説明

無電解金属皮膜のピンホールの封止

【課題】基材と環境とを流体連通するピンホール欠陥が実質的に存在しない無電解金属皮膜を有する物品を製造する方法の提供。
【解決手段】無電解金属皮膜20のピンホール30の封止方法は、(a)基材10を無電解金属皮膜層20で被覆して基材10の表面に接触した無電解金属皮膜20を有する被覆物品を形成する工程であって、基材10と環境とを流体連通するピンホール欠陥が無電解金属皮膜20に存在する工程、(b)無電解金属皮膜層上に硬化性エポキシ封止材40の層を塗工し、ピンホール欠陥を充填する工程、(c)硬化性エポキシ封止材40を硬化して硬化エポキシオーバーコート層を形成する工程、(d)硬化エポキシオーバーコート層の大部分を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、無電解金属皮膜を有する物品及びかかる無電解金属皮膜の欠陥を補修する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解金属皮膜は、無電解金属皮膜の下側の基材の性能特性を向上するため保護皮膜が必要とされる様々な用途で使用される。かかる皮膜の有用性は主に、無電解金属皮膜を設ける基材に比べて無電解金属皮膜の物性(例えば、硬度)が高いことにある。さらに、物品の使用環境に存在する化学物質による腐食を受けやすい物品を無電解金属皮膜を用いて保護することができる。さらに、無電解金属皮膜は溶液から基材に設けられるので、基材の形状、寸法及び穴あき度が種々異なっていても、均一な組成及び膜厚の皮膜を達成することができる。現在、無電解金属皮膜の製造及び特性に関する多くの情報を入手することができ、特にニッケル−リン又はニッケル−ホウ素合金を含有する皮膜の分野ではそうである。
【0003】
現在までに無電解金属皮膜の分野で様々な技術的改良が達成されているが、かかる皮膜の有用性をできるだけ高くするためにさらに改良が必要とされている。例えば、被覆する基材の表面が、汚れていたり、大きな表面粗さを有する場合、基材の表面に無電解金属皮膜を成膜するときにピンホールやピットなどの欠陥が発現することがある。無電解金属皮膜の欠陥は、無電解金属皮膜を有する物品の有効寿命を短くするおそれがある。したがって、無電解金属皮膜がピンホールやピットなどの構造欠陥を伴って形成される場合や、補修を必要とするかかる欠陥が使用やすり減りの結果として発現する場合、基材を再度無電解金属被覆条件に付すこと以外の方法でかかる欠陥を補修することが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6332569号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、通常ならば存在してしまうピンホールなどの欠陥をなくした無電解金属皮膜を有する物品及びかかる物品の製造方法を提供することができれば有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態では、無電解金属皮膜のピンホールの封止方法であって、(a)基材を無電解金属皮膜層で被覆して基材の表面に接触した無電解金属皮膜を有する被覆物品を形成する工程であって、基材と環境とを流体連通するピンホール欠陥が無電解金属皮膜に存在する、工程、(b)無電解金属皮膜層上に硬化性エポキシ封止材の層を塗工し、ピンホール欠陥を充填する工程、(c)硬化性エポキシ封止材を硬化して硬化エポキシオーバーコート層を形成する工程、及び(d)硬化エポキシオーバーコート層の大部分を除去して、基材と環境とを流体連通するピンホール欠陥が実質的に存在しない無電解金属皮膜を有する物品を製造する工程を含む方法を提供する。
【0007】
本発明の別の実施形態では、無電解金属皮膜のピンホールの封止方法であって、(a)基材と基材の表面に接触した無電解金属皮膜層とを有する物品を形成する工程であって、基材と環境とを流体連通するピンホール欠陥が無電解金属皮膜に存在する、工程、(b)無電解金属皮膜層上に硬化性エポキシ封止材の層を塗工し、ピンホール欠陥を充填する工程、(c)硬化性エポキシ封止材を硬化して硬化エポキシオーバーコート層を形成する工程、及び(d)硬化エポキシオーバーコート層の大部分を除去して、基材と環境とを流体連通するピンホール欠陥が実質的に存在しない無電解金属皮膜を有する物品を製造する工程を含む方法を提供する。
