説明

無電解銅めっき浴

【解決手段】本発明の無電解銅めっき浴は、銅水溶性塩、錯化剤、還元剤、緩衝剤及び添加物を含む無電解銅めっき浴において、前記錯化剤がヒドロキシカルボン酸系錯化剤であり、前記還元剤がアスコルビン酸系還元剤であり、前記緩衝剤がpH緩衝剤であり、前記添加物が含窒素複素環化合物である、無電解銅めっき浴である。
【効果】
本発明の無電解銅めっき液は、pH3〜8で無電解銅めっきが可能であり、めっき浴が十分な浴安定性を示し、得られる金属銅析出皮膜が十分な厚さでありかつ非常に密着性が良好であり、さらに析出膜の結晶性が非常に微細、緻密かつ均質であるという優れた性質を持つ。これらの性質により、強アルカリ性や強酸性に弱い被めっき材料(例えばエポキシやポリアミド、アルミナなど)に、非常に緻密かつ均質な金属銅皮膜を形成することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解銅めっき液に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解銅めっき液は、導電性でない被めっき物へ銅金属皮膜を形成するために用いられる溶液である。前記被めっき物を前記めっき液に浸漬することで、前記めっき液中の還元剤(又は還元剤系)又はイオンレドックス剤(又はイオンレドックス剤系)により、前記該めっき液中の銅イオンを還元して前記被めっき物上に銅金属の皮膜を形成させるものであることはよく知られている。
【0003】
また近年無電解銅めっきを、半導体装置(及びその関連装置)などに使用される電子機器用材料としてのエポキシ、ポリイミド又はポリアミドなどの有機系(樹脂)材料又はアルミナなどのセラミックス材料などの被めっき物への適用が増大している。この理由の一つは、それらの材料が軽量でかつ優れた柔軟性・加工性を有するものであるためである。一方でこれらの材料への強アルカリや強酸性の条件での無電解銅めっき液の使用は加水分解などの反応を起こす恐れがある。従ってできるだけ中性条件(例えばpH4から8の範囲)で処理されることが望ましい。さらに近年の電子機器の小型化軽量化の要求のために、前記半導体装置の構造はますます微細化され、より小型、より複雑な三次元構造を有するようになってきている。そこで無電解銅めっきにより形成される金属銅皮膜がより微細で緻密かつ均質で優れた密着性を有することが望まれる。
【0004】
これまで無電解銅めっき液の前記還元剤としては、ホルムアルデヒド、グリオキシル酸、ジメチルアミノボラン、ヒドラジン、次亜リン酸などが知られている。またイオンレドックス剤としては、Co塩浴、Fe塩溶、Sn塩浴などが知られている(例えば、特許文献1,2;非特許文献1,2を参照)。しかし、ホルムアルデヒドを用いるめっき液は通常高アルカリ条件を必要とし、かつ作業性・環境への悪影響などが問題となっている。グリオキシル酸を用いるめっき液は通常錯化剤としてEDTAを用い、これは生分解性の点で環境への悪影響などが問題となる。ジメチルアミノボラン又はヒドラジンを用いるめっき液もまたキレート剤として通常EDTAを用い、同じく環境への悪影響などが問題となる。さらにこれらは浴安定性も十分ではない。次亜リン酸を用いるめっき液は弱アルカリ条件ではめっきが可能ではあるが中性条件以下の酸性条件下では急激に反応性が低下するという問題がある。またイオンレドックス系のめっき液は中性条件下でめっきが可能であるが、キレート剤として通常EDTAを用い、同じく環境への悪影響などが問題となる。さらに浴安定性及び銅析出速度の点においても十分ではない。
【0005】
また最近アスコルビン酸を還元剤として用いた無電解銅めっき浴が開示されている。これは、還元剤として、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、及びそれらの変性体並びに誘導体から選ばれる1種又は2種以上を用いた場合に、錯化剤として、カルボン酸、オキシカルボン酸、及びアミノカルボン酸(但し、ポリアミノカルボン酸は除く)から選ばれる1種又は2種以上を用いることにより、アスコルビン酸が直接金属銅の析出に関与(Cu2+→Cuの反応)することができるというものである(特許文献3参照)。
【0006】
