説明

無電解めっき処理方法

【課題】高分子樹脂からなる基材の表面に無電解めっき処理を行って、被膜を形成した場合であっても、この被膜と基材との密着信頼性を高めることができる無電解めっき処理方法を提供する。
【解決手段】不飽和結合を有する高分子樹脂の基材の処理表面に有機化合物を含む溶液を接触させて、前記処理表面を含む表面層を膨潤させる工程とS11、前記膨潤した表面層を加熱して、前記表面層に残留する前記溶液を除去する工程S12と、前記溶液を除去した表面層の前記処理表面にオゾン水を接触させて、前記処理表面にオゾン水処理する工程S14と、前記オゾン水処理した処理表面を無電解めっきする工程S19と、を少なくとも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂素材表面に無電解めっき処理を施して金属被膜(めっき被膜)を形成する場合に、該金属被膜の付着性を向上させることができる無電解めっき処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高分子樹脂の基材の表面に導電性や金属光沢を付与する方法として、無電解めっき処理が知られている。この無電解めっきとは、溶液中の金属イオンを化学的に還元析出させ、基材表面に金属被膜を形成する方法である。この無電解めっきは、電気めっきができない絶縁性を有した基材の表面にも金属被膜を形成することができるので有効なめっき方法である。
【0003】
また、金属被膜(めっき被膜)が形成された基材の表面は、導電性を有することになるので、電界析出を利用した電気めっきをすることもできる。そのため、自動車部品、家電製品などの分野に用いられる樹脂製の基材の表面に金属光沢を付与したり、導電性を付与したりする方法として、無電解めっき処理は広く用いられている。
【0004】
無電解めっき処理によって形成されためっき被膜は、基材に対する付着性が十分でないという問題があった。このような場合、たとえば、ジエンゴムやグラファイトを所定の割合添加したりして、基材の樹脂組成を制御することも図られている。しかし、このような樹脂を用いた場合には、製造コストが高くなり実用的ではない。また、使用箇所によっては、本来樹脂の物性そのものに望まれる耐衝撃性や耐候性が未添加のものに比べて劣ってしまうことがある。
【0005】
そこで、無電解めっき処理を行なう前に、基材表面にオゾン水処理等を行って表面を改質する方法が取られることがある。このオゾン水処理により、ABS樹脂などの不飽和結合を有する高分子樹脂をオゾン水に接触させると、樹脂表面が粗化することなく密着力を有する金属めっきを得ることができる。
【0006】
これは、オゾン水により改質された樹脂表面(基材表面)に生成する官能基とめっき触媒(例えばパラジウム触媒)化学的に結合すると同時に、前記めっき触媒の一部が樹脂内部に分散することで、ナノスケールでのアンカー効果が発現されるからである。
【0007】
しかし、オゾン水中の活性種である、オゾン・ヒドロキシルラジカルはライフタイムが非常に短いため、樹脂内部に浸透する前に失活してしまうことがある。この場合、オゾン水処理自体は、処理時間を長くしても、樹脂表面の前記改質は一定以上進行しないことがある。この結果、オゾン水処理を行ったとしても、めっき被膜の密着信頼性が十分とは言えず、これがめっきムラ等を引き起こすこともあった。
【0008】
そこで、このような問題点を鑑みて、以下の無電解めっき処理方法が提案されている。具体的には、この無電解めっき処理方法は、不飽和結合を有する高分子樹脂の基材の処理表面に対して、アセトンなどの有機溶剤を用いて前処理する前処理工程と、オゾンを含む溶液を前処理工程後の基材に接触させるオゾン処理工程と、オゾン処理工程後の基材をアルカリ溶液で処理するアルカリ処理工程と、処理された表面に無電解めっき処理を行う工程とを含む無電解めっき処理方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2003−293144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記実施形態によれば、前処理工程により、基材の処理表面を溶解又は膨潤させるべく、アセトンなどの有機溶剤を用いることにより、表面の粗化を図ろうとしているが、この処理表面に無電解めっきによりめっき被膜(金属被膜)を形成した場合であっても、充分に、均一に被膜の密着強度を維持することが出来ない箇所があった。