【0008】
本発明の他の実施形態では、(a)基材及び(b)基材に接触し、物品の外表面になる無電解金属皮膜を有する物品であって、無電解金属皮膜にはピンホール欠陥が存在し、ピンホール欠陥が硬化エポキシ封止材により十分に充填されている物品を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明の上記その他の特徴、観点及び効果を一層良く理解できるように、以下に添付の図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。図面において、同じ符号は同一部品を示す。
【図1】本発明の一実施形態の方法を示す図である。
【図2】基材と基材の表面に接触した無電解金属皮膜とを有する被覆物品の図であり、無電解金属皮膜にピンホール及びピット欠陥が存在する状態を示す。
【図3】図2の物品に硬化性エポキシ封止材を塗工した状態を示す図である。
【図4】図3の物品のエポキシ封止材を硬化し、硬化エポキシオーバーコート層になった硬化エポキシ封止材の大部分を除去した後の物品の図である。
【図5】本発明の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述のように、本発明の一実施形態による無電解金属皮膜のピンホールの封止方法は、(a)基材を無電解金属皮膜層で被覆して基材の表面に接触した無電解金属皮膜を有する被覆物品を形成する工程であって、基材と環境とを流体連通するピンホール欠陥が無電解金属皮膜に存在する、工程、(b)無電解金属皮膜層上に硬化性エポキシ封止材の層を塗工し、ピンホール欠陥を充填する工程、(c)硬化性エポキシ封止材を硬化して硬化エポキシオーバーコート層を形成する工程、及び(d)硬化エポキシオーバーコート層の大部分を除去して、基材と環境とを流体連通するピンホール欠陥が実質的に存在しない無電解金属皮膜を有する物品を製造する工程を含む。
【0011】
ここで用いる用語「無電解金属皮膜」は、基材の存在下で溶液中の金属イオンを化学還元することにより基材上に形成した金属皮膜をいう。かかる無電解金属皮膜として様々なものが知られており、例えば、無電解銅皮膜、無電解金皮膜、無電解銀皮膜及び無電解ニッケル皮膜が挙げられる。一実施形態では、本発明により提供される無電解金属皮膜はニッケル−リン合金皮膜である。別の実施形態では、本発明により提供される無電解金属皮膜はニッケル−ホウ素合金皮膜である。他の実施形態では、本発明により提供される無電解金属皮膜はポリ(テトラフルオロエチレン)を含有する無電解ニッケル皮膜である。
【0012】
基材は、無電解金属皮膜を支持できればどのような基材でもよいが、通常、無電解金属皮膜が強く結合する材料である。基材は、金属などの無機材料、プラスチックなどの有機材料又は無機充填剤を含有する有機ポリマーなどの複合材料にすることができる。上述のように、一実施形態では、基材は金属基材である。例えば、基材は、鉄、クロム、ニッケル、コバルト、銅、アルミニウム又はチタンのうち少なくとも1種の元素を含む金属基材にすることができる。一実施形態では、基材は鉄鋼を含む。一実施形態では、基材は低合金炭素鋼を含む。
【0013】
上述のように、無電解金属皮膜は、基材と環境とを流体連通するピンホール欠陥の存在を特徴とすることがある。基材に対して腐食性の環境で物品を使用した場合、かかる欠陥は基材にダメージを与えることがある。様々な用途において、無電解金属皮膜の主な目的は、影響を受けやすい基材材料をかかる腐食環境から隔離する保護バリアとして働くことである。無電解金属被覆プロセス時に被覆されている基材の表面に気泡ができるとピンホール欠陥が発生すると考えられる。無電解金属皮被覆プロセスは本明細書の実施例で詳細に説明する。別の欠陥には、ピットがあり、ピットは無電解金属皮膜が付近の皮膜より薄い局所的な領域を示す。多くの用途で、ピットは無電解金属皮膜の望ましくない表面性状と考えられている。
【0014】
