説明

無菌充填システム

【課題】多品種、少量生産に適した無菌充填システムを提供する。
【解決手段】無菌チャンバー10を備えた無菌充填ラインでポリエステルボトルに内容液を無菌充填するための無菌充填システムであって、前記無菌充填ラインが少なくとも3箇所に配設されており、各無菌充填ラインが備えている無菌チャンバー10には、それぞれ、その内部に、ボトルの供給ゾーン11、ボトルを殺菌液及び/又は熱水で殺菌する殺菌ゾーン13、内容液の充填ゾーン15及びキャップによる密封ゾーン17が配備されていると共に、前記無菌充填ラインの一つについて、ラインの稼動を停止して無菌チャンバー10内の殺菌処理を行う際には、他の複数の無菌充填ラインを稼動させておき、全ての無菌充填ラインの合計の処理能力本数の67%以上の処理能力を維持せしめながら無菌充填を実行することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料水、果汁飲料、炭酸飲料、茶類、コーヒー類などの飲料をPETボトルに代表されるポリエステルボトルに無菌充填するための無菌充填システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)の如きポリエステル樹脂により形成されたボトルは、優れた透明性や表面光沢性を有すると共に、ボトル等の容器に必要な耐衝撃性、剛性、ガスバリヤー性をも有しており、各種飲料等の液体用容器として広く使用されている。また、最近のポリエステルボトルは、熱固定によってその耐熱性も著しく高められている。
【0003】
このようなポリエステルボトルにおいては、従来より、各種飲料を無菌充填する方法が広く採用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
この無菌充填方法は、殺菌液や熱水によりボトルを殺菌し、次いでボトルに飲料等の内容液を充填し、さらにキャップによりボトルを密封するというものであり、これらの工程は、全て、無菌状態に維持された無菌チャンバー内で行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−287310号公報
【特許文献2】特開平7−291236号公報
【特許文献3】特開平7−76324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、飲料が充填されたPETボトルが大量に市販されている現状では、上記のように無菌充填法を実施するための無菌充填ラインの高速化が主流となっており、各飲料メーカーの生産工場においても、単位時間当りの処理本数の多い高速の無菌充填ラインが導入されるようになってきている。
【0006】
しかしながら、高速の無菌充填ラインを用いての無菌充填処理は、市販されている飲料ボトルの殆どが1リットル以下の小容量のものであり、しかも、飲料やボトルの種類も多くなかったときには、極めて生産性が高いが、多品種の飲料が容量や形態の異なるボトルに無菌充填して少量生産するような場合には、その生産性が極めて低いという問題がある。
【0007】
即ち、無菌充填をすべき内容液やボトルを変更する際には、そのラインを一旦停止し、無菌充填が実行されるチャンバー内を洗浄、殺菌した後、この後に、無菌充填すべき内容液やボトルの内容積に応じて殺菌液の種類や液量を設定変更し、次いでラインの再稼動が行われることとなる。しかるに、高速で無菌充填を行うラインほど、チャンバーが大きく、無菌充填に際しての殺菌液の液量も大量に供給するように設定されているため、その洗浄や加熱殺菌に多大の時間や労力を要するため、ラインの稼動停止時間が極めて長くなってしまうからである。因みに、一分間辺りのボトルの処理本数で示される処理能力が600BPM以上の高速無菌充填ラインにおいて、設定変更に際してのラインの稼動停止時間が6時間程度であり、その内、4時間程度がチャンバーの洗浄殺菌に要する時間となっている。
【0008】
現在では、500ml以下の小容量の飲料ボトルが多く市販され、しかも、飲料の種類も、水、各種の果汁飲料、炭酸飲料ばかりか、緑茶、紅茶、ウーロン茶、ミルク入りコーヒー類など、極めて多品種であり、その内容液の種類によって殺菌液も異なっている。このため、多品種、少量生産が主流の現況下では、高速無菌充填ラインでは、その生産性が高いとは言えず、その改善が求められている。
