説明

無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤を制御する方法

本発明は、無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法に関する。本発明の方法は、a)作動電極の表面を調整するステップと、b)作動電極の表面と中間体とを相互作用させるステップと、c)ファラデー電流を測定するステップと、d)ファラデー電流の値を求めるステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を制御する方法に関する。
【0002】
発明の背景
無電解金属または金属合金めっき電解質は、通常、イオン形態の1つまたは複数の析出すべき金属源、還元剤、錯化剤、pH調製剤、促進剤、および、1つまたは複数の安定化添加剤を含んでいる。安定化添加剤は、望ましくないプレートアウトが種々に発現しないよう、こうしためっき電解質を安定化する。実際に用いられるめっき電解質では、所望の電解質安定性を得るために、通常、数種の安定化添加剤混合物がいちどに用いられる。この場合、化学めっき電解質を有効に動作させるには、安定化添加剤混合物の最適な補充率を考慮することが鍵となる。安定化添加剤は典型的には1ppmから100ppmの低い濃度で用いられるので、動作中の化学めっき電解質には急速な化学変化が生じることがある。したがって、安定化添加剤または安定化添加剤混合物の分析および制御は複合的なタスクである。
【0003】
Kuznetsov et al., Surface and Coatings Technology, 28 (1996)の151頁−160頁によれば、ホルムアルデヒドおよびEDTAベースの無電解銅めっき電解質における、KFe(CN),メルカプトベンゾチアゾールおよび4−ベンゾイルピリジンを含む種々の安定化剤成分および添加剤の影響が、クロノポテンシオメトリ法を用いて、比較されている。この手法は、混合電位を時間に対して展開する無電流の測定法である。ここで検証されているのは、自触媒での銅析出にいたるまでの誘導期間に対する種々の添加物の影響のみである。ただし、クロノポテンシオメトリ法による信号には種々の添加物の濃度に対する関係は見られない。
【0004】
Paunovic, J.Electrochem.Soc., 127 (1980)の365頁−369頁には、還元剤としてホルムアルデヒドを用いる無電解銅めっき電解質に対する修正クロノポテンシオメトリ法およびその適用法が記載されている。ここでは、定電流での電極電位の変化が時間の関数として記録されている。この方法は、カソードおよびアノードの双方に定電流を印加することにより利用可能となる。カソードに電流を加えると、銅イオンの空乏化に起因して、過電位が時間の経過につれてカソード方向へ移動し、電解質の溶解が始まる。アノードに電流を加えると、ホルムアルデヒド分子の空乏化に起因して、過電位が時間の経過につれてアノード方向へ移動する。2つの定電位のあいだの時間は遷移時間と称され、その長さは印加される電流の電流密度に依存して変化する。吸着によって酸化還元活性電極の面積が低下し、電流密度が増大すると、遷移時間は低下する。この関係が表面活性添加物の濃度の算出に用いられる。この文献の研究では、種々の安定化添加剤、例えばメルカプトベンゾチアゾールおよびNaCNの濃度がカソードおよびアノードでの遷移時間に与える影響がクロノポテンシオメトリ法によって明らかにされている。
【0005】
Vitkave & Paunovic, Annual Technical Conference Proceeding-American Electroplaters' Society (1992), 69th(1), paperA-5の1頁−26頁によれば、種々の添加物の濃度がEDTAベースの無電解銅めっき電解質における銅還元に与える影響が研究されている。著者らは、添加物濃度が増大するにつれ、添加物の表面活性および種々の撹拌条件に依存して銅還元電流が低下することを明らかにしている。また、この研究では、安定化剤としてのシアン化物成分も観察されている。ただし、ここでの電位は走査の前に定常表面条件を確定することなく印加されている。
【0006】
Sato & Suzuki, J.Elektrochem.Soc.135 (1998)の1645頁−1650頁には、EDTAベースの無電解銅めっき電解質の電気化学的インピーダンス分光分析EISおよびクーロスタティック分析の結果が挙げられている。ここでは、白金電極に対する安定化添加剤である2−メルカプトベンゾチアゾールの濃度が、2重層コンデンサのキャパシタンスおよび分極抵抗を評価することによって求められている。分極抵抗は酸素によって還元されたホルムアルデヒドの化学的酸化から生じており、添加物濃度が低下すると分極抵抗も低下する。ここでは、全測定期間にわたって銅の析出は生じていない。
