説明

焼却灰の処理方法及び処理装置

【課題】 都市ゴミ等の焼却飛灰から塩素分を効率的に再現性よく除去し、セメント製造の原料として使用しやすくする。
【解決手段】 スラリー貯槽中で焼却灰を水と混合してスラリーとする工程、及び該スラリーを洗浄灰と洗浄水とに分離する工程を含んでなる焼却灰をセメント原燃料とするための処理方法において、該スラリー貯槽中のスラリー温度を15℃以上の温度に維持する。15℃以上の温度にする方法としては、スラリー貯槽中へ導入される水の中間貯留槽を設け、そこへ高温の蒸気を吹き込む方法が簡便かつ確実である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却灰の処理方法に関する。詳しくは、セメント製造の原燃料とする際に問題となる塩素量を低減できる焼却灰の処理方法、及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ゴミ等の焼却飛灰は、その発生量が多い、塩素含有量が多い、重金属を含む、ダイオキシンを含む、発生の場所によって成分が大きく変わるなどの特徴が有り、その利用方法は限られている。
【0003】
その利用方法の一つに、セメントの原燃料とする方法がある。しかしながらセメント原燃料とする場合も無制限に使用できるわけではなく、特に、最終製品であるセメント中の塩素含有量をJIS規格に収めるために、焼却灰を洗浄し、その塩素含有量を減らす必要性がある(特許文献1〜3、非特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−351546号公報
【特許文献2】特開2010−132463号公報
【特許文献3】特開2003−103231号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】城安一、「セメントキルンを用いたごみ焼却灰のパーフェクトリサイクル―ごみ焼却灰のセメント原料化―」、ハイテクインフォメーション、中国技術振興センター発行、平成13年2月28日、第128巻、p.14−19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、同一の装置を用いて洗浄、ろ過を行っても得られた洗浄灰の塩素量が安定せず、しばしば塩素含有量のかなり多いものとなってしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、焼却灰スラリーの温度15℃を変曲点として、ろ過残渣中の塩素濃度変化が大きく異なることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明はスラリー貯槽中で焼却灰を水と混合してスラリーとする工程、及び該スラリーをろ過する工程を含んでなる、焼却灰をセメント原燃料とするための処理方法において、
上記スラリー貯槽中のスラリー温度を15℃以上の温度に維持することを特徴とする焼却灰の処理方法である。
【0009】
また他の発明は、貯水槽と、スラリー貯槽と、ろ過装置と、貯水槽からスラリー貯槽へと水を輸送する送水管と、スラリー貯槽からろ過装置へとスラリーを輸送する手段を有する、焼却灰をセメント原燃料とするための処理装置であって、
該装置はスラリー貯槽中のスラリー温度を15℃以上とする手段を有する焼却灰の処理装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安定的に塩素含有量の少ない処理済み焼却灰を得ることができる。これにより、該焼却灰をセメント原燃料として使用しても、製造されるセメント中の塩素量を抑制することができ、よって、セメント原燃料として常に多量の焼却灰を使用することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を実施するための装置の構成を示す模式図。
【図2】スラリー温度と塩素含有量の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において処理対象とされる焼却灰は特に限定されるものではないが、その発生量が多く、セメント原料以外の有用な用途が実質的に無く、かつ塩素含有量も比較的多い点で都市ゴミ焼却灰を対象とすることが好ましい。
【0013】
