説明

照射食品検知用容器

【課題】TL法により検知を行う対象の食品から回収した微量の鉱物試料を散逸や異物の混入が無く確実に搬送できると共に、取り扱いが容易で、かつ正確な放射線照射が可能な照射食品検知用容器を提供することにより、標準線量照射の信頼性を高め、検知作業における信頼性を確保する。
【解決手段】筒体1、該筒体1の蓋となる上蓋3、筒体1内に収容される試料管5、該試料管5内に装填され、微量の鉱物を入れる試料皿7、及び、該試料皿7の上下からその位置を固定するスペーサ9を具備した照射食品検知用容器10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品に対する放射線照射の有無を食品中に含まれる微量鉱物の熱発光測定により検知する手法(TL法)に用いる容器であって、微量鉱物試料の輸送及び放射線照射の双方に用いることができる照射食品検知用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
香辛料、野菜、果実、肉類などには、ガンマ線などの放射線を照射することにより殺菌、殺虫、発芽抑制などが行われる事がある。このような食品照射に関しては、違法な実施を防ぐ点、または照射食品の流通における消費者の利用の選択を可能にする点などから、その食品が照射されたものかどうかを判別するための検知手法が必要不可欠なものとなる。このための検知手法としては、これまで、考古学における年代測定を行う目的等に広く用いられてきた鉱物の熱発光の測定に基づく方法(TL法)が多くの種類の照射食品に適用できるため、国際的にも広く用いられている。
【0003】
TL法においては、まず、食品から抽出した回収した1〜数ミリグラム程度という極微量の鉱物の熱発光をTL測定器で測定し(TL−1)、測定後、取り出して室温まで冷却する。次に、この試料に対してガンマ線や電子線等の放射線による標準線量の照射(例えば1kGy)を行った後、さらにTL測定器で熱発光を測定し(TL−2)、TL−1量とTL−2量の比から照射の有無を判別するのが標準的な方法となっている。
【0004】
ここで、従来のTL測定では、食品試料から抽出した微量の鉱物をシリコングリースにより測定台に固定していた(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上記のシリコングリースで固定する方法では、鉱物が汚染したり、埃が付いたりする場合があった。また、鉱物が脱落して重量が変化する場合もあった。更に、シリコングリースの量によっては、発光特性が変化する場合もあった。
【0006】
また、微量の鉱物をTL測定(TL−1)した後、この鉱物をアルミ箔に包んだサンプルを照射施設へ輸送し、放射線照射を行う方法もあるが、この方法では、照射施設からサンプルを受領後、TL測定(TL−2)のためにアルミ箔の包みから鉱物を取り出す際に鉱物がこぼれる場合があった。
【0007】
更に、直径6mm、深さ1mm程度の小さなステンレス製の試料皿に載せて行うと共に、このまま放射線照射を行う方法もあるが、一般に、TL測定を行う場所と放射線照射を行う施設は離れているため、試料皿に入った試料を持ち運ぶ際に、風の影響等により試料が散逸する可能性があった。そのため、この試料皿を包含する検知用容器を用いて輸送や放射線照射を行う方法が適切と考えられるが、この容器の材質によっては遮蔽体及び散乱体として作用して、試料の吸収線量評価に影響を与える場合があった。
【0008】
【非特許文献1】EN 1788, Foodstuffs - Thermoluminescence detection of irradiated food from which silicate minerals can be isolated(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来の手法では、いずれも、検知を行う対象の食品から回収した微量の鉱物試料について、測定途中の段階で散逸したり、異物が混入したりする可能性があり、また、検知用容器の材質によっては遮蔽体及び散乱体として作用して、試料の吸収線量評価に影響を与えることがあり、正確な放射線照射による検知作業が出来ないという課題があった。
【0010】
