説明

焼成用さや

【課題】セラミック電子部品などを焼成する際に使用する収納容器として、機械的強度を劣化させず、底板および被焼成物の主面における熱容量の差を小さくすることができる焼成用さやを提供する。
【解決手段】焼成用さや11は、一方主面上に被焼成物を載置する底板2と、前記底板の周囲に設けられた側壁板5と、前記底板の他方主面に接触するように配置され、中央付近および周辺に貫通穴3a、3bが形成された調整板9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品を焼成する際に使用される焼成用さやに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックを用いた電子部品などを焼成する際に使用する収納容器として焼成用さやが使用されてきた。セラミック電子部品は、そのセラミック電子部品を構成する子基板が複数配置された親基板の状態で作製され、その親基板を焼成用さやの底部に配置して焼成を行っていた。焼成用さやは、基板を載置する底部と、その底部の周縁部に配置された側壁部とから構成されている。このような焼成用さやである収納容器として、特許文献1が開示されている。
【0003】
特許文献1の収納容器の構成を、図9と図10を参照しながら説明する。図9はさや101の斜視図、図10はその断面図である。図9に示すように、さや101は底板103と、底板103から上方に突出した側壁105から構成されている。そして、セラミック電子部品などの被加熱物は、底板103の一方主面120上に載置される。また、底板103の他方主面122には、複数の凹部107が形成されている。この凹部107により、加熱時に底板103の中央部に加わる応力を側壁105側に分散することができ、底板103の変形を防ぐとともに被加熱物の変形をも防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−18840号公報
【発明の概要】
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、子基板を複数個配列して形成したセラミック電子部品の親基板を焼成用さやに載置して焼成炉などで加熱あるいは焼成する場合、焼成用さやは焼成炉内の中央付近に複数個積み重ねて配置されるため、焼成炉内部の熱源により焼成用さやの側壁側から加熱されることになる。そのため、焼成炉を所定の焼成温度まで昇温する場合、焼成用さやの周縁部は中央部よりも熱源に近いため、周縁部の方が中央部よりも昇温時間が短くなり、降温する場合の降温時間も短くなる。そのため、焼成用さやに載置された親基板の中央部と縁端部とでは異なる焼成状態になり、電子部品としての電気特性や機械的強度のばらつきが発生するという問題点があった。
【0007】
また、特許文献1には、焼成用さや1の底板3の断面をテーパ状に形成したり、底板3に凹部111を形成した構造が記載されている。底板の厚みを変化させることにより底板における熱容量の分布をある程度均一化することができるが、図10に示すように、底板の中央部は厚みが薄く、周縁部は厚みが厚いく形成されるため、底板の機械的強度が弱くなり焼成用さやが破損するという問題点もあった。
【0008】
そこで、本発明は機械的強度が劣化せず、被焼成物における熱容量の差を小さくすることができる焼成用さやを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、本発明に係る焼成用さやは一方主面上に被焼成物を載置する底板と、前記底板の周囲に設けられた側壁板と、前記底板の他方主面に接触するように配置され、複数の貫通穴が形成された調整板と、を備えた
ことを特徴とする。
【0010】
上記のように焼成用さやの底板に接触するように配置される調整板を使用することにより、焼成用さやの機械的強度を劣化させることなく底板および被焼成物の主面内における熱容量の差を小さくすることができる。
【0011】
また、前記調整板における前記複数の貫通穴の配置密度が前記側壁板に近づくにつれて低くなるように前記貫通穴が形成されていてもよく、さらに前記貫通穴の大きさは前記側壁板に近づくにつれて小さくなるように前記貫通穴が形成されていてもよい。
【0012】
この場合、調整板の中央部よりも周縁部における貫通穴の配置密度を低くしたり、貫通穴の大きさを小さくすることで、貫通穴がない場合に比べて底板および被焼成物の中央部と周縁部での昇温時間あるいは降温時間の差を小さくすることができ、底板および被焼成物の主面内における熱容量の差を小さくすることができる。
