説明

焼結鉱の還元性評価方法

【課題】JIS M 8713に規定されるJIS-RI試験のみならず、雰囲気ガスとしてCO2 を用いた場合においても、低還元材比下での焼結鉱の還元率の測定精度の向上を図ることができる、焼結鉱の還元性評価方法を提供する。
【解決手段】評価方法に用いる還元ガス成分としてCOおよびCO2を用い、雰囲気温度を室温から1200℃まで上昇させるものとし、その際、(CO+CO2)混合ガス中のCO2の値を、雰囲気温度600℃以下では40〜50vol%、雰囲気温度1100℃以上では0vol%とし、その間のCO2の値を、連続的または断続的に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱石系原料である焼結鉱の高炉内における還元性の評価方法に関し、特に、実際の炉況に則した焼結鉱の還元率を、精度良くかつ安定して評価しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鉱石から銑鉄を取出すための炉である高炉の操業においては、焼結鉱とコークスとを積層させ、高炉内を通過する高温の還元ガスにより焼結鉱を還元し、溶銑とした後、銑鉄を取出している。
この時の安定操業のために、焼結鉱の還元性(率)を管理する指標として、JIS-RI試験(JIS M 8713 2008「鉄鉱石類の還元試験方法」、以下年度を略する)が使用されている。
【0003】
近年では、溶銑コストを低減する方策の一つとして、コークスコストの低減化が求められ、このために、コークスの使用量が少ない低還元材比での操業が一般化しつつある。
ここで、JIS-RI試験条件と高炉内温度・ガス測定結果を図1に示す。図中、○印の位置がJIS-RIの温度および雰囲気である。一方、△印で、微粉炭比(PCR)182kg/tで操業したときの高炉内の温度とガス組成を示す。
同図から明らかなように、JIS-RI試験のガス組成は、900℃における高炉内ガス組成と大きく異なっている。そのため、このJIS-RI値では、正確に高炉内における還元性を評価することは難しいと考えられる。
【0004】
これに対し、特許文献1には、焼結鉱の還元性を評価する方法として、還元ガスのCO2 含有割合と温度とを変数としたグラフを用い、カルシウムフェライトの還元平衡線と酸化鉄の還元平衡線とに挟まれ、かつ800℃以上、間接還元温度以下の範囲内で、焼結鉱の還元率を測定をする技術が示されている。この方法によって、高炉の炉内状況を、JIS-RI試験に比べて的確に反映できる旨の記載がある。
【0005】
この特許文献1に開示の技術は、CO2を評価時の雰囲気ガスに混合したことで、高炉内における間接還元率との相関が、JIS-RI試験で得られる値よりも改善されていることが示されている。しかし、その間接還元率は最大でも64%であり、また特許文献1中の実施例の結果を見ると、間接還元率の値が上昇するほど、相関のばらつきが大きくなっていることが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−249507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
つまり、特許文献1に記載された技術では、高い間接還元率を必要とする近年の低還元材比下での、高炉における還元率の評価を考えた場合、還元率のばらつきが大きくなってしまうという問題を残していた。
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、従来のJIS M 8713に規定されるJIS-RI試験のみならず、雰囲気ガスとしてCO2 を用いた場合においても、低還元材比下における焼結鉱の還元率の測定精度を格段に向上させた焼結鉱の還元性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、まず、JIS-RI値のばらつきの原因につき検討した。その結果、以下の反応式を考慮すると、CO2/(CO+CO2)の値(以下、ηCOという)が重要である、という考えに想到した。
式:FeO2 + 2CO → Fe + 2CO2
【0009】
上記した考えの有効性を確かめるために、図2に示すガス条件、図3に示す温度条件、さらには図4に示すその他の試験条件および設備を使用して、試験を行った。この試験に際しては、ηCOの値を適宜変化させ、種々のデータを取得した。
【0010】
結果を、図5に示す。
同図より、試験の主原料である焼結鉱のRI%値とηCOの値には相関があることが分かる。
本結果に基づき、さらに、種々の追加検討を行った結果、ηCOの値を、その試験中の雰囲気温度と相関関係をもって変化させることで、間接還元率が高い領域でも正確に焼結鉱の還元率が求められることが究明された。
以上のような知見を得て、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、上記知見に基づく本発明の要旨構成は次のとおりである。