都市ゴミの焼却炉から排出される焼却灰のうち、主灰は、主としてストーカー炉の下部より燃え殻として排出される焼却灰であり、冷却焼却後に水と接触するため、水分を20%ないし50%(質量)程度含有する塊状物として得られる。また、その塩素含有量は、0.5ないし5.0%(質量)に及ぶ。一方、飛灰は、ストーカー炉の排ガスや流動床炉の排ガスより補足される微粉であり、一般に5ないし30%(質量)程度の割合で塩素を含有している。
【0014】
上記主灰には、空き缶、針金等の異物が多く含まれる場合があり、これらをあらかじめ除去することが好ましい。また、主灰は塊状物であるため、あらかじめ平均粒径が200μm以下、好ましくは、150μm以下、さらに好ましくは、50ないし100μmとなるように調整することが必要である。さらに、主灰粉砕後においても、未粉砕物や粉砕前に除去しきれていない異物を除去することが好ましい。
【0015】
一方、飛灰は主灰に対して多量のダイオキシン類を含有しているため、予め脱ダイオキシン類処理をされていることが好ましい。
【0016】
脱ダイオキシン類の方法は特に限定されず公知の条件にて行えばよいが、例えば、飛灰を無酸素雰囲気下、300ないし450℃、好ましくは350℃ないし450℃の温度で処理すればよい。上記無酸素雰囲気下とは、酸素が完全に存在しない場合の他に、装置等の構造により不可避的に進入する酸素、被処理物に同伴される酸素等が含有されている態様を含むものである。脱ダイオキシン類は、無酸素雰囲気を窒素ガスによって形成し、加熱機により加熱を行う態様が好ましい。なお、脱ダイオキシン類処理における加熱により、水銀も揮発除去でき、比較的高濃度の水銀を含む都市ゴミ焼却灰の前処理としては有効である。
【0017】
本発明においては、上記の如くして前処理された主灰、飛灰等の焼却灰をそれぞれ、或いは同時に水と混合してスラリー化する。スラリー化の方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜選択して行えばよい。例えば、スラリー貯槽内に、焼却灰及び水を入れて攪拌する方法が挙げられる。
【0018】
スラリーとする際の水の量は特に限定されるものではないが、固形分濃度が15質量%以下となるようにすることが好ましく、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下が最も好ましい。この際に用いる水としては、一般的な工水、地下水、上水等を用いることができる。
【0019】
攪拌を行う時間は、全体が均一なスラリーとなる程度であればよく、攪拌装置にもよるが、一般的には5〜60分間程度で十分である。
【0020】
本発明における特徴は、上記スラリー貯槽中のスラリー温度を15℃以上の温度に維持する点にある。温度が低いほど後述するろ過、洗浄後のろ過残の塩素含有量が高い傾向にあるが、特に15℃を屈曲点として塩素含有量は急激に多くなる傾向にある。
【0021】
当該スラリーの温度を15℃以上とする方法は特に限定されないが、例えば、スラリー貯槽を電熱ヒーター等の加熱装置を用いたり、高温蒸気を吹き込んで加温する方法、スラリー調製に用いる水を予め加温しておく方法などが挙げられる。
【0022】
これらのなかでも、スラリー調製に用いる水を予め加温しておく方法が好ましい。当該加温方法としては、電熱ヒーターや熱交換器等で加温する方法、水に対して高温蒸気を導入する方法などが挙げられ、特に水に対して高温蒸気を添加して行う方法が簡便で好ましい。
【0023】
このような方法を実施する装置の例を、図1を参照して説明する。この例では、貯水槽(1)と、スラリー貯槽(2)と、ろ過装置(3)と、貯水槽からスラリー貯槽へと水を輸送する送水管(4)と、スラリー貯槽からろ過装置へとスラリーを輸送する手段(5)を有しており、該送水管(4)の途中へ高温蒸気を導入する手段が設けられている。当該高温蒸気は、送水管に直接蒸気導入管を接続して導入してもよいが、好ましくは図示するように、送水管の途中に中間貯水槽(6)を設け、そこに該蒸気を直接吹き込んで加温する。なおここで高温蒸気とは100℃を超える温度の蒸気をいう(好ましくは110〜320℃)。
【0024】
蒸気の導入量はその温度等に応じて適宜設定すればよいが、スラリー貯槽中へ導入される水温が20〜50℃程度になるようにすることが好ましい。
【0025】
また、スラリー貯槽中へ直接高温蒸気を吹き込む方法によれば、該吹き込みにより、攪拌効果も期待でき、これも好ましい態様である。