【0011】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高分子樹脂からなる基材の表面に無電解めっき処理を行って、被膜を形成した場合であっても、この被膜と基材との密着信頼性を高めることができる無電解めっき処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決すべく、発明者らは鋭意検討を重ねた結果、無電解めっきを行う前の処理工程として、高分子樹脂の基材の処理表面を膨潤させた場合、この基材の処理表面を含む表面層に溶液(有機溶剤)が残留し、さらに、処理表面の樹脂は、分子鎖で絡まりが緩くなり、処理表面から脱落しそうな部分もある。このような状態の処理表面にオゾン水処理を行い、その処理表面を改質させたとしても、充分に被膜と基材との密着特性を得ることができないとの知見を得た。
【0013】
そこで、発明者らは、前記表面層の分子鎖の状態を元の状態にまで回復させることが重要であると考え、表面層に残留する溶液を除去するまで加熱した場合に、前記表面層の分子鎖の状態が、膨潤前に近い状態にまで回復するとの新たな知見を得た。
【0014】
本発明は、この新たな知見に基づくものであり、本発明に係る無電解めっき処理方法は、不飽和結合を有する高分子樹脂の基材の処理表面に有機化合物を含む溶液を接触させて、前記処理表面を含む表面層を膨潤させる工程と、前記膨潤した表面層を加熱して、前記表面層に残留する前記溶液を除去する工程と、前記溶液を除去した表面層の前記処理表面にオゾン水を接触させて、前記処理表面をオゾン水処理する工程と、前記オゾン水処理した処理表面を無電解めっきする工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、無電解めっきにより被膜を形成する基材の処理表面の前記溶液を接触させて、その処理表面を含む表面層を膨潤させ、熱処理により、表面層に残留する前記溶液を揮発・分解などにより除去するので、この表面層の分子鎖の絡まりは、溶液を接触させる前の状態にまで回復することができる。この結果、基材の処理表面は、オゾン水処理工程における改質効果をより促進させることができるので、無電解めっきの密着強度を向上させることができる。
【0016】
このような有機化合物として、例えば芳香族炭化水素、低級アルキルエーテル、低級アルキルケトン、高級アルコール、非プロトン性極性溶媒を挙げることができる。例えば、芳香族炭化水素としては、ベンゼン、キシレン、トルエン、ナフタレン、又はビフェニルなどを挙げることができる。高級アルコールとは炭素数が5以上のアルコール化合物をいい、例えば、ペンタノール、ヘキサノール、またはオクタノールなどを挙げることができる。低級アルキルケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、又はアセチルアセトンなどを挙げることができる。
【0017】
しかしながら、より好ましくは、本発明に係る無電解めっき処理方法に用いる前記有機化合物は、低級アルキルエーテル又は非プロトン性極性溶媒である。ここで、本発明でいう低級アルキルエーテルとしては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、又はメチルエチルエーテルなどを挙げることができる。また、非プロトン性極性溶媒としては、N,Nジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドンなどを挙げることができる。
【0018】
このような、低級アルキルエーテル又は非プロトン性極性溶媒は、他の有機化合物に比べて、特に、素材を劣化させることなく、高い膨潤効果を得ることができ、無電解めっきによる形成された被膜と基材との密着性をより高めることができるので好適である。
【0019】
さらに、本発明に係る無電界めっき処理方法において用いる前記非プロトン性極性溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)であり、前記溶液は、エチレングリコールを含むことがより好ましい。
【0020】
本発明によれば、非プロトン性極性溶媒にN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を用いることで、オゾン水処理工程における改質効果をより一層促進させることができる。また、エチレングリコールは、基材の表面層を膨潤させる処理を調整するための助剤として用いることができる。すなわち、エチレングリコールにより溶液中の非プロトン性極性溶媒の濃度を調整し、基材の表面層を膨潤させる処理を調整することができる。このような助剤としては、水、アルコール等を挙げることができるが、特に、エチレングリコールは、その他の助剤に比べて、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などの有機化合物の濃度の調整がし易い点でより有利である。
