説明

無電解めっき処理方法、及び無電解めっき処理用のアルカリ溶液

【課題】処理時間を延ばすことなく、樹脂の表面に安定して均一なめっき被膜を形成することができる無電解めっき処理方法を提供する。
【解決手段】不飽和結合を有する樹脂の表面にオゾン水処理を行う工程と、該オゾン水処理を行った樹脂表面に界面活性剤を少なくとも含むアルカリ溶液を接触させてアルカリ処理を行う工程と、該アルカリ処理後の樹脂の表面に金属触媒を吸着させる工程と、該金属触媒を吸着させた樹脂の表面に無電解めっきを行う工程と、を少なくとも含む、無電解めっき処理方法であって、前記アルカリ水溶液に含む界面活性剤は、陽イオン界面活性剤及び陰イオン界面活性剤を含む界面活性剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子樹脂の表面に無電解めっきを行う処理方法及び該処理用のアルカリ溶液に係り、特に、均一なめっき処理を行うことができる無電解めっき処理方法及びその処理用のアルカリ溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高分子樹脂の表面に、導電性や光沢性を付与すべく金属めっき被膜を形成する場合、無電解めっき処理を行うことが多い。この無電解めっき処理とは、導電性を有しない樹脂表面に、溶液中の金属イオンを化学的に還元析出させて、高分子樹脂の表面に、金属被膜を形成する処理である。
【0003】
このように、無電解めっき処理は、化学的な還元反応を利用しているので、電力によって電界析出させる電気めっきとは異なり、一般的に絶縁体からなる高分子樹脂の表面であっても金属被膜(金属めっき層)を形成することができる。さらに、金属被膜の形成後に、電気めっきを行うことも可能であり、金属被膜の強度だけでなく、意匠性も格段に向上することになる。
【0004】
ところで、無電解めっきにより形成された金属被膜は、樹脂との密着性が充分でないことから、例えば以下の方法が前処理として採られている。具体的には、無電解めっき処理を行う前に、不飽和結合を有する樹脂の表面にオゾン水処理を行い、該オゾン水処理を行った樹脂表面に界面活性剤を少なくとも含むアルカリ溶液を接触させてアルカリ処理を行い、さらに、アルカリ処理後の樹脂表面にパラジウムなどの金属触媒を吸着させて触媒化処理を行う(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この方法によれば、オゾン水処理により、樹脂表面の不飽和結合が部分的に切断され、C−OH結合又はC=O結合をもつ官能基が付与されて樹脂表面が活性化する。その後、アルカリ処理により、アルカリ成分が、樹脂表面を分子レベルで溶解してその表面に官能基を表出させ、界面活性剤は、その官能基に吸着する。この吸着した界面活性剤を有した表面には、金属触媒が充分に吸着しやすくなる。このようにして、金属触媒が十分に吸着している樹脂に対して無電解めっき処理を行うことにより、界面活性剤が官能基から外れるとともに金属がC−OH結合又はC=O結合と結合すると考えられ、付着性に優れためっき被膜を形成することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−36292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記アルカリ処理に用いられる界面活性剤には、陰イオン界面活性剤、又は非イオン界面活性剤が使用されるが、アルカリ処理工程後に水洗を行った場合には、一旦、樹脂表面の吸着した界面活性剤が脱離する部位もある。その結果、樹脂表面に付着する触媒の量が低減してしまい、めっき未析出部分が発生することがあった。
【0008】
特に、陰イオン界面活性剤を用いた場合には、樹脂表面に吸着後乾燥すると脱離し易いため、アルカリ処理から水洗、該水洗から触媒化処理の工程間の移送中に、この脱離が生じ易い。成形品の乾燥した部分の触媒吸着量が低下してしまう。
【0009】
また、この界面活性剤は、通常無電解めっきの触媒として用いられるコロイド型の触媒化溶液に対しても、その吸着能は充分であるとはいい難い。そのため、樹脂への触媒吸着が不均一であり、効果の発現が不安定であるといえる。その結果、めっき未析出部分が発生する。このような場合には、オゾン水処理時間を8分以上行って、樹脂の表面をより活性化すべく、充分な表面改質をより進行させるしかなく、処理時間が大幅に長くなることもあった。