【0009】
従って、本発明の目的は、多品種、少量生産に適した無菌充填システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、無菌チャンバーを備えた無菌充填ラインでポリエステルボトルに内容液を無菌充填するための無菌充填システムであって、
前記無菌充填ラインが少なくとも3箇所に配設されており、
各無菌充填ラインが備えている無菌チャンバーには、それぞれ、その内部に、前記ボトルの供給ゾーン、前記ボトルを殺菌液及び/又は熱水で殺菌する殺菌ゾーン、内容液の充填ゾーン及びキャップによる密封ゾーンが配備されていると共に、
前記無菌充填ラインの一つについて、ラインの稼動を停止して無菌チャンバー内の殺菌処理を行う際には、他の複数の無菌充填ラインを稼動させておき、全ての無菌充填ラインの合計の処理能力本数の67%以上の処理能力を維持せしめながら無菌充填を実行することを特徴とする無菌充填システムが提供される。
【0011】
本発明の無菌充填システムにおいては、前記ポリエステルボトルの内容積が500ml以下であり、且つ各無菌充填ラインの設定処理本数が300乃至400BPMであることが、本発明の利点を最大限に活かす上で好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、3箇所以上の無菌充填ラインが並列して配置されており、無菌充填すべき内容液やボトルの種類の変更に際しては、その一つについて稼動停止し、無菌チャンバー内の殺菌処理を行うときに、他の複数の無菌充填ラインを稼動させておく。これにより、常時、全ての無菌充填ラインの合計の処理能力本数の67%以上の処理能力を維持して無菌充填を実行することができ、ラインの稼動停止が頻繁に行われる多品種及び少量生産においても、極めて高効率での生産性を確保することができる。
例えば、無菌充填ラインの設置数を2以下とした場合には、一つのラインを稼動停止したときには、そのときの稼動効率は50%となってしまい、稼動停止が頻繁に行われる多品種、少量生産での生産性が大きく低下してしまう。
【0013】
また、本発明においては、内容液が無菌充填されるポリエステルボトルとして内容積が500ml以下の小容量のものを使用し且つ各無菌充填ラインの処理能力(設定処理本数)を300乃至400BPMの範囲としたときに、上述した本発明の利点が最大限に発揮される。即ち、500ml以下の小容積のポリエステルボトルに充填される飲料の種類は極めて多く、このような内容積のポリエステルボトルに無菌充填を行うときに、ラインの稼動停止が頻繁に行われるため、本発明の利点を活かせることとなる。また、上記のような処理能力の無菌充填ラインは、適度な大きさのチャンバーで無菌充填を実行することができ、殺菌液の使用量もそれほど多くはなく、このため、稼動停止時におけるチャンバー内の殺菌処理を短時間で行うことができ、従ってラインの稼動停止時間を短くすることができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の無菌充填システムを実施するための無菌充填ラインの代表的な配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1において、本発明の無菌充填システムにおいては、3つの無菌充填ライン1a,1b,1cが並列して設置されており、無菌充填ライン1a〜1cのそれぞれは、それ自体公知の構造を有しており、それぞれチャンバー10を備えている。
【0016】
チャンバー10内には、ボトルの搬送装置が延びており、チャンバー10の入り口側から出口側に向かって順に、供給ゾーン11、殺菌ゾーン13、充填ゾーン15及び密封ゾーン17が配置されており、内容液を充填すべきポリエステルボトルが、搬送装置によって順に各ゾーンに連続的に導入され且つ排出されるようになっている。
【0017】
チャンバー10内は、所謂クリーンルームと呼ばれるものであり、滅菌フィルターを介しての換気や壁面や搬送装置の殺菌処理などによって、レベルが10,000程度のクリーン度に維持されている。また、各ゾーンは、ブースなどによって互いに仕切られていてもよい。
【0018】