【0007】
M.L.Rothstein, Metal Finishing 1984, Oct. issueの35頁−39頁には、メルカプトベンゾチアゾールを含む無電解銅めっき電解質中の種々の添加物を矩形波ボルタメトリ法によって求める方法が記載されている。矩形波は段階的に掃引される線形電位に重畳されている。電流は各半波の終了部すなわち電位変化の直前で測定されている。添加剤の還元電流または酸化電流は予吸着のステップなしで直接に測定されている。これは添加物そのものが酸化または還元されなければならないからである。
【0008】
米国特許第4814197号明細書には、還元剤としてホルムアルデヒドを含む化学めっき電解液を分析および制御する方法が開示されている。この方法は、安定化添加剤としてのシアン化物イオンに対して感応性を有する電極を用いて当該のシアン化物イオンを監視するプロセスを含み、CN感応電極とAg/AgCl参照電極との電位が測定される。ただし、当該の方法では、ホルムアルデヒドなどの還元剤の存在が考慮されていない(本発明の実施例4を参照)。
【0009】
A.M.T. van der Putten, J.W.G.de Bakker, J.Electrocehm.Soc., Vol.140, No.8, 1993の2229頁−2235頁には、サイクリックボルタメトリ法により、異方性ニッケルめっき(ベベル式ニッケルめっき)に対する、還元剤として次亜リン酸を含む無電解ニッケル漕中の安定化添加剤としてのPb2+およびチオ尿素の影響が検証されている。ただし、この文献では、こうした安定化添加剤の濃度を相応の測定によって抽出する試みについては言及されていない。
【0010】
欧州公開第0265901号明細書には、無電解めっき液の分析方法が開示されている。この方法では、シアン化物に対して感応性を有する電極を用いてシアン化物イオンの安定化剤の濃度が求められており、また、ボルタメトリ法によって他の安定化剤の濃度が求められている。安定化剤濃度を測定するボルタメトリ法は、a)電極を電気的に浮動および平衡させて混合電位Emixを仮定するステップと、b)正の掃引電位を印加して、測定電位を混合電位Emixを超える値へ増大させるステップとを有する。ステップbで、定義された標準参照電位に対するめっき漕のピーク電位のシフトを測定することにより、すなわち、めっき漕のピーク電位が安定化剤濃度の関数であると推定することによって、安定化剤の濃度データが求められる。しかし、この方法では、ピーク電位の位置のみを用いて安定化剤濃度が求められており、安定化剤濃度がピーク電位の位置のほかこの位置での電流の大きさにも関連することが考慮に入れられていない。したがって、関連しあう2つのパラメータが同時に変化しているのに、一方のパラメータしか分析されていない。これに対して、ピーク電位の位置および当該の位置での電流の大きさの組み合わせを用いれば(電流を利用すれば)、より正確に安定化剤濃度を導出することができる。なお、化学めっき漕での安定化添加剤の濃度を測定するために、シアン化物に対して感応性を有する電極を用いると、再現性のある結果が得られない(実施例4での電流の利用を参照)。
【0011】
米国公開第2003/0201191号明細書には、めっき液中の添加物の濃度を測定するボルタメトリ法が開示されている。ここでは、アノード電流の特性から得られたストリッピングのピーク領域と基礎液のストリッピングのピーク領域との比によって、添加物の濃度が取得されている。
【0012】
日本国特許公開53009235号公報には、無電解銅めっき液中の金属イオン濃度を求める電気化学的方法が開示されている。この方法では、作動電極の電位が周期的に変更されている。
【0013】
日本国特許公開53009233号公報にも、無電解銅めっき液の濃度を制御する電気化学的方法が開示されている。この方法では、作動電極の電流が周期的に変更されている。
【0014】
このように、特に無電解めっき電解質の使用中に当該の電解質中の安定化添加剤または安定化添加剤混合物を測定して制御することのできる、信頼性の高い方法の提供が所望されている。
【0015】
本発明の課題