しかしこのアスコルビン酸を還元剤として用いる無電解銅めっき浴は、中性条件下ではめっきが可能であるが、弱酸性条件下では急激にその反応性(例えば析出速度など)が遅くなり、かつ浴安定性も十分ではないという問題がある。さらに生成される金属銅皮膜の膜厚、結晶性(結晶サイズ、緻密性、均質性)、密着性についても上記の要求を満たすには十分ではないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3243889号
【特許文献2】特許4573445号
【特許文献3】特開2005−200666
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「表面技術」Vol.50,No.4,1999年
【非特許文献2】「表面技術」Vol.57,No.11,2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものである。本発明は、中性条件(pH3〜8)で無電解銅めっきが可能な十分な浴安定性を示す無電解銅めっき浴に関する。得られる金属銅析出皮膜は十分な厚さと良好な密着性を持ち、さらに析出膜の結晶性が非常に微細、緻密かつ均質であるという優れた性質を持つ、新規な無電解銅めっき浴を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記従来技術の問題点を解決する新規無電解銅めっき浴を探求した結果、以下の知見を得た。即ち、通常のアスコルビン酸系還元剤を用いる無電解銅めっき浴に、特定の添加剤、特に含窒素複素環化合物を添加することにより、十分な浴安定性と中性条件での無電解銅めっき可能性を有し、かつ十分な厚さと良好な密着性を持つ非常に微細、緻密かつ均質な結晶析出膜を与えることができる、という知見である。本発明はかかる知見に基づきなされたものである。
【0011】
従って本発明の無電解銅めっき浴の特徴は、通常のアスコルビン酸系還元剤を用いる無電解銅めっき浴であることと、特定の添加剤である含窒素複素環化合物を含むことである。即ち、本発明の無電解銅めっき浴は、銅水溶性塩、錯化剤、還元剤、緩衝剤及び添加物を含む無電解銅めっき浴において、前記錯化剤がヒドロキシカルボン酸系錯化剤であり、前記還元剤がアスコルビン酸系還元剤であり、前記緩衝剤がpH緩衝剤であり、前記添加物が含窒素複素環化合物である、ことを特徴とする。
【0012】
本発明には、前記本発明に係る無電解銅めっき浴の他、前記無電解銅めっき浴を使用する無電解銅めっき方法及び前記無電解銅めっき浴を使用して得られた被めっき物をも含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無電解銅めっき浴は、中性(例えばpH3〜8)で無電解銅めっきが可能である。まためっき浴が十分な浴安定性を示し、得られる金属銅析出皮膜が十分な厚さでありかつ非常に密着性が良好である。さらに析出膜の結晶性が非常に微細、緻密かつ均質であるという優れた性質を持つ。これらの性質により、強アルカリ性や強酸性に弱い被めっき材料(例えばエポキシやポリアミド、アルミナなど)に、非常に緻密かつ均質な金属銅皮膜を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1aは、FE-SEMで観察した、実施例7で得られた銅皮膜の表面の電子顕微鏡写真(SEM)である。図1bは比較例2で得られた銅皮膜の表面の電子顕微鏡写真(SEM)である。共に倍率は10,000倍である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の無電解銅めっき浴を実施するための形態を具体的に説明する。
【0016】
本発明の無電解銅めっき浴は、銅水溶性塩、錯化剤、還元剤、緩衝剤及び添加物を含む無電解銅めっき浴に関するものである。さらに本発明は、前記錯化剤がヒドロキシカルボン酸系錯化剤であり、前記還元剤がアスコルビン酸系還元剤であり、前記緩衝剤がpH緩衝剤であり、前記添加物が含窒素複素環化合物である、ことを特徴とする。
【0017】
