説明

無電解銅めっき液及び無電解銅めっき方法

【課題】廃棄の際には、簡単な処理で済み、且つ生物環境等に対する負荷を充分に軽減し得る無電解めっき液を提供する。
【解決手段】銅イオンが溶出している溶液中に浸漬されためっき対象物の表面に、前記銅イオンを還元して銅を析出する還元剤を含有する無電解銅めっき液において、該還元剤として、アスコルビン酸ナトリウムが溶解された水溶液を電気分解して得られたアルカリ性電解水を用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無電解銅めっき液及び無電解銅めっき方法に関し、更に詳細には銅イオンが溶出している溶液中に浸漬されためっき対象物の表面に、前記銅イオンを還元して銅を析出する還元剤を含有する無電解銅めっき液、及びこの無電解銅めっき液を用いた無電解銅めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解銅めっき液には、その溶液中に溶解している銅イオンを、浸漬されためっき対象物の表面に銅として析出するための還元剤が含有されている。
【0003】
かかる還元剤としては、通常、ホルマリンが用いられているが、ホルマリンは発癌性、催奇性、変異原生の危険性があり、生物環境に悪影響を与える物質である。
【0004】
このため、下記特許文献1には、還元剤としてホルマリンを用いない無電解銅めっき液が提案されている。
【特許文献1】特開2002−348673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この特許文献1で提案された無電解銅めっき液では、還元剤として、ホルマリン以外の還元剤、例えばヒドラジン、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウムが用いられている。
【0006】
しかし、かかるヒドラジン等の還元剤であっても、発癌性を有している物質であって、依然として生物環境に悪影響を与えるものである。
【0007】
また、本発明者等の検討によれば、次亜リン酸塩を還元剤として用いることができるが、リン化合物は河川湖沼に富栄養化を惹起するものであって、無電解めっき液の廃棄には充分な処理を施すことが要求される。
【0008】
そこで、本発明の課題は、廃棄の際には、簡単な処理で済み、且つ生物環境等に対する負荷を充分に軽減し得る無電解めっき液及び無電解めっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、ビタミンCとして知られているアスコルビン酸塩を還元剤として用いることができれば、生物環境等に対する負荷を充分に軽減でき且つ廃棄の際に、簡単な処理で済むことができるものと考え検討を行なった。
【0010】
しかしながら、アスコルビン酸塩の還元力が弱く、アスコルビン酸塩を還元剤として用いた無電解銅めっき液では、めっき対象物に充分な銅めっきを施すことができなかった。
【0011】
このため、本発明者等は、アスコルビン酸塩の還元力を増加し得る手段について検討した結果、アスコルビン酸塩が溶解された水溶液を電気分解して得られたアルカリ性電解水では、その還元力を向上できることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、銅イオンが溶出している溶液中に浸漬されためっき対象物の表面に、前記銅イオンを還元して銅を析出する還元剤を含有する無電解銅めっき液において、該還元剤として、アスコルビン酸塩が溶解された水溶液を電気分解して得られたアルカリ性電解水を用いることを特徴とする無電解銅めっき液にある。
【0013】
また、本発明は、めっき対象物を無電解銅めっき液中に浸漬して、前記めっき対象物の表面に無電解銅めっきを施す際に、該無電解銅めっき液として、前述の無電解銅めっき液を用いることを特徴とする無電解銅めっき方法でもある。
【0014】
かかる本発明において、アルカリ性電解水として、標準電極(Ag/AgCl)に対して−800mV以下の酸化還元電位を呈するアルカリ性電解水を用いることが好適である。
【発明の効果】
【0015】
アスコルビン酸塩が溶解された水溶液の還元力は弱く、アスコルビン酸塩を還元剤として用いた無電解銅めっき液では、めっき対象物の表面に銅を充分に析出することができない。