本発明の課題は、無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を制御する方法を提供することである。より具体的に云えば、化学めっき電解質中に存在する安定化添加剤および還元剤の点で再現可能かつフレキシブルな方法を提供することを目的としている。また、当該の方法により、化学めっき電解質の使用中に安定化添加剤のオンライン分析が可能となり、例えば化学めっき電解質をリアルタイム制御できるようになることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】測定のために電極に印加される電位の経過を示すグラフである(表1も参照のこと)。グラフの曲線は、本発明の方法のステップaの洗浄サイクル(電気化学的還元)、ステップbの保持サイクル(作動電極での中間剤の相互作用)、ステップcの安定化添加剤の濃度を評価するための分析走査サイクル(ファラデー電流の測定)のそれぞれの電位に対応している。
【図2】ファラデー電流に対する安定化添加剤混合物濃度の影響を実施例1で用いられる無電解銅めっき電解質での電極電位の関数として示すグラフである。個々のデータは安定化添加剤の濃度0ml/lから2ml/lの範囲で記録されたものである。
【図3】無電解銅めっき電解質中の安定化添加剤としてのシアン化物イオンの濃度が0ppmから20ppmまでの範囲で記録される実施例2において得られた結果を示すグラフである。
【図4】本発明の方法の再現性を検査するために、安定化添加剤としてのシアン化物イオンを濃度10ppmで含む無電解銅めっき電解質(実施例3)の2つのサンプルを測定した結果を示すグラフである。それぞれの測定は、そのつど銅めっき電解質を新しく形成して行われたが、安定化添加剤としてのシアン化物イオンは同量であり、10ppm_1は第1回目の測定、10ppm_2は第2回目の測定を表している。
【図5】安定化添加剤として10ppmのシアン化物イオンを含み、ホルムアルデヒドを含まない無電解銅めっき電解質(実施例4の対照実験)から得られた、電位Uまたはその導関数U(ERC)とAgCl溶液の消費量Vとの比を表す滴定曲線のグラフである。ここでの滴定曲線は明瞭な変曲点を有しており、正確なシアン化物イオン濃度が得られることがわかる。
【図6】安定化添加剤としての10ppmのシアン化物イオンと、還元剤としてのホルムアルデヒドとを含む無電解銅めっき電解質(実施例4の対照実験)から得られた、電位Uまたはその導関数U(ERC)とAgCl溶液の消費量Vとの比を表す滴定曲線のグラフである。ここでの滴定曲線は変曲点を有さないので、シアン化物イオン濃度は当該の測定からは得られない。
【図7】実施例5のステップcでの分析走査から得られた結果を示すグラフである。ここで、安定化添加剤混合物濃度は、0.5ml/lから2.5ml/lまでの範囲で変化している。
【図8】次亜リン酸ベースの無電解銅めっき電解質をステップcで分析走査した結果を示すグラフである。同じ濃度の安定化添加剤混合物が2回測定されている(実施例6)。グラフによれば、2回の測定、すなわち、それぞれ新たに形成されためっき電解質に対する測定において、同じ電位電流曲線が測定された。
【図9】次亜リン酸ベースの無電解ニッケルめっき電解質をステップcで分析走査した結果を示すグラフである(実施例7)。分析サイクルに対する適切な電位範囲は−750mVから−850mVまでである。試行のたびに無電解ニッケル漕が新たに形成された。
【図10】次亜リン酸ベースの無電解ニッケルめっき電解質をステップcで分析走査した結果を示すグラフである。同じ濃度の安定化添加剤混合物が2回測定されている(実施例8)。グラフによれば、2回の測定、すなわち、それぞれ新たに形成された電解質に対する測定において、同じ電位電流曲線が測定された。
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は、無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤を制御するボルタメトリ法(電位測定法)に関する。こうした電解質は、析出すべき1つまたは複数の金属源または金属合金源、還元剤、錯化剤および安定化添加剤を含む。化学めっきプロセスによって析出される金属または金属合金の例として、銅、ニッケル、金、パラジウム、ルテニウム、錫、銀およびこれらの金属の少なくとも1つを含む合金が挙げられる。化学めっき法は、自触媒プロセス、合着プロセスおよび浸漬プロセスを含む。本発明の安定化添加剤濃度を制御するためのボルタメトリ法はどのタイプの化学めっき電解質にも適する。
【0018】