以下、アスコルビン酸系還元剤、銅水溶性塩、錯化剤、還元剤、緩衝剤及び添加物につき説明する。なお本発明においては、これらの錯化剤、還元剤、緩衝剤、添加物とは、広く作用・機能的に定義されるものであって、それぞれが別々の化学物質、化合物又はそれらの組成物を含むことを必要とするものではない。例えば特定の化学物質が、本発明の意味する、錯化剤、還元剤、緩衝剤、添加物として複数の作用・機能を奏する場合をも含むものである。そのような複数の機能・作用を奏する錯化剤、還元剤、緩衝剤、添加物については、当業者であれば、以下説明する本発明において好ましく使用可能な錯化剤、還元剤、緩衝剤、添加物から適宜選択することができる。
【0018】
アスコルビン酸系還元剤
ここで本発明において使用可能な、アスコルビン酸系還元剤(又はアスコルビン酸系還元剤を用いた還元系)については、特に制限はない。めっき浴中の銅イオン(例えば、II又はI)を還元して被めっき物上に金属銅を析出させるものであればよい。ここで銅イオンとして銅(II)、銅(I)の意味は、通常の銅2価イオン、1価イオンを意味するが、その他の全ての価数のイオンをも含むものである。
【0019】
具体的には、知られているアスコルビン酸系還元剤のうち、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩及びそれらの変性体並びに誘導体から選ばれる1種又2種以上の化合物のうち上記の還元性を有するものであれば使用することができる。例えばアスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、イソアスコルビン酸、アスコルビン酸リン酸ナトリウム、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸エチル、アスコルビン酸硫酸2ナトリウム等が挙げられ、これらを単独または複数を適宜混合して使用することができる。
【0020】
還元剤濃度には特に制限はない。当業者であれば、めっきの目的(被めっき材料の種類、サイズ、めっき皮膜の厚さなど)に適合させて適宜選択することができる。本発明では特に、0.001〜0.3モル/L程度、好ましくは0.002〜0.05モル/L程度である。0.001モル/Lよりも低いとめっきが析出しない場合があり、0.3モル/Lより高いと浴安定性が悪くなるおそれがある。
【0021】
銅水溶性塩
また本発明で使用可能な、銅水溶性塩についても特に制限はなく、通常知られた全ての水溶性銅塩が好ましく使用可能である。本発明では、上記水溶性銅塩としては、硫酸銅、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅等が挙げられる。これらの塩の銅はめっき浴中又はめっき反応中で、2価イオン、1価イオン、その他のイオン又はそれらの混合物であってよい。
【0022】
銅水溶性塩の濃度についても特に制限はなく、当業者であれば、めっきの目的(被めっき材料の種類、サイズ、めっき皮膜の厚さなど)に適合させて適宜選択することができる。本発明では特に、0.001〜0.2モル/L、好ましくは0.01〜0.05モル/L程度である。
【0023】
錯化剤
本発明のめっき浴中の錯化剤についても特に制限はない。アスコルビン酸系還元系において通常使用される全ての知られた錯化剤が含まれる。ここで本発明において錯化剤とは、広く、めっき浴中で、銅イオン(上記の意味で)に作用し、銅イオンのめっき反応性を向上させるものを意味する。従って前記作用には通常の意味でのキレート結合・作用だけでなく何らかの相互作用(例えばイオン結合・作用など)をするものであればよい。また、本発明のめっき浴中の錯化剤は、めっき浴中での銅イオンへの作用のみならず、被めっき物上でのめっき反応に関わる銅(イオンのみならず全ての形で)に作用することでめっき反応性を向上させるものを意味する。
【0024】
本発明においては上記アスコルビン酸系の還元剤を使用することから、アスコルビン酸系還元剤との組み合わせにおいて、次の錯化剤の使用が好ましい。即ちホウ酸、カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、オキシカルボン酸、及びアミノカルボン酸(但し、ポリアミノカルボン酸は除く)が挙げられる。本発明においては特にヒドロキシカルボン酸の使用が好ましい。具体的には、ぎ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、乳酸、しゅう酸、マロン酸、こはく酸、りんご酸、酒石酸、グリコール酸、ジグリコール酸、クエン酸、ニトリロ三酢酸、グリシン、ジメチルグリシン、グリシルグリシン、グルタミン酸、アジピン酸、チオジグリコール酸及びその塩等が挙げられる。