十分に低い粘度の硬化性エポキシ封止材を基材の表面に塗工した場合、封止材が無電解金属皮膜中に存在するピンホール及びピットに浸入することを見出した。通常、適当な硬化性エポキシ封止材の粘度は周囲温度で約20〜約1200cpの範囲である。ある実施形態では、有機溶媒などの希釈剤の添加によって硬化性エポキシ封止材の粘度を下げることができる。多種多様なエポキシ封止材が当業者に知られており、かかるエポキシ封止材の多くは市販されている。適当な硬化性エポキシ封止材には、二液型エポキシ樹脂、例えばビスフェノールAジグリシジルエーテル(エポキシ樹脂成分)とトリエチレンテトラアミン(硬化剤成分)、ビスエポキシド、例えばブタジエン二量体ビスエポキシドなどがある。一実施形態では、エポキシ封止材は、酸感応性エポキシド及び有機ヨードニウム塩(例えばテトラフルオロホウ酸ジフェニルヨードニウム)などの光酸発生剤(PAG=photoacid generator)を含有する。
【0015】
一実施形態では、硬化性エポキシ封止材は充填剤、例えばヒュームドシリカを含有する。別の実施形態では、硬化性エポキシ封止材はナノ粒子の充填剤、例えばナノ粒子状クレイを含有する。一実施形態では、硬化性エポキシ封止材は炭化ケイ素、窒化ホウ素及びダイヤモンドから選択されるナノ粒子充填剤を含有する。一実施形態では、硬化性エポキシ封止材は炭化ケイ素のナノ粒子充填剤を含有する。別の実施形態では、硬化性エポキシ封止材は窒化ホウ素のナノ粒子充填剤を含有する。
【0016】
硬化性エポキシ封止材は本発明を実施するのに特に有効である。硬化性エポキシ封止材は、広い粘度範囲の組成物を入手でき、ピンホール欠陥に浸入し、様々な条件下、例えば熱もしくは電磁線で効率よく硬化することができ、硬化エポキシ封止材をピンホール内部に存在させるとともに、基材の表面上に硬化エポキシオーバーコート層として存在させることができるからである。さらに、硬化エポキシオーバーコート層をサンダー仕上げ及び研磨剤のエアブラストなどの方法によって基材の表面から容易に研磨することができる。研磨剤のエアブラストは圧縮空気によって固体粒子を加工品表面に向かって投射する方法である。無電解金属皮膜のピンホール内部に存在したり、無電解金属皮膜の表面上の適当な寸法のピット内部に存在する硬化エポキシ封止材は、硬化エポキシオーバーコート層に比べて基材からの研磨分離を受け難い。したがって、例えばピンホール内部に存在する硬化エポキシ樹脂を除去せずに硬化エポキシオーバーコート層を除去することが可能である。種々の実施形態では、無電解金属皮膜のピンホール又はピットの外表面直径より大きな研磨粒子寸法であることを特徴とする研磨剤を選択し、研磨剤媒体とピンホール又はピット内部に存在する硬化エポキシ封止材間の相互作用を最小にすることができる。適当な研磨剤粒子材料には、サンド、ガラス粒子、軽石及び重炭酸ナトリウムが挙げられる。
【0017】
ここで用いる語句「硬化エポキシオーバーコート層の大部分を除去する」は、基材の表面に存在する硬化エポキシオーバーコート層の総量の、一実施形態では10%以上、別の実施形態では40%以上、他の実施形態では70%以上、さらに他の実施形態では95%以上を除去することを意味する。
【0018】
基材と環境とを流体連通する「ピンホール欠陥が実質的に存在しない」無電解金属皮膜を有する物品は、無電解金属皮膜中に存在するすべてのピンホール欠陥の95%以上が基材と環境との流体連通を抑制するのに十分な硬化エポキシ封止材を含有している物品と定義する。
【0019】
一実施形態では、本発明を実施する際に使用する無電解金属皮膜は、平均直径が約200μm未満、別の実施形態では約100μm未満、他の実施形態では約50μm未満であることを特徴とするピンホールを含有する。同様に、本発明を実施する際に使用する無電解金属皮膜の表面上に存在するピットに関しては、無電解金属皮膜は、平均直径が約200μm未満、別の実施形態では約100μm未満、他の実施形態では約50μm未満であることを特徴とするピットを含有することがある。
【0020】
上述のように、無電解金属皮膜は通常、比較的均一な厚さをもつ。一実施形態では、無電解金属皮膜の平均の厚さは約1μm〜約500μmの範囲である。別の実施形態では、無電解金属皮膜の平均厚さは約1μm〜約100μmの範囲である。他の実施形態では、無電解金属皮膜の平均厚さは約1μm〜約50μmの範囲である。
