説明

無電極放電灯

【課題】
放電ガスとして水銀を含み、小型・高出力で発光効率の高い無電極放電灯を提供する。
【解決手段】
無電極放電灯では、プラズマ化した放電ガス中の電子密度が高い場所では、水銀から放射される300〜450nmの波長領域の電磁波の、放射強度が強くなる。よって、その内側に誘導コイル4を収納した内管2上では、上記波長範囲の電磁波強度が強い。そこで本発明では、内管蛍光体膜6中の全蛍光体に占める上記波長範囲の電磁波を吸収する蛍光体の含有率を、外管蛍光体膜5における該含有率よりも高くした。すなわち、上記波長範囲の電磁波が多い場所ではその電磁波を吸収する蛍光体が多く存在することになる。これによって、本発明に係る無電極放電灯は、水銀から放射される電磁波を効率的に可視光に変換し、高い発光効率を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀を含む放電ガスを有した、無電極放電灯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来無電極放電灯として、透光性材料から電球状に形成されたバルブと、バルブの外面から内部に向かって落ち窪んで形成された凹部に収納される誘導コイルとを備え、バルブ内部に水銀を含む放電ガスを封入したものが提供されている。
【0003】
この無電極放電灯では、誘導コイルに高周波電流を流すと、バルブ内部に高周波電磁場が発生し、バルブ内部の放電ガスがプラズマ化する。このプラズマ中では、上記放電ガス中の水銀蒸気がプラズマ中の電子やイオンによって励起され、この励起された水銀原子は、エネルギーの低い励起状態あるいは基底状態に遷移する際に紫外〜可視領域の電磁波を放射する。水銀から放射されたこの電磁波は、予めバルブの内面に形成されている蛍光体膜によって可視光に変換される。これによって、当該放電灯は可視光を放射している。
【0004】
上記バルブの内面に形成される蛍光体膜中の蛍光体は、水銀から放射される電磁波の波長特性や、所望の放射光の特性によって、適宜選択される。現在照明に利用されている無電極放電灯は、バルブ内部の放電ガスの圧力が数100Pa以下のものが一般的であるため、上記蛍光体には、低圧放電の蛍光ランプに用いられる蛍光体と同様、水銀の254nmの輝線を生じる電磁波に最適化された蛍光体が、広く使用されている。
【0005】
また上記のような無電極放電灯において、凹部に形成される蛍光体膜とそれ以外の部分に形成される蛍光体膜とで、異なる特性の蛍光体を用いたものも提供されている。例えば特許文献1には、バルブの凹部に形成された蛍光体膜の、紫外線を可視光線に変換する変換効率を、バルブの凹部以外の部分に形成された蛍光体膜よりも高くした無電極放電灯が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3785189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような無電極放電灯におけるプラズマ中の電子密度は、高周波電磁場の強度が強くなるほど増加する。またプラズマ中の電子密度が高くなると、高圧水銀ランプの場合と同様に、254nmよりも長波長である近紫外〜可視領域の輝線(313nm、365nm、405nm、436nm〜)を生じる電磁波の、放射強度が強くなる。従って、無電極放電灯の特に誘導コイル近傍においては、強い電磁場のために当該波長領域の電磁波の放射強度が強くなっている。
【0008】
しかし従来の無電極放電灯では、蛍光体として水銀の254nmの輝線を生じる電磁波に最適化されたものを用いているため、300〜450nmの波長領域の電磁波で励起されにくく、発光効率が低くなるおそれがあった。一方、300〜450nmの波長領域の電磁波で励起される蛍光体をバルブ内面の蛍光体膜に均等に使用した場合には、300〜450nmの波長領域の電磁波の放射強度が低い場所において、蛍光体膜による変換効率が低下するおそれがある。これは、水銀から放射される電磁波の強度に対して、放電灯から放射される可視光の強度が低下することになるため、水銀から放射される電磁波の強度が制限される小型の放電灯の際に、特に問題になる。
