説明

煮込み料理用組成物およルウとの組合せ

【課題】アクが発生する度に掬い取ったり分離等の方法で取り除いたりする必要のない、煮込み料理用組成物を提供することを目的とし、また、カレーソース等を調理する際に、具材の煮込み中にアクを取る作業が不要で、簡便に調理できるルウ製品を提供することを目的とする。
【解決手段】蛋白質分解酵素とHLB11〜16の乳化剤を含んでなる煮込み料理用組成物を最も主要な特徴とする。更には、容器入りルウを使用してソースを作成する際に前記煮込み料理用組成物の添加を忘れないようにするために、容器入りルウに前記煮込み料理用組成物が別添されてなる容器入りルウを最も主要な特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉類を水と共に煮込む際にアクの発生をできるだけ抑える、煮込み料理用組成物およびルウとの組合せに関するものである。
【背景技術】
【0002】
前記したようにアクは肉類を水と共に煮込むことにより発生するが、アクの正体は肉類の肉汁や血液であり、加熱によってこれらが凝固し更には当該凝固物が集まってきて液の表面に浮き上がり、液表面全体を覆ったり、色々な食材に付着して食品全体の食味を低下させたり外観を損ねたりするので、従来よりアクが発生した場合にはできるだけ取り除くようにしている。
例えば、特許文献1には、肉類のもつ本来の食感と旨味を有する一次加工食品としての肉類の密封調理加工法においては、肉塊を水あらいして内臓や脂肪等を取り除き、水きりした後、肉塊の全表面に小麦粉をつけ、2%塩水で下茹でし、アクや臭みや余分の脂肪分を取り除くことが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、原料肉をカルボン酸ナトリウム水溶液及び/又は動物性蛋白水溶液に浸漬し、ボイル処理を施し、原料肉と液体成分を分離し、液体成分からアク及び/又は油分を分離したものを、レトルト食品の製造時に添加する水としてもちいることが記載されている。
【0004】
特許文献3には、牛肉、豚肉又は鶏肉を含む冷凍丼の素の製造方法であって、牛肉、豚肉又は鶏肉をボイル処理してアクを除く工程、アク抜きされた牛肉、豚肉又は鶏肉を含む具材とつゆを袋詰めする工程、該袋を加熱して殺菌と調理を同時に行う工程を有する冷凍丼の素の製造方法が記載されている。
しかし、これらの方法ではほとんどのアクを除去するまでには至っておらず、必ずしも満足できるものではなかったといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−262734号公報
【特許文献2】特開2005−168510号公報
【特許文献3】特開2009−165359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、こうした課題を解決するために研究を行ったところ、蛋白質分解酵素と高HLBの乳化剤を併用することにより、アクの発生自体を抑えることができるという知見を得、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、煮込み料理を作るに当たって、アクが発生する度に掬い取ったり分離等の方法で取り除いたりする必要のない、煮込み料理用組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、例えばカレーソースを調理する際に、具材の煮込み中に発生するアクを取る作業を必要とせず簡便に煮込み調理できる容器入りルウとの組合せ製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、蛋白質分解酵素とHLB11〜16の乳化剤を含んでなる煮込み料理用組成物を最も主要な特徴とする。更には、容器入りルウを使用してソースを煮込む際に煮込み料理用組成物の添加を忘れないようにするために、容器入りルウに前記煮込み料理用組成物が別添されてなる容器入りルウを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、カレールウを使用してカレーソースを煮込み調理する際に、具材の煮込み段階で発生するアクを取る作業が不要になり、簡便にカレーソースを調理することができる容器入りルウを提供することができる。また、本発明の煮込み料理用組成物は、ペースト状、顆粒状、粉末状等、多様な形態において、必要により包装袋に収納して活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は実施例1におけるアクの発生状況を示した写真である。
【図2】図2は比較例1におけるアクの発生状況を示した写真である。
【図3】図3は比較例2におけるアクの発生状況を示した写真である。
【図4】図4は比較例3におけるアクの発生状況を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において煮込み料理は、カレーソースやシチューソース、ハヤシソース、トマトソース煮込み、ポトフに代表されるように、肉類と野菜類(例えば、じゃがいも)を湯に浸した状態で煮込むという工程を経て得ることができる料理のことである。かかる工程においてよくみられるアクの発生を極力抑制するものとして開発されたのが、本発明の煮込み料理用組成物である。
【0011】