【0026】
上記いずれの態様においても、エネルギー効率の観点からスラリー貯槽には保温材にて保温できるようにしておくことが好ましい。また送水管の途中で高温蒸気を導入する場合には、該導入箇所から下流の送水管も保温材で覆うことが好ましい。
【0027】
上述の如くしてスラリー化されることにより、焼却灰中の塩素分の大部分は水中に溶解する。本発明においてはスラリーを洗浄灰と洗浄水とに分離することにより、洗浄灰の塩素量を大幅に低減できる。
【0028】
当該分離方法は固液分離の可能な公知の方法を特に限定することなく採用できるが、分離効率、及び分離後の固形分の洗浄が容易な点でフィルタープレスが好ましい。
むろんフィルタープレス以外にも、ヌッチェ式吸引ろ過機、ドラムフィルター、ベルトフィルター等、公知ものものが際限なく利用できる。
【0029】
上記フィルタープレス等により洗浄水と固形分(洗浄灰)とに分離した後、分離仕切れなかった洗浄水分に含まれる塩素分を除去するため、固形分をさらに水洗することが好ましい。この際に用いる水量は特に限定されないが、固形分の乾燥質量100質量部に対して200〜5000質量部、効率の点で200〜500質量部が好ましい。なおこの洗浄工程における水温は15℃以上でなくともかまわない。
【0030】
本発明において、上記洗浄工程で得られた固形分(洗浄灰)は、カルシウム化合物、シリカを主成分とし、かつ塩素分が大幅に低減されているため、セメント製造工場にてセメント原料として使用される。この場合、上記固形分は水分を含有しているため、原料調整行程でセメント原料とともにドライヤーを経てサスペンションプレヒーターに供給することが好ましい。また、本発明で得られる排水は、公知の排水処理を行い処理排水として排出すればよい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
実施例および比較例においける焼却灰中の塩素濃度の測定は、試料の焼却灰を100℃で乾燥後、蛍光X線分析によって測定した。
【0033】
都市ゴミ焼却炉より得られたゴミ焼却灰を用いて、スラリー貯層でスラリー濃度10%とし、その温度を各実験例で5〜22℃の範囲で変動させた。このスラリーをフィルタープレスに導入し、スラリー量の2倍量の水量でケーキ洗浄を行い、ゴミ焼却灰の脱水ケーキを得た。その結果をスラリー温度とゴミ焼却灰脱水ケーキ中の塩素濃度との関係として図2に示した。スラリー温度15℃未満の場合、ゴミ焼却灰脱水ケーキ中の塩素濃度はスラリー温度への依存が大きく、15℃以上であれば、安定した塩素濃度のゴミ焼却灰脱水ケーキが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリー貯槽中で焼却灰を水と混合してスラリーとする工程、及び該スラリーを洗浄灰と洗浄水とに分離する工程を含んでなる、焼却灰をセメント原燃料とするための処理方法において、
上記スラリー貯槽中のスラリー温度を15℃以上の温度に維持することを特徴とする焼却灰の処理方法。
【請求項2】
貯水槽と、スラリー貯槽と、ろ過装置と、貯水槽からスラリー貯槽へと水を輸送する送水管と、スラリー貯槽からろ過装置へとスラリーを輸送する手段を有する、焼却灰をセメント原燃料とするための処理装置であって、
該装置はスラリー貯槽中のスラリー温度を15℃以上とする手段を有する焼却灰の処理装置。
【請求項3】
スラリー貯槽中のスラリー温度を15℃以上とする手段として、送水管の途中へ高温蒸気を導入する手段を有する請求項2記載の焼却灰の処理装置。
【請求項4】
送水管がその途中に中間貯水槽を有し、高温蒸気の導入が、該中間貯水槽において行われるものである請求項3記載の焼却灰の処理装置。
【請求項5】
スラリー貯槽中のスラリー温度が15℃以上を維持するための手段が、スラリー貯槽中への高温蒸気の導入手段である請求項2記載の焼却灰の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−95606(P2013−95606A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236815(P2011−236815)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】