【0021】
一実施形態では、無電解金属皮膜はリンを含有する無電解ニッケル皮膜である。本明細書では、かかる皮膜を無電解ニッケルリン皮膜ということがある。一実施形態では、無電解ニッケルリン皮膜は、「高リン」無電解ニッケル皮膜と見なすのに十分なリンを含有する。高リン皮膜が腐食環境に対して特に優れた耐性をもつことは当業者に明らかである。別の実施形態では、無電解金属皮膜は、「低リン」または「硬質」とされる無電解ニッケル皮膜である。かかる低リン無電解金属皮膜の利点も当業者に明らかである。他の実施形態では、無電解金属皮膜は、ポリ(テトラフルオロエチレン)粒子を含有する無電解ニッケル皮膜である。かかる無電解ニッケル複合皮膜は、別の表面との接触点、具体的には無電解ニッケル複合皮膜が装置又は機械中の別の稼働部と接触する場所での表面摩擦を低減するので高く評価されている。
【0022】
上述のように、本発明によって提供される物品は、基材と環境とを流体連通するピンホール欠陥が実質的に存在しない無電解金属皮膜を有する。一実施形態では、物品はターボ機械の部品である。一実施形態では、物品はタービンブレードである。別の実施形態では、物品は圧縮機ブレードである。他の実施形態では、物品はガス圧縮機のガスインペラー部品(図5参照)である。また他の実施形態では、物品は流体ポンプの部品である。
【0023】
図1に本発明の一実施形態として無電解金属皮膜のピンホールの封止方法100を示す。無電解金属皮膜20で被覆された基材10を用意する。但し無電解金属皮膜はピンホール30が存在することを特徴とする。図示の通り、無電解金属皮膜20が基材10の表面と接触している。またピンホール30が基材10の表面と環境とを流体連通することも示されている。
【0024】
また図1の第一工程(水平の矢印で示す)では、硬化性エポキシ封止材(図示せず)を無電解金属皮膜層に塗工し、硬化して硬化エポキシ封止材40を得る。硬化性エポキシ封止材は、ピンホール30に流れ込み、ピンホール30を十分に充填するように十分に低い粘度を有するエポキシ封止材から選択する。硬化性エポキシ封止材を硬化すると、無電解金属皮膜20の表面と接触した硬化エポキシオーバーコート層が形成する。硬化エポキシオーバーコート層と、ピンホール30内部に存在する硬化エポキシ封止材とを区別する。
【0025】
さらに図1の第二工程では、硬化エポキシオーバーコート層を無電解金属皮膜の表面から除去して、基材10とピンホール欠陥が実質的に存在しない無電解金属皮膜20とを有する物品を得る。硬化エポキシ封止材40で充填したピンホール30を図1では70で示し、「充填ピンホール」と呼ぶ。充填ピンホール70中に存在する硬化エポキシ封止材40は基材10と環境間の流体連通を防ぐ。上述のように、硬化エポキシオーバーコート層は任意適当な研磨方法、例えばグリットブラスト、サンダー仕上げ、研削及びエア研磨で除去することができる。
【0026】
図2〜4は、基材10とピンホール30及びピット35を含有する無電解ニッケル皮膜20とを有する無電解ニッケルめっき物品200において欠陥をなくす本発明の一実施形態を示す。なお皮膜20は基材10の表面と接触している。
【0027】
図3は、図2の物品に硬化性エポキシ封止材を塗工し、封止材を硬化することにより得られた物品300を示す。図3は、ピンホール30及びピット35が硬化エポキシ封止材40で充填され、硬化エポキシ封止材40の残りが無電解ニッケル皮膜の表面に硬化エポキシオーバーコート層として存在することを示す。
【0028】
図4は、図3の物品の硬化エポキシオーバーコート層を形成している硬化エポキシ封止材の大部分を除去し、ピンホール30及びピット35内部に存在する硬化性エポキシ封止材をそのまま残すことによって得られた物品400を示す。
【0029】