この種の化学めっき電解質は、例えば、銅イオン、EDTA,アルカノールアミンまたは酒石酸塩などの錯化剤、促進剤、安定化添加剤、還元剤を含む。たいていの場合、ホルムアルデヒドが還元剤として用いられるが、次亜リン酸、ジメチルアミンボラン、ホウ化水素などの他の還元剤を用いてもよい。無電解銅めっき電解質用の典型的な安定化添加剤は、メルカプトベンゾチアゾール、チオ尿素などの化合物、種々の硫化物、シアン化物および/またはフェロシアン化物、および/または、コバルトシアン化塩、ポリエチレングリコール誘導体、ヘテロ環式窒化物、メチルブチノール、プロピオニトリルなどである。また、分子状酸素も、銅めっき電解質を通して定常空気流として通過させることにより、しばしば安定化添加剤として用いられる(ASM Handbook, Vol.5: Surface Engineeringの311頁〜312頁)。
【0019】
金属および金属合金の化学めっき電解質の別の例として、ニッケルおよびニッケル合金を析出するための化合物が挙げられる。この種の電解質は、通常、還元剤としての次亜リン酸化合物をベースとしており、さらに、VI属元素(S,Se,Te)、オキソアニオン(AsO,IO,MoO2−)、重金属カチオン(Sn2+,Pb2+,Hg,Sb3+)および不飽和有機酸(マレイン酸、イタコン酸)のグループから選択された安定化添加剤混合物を含む。これらについては、G.O.Mallory, J.B.Haidu, Electroless Plating: Fundamentals and Applications, in "American Electroplators and Surface Finishers Society", Reprint Edition 34頁〜36頁を参照されたい。
【0020】
本発明の無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を電位によって測定する方法は、
a)作動電極の表面を調整するステップと、
b)前記作動電極の表面を前記電解質に接触させ、前記作動電極の表面に所定の電位を印加するステップと、
c)前記ステップbで印加される前記所定の電位から電位走査を開始することにより、ファラデー電流を測定するステップと、
d)電位走査の少なくとも1つの電位値に対する少なくとも1つのファラデー電流を求めるステップと
を含む。
【0021】
電気化学的還元のみのステップaからステップcまでの電位時間曲線が図1に示されている。
【0022】
ファラデー電流とは、ファラデーの法則にしたがったプロセスによって導出される電流である。ここでのプロセスは、例えば、電子またはイオンが電解質電極の界面に交差し、電荷移動のステップにともなってアノードでの酸化反応とカソードでの還元反応とが生じるプロセスである。ファラデー電流は、
・時間依存性の物質移動に近似する非定常ファラデー電流(例えば、電解質および/または作動電極が電位測定中に撹拌されない場合)と、
・時間に依存しない物質移動に近似する定常ファラデー電流(例えば、電解質および/または作動電極が電位測定中に撹拌される場合)と
に分けられる。
【0023】
"相互作用"とは、ここでは、電解質と作動電極の表面とのあいだで観察される現象によって定義され、吸着(化学吸着および物理吸着)や部分電荷移動を含む。
【0024】
"中間種"とは、ここでは、無電解金属または金属合金めっき電解質のうち、作動電極の表面と相互作用する分子およびイオンの部分によって定義される。こうした中間種には、安定化添加剤、安定化添加剤から導出された電解質中の分子および/またはイオン、金属イオンおよび/または金属イオン混合物、安定化添加剤と還元剤との錯体などが含まれる。
【0025】
本発明の1つの実施形態では、無電解金属または金属合金めっき電解質のサンプルは、金属めっき電解質から取り出され、後述する安定化添加剤の制御機構へ移される。
【0026】
本発明の別の実施形態では、無電解金属または金属合金めっき電解質のサンプルは、自動的に金属めっき電解質から取り出され、当分野の技術者に周知の技術にしたがって、後述する安定化添加剤の制御機構へ移される。
【0027】
本発明の別の実施形態では、無電解金属または金属合金めっき電解質のサンプルが取り出され、本発明のステップa〜ステップdおよび付加的なステップeおよびステップfにしたがった安定化添加剤濃度のボルタメトリ法による測定がオンラインモードで行われ、化学めっき電解質中の安定化添加剤のリアルタイム制御が達成される。
【0028】
本発明のステップaは個々の測定の再現可能な条件を利用できるようにするために必要なステップである。ステップaでは、酸化物、硫化物および有機残留物のないクリーンかつ純粋な金属表面を得るために、作動電極の表面が安定化添加剤濃度の測定前に処理される。このための方法は当分野で幾つか知られている。例えば、作動電極の化学エッチング処理が過硫酸ベースのエッチング洗浄剤において行われる。こうしたエッチング洗浄剤も当分野で知られている。金属製の作動電極上の酸化金属種の電気化学的還元は、後述の3電極機構を用いたカソード電位プロセスでの洗浄サイクルにおいて、作動電極の表面を処理することによって可能となる。本発明の有利な実施例では、銅の作動電極は、安定化添加剤の測定前に、まず電極を化学エッチング液に入れて処理し、次に電気化学的還元プロセスを適用することにより、調整される。作動電極の電気化学的還元は、例えば、化学めっき電解質に(Ag/AgCl参照電極の電位に対する)−1.5Vの電位で洗浄ステップを適用して行われる。作動電極が貴金属、例えば白金から成る場合には、当該のステップaはグリース、オイルおよび指紋などの残留物の除去のみを含む。こうしたプロセスをここでは洗浄と称する。
