説明

焼菓子センター用含水チョコレート生地及び焼菓子

【課題】耐焼成性に優れ、含水チョコレート生地を焼菓子生地で包餡した焼菓子を得ることができる焼菓子センター用含水チョコレート生地及び焼菓子を提供する。
【解決手段】チョコレート生地と、乳成分を含有する水系原料と、水あめ及び/又は糖アルコールと、HLBが1〜6の乳化剤とを含み、全体中の不溶性食物繊維含有量が2〜35質量%で、油中水型のエマルションを形成している焼菓子センター用含水チョコレート生地を得る。この含水チョコレート生地を焼菓子生地で包餡し、焼成して焼菓子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼菓子センター用含水チョコレート生地及び該生地を包餡した焼菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
生チョコレートやガナッシュなどのような含水チョコレートは、チョコレート生地に、生クリームなどの水系原料を配合して製造されるものであって、通常のチョコレートに比べて柔らかく、口溶けが良い食感を有している。
【0003】
このような含水チョコレートを焼菓子のセンター材として用いる試みがあり、例えば、下記特許文献1には、無脂カカオ分1〜30重量%、油脂10〜50重量%、水分4〜40重量%、及び熱凝固性蛋白が無水物換算で0.2〜10重量%であり、そして5℃において非流動状態にあるチョコレート利用食品を、焼菓子生地に包餡し、焼成して焼菓子を製造することが開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、カカオ由来の固形分を10重量%以上含有するチョコレート生地20〜80重量%と水相成分80〜20重量%とを混合した水中油型含水チョコレートをベーカリー生地中に包餡させ、該ベーカリー生地を焼成して焼成菓子を製造することが開示されている。
【特許文献1】特開2000−106822号公報
【特許文献2】特開2002−119216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
含水チョコレートは、熱による変化が大きいので、耐焼成性が劣る。このため、含水チョコレート生地を、焼菓子生地で包餡して焼菓子生地と同時焼成すると、焼成中に含水チョコレート生地が突沸して、包餡した含水チョコレート生地が焼菓子生地の表層に染みでたり、焼成時に含水チョコレート生地から蒸散した水蒸気によって焼成後の焼菓子生地内部に空洞が生じることがあった。
【0006】
また、上記特許文献1,2に開示された含水チョコレート生地においても保形性は十分とは言えず、焼菓子生地で包餡して焼成すると、焼成中に包餡した含水チョコレート生地が焼菓子生地の表層に染みでて一体化しやすいという欠点があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、耐焼成性に優れ、含水チョコレート生地を焼菓子生地で包餡した焼菓子を得ることができる焼菓子センター用含水チョコレート生地及び、該生地を包餡した焼菓子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の焼菓子センター用含水チョコレート生地は、チョコレート生地と、乳成分を含有する水系原料と、水あめ及び/又は糖アルコールと、HLBが1〜6の乳化剤とを含み、全体中の不溶性食物繊維含有量が2〜35質量%で、油中水型のエマルションを形成していることを特徴とする。
【0009】
本発明の焼菓子センター用含水チョコレート生地は、不溶性食物繊維を添加して、不溶性食物繊維含有量が2〜35質量%に調整されていることが好ましい。
【0010】
本発明の焼菓子センター用含水チョコレート生地は、カゼイン、カゼインナトリウム、リン酸塩、有機酸モノグリセライドから選ばれる少なくとも1種以上を含有することが好ましい。
【0011】
一方、本発明の焼菓子は、上記含水チョコレート生地を焼菓子生地で包餡し、焼成して得られることを特徴とする。
【0012】
本発明の焼菓子は、焼成後の焼菓子の水分含量が5〜20質量%であることが好ましい。
【0013】
本発明の焼菓子は、前記焼菓子生地が、ビスケット生地又はクッキー生地であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の焼菓子センター用含水チョコレート生地は、油中水型のエマルションを形成しているので、焼成中に含水チョコレート生地から水分が抜けにくく、含水チョコレート生地の突沸や、含水チョコレート生地からの水蒸気の蒸散を抑制できる。そして、水あめ及び/又は糖アルコールと、HLBが1〜6の乳化剤とを配合し、不溶性食物繊維含有量を2〜35質量%としたことで、良好な口どけを維持しつつ、乳化状態がより安定化し、焼成時に熱が加わっても油中水型のエマルションを維持でき、含水チョコレート生地の突沸や、含水チョコレート生地からの水蒸気の蒸散や、ダレなどが生じにくくなり、耐焼成性に優れている。