前記煮込み料理用組成物は、蛋白質分解酵素とHLB11〜16の乳化剤(以下、高HLB乳化剤という。)を含んでなるものである。前記蛋白質分解酵素は、プロテアーゼという名称で知られている。当該蛋白質分解酵素には、蛋白質の配列末端から切り取るタイプと蛋白質の配列中央から切断するタイプがあるが、本発明ではいずれのタイプの酵素でも使用することができる。また、使用する蛋白質分解酵素は、耐熱性を有するものであることが好ましく、具体的には、三菱化学フーズ(株)製のリョートーシュガエステルS−1670等を例示することができる。一方、前記高HLB乳化剤としては、親水性の乳化剤であることが好ましく、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等を例示することができる。
【0012】
こうした蛋白質分解酵素と高HLBの乳化剤の作用について述べる。
蛋白質分解酵素は肉汁や血液中の蛋白質が加熱によって熱変性する前に当該蛋白質を分解して、加熱による熱変性蛋白質の凝固物が発生しないようにしている。その結果、当該凝固物が寄り集まって灰色〜茶色のアクにまで発達することがない。一方、高HLBの乳化剤は、肉汁や血液中の蛋白質を可溶化することで加熱による前記蛋白質の変性を防いでおり、その結果、熱変性した蛋白質による凝固物の発生、さらにはアクの発生を抑制している。
【0013】
従って、これら蛋白質分解酵素と高HLB乳化剤を含んでなる煮込み料理用組成物を具材とともに鍋に投入し水を入れて煮込んでも、今までのように加熱中にアク取り作業を行う必要がなくなるほど、加熱中にアクはほとんど発生しないことになる。こうしたアクの発生を抑制する効果は生の具材を煮込む際に特に顕著である。
【0014】
前記アクの抑制を短時間で効果的に進めるためには蛋白質分解酵素と高HLBの乳化剤の量は多少多くすることが好ましく、それぞれの好適な配合量を具体的に述べると、蛋白質分解酵素の場合は具材を除いた溶液の量に対して0.01〜0.3質量%という量を掲げることができ、前記高HLBの乳化剤の場合は具材を除いた溶液の量に対して0.03〜0.1質量%という量を掲げることができる。
【0015】
次に、前記蛋白質分解酵素と高HLBの乳化剤の添加方法としては、これらを同時に添加する方法、あるいはこれらのいずれか一方を添加した後に他方を添加する方法があり、いずれの方法を採用してもよい。
【0016】
また、前記蛋白質分解酵素と高HLBの乳化剤を、必要によりコーンスターチなどの澱粉、乳糖、デキストリン、粉末セルロースなどの増量剤と混合し製剤化するかあるいはそのまま合成樹脂製等の袋に充填密封したものを、ルウ製品、例えば固形ルウが収納密封されている容器に添付してもよく、あるいは、固形ルウが収納密封されている容器とともにカートンに収納してもよい。
【0017】
次に、ルウを使用してソースを作るような場合、前記蛋白質分解酵素と高HLBの乳化剤を添加する時期としては、アクが発生する前の時期で適宜決定すればよく、具材に水を入れて加熱を開始する前であることが望ましい。
【実施例1】
【0018】
鍋に水800gと一口大にカットした牛肉200gと玉ねぎ300gと人参100gとじゃがいも150gを投入し、更に煮込み料理用組成物として蛋白分解酵素(プロテアーゼSアマノG、天野エンザイム(株)製)0.1g(1,000U)とHLB16の乳化剤(リョートーシュガエステルS−1670、三菱化学フーズ(株)製)0.24gを投入した。
IHクッキングヒーターで加熱を行い、開始から30分間経ったころにアク発生状態を目視で評価したところ、図1に示すように沸騰によって泡が白く浮いているだけで、アクの発生はほとんど見られず、良好な外観を有していた。
具材に火が通るまで更に20分間煮込んだ後に火を止め、下記組成のカレールウを投入しよく溶かした後、10分間煮込んでとろみを付けて調理完了とした。前記煮込み料理用組成物(蛋白分解酵素や前記乳化剤)による風味への悪影響は感じられず、カレーソースの風味は良好であった。
【0019】
実施にあたり使用したカレールウの標準的な配合構成を下記に記載します。
植物油脂 400g
小麦粉 200g
コーンスターチ 100g
食塩 100g
グラニュー糖 100g
旨味調味料(エキス類含む) 100g
【実施例2】
【0020】
鍋に水800gと一口大にカットした牛肉200gと玉ねぎ300gと人参100gとじゃがいも150gを投入し、更に煮込み料理用組成物としてプロテアーゼSアマノGを2.0g(20,000U)とリョートーシュガーエステルS−1670を0.8g投入した。
IHクッキングヒーター(松下電工KZ−VSW32B)火力2にて加熱を行い、開始から30分目のアク発生状態を目視評価したところ、アクの発生が抑制され外観は良好であった。
具材に火が通るまで更に20分煮込んだ。火を止め前記カレールウを投入して良く溶かした後、10分間煮込んでとろみを付け調理完了とした。前記煮込み料理用組成物(蛋白分解酵素や前記乳化剤)による風味への悪影響は実施例1と同様に感じられず、カレーソースの風味は良好であった。
【0021】
(比較例1)
鍋に水800gと一口大とした牛肉200gと玉ねぎ300gと人参100gとじゃがいも150gを投入した。
IHクッキングヒーター(松下電工KZ−VSW32B)火力2にて加熱を行い、開始から30分目のアク発生状態を目視評価したところ、図2に示すように灰色〜茶色になるまで凝集したアクがほぼ表面全体を覆っており、外観上汚く、また、前記アクが具材の表面に付着して表面を見ただけでは具材の存在を確認できない状況になっている。