【0029】
一般に、ステップaにおいて、化学エッチング・電気化学的還元・洗浄から選択された少なくとも1つの手法が適用される。ただし、これらの手法のうち2つ以上を異なる順序で組み合わせてステップaで適用してもよい。他の実施例として、作動電極の電気化学的還元のみをステップaで行ってもよい。こうした電気化学的還元は無電解金属または金属合金めっき電解質中であれば実行可能である。
【0030】
適切な作動電極の材料は、銅、ニッケル、白金、金、銀、パラジウムおよびガラス状炭素を含むグループから選択される。
【0031】
本発明では種々の形状の作動電極を利用可能であり、例えばプレート状、リング状、リボン状、ディスク状およびワイヤ状などの作動電極が利用される。
【0032】
無電解金属または金属合金めっき電解質あるいは作動電極は、相互に独立にステップcのあいだ撹拌されてもよいし、撹拌されずに用いられてもよい。
【0033】
化学めっき電解質中に存在する中間種は、ステップbの作動電極の表面に対して相互作用する。したがって、例えば、無電解銅めっき電解質の場合、(Ag/AgCl参照電極に対する)−0.6Vが作動電極に印加され、所定の時間にわたって、中間種と作動電極の表面との相互作用の定常状態に達するまで保持される。
【0034】
ファラデー電流はステップcで安定化添加剤または安定化添加剤混合物の濃度を求めるために測定されるが、ここで、定常ファラデー電流または非定常ファラデー電流を測定することができる。ファラデー電流は安定化添加剤および/または安定化添加剤混合物の濃度に相関する。本発明の有利な実施形態では、還元剤のファラデー電流がステップcで測定される。このステップcは、ステップbで定義された電位から開始されカソード方向へ進行する電位走査のサイクルである。通常、分析走査は、開始電位から終了電位まで進行するが、開始電位から終了電位へ進行し、そこから再び開始電位へ戻るように進行してもよい。
【0035】
ステップdでは、ファラデー電流が求められる。例えば、図2には、所定数の電位値Eに対して、電位走査での対応するファラデー電流値が存在することが示されている。有利には、安定化添加剤濃度の違いによるファラデー電流値の差が最大となる電位範囲が選択される。図2では、電位値Eが−0.9Vから−0.8Vまでの範囲にあるケースである。
【0036】
本発明の別の実施形態では、Ag/AgCl参照電極、白金対向電極および銅作動電極を備えた3電極機構とポテンシオスタットとが、無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤または安定化添加剤混合物の濃度を制御するために用いられる。当該の制御中、電解質および作動電極はそれぞれ独立に撹拌されても撹拌されなくてもよい。
【0037】
本発明の安定化添加剤の制御方法、特にそのステップbおよびステップcは、例えば、生産規模での金属または金属合金の析出中に電解質が保持される温度で行われる。一般に、本発明の方法は温度範囲10℃から100℃までで適用可能であるが、有利には15℃から60℃までの範囲で、特に有利には20℃から40℃までの範囲で実施される。一方ステップbおよびステップcにおいて、一連の測定のあいだ、得られるデータの再現性を保証するために、温度は、選択された測定温度に対する偏差が±5℃以内となるように一定に保持されなければならず、有利には偏差は±2℃以内、特に有利には偏差は±1℃以内とされる。
【0038】
無電解金属または金属合金めっき電解質のファラデー電流の値が求められると、この値は選択的にファラデー電流の目標値と比較される。当該の目標値は、新規に用意された無電解金属または金属合金めっき電解質について本発明にしたがって求められたファラデー電流の値に等しい。新規に用意された無電解金属または金属合金めっき電解質は、当該の電解質の最適な動作条件に近似する量で、1つまたは複数の安定化添加剤を含む。ここで、最適な動作条件とは、例えば、めっき電解質中に望ましくない析出が起こらないようにすること、所望のめっき速度および所望の金属または金属合金の析出特性が得られるようにすることなどである。
【0039】