【0016】
この点、本発明で用いる、アスコルビン酸塩が溶解された水溶液を電気分解して得られたアルカリ性電解水は、水溶液よりも還元力が著しく向上される。このため、かかるアルカリ性電解水を用いた本発明に係る無電解銅めっき液では、無電解銅めっき液中の銅イオンを、めっき対象物の表面に銅として充分に析出できる。
【0017】
この様に、本発明に係る無電解銅めっき液では、還元剤として、生物環境等に対する負荷を殆ど無視できるアスコルビン酸塩が溶解された水溶液を電気分解して得られたアルカリ性電解水を用いる結果、廃棄の際には、簡単な処理で済み、且つ生物環境等に対する負荷を充分に軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る無電解銅めっき液は、還元剤として、アスコルビン酸塩が溶解された水溶液を電気分解して得られたアルカリ性電解水を用いる。
【0019】
アスコルビン酸塩が溶解された水溶液では、その還元力が弱い。このことは、かかる水溶液の酸化還元電位が、標準電極(Ag/AgCl)に対して−131mV程度であって、この水溶液に酸化還元指示薬であるメチレンブルーを添加したとき、メチレンブルーの色彩が殆ど変化しないことからも明らかである。このため、アスコルビン酸塩が溶解された水溶液を用いた無電解銅めっき液では、めっき対象物の表面に充分な銅を析出させることができない。
【0020】
これに対し、アスコルビン酸塩が溶解された水溶液を電気分解して得られたアルカリ性電解水では、その還元力を著しく向上できる。このことは、かかるアルカリ性電解水の酸化還元電位が、標準電極(Ag/AgCl)に対して−800mV以下であって、このアルカリ性電解水に酸化還元指示薬であるメチレンブルーを添加したとき、メチレンブルーの色彩が無色になることからも明らかである。
【0021】
かかるアルカリ性電解水は、図1に示す電解装置によって得ることができる。図1に示す電解装置には、電解槽10が隔膜12によって、一端部が直流電源18に接続されたチタン板が白金皮膜で覆われた陽極14aの他端部が挿入された陽極室14と、一端部が直流電源18に接続されたチタン板が白金皮膜で覆われた陰極16aの他端部が挿入された陰極室16とに区画されている。
【0022】
この隔膜12は、電気分解の際に、陽極室14及び陰極室16で生成したイオンが透過できるものの、水が透過できない隔膜、例えばイオン交換膜を用いることができる。
【0023】
図1に示す電解装置の電解槽10に、水道水をイオン交換膜等に通過して、水道水中に含まれている塩素イオンや金属イオン等を除去した水に、所定量のアスコルビン酸塩を添加して溶解した水溶液を注水し、直流電源18から陽極14a及び陰極16aに直流電流を流して電解槽10内の水に電気分解を施す。
【0024】
この電気分解の際に、陽極室14内の水は酸性を呈する酸性電解水となる。一方、陰極室16内の水はアルカリ性を呈するアルカリ性電解水となる。
【0025】
かかる電気分解によって得られた電解水のうち、陰極室16から採取したアルカリ性電解水を、無電解銅めっき液に用いる。
【0026】
このアルカリ性電解水を用いた無電解銅めっき液を得るには、銅イオンの供給源としての硫酸銅等の銅化合物を溶解した溶液に、得られた所定量のアルカリ性電解液を添加し、必要に応じて水酸化ナトリウム等のpH調整剤及び/又は水酸化銅の生成を防止するEDTA等の錯化剤を添加する。
【0027】
得られた無電解銅めっき液を用いて無電解銅めっきを施すめっき対象物としては、金属製のめっき対象物でも樹脂製のめっき対象物でもよいが、めっき対象物の表面に金属パラジウムを析出する等の前処理を施しておくことが好ましい。
【0028】
前処理を施しためっき対象物を、所定温度に維持された無電解銅めっき液に所定時間浸漬することによって、めっき対象物の表面に無電解銅めっきを施すことができる。
【0029】
無電解銅めっき液に所定時間浸漬しためっき対象物は、無電解銅めっき液から引き出された後、洗浄を施してから乾燥を施す。
【0030】
本発明に係る無電解銅めっき液には、ホルムアルデヒド等の生物環境に対する負荷の大きな還元剤に代えて、アスコルビン酸塩を添加して溶解した水溶液を電気分解して得たアルカリ性電解液を用いるため、その取扱いは容易である。