そして、カゼイン、カゼインナトリウム、リン酸塩、有機酸モノグリセライドから選ばれる少なくとも1種以上を含有することで、乳化状態がより安定化し、蛋白が変性しても乳化状態が壊れにくくなると推測されるので、焼成後の食感が硬くなりにくく、焼成後であっても口どけの良い食感を維持できる。
したがって、この焼菓子センター用含水チョコレート生地を焼菓子生地で包餡し、焼成してなる本発明の焼菓子は、焼菓子生地の表層に含水チョコレート生地の染み出しや、内部の空洞化が無く、焼菓子生地によって含水チョコレート生地がしっかりと包餡されており、焼菓子生地の食感と、含水チョコレート生地の口溶けの良い滑らかな食感とを同時に堪能できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[焼菓子センター用含水チョコレート生地]
まず、本発明の焼菓子センター用含水チョコレート生地について説明する。本発明の焼菓子センター用含水チョコレート生地は、チョコレート生地と、乳成分を含有する水系原料と、水あめ及び/又は糖アルコールと、HLBが1〜6の乳化剤とを含み、全体中の不溶性食物繊維含有量が2〜35質量%で、油中水型のエマルションを形成してなるものである。含水チョコレート生地の種類としては、特に限定はなく、生チョコレート、ガナッシュ及びこれに類似したものなどが挙げられる。
【0016】
本発明の焼菓子センター用含水チョコレート生地は、水分含量が5〜20質量%であることが好ましく、10〜15質量%がより好ましい。水分含量が上記範囲であれば、口溶けの良い食感が得られる。
【0017】
一般に、チョコレート中の水分含量が高くなるほど、耐焼成性が低下し、焼成時にダレや突沸が生じ易くなるが、本発明の含水チョコレート生地は、油中水型のエマルションを形成しているので、水が細かく分散して油に包まれて存在し、焼成中に水分が抜けにくい。そして、水あめ及び/又は糖アルコールと、HLBが1〜6の乳化剤とを配合し、不溶性食物繊維含有量を2〜35質量%としたことで、良好な口どけを維持しつつ、乳化状態がより安定化するので、焼成時に熱が加わっても油中水型のエマルションを維持でき、耐焼成性に優れている。
【0018】
以下、本発明の焼菓子センター用含水チョコレート生地の各成分について説明する。
【0019】
(チョコレート生地)
本発明の焼菓子センター用含水チョコレート生地において、チョコレート生地としては、例えば、純チョコレート生地、準チョコレート生地、ミルクチョコレート生地、準ミルクチョコレート生地、純ミルクチョコレート生地、ホワイトチョコレート生地、その他の一般的に用いられているチョコレート生地を採用することができる。なお、本発明において、チョコレートとは、規約や法規上の規定によって限定されるものではなく、カカオマス、ココア、ココアバター、ココアバター代用脂等を使用した油脂加工食品全般を意味するものとする。
【0020】
このようなチョコレート生地は、通常のチョコレートに使用されているカカオマス及び/又はココア、糖類、粉乳、乳化剤、ココアバター及び/又はココアバター代用脂、香料などのチョコレート生地原料を用いて製造することができる。
【0021】
上記糖類としては、例えば、砂糖、乳糖などを用いることができる。
【0022】
上記粉乳としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダーなどを用いることができる。
【0023】
上記乳化剤としては、例えば、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどを用いることができる。
【0024】
上記ココアバター及び/又はココアバター代用脂としては、ヤシ油、パーム油、パーム核油を原料としたハードバター、エライジン酸を構成脂肪酸とするトランス型ハードバター等のノンテンパリング型の油脂、ココアバター等のテンパリング型油脂を用いることができる。
【0025】
(乳成分を含有する水系原料)
本発明の焼菓子センター用含水チョコレート生地において、乳成分を含有する水系原料としては、特に限定はなく、生クリーム、牛乳、濃縮乳、全脂粉乳、脱脂粉乳などの粉乳を水に溶解ないし分散したもの等が挙げられる。
【0026】
(水あめ及び/又は糖アルコール)