求められたファラデー電流の値が目標値から偏差する場合、安定化添加剤または安定化添加剤混合物が検査されている化学めっき電解質に添加される。
【0040】
安定化添加剤または安定化添加剤混合物が使用中の化学めっき電解質に添加された後には、求められる値が目標値に一致するはずである。それでもなおファラデー電流について目標値からの偏差が観察される場合には、目標値が達成されるまで充分な量の安定化添加剤または安定化添加剤混合物が動作中のめっき電解質に添加される。
【0041】
本発明の方法はオンラインでの手法として利用することができる。まず、化学金属析出の生産ラインのめっき電解質からサンプルが自動的に取得される。化学銅析出のケースでは、Cu2+,NaOH,ホルムアルデヒドの濃度が求められ、当該のサンプルに対する設定ポイント(例えばめっき電解質の最適な動作モードに対する濃度)まで補充される。次に、電解液が、動作条件に合わせて、例えば30℃となるように、加熱または冷却される。従来の固定の3電極機構におけるAg/AgCl参照電極、白金対向電極および銅作動電極が、測定のために適用される。銅動作電極は使い捨ての電極であり、測定のたびに新規に用意され、測定前の前処理で洗浄される。使い捨ての銅電極をオンライン測定環境に適用する技術は良く知られているので、ここでこれ以上は説明しない。その後、本発明のステップaからステップdが自動的に行われ、収集されたデータが記憶される。
【0042】
動作中に調量を行うコンセプトを支援するために、求められたファラデー電流値、すなわち、安定化添加剤濃度の情報が生産ラインの制御ユニットへ伝送される。安定化添加剤の溶液の不足量が計算され、ただちに生産ラインのめっき電解質への調量が行われる。
【0043】
実施例
ポテンシオスタットPGSTAT30(Autolab)を含む3電極式検査機構とGPESソフトウェアとを用いて、実施例1から実施例3として、無電解銅めっき電解質中の安定化添加剤の制御方法を検査した。全ての測定はAg/AgCl参照電極(Metrhom)と対向電極としての白金線を用いて行われた。電解質の温度は、全ての測定にわたって、30℃±2℃に保持された。銅の作動電極は、使用前に、過硫酸塩ベースのエッチング洗浄剤によって室温で30sにわたって処理された。当該のエッチング洗浄剤は150g/lの過硫酸塩,5g/lのCu2+,50重量%・35ml/lのHSOを含む。
【0044】
実施例1から実施例4までで使用された無電解銅めっき電解質は、
2g/lのCu2+
10g/lのNaOH
5g/lのホルムアルデヒド(還元剤)
20g/lの酒石酸(錯化剤)
を含む。
【0045】
実施例1から実施例4まで、当該の電解質に、種々のタイプおよび種々の量の安定化添加剤が添加された。
【0046】
実施例1
無電解銅めっき電解質の安定化添加剤をモニタリングした。10×40mmの銅板を作動電極として用いた。作動電極および電解質の双方とも、下掲の表1に見られるように、ステップaからステップcまでのあいだ撹拌されなかった。
【0047】
有機および無機の硫化物と有機窒化物とを含む、0ml/lから2ml/lの有標安定化添加剤混合物(Atotech Deutschland GmbH社のPrintoganth(R)PV)が無電解銅めっき電解質に添加された。シアン化物イオンは当該の安定化添加剤混合物中には存在していない。
【0048】
安定化添加剤混合物の制御のための検査プロトコルは次の表1のようになる。
【0049】
【表1】

【0050】
表1のステップcの分析走査の様子が図2に電流電位特性として示されている。図2には、0ml/lから3ml/lの範囲の安定化添加剤混合物の種々の濃度に対して、分析ステップcでの−1000mVから−600mVまでの電位走査の様子が示されている。電位−850mVでは、ファラデー電流の値は落ち込んでいるが、安定化添加剤混合物の濃度は増大している。安定化添加剤の作動電極への成分の付着量は、めっき電解質中の安定化添加剤の成分の濃度によって変化する。
【0051】
実施例2
無電解銅めっき電解質の安定化添加剤であるシアン化物イオンをモニタリングした。10×40mmの銅板を作動電極として用いた。作動電極および電解質の双方とも、上掲の表1に見られるように、ステップaからステップcまでのあいだは撹拌されなかった。
【0052】
安定化添加剤であるシアン化物イオンの濃度は0ppmから20ppmまでである。
【0053】
上掲の表1と同様の検査プロトコルが用いられているが、ステップcでは、還元剤であるホルムアルデヒドのアノード酸化電流の測定に代えて、ホルムアルデヒドおよび/または安定化添加剤であるシアン化物イオンを含むホルムアルデヒドの中間種のカソード還元電流がモニタリングされた。