【0010】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、処理時間を延ばすことなく、樹脂の表面に安定して均一なめっき被膜を形成することができる無電解めっき処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決すべく、本発明に係る無電解めっき処理方法は、不飽和結合を有する樹脂の表面にオゾン水処理を行う工程と、該オゾン水処理を行った樹脂表面に界面活性剤を少なくとも含むアルカリ溶液を接触させてアルカリ処理を行う工程と、該アルカリ処理後の樹脂の表面に金属触媒を吸着させる工程と、該金属触媒を吸着させた樹脂の表面に無電解めっきを行う工程と、を少なくとも含む、無電解めっき処理方法であって、前記アルカリ溶液に含む界面活性剤は、陽イオン界面活性剤及び陰イオン界面活性剤を含む界面活性剤であることを特徴としている。
【0012】
本発明によれば、アルカリ溶液に含む界面活性剤として、陽イオン界面活性剤及び陰イオン界面活性剤の双方の界面活性剤を用いることにより、アルカリ処理工程において、陽イオン界面活性剤は、後述するパラジウムなどの金属触媒の吸着量を増加させるように作用し、陰イオン界面活性剤は、樹脂表面(樹脂からなる基材の表面)の濡れ性(親水性)を付与することができる。この結果、その後の工程において、充分に金属触媒が吸着され、この金属触媒の脱離を低減した状態で、無電解めっきを行うことができるので、無電解めっきにより樹脂表面に、安定して均一な金属被膜を形成することができる。
【0013】
「陰イオン界面活性剤」は、アニオン界面活性剤ともよばれ、水に溶けたときに、親水基の部分が陰イオンに電離する界面活性剤である。陰イオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩(セッケン)、アルファスルホ脂肪酸エステル塩(α−SF)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、アルファオレフィンスルホン酸塩(AOS)、アルキル硫酸塩(AS)、アルキルエーテル硫酸エステル塩(AES)、モノアルキルリン酸エステル塩(MAP)、アルカンスルホン酸塩(SAS)などが挙げられる。
【0014】
特に、これらの陰イオン界面活性剤のうち、オゾン水により生成したC=O及びC−OHのうち少なくとも一方の官能基に対して、その疎水基が吸着しやすいアルキル硫酸塩が好ましく、たとえば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウムなどを挙げることができる。この中でも、より好ましい陰イオン界面活性剤は、金属触媒に対して吸着性が優れており、かつ、安価に入手することができる理由から、ラウリル硫酸ナトリウムである。
【0015】
また、本発明でいう「陽イオン界面活性剤」は、カチオン界面活性剤ともよばれ、水に溶けたときに、親水基の部分が陽イオンに電離する界面活性剤である。陽イオン界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アミン塩系化合物などが挙げられる。
【0016】
これらの陽イオン界面活性剤のうち、アミン塩系化合物がより好ましい。このアミン塩系化合物は、−N−を有することにより、スズ/パラジウムコロイド触媒を強く引き付けることができるので、触媒吸着作用を向上させることができる。このようなアミン塩系化合物としては、第一級〜第三級アミン塩系化合物及び第四級アンモニウム塩系化合物のいずれであってもよく、例えば、Nメチルビスヒドロキシエチルアミン脂肪酸エステル塩酸塩などの陽イオン界面活性剤として一般的に用いられるアミン塩系化合物を挙げることができ、特にその構造は限定されるものではない。
【0017】
また、無電解めっきを行なう不飽和結合を有する樹脂としては、例えばABS樹脂、AS樹脂、PS樹脂、AN樹脂、エポキシ樹脂、PMMA樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニルサルファイド樹脂などを挙げることができる。
【0018】