【0031】
しかも、無電解銅めっきをめっき対象物に所定回数施した無電解銅めっき液は、廃棄処分される。この際に、無電解銅めっき液中には、ホルムアルデヒド等の生物環境に対する負荷の大きな還元剤が配合されていないため、その廃棄処理を容易に行なうことができる。
【0032】
但し、錯化剤等が含有されている無電解銅めっき液の場合には、錯化剤等を無害化するための処理を施すことを要するが、その処理は簡単であって、無電解めっき液の廃棄処分を行なう前処理としての無害化処理を簡素化できる。
【実施例1】
【0033】
純水1.4リットルにL-(+)アスコルビン酸ナトリウム27.7gを添加して溶解した、L-(+)アスコルビン酸ナトリウムの濃度が0.1mol/リットルで且つpH7.45の水溶液を、図1に示す電解装置によって電気分解した。この電解装置に用いた陽極14a及び陰極16aの各々は、74mm×113mmのチタン板が白金皮膜で覆われて成る板状体を用いた。
【0034】
かかる陽極14aと陰極16aとの間に、100V、0.6Aの直流電流を15分間流して電気分解を施し、陰極室16からpH10.9のアルカリ性電解水を採取した。
【0035】
採取したアルカリ性電解水の酸化還元電位は、標準電極(Ag/AgCl)に対して−836mVであり、このアルカリ性電解水に酸化還元指示薬であるメチレンブルーを添加すると、メチレンブルーの色彩が無色となり、その還元力が大きいことを示している。
【0036】
一方、電気分解前の水溶液の酸化還元電位は、標準電極(Ag/AgCl)に対して−185mVであり、この水溶液に、酸化還元指示薬であるメチレンブルーを添加しても、メチレンブルーの色彩は無色とならず、その還元力が乏しいことを示している。
【0037】
この様に、L-(+)アスコルビン酸ナトリウムが溶解された水溶液の呈する還元力は乏しいものの、この水溶液を電気分解して得たアルカリ性電解水によれば、その還元力を向上できる。
【0038】
更に、従来から用いられていた還元剤を溶解した水溶液の酸化還元電位についても測定し、下記表1に示す。更に、水酸化ナトリウムを用いて水溶液のpHを調整した場合の酸化還元電位も併せて表1に示す。
【0039】
【表1】

表1から判るように、L-(+)アスコルビン酸ナトリウムの水溶液を電気分解して得たアルカリ性電解水は、従来の還元剤を溶解した水溶液をpH調整した溶液と同程度又はそれ以上の酸化還元電位を呈する。
【実施例2】
【0040】
(1)無電解銅めっき液の調整
純水40mlに硫酸銅3gを加えた後、実施例1で得たアルカリ性電解水を60ml加えて100mlの溶液とした。更に、溶液中で水酸化銅の沈殿防止を図るべく、溶液pHが1となるように硫酸を添加して、無電解銅めっき液とした。
(2)めっき対象物の準備
42材(Fe-Ni合金材)から成る金属板に脱脂処理等の前処理を施した後、この金属板を塩化パラジウム水溶液中に浸漬し、金属板の表面にPdを析出させた。
(3)無電解銅めっき
予め調整して50℃に保持した無電解銅めっき液に、表面にPdを析出させた金属板を浸漬して無電解銅めっきを施した。
【0041】
無電解銅めっき液に金属板を5分間浸漬した後、金属板を取り出して洗浄してから金属板の表面を観察したところ、金属板の表面一面には銅が充分に析出していた。
(4)参考までに、無電解銅めっき液として、アルカリ性電解水に代えてホルマリン3ml/リットルを添加した他は(1)と同様にして調整した無電解銅めっき液を用い、(3)と同様にして金属板に無電解銅めっきを施した。金属板の表面一面には、(3)で無電解銅めっきを施した金属板と同様に充分に銅が析出していた。
【比較例1】
【0042】
実施例2において、アルカリ性電解水に代えて、純水1.4リットルにL-(+)アスコルビン酸ナトリウム27.7gを添加し溶解して得た、L-(+)アスコルビン酸ナトリウムの濃度が0.1mol/リットルで且つpH7.45の水溶液を用いた他は実施例2と同様にして、金属板に無電解銅めっきを施した。
【0043】
しかし、金属板の表面一面には、銅を充分に析出させることができなかった。
【実施例3】
【0044】
(1)無電解銅めっき液の調整