【0013】
また、前記底板と前記調整板とは異なる材料で形成されていてもよい。
【0014】
この場合、底板および被焼成物の中央部と周縁部における昇温時間あるいは降温時間の差が小さくなるような熱容量になる材料を使用して調整板を形成することにより、底板および被焼成物の主面内における熱容量の差を小さくすることができる。
【0015】
また、少なくとも一つの前記貫通穴の内部に調整用部材が配置されていてもよい。
【0016】
底板の領域内において部分的に熱容量を調整したい場合などに、所定の貫通孔内に調整用部材を配置することで細かく熱容量を調整することができ、底板および被焼成物の主面内における熱容量の差をさらに小さくすることができる。
【0017】
また、前記底板の一方主面上から平面視したとき、前記被焼成物の載置領域に前記貫通穴を形成した領域が含まれていてもよい。
【0018】
この場合、被焼成物の載置領域の直下に貫通穴を形成した領域の少なくとも一部が配置されるため、焼成時に被焼成物に加わる熱量を直接調整することができ、底板および被焼成物の主面内における熱容量の差を小さくすることができる。
【0019】
さらに、前記調整板の前記底板と接触するように配置される主面と対向する主面の周縁部に側壁部が配置されてもよい。
【0020】
この場合、側壁部において熱容量が大きくなるため、底板および被焼成物の主面における熱容量の差をさらに小さくすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、焼成用さやの機械的強度を劣化させず、焼成用さやの底板および被焼成物の主面における熱容量の差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る焼成用さやの概観斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る焼成用さやの断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る焼成用さやにおける調整板の平面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る焼成用さやにおける調整板の平面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る焼成用さやにおける断面図である。
【図6】本発明の第4の実施形態に係る焼成用さやにおける調整板の平面図である。
【図7】本発明の第5の実施形態に係る焼成用さやにおける断面図である。
【図8】本発明の第5の実施形態に係る焼成用さやにおける調整板の平面図である。
【図9】従来の焼成用さやの概観斜視図である。
【図10】従来の焼成用さやの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る焼成用さやの実施の形態について添付の図を参照しながら説明する。
[第1の実施形態 図1〜図3]
本発明に係る第1の実施形態の構成を図1〜図3に示す。図1は焼成用さや11の概観斜視図、図2は図1のA−A’線における断面図、図3は焼成用さや11における調整板の平面図である。
【0024】
図1に示すように、第1の実施形態の焼成用さや11は、底板2とその底板2の一方主面である表面6の周縁部から上方に伸びるように配置された側壁板5から構成されている。なお、底板2および側壁板5はアルミナなどから形成されている。そして、底板2の表面6には被焼成物である親基板7が配置されている。親基板7は、1辺の長さが10cmから13cm程度の矩形形状であり、数cm角程度の子基板が複数個、格子状に配置されている。また、本実施形態における親基板7は、チタン酸バリウムなどを含むセラミック誘電体材料から作製される絶縁体層とその絶縁体層上に形成された配線電極とを交互に積層した後、絶縁体層と配線電極とを同時焼成することにより形成した低温同時焼結多層セラミック基板を使用しているが、単一のセラミック基板を用いた電子部品、あるいは複数の実装部品を表面に実装した樹脂多層基板などであっても構わない。
【0025】
図2は焼成用さや11の断面図を示しているが、底板2の他方主面である裏面8に接触するように調整板9が配置されている。なお、本実施形態において調整板9は底板2と同じアルミナを使用して作製している。図3は調整板9の平面図を示しているが、調整板9の所定の箇所には貫通穴3が設けられている。また、調整板9と底板2とは接着剤を使用して固着しているが、ねじなどにより調整板9を底板2に固定しても構わない。
【0026】