【0025】
さらに本発明においては上記の酸及び塩を併用することが好ましい。その理由は、本発明のめっき浴のpHは、強酸性でもなく強アルカリ性でもない中性(例えばpH3から8)であることが好ましいからである。そのために上記酸及びその塩を適宜選択することで緩衝作用を得ることができるからである。
【0026】
さらに本発明では上記の錯化剤の他に、いわゆる銅イオンのキレート剤(又はリガンド、配位子など)として知られている全ての錯化剤を含むことができる。例えば銅(II)又は銅(I)又は銅(II及びI)に親和性のある知られた錯化剤が挙げられる。具体的には、ビピリジン系、フェナントロリン系、ヒドロキノン系が挙げられる。
【0027】
さらに本発明においてはめっき浴中、又はめっき反応中において、銅(II)への錯化剤のみならず銅(I)への錯化剤をも含むことが好ましい。このために、本発明ではこれら銅(II)錯化剤と銅(I)錯化剤との2種類以上の錯化剤を含有することが可能である。また、銅(II)及び銅(I)へ共に親和性のある少なくとも1種類の錯化剤を含有することも可能である。
【0028】
例えばクエン酸ナトリウムと2,2’−ビピリジル、又は酒石酸ナトリウムと1,10−フェナントロリンとの併用である。これらの少なくとも2種類の異なる錯化剤を併用することで、以下説明する添加剤との相乗作用の結果として本発明のめっき浴に浴安定性を与える。従って得られる金属銅析出皮膜が十分な厚さでありかつ非常に密着性が良好であり、さらに析出膜の結晶性が非常に微細、緻密かつ均質であるという優れた性質を発揮することとなる。
【0029】
上記錯化剤の濃度としては、0.005〜2モル/L程度、好ましくは0.03〜0.3モル/L程度である。0.005モル/Lより低いと浴安定性が悪くなるおそれがあり、2モル/Lよりも高いとめっきが不十分であった、緻密性に欠ける粗い結晶析出皮膜が析出するおそれがある。
【0030】
緩衝剤
本発明のめっき浴はさらに緩衝剤を含む。ここで緩衝剤とは、本発明のめっき浴の各組成成分(銅水溶性塩、錯化剤、還元剤び添加物)のめっき浴中での安定性を強化するためのものを意味する。例えばめっき浴のpH、イオン強度、粘度などが挙げられる。本発明においては好ましくはpHが中性でめっき反応を実施するものであることから、該緩衝剤としてはpH緩衝剤が挙げられる。
【0031】
本発明のpH緩衝剤には、説明したような緩衝効果を奏するものであれば特に制限はない。緩衝剤として上記銅水溶性塩、錯化剤、還元剤及び添加物とは別の化合物を添加することのみならず、上記銅水溶性塩、錯化剤、還元剤及び添加物の各成分が緩衝剤としての作用を示すものをも含む。例えば上で説明した複数の錯化剤の組み合わせによりpH緩衝作用を奏するものは、ここで意味するpH緩衝剤である。
【0032】
pH緩衝剤としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸、オキシカルボン酸、無機酸またはそれらの塩等を単独または適宜混合して使用することができる。上記モノカルボン酸としては、例えば、ぎ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、アクリル酸、トリメチル酢酸、安息香酸、クロロ酢酸またはそれらの塩等が挙げられる。上記ジカルボン酸としては、例えば、しゅう酸、こはく酸、マレイン酸、イタコン酸、パラフタル酸またはそれらの塩等が挙げられる。上記オキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、酒石酸、クエン酸またはそれらの塩等が挙げられる。上記無機酸としては、例えば、ほう酸、炭酸、亜硫酸、りん酸またはそれらの塩等が挙げられる。
【0033】
また本発明においては、めっき浴中、又はめっき反応中のpHを一定に維持するために、前記緩衝剤に加えて、適宜pH調節剤を添加することが好ましい。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、硫酸、塩酸、ホウ酸、リン酸、モノカルボン酸、ジカルボン酸等を単独または適宜混合して使用することができる。