【0021】
また、溶液に含まれる有機化合物の濃度は、10g/L以上が好ましく、100〜800g/Lの範囲がより好ましい。また、膨潤工程における溶液の処理温度は、0℃〜100℃が好ましく、25℃〜70℃がより好ましい。さらに、膨潤工程における処理時間は、1〜60分が好ましく、2〜15分がより好ましい。
【0022】
すなわち、有機化合物の濃度が800g/Lを越えた場合、前記処理温度が100℃を超えた場合、又は、前記処理時間が60分を超えた場合には、基材の表面が溶解し、その表面に亀裂が発生するおそれがある。また、有機化合物の濃度が10g/Lよりも小さい場合、前記処理温度が0℃よりも低い場合、又は、前記処理時間が1分よりも低い場合には、基材の表面層の膨潤が期待できない場合がある。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高分子樹脂からなる基材の表面に無電解めっき処理を行って、被膜を形成した場合であっても、この被膜と基材との密着信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、図面を参照して、本発明に係る無電解めっき処理方法について実施形態に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る無電解めっき処理方法を説明するためのフロー図である。
【0025】
図1に示すように、まず、不飽和結合を有する樹脂から基材を成形する成形工程S11を行なう。基材の成形方法は特に制限されず、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、射出成形など各種成形方法を採用できる。特に、射出成形により基材を成形した場合には、基材に内部応力が残留し、めっき被膜が剥離し易いので、以下に示す一連の処理方法は有効である。
【0026】
また、不飽和結合とはC=C結合、C=N結合、C≡C結合などをいい、このような不飽和結合をもつ樹脂としては、ABS樹脂、AS樹脂、PS樹脂、AN樹脂、エポキシ樹脂、PMMA樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニルサルファイド樹脂、などを用いることができるが、ここではABS樹脂を基材として用いる。
【0027】
次に、プリエッチング工程(膨潤工程)S12を行なう。ここでは、成形された基材のうち、めっき被膜が形成される処理表面に、有機化合物を含む溶液を接触させて、この処理面を含む表面層を膨潤させる。この際、有機化合物として、非プロトン性極性溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を用いる。また、溶液中の有機化合物の濃度を調整するために、エチレングリコールを溶液に加える。
【0028】
また、溶液に含まれるDMFの濃度、処理時間は長く、処理温度は高いほど効果的であるが、溶液に含まれるDMFの濃度は、10g/L以上が好ましく、100〜800g/Lの範囲がより好ましい。また、膨潤工程における溶液の処理温度は、0℃〜100℃が好ましく、25℃〜70℃がより好ましい。さらに、膨潤工程における処理時間は、1〜60分が好ましく、2〜15分がより好ましい。
【0029】
次に、熱処理工程(除去工程)S13を行う。この熱処理工程では、表面層が膨潤した基材を加熱して、表面層に残留する溶液(反応して残留した溶液の成分も含む)を除去する。具体的には、プリエッチング工程(膨潤工程)S12において、エチレングリコール及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)が残留しているので、これらを、加熱による揮発または分解等させて除去する。このときの加熱温度及び加熱時間は、溶液を揮発または分解させることができる条件であり、かつ、基材の樹脂が溶融または変質しない条件で行なうことが必要である。この条件を満たすことができるのであればよい。また、予め膨潤工程及び処理工程に合わせた試験を行うことにより、基材の加熱温度及び加熱条件を設定することができる。
【0030】
次に、オゾン水処理工程S14を行う。このオゾン処理工程において、少なくとも基材の処理表面にオゾン水(オゾンが溶存した水)を接触させて、処理表面の改質を行う。溶液中のオゾンによる酸化によって基材の表面の少なくとも一部の不飽和結合が切断され、オゾニド、メチロール基あるいはカルボニル基などが生成すると考えられる。
【0031】
この、メチロール基、カルボニル基などは金属原子と化学結合を形成し得る官能基でありあるため、後述する無電解めっきによるめっき被膜と強く結合するので、めっき被膜と基材との付着強度を向上させることができる。