本発明の焼菓子センター用含水チョコレート生地において、水あめ及び/又は糖アルコールとしては、水あめ(酵素処理や酸処理したものを含む)、還元水あめ、ソルビトールなどが挙げられる。水あめ及び/又は糖アルコールを含有することで、焼成時にダレにくくなり、焼成後の保形性がより向上する。
【0027】
水あめ及び/又は糖アルコールは、焼菓子センター用含水チョコレート生地中に5〜30質量%含有することが好ましく、10〜25質量%含有することがより好ましい。
【0028】
(乳化剤)
本発明の焼菓子センター用含水チョコレート生地において、乳化剤としては、食用に適したものであって、HLBが1〜6のものであれば特に限定はない。例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどが挙げられ、ショ糖脂肪酸エステルが好ましい。また、乳化剤のHLBは2〜5が好ましい。
【0029】
HLBが1〜6の乳化剤を含有させることで、焼菓子センター用含水チョコレート生地における油中水型のエマルションの形成を促進し、また、その乳化状態をより安定化できるので、焼成しても油中水型のエマルションを維持し易くなり、焼菓子センター用含水チョコレート生地の耐焼成性が向上する。
【0030】
上記乳化剤は、焼菓子センター用含水チョコレート生地中に0.01〜2質量%含有させることが好ましく、0.1〜1.5質量%含有させることがより好ましい。
【0031】
(不溶性食物繊維)
本発明の焼菓子センター用含水チョコレート生地は、不溶性食物繊維を2〜35質量%含有し、好ましくは3〜15質量%含有し、更に好ましくは3〜8質量%含有する。不溶性食物繊維を2〜35質量%含有することで、焼成時にダレにくくなり、焼成後の保形性が向上する。2質量%未満であると、焼成時にダレが生じ易くなり、35質量%を超えると、口溶けが悪くなる傾向にある。
【0032】
なお、チョコレート生地には、カカオマス由来の不溶性食物繊維を含んでいるので、カカオマス含有量の多いチョコレート生地を使用した場合においては、不溶性食物繊維を添加しなくても、焼菓子センター用含水チョコレート生地中の不溶性食物繊維含有量を2〜35質量%に調整することができる。しかし、ミルクチョコレート生地やホワイトチョコレート生地などのようなカカオマス含有量の少ないチョコレート生地を使用した場合においては、リグニン、セルロース、ヘミセルロース、プロトペクチン、グルカン、キチン、キトサン、ガラクトマンナン、ガラクタン、キシログルカン、グルクロノアラビ、ノキシアン、不溶性ペクチンなどの不溶性食物繊維を更に添加して、不溶性食物繊維含有量を2〜35質量%に調整することが好ましい。
【0033】
不溶性食物繊維は、チョコレート生地原料を用いてチョコレート生地を製造する際に、該チョコレート生地原料中に添加してチョコレート生地中に不溶性食物繊維を含有させた状態で用いてもよく、チョコレート生地と、乳成分を含有する水系原料と、水あめ及び/又は糖アルコールと、HLB1〜6の乳化剤と混合して含水チョコレート生地を製造する際に添加して用いてもよいが、食感が硬くなりにくいという理由から、チョコレート生地原料中に添加して、チョコレート生地中に不溶性食物繊維を含有させた状態で用いることが好ましい。
【0034】
(その他成分)
本発明の焼菓子センター用含水チョコレート生地は、更にカゼイン、カゼインナトリウム、リン酸塩、有機酸モノグリセライドから選ばれる少なくとも1種以上を含有することが好ましい。これらを含有することで、乳化状態がより安定化し、蛋白が変性しても乳化状態が壊れにくくなると推測されるので、焼成後の食感が硬くなりにくく、焼成後であっても口どけの良い食感を維持できる。したがって、ミルクチョコレート生地やホワイトチョコレート生地などのような乳蛋白成分の多いチョコレート生地を使用した場合、特に効果的である。
【0035】
上記リン酸塩としては特に限定はなく、ポリリン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどが挙げられる。
【0036】
上記有機酸モノグリセライドとしては、特に限定はなく、コハク酸モノグリセライド、クエン酸モノグリセライド、ジアセチル酒石酸モノグリセライドなどが挙げられる。
【0037】
そして、カゼイン、カゼインナトリウム、リン酸塩、有機酸モノグリセライドは、焼菓子センター用含水チョコレート生地中に0.01〜2質量%含有させることが好ましく、0.1〜1質量%含有させることがより好ましい。
【0038】
[焼菓子]
次に、本発明の焼菓子について説明する。本発明の焼菓子は、含水チョコレート生地を焼菓子生地で包餡し、焼成したものである。
【0039】
