説明

焼結部品及びその製造方法

【課題】焼き入れ検査を簡単に行うことができるとともに検査精度を向上させることができる焼結部品及びその製造方法焼結部品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】焼結部品は、金型により粉末成形体2を加圧成形する加圧成形工程、前記粉末成形体2を焼結して焼結体を得る焼結工程、及び前記焼結体の所定箇所を焼き入れ処理する焼き入れ工程を経て製造される。前記加圧成形工程において、前記焼き入れ処理による変色の許容範囲を示す目印、又は前記焼き入れ工程後に焼き入れ深さを測定するために切断する切断箇所を示す目印となる目印部10が、前記金型により加圧成形されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結後に焼き入れ処理が行われる焼結部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結部品は、金型により加圧成形した粉末成形体を焼結することによって製造される。そして、このような焼結部品の中には、焼結後の所定箇所に硬化層を形成するために焼き入れ処理が施される場合がある(例えば、特許文献1参照)。この場合、焼き入れ処理された焼結部品は、その焼き入れ処理が適切に施されているか否かを検査するための焼き入れ検査が行われる。
【0003】
従来の焼き入れ検査では、製造ロット毎にサンプルを抽出し、そのサンプルに定規を当てて焼き入れによる変色の範囲を測定し、その変色が許容範囲内であるか否かを検査したり、サンプルに手書きで入れた罫書きに沿って当該サンプルを切断し、その切断面における焼き入れ深さを測定することにより硬化層の硬さを検査したりすることが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−291232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の焼き入れ検査では、変色の範囲を測定するためにサンプル毎に定規を当てる作業や、サンプルに手書きで罫書きを入れる作業が必要になるため、検査作業に手間がかかるとともに、定規の目盛りの読み間違えや、罫書きの位置がずれることがあるため、検査精度にばらつきが生じるという問題があった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、焼き入れ検査を簡単に行うことができるとともに検査精度を向上させることができる焼結部品及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の焼結部品は、金型により粉末成形体を加圧成形する加圧成形工程、前記粉末成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程、及び前記焼結体の所定箇所を焼き入れ処理する焼き入れ工程を経て製造される焼結部品であって、前記焼き入れ処理による変色の許容範囲を示す目印、又は前記焼き入れ工程後に焼き入れ深さを測定するために切断する切断箇所を示す目印となる目印部が、前記加圧成形工程において前記金型により加圧成形されていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、焼結部品の製造途中における加圧成形工程において、焼き入れ処理による変色の許容範囲を示す目印、又は焼き入れ深さを測定するために切断する切断箇所を示す目印となる目印部を予め成形しておくことができる。これにより、従来のように、前記変色の範囲を測定するために定規を当てる作業、又は前記切断箇所に罫書きを入れる作業が不要になるため、焼結部品の焼き入れ検査を簡単に行うことできる。また、定規の目盛りの読み間違え、又は罫書きの位置がずれるのをなくすことができるため、検査精度を向上させることができる。さらに、粉末成形体を加圧成形する加圧成形工程において、目印部も同時に成形されるため、焼結部品の製造効率を低下させることなく、目印部を成形することできる。
【0008】
(2)前記目印部は、前記変色の許容範囲を示す目印と、前記切断箇所を示す目印とを兼ねていることが好ましい。この場合、前記変色の許容範囲を示す目印、及び前記切断箇所を示す目印を個別に成形する必要がないため、目印部の成形が容易となる。
【0009】
(3)前記目印部は、断面凹状に形成されており、前記目印部の深さは、前記焼き入れ工程後に機械加工をするための機械加工取代以下に設定されていることが好ましい。この場合、焼き入れ検査が行われなかった焼結部品については、機械加工を施すことによって目印部を消滅させることができるため、前記目印部が最終的に残ることによって焼結部品に意匠上又は機能上の問題が生じるのを防止することができる。
【0010】
(4)本発明の焼結部品の製造方法は、金型により粉末成形体を加圧成形する加圧成形工程、前記粉末成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程、及び前記焼結体の所定箇所を焼き入れ処理する焼き入れ工程を含み、前記加圧成型工程において、前記焼き入れ処理による変色の許容範囲を示す目印、又は前記焼き入れ工程後に焼き入れ深さを測定するために切断する切断箇所を示す目印となる目印部を、前記金型により加圧成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、焼結部品の製造途中における加圧成形工程において、焼き入れ検査に用いられる目印部が予め成形されるため、従来のように、定規を当てる作業又は焼き入れ工程後に罫書きを入れる作業が不要になり、焼き入れ検査を簡単に行うことできるとともに検査精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る焼結部品を示しており、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図2】加圧成形工程において加圧成形された粉末成形体を示す正面図である。