図5は、本発明の一実施形態のガス圧縮機のガスインペラー部品500を示し、基材(ここでは図示せず)上に設けられた無電解金属皮膜20中のピンホール欠陥を補修した後のものである。拡大図510はガスインペラーのブレードを示す。外側の無電解金属皮膜20は充填ピンホール70を含有し、充填ピンホール70は、インペラーによって駆動されるガスが無電解金属皮膜の下側の基材(図示せず)と接触する流体連通を防ぐ。図5に一部を示す一実施形態では、露出表面がピンホール欠陥を含有する無電解金属皮膜20で被覆されているガスインペラー500を用意する。環境と無電解金属皮膜の下側の基材との流体連通を検出する適当な分析試験、例えばフェロキシル試験(ASTM B733)を用いて、無電解金属皮膜中にピンホール欠陥を含有するブレードを特定し、適当な硬化性エポキシ封止材を補修が必要なブレードに塗工し、エポキシ封止材を硬化し、硬化エポキシオーバーコート層を無電解金属皮膜の表面から研磨して、基材と環境とを流体連通するピンホール欠陥が実質的に存在しないガスインペラーを得ることができる。
【0030】
最後に、基材上に無電解金属皮膜を成膜する時に形成されたり、無電解金属皮膜を有する物品の使用やすり減りの結果として発現するピンホールやピットなどの欠陥を、無電解金属被覆条件に基材を再びさらさずに、なくすことができることが本発明の利点の1つであることは当業者に明らかである。
【実施例】
【0031】
ピンホールの検出
無電解金属皮膜のピンホールはフェロキシル試験(ASTM B733)を用いて検出した。
【0032】
テストクーポンの調製
A182 F22鉄鋼製のテストクーポンを塩化第二鉄溶液で50℃で10分間処理して、約50Raの表面粗さ及び使用中にピンホール発生につながりやすい多数の深く狭いピットを有するテストクーポンを用意した。
【0033】
無電解ニッケルめっき工程の概要
テストクーポンに無電解ニッケルめっき(EPN)を施して鉄鋼(182 F22)製の基材と基材の表面に接触した無電解ニッケル金属皮膜とを有するテストクーポンを用意した。被覆テストクーポンにフェロキシル試験を施したところ、試験中に濃い青色を呈した。これは、鉄鋼製基材を塩化第二鉄試験溶液と流体連通させるピンホール欠陥がEPN皮膜中に存在することを示す。
【0034】
無電解ニッケルめっき工程の詳細
無電解めっき手順で使用したガラス器具は、新しく購入したものか、まず10%硝酸で60℃で2時間処理し、次いで高純度濾過水で十分にすすぎ、パラフィルムでシールしたものである。
【0035】
無電解めっき溶液
きれいな三角フラスコに高純度濾過水(1000mL)、次亜リン酸ナトリウム(27g)、硫酸ニッケル(20g)及びコハク酸ナトリウム(16g)を順に入れた(磁気撹拌子の使用禁止)。得られた溶液を0.6μm又はさらに微細なミリポアフィルター(直径45mmのフィルター)に通してきれいな真空フラスコに真空濾過し、濾過後の溶液をきれいな三角フラスコに移し、パラフィルムでシールした。
【0036】
テストクーポンのめっき
きれいな温度計を備えた無傷のきれいな500mLビーカーに無電解めっき溶液を入れた。テストクーポンをTCワイヤーで溶液中に吊した。無電解めっき溶液のpHをpH5〜pH8の範囲に感応性のpH試験紙を用いてモニターし、乳酸溶液の滴下により約pH7に維持した。めっき溶液が薄緑にかわるまでテストクーポンの無電解めっきを継続した。めっき済みテストクーポンをめっき浴から取り出し、水ですすぎ、乾燥し、使用するまで保管した。かかる方法でめっきしたテストクーポンはフェロキシル試験でピンホール存在に陽性であった。
【0037】
コロイドシリカでのピンホール封止
無電解ニッケルめっきテストクーポンを絵画用エアブラシ(Aztek A270)を用いてコロイドシリカ溶液LP30で処理し、空気中で一晩乾燥し、その後180℃で1時間硬化した。
【0038】
エポキシプライマーでのピンホール封止
無電解ニッケルめっきテストクーポンを硬化剤とエポキシ樹脂とのメーカー推奨の混合物(Akzo Nobel U−Tech E350)で被覆した。被覆には、コロイドシリカを適用するのに使用したのと同じ方法で樹脂/硬化剤の混合物を適用するのに絵画用エアブラシ(Aztek A270)を用いた。得られたエポキシオーバーコート層を1時間室温で硬化させ、その後180℃で1時間硬化させた。
【0039】
テストクーポンの腐食試験
1気圧の硫化水素H2S下で0.5wt%の氷酢酸及び5%のNaClからなる腐食試験法NACE TM0177溶液にクーポンを720時間浸し、試験中100%のH2Sガスを流し続けた。