焼菓子生地としては、特に限定はなく、ビスケット生地、クッキー生地、パン生地、ケーキ生地、パイ生地、米粉利用菓子生地などが挙げられ、なかでもビスケット生地、クッキー生地が好ましい。これらは、常法に従って調製されたものを用いることができる。例えばクッキー生地としては、小麦粉、糖類、ショートニング、膨張剤、食塩、香料等を、シュガーバッター法などの方法により調製したものなどが使用できる。
【0040】
本発明の焼菓子は、焼成後の焼菓子の水分含量が5〜20質量%であることが好ましく、10〜15質量%がより好ましい。焼成後の焼菓子の水分含量が上記範囲であれば、包餡した含水チョコレート生地の食感と違和感がなく、滑らかで、極めて口溶けの良い焼菓子となる。
【0041】
このような焼菓子は、含水チョコレート生地を、包餡機などを用いて焼菓子生地で包餡し、これを焼成機中で焼成することで製造できる。そして、焼成時間を短くしたり、焼成温度を低くすることで、焼成後の焼菓子の水分含量を調整でき、例えば、水分含量を5〜20質量%に調整することができる。
【0042】
本発明の焼菓子は、焼菓子生地で包餡した含水チョコレート生地が、焼成中に突沸し難く、含水チョコレート生地から水蒸気の蒸散が生じにくく、更には、ダレ難いので、焼成後の焼菓子生地の表層に含水チョコレート生地の染み出しがなく、内部の空洞化がない、焼菓子生地によって含水チョコレート生地がしっかりと包餡された焼菓子とすることができる。
【実施例】
【0043】
下記表1に示す組成で原料を混合し、常法に従い、実施例1〜4、比較例1〜4の含水チョコレート生地を調製した。
【0044】
【表1】

【0045】
この含水チョコレート生地を、包餡機を用いてクッキー生地で包餡し、200℃で10分間焼成して焼菓子を得た。得られた焼菓子の外観、食感を表2,3に記す。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
表2,3に示されるように、チョコレート生地と、乳成分を含有する水系原料と、水あめ及び/又は糖アルコールと、HLBが1〜6の乳化剤とを含み、全体中の不溶性食物繊維含有量が2〜35質量%で、油中水型のエマルションを形成している含水チョコレート生地をセンター材として用いた実施例1〜4の焼菓子は、焼成時に含水チョコレート生地が、突沸したり、ダレたりせず、含水チョコレート生地が焼菓子生地に包餡されており、焼菓子生地の表層に含水チョコレート生地が染み出ず、更には内部の空洞化が無いものであった。
【0049】
これに対し、不溶性食物繊維含有量が2質量%未満である含水チョコレート生地を包餡した比較例2,4の焼菓子は、焼成時に包餡した含水チョコレート生地の突沸やダレが激しく、含水チョコレート生地と焼菓子生地とが一体化してしまい、含水チョコレート生地の食感が得られなかった。また、HLBが1〜6の乳化剤を含まない含水チョコレート生地を包餡した比較例1の焼菓子、水あめを含まない含水チョコレート生地を包餡した比較例3の焼菓子は、焼成時に包餡した含水チョコレート生地の突沸、ダレが激しく、また、含水チョコレート生地が焼菓子生地に染み出しており、内部は空洞化していた。また、焼成後の含水チョコレート生地は、口どけが悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョコレート生地と、乳成分を含有する水系原料と、水あめ及び/又は糖アルコールと、HLBが1〜6の乳化剤とを含み、全体中の不溶性食物繊維含有量が2〜35質量%で、油中水型のエマルションを形成していることを特徴とする焼菓子センター用含水チョコレート生地。
【請求項2】
不溶性食物繊維を添加して、不溶性食物繊維含有量が2〜35質量%に調整されている、請求項1に記載の焼菓子センター用含水チョコレート生地。
【請求項3】
カゼイン、カゼインナトリウム、リン酸塩、有機酸モノグリセライドから選ばれる少なくとも1種以上を含有する、請求項1又は2に記載の焼菓子センター用含水チョコレート生地。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の含水チョコレート生地を焼菓子生地で包餡し、焼成して得られることを特徴とする焼菓子。
【請求項5】
焼成後の焼菓子の水分含量が5〜20質量%である、請求項4に記載の焼菓子。
【請求項6】
前記焼菓子生地が、ビスケット生地又はクッキー生地である、請求項4又は5に記載の焼菓子。

【公開番号】特開2010−88374(P2010−88374A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262956(P2008−262956)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000006116)森永製菓株式会社 (130)
【Fターム(参考)】