【図3】(a)は目印部を示す図2の要部拡大図であり、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の焼結部品及びその製造方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係る焼結部品であり、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線断面図を示している。この焼結部品1は、例えば自動車の可変バルブタイミング機構(VVT)の構成部品であり、金型により粉末成形体2(図2参照)を加圧成形する加圧成形工程、前記粉末成形体2を焼結して焼結体を得る焼結工程、前記焼結体の所定箇所を焼き入れ処理する焼き入れ工程、及び機械加工工程を経て製造される。
【0014】
前記焼結部品1は、図1(a)及び(b)に示すように、円環状に形成されており、その周方向には複数(本実施形態では6個)のネジ孔3と単一の溝部4とがそれぞれ形成されている。前記溝部4は、その表面に硬化層を形成するために、前記焼き入れ工程において、例えば高周波焼き入れによって焼き入れ処理が施されている。また、前記溝部4が開口する端面5は、前記機械加工工程において機械加工されている。なお、本発明において、焼結部品1の形状は、特に限定されるものではなく、用途などに応じて適宜選定することができる。
【0015】
図2は前記加圧成形工程において加圧成形された粉末成形体2を示している。図2において、前記ネジ孔3及び溝部4は、金型に形成された凸部(図示省略)によって、前記端面5とともに同時に加圧成形される。また、粉末成形体2の端面5には、溝部4の近傍に目印部10が前記金型によって同時に加圧成形される。
【0016】
図3の(a)は目印部10を示す図2の要部拡大図であり、(b)は(a)のB−B線断面図である。目印部10は、前記焼き入れ工程後に溝部4の焼き入れ処理が適切に施されているか否かを検査(以下、「焼き入れ検査」という)する際に用いられるものである。本実施の形態における目印部10は、焼き入れ処理による変色の許容範囲を示す目印と、焼き入れ工程後に焼き入れ深さを測定するために切断する切断箇所を示す目印とを兼ねている。
【0017】
より具体的には、目印部10は、溝部4の開口端から図3(a)の左方向に直線状に延びる第1目印11及び第2目印12と、前記開口端から図3(a)の右方向に直線状に延びる第3目印13及び第4目印14とによって構成されている。第1〜第4目印11〜14は、図3(b)に示すように、いずれも断面凹状に形成されている。
【0018】
図3(a)において、第1目印11及び第3目印13の長手方向に延びる中心線X1及びX3は、それぞれ同一直線上に配置されている。また、第2目印12及び第4目印14の長手方向に延びる中心線X2及びX4は、前記中心線X1(X3)に平行な同一直線上に配置されている。また、第1〜第4目印11〜14の長手方向の長さL1〜L4は、すべて同一長さ(本実施の形態では8mm)に形成されている。
【0019】
第1目印11〜第4目印14の各外側端11a〜14aは、前記焼き入れ処理による変色の許容範囲を示す目印とされている。すなわち、第1及び第2目印11,12の各外側端11a,12aから第3及び第4目印13,14の各外側端13a,14aまでの距離Lの範囲が、前記焼き入れ処理による変色の許容範囲を示している。したがって、焼き入れ検査では、溝部4の図3(a)の左側(以下、単に「左側」という)の変色部分6aが、第1及び第2目印11,12の各外側端11a,12aの図3(a)の右側(以下、単に「右側」という)で変色している場合は、前記変色部分6aは許容範囲内であると判定される。一方、前記変色部分6aが各外側端11a,12aの左側まで変色している場合は、前記変色部分6aは許容範囲を越えていると判定される。
【0020】
同様に、溝部4の右側の変色部分6bが、第3及び第4目印13,14の各外側端13a,14aの左側で変色している場合は、前記変色部分6bは許容範囲内であると判定され、前記変色部分6bが各外側端13a,14aの右側まで変色している場合には、前記変色部分6bは許容範囲を越えていると判定される。
【0021】
さらに、第1目印11〜第4目印14は、前記切断箇所を示す目印(罫書き)とされている。すなわち、第1及び第3目印11,13は、その長手方向に沿ってカッタ等により切断する第1の切断箇所を示しており、第2及び第4目印12,14は、その長手方向に沿ってカッタ等により切断する第2の切断箇所を示している。これにより、焼き入れ検査では、第1及び第2の切断箇所でそれぞれ切断された切断面において焼き入れ深さを測定することにより、硬化層の硬さを検査することができる。
【0022】
図3(b)において、第1〜第4目印11〜14は、すべて同一の深さhに設定されており、前記機械加工工程において前記端面5を機械加工するための機械加工取代H以下に設定されている。本実施の形態では、前記深さhは0.03〜0.05mm、機械加工取代Hは0.1〜0.3mmにそれぞれ設定されている。これにより、焼き入れ検査が行われなかった焼結部品1については、前記端面5を機械加工することにより、第1〜第4目印11〜14をすべて消滅させることができる。
【0023】
次に前述した焼結部品1の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