第1の実施形態においては、調整板9の主面の中央付近に円形の貫通穴3aが形成され、その貫通穴3aの周囲に貫通穴3aよりも小さい貫通穴3bを配置している。本実施形態のように、調整板9の中央部に大きい貫通穴3aを配置することにより底板2の中央部での熱容量が小さくなり、調整板9の周縁部に小さい貫通穴3bを配置することにより底板2の周縁部での熱容量が高くなる。これにより、底板の中央部と周縁部での熱容量の差が小さくなり、焼成用さや11の中央部と周縁部における焼成時の昇温時間および降温時間の差を小さくすることができ、親基板においてもその主面内における焼成状態の違いによる電気特性ばらつきや機械的強度のばらつきを小さくすることができる。さらに、本実施形態においては、底板に調整板を接触するように配置するだけであるので、焼成用さやの機械的強度が低下することもない。
[第2の実施形態 図4]
本発明に係る第2の実施形態の構成を図4に示す。図4は第2の実施形態の焼成用さやにおける調整板29の平面図である。本実施形態における調整板29も、底板の裏面に接触するように取りつけられることにより、焼成用さやの熱容量を調整する機能を有している。なお、本実施形態における焼成用さやの概観斜視図は図1と同じであり、断面図は図2と一部異なるだけであるため、ここでは省略する。
【0027】
第2の実施形態における調整板29では、大きさの異なる3種類の貫通穴23を、調整板29の中央部から周縁部に向かってその大きさが小さくなるように配置している。調整板29の中央部に最も大きい貫通穴23a、その貫通穴23aの周囲に2番目に大きい貫通穴23b、貫通穴23bの周囲に最も小さい貫通穴23cを配置することで、調整板29の単位面積あたりの貫通穴の配置密度が中央部から周縁部に近づくにつれて低くなる。そのため、焼成用さやの中央部と周縁部における熱容量を細かく調整することができ、焼成用さやの機械的強度を低下させることなく、親基板に形成された電子部品の電気特性ばらつきや親基板の機械的強度のばらつきを小さくすることができる。
[第3の実施形態 図5]
本発明に係る第3の実施形態の構成を図5に示す。図5は第3の実施形態における焼成用さや31の断面図である。本実施形態における調整板39も、底板32の裏面38に接触するように取りつけられることにより、焼成用さやの熱容量を調整する機能を有している。なお、焼成用さや31の概観斜視図は図1と同じであり、調整板39の平面図は図3と一部異なるのみであるため、ここでは省略する。
【0028】
第3の実施形態における調整板39では、第1の実施形態における調整板9と同様に、大きさの異なる貫通穴33を調整板39の中央部から周縁部に向かってその大きさが小さくなるように配置している。そして、貫通穴33aの内部に調整用部材40を配置している。この調整用部材40は、貫通穴33aの側壁に接するように配置され、その側壁部で接着剤により固着されている。なお、接着剤の代わりに調整用部材40と調整板39とをねじなどの取り付け部材により接合しても構わない。この調整用部材40として、調整板39とは異なる材料、特に熱容量の異なる材料を用いることにより、底板32の主面方向における熱容量の差を小さくすることができる。また、焼成炉内の水平方向あるいは高さ方向などの場所による温度ばらつきにより焼成用さや31および親基板37の主面方向に均一に温度が加わらずに焼成されるような場合、所定の貫通穴にのみ調整用部材40を配置することによりその温度ばらつきを小さくすることができ、電子部品の電気特性や機械的強度のばらつきを小さくすることができる。また、図5に示す断面図においては、貫通穴33aの内部全体に調整用部材40を配置しているが、貫通穴33aの厚み方向の一部にのみ調整用部材40を配置してもよい。このような構造にすることにより、底板32および親基板37の主面における熱容量の差をさらに小さくすることができる。
[第4の実施形態 図6]
本発明に係る第4の実施形態の構成を図6に示す。図6は第4の実施形態の焼成用さやにおける調整板49の平面図である。本実施形態における調整板49も、底板の裏面に接触するように取りつけられることにより、焼成用さやの熱容量を調整する機能を有している。なお、焼成用さやの概観斜視図は図1と同じであり、断面図は図2と一部異なるのみであるため、ここでは省略する。
【0029】