このような、高分子樹脂に吸着させる金属触媒としては、パラジウム、銀、コバルト、ニッケル、ルテニウム、セリウム、鉄、マンガン、ロジウムなどの金属触媒を挙げることができ、これらの組み合わせであってもよい。さらに、金属被膜は、銅、ニッケル等の金属のめっき層を挙げることができ、無電解めっきにより、高分子樹脂の表面に金属めっき層が形成されるものであれば、特に限定されるものではない。しかしながら、より好ましい金属触媒は、パラジウム触媒であり、無電解めっきにより形成される被膜は、銅被膜である。パラジウム触媒は、上述した樹脂に対して吸着性において優れ、かつ、汎用性に富んでおり、銅被膜を形成する場合には、密着性等の観点から好適である。
【0019】
また、本発明として、前記無電解めっきの前処理工程にとしてアルカリ処理に用いるためのアルカリ溶液を開示する。本発明に係るアルカリ溶液は、不飽和結合を有する樹脂の表面に無電解めっきを行う前に、アルカリ処理を行うための界面活性剤を含む無電解めっき処理用のアルカリ溶液であって、前記界面活性剤は、陽イオン界面活性剤及び陰イオン界面活性剤を含む界面活性剤である。
【0020】
本発明に係るアルカリ溶液の前記陽イオン界面活性剤は、アミン塩系化合物であり、前記陰イオン界面活性剤は、アルキル硫酸塩であることがより好ましく、特に、前記陰イオン界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウムであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、処理時間を延ばすことなく、樹脂の表面に安定して均一なめっき被膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、図面を参照して、本発明に係る無電解めっき処理方法について実施形態に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る無電解めっき処理方法を説明するためのフロー図である。
【0023】
図1に示すように、まず、ABS樹脂などの不飽和結合を有する樹脂から基材を成形する成形工程S11を行なう。基材の成形方法は特に制限されず、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、射出成形など各種成形方法を採用できる。
【0024】
次に、オゾン水処理工程S12を行う。このオゾン処理工程において、少なくとも基材の処理表面(樹脂表面)にオゾン水(オゾンが溶存した水)を接触させて、処理表面の改質を行う。溶液中のオゾンによる酸化によって基材の表面の少なくとも一部の不飽和結合が切断され、オゾニド、メチロール基あるいはカルボニル基などが生成すると考えられる。
【0025】
このメチロール基、カルボニル基などは金属原子と化学結合を形成し得る官能基でありあるため、後述する無電解めっきによるめっき被膜と強く結合するので、めっき被膜と基材との付着強度を向上させることができる。
【0026】
オゾン水を基材の処理表面に接触の方法としては、基材の処理表面にオゾン水をスプレーしてもよく、基材をオゾン水中に浸漬してもよい。浸漬による基材へのオゾン水の接触は、スプレーによる基材へのオゾン水の接触に比べてオゾン水からオゾンが離脱し難いため好ましい。なお、本実施形態では、オゾン水を用いたがオゾンが溶存できる溶液であり、さらに、基材にダメージを与えるものでなければ、オゾンが溶存する溶媒は水に限定されるものではない。次に、熱処理工程S13を行なう。この熱処理によりオゾン水処理された樹脂の表面を乾燥し、かつ表面にある不要物を分解除去し、成形後の樹脂基材のひずみを緩和させる。
【0027】
次に、アルカリ処理工程S14を行う。具体的には、陰イオン界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウム、陽イオン界面活性剤としてアミン塩系化合物を含むアルカリ溶液に樹脂基材を接触させる。また、アルカリ溶液は、基材の表面を分子レベルで溶解して脆化層を除去できるアルカリ成分を含んでおり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ成分である。さらに、界面活性剤とアルカリ成分とを含む溶液の溶媒としては、極性溶媒を用いることが望ましく、水を代表的に用いることができるが、場合によってはアルコール系溶媒あるいは水−アルコール混合溶媒を用いてもよい。また溶液を基材と接触させるには、基材を溶液中に浸漬する方法、基材表面に溶液を塗布する方法、基材表面に溶液をスプレーする方法などで行うことができる。