【0009】
また、上記特許文献1に記載された従来例では、先述の通り、バルブの凹部に形成された蛍光体膜の、紫外線を可視光に変換する変換効率が、その他の部位に形成された蛍光体膜よりも高くなっている。しかしこれは、水銀から放射される近紫外〜可視領域の電磁波に着目してなされたものではなく、また、人の目の感度が低い短波長の可視光を有効に利用できない、という課題が残る。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものであり、小型・高出力で発光効率の高い無電極放電灯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、透光性材料からなる外管及び、該外管の外面から該外管の内部に向かって落ち窪んだ略筒状の内管を有し、その内部に水銀を含む放電ガスを封入したバルブと、前記内管の窪み内に配設され、前記バルブの内部に高周波電磁場を発生させる誘導コイルと、前記外管の前記放電ガスと接する表面に形成された外管蛍光体膜と、前記内管の前記放電ガスと接する表面に形成された内管蛍光体膜とを備え、前記外管蛍光体膜は、蛍光体として少なくとも、300nm以下の波長に励起スペクトルのピークを持つ短波長励起蛍光体を含有し、前記内管蛍光体膜は、蛍光体として少なくとも、300nm〜450nmの波長範囲に現れる水銀輝線のうち少なくとも一本以上の該輝線の波長において、前記短波長励起蛍光体よりも高い発光効率を有する、長波長励起蛍光体を含有し、前記外管蛍光体膜中での、全蛍光体に対する前記長波長励起蛍光体の含有率が、前記内管蛍光体膜中での該含有率よりも低いことを特徴とする。
【0012】
請求項1の発明によれば、誘導コイル近傍であって水銀から300〜450nmの波長範囲の電磁波が強く照射される内管の蛍光体膜は、この波長範囲の電磁波で励起される蛍光体の含有率が高く、水銀から300nm以下の波長範囲の電磁波が強く照射される外管の蛍光体膜は、この波長範囲の電磁波で励起される蛍光体の含有率が高くなっている。これによって、水銀から放射される紫外〜可視領域の電磁波を効率的に可視光に変換し、発光効率を高めることができる。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記外管蛍光体膜及び前記内管蛍光体膜は、蛍光体として、3価のユーロピウムで付活された酸化イットリウムと、3価のセリウム及び3価のテルビウムで付活されたリン酸ランタンと、2価のユーロピウムで付活されたアルミン酸マグネシウム・バリウムの混合物を有し、前記外管蛍光体膜中での、全蛍光体に対する、2価のユーロピウムで付活されたアルミン酸マグネシウム・バリウムの含有率が、前記内管蛍光体膜中での該含有率よりも低いことを特徴とする。
【0014】
請求項2の発明によれば、請求項1における外管蛍光体膜及び内管蛍光体膜中の蛍光体として、上記の蛍光体を用いることによって、請求項1と同様の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、小型・高出力で発光効率の高い無電極放電灯を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態の断面図である。
【図2】グラフ内の最大値を100に規格化した、3価のユーロピウムで付活された酸化イットリウムの、励起スペクトルである。
【図3】グラフ内の最大値を100に規格化した、3価のセリウム及び3価のテルビウムで付活されたリン酸ランタンの、励起スペクトルである。
【図4】グラフ内の最大値を100に規格化した、2価のユーロピウムで付活されたアルミン酸マグネシウム・バリウムの、励起スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る無電極放電灯の実施の形態を、図1に示す。
【0018】
本実施形態は、外管1、内管2、及び排気細管7からなるバルブ3と、誘導コイル4と、外管蛍光体膜5及び内管蛍光体膜6と、バルブ3の内部に封入された、水銀を含む放電ガス、水銀アマルガム8、及びガラスロッド9を備えている。