まず、図示しない一方の金型のキャビティに金属粉末を充填した後、他方の金型によって当該金属粉末を加圧成形して粉末成形体2を得る(加圧成形工程)。その際、図2に示すように、複数のネジ孔3、溝部4及び第1〜第4目印11〜14が、端面5とともに前記金型によって同時に加圧成形される。
【0024】
次に、加圧成形により得られた粉末成形体2を、図示しない焼結炉に導入し、所定温度で焼結する(焼結工程)。そして、焼結によって得られた焼結体に、所定箇所である溝部4を焼き入れ処理し、その表面に硬化層を形成する(焼き入れ工程)。
【0025】
焼き入れ処理後は、溝部4の焼き入れ処理が適切に施されているか否かを検査する焼き入れ検査が行われる。この焼き入れ検査は、製造ロット毎にサンプルを抽出して行われる。その検査方法は、まず、サンプルの焼き入れ処理による変色が所定の許容範囲内であるか否かを目視によって検査する。その具体的な検査方法は、前述の通りである。
【0026】
次に、サンプルを、第1及び第3目印11,13の長手方向、及び第2及び第4目印12,14の長手方向に沿ってそれぞれ切断する。そして、その二箇所の切断面において焼き入れ深さを測定することにより、硬化層の硬さを検査する。
【0027】
焼き入れ検査が終了すると、サンプルを除く焼結部品1の端面5を、図示しない工具によって機械加工する(機械加工工程)。その際、前記端面5における機械加工取代が除去されることによって、図1(a)に示すように、第1〜第4目印11〜14はすべて消滅する。
【0028】
以上、本実施の形態に係る焼結部品1及びその製造方法によれば、焼結部品1の製造途中における加圧成形工程において、焼き入れ処理による変色の許容範囲を示す目印、及び焼き入れ深さを測定するために切断する切断箇所を示す目印となる目印部10を、予め成形しておくことができる。これにより、従来のように、前記変色の範囲を測定するために定規を当てる作業や、前記切断箇所に罫書きを入れる作業が不要になるため、焼結部品1の焼き入れ検査を簡単に行うことできる。
【0029】
また、定規の目盛りの読み間違えや、罫書きの位置がずれるのをなくすことができるため、検査精度を向上させることができる。さらに、粉末成形体2を加圧成形する加圧成形工程において、目印部10も同時に成形されるため、焼結部品1の製造効率を低下させることなく、目印部10を成形することできる。
【0030】
また、前記目印部10は、前記変色の許容範囲を示す目印と、前記切断箇所を示す目印とを兼ねているため、これらの目印を個別に成形する必要がない。したがって、目印部10を容易に成形することができる。
【0031】
また、前記目印部10の深さhは、焼き入れ工程後に機械加工をするための機械加工取代H以下に設定されているため、焼き入れ検査が行われなかった焼結部品1については、前記機械加工を施すことによって目印部10を消滅させることができる。したがって、目印部10が最終的に残ることによって焼結部品1に意匠上又は機能上の問題が生じるのを防止することができる。
【0032】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0033】
例えば、本実施の形態における目印部は、変色の許容範囲を示す目印と、切断箇所を示す目印とを示しているが、いずれか一方の目印を示していればよい。
また、本実施の形態における目印部は、断面凹状に形成されているが、断面凸状に形状されていてもよい。
【0034】
さらに、本実施の形態では、機械加工工程によって目印部を消滅させているが、目印部が最終的に残ることによって焼結部品に意匠上又は機能上の問題が生じない場合には、機械加工工程を行う必要はない。また、前記問題が生じない場合には、目印部の深さを機械加工取代以上に設定してもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 焼結部品
2 粉末成形体
4 溝部(所定箇所)
10 目印部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型により粉末成形体を加圧成形する加圧成形工程、前記粉末成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程、及び前記焼結体の所定箇所を焼き入れ処理する焼き入れ工程を経て製造される焼結部品であって、
前記焼き入れ処理による変色の許容範囲を示す目印、又は前記焼き入れ工程後に焼き入れ深さを測定するために切断する切断箇所を示す目印となる目印部が、前記加圧成形工程において前記金型により加圧成形されていること特徴とする焼結部品。
【請求項2】
前記目印部は、前記変色の許容範囲を示す目印と、前記切断箇所を示す目印とを兼ねている請求項1に記載の焼結部品。
【請求項3】
前記目印部は、断面凹状に形成されており、
前記目印部の深さは、前記焼き入れ工程後に機械加工をするための機械加工取代以下に設定されている請求項1又は2に記載の焼結部品。
【請求項4】
金型により粉末成形体を加圧成形する加圧成形工程、
前記粉末成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程、及び
前記焼結体の所定箇所を焼き入れ処理する焼き入れ工程を含み、
前記加圧成型工程において、前記焼き入れ処理による変色の許容範囲を示す目印、又は前記焼き入れ工程後に焼き入れ深さを測定するために切断する切断箇所を示す目印となる目印部を、前記金型により加圧成形することを特徴とする焼結部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−246522(P2012−246522A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117928(P2011−117928)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】