【0054】
ステップcでの分析走査の結果が図3に示されている。種々のシアン化物イオンの濃度が電流電位特性曲線に与える影響がはっきりと見て取れる。このため、本発明の方法により、安定化添加剤としてのシアン化物イオンをモニタリングできる。
【0055】
実施例3
本発明の方法の再現性を検証した。無電解銅めっき電解質の原液を2つに分け、それぞれに10ppmのシアン化物イオンを添加し、表1の検査プロトコルを適用した。2つのサンプルに対して得られた電流電位特性曲線が図4に示されている。2つの曲線はほぼ完全に一致している。したがって、本発明の方法の再現性はきわめて高いことがわかる。
【0056】
実施例4[対照実験]
比較のために、実施例2で説明した無電解銅めっき電解質中のシアン化物イオンの濃度を、AgNOの滴定(電位測定)によってモニタリングした。これは、シアン化物イオンに対して感応性を有する電極を用いて、Ag/AgCl参照電極に対する電位を測定したものである。この手法では、図5に見られるように、還元剤としてのホルムアルデヒドが無電解銅めっき電解質中に存在しない場合、0ppmから20ppmまでの範囲のシアン化物イオン濃度に対して充分に精確な結果が得られる。
【0057】
実施例2の無電解銅めっき電解質が用いられるケース、すなわち、図6に見られるように、還元剤としてのホルムアルデヒドが含まれるケースでは、シアン化物イオンの濃度に対して再現性ある結果は得られなかった。
【0058】
実施例5
本発明の安定化添加剤の制御方法の効果を検証するために、次亜リン酸塩ベースの無電解銅めっき電解質を検査した。検査には10×40mmの銅板を作動電極として用いた。
【0059】
無電解銅めっき電解質の組成は、
1g/lのCu2+
0.2g/lのNi2+
9g/lのトリクエン酸ナトリウム
15g/lのホウ酸
9g/lのNaOH
27g/lの次亜リン酸ナトリウム(還元剤)
0.5ml/lから2.5ml/lの有標安定化添加剤混合物(Atotech Deutschland GmbH社の製品Printoganth(R)PV)
である。
【0060】
検査のための全体的な測定条件は、表1の他の検査の条件と同様である。測定のたびに無電解銅めっき電解質が新たに形成された点も同じである。
【0061】
図7から、安定化添加剤の3つの異なる濃度に対する電位電流特性曲線がはっきりと見て取れる。還元剤としての次亜リン酸ナトリウムの酸化は−900mVから−1100mVで生じている。
【0062】
実施例6
本発明の方法の再現性を検証した。次亜リン酸ベースの無電解銅めっき電解質の原液を2つに分け、それぞれに1.5ml/lの安定化添加剤混合物を添加し、表1の検査プロトコルを適用した。2つのサンプルに対して得られた電流電位特性曲線が図8に示されている。2つの曲線はほぼ完全に一致している。したがって、本発明の方法の再現性がきわめて高いことがわかる。
【0063】
実施例7
本発明の安定化添加剤の制御方法の適用可能性を検証するために、無電解ニッケルめっき電解質を検査した。検査は10×40mmのニッケルめっき銅電極を用いて行われた。
【0064】
無電解ニッケルめっき電解質の組成は、
3g/lのNi2+
15g/lの次亜リン酸ナトリウム(還元剤)
0.5ml/lから1.5ml/lの有標安定化添加剤混合物(Atotech Deutschland GmbH社の製品Adhemax(R)ALF)
である。
【0065】
さらに、錯化剤とpH値6.5を調整するためのNaOHとの混合物を添加した。作動電極として銅電極に代えてニッケルめっき銅電極を用いたこと以外は、検査条件は表1の他の検査と同様である。0.5ml/l,1ml/l,1.5ml/lの3つの安定化添加剤濃度を測定した。
【0066】
測定結果は図9に示されている。電流電位特性曲線のデータを評価すると、−750mVから−850mVの電位範囲に、3つの安定化添加剤混合物濃度に対するはっきりした値が見て取れる。
【0067】
実施例8
本発明の方法の再現性を検証した。次亜リン酸ベースの無電解ニッケルめっき電解質の原液を2つに分け、それぞれに1ml/lの安定化添加剤混合物を添加し、表1の検査プロトコルを適用した。2つのサンプルに対して得られた電流電位特性曲線が図10に示されている。2つの曲線はほぼ完全に一致している。したがって、本発明の方法の再現性がきわめて高いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法において、
a)作動電極の表面を調整するステップと、
b)前記作動電極の表面を前記電解質に接触させ、前記作動電極の表面に所定の電位を印加するステップと、