具材に火が通るまで更に20分間煮込んだ。火を止め前記カレールウを投入して良く溶かした後、10分間煮込んでとろみを付け調理完了とした。得られたカレーソースには、上記したアクが最後まで存在しており、外観が損なわれ風味への悪影響も感じられて、カレーソースとして好ましくなかった。
【0022】
(比較例2)
鍋に水800gと一口大にカットした牛肉200gと玉ねぎ300gと人参100gとじゃがいも150gを投入し、更にプロテアーゼSアマノGを2.0g(1,000U)投入した。
IHクッキングヒーター(松下電工KZ−VSW32B)火力2にて加熱を行い、開始から30分目のアク発生状態を目視評価したところ、図3に示すように表面は灰色〜茶色、殊に茶色に凝集したアクが多数確認され、また、具材の存在はほとんど見えない状況であった。このように蛋白質分解酵素のみではアクを十分に抑制できないことがわかった。
具材に火が通るまで更に20分間煮込んだ。火を止め前記カレールウを投入して良く溶かした後、10分間煮込んでとろみを付け調理完了とした。得られたカレーソースには、前記比較例1よりもアクの発生は抑えられていたが依然としてアクが残っており、カレーソースとして好ましくなかった。
【0023】
(比較例3)
鍋に水800gと一口大にカットした牛肉200gと玉ねぎ300gと人参100gとじゃがいも150gを投入し、更にリョートーシュガーエステルS−1670を0.8g投入した。
IHクッキングヒーター(松下電工KZ−VSW32B)火力2にて加熱を行い、開始から30分目のアク発生状態を目視評価したところ、図4に示すように、表面の泡状のアクは抑制されているいるように感じられるが、灰色〜茶色に凝集したアクが多数確認され、底には肉片の凝集物がうすく積もっており、高HLBの乳化剤のみではアクを十分に抑制できないことがわかった。
具材に火が通るまで更に20分間煮込んだ。火を止め前記カレールウを投入して良く溶かした後、10分間煮込んでとろみを付け調理完了とした。得られたカレーソースには、上記したアクが最後まで存在しており、外観が損なわれ風味への悪影響も感じられて、カレーソースとして好ましくなかった。
【実施例3】
【0024】
鍋に水800gと薄切りの牛肉200gと玉ねぎ300gと人参100gとじゃがいも150gを投入し、更に煮込み料理用組成物としてプロテアーゼSアマノGを0.1g(1,000U)とHLB11のリョートーシュガエステルS−1170(三菱化学フーズ(株)製)を0.24g投入した。
IHクッキングヒーターで加熱を行い、開始から30分間経ったころにアク発生状態を目視で評価したところ、実施例1と同じように沸騰によって泡が白く浮いているだけで、アクの発生はほとんど見られず、良好な外観を有していた。
具材に火が通るまで更に20分間煮込んだ後に火を止め、下記組成のハヤシルウを投入しよく溶かした後、10分間煮込んでとろみを付けて調理完了とした。前記煮込み料理用組成物(蛋白分解酵素や前記乳化剤)による風味への悪影響は感じられず、ハヤシソースの風味は良好であった。
【0025】
実施にあたり使用したハヤシルウの標準的な配合構成を下記に記載します。
植物油脂 400g
小麦粉 200g
コーンスターチ 100g
食塩 100g
グラニュー糖 100g
旨味調味料(エキス類含む) 100g
【0026】
(比較例4)
鍋に水800gと一口大にカットした牛肉200gと玉ねぎ300gと人参100gとじゃがいも150gを投入し、更にプロテアーゼSアマノGを2.0g(20,000U)とHLB9のリョートーシュガーエステルS−970を0.8g投入した。
IHクッキングヒーター(松下電工KZ−VSW32B)火力2にて加熱を行い、開始から30分目のアク発生状態を目視評価したところ、比較例2ほどではないが、表面全体に灰色〜茶色のアクが確認された。このことから、HLB値が11よりも低くなってくると、例え蛋白分解酵素との共存下であってもアクを十分に抑制できないことがわかった。
具材に火が通るまで更に20分間煮込んだ。火を止め前記ハヤシルウを投入して良く溶かした後、10分間煮込んでとろみを付け調理完了とした。得られたハヤシソースには、上記したアクが最後まで存在しており、外観が損なわれ風味への悪影響も感じられて、ハヤシソースとして好ましくなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質分解酵素とHLB11〜16の乳化剤とを含むことを特徴とする煮込み料理用組成物。
【請求項2】
前記蛋白質分解酵素の量が具材を除いた水の量に対して0.01〜0.3質量%で、且つ前記HLB11〜16の乳化剤の量が具材を除いた水の量に対して0.03〜0.1質量%である、請求項1記載の煮込み料理用組成物。
【請求項3】
前記煮込み料理がカレーソース、シチューソース、ハヤシソース、トマトソース煮込み又はポトフである、請求項1に記載の煮込み料理用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の煮込み料理用組成物が容器入りルウに別添されてなる、ルウとの組合せ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−223096(P2012−223096A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90833(P2011−90833)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】