷データテーブル30の各SSCCコードに対応した読取フラグFは、全て“0”にリセットされている。
【0049】
次に、制御部48は、ST12としてメモリ部47に書き込んだ出荷データテーブル30から梱包体212の数nを取得する(梱包体数取得手段)。さらに、ST13としてこの梱包体21の数nに基づき、前記第1の実施の形態のST5の処理と同様にして最適なQ値を算出する。そして、ST14としてこの最適なQ値を、メモリ部47のQ値エリア49に上書きして設定する(第1の数値設定手段)。
【0050】
次に、制御部48は、ST15としてSSCCコードを有する梱包体用無線タグ23を選択するためのセレクトコマンドを発行する。続いて、ST16としてQ値エリア49のQ値を含む読取り開始コマンド(QUERY)を発行して、タイムスロット方式による無線タグの読取処理を実行する(第1の通信制御手段)。
【0051】
これにより、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在する無線タグのうち、SSCCコードを有する無線タグ、いわゆる梱包体用無線タグ23が動作し、その無線タグデータがRFIDリーダ・ライタ12によって非接触で読み取られる。
【0052】
そこで、制御部48は、ST17として無線タグのデータが読み取られるのを待機する。そして、無線タグデータを読み取ったならば、ST18として出荷データテーブル30を検索して、当該無線タグデータ中のSSCCコードが出荷データテーブル30に設定されているか否かをチェックする。ST19として当該SSCCコードが出荷データテーブル30に設定されていると判断した場合には、制御部48は、ST20として当該SSCCコードに対応する読取フラグFを“1”にセットする。これに対し、当該SSCCコードが出荷データテーブル30に設定されていないと判断した場合には、ST20の処理を実行しない。
【0053】
制御部48は、Q値エリア49のQ値をタイムスロット数とするタイムスロット通信により無線タグのデータを読み取る毎に、ST18〜ST20の処理を実行する。
【0054】
また、制御部48は、ST21として無線タグの読取を終了したか否かを第1の実施の形態と同様にして判断する。そして、読取り終了と判断した場合には、制御部48は、ST22として出荷データテーブル30を参照して、読取フラグFが“1”にセットされたSSCCコードに対応するアイテム数の合計Mを算出する(個体数取得手段)。さらに、ST23としてこのアイテム数の合計Mに基づき、最適なQ値を算出する。そして、ST24としてこの最適なQ値を、メモリ部47のQ値エリア49に上書きして設定する(第2の数値設定手段)。
【0055】
次に、制御部48は、ST25としてSGTINコードを有する製品用無線タグ24を選択するためのセレクトコマンドを発行する。続いて、ST26としてQ値エリア49のQ値を含む読取り開始コマンド(QUERY)を発行して、タイムスロット方式による無線タグの読取処理を実行する(第2の通信制御手段)。
【0056】
これにより、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在する無線タグのうち、SGTINコードを有する無線タグ、いわゆる製品用無線タグ24が動作し、その無線タグデータがRFIDリーダ・ライタ12によって非接触で読み取られる。
【0057】
制御部48は、ST27として無線タグの読取りを終了したか否かを判断する。読取り終了と判断した場合、制御部48は、今回の読取処理を終了する。
【0058】
このように第2の実施の形態においては、RFIDリーダ・ライタ12の制御部48は、検品対象の製品22及びそれを梱包する梱包体21に関連付けられた出荷データテーブル30のデータから、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在すると仮定される無線タグ23,24のうち、先ず、SSCCコードを有する梱包体用無線タグ23の数を取得し、この数に基づいて最適なQ値を決定して、Q値エリア49に設定する。そして、このQ値によって決定されるタイムスロット数のタイムスロット通信を、SSCCコードを有する梱包体用無線タグ23を選択するためのセレクトコマンドを発行した後に実行することにより、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在する梱包体用無線タグ23のデータを一括して読み取る。
【0059】