【0034】
これらの緩衝剤、pH調節剤を適宜選択することで、本発明のめっき浴のpHとしては3〜8程度の範囲に目的に合わせて調節可能となる。
【0035】
添加物
本発明にかかる無電解銅めっき浴は、上で説明した銅水溶性塩、錯化剤、還元剤、緩衝剤に、さらに特定の添加物を含むことを特徴とする。前記添加剤は含窒素複素環化合物と総称される一群の化合物であり、窒素を少なくとも1つ以上含む複素環構造を有す化合物である。さらに前記含窒素複素環化合物にはその複素環構造上へ種々の置換基を有するもの(誘導体)も含まれる。さらにそれらの含窒素複素環化合物の塩も含まれる。
【0036】
本発明においては、前記環構造の員数は特に限定されるものではないが、少なくとも4員環から10員環であることが好ましく、さらに4から6員環であることが好ましい。
【0037】
さらに環構造に含まれる窒素の数および位置についても特に限定されないが、本発明においては、少なくとも2個の窒素が式、−N−C−N−で表される結合として含まれることが好ましい。具体的にはかかる複素環構造は、限定されるものではないが、5員環の場合にはイミダゾール環構造、6員環の場合にはピリミジン環構造が挙げられる。さらに本発明においては、例えばこれらのイミダゾール環構造、6員環の場合にはピリミジン環構造にさらに窒素又は他のヘテロ原子(O、Sなど)が含まれる複素環構造も含む。
【0038】
さらに本発明の複素環構造には特に、前記−N−C−N−の結合の炭素原子がさらに特定の置換基を有することが好ましい。具体的には−N−C(Y)−N−で表される結合であり、YはH、O、S、Nなどが挙げられる。ここでYがOの場合いわゆるケトン基、すなわち尿素結合となり、YはSの場合にはチオケトン基、すなわちチオ尿素結合となる。
【0039】
本発明においては、5員環複素環構造の場合にはXはHであり、6員環複素環構造の場合にはYはO又はSであることが好ましい。
【0040】
本発明の含窒素複素環化合物はさらに、水溶性のめっき浴に適切な溶解度を有するように、含窒素複素環骨格に種々の置換基を含むことができる。かかる置換基は望まれる溶解性に基づき当業者であれば適宜選択することができる。例えば、疎水性置換基としては、アルキル基、(アルキル基で置換されていてよい)アリール基が挙げられ、親水性置換基には、OH、COOH、CHO、CH−CH(H)(NH)COOHなどが挙げられる。
【0041】
本発明において好ましく使用可能な含窒素複素環化合物は、次に例示される、下式(I)、(II)、(III)又は(IV)で表される化合物である。
【0042】
【化1】

(ここでnは1から6の整数を表し、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
本発明において好ましく使用可能な含窒素複素環化合物は、2−チオウラシル、4−チオウラシル、2−チオバルビツール酸、1,3−ジエチルチオバルビツール酸、オロチン酸、メチルオロチン酸、1,3−ジメチルウラシル、ヒスチジン、イミダゾールが挙げられる。
【0043】
これらの本発明で使用可能な含窒素複素環化合物(置換誘導体)は、市販品をそのまま使用することが可能であり、さらに通常公知の化学合成方法などを用いて製造することで入手することができる。
【0044】
含窒素複素環化合物の添加濃度には特に制限はないが、0.005〜0.1g/L、好ましくは0.01〜0.08g/L程度の範囲である。0.005g/Lより低いと浴安定性が悪くなるおそれがあり、0.08g/Lよりも高いとめっきが十分に析出せず、緻密性に欠ける粗い結晶析出皮膜が析出するおそれがある。
【0045】
他の添加剤
(レドックス剤)
本発明において、アスコルビン酸系還元剤に加えて他の還元系、例えばレドックス系還元剤として知られている、Co(コバルト)、Ti(チタン)、Fe(鉄)等の遷移金属のイオンを含有することもできる。本発明においては、その濃度は100mg/L以下とするものである。このレドックス系還元剤をさらに含むことで、より緻密で微細な銅結晶析出が可能となる。
【0046】
(界面活性剤)