【0028】
さらに、陽イオン界面活性剤の濃度、及び陰イオン界面活性剤の濃度は、共に0.001g/L以上の範囲にあることが好ましい。この濃度範囲における陽イオン及び陰イオン界面活性剤を用いることにより、より好適に無電解めっき処理を行うことができる。
【0029】
いずれか一方の濃度が0.001g/L未満の場合には、充分にこれらの界面活性剤が吸着しないため、十分にめっきがされないおそれがあり、10g/Lを超えた場合には、アルカリ溶液が泡立ちやすくなるため、好ましくない。
【0030】
また、アルカリ溶液中のアルカリ成分の濃度は、pH値で12以上であることが好ましく、pH値で12未満の場合には、界面活性剤とC=O及びC−OHからなる少なくとも一方の官能基との相互作用が弱くなって、充分なイオン結合が得られなく、めっきの未析出部分が発生する場合がある。
【0031】
次に、水洗工程を行なってから、プレディップ工程S15を行い、アルカリ処理により基材の表面に残留したアルカリ成分を塩酸等の酸性溶液により中和させる。その後、触媒化処理工程S16において、基材を、塩酸水溶液に塩化パラジウム及び塩化錫が溶解した触媒溶液中(キャタライザー)に浸漬する。これにより、基材の処理表面にPd触媒を吸着させる。
【0032】
そして、活性化処理工程S17において、少なくとも処理表面を酸性溶液に接触させて、Pd触媒の活性化を図り、その後、無電解めっき処理工程S18を行う。具体的には、基材の表面にめっき液を接触させ、めっき金属が基材の処理表面の官能基と結合し、基材の表面にめっき被膜が形成される。なお、この無電解めっき処理は、無電解めっき処理の条件、析出させる金属種なども制限されず、従来の無電解めっき処理と同様である。
【0033】
このように、アルカリ処理溶液に含む界面活性剤として、陰イオン界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム及び陽イオン界面活性剤であるアミン塩系化合物の双方の界面活性剤を用いることにより、アルカリ処理工程において、陽イオン界面活性剤は、パラジウム触媒の吸着量が増加するように作用し、陰イオン界面活性剤は、樹脂表面の濡れ性(親水性)を付与することができる。この結果、充分に金属触媒が吸着され、この金属触媒の脱離を低減した状態で、無電解めっきを行うことができる。これにより、無電解めっきにより樹脂表面に、安定して均一な金属被膜を形成することができる。
【実施例】
【0034】
本発明を実施例により以下に具体的に説明する。なお、以下の実施例に本発明は限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
以下の表1の工程1に示す順に処理を行い、ABS樹脂の基材の処理表面に、無電解めっき処理を行った。具体的には、まず、基材として100mm×50mm×厚さ3mmのABS樹脂からなる基材を準備した。この基材を40ppm,20℃,8分のオゾン水に浸漬させた。続いて、加熱工程において基材を70℃で2時間加熱した。アルカリ処理工程において、表2に示すように、陽イオン界面活性剤としてアミン系化合物(ENILEX NW(荏原ユージライト社製))50g/L、陰イオン界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウムを1g/L、アルカリ成分としてNaOHを50g/L溶解したpH値が14以上の混合水溶液を準備し、この溶液中に、基材を50℃で3分間浸漬した。そして、プレディップ工程において、基材を35質量%の塩酸に室温で1分間浸漬した。
【0036】
次に、触媒化処理工程として、3N塩酸水溶液に塩化パラジウムを0.1重量%溶解するとともに塩化錫を5重量%溶解し35℃に加熱された触媒溶液(ENILEX CT−580(荏原ユージライト社製))中に4分間浸漬し、次いで、活性化処理工程として、パラジウムを活性化するために、35質量%の塩酸に室温で4分間浸漬した。40℃に保温されたNi−P化学めっき浴((ENILEX NI−5(荏原ユージライト社製))中に基材を浸漬し、10分間Ni−P金属被膜を析出させた。析出したNi−P金属被膜の厚さは0.5μmである。