続いて、無線タグデータの読取りに成功した梱包体用無線タグ23のSSCCコードに対応して、出荷データテーブル30に設定されているアイテム数のデータから、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在すると仮定される無線タグ23,24のうち、SGTINコードを有する製品用無線タグ24の数を取得し、この数に基づいて最適なQ値を決定して、Q値エリア49に設定する。そして、このQ値によって決定されるタイムスロット数のタイムスロット通信を、SGTINコードを有する製品用無線タグ24を選択するためのセレクトコマンドを発行した後に実行することにより、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在する製品用無線タグ24のデータを一括して読み取るようにしている。
【0060】
このように、第2の実施の形態においては、読取り対象の無線タグを、第1の通信媒体である梱包体用無線タグ23と、第2の通信媒体である製品用無線タグ24とに区分し、梱包体用無線タグ23を読み取る際にはその梱包体用無線タグ23の数に適したQ値を設定して読み取り動作を行い、製品用無線タグ24を読み取る際にはその製品用無線タグ24の数に適したQ値を設定して読み取り動作を行うようにしたので、より良好な通信効率で、梱包体用無線タグ23及び製品用無線タグ24からデータを読み取ることができる。
【0061】
しかも、この第2の実施の形態においては、初めにゲート式アンテナ11の交信領域内に存在する梱包体用無線タグ23のデータを読み取ることにより、同交信領域内に存在する製品用無線タグ24の数をほぼ正確に推定することができる。したがって、製品用無線タグ24のデータをより確実にかつ短時間で読み取ることができるようになる。
【0062】
なお、この発明は前記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0063】
例えば、前記第1の実施の形態では、出荷データテーブル30のデータから、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在すると仮定される無線タグの数を取得し、最適なQ値を設定したが、これに限定されるものではない、製造業者からの出荷情報等により1出荷単位の製品の個数及び梱包体の個数が予め分かっているような場合には、クライアント端末2のオペレータが入力デバイスを介してそれぞれの個数を入力するものとし、RFIDリーダ・ライタ12の制御部38は、クライアント端末2で入力される個数の入力を受付け(媒体数入力受付手段)、その入力を受付けた個数をゲート式アンテナ11の交信領域内に存在すると仮定される無線タグの数として最適なQ値を設定するようにしてもよい。
【0064】
また、この第1の実施の形態では、アンテナ11の交信領域内に存在すると仮定される無線タグを梱包体用無線タグ23と製品用無線タグ24の2種類としたが、無線タグの種類は特に限定されるものではなく、例えば1種類の無線タグのデータを読み取る場合、あるいは3種類以上の無線タグのデータを読み取る場合も、何らかの方法で無線タグの数を推定できるのであれば、本発明を適用することができる。
【0065】
また、前記第2の実施の形態では、出荷データテーブル30のデータから、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在すると仮定される梱包体用無線タグ23の数を取得したが、梱包体数取得手段は、これに限定されるものではない。ゲート式アンテナの物理的な大きさと梱包体21のサイズとから、ゲート式アンテナ間を一度に通過できる梱包体21の最大数を、ゲート式アンテナ11の交信領域内に存在すると仮定される梱包体用無線タグ23の数としてもよい。
【0066】
この他、前記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を組合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施の形態に関わるRFIDシステムの全体構成図。
【図2】同実施形態において、無線タグが付される製品と梱包体との関係及び無線タグのデータ説明に用いる模式図。
【図3】同実施の形態において用いられる出荷データテーブルのデータ構造を示す模式図。
【図4】同実施の形態において用いられるRFIDリーダ・ライタの要部構成を示すブロック図。
【図5】同実施の形態において、RFIDリーダ・ライタの制御部が実行する検品開始指令に応じた処理の主要な手順を示す流れ図。
【図6】本発明の第2の実施の形態における出荷データテーブルのデータ構造を示す模式図。
【図7】同第2の実施の形態におけるRFIDリーダ・ライタの制御部が実行する検品開始指令に応じた処理の主要な手順を示す流れ図。
【符号の説明】