【0019】
外管1は、透光性材料からなる略球状の球形部11と、略円筒状の底部12とから、いわゆる電球状に形成されている。その底部12の底面からは、球形部11内部に向かって落ち窪んだ略円筒状に、内管2が形成される。また内管2の底面からは、内管2の壁面に対して平行に、外管1の底部12に向かって略円筒状の排気細管7が形成されている。
【0020】
上記の外管1、内管2、及び排気細管7からなるバルブ3の内部には、アルゴンやクリプトンなどのバッファガスとしての希ガス及び、水銀が放電ガスとして封入されており、希ガスの圧力は数Pa〜数100Paに設定されている。
【0021】
また、内管2の内側かつ排気細管7の周囲には誘導コイル4が巻回され、誘導コイル4はバルブ3外部で高周波電源10に接続されている。
【0022】
外管1の上記放電ガスと接する内側の面には外管蛍光体膜5が形成され、内管2の上記放電ガスと接する外側の面には内管蛍光体膜6が形成されている。また、バルブ3と各々の蛍光体膜の間には、酸化アルミニウムなどの、バルブ3を保護するための保護膜(図示せず)が塗布されている。上記外管蛍光体膜5及び内管蛍光体膜6の蛍光体には、3価のユーロピウムで付活された酸化イットリウム(Y:Eu3+、以下YOXと記す)と、3価のセリウム及び3価のテルビウムで付活されたリン酸ランタン(LaPO:Ce3+,Tb3+、以下LAPと記す)と、2価のユーロピウムで付活されたアルミン酸マグネシウム・バリウム(BaMgAl1627:Eu2+、以下BAMと記す)を混合して用いている。尚、蛍光体中に占めるBAMの割合は、内管蛍光体膜6の方が外管蛍光体膜5よりも高くなっている。ここで、YOXの励起スペクトルを図2に、LAPの励起スペクトルを図3に、BAMの励起スペクトルを図4に示す。各図のグラフは、横軸の波長の電磁波が照射されたときに蛍光体から放射される電磁波強度の、相対値をあらわす。本実施形態では、YOXは、主として水銀の185nm及び254nmの輝線を生じる電磁波で励起され、赤色の光を放射する。LAPは、主として水銀の185nm及び254nmの輝線を生じる電磁波で励起され、緑色の光を放射する。BAMは、主として水銀の紫外〜可視領域の輝線を生じる電磁波で励起され、青色の光を放射する。
【0023】
また略円筒状の排気細管7の内部には、水銀蒸気圧を一定に保つための水銀アマルガム8及び、水銀アマルガム8を固定するガラスロッド9が配設されている。
【0024】
上記実施形態において誘導コイル4に高周波電流を流すと、誘導コイル4の周りに高周波電磁場が発生し、バルブ3内部の電子が加速される。この加速された電子がバルブ3内部の放電ガスと衝突すると、放電ガスが電離され、プラズマが発生する。このプラズマ中では、電離した放電ガスからエネルギーを与えられることによって水銀原子が励起し、この水銀原子が基底状態あるいはエネルギー準位の低い励起状態に遷移する際に、電磁波を放射する。
【0025】
ここで、上記プラズマ中の電子密度は、先に述べたように高周波電磁場が強い場所、すなわち誘導コイル4近傍で最も高くなる。従って誘導コイル4近傍では、その他の場所に比べて、水銀から放射される300〜450nmの波長範囲に輝線を生じる電磁波(313nm、365nm、405nm、436nm)の放射強度が強い。本実施形態では、先述の通り、誘導コイル4は内管2の内部に収納され、また内管蛍光体膜6中の蛍光体に占めるBAMの割合が高くなっている。よって、誘導コイル4近傍で水銀から放射されるこの波長領域の電磁波は、内管蛍光体膜6により効率的に可視光に変換される。また、誘導コイル4近傍以外の場所では、低圧放電の蛍光ランプと同様に、185nm及び254nmの輝線を生じる電磁波の放射強度が強いが、この電磁波は、YOX及びLAPを多く含有した外管蛍光体膜5によって効率的に可視光に変換される。
【0026】
以上のように、本実施形態では、内管蛍光体膜6中の全蛍光体に占めるBAMの割合が、外管蛍光体膜5中の当該割合よりも高い。従って、300〜450nmの波長領域の電磁波が強い場所ではこれによって励起される蛍光体(BAM)が多く、また、254nmの輝線を生じる電磁波が強い場所ではこれによって励起される蛍光体(YOX、LAP)が多いことになる。これによって、水銀から放射される電磁波を従来の無電極放電灯よりも効率的に可視光に変換して、高い発光効率を得ることができる。