また本発明のめっき浴には、これまで知られている、析出皮膜の物性を改良するための各種添加剤や被めっき物の微細箇所へ浸透するめっき浴の浸透性を高めるための各種添加剤として、種々の界面活性剤を含むことができる。本発明で使用可能な界面活性剤は、無電銅めっき浴で使用し得る全ての知られた界面活性剤が使用可能であり、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0047】
陰イオン界面活性剤としては、スルホン酸塩系、硫酸エステル塩系、カルボン酸塩系、リン酸エステル塩系を用いることができる。また、陽イオン界面活性剤としては、アンモニウム塩系、アルキルアミン塩系、ピリジニウム塩系を用いることができる。両性イオン界面活性剤としては、ベタイン系、アミノカルボン酸系、アミンオキシド系、非イオン界面活性剤としては、エーテル系、エステル系、シリコーン系を用いることができる。
【0048】
より具体的には、陰イオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、スルフォコハク酸エステル、ポリオキシエチレン硫酸アルキル塩、アルキルリン酸エステル、長鎖脂肪酸セッケン等を用いることができる。また、陽イオン界面活性剤としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム塩、塩化アルキルピリジニウム塩等を用いることができる。両性イオン界面活性剤としては、ベタイン系スルホン酸塩、ベタイン系アミノカルボン酸アミン塩を用いることができる。非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン変性ポリシロキサン等を用いることができる。
【0049】
上記界面活性剤を含む溶液中の界面活性剤の濃度は適宜選定されるが、0.001〜10重量%、特に0.01〜1重量%であることが好ましい。
【0050】
本発明の無電解銅めっき浴の使用方法
本発明の無電解銅めっき浴を用いてめっきされ得る被めっき物についても特に制限はない。本発明の無電解銅めっき浴を用いると、以下実施例でも明らかなように、非常に微細な銅結晶(すべての銅皮膜を含む)が、非常に緻密にかつ均一な皮膜となる。従って被めっき物の微細な構造(3次元構造)の表面にも非常に微細な銅結晶による非常に緻密にかつ均一な皮膜を生成させることができる。被めっき物(又は被めっき部分)として、例えば微細化され、より小型、より複雑な三次元構造を有する電子機器などへ適用され得る。
【0051】
また被メッキ物の前処理として特に限定はなく、通常の又は公知の前処理、例えば適切な触媒(Pdなどの触媒)を付与する前処理をすることが好ましい。
【0052】
またかかる被めっき物に銅めっきを実施する方法・装置などについては特に制限はない。通常の種々の還元系を用いためっき条件、特にアスコルビン酸系還元剤を用いるめっき条件・装置をそのまま使用することができる。例えば、本発明にかかる無電解めっき浴を予め調製して保存したものに、被めっき物を浸漬する方法、又はめっき反応を実施する直前に、本発明のめっき浴を調製して被めっき物を浸漬する方法が挙げられる。めっき浴容量、使用する装置については、被めっき物のサイズ、目的とするめっきに合わせて適宜選択することができる。めっき反応は通常室温でスムーズに進行するが、好ましくは、めっき反応温度を一定に、例えば10℃から90℃の範囲に制御する。まためっき反応の際にpHが変動する場合には、めっき浴のpHをモニタすることが好ましい。場合によっては、自動又は手動で上で説明したpH調節剤を適宜添加して制御することが好ましい。
【0053】
本発明のめっき浴を使用するめっき反応時間は、被めっき物のサイズ、皮膜の厚さや質に適合するように適宜選択することができる。被めっき物のめっき皮膜形成は通常の方法でモニタすることができる。
【0054】
めっき反応が終了した後、本発明のめっき浴には環境に負荷をかける成分(例えばEDTAなど)が含まれていないことからその廃棄も比較的容易となる。
【0055】
無電解銅めっき浴の分析