【0068】
1…無線タグ読取装置、2…クライアント端末、4…サーバ、5…データベース、11…ゲート式アンテナ、12…RFIDリーダ・ライタ、21…梱包体、22…製品、23…梱包体用無線タグ、24…製品用無線タグ、30…出荷データテーブル、48…制御部、49…Q値エリア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナの交信領域内に存在する複数の通信媒体からの情報をタイムスロット方式のアンチコリジョン機能を利用して受信する無線通信装置において、
タイムスロット数を決定するための数値を可変自在に記憶する数値記憶手段と、
前記数値によって決定されるタイムスロット数のタイムスロット通信を実行する通信制御手段と、
前記交信領域内に存在すると仮定される前記通信媒体の数に基づいて前記数値を決定し前記数値記憶手段に設定する数値設定手段と、
を具備したことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記通信媒体は、梱包体毎に設けられ、少なくともその梱包体の個別管理情報を記憶する第1の通信媒体と、前記梱包体によって梱包される個体毎に設けられ、少なくともその個体の個別管理情報を記憶する第2の通信媒体とを含み、
前記交信領域内に存在すると仮定される前記通信媒体の数の入力を受付ける媒体数入力受付手段、をさらに具備し、
前記数値設定手段は、媒体数入力受付手段により入力を受付けた前記梱包体の数と個体の数との総和に基づいて前記数値を決定し前記数値記憶手段に設定することを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記通信媒体は、梱包体毎に設けられ、少なくともその梱包体の個別管理情報を記憶する第1の通信媒体と、前記梱包体によって梱包される個体毎に設けられ、少なくともその個体の個別管理情報を記憶する第2の通信媒体とを含み、
前記第1の通信媒体に記録されている個別管理情報に関連付けて、当該第1の通信媒体が設けられた前記梱包体によって梱包される個体の数を記憶するデータテーブルをさらに具備し、
前記数値設定手段は、前記データテーブルに記憶された情報から前記アンテナの交信領域内に存在する梱包体の数と前記個体の数とをそれぞれ取得し、前記梱包体の数と個体の数との総和を、前記交信領域内に存在すると仮定される前記通信媒体の数として取得し前記数値記憶手段に設定することを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項4】
アンテナの交信領域内に存在する複数の通信媒体からの情報をタイムスロット方式のアンチコリジョン機能を利用して受信する無線通信装置において、
前記通信媒体は、梱包体毎に設けられ、少なくともその梱包体の個別管理情報を記憶する第1の通信媒体と、前記梱包体によって梱包される個体毎に設けられ、少なくともその個体の個別管理情報を記憶する第2の通信媒体とを含み、
タイムスロット数を決定するための数値を可変自在に記憶する数値記憶手段と、
前記第1の通信媒体に記録されている個別管理情報に関連付けて、当該第1の通信媒体が設けられた前記梱包体によって梱包される個体の数を記憶するデータテーブルと、
前記データテーブルに記憶された情報から前記梱包体の数を取得する梱包体数取得手段と、
この梱包体数取得手段により取得した前記梱包体の数に基づいて前記数値を決定し前記数値記憶手段に設定する第1の数値設定手段と、
この第1の数値設定手段により設定された数値によって決定されるタイムスロット数のタイムスロット通信を、前記第1の通信媒体を読取対象として実行する第1の通信制御手段と、
この第1の通信制御手段によるタイムスロット通信の実行により前記第1の通信媒体から読み取られた個別管理情報で前記データテーブルを検索して関連する個体数を取得し、その総和を算出する個体数取得手段と、
この個体数取得手段により取得した前記個体数の総和に基づいて前記数値を決定し前記数値記憶手段に設定する第2の数値設定手段と、
この第2の数値設定手段により設定された数値によって決定されるタイムスロット数のタイムスロット通信を、前記第2の通信媒体を読取対象として実行する第2の通信制御手段と、
を具備したことを特徴とする無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−105661(P2009−105661A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275512(P2007−275512)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】