【0037】
さらに、同様の基材を準備して、同様に無電解めっき処理を行った。上記工程と相違する点は、アルカリ処理後、空中放置(大気中に放置)した点である(表1の工程2参照)。
【0038】
<評価方法>
実施例1の活性化処理後の基材を王水に浸漬しパラジウムを溶解し、その溶液の吸光度を高周波プラズマ発光分析装置ICPS−7510(株式会社島津製作所製)を用いて、測定することによりパラジウムの吸着量を測定した。これとは別に、同じ一連の処理を行って析出した金属被膜の状態(析出性)を目視で観察した。これらの結果を表3に示す。
【0039】
[比較例1]
実施例1と同様の基材を準備して、同様に無電解めっき処理を行った。実施例1−1と相違する点は、表2に示すように、アルカリ処理において、陰イオン界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウムを1g/L、アルカリ成分としてNaOHを50g/L溶解したpH値が14以上の混合水溶液を準備し、この溶液中に、基材を50℃で3分間浸漬した点が相違する。さらに、これと同じ条件で、アルカリ処理後、空中放置(大気中に放置)した点のみが相違した無電解めっき処理をおこなった。実施例1と同様に、パラジウムの吸着量及び金属被膜の状態(析出性)を目視で観察した。これらの結果を表3に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
<結果及び考察>
表3に示すように、実施例1は、いずれの工程の場合であっても、めっき析出性は良好であったが、比較例1は、工程2で行なったものが、部分的に未析出部分があり、パラジウムの吸着量も他のものに比べて少なかった。この結果から、空中放置時を行なった場合には、一旦吸着した界面活性剤が乾燥して、基材表面から脱離し易くなるが、実施例1の場合には、陽イオン界面活性剤及び陰イオン界面活性剤の双方の界面活性剤を用いることにより、アルカリ処理工程において、陽イオン界面活性剤は、パラジウムなどの金属触媒の吸着量を増加させるように作用し、陰イオン界面活性剤は、樹脂表面の濡れ性(親水性)を付与することができたと考えられる。この結果、充分に金属触媒が吸着され、かつ、この金属触媒の脱離を低減した状態で、無電解めっきを行うことができるので、無電解めっきにより樹脂表面に、安定して均一な金属被膜を形成することができる。
【0044】
[実施例2]
実施例1と同様の基材を準備して、表1の工程1により同様に無電解めっき処理を行った。実施例1と相違する点は、オゾン水処理時間を表1のように変更したものそれぞれに対して2水準製作し、これらのパラジウムの吸着量を測定した。この結果を表4に示す。さらに、無電解Niめっき処理後、さらに、硫酸銅系Cu電気めっき浴にて無電解めっき被膜の表面に銅めっきを40μm析出させ、2時間の熱処理を施した後、引張り試験機を用いてJIS H 8630に規定のピール剥離試験を実施した。この結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
[比較例2]
実施例1と同様の基材を準備して、同様に無電解めっき処理を行った。実施例2と相違する点は、アルカリ処理において、比較例1と同様のアルカリ溶液を用いた点である。そして、実施例2と同様に、パラジウムの吸着量及びピール試験を行なった。この結果を表4に示す。
【0047】
<結果及び考察>
比較例2のうちオゾン水処理時間が2分のものは、無電解めっき中に金属被膜が剥離してしまい、ポール強度は測定できなかった。実施例2及び比較例2のうちオゾン水処理時間が4分のものは、ピール強度が同等であった。
【0048】
実施例2のパラジウム吸着量は、比較例2のものに比べて多いく、時間変化によらず略安定した量であり、これにより、実施例2の場合は、安定した金属被膜が形成されていると考えられる。
【0049】
[実施例3−1〜3−3]
実施例1と同様の基材を準備して、表1の工程1により、同様に無電解めっき処理を行った。実施例1と相違する点は、表4に示すように、アルカリ処理において、陽イオン界面活性剤の量を順次変化して処理を行った点である。そして、実施例1と同様に、パラジウムの吸着量及び金属被膜の状態(析出性)を目視で観察した。これらの結果を表5に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