内容液を無菌充填すべきポリエステルボトルは、代表的にはポリエチレンテレフタレート(PET)製であるが、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の他のポリエステル製であってもよい。また、後述する熱水による殺菌など、高温に曝されるようなときには、このポリエステルボトルは、成形後或いは成形時での熱固定により耐熱性を向上させておくことが好適である。
【0019】
さらに、このポリエステルボトルは、内容積が500ml以下の小容量ボトルであることが好適である。このような小容量ボトルは、先にも述べたように、生産量のすくない多品種の飲料について、多く適用されており、しかも、その形態も種々のものがあり、頻繁にボトルの交換や内容液の変更が行われるものだからである。
【0020】
このようなポリエステルボトルは、クリーンな状態に保持されているチャンバー10内の供給ゾーン11に導入され、搬送装置により倒立状態に保持され、必要により、温水によりボトルの外面や内面がリンスされ、次の殺菌ゾーン13に搬送される。
【0021】
殺菌ゾーン13においては、ボトル内に充填する内容液の種類に応じて、殺菌液或いは熱水により殺菌処理が行われる。
殺菌液としては、通常、過酸化水素水、過酢酸水溶液、過酸化水素と過酢酸との混合液、次亜塩素酸ソーダの水溶液などが代表的である。また、熱水としては、通常、63℃以上の温度のものが使用される。
【0022】
例えば、ミネラルウオーターなどの飲料水やミルク入り飲料(コーヒー、紅茶等)などの飲料をボトルに充填する場合には、高度の殺菌を要するため、過酸化水素と過酢酸との混合液や次亜塩素酸ソーダの水溶液が適度の濃度に調整されて殺菌液として使用される。また、各種の果汁類を充填する場合には、殺菌の程度は中程度でよく、通常、過酸化水素水や過酢酸水溶液が使用される。さらに、炭酸飲料やお茶類(緑茶、ウーロン茶等)、或いはミルクが添加されていないコーヒーや紅茶類では、要求される殺菌レベルは低く、熱水による殺菌が行われる。
【0023】
尚、上記のような殺菌を、殺菌液を用いて行ったときには、その後、温水によりボトル内のリンスが行われる。熱水により殺菌が行われたときは、このようなリンスは必要でない。
【0024】
尚、ボトル内面のリンスや殺菌は、ボトル内に液供給用ノズルを侵入させ、このノズルから液を吐出することにより行われる。
【0025】
殺菌終了後のボトルは、殺菌ゾーン13から充填ゾーン15に搬送され、このゾーン15で、公知の反転装置によって倒立状態から正立状態にボトルを復帰させ、次いで内容液供給パイプにより、内容液のボトル内への充填が行われる。この内容液としては、既に述べたように、ミネラルウオーター等の飲料水、各種の果汁飲料、コーラ等の炭酸飲料、緑茶、紅茶、ウーロン茶等の茶類、コーヒー類など、ミルクなどの乳製品が添加されているものや添加されていないものなど、高レベルの殺菌処理から低レベルの殺菌処理が要求されるものまで、多種の飲料があり、本発明は、何れの内容液の充填にも適用される。
【0026】
ボトル内の内容液の充填後には、成立状態のまま、密封ゾーン17に搬送され、キャップによる密封が行われる。
【0027】
密封に用いるキャップは、別個のラインで、前記と同様の殺菌液等により殺菌処理が行われたものであり、密封操作は、キャップのタイプに応じて行われる。例えば、ボトルの口部に螺子係合するタイプのキャップでは、適当な治具により、内容液が充填されたボトルの口部にキャップを被せ、この状態で閉栓方向に回転することにより密封が行われる。また、容器口部に嵌合固定するタイプのキャップでは、このキャップをボトルの口部に被せた状態で打栓することにより密封が行われる。
【0028】
キャップによる密封が行われた後は、適宜、温水洗浄等によりボトルの外面を洗浄した後、チャンバー10内から排出され、適宜、乾燥した後、製品として販売に供される。
【0029】
上記のような無菌充填が、3箇所の無菌充填ライン1a〜1cのそれぞれで並行して行われるが、本発明において、例えばボトルや内容液の変更を伴い製品の変更に際しては、一箇所の無菌充填ライン(例えば1a)の稼動を停止し、他の無菌充填ライン(例えば1b、1c)については、そのまま、継続して稼動させ、無菌充填が行われる。
【0030】