【0032】
オゾン水を基材の処理表面に接触の方法としては、基材の処理表面にオゾン水をスプレーしてもよく、基材をオゾン水中に浸漬してもよい。浸漬による基材へのオゾン水の接触は、スプレーによる基材へのオゾン水の接触に比べてオゾン水からオゾンが離脱し難いため好ましい。なお、本実施形態では、オゾン水を用いたがオゾンが溶存できる溶液であり、さらに、基材にダメージを与えるものでなければ、オゾンが溶存する溶媒は水に限定されるものではない。
【0033】
次に、アルカリ処理工程S15を行なう。イオン性界面活性剤とアルカリ成分とを含む溶液を基材に接触させる。たとえば、イオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸カリウム、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリエチレングリコールドデシルエーテルなどを挙げることができる。
【0034】
さらに、アルカリ成分としては、基材の表面を分子レベルで溶解して脆化層を除去できるものを用いることができ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどを用いることができる。
【0035】
界面活性剤とアルカリ成分とを含む溶液の溶媒としては、極性溶媒を用いることが望ましく、水を代表的に用いることができるが、場合によってはアルコール系溶媒あるいは水−アルコール混合溶媒を用いてもよい。また溶液を基材と接触させるには、基材を溶液中に浸漬する方法、基材表面に溶液を塗布する方法、基材表面に溶液をスプレーする方法などで行うことができる。次に、プレディップ工程S16を行い、アルカリ処理により基材の表面に残留したアルカリ成分を塩酸等の酸性溶液により中和させる。
【0036】
その後、触媒処理工程S17において、基材を、塩酸水溶液に塩化パラジウム及び塩化錫が溶解した触媒溶液中に浸漬する。これにより、基材の処理表面にPd触媒を吸着させ、活性化処理工程S18において、少なくとも処理表面を酸性溶液に接触させて、Pd触媒の活性化を図る。そして、無電解めっき工程S19を行う。具体的には、基材の表面にめっき液を接触させ、めっき金属が基材の処理表面の官能基と結合し、基材の表面にめっき被膜が形成される。なお、無電解めっきの処理の条件、析出させる金属種なども制限されず、従来の無電解めっきの処理と同様である。
【0037】
このようにして、膨潤工程S11及び加熱工程S12により、基材の処理表面は、オゾン水処理の改質効果をより促進させることができるので、無電解めっきにより形成されためっき被膜と、基材との密着強度をより高めることができる。
【実施例】
【0038】
本発明を実施例により以下に具体的に説明する。なお、以下の実施例に本発明は限定されるものではない。
[実施例1]
以下の表1に示すようにして、ABS樹脂の基材の処理表面に、無電解めっき被膜を形成した。まず、基材として100mm×50mm×厚さ3mmのABS樹脂からなる基材を準備した。次に、プリエッチング工程として、600g/LのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)と200g/Lのエチレングリコールを含む溶液を準備し、基材を30℃で5分間浸漬した。次に、浸漬後の基材を70℃で2時間の加熱条件で加熱処理を行った。なお、この加熱処理は、プリエッチング工程で基材の膨潤した表面層に残留したDMFを除去可能となる加熱条件であり、予め、実験により求めた温度条件である。
【0039】
加熱処理工程後、30ppm,20℃、8分、基材を浸漬させた。続いて、アルカリ処理工程において、NaOHを50g/Lとラウリル硫酸ナトリウムを1g/L溶解した混合水溶液を準備し、この溶液中に、基材を50℃で3分間浸漬した。そして、プレディップ工程において、基材を35質量%の塩酸に室温で1分間浸漬した。
【0040】
次に、触媒処理工程として、3N塩酸水溶液に塩化パラジウムを0.1重量%溶解するとともに塩化錫を5重量%溶解し35℃に加熱された触媒溶液中に4分間浸漬し、次いで、活性化処理工程として、パラジウムを活性化するために、35質量%の塩酸に室温で4分間浸漬した。
【0041】
40℃に保温されたNi−P化学めっき浴中に基材を浸漬し、10分間Ni−P金属被膜を析出させた。析出したNi−P金属被膜の厚さは0.5μmである。
【0042】
【表1】

【0043】
[評価方法]
<めっき密着力>
無電解Niめっき処理後、さらに、硫酸銅系Cu電気めっき浴にて無電解めっき被膜の表面に銅めっきを40μm析出させ、2時間の熱処理を施した後、引張り試験機を用いてJIS H 8630に規定のピール剥離試験を実施した。