照射食品の検知は今後さらに必要性が高まることが見込まれる技術であり、食品にかかわることからその高い信頼性が要求される。TL法は多種類の食品に適用できることもあり、欧米では検知法として手順が定められている。しかしながら、この手順の中で、食品試料から回収した鉱物試料に対する標準線量の放射線照射における信頼性を担保するための方策として、搬送中の試料散逸を防ぎ、正確な照射を行うための特殊器具の活用に関する手段についてはこれまで特に定められていない。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、TL法により検知を行う対象の食品から回収した微量の鉱物試料を散逸や異物の混入が無く確実に搬送できると共に、取り扱いが容易で、かつ正確な放射線照射が可能な照射食品検知用容器を提供することにより、標準線量照射の信頼性を高め、検知作業における信頼性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の照射食品検知用容器は、筒体、前記筒体内に収容される試料管、前記筒体の蓋になると共に前記筒体内で前記試料管を固定する上蓋、前記試料管内に装填され微量の鉱物を入れる試料皿、及び、前記試料管内で前記試料皿の上下からその位置を固定する複数のスペーサを備えていることを特徴とする。
【0013】
前記筒体及び/又は前記試料管は、プラスチックにより形成されていることが好ましく、特に、ポリプロピレンであることがより好ましい。
【0014】
前記スペーサが空隙率30〜40%、融点110〜130℃の発泡ポリエチレンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の照射食品検知用容器によれば、TL法による照射食品検知の際に、試料が散逸したり異物が混入したりすることがなく持ち運びや郵送が可能になると共に、この状態で放射線照射が行うことができ、TL法による照射食品検知作業における信頼性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に、本発明の一実施形態に係る照射食品検知用容器を示す。この照射食品検知用容器10は、筒体1、該筒体1の蓋となる上蓋3、筒体1内に収容される試料管5、該試料管5内に装填され、微量の鉱物を入れる試料皿7、及び、該試料皿7の上下からその位置を固定するスペーサ9を備えている。
【0017】
(筒体1)
筒体1は、照射における設定位置の誤差を少なくすると共に郵送による搬送も容易にするため、直径を20mm以下となるようにし、例えば、外径約15mm、内径13mm、高さ約60mmの寸法として、かつ自立させることができるものとする。また、筒体1の内底には、内部に装填する試料管5が中心に位置してセットできるよう中心に行くに従って内径が小さくなるよう下に尖った形状にされている。
【0018】
(上蓋3)
上蓋3は、筒体1の蓋となるだけでなく、試料管5を保持・固定するために、内面がテーパ状に形成され、試料管5の上端を固定できるようになっている。
【0019】
(試料管5)
筒体1の内部に収容される試料管5は、試料が入っているTL測定用試料皿7を装填し、試料管5内で、試料皿7から試料が散逸しないよう複数のスペーサ9により上下から固定保持される。試料管5の寸法は、例えば、下端の直径6.7mm、上端の直径9mmとして上部に行くにしたがって径が広くなる形状で、高さを約47mmとし、試料皿7及びスペーサ9の寸法の関係から試料皿7の位置を固定できるようになっている。筒体1とともに試料管5の材質は透明のプラスチックとし、内部の状態が観察できるものとすることが好ましい。
【0020】
(筒体1、試料管5の材質)
筒体1、試料管5は、放射線の強度減衰を少なくして放射線照射における吸収線量が正確に設定できるようにするため、プラスチック製とするのが好ましい。プラスチックとしては、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ビニール、スチロール、ポリカーボネート、シリコン樹脂、テフロン、アクリル等が挙げられるが、後述する実施例からも明らかな通り、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0021】