無菌充填ライン1aの稼動停止時には、チャンバー10内の殺菌処理や充填する内容液の変更(或いは、それに伴う供給パイプや殺菌液などの変更)などが行われる。チャンバー10内の殺菌処理は、例えば、過酸化水素と過酢酸との混合液や次亜塩素酸ソーダの水溶液などの高度の殺菌液を使用してチャンバー10内に残存する内容液を除去し、次いで温水等により殺菌液をリンスすることにより行われ、この際、搬送装置を空運転しておくことが好適である。また、このような稼動停止時の殺菌処理は、チャンバー10内の各ゾーン毎に行ってもよい。
【0031】
本発明において、上記のようにして一つの無菌充填ライン1aを稼動停止し、その殺菌処理を完了した後は、このラインを稼動せしめ、設定変更に応じた無菌充填を行い、次いで他の無菌充填ライン1b,1cについて、同様にして、他のラインを稼動させながら一つのラインづつ、稼動停止し、同様の殺菌処理を行い、設定変更にしたがって稼動を再開させればよい。
【0032】
本発明によれば、上記のようにして3箇所の無菌充填ライン1a〜1cの内のひとつのライン毎に稼動停止及び殺菌処理を伴う設定変更を行っていくことにより、常に高い稼働率(即ち、各無菌充填ラインの合計の処理能力の67%以上)で常時生産を行うことができ、多品種の内容液について少量生産を効率的に行うことができる。
【0033】
また、上記の例では、3つの無菌充填ライン1a〜1cを設けた例を示したが、当然のことながら4以上の数で無菌充填ラインを設けることができ、この場合にも、一つの無菌充填ライン毎に、稼動停止及び殺菌処理を伴う設計変更を行い、他のラインは、そのまま稼動させておけばよい。これにより、稼動効率をさらに高めることができるので、生産工場の設置スペースの大きさに応じて、適宜の数の無菌充填ラインを設けておけばよい。
【0034】
さらに、本発明においては、設置する各無菌充填ラインの処理能力(設定処理本数)は、一般に、300乃至400BPMの範囲とすることが最適である。即ち、この処理能力が著しく高い高速の無菌充填ラインでは、チャンバー容積が著しく大きくなるばかりか、無菌充填のために使用する殺菌液等も大量に使用されるため、稼動停止時のチャンバー内の殺菌に例えば6時間以上を要し、稼動停止時間が著しく長い。しかるに、上記のような処理能力の無菌充填ラインであれば、その処理本数は少ないが、稼動停止時の殺菌処理を短時間で行うことができ、従って、ラインに設定変更が頻繁に行われる多品種、少量生産での無菌重点を極めて効率よく行うことが可能となるからである。
【0035】
このように、本発明は、特に500ml以下の小容量ポリエステルボトルの無菌充填を極めて高い生産効率で実施することができる。
【符号の説明】
【0036】
1a〜1c:無菌充填ライン
10:チャンバー
11:供給ゾーン
13:殺菌ゾーン
15:充填ゾーン
17:密封ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無菌チャンバーを備えた無菌充填ラインでポリエステルボトルに内容液を無菌充填するための無菌充填システムであって、
前記無菌充填ラインが少なくとも3箇所に配設されており、
各無菌充填ラインが備えている無菌チャンバーには、それぞれ、その内部に、前記ボトルの供給ゾーン、前記ボトルを殺菌液及び/又は熱水で殺菌する殺菌ゾーン、内容液の充填ゾーン及びキャップによる密封ゾーンが配備されていると共に、
前記無菌充填ラインの一つについて、ラインの稼動を停止して無菌チャンバー内の殺菌処理を行う際には、他の複数の無菌充填ラインを稼動させておき、全ての無菌充填ラインの合計の処理能力本数の67%以上の処理能力を維持せしめながら無菌充填を実行することを特徴とする無菌充填システム。
【請求項2】
前記ポリエステルボトルの内容積が500ml以下であり、且つ各無菌充填ラインの設定処理本数が300乃至400BPMである請求項1に記載の無菌充填システム。

【図1】
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【公開番号】特開2011−116396(P2011−116396A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273784(P2009−273784)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】