本発明の無電解銅めっき浴に含まれる成分である、銅水溶性塩、錯化剤、還元剤、緩衝剤及び添加物、さらに他の添加物は、通常の又は知られた、化学分析方法又は物理的分析方法により、定性的及び定量的に分析することができる。これらの分析方法には、金属イオン分析、アニオン分析、有機化合物分析、pH測定などが含まれ、それぞれにつき従来知られた(又は公知の)種々の分析方法を適用することができる。例えば金属分析イオンの分析には知られたAA、ICPMS分析法、アニオン分析にはイオンクロマトグラフ方法、有機化合物にはイオンクロマトグラフ、ガスクロマトグイラフ、IR、NMR、MS分析方法などが適宜選択して適用できる。
【0056】
本発明の無電解銅めっき方法で得られる銅めっき皮膜
さらに本発明の無電解銅めっき浴を用いてめっきされた被めっき物のめっき表面は、析出された銅結晶が極めて微細なサイズを持ち、緻密な均一な皮膜であることを特徴とする。従って、これらの特徴を例えば、走査電子顕微鏡を用いて表面観察することで、析出された銅結晶のサイズ、緻密性、均一性を決定することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に制限されるものではない。
【0058】
めっき浴調製
実施例1から9および比較例1から3につき、無電解銅メッキ浴を表1に示す組成、含有量にしたがって調製した。
【0059】
【表1】

表1中で、硫酸銅は5水和物を、塩化銅は2水物を意味する。界面活性剤は、含フッ素系界面活性剤である、サーフロンS-141(セイケミカル株式会社製)を使用した。
【0060】
被めっき材料
実施例及び比較例で使用した被めっき材料は、エポキシ樹脂(寸法3cmx5cm)の板状にPd触媒を施したものを使用した。
【0061】
めっき反応:
上記の被めっき材料を、表1のそれぞれのめっき浴に浸漬した。めっき浴温度は40℃に制御し、60分反応させた。反応途中、めっき浴のpHを表1に示すpHに維持するために、25%水酸化ナトリウム、25%アンモニア水又は10%硫酸を用いて調節した。
【0062】
析出皮膜
めっき反応終了後、被めっき材料を取り出し、脱イオン水で洗浄し、乾燥させた。
【0063】
その後析出皮膜の膜厚、結晶性(結晶サイズ、緻密性、均質性)を電子顕微鏡「走査電子顕微鏡(SEM))」で評価した。
【0064】
析出皮膜の密着性は、得られためっきされた被めっき材料を取り出して折り曲げて、膜が剥離するかどうかで判定した。剥離しない場合に○、剥離(めっき中又はメッキ後に剥がれる場合も含めて)の場合に×とした。
【0065】
さらに浴安定性は上の表1での調製後、目視で判定した。判定は調製後2時間経過後、安定又は分解したかを評価した。結果を「安定」と「分解」として表2にまとめた。さらに、実施例7及び比較例2で得られた析出技術膜の表面の電子顕微鏡写真(SEM)を図1に示す。
【0066】
【表2】

結果の考察
表1,2及び図1から次のことが分かる。
【0067】
(i)実施例1から9の全てのめっき浴は、条件pH4から7で、温度40℃で十分な浴安定性を示すことから、本発明のめっき浴が優れた浴安定性を有することを示す。
【0068】
(ii)実施例1から9の全てのめっき浴は、非常に密着性の良好な析出膜を形成し、析出皮膜厚が0.5μmから1.1μmの範囲で、非常に微細かつ緻密かつ均質な微結晶性の皮膜を与える。従って、本発明のめっき浴を用いることで、被めっき物に、非常に微細かつ緻密で均質な銅皮膜を望ましい厚さで形成することができることが分かる。さらに被めっき物が非常に微細で複雑な3次元構造であっても良好なめっき皮膜を提供できることを示す。
【0069】
(iii)特に実施例6から、一般的な銅キレートを含まない組成でも、実施例1〜5と同様に良好な無電解メッキ電解めっき膜を得ることができることが分かる。このことから本発明のめっき浴は環境への負荷が大変小さいものであることがわかる。
【0070】
(iv)また実施例7,8は銅以外に多価原子価を有する金属を含んだいわゆるレドックス系還元剤を含む無電解メッキ液であるが、実施例1〜6と同様に良好な銅皮膜が得られることが分かる。このことから本発明の無電解銅めっきはこれまでのレドックス還元系と組み合わせて相乗作用を発揮させ非常に優れた無電解銅めっきを可能とすることがわかる。
【0071】
(v)また実施例9から、本発明のめっき浴は界面活性剤を含まなくとも十分優れた効果を奏することが分かる。このことから本発明のめっき浴は環境への負荷が大変小さいものであることがわかる。