【0040】
本明細書では、具体例を挙げて、最良の形態を含む本発明を開示するとともに、当業者が本発明を実施できるようにしており、本発明の実施には装置又はシステムを製造及び使用したり、援用方法を実施することも含む。本発明の要旨は、特許請求の範囲に規定された通りで、当業者が想起できる他の例を含むことができる。かかる他の例は、特許請求の範囲の文言と異ならない構造要素を有するか、特許請求の範囲の文言と実質的に異ならない均等な構造要素を含むならば、特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
10 基材
20 無電解金属皮膜
30 ピンホール
35 ピット
40 硬化エポキシ封止材
70 充填ピンホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解金属皮膜のピンホールの封止方法であって、
(a)基材を無電解金属皮膜層で被覆して基材の表面に接触した無電解金属皮膜を有する被覆物品を形成する工程であって、基材と環境とを流体連通するピンホール欠陥が無電解金属皮膜に存在する、工程、
(b)無電解金属皮膜層上に硬化性エポキシ封止材の層を塗工し、ピンホール欠陥を充填する工程、
(c)硬化性エポキシ封止材を硬化して硬化エポキシオーバーコート層を形成する工程、及び
(d)硬化エポキシオーバーコート層の大部分を除去して、基材と環境とを流体連通するピンホール欠陥が実質的に存在しない無電解金属皮膜を有する物品を製造する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記基材が金属基材である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記基材の表面粗さが約25〜約1000Raの範囲である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記無電解金属皮膜層が無電解ニッケルリン皮膜である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記ニッケルリン皮膜が高リン皮膜である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記硬化性エポキシ封止材の粘度が周囲温度で約20〜約1200cpの範囲である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記硬化エポキシオーバーコート層を研磨で除去する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
工程(d)で製造される物品が圧縮機ブレードである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記無電解金属皮膜がポリ(テトラフルオロエチレン)粒子を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
無電解金属皮膜のピンホールの封止方法であって、
(a)基材と基材の表面に接触した無電解金属皮膜層とを有する物品を形成する工程であって、基材と環境とを流体連通するピンホール欠陥が無電解金属皮膜に存在する、工程、
(b)無電解金属皮膜層上に硬化性エポキシ封止材の層を塗工し、ピンホール欠陥を充填する工程、
(c)硬化性エポキシ封止材を硬化して硬化エポキシオーバーコート層を形成する工程、及び
(d)硬化エポキシオーバーコート層の大部分を除去して、基材と環境とを流体連通するピンホール欠陥が実質的に存在しない無電解金属皮膜を有する物品を製造する工程
を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−26704(P2011−26704A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159234(P2010−159234)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】