硫酸銅1g/リットルの溶液に、EDTA・2Na30g/リットルを添加した後、実施例1で得たアルカリ性電解水を70ml加えた。更に、この溶液に、実施例1で得られたアルカリ性電解水を70ml加えた後、水酸化ナトリウムによって溶液のpHを12.2に調整し、無電解銅めっき液とした。
(2)めっき対象物の準備
42材(Fe-Ni合金材)から成る金属板に脱脂処理等の前処理を施した。(但し、金属板の表面にPdを析出する処理は行わなかった。)
(3)無電解銅めっき
予め調整して70℃に保持した無電解銅めっき液に、上記(2)の前処理を施した金属板を浸漬して無電解銅めっきを施した。
【0045】
無電解銅めっき液に金属板を5分間浸漬した後、金属板を取り出して洗浄してから金属板の表面を観察したところ、金属板の表面一面には銅が充分に析出していた。
【0046】
本実施例で用いた無電解銅めっき液は、pHが12.2に調整され且つEDTA・2Naが添加されている。このため、この無電解銅めっき液を用いた無電解銅めっきでは、金属板(42材)上で置換めっきの発生を防止し且つ水酸化銅の沈殿も防止できる。
(4)参考までに、無電解銅めっき液として、アルカリ性電解水に代えてホルマリン3ml/リットルを添加した他は(1)と同様にして調整した無電解銅めっき液を用い、(3)と同様にして金属板に無電解銅めっきを施した。金属板の表面一面には、(3)で無電解銅めっきを施した金属板と同様に充分に銅が析出していた。
【実施例4】
【0047】
(1)無電解銅めっき液の調整
硫酸銅20g/リットルの溶液に、実施例1で得たアルカリ性電解水を70ml加えた後、水酸化ナトリウムによって溶液のpHを12.2に調整した。更に、水酸化銅の沈殿防止のために、EDTA・2Na60g/リットルを添加して、無電解銅めっき液とした。
(2)めっき対象物の準備
ポリイミド樹脂片の表面を化学的に粗面化するコンディション処理を室温下で1分間施した後、粗面化した表面にPd−有機物を吸着するキャタリスト処理を40℃下で6分間施す。更に、ポリイミド樹脂片の粗面化した表面に吸着したPd−有機物を酸化還元反応によって金属Pdとするアクセラレータ処理を室温下で5分ほど施した。
(3)無電解銅めっき
予め調整して70℃に保持した無電解銅めっき液に、表面に金属Pdを析出させたポリイミド樹脂片を浸漬して無電解銅めっきを施した。
【0048】
無電解銅めっき液にポリイミド樹脂片を30分間浸漬した後、ポリイミド樹脂片を取り出して洗浄してからポリイミド樹脂片の表面を観察したところ、ポリイミド樹脂片の表面一面には銅が充分に析出していた。
【比較例2】
【0049】
実施例4において、アルカリ性電解水に代えて、純1.4リットルにL-(+)アスコルビン酸ナトリウム27.7gを添加し溶解して得た、L-(+)アスコルビン酸ナトリウムの濃度が0.1mol/リットルで且つpH7.45の水溶液を用いた他は実施例4と同様にして、ポリイミド樹脂片に無電解銅めっきを施した。
【0050】
しかし、ポリイミド樹脂片の表面一面には、銅を充分に析出させることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明で用いるアルカリ性電解水を得るための電気分解装置を説明する概要図である。
【符号の説明】
【0052】
10 電解槽
12 隔膜
14a 陽極
14 陽極室
16a 陰極
16 陰極室
18 直流電源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオンが溶出している溶液中に浸漬されためっき対象物の表面に、前記銅イオンを還元して銅を析出する還元剤を含有する無電解銅めっき液において、
該還元剤として、アスコルビン酸塩が溶解された水溶液を電気分解して得られたアルカリ性電解水を用いることを特徴とする無電解銅めっき液。
【請求項2】
アルカリ性電解水として、標準電極(Ag/AgCl)に対して−800mV以下の酸化還元電位を呈するアルカリ性電解水を用いる請求項1記載の無電解銅めっき液。
【請求項3】
めっき対象物を無電解銅めっき液中に浸漬して、前記めっき対象物の表面に無電解銅めっきを施す際に、
該無電解銅めっき液として、請求項1記載の無電解銅めっき液を用いることを特徴とする無電解銅めっき方法。


【図1】
image rotate