第4の実施形態における調整板49は、第1の実施形態における調整板9と同じ形状であり、調整板49の中央部に大きい貫通穴43a、貫通穴43aの周囲に小さい貫通穴43bを配置している。図6に示す平面図においては、底板の一方主面上に配置される親基板47を点線で示している。本実施形態においては、親基板47を載置した領域に貫通穴43を形成した領域が含まれるように構成しているため、底板および親基板47の中央部と周縁部における熱容量の差を小さくできるため、親基板47を構成する電子部品の電気特性や機械的強度ばらつきをさらに小さくすることができる。なお、貫通穴43の配置は、親基板47の熱容量のばらつきに応じて変更してもよく、親基板47の直下にすべての貫通穴43が配置されても構わない。
[第5の実施形態 図7、図8]
本発明に係る第5の実施形態の構成を図7、図8に示す。図7は第5の実施形態における焼成用さや51の断面図であり、図8は焼成用さや51における調整板59の平面図である。本実施形態における調整板59も、底板52の裏面に接触するように取りつけられることにより、焼成用さやの熱容量を調整する機能を有している。なお、焼成用さや51の概観斜視図は図1と同じであるため、ここでは省略する。
【0030】
第5の実施形態における調整板59は、第1の実施形態における調整板9と類似の形状であり、調整板59の中央部に大きい貫通穴53a、貫通穴53aの周囲に小さい貫通穴53bを配置している。そして、本実施形態においては、調整板59の周縁部に側壁部58を配置している。この側壁部58は、貫通穴53による熱容量の調整機能を補助する機能を有しており、調整板59と一体に形成されていても、別体で形成した後、調整板59と接着剤等により接合するように形成しても構わない。側壁部58は、特に底板52の周縁部での熱容量を大きくする効果があり、大型の焼成用さやなどの場合、熱容量を効果的に調整することができる。なお、側壁部58は底板52の周縁部全体に配置する必要はなく、底板52の対向辺部分にのみ配置したり、底板52の裏面からの高さを部分的に変更したり、調整板59と異なる材料を用いたりすることにより、さらに細かく熱容量を調整することができる。
【0031】
なお、本願発明における実施形態は前記の形態に限定されるものではなく、所望の特性を得るために適宜変更しても構わない。例えば、調整板に形成する貫通穴は矩形でもよく、1枚の調整板の中で部分的に貫通穴の形状を変更しても構わない。また、調整板は底板と同じ大きさでなくてもよく、底板の中央付近からずらして配置しても構わない。
【符号の説明】
【0032】
11、31、51 ・・・ 焼成用さや
2、32、52 ・・・底板
3、23、33、43、53 ・・・ 貫通穴
5、35,55 ・・・ 側壁板
7、37、47、57 ・・・ 親基板
9、29、39、49、59 ・・・ 調整板
40 ・・・ 調整用部材
58 ・・・ 側壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方主面上に被焼成物を載置する底板と、
前記底板の周囲に設けられた側壁板と、
前記底板の他方主面に接触するように配置され、複数の貫通穴が形成された調整板と、
を備えたことを特徴とする焼成用さや。
【請求項2】
前記調整板における前記複数の貫通穴の配置密度が前記側壁板に近づくにつれて低くなるように前記貫通穴が形成されていることを特徴とする請求項1記載の焼成用さや。
【請求項3】
前記貫通穴の大きさは前記側壁板に近づくにつれて小さくなるように前記貫通穴が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の焼成用さや。
【請求項4】
前記底板と前記調整板とは異なる材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の焼成用さや。
【請求項5】
少なくとも一つの前記貫通穴の内部に調整用部材が配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の焼成用さや。
【請求項6】
前記底板の一方主面上から平面視したとき、前記被焼成物の載置領域に前記貫通穴を形成した領域が含まれることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の焼成用さや。
【請求項7】
前記調整板の前記底板と接触するように配置される主面と対向する主面の周縁部に側壁部が配置されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の焼成用さや。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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