c)前記ステップbで印加される前記所定の電位から電位走査を開始することにより、ファラデー電流を測定するステップと、
d)電位走査の少なくとも1つの電位値に対する少なくとも1つのファラデー電流の値を求めるステップと
を含む
ことを特徴とする無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法。
【請求項2】
前記ファラデー電流の求められた値をファラデー電流の目標値と比較する、請求項1記載の無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法。
【請求項3】
前記ファラデー電流の求められた値が前記目標値から偏差している場合、前記目標値が得られるように、前記電解質に安定化添加剤を添加する、請求項2記載の無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法。
【請求項4】
前記作動電極の表面を前記電解質における電気化学的還元によって調整する、請求項1記載の無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法。
【請求項5】
前記電気化学的還元の前に前記作動電極を化学的にエッチングする、請求項4記載の無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法。
【請求項6】
前記ファラデー電流の求められた値は定常ファラデー電流である、請求項1から5までのいずれか1項記載の無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法。
【請求項7】
前記ファラデー電流の求められた値は非定常ファラデー電流である、請求項1から5までのいずれか1項記載の無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法。
【請求項8】
前記ステップcで測定される前記ファラデー電流は酸化電流である、請求項1から7までのいずれか1項記載の無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法。
【請求項9】
前記ステップcで測定される前記ファラデー電流は還元電流である、請求項1から7までのいずれか1項記載の無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法。
【請求項10】
前記ステップcで測定される第1のファラデー電流は還元電流であり、前記ステップcで測定される第2のファラデー電流は酸化電流である、請求項1から7までのいずれか1項記載の無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法。
【請求項11】
前記電解質は還元剤を用いている化学めっき電解質である、請求項1から10までのいずれか1項記載の無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法。
【請求項12】
前記電解質は浸漬めっき電解質である、請求項1から10までのいずれか1項記載の無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法。
【請求項13】
めっきに用いられる前記金属または前記金属合金は、銅、ニッケル、金、パラジウム、ルテニウム、錫、銀およびこれらの合金のグループから選択された金属または合金である、請求項1から12までのいずれか1項記載の無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤の濃度を測定するボルタメトリ方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2012−510068(P2012−510068A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537955(P2011−537955)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065742
【国際公開番号】WO2010/060906
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(300081877)アトテツク・ドイチユラント・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (13)
【氏名又は名称原語表記】Atotech Deutschland GmbH
【住所又は居所原語表記】Erasmusstrasse 20, D−10553 Berlin, Germany