電子線やガンマ線照射において、ステンレス等の金属は遮蔽材及び散乱体として作用することにより試料の吸収線量評価に支障をきたすが、これらのプラスチックでは密度及び原子番号がステンレス等の金属に比べて低いことにより遮蔽及び散乱の影響を防ぐことができる。例えば、容器の厚さを1mmとし、予めアラニン線量計等で測定して決定した線量率の位置での照射において、1MeV電子線でポリスチレン容器に照射する場合は、計算により遮蔽及び散乱の影響を無視できるため補正を必要としないが、ステンレスの場合には遮蔽及び散乱の影響が大きすぎて電子線が照射できないことになる。また、食品照射で許可されている最大エネルギーの5MeVの場合には、ステンレス(鉄として計算)ではポリスチレンの約173%の補正が必要となる。さらに放射線の入射方向によってこの値は変化することになる。これでは標準線量照射と称せられるこの照射には適用できない。
【0022】
(スペーサ9)
試料管5には試料皿7とともに上下にスペーサ9を入れ、試料管5内での試料皿7の固定を行うと共に、試料皿7から試料が散逸するのを防止する。試料皿7を固定するためのスペーサ9の材質は、通気性、弾力性を有し、かつ試料が表面に触れても付着しにくい点を考慮して、発泡ポリエチレンが好ましい。
【0023】
発泡ポリエチレンとしては、融点110℃以上で空隙率が30〜40%の発泡ポリエチレンが特に好ましい。空隙率が30%よりも低い場合には通気性が不十分となり、試料皿を試料管にセットする場合、あるいは試料皿を取り出す場合に管中での気圧の急激な変動が生じ試料が飛散する可能性がある。また空隙率が40%より高い場合には機械的に弱く、スペーサとしての機能を果たし得ない。
【0024】
このように空隙率を30〜40%とすることで、放射線照射における遮蔽の影響を軽減できると共に軽量で弾力性に富み、試料管への試料皿のセットを容易にすることが可能となる。
【0025】
(試料のセット方法)
試料をセットするには、先ず床面に立てた試料管5にスペーサ9aを入れ、次に試料皿7、スペーサ9b、スペーサ9c、スペーサ9dを順に挿入する。このように上から順次スペーサ9a〜9dや試料皿7を入れていくと、試料管5の直径がスペーサ9の直径と等しくなったところで止まり、試料が一定の位置に固定される。スペーサ9は、スペーサ9aが試料管5の底に達した場合に、スペーサ9dの上端が試料管5の上面より少し短くなるように長さを調整したものとする。試料の取り出しは、突き棒を用いて試料管5の下側からスペーサ9a〜9dを押し上げることにより行うことが出来る。
【0026】
この照射食品検知用容器を用いて放射線照射を行う場合は、平らな照射台なら自立させるか、または試験管立てのような治具を用いることにより正確な位置を決めて行う。
【0027】
(本実施態様の容器の効果)
(1)試料皿7に入った微量の鉱物を散逸させること無く確実に持ち運び、輸送することができる。
(2)筒体1が小型であるため、コバルト60からのガンマ線や電子線等による標準照射を行う場合の照射位置設定精度が高くできる。
(3)筒体1及び試料管5が軽量なプラスチック材質であるため、線量減衰が少なく、これもまた線量について精度の高い照射ができる。
(4)スペーサ9の空隙率を30〜40%とすることで、放射線照射における遮蔽の影響を軽減できると共に軽量で弾力性に富み、試料管5への試料皿7のセットを容易にすることが可能となる。
【実施例】
【0028】
試料管5において、プラスチックの材質をポリプロピレン、ビニール、スチロール、ポリカーボネート、シリコン樹脂、テフロン、ポリエチレン、アクリルと変化させて、放射線の透過性、容器の堅牢性、透明性、帯電性、伸び率、電子線・γ線照射の可否について評価した(実施例1〜実施例8)。
なお、放射線の透過性は、(A)コバルト60ガンマ線、(B)3MeV以上の電子線、(C)3MeV未満の電子線の照射を行う場合を考え、A、B、C共に透過し試料中の深さ方向の線量分布についての補正を必要としない場合を◎、A、B、C共に透過はするがCについては線量分布が大きくなるため補正が必要となる場合を○、B及びCの電子線では補正が必要な場合を△、Cではほとんど透過しない場合を×とした。
また、堅牢性は壊れない場合を◎、割れ難い場合を○、割れ易い場合を△、壊れる場合を×とし、透明性は透明な場合を◎、透明〜半透明な場合を○、半透明〜不透明な場合を△、不透明な場合を×とし、帯電性は取り扱い時の除電気の必要性が、常時不要な場合を◎、高湿時不要な場合を○、乾燥時必要な場合を△、常時必要な場合を×とし、伸び率は引張り強さ(MPa)が1070〜1090の場合を◎、1100〜1600の場合を○、2400〜3300の場合を△、3300〜3900の場合を×とした。