(1)鉱石系の原料である焼結鉱の、高炉内還元率を測定するJIS M 8713に規定されたJIS-RI試験に準拠した還元率の評価方法であって、該評価方法に用いる還元ガス成分としてCOおよびCO2の混合ガスを用い、雰囲気温度を室温から1200℃まで上昇させるものとし、その際、(CO+CO2)混合ガス中のCO2の値を、雰囲気温度600℃以下では40〜50vol%、雰囲気温度1100℃以上では0vol%とし、その間のCO2の値を、連続的または断続的に変化させることを特徴とする焼結鉱の還元性評価方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ηCOの値を、その試験中の雰囲気温度と相関関係をもって変化させることにより、高い間接還元率を必要とする近年の低還元材比下での操業が求められる高炉における焼結鉱の還元率を、炉況に則して正しく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】JIS-RI試験条件と高炉内温度・ガス測定結果を、温度とCO/(CO+CO2)の関係で示した図である。
【図2】還元試験条件の中のガス組成条件を示した図である。
【図3】還元試験条件の中の温度条件を示した図である。
【図4】その他の還元試験条件および使用装置を示した図である。
【図5】還元率(RI)とガス利用率(ηCO)の関係を示した図である。
【図6】還元条件の中のガス組成条件を示した図である。
【図7】従来のJIS-RI試験に従う還元率と間接還元率の関係とを比較して示した図である。
【図8】本発明に従う還元率(RI´)と間接還元率の関係とを比較して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、JIS M 8713に示された還元性評価試験に準拠するものであるが、特に雰囲気ガス中の還元ガスを、COおよびCO2の混合ガスに変更し、かつ(CO+CO2)中のCO2の値を、試験中の雰囲気温度に則して変化させることが本発明の最も重要なところである。
【0015】
上記したようなCO2の値の変化によって、還元性を正確に評価できる理由は解明されていない。しかし、前述した試験の結果から、焼結鉱のRI%値とCO2/(CO+CO2)の値であるηCOの値との間には関係がある。このことから、ある温度では、最適なηCOの値であっても、別の温度では、過剰または不足な状態になっている可能性が考えられる。
従って、本発明のように、還元温度の変化に応じて、ηCOの値を適切に変更することによって、上記したような不具合を回避し、常に、炉況に則した焼結鉱の還元性が評価できるものと考えている。
【0016】
本発明に従う方法では、試験の雰囲気温度を室温から1200℃まで上昇させて行う。この時、室温から600℃までは、特に還元反応は顕著にならず、ηCOの値は0.4〜0.5(CO2の値:40〜50vol%)の範囲にあるので、この範囲に規定する。その後、雰囲気温度が上がるにつれて、ηCOの値を減少させ、雰囲気温度が1100℃に達したところで0(CO2の値:0vol%)とする。この間におけるηCOの値の減少は連続的、または断続的(階段状)に変化させる。
【0017】
上記した点で特に重要なことは、雰囲気温度が600℃の時点でηCO値を0.4〜0.5、1100℃の時点でηCO値を0とし、その間を連続的または断続的(雰囲気温度にあっては上昇し、ηCO値にあっては降下し)に変化させることである。
【0018】
実際の制御に際しては、雰囲気温度を600〜1100℃まで上昇させる間に、一定回数の温度保持領域をもうけ、この間のηCOの値は、温度変化と同じように、その温度の保持中はそれに併せて一定の値に保持するようにすることが好ましい。
なお、本試験に用いる還元試験装置は、従来公知のJIS-RDI試験装置で良い。
【実施例1】
【0019】
本試験に用いる評価試験の条件および装置は、図4に示したものおよび図6を使用した。
上図に示した条件で、JISの還元率の結果を図7(図中、還元率はJIS-RIと記す)に、また本発明に従う還元率の結果を図8(図中、還元率はRI´と記す)に示す。
【0020】
図7および8に示した結果から、JISに従う還元率と高炉内の間接還元率との間は、間接還元率が高くなると相関が薄れるのに対し、本発明に従った場合には、いずれの条件に従っても、還元率と高炉内の間接還元率とは、実際の還元率の如何にかかわらずとても良い相関関係にあることが分かる。
このように、本発明によれば、特許文献1ではばらつきが特に大きくなると推定される70%以上の間接還元率の範囲でも、その相関性が良好に維持されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、焼結鉱の還元率を、高い間接還元率の下でも、正確に再現よく評価できるため、高炉操業時の還元率管理として適用することによって、低還元材比での高炉操業であっても安定した高炉操業が実現でき、ひいては、低コストで安定した焼結鉱の品質を確保することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱石系の原料である焼結鉱の、高炉内還元率を測定するJIS M 8713に規定されたJIS-RI試験に準拠した還元率の評価方法であって、該評価方法に用いる還元ガス成分としてCOおよびCO2の混合ガスを用い、雰囲気温度を室温から1200℃まで上昇させるものとし、その際、(CO+CO2)混合ガス中のCO2の値を、雰囲気温度600℃以下では40〜50vol%、雰囲気温度1100℃以上では0vol%とし、その間のCO2の値を、連続的または断続的に変化させることを特徴とする焼結鉱の還元性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−47011(P2011−47011A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197421(P2009−197421)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】