【0044】
[実施例2]
実施例1と同じように、基材の処理表面に無電解めっき処理を行った。プリエッチング工程として、実施例1と相違する点は、低級アルキルエーテルとしてジエチルエーテルを150g/Lと、200g/Lのエチレングリコールを含有したプリエッチング溶液を用い、この溶液に40℃、5分浸漬させた点が相違する。そして、実施例1と同様に、ピール剥離試験を実施した。
【0045】
[比較例1]
実施例1と同じように、基材の処理表面に無電解めっき処理を行った。実施例1と相違する点は、プリエッチング工程を行なわなかった点である。そして、実施例1と同様に、ピール剥離試験を実施した。
【0046】
[比較例2]
実施例1と同じように、基材の処理表面に無電解めっき処理を行った。実施例1と相違する点は、加熱処理工程を行なわなかった点である。そして、実施例1と同様に、ピール剥離試験を実施した。
【0047】
[比較例3]
実施例1と同じように、基材の処理表面に無電解めっき処理を行った。実施例1と相違する点は、プリエッチング溶液の有機化合物にアセトンを用いた点である。そして、実施例1と同様に、ピール剥離試験を実施した。
【0048】
[結果]
実施例1,実施例2のピール強度は2.0kgf/cm,0.8kgf/cmであった。比較例1,比較例2のピール強度は、0.4kgf/cm,0.1kgf/cmであり、いずれも、実施例1,2のものに比べて小さかった。また、比較例3のピール強度は、比較例1,2よりも大きかったが、実施例1,2よりも小さかった。
【0049】
[考察]
実施例1,2及び比較例1の結果から、基材の表面層を膨潤させたことにより、オゾン水処理の改質効果を促進させることができ、この結果、めっきの密着強度が向上したと考えられる。
【0050】
実施例1,2及び比較例2の結果から、基材の膨潤した表面層を熱処理した方が、めっきの密着強度が向上したと考えられる。これは、加熱を行なうことにより、表面層に残留する溶液成分を除去し、前記表面層が膨潤前の分子鎖の状態にまで回復し、この結果、オゾン水処理における改質効果をより促進させることができたと考えられる。
【0051】
比較例3の結果から、基材の処理表面層を膨潤させる有機化合物は、非プロトン性極性溶媒、又は、低級アルキルエーテルが特に優れており、素材を過剰に劣化(溶解・変形・マイロクラック等)することなく、膨潤できるからと考えられる。特に、非プロトン性極性溶媒を用いた場合は、より膨潤性が高いという理由から、より改質効果が促進されたと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本実施形態に係る無電解めっき処理方法の各工程を示したフロー図。
【符号の説明】
【0053】
S11:成形工程、S12:プリエッチング工程、S13:熱処理工程(除去工程)、S14:オゾン水処理工程、S15:アルカリ処理工程、S16:プレディップ工程、S17:触媒処理工程、S18:活性化処理工程、S19:無電解めっき処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和結合を有する高分子樹脂の基材の処理表面に有機化合物を含む溶液を接触させて、前記処理表面を含む表面層を膨潤させる工程と、
前記膨潤した表面層を加熱して、前記表面層に残留する前記溶液を除去する工程と、
前記溶液を除去した表面層の前記処理表面にオゾン水を接触させて、前記処理表面をオゾン水処理する工程と、
前記オゾン水処理した処理表面を無電解めっきする工程と、を少なくとも含むことを特徴とする無電解めっき処理方法。
【請求項2】
前記有機化合物は、低級アルキルエーテル又は非プロトン性極性溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の無電解めっき処理方法。
【請求項3】
前記非プロトン性極性溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)であり、前記溶液はエチレングリコールを含むことを特徴とする請求項2に記載の無電解めっき処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−65290(P2010−65290A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233925(P2008−233925)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000120386)荏原ユージライト株式会社 (48)
【Fターム(参考)】