【0027】
本実施形態では、水銀の300〜450nmの波長領域の輝線を生じる電磁波で励起される蛍光体としてBAMを用いたが、これの代わりに、BAMと同様に水銀の300〜450nmの波長領域の輝線を生じる電磁波で励起される蛍光体として、例えば2価のユーロピウムで付活されたクロロリン酸バリウム・カルシウム・マグネシウム((Ba,Ca,Mg)10(POCl:Eu2+)や、2価のユーロピウムで付活されたクロロリン酸ストロンチウム・カルシウム((Sr,Ca)10(POCl:Eu2+)、3価のセリウム及び3価のテルビウムで付活されたケイ酸イットリウム(YSiO:Ce3+,Tb3+)、2価のユーロピウム及び2価のマグネシウムで付活されたアルミン酸バリウム・マグネシウム(BaMgAl1627:Eu2+,Mn2+)、2価のユーロピウムで付活されたアルミン酸ストロンチウム(SrAl1425:Eu2+)、3価のテルビウムで付活されたアルミン酸酸化イットリウム(Y・Al:Tb3+)などを用いてもよい。
【0028】
また外管蛍光体膜5は、BAMなどの水銀の300〜450nmの波長領域の輝線を生じる電磁波で励起される蛍光体を、必ずしも含有する必要はない。
【0029】
また、誘導コイル4に流す高周波電流が数100kHz〜数MHzの比較的低い周波数の場合には、誘導コイル4のインピーダンスを大きくするために、誘導コイル4の内側にフェライト製のコアを設けてもよい。誘導コイル4が変形しやすい場合には、誘導コイル4をコイルボビンに巻いて使用してもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 外管
2 内管
3 バルブ
4 誘導コイル
5 外管蛍光体膜
6 内管蛍光体膜
7 排気細管
8 水銀アマルガム
9 ガラスロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性材料からなる外管及び、該外管の外面から該外管の内部に向かって落ち窪んだ略筒状の内管を有し、その内部に水銀を含む放電ガスを封入したバルブと、前記内管の窪み内に配設され、前記バルブの内部に高周波電磁界を発生させる誘導コイルと、前記外管の前記放電ガスと接する表面に形成された外管蛍光体膜と、前記内管の前記放電ガスと接する表面に形成された内管蛍光体膜とを備え、
前記外管蛍光体膜は、蛍光体として少なくとも、300nm以下の波長に励起スペクトルのピークを持つ短波長励起蛍光体を含有し、前記内管蛍光体膜は、蛍光体として少なくとも、300nm〜450nmの波長範囲に現れる水銀輝線のうち少なくとも一本以上の該輝線の波長において、前記短波長励起蛍光体よりも高い発光効率を有する、長波長励起蛍光体を含有し、
前記外管蛍光体膜中での、全蛍光体に対する前記長波長励起蛍光体の含有率が、前記内管蛍光体膜中での該含有率よりも低いことを特徴とする無電極放電灯。
【請求項2】
前記外管蛍光体膜及び前記内管蛍光体膜は、蛍光体として、3価のユーロピウムで付活された酸化イットリウムと、3価のセリウム及び3価のテルビウムで付活されたリン酸ランタンと、2価のユーロピウムで付活されたアルミン酸マグネシウム・バリウムの混合物を有し、
前記外管蛍光体膜中での、全蛍光体に対する、2価のユーロピウムで付活されたアルミン酸マグネシウム・バリウムの含有率が、前記内管蛍光体膜中での該含有率よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の無電極放電灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−192259(P2010−192259A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35632(P2009−35632)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】