更に、電子線、γ線照射の可否については、それぞれ電子線では3MeVの電子線、γ線ではコバルト60からのガンマ線を考え、透過性及び散乱による試料中の線量分布についての観点から、補正を必要としない場合を◎、線量分布があるが補正が小さい場合を○、補正が大きくなる場合を△、適用不能な場合を×とした。
また、従来技術のシリコンスプレーを用いる方法と、金属シャーレとしてアルミニウム、ステンレス、硬質ガラスを用いた場合についても併せて示した(比較例1〜比較例4)。
結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
この結果より、試料管5の材質をポリプロピレンとすることにより全体の特性がバランス良く優れたものになることが判明した(実施例1)。
【試験例】
【0031】
高崎市内の放射線利用振興協会実験室において、香辛料ブラックペッパー100gから比重液を用いた抽出法により鉱物約3.09mg(メトラー社製XS−205型マイクロ天秤使用)を回収し、このうち1.03mgを直径6mm、深さ1mmのTL測定用試料皿7に載せ、これを東京都の国立医薬品食品衛生研究所に持参しTL測定器(Thermo Electron社製モデル3500型)を用いたTL測定(TL−1)を行った。
【0032】
次に、輸送のため、この試料皿7を材質が通気性の発泡ポリエチレンで、空隙率30〜40%、融点110〜130℃であるスペーサ9で固定した。即ち、試料管5内にスペーサ9aを入れた後、この試料皿7を挿入し、さらに、スペーサ9b、スペーサ9c、スペーサ9eを挿入した。この試料皿7及びスペーサ9a〜9eを挿入した試料管5を筒体1に収容し、上蓋3を締めて、筒体1内に試料管5を固定し、照射食品検知用容器10とした。
【0033】
この照射食品検知用容器10を測定者が鉄道を用いて持参した。その後、同じ手段で高崎市に戻り、日本原子力研究機構高崎量子応用研究所のコバルト60ガンマ線照射室において1kGyの吸収線量となる標準照射を実施した。この場合の輸送手段も鉄道を用いて測定者が持参する方法とした。そして、高崎に戻った後、試料の重さを測定したところ1.03mgという、全くロスの無い輸送が行えたことが確認できた。また、標準線量照射については6ヶ月の間に合計26回の照射を行い、本容器に添付したアラニン線量計により測定を行った結果、0.99kGy、標準偏差0.06kGyという極めて再現性の良い照射ができたことを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る照射食品検知用容器を示す概略図である。
【符号の説明】
【0035】
1 筒体
3 上蓋
5 試料管
7 試料皿
9 スペーサ
10 照射食品検知用容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体、
前記筒体内に収容される試料管、
前記筒体の蓋になると共に、前記筒体内で前記試料管を固定する上蓋、
前記試料管内に装填され、微量の鉱物を入れる試料皿、及び、
前記試料管内で前記試料皿の上下からその位置を固定する複数のスペーサ
を備えていることを特徴とする照射食品検知用容器。
【請求項2】
前記筒体及び/又は前記試料管がプラスチックにより形成されていることを特徴とする請求項1記載の照射食品検知用容器。
【請求項3】
前記プラスチックがポリプロピレンであることを特徴とする請求項2記載の照射食品検知用容器。
【請求項4】
前記スペーサが空隙率30〜40%、融点110〜130℃の発泡ポリエチレンであることを特徴とする請求項1記載の照射食品検知用容器。

【図1】
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【公開番号】特開2010−2269(P2010−2269A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160551(P2008−160551)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(592252728)財団法人放射線利用振興協会 (1)
【出願人】(508184527)
【Fターム(参考)】