[比較例3及び4]
実施例3−1と同様の基材を準備して、表1の工程1により、同様に無電解めっき処理を行った。比較例3が実施例3−1と相違する点は、表5に示すように、アルカリ処理において、陽イオン界面活性剤(アミン塩系化合物の濃度)を、0.001g/L未満にした点であり、比較例4が相違する点は、アルカリ処理において、陽イオン界面活性剤(アミン塩系化合物の濃度)を、10g/Lを超えた点(20g/L)である。そして、実施例3−1と同様に、パラジウムの吸着量及び金属被膜の状態(析出性)を目視で観察した。これらの結果を表5に示す。
【0052】
<結果及び考察>
比較例3及び4の場合は、未析出部分が発生したが、実施例3−1〜3−3の場合は、析出性は良好であった。このことから、陽イオン界面活性剤の濃度は、0.001g/L以上、好ましくは0.01〜0.1g/Lの範囲にあることが好ましい。すなわち、陽イオン界面活性剤の濃度が0.001g/L未満の場合には、充分にこれらの界面活性剤が吸着しないため、均一にめっきがされないおそれがあり、10g/Lを超えた場合には、アルカリ溶液が泡立ちやすくなるため、好ましくない。この濃度範囲における陽イオン及び陰イオン界面活性剤を用いることにより、より好適に無電解めっき処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本実施形態に係る無電解めっき処理方法の各工程を示したフロー図。
【符号の説明】
【0054】
S11:成形工程、S12:オゾン水処理工程、S13:熱処理工程、S14:アルカリ処理工程、S15:プレディップ工程、S16:触媒処理工程、S17:活性化処理工程、S18:無電解めっき処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和結合を有する樹脂の表面にオゾン水処理を行う工程と、
該オゾン水処理を行った樹脂表面に界面活性剤を少なくとも含むアルカリ溶液を接触させてアルカリ処理を行う工程と、
該アルカリ処理後の樹脂の表面に金属触媒を吸着させる工程と、
該金属触媒を吸着させた樹脂の表面に無電解めっきを行う工程と、を少なくとも含む、無電解めっき処理方法であって、
前記アルカリ溶液に含む界面活性剤は、陽イオン界面活性剤及び陰イオン界面活性剤を含む界面活性剤であることを特徴とする無電解めっき処理方法。
【請求項2】
前記陽イオン界面活性剤は、アミン塩系化合物であり、前記陰イオン界面活性剤は、アルキル硫酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の無電解めっき処理方法。
【請求項3】
前記陰イオン界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項2に記載の無電解めっき処理方法。
【請求項4】
不飽和結合を有する樹脂の表面に無電解めっきを行う前に、アルカリ処理を行うための界面活性剤を含む無電解めっき処理用のアルカリ溶液であって、
前記界面活性剤は、陽イオン界面活性剤及び陰イオン界面活性剤を含む界面活性剤であることを特徴とする無電解めっき処理用のアルカリ溶液。
【請求項5】
前記陽イオン界面活性剤は、アミン塩系化合物であり、前記陰イオン界面活性剤は、アルキル硫酸塩であることを特徴とする請求項4に記載の無電解めっき処理用のアルカリ溶液。
【請求項6】
前記陰イオン界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項5に記載の無電解めっき処理用のアルカリ溶液。

【図1】
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【公開番号】特開2010−13708(P2010−13708A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175601(P2008−175601)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000120386)荏原ユージライト株式会社 (48)
【Fターム(参考)】