【0072】
(vi)また図1に示すように電子顕微鏡による表面観察(SEM)によると、本発明の実施例7で得られた皮膜には、銅微細結晶のサイズが少なくとも0.1μmよりも小さいことがわかる。このことは、被めっき物が非常に微細で複雑な3次元構造であっても良好なめっき皮膜を提供できることを示し、近年の電子機器への要求を満たすめっき浴であることが分かる。
【0073】
(vii)一方、比較例1から3のめっき浴は、浴安定性が十分でなく、析出膜厚も薄く(又は析出せず)、密着性のよくない、まばらで微小(又は粗大な)結晶を与えるものであることが分かる。特に比較例1の無電解銅メッキ液は、浸漬直後にめっき液が分解を始め、析出皮膜が得られなかった。また比較例2の無電解銅メッキ液では、徐々に分解を初め、一時間後にはめっき浴底に銅粉末が沈殿することが分かった。さらに得られる皮膜の析出量も少ないことが分かる。図1に示すように電子顕微鏡による表面観察(SEM)によると、実施例7で得られた皮膜と比較して、粗大で不均質な結晶であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅水溶性塩、錯化剤、還元剤、緩衝剤及び添加物を含む無電解銅めっき浴において、前記錯化剤がヒドロキシカルボン酸系錯化剤であり、前記還元剤がアスコルビン酸系還元剤であり、前記緩衝剤がpH緩衝剤であり、前記添加物が含窒素複素環化合物である、無電解銅めっき浴。
【請求項2】
請求項1に記載の無電解銅めっき浴であり、前記錯化剤が、2,2‘−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、8−ヒドロキノリンの少なくともひとつを含む、無電解銅めっき浴。
【請求項3】
前記含窒素複素環化合物が、ピリミジン又はイミダゾール骨格を有する、請求項1又は2いずれか一項に記載の無電解銅めっき浴。
【請求項4】
前記ピリミジン骨格がさらにケトン又はチオケトンを含む、請求項3に記載の無電解銅めっき浴。
【請求項5】
前記含窒素複素環化合物が、下式(I)、(II)、(III)又は(IV)で表される化合物である、請求項1乃至4のずれか一項に記載の無電解銅めっき浴。
【化1】

(ここでnは1から6の整数を表し、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
【請求項6】
前記含窒素複素環化合物が、2−チオウラシル、4−チオウラシル、2−チオバルビツール酸、1,3−ジエチルチオバルビツール酸、オロチン酸、メチルオロチン酸、1,3−ジメチルウラシル、ヒスチジン、イミダゾールである、請求項5に記載の無電解銅めっき浴。
【請求項7】
前記含窒素複素環化合物の濃度が0.005〜0.1g/L、好ましくは0.01〜0.08g/Lの範囲である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の無電解銅めっき浴。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の無電解銅めっき浴であり、前記銅水溶性塩が硫酸銅又は塩化銅を含み、浴中のpHが3〜8である、無電解銅めっき浴。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の無電解銅めっき浴であり、前記pH緩衝剤が、前記ヒドロキシカルボン酸系錯化剤及びそのアルカリ塩を含む、無電解銅めっき浴。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の無電解銅めっき浴であり、さらにめっき液中で電子の授受可能な金属イオンを含む、無電解銅めっき浴。
【請求項11】
請求項10に記載の無電解銅めっき浴であり、前記金属がTi、Co、Feの少なくともひとつである、無電解銅めっき浴。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の無電解銅めっき浴であり、さらに界面活性剤を含む、無電解銅めっき浴。


【図1】
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